解説

中小企業のサイバー保険で何が出るか、損保協会の加入率10%と警察庁の復旧費

2026年10月26日 公開10月26日 12時(日本時間)までの情報読む時間 約9分

この記事の答え

何が起きた
2026年上半期のランサム被害は123件で、中小企業が約6割でした。一方、サイバー保険に入っている中小企業は10.0%です。
中小企業の会社負担への影響
保険で出るのは賠償、調査やお詫びなどの対応費用、止まった間の利益の3つです。利益の補償は、見た資料ではどれも特約でした。
たしかめておくこと
身代金や戦争によるものは出ないと書かれた例があります。見舞金などの上限と、利益の補償が入っているかをたしかめます。
次に見るところ
事故の窓口と連絡の方法です。資料はいずれも「遅滞なく」の連絡を求め、遅れると保険金が減ることがあります。
サイバー保険の加入(中小企業)10.0%日本損害保険協会、2024年11月調査、1,050人
ランサム被害(2026年上半期)123件警察庁。うち中小企業が約6割
復旧に1,000万円以上6割警察庁のアンケート、2026年上半期

サイバー保険で出るのは「賠償」「対応の費用」「止まった間の利益」の3つです

今回見たサイバー保険の資料は、他人への賠償、事故の対応にかかる費用、営業が止まった間の利益の3つで組み立てられていました。止まった間の利益は、どれもオプション(追加の特約)でした。

サイバー保険は、ウイルス感染や不正アクセスなどで会社が負うお金をまとめて受け持つ保険です。日本損害保険協会は特設ページで「万全のセキュリティ対策をとっていても完全には防げない」と書いています。そのうえで、保険を備えの一つとしています。

各社のパンフレットを見ると、中身はおおむね次の3つに分かれます。名前は保険会社ごとに少しずつ違います。

サイバー保険の主な3つの区分(2026年10月26日時点の公開資料から)
区分どんなお金か例
損害賠償取引先やお客さまに訴えられて払う賠償金と、裁判の費用漏れた個人情報の本人からの請求、取引先のシステムを止めた賠償
事故対応の費用自社が事故の後始末で払う費用原因の調査、コールセンター、お詫び状、見舞金、データの復旧、再発防止
利益の損害システムが止まって失った利益と、営業を続けるための追加の費用受注や出荷が止まった間の利益、仮の事務所や手作業の人件費

出典:東京海上日動「サイバーリスク保険」商品ページ。全国商工会連合会「情報セキュリティサポート保険」(引受:損害保険ジャパン)。あいおいニッセイ同和損保「サイバーセキュリティ保険」(商工会議所会員向け)。どれも2026年10月26日に見ています。区分の名前は当社が言い換えています。

3つめの利益の損害は、今回見た資料ではいずれも基本の補償に入っておらず、特約をつけたときだけ出る形でした。東京海上日動は「コンピュータシステム中断に関する補償(オプション)」と書いています。損保ジャパンの商工会向けの保険は「利益・営業継続費用補償追加条項」です。

情報処理推進機構(IPA)は、昔からある情報漏えい保険に注意をうながしています。漏えい以外の被害や、事業が止まった間の利益が出ない場合があるためです。手元の保険が「情報漏えい保険」なのか「サイバー保険」なのかで、出る範囲が変わります。

事故対応の費用は、調査からお詫びと見舞金まで細かく分かれています

事故対応の費用には、原因の調査、コールセンター、お詫び状、見舞金、データ復旧などが入ります。見舞金は1人1,000円・1社5万円のように、上限が決まっている例があります。

中小企業にとって身近なのは、2つめの事故対応の費用です。IPAは、多くのサイバー保険が「フォレンジック等の漏えい確定に必要となる調査費用」も補償の対象にしていると書いています。フォレンジックとは、パソコンやサーバーに残った記録を調べて、何が起きたかを明らかにする作業です。

事故対応の費用に入る主なもの(公開パンフレットの例)
費用中身資料での書き方の例
調査攻撃があったか、どこまで漏れたかを外部の専門会社に調べてもらう「サイバー攻撃の有無を判断するための外部調査委託費用」
コールセンター問い合わせ窓口を開いて人を置くコールセンターの設置・運営費用
お詫び状本人や取引先への謝罪文を作って送る謝罪文の作成・送付の費用
見舞金漏れた本人や取引先に渡す金券や品物1名1,000円・1法人5万円が上限(商工会議所向けの2つの資料)
復旧・再発防止データの復旧、壊れたシステムの修理、同じ原因をふさぐ一時的な対策再発防止費用は「事故の直接的な原因箇所」に限る例あり
相談弁護士やコンサルタントへの相談法律相談費用、コンサルティング費用

出典は3つのパンフレットです。全国商工会連合会(引受:損害保険ジャパン)、あいおいニッセイ同和損保、日本商工会議所「サイバー保険制度」。どれも2026年10月26日に見ています。金額の上限は資料ごとの条件です。

東京海上日動の商品ページは、攻撃の「おそれ」が見つかった段階で外部に調査を頼む費用も対象と書いています。まだ被害がはっきりしない段階でも、調査の費用が出る作りの保険があるということです。

見舞金は、上限が決まっている点に気をつけたいところです。過去の情報漏えいでは、1人500円の金券を配った例があります。

身代金や戦争によるものは、出ないと書かれた資料があります

今回見た資料では、攻撃者に払う身代金、戦争や国の関与した大きな攻撃、加入前から知っていた事故などが、はらわれないものとして書かれていました。

保険は「出ない場合」を先に知っておくと、事故のときに慌てずにすみます。パンフレットの「保険金をお支払いしない主な場合」に書かれていたものを、種類ごとにまとめました。

出ない・限られるもの(今回見た資料にあった書き方)
項目資料での書き方の例
身代金「サイバー攻撃などの実行者に支払う身代金は含みません」(損保ジャパンの商工会向け、収益減少防止費用の項)。データ復旧費用に「不正行為者に支払う金銭等」を含まない例(東京海上日動引受のNTT東日本の付帯保険)
戦争など戦争、外国の武力行使、内乱、暴動など。国が関わるサイバー攻撃のうち、重要なインフラなどに大きな影響を与えるものを含む例
加入前から知っていた事故保険期間の始まりの時点で、事故やそのおそれを知っていた場合
わざと・法律違反加入者の故意、違法と知りながらした行為、罰金・制裁金
電気・通信の停止電気・ガス・通信などのインフラが止まったことによるもの
試していないソフトの不具合通常のテストをしていないソフトウェアの欠陥による事故(利益の損害の項)

出典:商工団体むけの3つのパンフレットと、NTT東日本「サイバー保険の概要」(引受:東京海上日動)。2026年10月26日に見ています。正確な条件は各社の約款によります。

身代金は、補償の項目ごとに「含まない」と書かれていました。今回今回見た資料からは、どの項目でも一律に出ないとまでは読み取れません。加入している保険の約款でたしかめる部分です。

「古い機器の弱点(脆弱性)を放っておいたら出ない」という書き方は、今回見た資料には見あたりませんでした。ただし、加入のときに対策の状況を答える告知があり、事実と違えば保険金が出ないことがあると書かれています。

日本損害保険協会の調査では、損害保険で備えたいリスクとしてサイバーリスクを挙げた人は32.8%でした。自然災害(41.2%)に次ぐ2番目です。一方で、サイバー保険に入っている会社は10.0%でした(2024年11月調査、1,050人)。

2026年のランサム被害は中小企業が約6割、復旧に1,000万円以上が6割です

警察庁によると、2026年上半期のランサムウェア被害は123件で、中小企業が約6割でした。復旧に総額1,000万円以上かかった組織は6割を占めています。

ランサムウェアは、会社のデータを使えなくして、元に戻すことと引きかえにお金を求めるウイルスです。警察庁によると、2026年上半期の被害の報告は123件でした。半期として、統計を取り始めてから最も多い数です。

保険を考えるときに見ておきたい数字
数字値出どころ・条件
ランサム被害の報告(2026年上半期)123件警察庁。半期で最多
そのうち中小企業79件(約6割)警察庁の統計データ
復旧に1,000万円以上かかった組織6割警察庁のアンケート
1か月未満で復旧した組織5割弱警察庁のアンケート
サイバー被害の平均額(中小企業)73万円IPA 2024年度調査、4,191社。最大1億円
サイバー保険に入っている10.0%日本損害保険協会、中小企業の1,050人

出典:警察庁、IPA、日本損害保険協会の資料(くわしくは出典の一覧にあります)。2026年10月26日に見ています。

IPAの調査では、被害額の平均は73万円でした。ランサムウェアに限った警察庁の数字とは対象がちがうため、そのまま並べて比べることはできません。被害の種類で、かかるお金の桁が変わることが分かります。

IPAの「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」第3.1版には、付録の「リスク分析シート」があります。そこではリスクへの向き合い方の一つに「移転」を挙げています。例として「情報セキュリティに関連した保険商品に加入する等」と書いています。対策を減らす代わりではなく、対策で防ぎきれない分を外に移す考え方です。

関連する記事です。

事故に気がついたら、保険会社への連絡は早めにするのが条件です

今回見た資料はいずれも、事故が起きたら「遅滞なく」連絡するよう求めています。連絡が遅れると保険金の全部または一部が出ないことがあります。

損保ジャパンの商工会向けパンフレットの書き方はこうです。「遅滞なくご通知いただけなかった場合は、保険金の全額または一部をお支払いできないことがあります」。日本商工会議所の制度は、書面での通知を求めています。

対応の費用が出る期間を、保険会社が通知を受けた日から数える例もあります。あいおいニッセイ同和損保と日本商工会議所の資料では、通知を受けてから180日(日本商工会議所のワイドプランは1年)です。連絡が遅いほど、費用の出る期間の始まりも遅くなります。

  1. おかしいと気がついたら、社内の担当者と経営者に知らせる。
  2. 保険証券に書かれた事故の窓口に、まず電話で連絡する。
  3. 調査会社や弁護士をたのむ前に、保険の対象になるか保険会社と相談する。
  4. 相手に賠償を約束したり払ったりする前に、保険会社の承認を得る。
  5. 個人情報が漏れたおそれがあれば、個人情報保護委員会への速報(3〜5日以内)もあわせて進める。

今回見た資料では、相手との話しあいを保険会社が代わりにする仕組みはありませんでした。会社が保険会社と話しながら進める形です。

個人情報保護委員会への報告の期限は、次の記事で整理しています。

保険を検討する会社のご担当の方へ

  • 手元の保険は「情報漏えい保険」か「サイバー保険」か。漏えい以外の攻撃も対象か。
  • 止まった間の利益は基本の補償か、特約をつけたときだけか。
  • 調査・コールセンター・お詫び状・見舞金に、それぞれいくらまでの上限があるか。
  • 身代金や攻撃者に払うお金は、どの項目で出ないと書かれているか。
  • 事故の窓口の電話番号と受付時間、連絡は電話でよいか書面が要るか。
  • 攻撃の「おそれ」の段階で、調査の費用は出るか。
  • 加入時に答える対策の項目と、答えた内容が実態とずれたときの扱い。

取引先からセキュリティ対策の水準を求められることもあります。国の評価制度は次の記事にまとめています。

よくある質問

サイバー保険に入っていれば、身代金も払ってもらえますか。

今回見た資料では、攻撃者に払う身代金や金銭は、補償の項目ごとに「含まない」と書かれていました。身代金を払っても、データが戻る保証はありません。加入している保険の約款で、どの項目でどう扱うかをたしかめてください。

火災保険や賠償責任保険に入っていれば、サイバー攻撃も出ますか。

ふつうの火災保険や賠償責任保険は、サイバー攻撃による費用や利益の損害を前提にしていません。IPAは、昔からある情報漏えい保険でも、漏えい以外の被害や事業が止まった間の利益が出ない場合があると指摘しています。契約している代理店に、サイバー攻撃が対象かをたしかめるのが確実です。

攻撃かどうか分からない段階でも、保険会社に連絡してよいですか。

今回見た資料はいずれも、事故やそのおそれに気がついたら遅滞なく連絡するよう求めています。攻撃のおそれの段階で外部に調査を頼む費用を対象にしている保険もあります。はっきりしてから連絡するより、早めに相談するほうが条件に合います。

中小企業でサイバー保険に入っている会社はどのくらいありますか。

日本損害保険協会は2024年11月に、中小企業の経営者と従業員1,050人に聞きました。勤め先がサイバー保険に入っていると答えたのは10.0%でした。サイバー保険を知っている人は57.1%でした。

なぜプラスチックパレット株式会社がこの記事を書いているのですか。

当社もウェブサイトや業務クラウドを使う中小の会社です。同じ立場の会社が保険の中身をたしかめるときの手がかりになるよう整理しました。もとにしたのは、警察庁・IPA・日本損害保険協会の資料と、各社の公開パンフレットです。特定の保険をすすめるものではありません。

言葉の意味6語
フォレンジック
パソコンやサーバーに残った記録を調べ、何が起きたかを明らかにする調査
利益損害
システムが止まって失った利益と、営業を続けるための追加の費用
免責
保険金が出ない場合として約款に書かれていること
約款
保険の細かい条件を定めた文書
遅滞なく
正当な理由なく遅れることなく、という意味
ランサムウェア
データを使えなくして、元に戻すことと引きかえにお金を求めるウイルス
出典・エビデンス一覧12件(公的機関・業界団体7・保険会社や商工団体の公開資料5)
  • ※数値と保険の条件は2026年10月26日時点の公開資料によります
  • ※保険の条件は商品・契約ごとに異なります。正確な内容は各社の約款と重要事項説明書でたしかめてください
  • ※保険会社どうしを比べたり、特定の商品をすすめたりするものではありません
  • ※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の判断を推奨するものではありません。

文:プラスチックパレット株式会社 編集部

「情報漏えい・サイバー攻撃」の新しい記事

「情報漏えい・サイバー攻撃」の記事をすべて見る(77本)

ほかのテーマ:テーマから探す

この記事は役に立ちましたか?
押すだけで送信されます。内容の改善に使います(個人を特定する情報は集めません)
トップへ戻る