イラン情勢が招く「2026年オイル交換の値上げ」をやさしく解説、車検・整備費用の本当の理由
エンジンオイルはなぜ高くなったのか、パールGTLの停止から2026年を1ページで振り返る|DH-2・ENEOS
2026年2月28日のホルムズ海峡封鎖から7月12日の再閉鎖、9月の原油の再上昇まで、エンジンオイル・潤滑油の値段と入手に何が起きたのかを、パールGTL(Pearl GTL)の損傷・Group III(高品質の原料油)の不足・DH-2(大型トラック用オイル)の品不足という3つの困りごとと、国の対応・国内メーカーの動き・業界別の影響に分けて、やさしく振り返ります。本記事は要点と時系列・一覧だけを短くまとめ、詳しい内容は個別記事12本へご案内します。
- 2026年2月28日にホルムズ海峡が封鎖されてから、エンジンオイル・潤滑油は、パールGTLの損傷、Group IIIの世界的な不足、DH-2の品不足という、性格の違う3つの困りごとを同時に抱えました。
- カタールのPearl GTL(生産能力140,000バレル/日)は、約1年での修復見通しが公式に示されました。Group IIIは欧州で約100%上がり、米国では生産能力の約44%が失われたと報じられました。
- 日本独自規格のDH-2はGroup Iを主体に配合するため他の油で代わりがきかず、元売り各社の出荷制限が続きました。国は3.1兆円の補正予算を成立させ、6月10日から207組織が参加する潤滑油直販スキームを動かしました。
- 7月12日の再閉鎖のあと、9月10日にはブレント原油が109.09ドル/バレルに達しました。一方で円高が輸入コストを押し下げ、8月24日時点で直販スキームにより44件が解決し、新規の相談はほぼなくなっています(経済産業省)。
- 事業者ができる備えは、割当通知への早めの確定発注、1〜2ヶ月分の安全在庫、第2の仕入れ先の確保など6つにまとめました。分野ごとの詳しい内容は、下の「このまとめの記事を探す」から個別記事で読めます。
こんな方へ ── まず読むところ
- 大型トラック・バスを走らせている会社の方:DH-2オイルの品不足は、第4章の「DH-2の品不足」と第3章「2026年8月〜9月の動き」へ
- 乗用車のオイル交換の値段が気になる方:0W-20などの省燃費オイルの原料の話は、第4章の「Group IIIの不足」へ
- 整備工場・ディーラー・建機や船を扱う方:業界ごとの押さえる点と読む記事は、第6章「業界別:まず押さえる点と読む記事」へ
- 購買・調達担当の方:メーカーの動きと備えは、第7章「主な会社・役所の動き」と第8章の「6つの備え」へ
(Shell/QatarEnergy
CEO Saad al-Kaabi
公式発言)
ベースオイル価格上昇
(CNBC 2026年5月
報道)
(2026年6月5日)
中東対応予備費
2.5兆円含む
潤滑油直販スキーム
参加数
(6月10日稼働)
CHAPTER 01まず全体像:エンジンオイルとイラン情勢のつながり
エンジンオイルは、ベースオイル(土台になる原料油)約80〜90%+添加剤パッケージ約10〜20%でできています。ベースオイルは原油の減圧蒸留残渣(原油を蒸留したあとの重い残り)やGTL(天然ガスを液体に変える技術)からつくられ、API(米国石油協会)の分類でGroup I〜Vの5つ+GTLに分けられます。数字が大きいほど、おおむね高品質です。
Group III以上の高品質油は、サウジアラビア(Luberef Yanbu・Luberef Jeddah)、カタール(Pearl GTL)、韓国(SK Enmove・S-Oil・GS Caltex・HD Hyundai Shell Base Oil)が世界市場の中心です。日本は国内でGroup I〜Group IIをつくれますが、Group III以上とGTL系はほぼ全量を輸入に頼っています。ベースオイルは国際商品のため、中東からの供給が滞ると韓国産・北米産にも値上がりの圧力がかかります。日本の潤滑油市場は年間およそ200万kL規模と推計されます。
2026年のイラン情勢、3つの局面
| 局面 | 期間 | 主な出来事 |
|---|---|---|
| 第1局面 | 2026年2月28日〜4月 | ホルムズ海峡封鎖の初動と原油急伸。Pearl GTL損傷、UAEフジャイラのForce Majeure(不可抗力による供給停止)宣言、韓国の輸出キャップ導入が同時に進んだ |
| 第2局面 | 2026年5月末〜6月 | 3.1兆円補正予算の成立、6月10日の潤滑油直販スキーム稼働(207組織参加)、6月17日のベルサイユ覚書署名と、政府・国際レベルの対応が集中 |
| 第3局面 | 2026年7月〜 | 7月2日にBrent原油が71.5〜72ドル/バレルの戦争前水準に到達。7月12日のホルムズ海峡再閉鎖で第2波のリスクが表面化し、DH-2・Group I系油の供給乱れは継続 |
8月〜9月の動きは第3章で、3つの困りごとの中身は第4章で扱います。
CHAPTER 022月〜9月の出来事 ── 主な34件の時系列
2026年2月28日のホルムズ海峡封鎖から、9月の原油の再上昇までの主な34件を、政府・メーカー・現場・統計・国際・調達・情勢の7つに分けて並べました。
| 日付 | カテゴリ | 主要イベント |
|---|---|---|
| 2026-02-28 | 情勢 | ホルムズ海峡封鎖・イラン情勢急変で原油・ナフサ・ベースオイル価格の急上昇局面入り |
| 2026-03-16 | 統計 | 資源エネ庁 軽油価格1週間で28円急騰・全国平均178円/L(3月16日時点) |
| 2026-03-24 | 政府 | 第1回 中東情勢に関する関係閣僚会議 開催(内閣官房主催) |
| 2026-04-02 | 政府 | 「重要物資の安定的な供給確保のためのタスクフォース」設置、Pearl GTL損傷情報が政府・業界に共有 |
| 2026-04-13 | 政府 | 経産省 180社・70団体宛「出荷抑制の是正」要請発出 |
| 2026-04-26 | メーカー | TAKMO(旧TAKUMIモーターオイル) 4要因公式声明発表(ベースオイル値上げ・添加剤値上げ・物流サーチャージ・為替) |
| 2026-05-01 | メーカー | キャストロール(Castrol) 公式値上げ実施(プライシー編集部集計) |
| 2026-05-05 | 国際 | UAEフジャイラ生産者Force Majeure宣言(バーレーン等含む) |
| 2026-05-08 | 国際 | MANNOL(独・SCT)声明「ベースオイル価格最大50%上昇、欧州合成潤滑油在庫5月末〜6月初頭に枯渇可能性」(motorcycles.news報道) |
| 2026-05-15 | 国際 | ミカド商事ブログ「2026年3Q(7-9月)のベースオイル価格はさらに上昇予想、添加剤・容器も値上がり、遡って価格改定されるケース発生」 |
| 2026-05-22 | 国際 | CNBC・Twining業界アナリスト報道「Group IIIベースオイル欧州価格約100%上昇、Pearl GTL損傷、韓国が輸出キャップ導入」 |
| 2026-05-22 | 国際 | AOCUSA・Highline Warren 卸価格改定発表(Group II潤滑油最大$2.40/gal、Group III最大$3.00/gal、過去2ヶ月で4回目連続改定) |
| 2026-05-25 | 政府 | 高市総理 3兆円規模補正予算編成と中東情勢等対応予備費の創設を表明 |
| 2026-05-26 | 現場 | トラックニュース調査「整備業者の8割超がシンナー入手支障、エンジンオイルも半数超が調達難」/スズキ・ダイハツ販売会社で油脂類交換を予約制に移行 |
| 2026-06-02 | 政府 | 第9回 中東情勢関係閣僚会議 開催(Brent原油6/4時点97ドル/バレル) |
| 2026-06-03 | 政府 | 3.1兆円補正予算閣議決定(中東対応予備費2.5兆円含む) |
| 2026-06-05 | 政府 | 3.1兆円補正予算 国会成立/7〜9月の電気・ガス料金5,000円支援決定 |
| 2026-06-10 | 政府 | 潤滑油直販スキーム稼働開始(経産省・国交省・資源エネ庁とりまとめ、207組織・企業参加) |
| 2026-06-11 | 政府 | METI 日本の原油調達 7月に前年平月比10割回復のめど表明 |
| 2026-06-17 | 情勢 | ベルサイユ宮殿にて米・イラン戦闘終結覚書署名(フランス仲介) |
| 2026-06-19 | 情勢 | スイスにて米・イラン戦闘終結覚書 正式署名式 |
| 2026-06-27 | 情勢 | イラン停戦違反疑い・バーレーン向けドローン攻撃(覚書後の緊張継続を示唆) |
| 2026-06-28 | 情勢 | クウェート向けドローン攻撃続報、停戦の脆弱性が顕在化 |
| 2026-06-29 | メーカー | 出光ダフニー 一部受注制限解除発表/Luberef Jeddah製油所 継続操業確認(新規原料契約下) |
| 2026-07-01 | 情勢 | ドーハ米・イラン間接協議 継続合意(緊張下での対話継続) |
| 2026-07-02 | 国際 | Brent原油 71.5〜72ドル/バレルの戦争前水準に到達(TradingEconomics) |
| 2026-07-05 | 国際 | Shell/QatarEnergy CEO Saad al-Kaabi氏 Pearl GTL約1年での修復完了見通しを公式表明(当初S&P Global試算3〜5年から大幅短縮) |
| 2026-07-11 | 政府 | METI 日本の原油調達 7月の前年平月比10割回復めど(6月11日表明を追認) |
| 2026-07-12 | 情勢 | IRGC(イラン革命防衛隊)によるホルムズ海峡再閉鎖宣言、米中央軍空爆、LNG(液化天然ガス)船の通航ゼロ、覚書が破綻し第2波リスク顕在化 |
| 2026-07-31 | 情勢 | 日米が協調介入を実施。8月3日のドル円は155.22円(7月16日の162.28円から円高方向へ) |
| 2026-09-08 | 情勢 | サウジアラビアの石油施設が攻撃を受け73人が負傷。同日のBrent原油は97.92ドル/バレル |
| 2026-09-10 | 国際 | Brent原油が109.09ドル/バレルに到達(9月8日比で当社計算+11.4%)。同日、サウジアラビアの8月産油量が日量623.8万バレル・前月比190万バレル減・1990年以来36年ぶりの低水準と報じられる |
| 2026-09-11 | 統計 | 日本銀行 2026年8月の企業物価指数を公表。石油・石炭製品は前年比+14.7%、化学製品は+13.9%。輸入物価の前月比は円ベース−3.0%・契約通貨ベース−1.0% |
| 2026-09-13週 | 調達 | 税関長公示レートが158.81円。8月2日週の163.16円から当社計算で4.35円の円高。輸入ベースオイルの円建てコストを押し下げる |
節目になったのは、6月5日の補正予算の成立、6月10日の直販スキームの開始、7月5日のPearl GTL修復見通しの大幅な短縮の3つです。8月〜9月の動きは第3章にまとめています。
CHAPTER 032026年8月〜9月の動き
7月12日の再閉鎖のあと、8月から9月にかけての動きです。2026年9月13日にまとめた原油・為替の内容に、9月29日に当社が確認した資料(パールGTLの修復、国の相談窓口、元売りの価格)を加えました。第1章と第4章〜第8章は、断りのない限り2026年7月19日時点の内容です。
原油は再び100ドルを超え、為替は円高に動きました
第8章の短期の見通しが挙げていた「7月の再閉鎖の影響が9〜10月に表れる」「ブレント原油の再上昇」は、そのとおりの形で現れました。9月10日のブレント原油は109.09ドル/バレルで、9月8日の97.92ドルから当社計算で+11.4%、7月2日の戦争前水準71.5〜72ドルからは当社計算で約+51%です。第8章の指標01が定めた100ドル超=緊急対応検討の水準に達しています。なお、世界銀行の月平均(Pink Sheet 2026年9月号)では8月のブレントは90.9ドル/バレルで、日々の値とは種類の違う指標です。
7月の局面が輸送・通航の不確実さだったのに対し、今回はサウジアラビアの8月産油量が日量623.8万バレル(前月比190万バレル減・1990年以来36年ぶりの低水準)という実績が背景にあります。ベースオイルは原油の減圧蒸留残渣が原料のため、精製量が減ると副産物の取り出し量にも直接効きます。
| 経路 | 2026年9月の動き | 意味 |
|---|---|---|
| ベースオイル | 原油109.09ドル(9/10)。産油量は36年ぶり低水準 | 減圧蒸留残渣が原料。精製量が減ると副産物の取り出しも減る |
| DH-2 | Group I系の供給乱れは7月から継続 | 日本規格で代わりがきかない。原油高が和らげる要因にはならない |
| 為替 | 公示レート163.16円→158.81円(当社計算で4.35円の円高) | 輸入コストを押し下げ、上昇を一部相殺する |
円高は逆向きに働いています。日本銀行の2026年8月の企業物価指数では、輸入物価の前月比が円ベースで−3.0%、契約通貨ベースで−1.0%で、差の2.0ポイントが直近1ヶ月の円高による押し下げ分です(当社計算)。ただし前年比では円ベース+24.8%・契約通貨ベース+16.7%で差は+8.1ポイントと向きが逆になるため、価格改定の話し合いでは、前月比と前年比のどちらで比べているかを先にそろえておく必要があります。同じ指数の石油・石炭製品は前年比+14.7%、化学製品は+13.9%で、添加剤パッケージは化学製品の区分に含まれます。
パールGTL:損傷した系列の修復は2027年3月末までの見込みです
Shellは7月30日の2026年4〜6月期の決算で、パールGTLの状況と潤滑油事業への影響を説明しました。決算発表の数字は会社の発表そのもの、CEO・CFOの発言は決算説明会の書き起こし(The Motley Fool 掲載)によります。
| 時点 | 発表・資料 | 内容 |
|---|---|---|
| 7月30日 | Shell 2026年4〜6月期の決算発表 | 潤滑油の販売量は1〜3月期の95千バレル/日から4〜6月期は75千バレル/日に減少。「販売量の減少と潤滑油の利幅の縮小」と説明。7〜9月期の生産見通しにはカタールの量を含めない |
| 7月30日 | 同 決算説明会(Wael Sawan CEO) | 損傷した第2系列は修復が進んでおり、輸出ができることを条件に2027年3月末までに運転できる見込み。被害を受けていない第1系列は、海峡の安全な通航などを条件に数週間で立ち上げられる |
| 7月30日 | 同 決算説明会(Sinead Gorman CFO) | 潤滑油事業はPearlからの量に頼っており、近いうちには入ってこない見込みのため、7〜9月期は少し厳しくなる |
損傷のない第1系列が実際に再稼働したかどうか、第2系列の修復の9月時点の進み具合は、当社では確認できていません。
国内:相談は落ち着き、値段は8月に下げ・9月に小幅な値上げ
8月26日に持ち回りで開かれた政府の「中東情勢に伴う重要物資の安定的な供給確保のためのタスクフォース」(第4回)の資料では、エンジンオイル・潤滑油についての国の窓口への相談は少なくなっています。値段については、元売りの公式発表ではなく販売会社のまとめ(二次)ですが、8月に下げたあと9月は小幅に上がったとされています。
| 時点 | 出典 | 内容 |
|---|---|---|
| 8月20日時点 | 国土交通省(政府タスクフォース第4回の資料) | 8月14日〜20日の1週間に、自動車整備・バス・トラック・タクシー事業から同省の窓口に寄せられたエンジンオイルの供給要請は1件 |
| 8月24日時点 | 経済産業省(同) | 直販スキームにより44件が解決。一時的に相談が増えたあと、足元の潤滑油の新規の相談は「ほぼなし」。8月18日〜24日の1週間の相談は5件(7月15日〜21日は14件) |
| 9月11日公表 | 日本銀行 企業物価指数(2026年8月速報) | 国内企業物価で前月比が下がった主な品目として、石油・石炭製品(寄与度−0.12%)の中に「潤滑油」が挙がる |
| 9月15日更新 | シンワルブテック(工業用潤滑油の販売会社)のまとめ | ENEOSは8月に小幅な値下げ、9月に小幅な値上げ。出光興産は8月に値下げ、9月に小幅な値上げ。両社ともGroup IIIは大幅な値上げ。コスモ石油は8月から出荷停止品の注文制限を解除、シェルルブリカンツは8月に割当数量を小幅に増加 |
海外では、米国の業界メディアJobbersWorldが9月14日に、Group IIIの4cSt・6cSt(cStは油の粘り気を表す単位で、エンジンオイルによく使う粘度)は「調達が非常に難しいまま」と伝えています(有料記事の公開部分)。
確認できていないこと
2026年8月・9月のベースオイルのグレード別の価格、DH-2の出荷制限の緩和・追加、国内元売り3社と独立系メーカーの価格改定の公式発表、スズキの10月の改定(100円/L超の予告)が実施されたかどうかは、当社では一次資料で確認できていません。第8章の見ておきたい指標のうち、02・03・06・07も同じです。
CHAPTER 043つの困りごと ── パールGTL・Group III・DH-2
2026年に起きたのは、ひとつの品不足ではありません。性格の違う3つの困りごとが重なりました。
パールGTLの停止 ── 最高品質の原料油が1年止まる
Pearl GTLの規模と修復見通し
- 所在:カタール・ラスラファン
- 合弁事業者:Shell・QatarEnergy
- 生産能力:140,000バレル/日(世界最大級のGTLプラント)
- 製造品目:GTL由来のプレミアム合成油ベースオイル・パラフィン・高品質液体燃料
- 損傷:2026年春のイラン軍ミサイル攻撃で施設が損傷(当初はS&P Global試算で3〜5年の修復期間)
- 修復見通し(7月5日更新):Shell/QatarEnergy CEO Saad al-Kaabi氏の公式発言で約1年での修復完了見通し(当初の試算から大幅に短縮)
- 修復見通し(7月30日):ShellのWael Sawan CEOが、損傷した第2系列は2027年3月末までに運転できる見込みと説明(第3章)
Pearl GTL(パールGTL)が止まると、GTL由来のプレミアム合成油ベースオイルの供給が直接細ります。修復期間が短くなる見通しは市場の心理を落ち着かせる方向に働きましたが、止まっている間は、Group IV(PAO=化学合成でつくる高性能の原料油)や高グレードのGroup III以上に、代わりの需要が世界中から集まります。
Group IIIの不足 ── 欧州で約100%上昇、米国は能力の約44%が失われる
Group IIIベースオイルの状況(2026年5〜7月)
- 用途:省燃費エンジン油(0W-20等)100%化学合成油の中核原料
- 製法:API分類でGroup III=水素化分解製法の高粘度指数油
- 欧州価格上昇率:約100%上昇(CNBC 2026年5月報道)
- 米国生産能力喪失:約44%喪失(Gas-Price-Check 2026年5月分析)
- 韓国の対応:Group III世界輸出大国の韓国が国内供給確保のため石油製品の義務的輸出キャップ導入(CNBC)
- 米国卸価格改定:AOCUSA・Highline Warren 5月22日 Group II最大$2.40/gal・Group III最大$3.00/gal(過去2ヶ月で4回目連続改定)
- 代わりの措置:業界団体が90日間の緊急暫定措置としてGroup IIへの代替使用を条件付きで承認
- 中期供給計画:Chevron Pascagoula NEXBASE 4 XP(2026年Q4本格稼働・北米初のGroup III+グローバルサプライヤー)、ExxonMobil Baytown増強(+8,000b/d・4cSt・6cStグレード)、HD Hyundai Shell Base Oil(大山工場)2027年から商業生産開始予定
Group IIIは、0W-20などの省燃費油に欠かせない原料です。トヨタ・日産は米国でディーラー向けの配給制のレターを出しました(Gas-Price-Check報道)。Group IIで代わりに使う動きはGroup IIの需要を押し上げ、Group IIの価格にも上がる圧力をかけています。
DH-2の品不足 ── 日本の規格で、代わりがききません
DH-2の規格と国内供給状況
- 規格制定:日本自動車工業会(JAMA)が定めた大型ディーゼル車向けエンジン油の日本独自規格
- 技術特徴:DPF(ディーゼル微粒子捕集フィルタ)対応の低灰分オイル
- 主原料:Group Iベースオイルを主体に配合
- 代わりになるか:Group II・Group III・ATF等では代わりにならない(規格の性質上、Group Iの粘度特性・不飽和炭化水素含有量が求められる)
- 国内供給:ENEOSなど元売り各社が出荷制限を継続
- 代替補完:韓国からの一部輸入で細く補完(ただし規模は限定的)
- 影響業界:大型トラック・バスの継続運行に関わる基幹論点、物流業界全体に波及
DH-2では、Group I系のベースオイルそのものは輸入で確保できても、原料・添加剤が同時にひっ迫して国内での配合・出荷が制約され、「原料はあるのに日本規格品として出荷できない」状態が起きました。大型トラックの運行に関わるため、潤滑油直販スキームの主な対象のひとつでもあります。
3つが重なって起きた「目詰まり」
3つが同時に進み、事業者の先回りの発注で流通の途中の在庫が偏りました。末端では、スズキ・ダイハツの販売会社で油脂類の交換が予約制になったり、整備業者の8割超がシンナーの入手に支障、半数超がエンジンオイルの調達に苦労(トラックニュース5月26日調査)したりしました。経産省の4月13日の180社・70団体宛「出荷抑制の是正」要請と、6月10日に始まった潤滑油直販スキーム(207組織)は、この目詰まりをほぐすための政策です。
CHAPTER 05分野別の要点と詳しい記事
分野ごとの要点と数字を短くまとめ、詳しい内容は個別記事へご案内します。キーワードで探すときは、ページ上部の「このまとめの記事を探す」の検索欄が便利です。
最高品質の原料油(GTL・PAO)が1年止まります
カタール・ラスラファンにあるShell/QatarEnergyの合弁施設Pearl GTLが、イラン軍のミサイル攻撃で損傷しました。当初3〜5年とされた修復期間は、7月5日のCEOの公式発表で約1年に短くなりました。7月30日にはShellが、損傷した第2系列を2027年3月末までに運転できる見込みと説明しています。GTL由来の合成油ベースオイルの供給の制約は続きます。
欧州で約100%上昇、米国は能力の約44%が失われました
欧州価格の約100%上昇(CNBC)と、米国の生産能力の約44%喪失(Gas-Price-Check)が報じられました。韓国は輸出キャップ(上限)を入れ、業界団体はGroup IIで代わりに使うことを、90日間の緊急暫定措置として条件付きで認めました。
日本の規格で代わりがきかず、韓国からの輸入で細く補っています
日本自動車工業会(JAMA)が定めた大型ディーゼル車向けの日本独自の規格です。Group Iを主体に配合するため他の油では代わりにならず、元売り各社の出荷制限が続き、韓国からの一部輸入で細く補われています。
元売り3社と独立系メーカーの受注と値上げ
元売り3社(ENEOS・出光興産・コスモ石油)は出荷制限を続け、出光ダフニーは6月29日に一部の受注制限を解除しました。独立系メーカーや自動車メーカーの純正油でも値上げが広がりました。
1兆円の補正予算と、207組織が参加する潤滑油直販スキーム ── 国が主導する緊急の仕組み
5月25日の表明、6月3日の閣議決定を経て、6月5日に3.1兆円の補正予算が成立しました。6月10日からは潤滑油直販スキームが動き、エンジンオイル・アドブルー・ブレーキフルードなどを、ふだんの流通の目詰まりを避けて必要な事業者へ届けています。8月24日時点で44件が解決しました(経済産業省)。
再生基油(RRBO)が中東頼みから抜け出す道に ── ENEOS×トヨタの実証と阪和興業のネットワーク
中期の代わりの手段として、再生基油(RRBO=使用済みオイルから再生したベースオイル)が注目されています。ENEOSはトヨタ自動車の協力のもと、使用済み潤滑油から低炭素の基油をつくることに成功しました。DH-2に使うには、JASO M355認証を新しく取るというハードルがあります。
0W-20のオイル代と、10月1日のGF-6廃止
Group III基油のアジア相場は9月21日に1トン3,630〜3,680ドルまで上がり、店頭の0W-20の値段にも表れています。あわせて、エンジンオイルの規格GF-6は10月1日で廃止され、GF-7とAPI SQに切り替わります。
CHAPTER 06業界別:まず押さえる点と読む記事(6業界)
業界ごとに、まず押さえる点と最初に読む記事を1行にまとめました。
| 業界 | まず押さえる点 | まず読む記事 |
|---|---|---|
| 大型トラック運送 | DH-2の直接影響。元売りの出荷制限と韓国輸入補完の実態把握、1〜2ヶ月分の安全在庫、潤滑油直販スキームへの参加検討 | DH-2大型トラック油2026 専門版 物流業界を直撃するナフサショック |
| 乗用車ディーラー・整備業 | Group III系省燃費油(0W-20等)の代替品案内、顧客への説明、オイル交換の予約制運用、車検費用への波及の説明 | オイル交換の値上げ やさしく解説 エンジンオイル やさしく解説 |
| 建設機械・農機 | ディーゼル系エンジン油・油圧作動油の代替グレードの適用可否、稼働継続のための調達分散 | ベースオイル完全ガイド2026 エンジンオイル危機2026 専門版 |
| 船舶・海運 | 船舶用シリンダー油・トランクピストン油はGroup I系の高粘度油に依存し、DH-2と同じくGroup Iの供給乱れが直接影響 | ベースオイル完全ガイド2026 物流業界を直撃するナフサショック |
| 潤滑油商社・卸 | 国内元売り3社と商社経由の第2サプライヤーの並行確保、直販スキームへの参加検討、価格改定の一次資料 | エンジンオイル危機2026 専門版(10社網羅) ベースオイル完全ガイド2026 |
| 官公庁・研究機関 | 閣僚会議の議事要点、出荷抑制是正要請、直販スキームの運用実態、補正予算の執行状況、国際指標の体系的な把握 | エンジンオイル危機2026 専門版 DH-2大型トラック油2026 専門版 |
CHAPTER 07主な会社・役所の動き
3つの困りごとを和らげたり強めたりした主な会社・役所の動きを、2026年7月19日時点でまとめました。8月〜9月に分かったこと(Shellの修復見通し、元売りの価格、国の窓口への相談)は第3章に書いています。
| 主体 | 2026年の動き |
|---|---|
| Shell / QatarEnergy | Pearl GTL(生産能力140,000バレル/日)の合弁事業者。7月5日にCEOのSaad al-Kaabi氏が約1年での修復完了見通しを公式に表明 |
| ENEOS | 国内潤滑油の最大手(国内シェア約4割)。川崎・根岸・水島製油所でGroup I〜Group II系を製造。2026年春以降DH-2の出荷制限を継続し、新規大型契約の受注を抑制 |
| 出光興産(出光ダフニー) | 千葉事業所・愛知製油所でGroup I〜Group II系を製造し、工業用潤滑油の国内シェアはトップクラス。6月29日に一部受注制限を解除した最初の元売り |
| コスモ石油 | 四日市・堺製油所でGroup I〜Group II系を製造。出荷制限と契約先優先の運用を継続 |
| TAKMO(旧TAKUMIモーターオイル) | 4月26日の公式声明で、ベースオイル値上げ・添加剤値上げ・物流サーチャージ・為替の4要因の同時進行を明示 |
| キャストロール(Castrol・BP傘下) | 5月1日に公式値上げを実施(プライシー編集部集計) |
| スズキ(純正オイル) | 純正エンジンオイルの卸値を7月に+40%、10月に100円/L超の追加改定を予告。ダイハツと共に一部地域販売会社で油脂類交換を予約制へ移行 |
| MANNOL(独・SCT) | 「ベースオイル価格は最大50%上昇、欧州合成潤滑油在庫は5月末〜6月初頭に枯渇可能性」と警告(motorcycles.news報道) |
| AOCUSA・Highline Warren(米国卸) | 5月22日発効でGroup II潤滑油最大$2.40/gal、Group III最大$3.00/galの卸価格改定。過去2ヶ月で4回目。Highline WarrenはCostco「Kirkland Signature」・Walmart「SuperTech」の受託製造元 |
| 経済産業省 | 4月13日付で180社・70団体宛「出荷抑制の是正」要請を発出。潤滑油直販スキームで中心的なとりまとめ役を担う |
| 国土交通省 | 5月12日の第7回中東情勢関係閣僚会議で、金子国交相がアドブルーの供給確保に向け「前年同月同量」の要請とBIB容器問題への対応を表明 |
| 資源エネルギー庁 | 6月5日に「潤滑油の発注適正化」を公表 |
CHAPTER 08これからの見方・見ておきたい7つの指標・6つの備え
見通しは2026年7月19日時点でまとめたものです。9月までに分かった事実(第3章)を、短期・中期の欄と指標の右端の列に書き加えました。新しい予測は加えていません。
見通しの3段階(2026年7月19日時点、9月の確認を追記)
| 段階 | 期間 | 焦点 |
|---|---|---|
| 短期:第2波の実務対応期 | 〜2026年10月 | 7月時点では、再閉鎖の影響が9〜10月の価格・調達に表れる段階と見ていました(焦点:Brent原油の再上昇、Group III・DH-2の供給の乱れ、スズキ10月100円/L超改定の実施、追加の価格改定通知)。9月時点では、ブレント原油が9月10日に109.09ドル/バレルとなり、販売会社のまとめではENEOS・出光興産が9月に小幅な値上げ(Group IIIは大幅)とされています(第3章)。スズキの改定の実施とDH-2の供給は確認できていません |
| 中期:Pearl GTL修復・代替供給拡充期 | 2026年11月〜2027年6月 | Pearl GTL約1年修復の進み具合の確認(Shellは7月30日、損傷した第2系列を2027年3月末までに運転できる見込みと説明)。Chevron Pascagoula NEXBASE 4 XP(2026年Q4本格稼働)、ExxonMobil Baytown増強(+8,000b/d)、Luberef Yanbu Growth-IIなどの増産計画。DH-2は国際供給拡充の恩恵が限定的 |
| 長期:構造転換期 | 2027年下期以降 | HD Hyundai Shell Base Oil(大山工場)の2027年商業生産開始、ディーゼル車のEV/水素シフトによる長期的な需要縮小。Kline Groupの整理では業界全体で500万トンの余剰(全体供給の10%超) |
見ておきたい7つの指標
| 番号 | 指標 | 見るもの・目安 | 2026年9月時点 |
|---|---|---|---|
| 01 | Brent原油価格 | TradingEconomics日次。80ドル/バレル超で警戒、100ドル/バレル超で緊急対応検討 | 109.09ドル(9月10日)。緊急対応検討の水準。世界銀行の8月の月平均は90.9ドル |
| 02 | Group III国際価格 | CNBC・Gas-Price-Check。欧州価格100%超上昇の継続で川下価格転嫁が本格化 | 価格は確認できていません。9月14日、米国の業界メディアが4cSt・6cStの調達難を報道(第3章) |
| 03 | DH-2出荷制限 | 元売り3社(ENEOS・出光・コスモ)の出荷制限の緩和・追加 | 確認できていません |
| 04 | Pearl GTL修復進捗 | Shell/QatarEnergy公式発表・S&P Global続報。約1年見通しの実現度 | 7月30日、Shellが損傷した第2系列を2027年3月末までに運転できる見込みと説明。9月時点の進み具合は確認できていません |
| 05 | 中東情勢閣僚会議 | 開催頻度と議題。潤滑油直販スキームの運用状況 | 8月26日にタスクフォース第4回。直販スキームは8月24日時点で44件解決、新規の相談はほぼなし(経済産業省) |
| 06 | 韓国輸出キャップ | Group III義務的輸出キャップの解除・維持・拡大 | 確認できていません |
| 07 | BIB容器供給 | 3社集中構造の内袋(BIB)の供給状況。潤滑油・アドブルー共通のボトルネック | 確認できていません |
事業者ができる6つの備え
- 既存の取引先との関係を最優先:割当通知には24〜48時間以内に確定発注
- DH-2・Group I系の油の供給の乱れを考えた安全在庫:1〜2ヶ月分の目安
- 第2の仕入れ先を並行して確保:国内元売り品と商社経由
- 価格スライド条項を顧客との契約に入れる:国際情勢の変化にすぐ対応するため
- 潤滑油直販スキーム(207組織参加)の利用を検討:ふだんの流通の目詰まりを避けるため
- 買い占めのような発注を控える:国交省の「前年同月同量」要請に協力
CHAPTER 09用語集(12項目)
このまとめで使う主な業界用語・技術用語・機関名を12項目にまとめました。
- エンジンオイル(潤滑油)
- ディーゼル・ガソリンエンジンの摩擦を減らし、冷やし、汚れを落とし、さびを防ぎ、すき間をふさぐ消耗品です。日本市場は年間約200万kL規模で、乗用車用・大型ディーゼル用・工業用・船舶用に大きく分かれます。
- ベースオイル(API分類Group I〜V)
- 潤滑油の主な原料で、完成品全体の約80〜90%を占めます(残り10〜20%が添加剤パッケージ)。API(米国石油協会)の分類で、粘度指数・不飽和炭化水素の含有量・硫黄分により5つに分けます。Group I(低粘度指数・DH-2の主原料)/Group II(中粘度指数・一般のエンジン油)/Group III(高粘度指数・省燃費油)/Group IV(PAO・高性能)/Group V(エステル等)です。
- GTL(Gas-to-Liquid)
- 天然ガスを液体燃料・ベースオイルに変える技術です。GTL由来のベースオイルはGroup III+以上の最高品質油にあたり、プレミアム合成油やレース用に使われます。Shell/QatarEnergyのPearl GTLが世界最大級です。
- Pearl GTL
- カタール・ラスラファンにあるShellとQatarEnergyの合弁GTLプラント(パールGTL)です。生産能力は140,000バレル/日です。2026年春の損傷のあと、Shell/QatarEnergy CEO Saad al-Kaabi氏が7月5日に約1年での修復完了見通しを公式に示しました。7月30日にはShellが、損傷した第2系列を2027年3月末までに運転できる見込みと説明しています。
- DH-2(大型ディーゼル用エンジン油)
- 日本自動車工業会(JAMA)が定めた大型ディーゼル車向けエンジン油の日本独自の規格です。DPF対応の低灰分オイルで、Group Iベースオイルを主体に配合するため、他の系統では代わりになりません。大型トラック・バスの標準の規格です。
- SAE粘度規格
- 米国自動車技術会(SAE)が定めた潤滑油の粘度の分類です。0W-20・5W-30・10W-40などと書き、Wの前の数字が低温での始動のしやすさ、Wの後の数字が高温での性能を表します。0W-20などの省燃費の低粘度油には、Group III以上のベースオイルが欠かせません。
- API規格(SP・SN等)
- API(米国石油協会)が定めた乗用車ガソリンエンジン油の性能規格です。最新のSP規格では、低速早期着火(LSPI)を防ぐ性能などが求められます。ILSAC(GF-6等)と並べて書かれることが多い規格です。
- ILSAC規格(GF-6等)
- ILSAC(国際潤滑油規格化統一委員会)が定めた乗用車エンジン油の統一規格です。日米の自動車メーカーが共同で定め、省燃費・排ガス性能・触媒の保護を重視しています。
- ATF(Automatic Transmission Fluid)
- 自動変速機用の作動油で、エンジンオイルとは別系統の潤滑油です。DH-2の代わりに使われることはありませんが、車両整備全般で並行して必要になる潤滑油です。
- 添加剤パッケージ
- ベースオイルに配合する機能性の化学品です。清浄剤・分散剤・耐摩耗剤・酸化防止剤・粘度指数向上剤・摩擦調整剤などでできています。ベースオイルと同じく、ホルムズ封鎖の影響で値上がりしました。
- ベルサイユ覚書
- 2026年6月17日にベルサイユ宮殿で署名された、米・イランの戦闘終結の覚書です。6月19日にスイスで正式な署名式が行われました。フランスの仲介による停戦合意で、その後のドーハでの間接協議の出発点になりました。ただし6月27〜28日のドローン攻撃で、覚書のもろさも示されました。
- 潤滑油直販スキーム
- 2026年6月10日から動いている、国が主導する緊急の仕組みです。経産省・国交省・資源エネ庁がとりまとめ、207組織・企業が参加しています。エンジンオイル・アドブルー・ブレーキフルードなどの車両消耗品を、ふだんの流通の目詰まりを避けて、必要な事業者へ確実に届けます。経済産業省によると、8月24日時点で44件が解決しました。
出典・エビデンス一覧38件(公的機関15・報道や企業23)
このまとめと関連記事で使った主な情報源を、政府・公的機関、業界団体・専門メディア、国際機関・データ集計元、2026年8月〜9月の分の4つに分けて示します。
- 経済産業省|180社・70団体宛「出荷抑制の是正」要請(2026年4月13日付)
- 経済産業省・国土交通省・資源エネルギー庁|潤滑油直販スキーム稼働(2026年6月10日・207組織参加)
- 国土交通省|第7回中東情勢に関する関係閣僚会議 議事要点(2026年5月12日)
- 資源エネルギー庁|潤滑油の発注適正化(2026年6月5日公表)
- 資源エネルギー庁|軽油価格月次統計(2026年3月16日発表分ほか)
- 内閣官房|中東情勢に関する関係閣僚会議 第1〜第11回議事概要(2026年3月24日〜6月26日)
- 首相官邸|高市総理「3兆円補正予算編成」表明(2026年5月25日)/3.1兆円補正予算成立(2026年6月5日)
- METI(経済産業省)|日本の原油調達 7月に前年平月比10割回復めど(2026年6月11日)
- トラックニュース|整備業者資材不足調査(2026年5月26日)
- プライシー編集部|キャストロール5月1日公式値上げ集計
- TAKMO(旧TAKUMIモーターオイル)|4要因公式声明(2026年4月26日)
- ミカド商事ブログ|3Q価格上昇予想・添加剤・容器値上げ観測(2026年5月15日付)
- 石油化学工業協会|エチレン稼働率発表(関連指標)
- キャストロール(Castrol・BP傘下)|公式値上げ通知(2026年5月1日実施)
- スズキ|純正エンジンオイル卸値+40%(7月)・10月100円/L超改定予告
- CNBC|Group IIIベースオイル欧州価格約100%上昇報道(2026年5月)
- Gas-Price-Check|米国Group III能力約44%喪失分析(2026年5月)
- S&P Global|Pearl GTL修復期間初期試算(3〜5年)
- Shell / QatarEnergy(CEO Saad al-Kaabi氏)|Pearl GTL約1年修復完了見通し公式表明(2026年7月5日)
- TradingEconomics|Brent原油日次データ(2026年6月4日97ドル・7月2日71.5〜72ドル)
- JobbersWorld・Costa Kapothanasis氏|AOCUSA・Highline Warren卸価格改定解説(2026年5月15日)
- MANNOL(独・SCT)|ベースオイル最大50%上昇・欧州在庫枯渇可能性警告(motorcycles.news 2026年5月15日報道)
- Kline Group|Middle East Lubricants Consulting レポート(2026年5月・業界余剰500万トン試算)
- Bloomberg/Reuters(日本語版)|ホルムズ海峡封鎖・再閉鎖関連速報
- 国際エネルギー機関|Oil Market Report 2026年9月版(湾岸諸国の8月石油輸出 日量約1,300万バレル、停止中の生産 日量1,000万バレル超)|当社が直接確認
- 米国エネルギー情報局|Short-Term Energy Outlook 2026年9月版(2026年下期のブレント想定平均 約90ドル)|二次ソース経由
- Breakwave Advisors|2026年9月8日(ホルムズ海峡通航の戦争リスク保険料 船体価格の7.5〜12.5%、情勢前 約0.25%)|当社が直接確認
- 日本銀行|企業物価指数 2026年8月速報・2026年9月11日公表(石油・石炭製品 前年比+14.7%、化学製品 +13.9%、輸入物価 前月比 円ベース−3.0%/契約通貨ベース−1.0%)|当社が直接確認
- Trading Economics|ブレント原油のスポット価格|当社が2026年9月10日〜12日に同ページで確認した表示値。同サイトは掲載する原油価格を公式のベンチマークではないCFD・OTCベースの価格と明記しており、統計表に日付列がない
- Al-Monitor|2026年9月10日(サウジアラビアの8月産油量 日量623.8万バレル、9月8日の石油施設攻撃)|当社が直接確認
- 税関|税関長公示レート(2026年8月2日週〜9月13日週)|当社が直接確認。関税定率法にもとづき前々週の実勢平均で決定される
- Shell plc|second quarter 2026 press release(2026年7月30日。潤滑油の販売量 95→75千バレル/日、7〜9月期の見通しにカタールを含めない)|当社が直接確認
- The Motley Fool|Shell 2026年4〜6月期 決算説明会の書き起こし(2026年7月30日。Pearl GTL 第2系列の修復見通し)|二次ソース
- 内閣官房|中東情勢に伴う重要物資の安定的な供給確保のためのタスクフォース(第4回)(2026年8月26日。資料1 経済産業省:直販スキーム44件解決・8月24日時点/資料3 国土交通省:エンジンオイルの供給要請・8月20日時点)|当社が直接確認
- 日本銀行|企業物価指数(2026年8月速報)(前月比で下落した主な品目に潤滑油)|当社が直接確認
- 世界銀行|Commodity Price Data (The Pink Sheet) 2026年9月号(8月の月平均 ブレント90.9ドル)|当社が直接確認
- シンワルブテック|石油元売メーカ各社動向(2026年9月15日更新。元売り各社の8月・9月の価格と出荷の動き)|二次ソース(販売会社のまとめ)
- JobbersWorld|Group IIIの調達難(2026年9月14日、有料記事の公開部分)|二次ソース
CHAPTER 10よくある質問(9問)
実務の方・一般の方からよくいただく質問を9問にまとめました。
2026年のエンジンオイル・潤滑油ショックの全体像を教えてください
2026年2月28日のホルムズ海峡封鎖のあと、エンジンオイル・潤滑油の市場は「Pearl GTL損傷」「Group III世界的断絶」「DH-2の大幅な不足」という3つの困りごとに同時に向き合うことになりました。Pearl GTL(生産能力140,000バレル/日)は損傷し、Shell/QatarEnergy CEO Saad al-Kaabi氏が約1年での修復完了見通しを公式に示しました。CNBC報道ではGroup IIIベースオイルの欧州価格が約100%上がり、Gas-Price-Check分析では米国のGroup III生産能力の約44%が失われ、日本ではDH-2大型トラック油が大きく不足しました。政府は6月5日に3.1兆円の補正予算を成立させ、6月10日から潤滑油直販スキームを動かしました(207組織・企業が参加)。7月12日のホルムズ海峡再閉鎖のあと、9月10日にはブレント原油が109.09ドル/バレルに上がりました。一方、8月24日時点で直販スキームにより44件が解決し、潤滑油の新規の相談はほぼなくなっています(経済産業省)。8月〜9月の動きは第3章にまとめています。
Pearl GTLの損傷と修復見通しはどうなっていますか
Pearl GTL(パールGTL)はカタール・ラスラファンにあるShellとQatarEnergyの合弁施設で、天然ガスから高品質の液体燃料・ベースオイル・パラフィンなどをつくる世界最大級のGTL(天然ガスを液体に変える技術)プラントです。生産能力は140,000バレル/日で、GTL由来のプレミアム合成油ベースオイルの世界供給の中心を担ってきました。2026年春のイラン軍ミサイル攻撃で施設が損傷し、当初はS&P Globalなどが3〜5年の修復期間を試算していましたが、Shell/QatarEnergy CEOのSaad al-Kaabi氏が約1年での修復完了見通しを公式に示し、修復期間は大きく短くなりました。7月30日のShellの決算説明会では、Wael Sawan CEOが、損傷した第2系列の修復は輸出ができることを条件に2027年3月末までに終わる見込みだと説明しました(書き起こしによる)。その間はGTL系の高品質油の供給が限られるため、Group IIIやGroup IV(PAO)への代わりの需要が増え、価格を押し上げています。
Group IIIベースオイルの供給断絶とは何ですか
Group IIIベースオイルは、API分類で粘度指数が高く、水素化分解という製法でつくる高品質の原料油で、省燃費エンジン油(0W-20など)の100%化学合成油に使う中心的な原料です。2026年5月のCNBC報道で欧州価格が約100%上がり、Gas-Price-Check分析で米国の生産能力の約44%が失われたことが伝えられました。背景には、ホルムズ海峡経由の原油輸送がひっ迫して製油所が燃料の生産を優先し、副産物のベースオイルの取り出しが減ったこと、Group IIIの世界的な輸出国である韓国が国内供給を守るため石油製品の義務的な輸出キャップ(上限)を入れたこと、UAEフジャイラなどの生産者がForce Majeure(不可抗力による供給停止)を宣言したことがあります。業界団体は90日間の緊急暫定措置としてGroup IIへの代替使用を条件付きで認め、Chevron Pascagoula NEXBASE 4 XP・ExxonMobil Baytown増強・HD Hyundai Shell Base Oil 2027年稼働などで、中期的な供給の回復が計画されています。
DH-2大型トラック油の大幅な不足とは何ですか
DH-2は日本自動車工業会(JAMA)が定めた大型ディーゼル車向けエンジン油の日本独自の規格で、DPF(ディーゼル微粒子捕集フィルタ)に対応した低灰分オイルとして、大型トラック・バスの標準になっています。Group Iベースオイルを主体に配合しますが、Group Iは粘度指数が低く用途が限られ、Group II・Group III・ATFなどでは代わりになりません。2026年春のホルムズ封鎖のあと、原料のベースオイルと添加剤が同時にひっ迫してDH-2は大きく不足し、ENEOSなど元売り各社が出荷制限を続けました。韓国からの一部輸入で細く補われていますが、国内規格という性質上、根本的に置き換えるのは難しい状況です。DH-2の出荷制限が9月までに緩和されたかどうかは、当社では一次資料で確認できていません。
政府の対応と潤滑油直販スキームとは何ですか
政府は2026年3月24日の第1回中東情勢関係閣僚会議から、閣議レベルの対応を続けてきました。5月25日に高市総理が3兆円規模の補正予算編成を表明し、6月3日に3.1兆円の補正予算を閣議決定、6月5日に成立させました。補正予算には2.5兆円の「中東情勢等対応予備費」が含まれます。実務面では6月10日から潤滑油直販スキームが動き、経産省・国交省・資源エネルギー庁がとりまとめる形で207の組織・企業が参加しています。エンジンオイル・アドブルー・ブレーキフルードなどの車両消耗品を、ふだんの流通の目詰まりを避けて必要な事業者へ確実に届けるための緊急の仕組みで、既存の商社経路と並行して運用されています。経済産業省によると、8月24日時点で直販スキームにより44件が解決し、潤滑油の新規の相談はほぼなくなりました。金子国交相は5月12日の第7回閣僚会議で「前年同月同量」要請を表明し、買い占めのような発注を抑えて流通の途中の目詰まりをほぐすことを進めました。
事業者として2026年下期にできる対応は?
①既存の取引先との関係を最優先し、割当通知には24〜48時間以内に確定発注する、②DH-2・Group I系の油のひっ迫を考えて1〜2ヶ月分の安全在庫を検討する、③国内元売り品と商社経由の第2の仕入れ先を並行して確保する、④国際情勢の変化に応じた価格スライド条項を顧客との契約に入れる、⑤6月10日に始まった潤滑油直販スキーム(207組織参加)の利用を検討する、⑥国交省の「前年同月同量」要請を踏まえて買い占めのような発注を控え、業界全体の目詰まりをほぐすことに協力する、の6点が実務の優先事項です。9月にはブレント原油が再び100ドルを超えており(第3章)、引き続き動きを見ておく必要があります。
2026年9月に原油が再び100ドルを超えました。エンジンオイルはさらに上がりますか
上流の数値は再び上がっています。ブレント原油は2026年9月10日に109.09ドル/バレルとなり、本記事第8章の見ておきたい指標01が定めた「100ドル超で緊急対応検討」の水準に達しました。7月2日の戦争前水準71.5〜72ドルからは当社計算で約51%の上昇です。7月の局面と違うのは、サウジアラビアの8月産油量が日量623.8万バレル(前月比190万バレル減・1990年以来36年ぶりの低水準)と報じられ、産油量そのものが落ちているという実績が背景にある点です。ベースオイルは原油の減圧蒸留残渣を原料とするため、精製量の減少は副産物の取り出し量に直接効きます。一方で7月31日の日米協調介入のあとは円高に振れており、日本銀行の2026年8月の企業物価指数では輸入物価の前月比が円ベース−3.0%、契約通貨ベース−1.0%で、差の2.0ポイントが円高による押し下げ分です(当社計算)。Group III以上とGTL系をほぼ全量輸入に頼る日本の市場では、原料高と円高が逆の方向に働きます。ただしDH-2は日本規格で代わりがきかないという制約が残るため、この点はどちらの動きにも左右されません。国内の元売り各社の10月以降の価格改定の公式発表は、当社では確認できていません。詳しくは第3章に整理しています。
2026年9月時点で、エンジンオイルは手に入りやすくなりましたか
国の窓口に寄せられる相談は落ち着いてきています。経済産業省によると、6月10日に直販スキームを始めたあと一時的に相談が増えましたが、足元の潤滑油の新規の相談はほぼなく、8月24日時点で44件が解決しました(8月26日の政府タスクフォース資料)。国土交通省の窓口では、8月14日〜20日の1週間に自動車整備・バス・トラック・タクシー事業から寄せられたエンジンオイルの供給要請は1件でした。工業用潤滑油の販売会社の9月15日のまとめでは、コスモ石油が8月から出荷停止品の注文制限を解除し、シェルルブリカンツは8月に割当数量を小幅に増やしたとされます。一方で、同じまとめではENEOSと出光興産が9月に小幅な値上げ、Group IIIは大幅な値上げとされ、値段が落ち着いたとまでは言えません。DH-2の出荷制限の最新状況は、一次資料では確認できていません。
なぜプラスチックパレット株式会社がこの記事を書いているのですか
当社(プラスチックパレット株式会社、千葉県我孫子市)は物流資材の専門商社として、プラスチックパレット・折コン・PPバンド・ストレッチフィルム・再生プラスチック原料などを全国に卸値で販売しています。物流資材の取扱いを通じて運送会社・整備会社・製造業の方と日々やりとりしており、エンジンオイル・潤滑油の供給問題が現場にどう響いているかを身近に知る立場にあります。特に大型トラックの運行に関わるDH-2の問題、車検・整備の現場の実態、家計へのオイル交換費用の広がりについて、物流の当事者の視点から情報を集めています。この記事は、2026年のエンジンオイル・潤滑油の動きの全体像を整理し、事業者・実務者の方の判断に役立てていただくことを目的としています。
CHAPTER 11この記事について
本記事は【イラン情勢2026完全まとめ】のエンジンオイル・潤滑油編で、エンジンオイル・潤滑油という1本の流れに絞って掘り下げたものです。第1章と第4章〜第8章は主に2026年7月19日時点の内容で、第3章は2026年9月13日時点の内容に、9月29日に当社が確認した資料を加えたものです。市況・政策・企業の動きはその後も変わるため、実務の判断に使うときは最新の情報をご確認ください。
当社は物流資材の専門商社で、エンジンオイル・潤滑油の販売の窓口ではありませんが、運送会社・整備会社・製造業の方とのやりとりを通じて、大型トラックの運行に直結するDH-2の問題や物流現場への影響について情報を集めています。本記事は業界の動きを整理したもので、特定の投資・調達・政策の判断をすすめるものではありません。各記事の紹介文は概要ですので、詳しい内容は各記事の本文をご覧ください。
文:プラスチックパレット株式会社 編集部
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