DH-2大型トラック油2026|日本規格・代替不可・韓国輸入で細く補完される供給構造
日本自動車工業会(JAMA)が2004年に制定した大型ディーゼル車向けエンジン油の日本独自規格「DH-2」について、規格の技術的定義・国際規格(ACEA E-9・API CJ-4/CK-4)との違い・Group Iベースオイル依存構造・DPF対応低灰分要件・元売り3社(ENEOS・出光・コスモ)の出荷制限・韓国輸入補完の実態・潤滑油直販スキーム207組織参加・大型トラック運送事業者の実務対応10項目まで、当事者視点で体系整理した専門ガイド。2026年ホルムズ封鎖以降のDH-2供給乱れの経緯と、代替不可の日本独自規格が抱える構造的課題を、大型トラック・バス業界の実務者に向けて一次資料で網羅する。
Group I依存率
(代替不可・
規格の性質上)
ENEOS・出光・コスモ
DH-2の主要
国内供給元
潤滑油直販スキーム
参加数
(6月10日稼働)
「出荷抑制の是正」
要請発出
(4月13日)
- DH-2は日本独自規格で代替不可:JAMAが2004年制定した大型ディーゼル用エンジン油規格。硫酸灰分1.0%以下・リン0.12%以下・硫黄0.5%以下の低SAPS性能を満たす低灰分オイルで、DPF対応の要求からGroup Iベースオイル主体の配合が必須。ACEA E-9・API CJ-4/CK-4等の国際規格と技術要求は近いが、日本の排出ガス規制と大型トラック実運用環境に最適化された配合のため他系統での代替は規格の性質上不可。
- 2026年ホルムズ封鎖以降の供給乱れ:中東からのGroup I輸入停滞、韓国輸出制限、添加剤ナフサ由来原料の供給乱れ、元売り3社(ENEOS・出光・コスモ)の出荷制限が同時進行。「原料はあるが日本規格品として出荷できない」盲点が顕在化。経産省4月13日180社・70団体宛「出荷抑制是正」要請、金子国交相5月12日「前年同月同量」要請、6月10日潤滑油直販スキーム稼働(207組織参加)で川中の目詰まり解消を政策的に推進。
- 韓国輸入で細く補完・出光ダフニー一部解除:韓国のGroup I生産量は限定的だが、SK Enmove・S-Oil・GS Caltex等からの補完輸入が続いている。出光ダフニーは6月29日に一部受注制限を解除し需給緩和の兆しを示したが、7月12日ホルムズ再閉鎖で第2波リスクが顕在化、DH-2供給乱れは継続の見通し。大型トラック運送事業者は1〜2ヶ月分の安全在庫確保、既存取引先関係維持、潤滑油直販スキーム参加検討が実務上の最優先事項。
DH-2はJAMA制定の日本独自規格、DPF対応・低灰分・Group I主体(代替不可)。2026年ホルムズ封鎖以降、原料・添加剤・出荷制限の複合で供給乱れ。元売り3社(ENEOS・出光・コスモ)出荷制限、出光6/29一部解除、韓国輸入で細く補完、経産省180社70団体要請、直販スキーム207組織参加で対応。
このガイドで分かること
- 日本自動車工業会(JAMA)制定のDH-2規格の技術的定義(硫酸灰分1.0%以下・リン0.12%以下・硫黄0.5%以下等の低SAPS性能要件)
- ACEA E-9(欧州)・API CJ-4/CK-4(米国)等の国際規格との比較と、DH-2が日本独自規格として維持される技術的・制度的背景
- DH-2のGroup Iベースオイル依存構造と、Group II・III・IV・ATF等での代替不可能の3つの技術的理由(粘度特性・添加剤溶解性・極圧潤滑性能)
- 大型トラック・バス業界におけるDH-2の位置付けと、DPF(ディーゼル微粒子捕集フィルタ)対応の実運用背景
- 2026年ホルムズ封鎖以降のDH-2供給乱れの時系列と、原料・添加剤・元売り出荷制限の複合要因
- 国内元売り3社(ENEOS・出光興産・コスモ石油)の受注状況と、出光ダフニー6月29日の一部受注制限解除の意義
- 韓国からのGroup I補完輸入の実態と規模、SK Enmove・S-Oil・GS Caltex等の韓国主要生産者との関係
- 政府対応(経産省4月13日180社・70団体要請、金子国交相5月12日「前年同月同量」要請、6月10日潤滑油直販スキーム207組織稼働)とDH-2への政策ターゲット
- 大型トラック運送事業者の実務対応10項目(安全在庫・第2サプライヤー・価格スライド条項・買い占め抑制・節油運転等)
- 中期見通し(Pearl GTL修復・Group III世界的断絶の緩和・EV/水素シフト)とDH-2需要の長期構造転換
なぜ「DH-2大型トラック油」が今問題なのか
物流業界の現場で「エンジンオイルが手に入らない」という声が2026年春から広がった。乗用車用や工業用と異なり、大型トラックのエンジンオイル(DH-2)は日本独自規格で、他系統の油では代替できない。この規格の性質を理解しないまま「オイルが不足している」と単純に受け止めると、事態の構造を見誤る。DH-2の供給乱れは、単なる「品目が足りない」という現象ではなく、「原料はあるが日本規格品として出荷できない」という盲点が顕在化した現象である。
DH-2は日本自動車工業会(JAMA)が2004年に制定した規格で、DPF(ディーゼル微粒子捕集フィルタ)対応の低灰分オイルとして、大型トラック・バスの標準規格になっている。硫酸灰分1.0%以下・リン0.12%以下・硫黄0.5%以下の低SAPS性能を実現するために、Group Iベースオイル主体の配合が要求される。Group Iは溶剤精製法で製造される最も伝統的なベースオイルで、Group II以降の水素化分解品とは異なる粘度特性・添加剤溶解性・極圧潤滑性能を持つ。DH-2規格を実現するにはこのGroup Iの特性が必須で、Group II・Group III・Group IV・ATF等での代替は規格の性質上不可能である。
2026年ホルムズ封鎖以降、以下の複合要因でDH-2の供給乱れが発生した。中東からのGroup I輸入停滞、韓国からのGroup I輸出制限、DH-2用清浄剤・分散剤のナフサ由来原料の供給乱れ、元売り3社(ENEOS・出光興産・コスモ石油)の出荷制限継続、Group I自体の他用途(船舶用シリンダー油・工業用ギヤ油等)への配分競合が同時進行し、「原料はあるが日本規格品として出荷できない」盲点が生じた。政府は4月13日付で経産省が180社・70団体宛「出荷抑制の是正」要請を発出、5月12日の第7回中東情勢閣僚会議で金子国交相が「前年同月同量」要請を表明、6月10日から潤滑油直販スキームを稼働(207組織参加)し、川中の目詰まり解消を政策的に進めた。
本ガイドは、大型トラック運送事業者・整備業者・調達担当・政府関係者に向けて、DH-2規格の技術的定義から2026年の供給乱れの経緯・政策対応・実務対応10項目・中期見通しまでを、当事者視点で体系整理した。個別のベースオイル分類の詳細はベースオイル完全ガイド2026、エンジンオイル市場全体の俯瞰は【エンジンオイル完全まとめ】を参照されたい。本記事はDH-2という日本独自規格の1点に絞り込んだ深掘りで、大型トラックの継続運行に関わる実務者の意思決定を支援する。
DH-2規格の技術的定義とJAMA制定の背景
DH-2(Diesel Heavy-duty type 2)は、日本自動車工業会(JAMA)が2004年に制定した大型ディーゼル車向けエンジン油の日本独自規格である。この章では、規格の技術的定義・要求性能・JAMA制定の背景・JASO試験の位置付けを整理する。
1-1. DH-2規格の要求性能
DH-2規格の主要な要求性能
- 硫酸灰分:1.0%以下(DPF詰まり防止)
- リン:0.12%以下(DPF触媒被毒防止)
- 硫黄:0.5%以下(排気触媒保護)
- 粘度グレード:SAE 10W-30、15W-40等が主流
- API規格併記:API CJ-4以上と同等の性能
- 試験:JASO M355(日本独自試験)による認証取得
DH-2の中核は低SAPS(Sulfated Ash・Phosphorus・Sulfur)性能にある。SAPSはエンジンオイルに含まれる硫酸灰分・リン・硫黄の総称で、これらが低いほどDPFの寿命を延ばし、排気触媒の被毒を防ぐことができる。従来の大型ディーゼル用エンジン油(DH-1等)はSAPSが高く、DPFの詰まりや触媒性能低下の原因となっていた。DH-2はDPF標準搭載の大型ディーゼル車向けに低SAPSを実現する規格として、2004年のポスト新長期規制の準備段階で制定された。
1-2. JAMA制定の背景(2004年の規制環境)
2004年当時、日本の自動車排出ガス規制は新長期規制(2005年施行)とポスト新長期規制(2009年施行)の準備段階にあり、大型ディーゼル車のNOx・PM(粒子状物質)排出量を段階的に削減する方向で進んでいた。特にPM削減にはDPF(ディーゼル微粒子捕集フィルタ)の搭載が必須で、DPFの正常機能を維持するためには灰分の低いエンジンオイルが不可欠だった。従来の高灰分オイルではDPFが早期に詰まり、燃費悪化・整備コスト増・エンジン損傷リスクが生じるため、JAMA(日本自動車工業会)は大型ディーゼル車専用の低SAPSエンジンオイル規格としてDH-2を制定した。
DH-2制定の3つの背景
- DPF標準搭載時代への対応:ポスト新長期規制でDPF搭載が事実上必須化。低灰分オイルの規格化が急務。
- 日本の大型トラック運用環境:連続長距離運行・積荷重量・気候条件(真夏・真冬の温度差)に最適化された配合が必要。
- 国際規格との整合性:ACEA E-9(欧州)・API CJ-4(米国)と技術要求は近いが、日本独自の運用環境と規制枠組みに最適化する必要があった。
1-3. JASO試験と認証プロセス
DH-2規格の認証にはJASO(Japanese Automotive Standards Organization)の試験に合格することが必要である。中核となる試験はJASO M355で、以下の項目を含む。
JASO M355の主要試験項目
- 硫酸灰分測定(1.0%以下の確認)
- リン含有量測定(0.12%以下の確認)
- 硫黄含有量測定(0.5%以下の確認)
- 粘度特性試験(SAE規格との整合性確認)
- 酸化安定性試験(高温連続運転での劣化耐性)
- 清浄性試験(大型ディーゼルエンジンでの清浄性能)
- 耐摩耗性試験(高負荷連続運転での摩耗抑制)
- DPF適合性試験(灰分・リン・硫黄のDPFへの影響評価)
これらの試験に合格した完成油のみがDH-2規格品として販売される。JASO M355の認証は、国内元売り3社(ENEOS・出光興産・コスモ石油)と、独立系メーカー(TAKMO・キャストロール・シェルジャパン等)が取得している。認証の維持には定期的な試験と原料・添加剤・製造プロセスの変更管理が必要で、規格の性質上、原料ベースオイルを他Groupに変更するには全面的な再認証が必要となる。
国際規格との比較(ACEA E-9・API CJ-4/CK-4)
DH-2の技術要求は、欧州のACEA E-9・米国のAPI CJ-4/CK-4等の国際規格と近いが、細部で異なる。この章では、規格の性能比較と、なぜDH-2が日本独自規格として維持されるのかを整理する。
2-1. 主要国際規格の概要
ACEA E-9(欧州・European Automobile Manufacturers Association)
欧州自動車工業会が定めた大型ディーゼル用エンジン油の低SAPS規格。硫酸灰分1.0%以下・リン0.12%以下・硫黄0.4%以下等の要求で、DH-2と近い性能を持つ。ただし欧州の大型トラック運用環境(アウトバーンの高速連続運行・冬季寒冷地対応)に最適化されており、日本の大型トラック用途とは配合方針が異なる。
API CJ-4(米国・American Petroleum Institute)
米国石油協会が定めた大型ディーゼル用エンジン油の低SAPS規格(2007年制定)。硫酸灰分1.0%以下・リン0.12%以下・硫黄0.4%以下等の要求で、DH-2の「API CJ-4以上と同等の性能」要求と対応する。米国の大型トラック運用(長距離間州輸送・気候条件の多様性)に最適化された配合方針。
API CK-4(米国・2016年制定)
CJ-4の上位規格で、より厳しい酸化安定性・清浄性・耐摩耗性の要求。日本のDH-2規格でもCK-4相当の性能を要求する処方が増えつつあるが、DH-2の基本要求はCJ-4以上との整合性で規定されている。
2-2. DH-2と国際規格の性能比較表
| 項目 | DH-2(日本) | ACEA E-9(欧州) | API CJ-4(米国) | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 硫酸灰分 | 1.0%以下 | 1.0%以下 | 1.0%以下 | 3規格とも同水準 |
| リン | 0.12%以下 | 0.12%以下 | 0.12%以下 | 3規格とも同水準 |
| 硫黄 | 0.5%以下 | 0.4%以下 | 0.4%以下 | DH-2は0.5%まで許容 |
| SAE粘度 | 10W-30/15W-40 | 10W-40/15W-40 | 15W-40主流 | DH-2は低粘度対応も可 |
| 認証試験 | JASO M355 | ACEA試験 | API試験 | 各規格独自 |
| 対応DPF | 日本規制対応 | 欧州Euro VI | 米国EPA 2010+ | 各国の排ガス規制に対応 |
| 主原料 | Group I主体 | Group I〜II | Group II中心 | DH-2はGroup I依存が最も強い |
2-3. なぜDH-2は日本独自規格として維持されるのか
技術的要求は国際規格と近いにも関わらず、DH-2が日本独自規格として維持される理由は制度的・実務的な3つの背景にある。
日本独自規格維持の3つの理由
- 排出ガス規制の独自性:日本の新長期規制・ポスト新長期規制は、欧州Euro VI・米国EPA 2010+と技術要求は近いが、認証試験の方法や評価項目が独自。DH-2はこれらの試験に合格する完成油として設計される。
- 大型トラック運用環境の特性:日本の大型トラックは、都市部の停発進運転と高速道路の連続運行が混在する特有の運用環境にある。欧州のアウトバーン中心運用や米国のインターステート連続運行とは異なるため、配合方針が独自化される。
- 整備・流通ネットワークの独自性:日本の大型トラック整備業者と潤滑油商社は、DH-2認証品を中心とする独自の流通ネットワークを形成している。ACEA E-9やAPI CJ-4の完成油をそのまま置き換えるには、整備現場の運用変更が必要となる。
2-4. 国際規格品でDH-2代替できない実務理由
「ACEA E-9やAPI CJ-4認証品もDPF対応低灰分オイルなのだから、DH-2の代わりに使えばよい」という素朴な疑問がある。しかし実務上は以下の理由で代替は困難である。
国際規格品の代替が困難な実務理由
- 整備マニュアルの記載:大型トラックメーカーの整備マニュアルは「DH-2規格認証品を使用すること」と明記されており、国際規格品の使用は保証範囲外
- 車検・整備業者の対応:車検時の油脂類チェック、整備業者の在庫管理はDH-2規格品を前提
- 元売り・商社の商流:DH-2規格品と国際規格品は別ラインで流通し、価格・数量・納期の管理が異なる
- ユーザー側の慣行:長年DH-2を使い続けてきた運送事業者は、国際規格品への切り替えに慎重
- 保証・責任問題:DH-2以外の油脂使用で車両トラブルが発生した場合、メーカー保証・整備業者責任・運送事業者管理の責任範囲が不明確化
Group I依存構造と代替不可の技術的理由
DH-2規格の性能を実現するためには、Group Iベースオイル主体の配合が必須である。この章では、Group I依存の3つの技術的理由と、Group II・III・IV・ATF等での代替が不可能な背景を、粘度特性・添加剤溶解性・極圧潤滑性能の観点から詳述する。
3-1. Group Iベースオイルの技術特性の再確認
Group IはAPI分類で溶剤精製法により製造されるベースオイルで、粘度指数80-119、不飽和炭化水素10%超、硫黄分0.03%超という特性を持つ。芳香族分を一定量含むため、添加剤の溶解性・極圧潤滑性能に優れる。この特性がDH-2規格の実現に不可欠となる。
3-2. Group I必須の3つの技術的理由
理由1:粘度特性の適合性
DH-2の主流粘度グレードSAE 10W-30・15W-40の実現には、Group Iの粘度指数80-119の特性が最適である。Group II(粘度指数80-119)でも粘度グレードは同じ範囲に収まるが、DH-2規格全体のバランス(低SAPS・粘度安定性・清浄性・耐摩耗性)を取るためGroup Iが標準採用される。Group III(粘度指数120以上)は粘度指数が高すぎ、粘度指数向上剤の配合を減らす必要があるが、そうすると添加剤全体のバランスが崩れ、清浄性・耐摩耗性が劣化する。
理由2:添加剤溶解性の確保
DH-2の低SAPS性能を実現するために配合される清浄剤・分散剤・耐摩耗剤・酸化防止剤・粘度指数向上剤等の添加剤パッケージは、Group Iの芳香族分に溶解しやすく設計されている。Group IIは水素化分解製法で不飽和炭化水素と芳香族分を大幅に低減しているため、添加剤の溶解性が低下する。Group III・IVはさらに芳香族分がほぼゼロで、添加剤との相溶性が確保できない。このため、Group II以上での代替には、添加剤処方の全面的な再設計(芳香族分不要の添加剤への切り替え)が必要となり、既存のDH-2認証プロセスをやり直す必要がある。
理由3:極圧潤滑性能の確保
大型ディーゼルエンジンの高負荷連続運転(大型トラックの長距離運行・積荷重量下でのシリンダー・ピストンリング接触部・カム&タペット・大端メタル軸受等の潤滑)では、Group Iの極圧潤滑性能が要求される。Group II・IIIは酸化安定性・粘度指数に優れるが、極圧潤滑性能ではGroup Iに劣る。これは芳香族分と不飽和炭化水素の含有量が極圧添加剤との相互作用に影響するためである。大型ディーゼルエンジンの信頼性を維持するためには、Group Iの極圧潤滑性能が実務上不可欠となる。
3-3. Group II・III・IV・ATF・鉱物油との代替可否
| 代替候補 | 代替可否 | 技術的問題 | 実務判断 |
|---|---|---|---|
| Group II | 不可 | 添加剤溶解性不足 | DH-2規格の性能を維持できない |
| Group III | 不可 | 粘度指数過大・添加剤不適合 | Group III自体が世界的断絶下 |
| Group IV(PAO) | 不可 | 芳香族分ゼロ・添加剤不適合 | コスト・供給の両面で非現実的 |
| ATF | 不可 | 用途特化型・エンジン用ではない | そもそも用途が異なる |
| 鉱物油(規格外) | 不可 | 低SAPS性能を満たさない | DPF早期詰まり・エンジン損傷リスク |
3-4. 添加剤パッケージのGroup I前提設計
DH-2用の添加剤パッケージは、国内の添加剤メーカー(Lubrizol日本・Infineum日本・Chevron Oronite日本・Afton Chemical日本等)とグローバル添加剤メーカーが、Group Iベースオイルとの組み合わせを前提に設計してきた歴史的な経緯がある。清浄剤(カルシウム系・マグネシウム系)、分散剤(アルケニルコハク酸イミド系)、耐摩耗剤(ZDDP:ジチオリン酸亜鉛)、酸化防止剤(フェノール系・アミン系)、粘度指数向上剤(オレフィン共重合体系)等の各添加剤は、Group Iの芳香族分・不飽和炭化水素との相性を前提に溶解性・分散性・活性化条件が最適化されている。Group II以上に変更するには、これらの添加剤処方の全面的な見直しが必要となり、実務上は「DH-2規格を維持したままGroup Iから他Groupへ移行する」ことは選択肢にならない。
大型トラック・バス業界におけるDH-2の位置付け
DH-2は、日本の大型トラック・バス業界で標準採用される日本独自規格である。この章では、対象車種・使用シーン・オイル交換サイクル・整備現場での運用実態を整理し、DH-2の業界内での位置付けを明確化する。
4-1. DH-2対象車種の範囲
DH-2主要対象車種
- 大型トラック:総重量11トン超のディーゼルトラック(いすゞ・日野・三菱ふそう・UDトラックス等)
- 中型トラック:総重量7.5〜11トンの中型ディーゼル車(DH-2または軽負荷用DL-1が使い分けられる)
- 大型バス:路線バス・高速バス・観光バスのディーゼル車
- 小型・中型バス:DPF搭載の中小型ディーゼルバス
- 特殊車両:ダンプ・ミキサー車・タンクローリー・冷凍車等の大型特殊用途
- 大型建設機械の一部:DPF搭載の大型ホイールローダー・ブルドーザー・大型油圧ショベル等
日本の大型ディーゼル車(総重量11トン超)の保有台数は、自動車検査登録情報協会(自検協)が四半期ごとに公表する「自動車保有車両数統計」の2025年12月末時点データで約100万台規模、中型ディーゼル車(総重量7.5〜11トン)を含めると約200万台規模に達する(自検協「自動車保有車両数月報」・国土交通省「自動車輸送統計」)。これらの車両が3〜6ヶ月に1回のオイル交換サイクルでDH-2規格品を使用するため、日本国内のDH-2需要は年間数十万kL規模と推計される。
4-2. オイル交換サイクルと使用量
DH-2の使用シーンとサイクル
- 大型トラック(長距離運送):走行距離30,000〜50,000kmまたは3〜6ヶ月ごと。1回の交換量は30〜50L。
- 中型トラック(配送業):走行距離20,000〜30,000kmまたは3〜4ヶ月ごと。1回の交換量は15〜25L。
- 路線バス:走行距離20,000〜30,000kmまたは2〜3ヶ月ごと(都市部の停発進運転が多いため)。1回の交換量は20〜30L。
- 大型建設機械:稼働時間250〜500時間または3ヶ月ごと。1回の交換量は20〜40L。
- 特殊車両:用途・稼働条件により大幅に異なるが、大型ミキサー車で3〜4ヶ月ごと、1回30〜50L。
4-3. 整備業者・元売り・商社の商流
DH-2の流通は、以下の3層構造で成立している。国内元売り3社(ENEOS・出光興産・コスモ石油)が製造し、潤滑油商社・代理店を経由して、大型トラック整備業者・運送事業者の自社整備場に届く。整備業者の8割超がシンナー入手支障、エンジンオイルも半数超が調達難という2026年5月26日のトラックニュース調査は、この商流の目詰まりを直接示している。
DH-2流通の3層構造
- 製造層(元売り3社):ENEOS・出光興産・コスモ石油が国内の製油所でDH-2認証品を製造。原料Group Iベースオイル(国内製・輸入)に添加剤パッケージを配合、JASO M355認証取得。
- 流通層(潤滑油商社・代理店):全国の潤滑油商社・代理店がDH-2規格品を購入し、地域別・用途別に販売網を展開。TAKMO・キャストロール等の独立系ブランドも並行流通。
- 末端層(整備業者・運送事業者):大型トラック整備業者・大手運送事業者の自社整備場が最終ユーザー。ドラム缶(200L)・ペール缶(20L)・BIB容器(20L・1000L)等の複数容器で納品。
4-4. 大型トラック運送事業者にとってのDH-2の意義
大型トラック運送事業者にとって、DH-2は継続運行の生命線である。DH-2が入手できないと、以下の実務上の問題が生じる。
DH-2入手困難時の実務問題
- 車検・整備の対応不可:車検時のオイル交換ができない、整備マニュアルの油脂類要求を満たせない
- 継続運行の中断リスク:交換サイクルを超えて使用すると、エンジン損傷・DPF詰まり・排ガス規制違反のリスク
- 燃費悪化・故障頻度増:規格外オイル使用や過剰使用でエンジン性能低下
- 保証範囲外リスク:メーカー保証・整備業者責任・運送事業者管理の責任範囲が不明確化
- 荷主対応の遅延:車両稼働率低下で配送遅延、荷主取引に影響
2026年DH-2供給乱れの時系列
2026年2月28日のホルムズ海峡封鎖から7月12日の再閉鎖まで、DH-2の供給乱れがどのような経緯で発生・拡大・部分緩和したかを、政府・元売り・現場・国際・情勢の5カテゴリで時系列整理する。
| 日付 | カテゴリ | 主要イベント |
|---|---|---|
| 2026-02-28 | 情勢 | ホルムズ海峡封鎖・イラン情勢急変で中東からのGroup I輸入停滞開始 |
| 2026-03-16 | 現場 | 資源エネ庁 軽油価格178円/L(1週間で28円急騰)、大型トラック運送コスト上昇局面入り |
| 2026-03-24 | 政府 | 第1回 中東情勢に関する関係閣僚会議 開催、潤滑油含む重要物資の安定確保が議題に |
| 2026-04-02 | 政府 | 「重要物資の安定的な供給確保のためのタスクフォース」設置、DH-2含む物資が対象に |
| 2026-04-13 | 政府 | 経産省 180社・70団体宛「出荷抑制の是正」要請発出、DH-2の川中目詰まり解消がターゲット |
| 2026-04-26 | 現場 | TAKMO 4要因公式声明(ベースオイル・添加剤・物流サーチャージ・為替)、DH-2製造原価上昇を明示 |
| 2026-05-01 | 現場 | キャストロール公式値上げ、大型ディーゼル用潤滑油の価格改定広がる |
| 2026-05-05 | 国際 | UAEフジャイラ生産者Force Majeure宣言、中東からのGroup I輸入がさらに困難化 |
| 2026-05-08 | 国際 | MANNOL声明「ベースオイル価格最大50%上昇、欧州合成潤滑油在庫5月末〜6月初頭に枯渇可能性」 |
| 2026-05-12 | 政府 | 第7回 中東情勢関係閣僚会議、金子国交相「前年同月同量」要請表明、DH-2の買い占め型発注抑制 |
| 2026-05-15 | 国際 | ミカド商事ブログ「2026年3Q(7-9月)のベースオイル価格はさらに上昇予想、添加剤・容器も値上がり」 |
| 2026-05-22 | 国際 | CNBC・Twining業界アナリスト報道、Group III欧州約100%上昇、韓国輸出キャップ導入がDH-2にも波及 |
| 2026-05-25 | 政府 | 高市総理 3兆円規模補正予算編成と中東情勢等対応予備費の創設を表明 |
| 2026-05-26 | 現場 | トラックニュース調査「整備業者の8割超がシンナー入手支障、エンジンオイルも半数超が調達難」/スズキ・ダイハツ販売会社で油脂類交換を予約制に移行 |
| 2026-06-02 | 政府 | 第9回 中東情勢関係閣僚会議、Brent原油6/4時点97ドル/バレル、DH-2の政府対応が議題継続 |
| 2026-06-03 | 政府 | 3.1兆円補正予算閣議決定(中東対応予備費2.5兆円含む)、DH-2含む潤滑油対策の財源確保 |
| 2026-06-05 | 政府 | 3.1兆円補正予算 国会成立、7〜9月の電気・ガス料金5,000円支援決定、DH-2への政策対応具体化 |
| 2026-06-10 | 政府 | 潤滑油直販スキーム稼働開始、経産省・国交省・資源エネ庁とりまとめで207組織参加、DH-2含む重要用途がターゲット |
| 2026-06-11 | 政府 | METI 日本の原油調達 7月に前年平月比10割回復のめど、DH-2原料供給の緩和期待 |
| 2026-06-17 | 情勢 | ベルサイユ宮殿にて米・イラン戦闘終結覚書署名(フランス仲介)、中東情勢の一時的緩和 |
| 2026-06-19 | 情勢 | スイスにて米・イラン戦闘終結覚書 正式署名式、Group I輸入見通しの回復期待 |
| 2026-06-27 | 情勢 | イラン停戦違反疑い・バーレーン向けドローン攻撃、覚書後の緊張継続 |
| 2026-06-29 | 元売り | 出光ダフニー 一部受注制限解除発表、DH-2需給緩和の兆し/Luberef Jeddah 継続操業確認 |
| 2026-07-01 | 情勢 | ドーハ米・イラン間接協議 継続合意、緊張下での対話継続 |
| 2026-07-02 | 国際 | Brent原油 71.5〜72ドル/バレルの戦争前水準に到達(TradingEconomics)、DH-2原料相場の落ち着き |
| 2026-07-05 | 国際 | Shell/QatarEnergy CEO Saad al-Kaabi氏 Pearl GTL約1年での修復完了見通しを公式表明、市場心理安定 |
| 2026-07-11 | 政府 | METI 日本の原油調達 7月の前年平月比10割回復めど(6月11日表明を追認)、DH-2供給乱れの部分緩和 |
| 2026-07-12 | 情勢 | IRGCによるホルムズ海峡再閉鎖宣言、覚書崩壊で第2波リスク顕在化、DH-2供給乱れ継続の見通し |
元売り3社の出荷制限と受注状況
国内潤滑油元売り3社(ENEOS・出光興産・コスモ石油)は、DH-2の主要国内供給元として、2026年春以降出荷制限を継続している。この章では、各社の生産能力・製造拠点・受注状況・出荷制限の実態を整理する。
6-1. ENEOS(国内シェア約4割の最大手)
ENEOSの潤滑油事業(DH-2関連)
- 親会社:ENEOSホールディングス(旧JXTGエネルギー)
- 製造拠点:川崎製油所・根岸製油所・水島製油所でGroup I〜Group II系ベースオイル製造
- 国内シェア:約4割(潤滑油全体)
- 主要ブランド:ENEOSブランド、エネオス サスティナ、エネオス プレミアム、業務用「エネオスバルビラン」等
- DH-2認証品:SAE 10W-30・15W-40の複数グレードでJASO M355認証取得
- 2026年状況:DH-2の出荷制限を継続、既存契約先向け安定供給を優先、新規大型契約の受注抑制
- 潤滑油直販スキーム:参加社の中核として位置付けられ、DH-2を含む重要用途の供給ネットワークに組み込まれる
ENEOSは国内潤滑油市場の最大手として、大型トラック運送事業者・大手商社・全国の潤滑油代理店との長期契約を通じてDH-2を安定供給してきた。2026年ホルムズ封鎖以降、原料Group Iの調達コスト上昇と添加剤供給乱れの影響を受け、既存契約先向けの配分を優先する運用に切り替えた。新規大型契約の受注抑制は継続しているが、既存契約先向けの供給は概ね維持されている状況。
6-2. 出光興産(工業用シェアトップクラス・ダフニーブランド)
出光興産の潤滑油事業(DH-2関連)
- 製造拠点:千葉事業所・愛知製油所でGroup I〜Group II系ベースオイル製造
- 工業用潤滑油の国内シェア:トップクラス(産業用・大型ディーゼル用に強み)
- 主要ブランド:ダフニー(乗用車〜産業用の幅広い潤滑油)、apolloil
- DH-2認証品:SAE 10W-30・15W-40の複数グレードで認証取得
- 2026年6月29日:一部受注制限を解除、需給緩和の兆しを示した最初の元売り
- 7月以降:ホルムズ再閉鎖の影響再燃で運用は再評価段階
出光興産は工業用潤滑油の国内シェアがトップクラスで、大型トラック運送業界にも独自のダフニーブランドで長年供給してきた。2026年6月29日の一部受注制限解除は、需給緩和の兆しとして業界に受け止められた最初の兆候だが、7月12日ホルムズ再閉鎖で第2波リスクが顕在化し、7月以降の運用は再評価段階にある。
6-3. コスモ石油
コスモ石油の潤滑油事業(DH-2関連)
- 製造拠点:四日市製油所・堺製油所でGroup I〜Group II系ベースオイル製造
- 主要ブランド:コスモ ザ ビーイング・コスモ アルティマ等
- DH-2認証品:SAE 15W-40中心にJASO M355認証取得
- 2026年状況:他の元売り2社と同様に出荷制限と契約先優先の運用を継続
- 潤滑油直販スキーム:参加社の一員として、DH-2を含む重要用途の供給ネットワークに組み込まれる
コスモ石油は元売り3社の中では潤滑油シェアが比較的小さいが、四日市・堺の2製油所で安定的な国内製造能力を維持している。DH-2の出荷制限は他の2社と同様の運用で、既存契約先向けの供給を優先している。
6-4. 独立系メーカーとDH-2
DH-2を扱う独立系メーカー
- TAKMO(旧TAKUMIモーターオイル):高性能潤滑油の独立系ブランド、DH-2認証品を展開。4月26日の4要因公式声明で業界に先駆けて価格改定の背景を公表
- キャストロール(Castrol・BP傘下):世界的な潤滑油ブランド、日本市場でもDH-2認証品を販売。5月1日公式値上げ
- シェルジャパン:Shell「Rimula」ブランドでDH-2認証品を展開
- ExxonMobil日本(旧モービル):「Mobil Delvac」ブランドでDH-2認証品を展開
- BP日本:「BP Vanellus」ブランドでDH-2認証品を展開
6-5. 元売り3社と独立系の役割分担
DH-2の国内供給は、元売り3社が製造・大口供給の中核を担い、独立系メーカーが特定用途・地域・ブランド愛用者向けの補完を担う構造になっている。2026年の供給乱れの中では、両方が並行して出荷制限・価格改定を進めているが、大型トラック運送事業者にとっては元売り3社との関係維持が最も重要で、独立系ブランドは第2サプライヤーとしての補完機能を果たす。潤滑油直販スキーム207組織の参加も、元売り3社が中核で独立系が補完という構造で運用されている。
韓国からの補完輸入の実態と規模
日本のDH-2供給乱れに対して、韓国からのGroup Iベースオイル補完輸入が細く続いている。この章では、韓国主要生産者との関係・輸入の規模・韓国政府輸出キャップの影響・実務上の限界を整理する。
7-1. 韓国主要ベースオイル生産者とDH-2
韓国の主要ベースオイル生産者はSK Enmove(旧SK Lubricants)・S-Oil・GS Caltex・HD Hyundai Shell Base Oilの4大生産者である。ただしこれらの生産者はGroup III中心の輸出構造で、Group Iの生産量は限定的である。DH-2の原料となるGroup Iベースオイルの韓国からの補完輸入は、以下の実態がある。
韓国主要生産者のGroup I供給状況
- SK Enmove:世界最大のGroup III生産者。Group Iの生産量は限定的。ブランド「YUBASE」はGroup III中心。
- S-Oil:Saudi Aramco子会社。Group II・Group III中心で、Group Iは補助的。「ULTRA-S」ブランド。
- GS Caltex:Chevron・GS Energyの合弁事業。Group II・Group III中心。「Kixx LUBO」ブランド。
- HD Hyundai Shell Base Oil:2027年商業生産開始予定でGroup III中心。DH-2向けGroup I補完への直接寄与は限定的。
これらの生産者からのGroup I輸入は、日本のDH-2製造用原料として細く続いている。ただしDH-2完成品として仕上げるためには、韓国輸入のGroup Iに国内の添加剤パッケージを配合し、JASO M355の認証試験に合格させる必要がある。原料の輸入と完成品の製造・認証は別工程で、韓国から完成品としてDH-2認証品が輸入されるわけではない。
7-2. 韓国政府輸出キャップの影響
2026年5月、韓国産業通商資源部は国内潤滑油供給の安定確保を優先するため、Group IIIを含む石油製品の義務的輸出キャップを導入した(CNBC報道)。この政策は主にGroup IIIを対象とするが、Group Iも一部影響を受ける。
韓国輸出キャップのDH-2への波及
- 直接影響(限定的):Group Iは主対象ではないため、DH-2原料のGroup I輸入への直接影響は限定的
- 間接影響(重要):Group III輸出キャップにより、韓国生産者はGroup III生産を優先し、Group Iの生産・輸出は相対的に後回しになる
- 価格影響:韓国産Group Iの価格は上昇圧力を受ける、日本の輸入コスト上昇の要因
- 納期影響:韓国生産者はGroup III需給対応を優先し、Group Iの生産・出荷スケジュールが後倒しになる可能性
7-3. 韓国輸入の規模と限界
韓国からのGroup I輸入は、日本国内元売り3社の供給量と比較して規模は限定的である。以下の実務上の限界がある。
韓国輸入の実務上の限界
- 供給量の限定性:韓国のGroup I生産量自体が限られる。DH-2需要の年間数十万kL規模を韓国輸入だけで賄うことは不可能。
- 物流コスト:韓国からの海上輸送コストと国内輸送コストが上乗せされ、価格競争力は限定的。
- 認証プロセス:韓国輸入Group Iを使用したDH-2完成品も、原料変更時のJASO M355再認証が必要(Ch03の技術的制約を参照)。
- 添加剤との相性:韓国産Group Iと国内添加剤パッケージの相性確認が必要(詳細はCh03参照)。
- 韓国政府の輸出方針:Group Iも含む石油製品全般の輸出方針が政治的に変動するリスクがある。
7-4. 中期見通し:HD Hyundai Shell 2027年稼働の影響
HD Hyundai Shell Base Oil(大山工場)の2027年商業生産開始は、韓国4大生産者の生産能力を一段引き上げる中期供給拡充の柱となる。ただしこの新プラントはGroup III中心のため、DH-2向けGroup I補完への直接寄与は限られる。中期的にGroup III世界的断絶が緩和されれば、韓国生産者がGroup I生産に振り向けるリソースが増える可能性はあるが、DH-2の日本独自規格としての性質から、根本的な国内供給拡充がDH-2安定化の中核となる。
政府対応と潤滑油直販スキーム207組織のDH-2ターゲット
2026年の政府対応は、中東情勢関係閣僚会議・3.1兆円補正予算・潤滑油直販スキーム207組織稼働の3層で展開された。この章では、DH-2の視点から政府対応の具体的な内容と、潤滑油直販スキームがDH-2の川中目詰まり解消にどのように機能しているかを整理する。
8-1. 中東情勢関係閣僚会議とDH-2
閣僚会議の主要議事(DH-2関連)
- 第1回(2026年3月24日):内閣官房主催で開始、潤滑油含む重要物資の安定確保が議題に
- 第2〜6回:中東情勢の変化と物資供給への影響を継続議論
- 第7回(5月12日):金子国交相「前年同月同量」要請を表明、DH-2の買い占め型発注抑制がターゲット
- 第9回(6月2日):Brent原油97ドル/バレル局面、DH-2含む物資対応が具体化
- 第11回(6月26日):3.1兆円補正予算成立後の運用体制を確認
閣僚会議は経済産業省・国土交通省・資源エネルギー庁・環境省・農林水産省・厚生労働省が参加し、中東情勢の物資供給への影響を横断的に協議した。DH-2は大型トラック運行に関わる重要物資として、直販スキーム稼働の政策的裏付けの一つとなった。
8-2. 経産省「出荷抑制の是正」要請(4月13日)
2026年4月13日、経済産業省は180社・70団体宛に「出荷抑制の是正」要請を発出した。要請の趣旨は、川中(元売り→商社→整備業者)での買い占め型発注と出荷抑制を是正し、末端の運送事業者にDH-2を含む重要用途の潤滑油を届けることにある。要請対象は、国内元売り3社・大手潤滑油商社・大型潤滑油需要家(大型運送事業者・整備業者・化学メーカー等)を含む幅広い業界主体である。
経産省要請の主要内容
- 元売り3社に対する既存契約先向け安定供給の維持要請
- 潤滑油商社・代理店に対する川中在庫の適正化要請
- 大型需要家に対する買い占め型発注の抑制要請
- DH-2含む重要用途の潤滑油の末端配分優先の呼びかけ
- 四半期ごとの供給状況報告の要請
8-3. 国交省「前年同月同量」要請(5月12日)
2026年5月12日の第7回中東情勢関係閣僚会議で、金子恭之国土交通大臣は「アドブルーの供給確保に向け前年同月同量の要請とBIB容器問題への対応を表明」した。この要請はアドブルー中心だが、大型トラック運送関連の油脂全般(DH-2エンジンオイル・アドブルー・ブレーキフルード等)に対する買い占め型発注抑制の政策的シグナルとして機能した。
8-4. 3.1兆円補正予算(6月5日成立)
3.1兆円補正予算の概要(DH-2関連)
- 成立日:2026年6月5日(閣議決定6月3日、国会成立6月5日)
- 総額:3.1兆円
- 中東情勢等対応予備費:2.5兆円を含む
- 7〜9月の電気・ガス料金5,000円支援:家計・事業者両面の支援
- DH-2関連:潤滑油直販スキームの財源・運営コスト・大型需要家への安定供給支援
8-5. 潤滑油直販スキーム207組織参加(6月10日稼働)
2026年6月10日、経済産業省・国土交通省・資源エネルギー庁のとりまとめの下で潤滑油直販スキームが稼働した。参加組織は207組織・企業で、DH-2を含む重要用途の潤滑油を、既存商流の目詰まりを回避しつつ確実に必要事業者へ届ける緊急ネットワークとして運用されている。
潤滑油直販スキームの構造
- とりまとめ主体:経済産業省・国土交通省・資源エネルギー庁の3省庁
- 参加組織:207組織・企業(元売り3社を中核に、潤滑油商社・大手需要家・独立系メーカー等)
- ターゲット品目:DH-2エンジンオイル・アドブルー・ブレーキフルード・工業用潤滑油の一部
- 運用方針:既存商流と並行する形で、川中の目詰まりを回避しつつ必要事業者へ届ける
- 優先配分:大型トラック運送事業者・大型バス事業者・整備業者・大型建設機械オペレーター等
潤滑油直販スキームは、既存の商流を否定するものではなく、既存商流の目詰まりが発生した箇所を補完する並行ネットワークとして機能する。DH-2の川中在庫が偏った場合、直販スキームの参加組織を経由して末端の運送事業者に配分される。この仕組みは、経産省の4月13日「出荷抑制の是正」要請と国交省の5月12日「前年同月同量」要請のパッケージ効果として実装された。
大型トラック運送事業者の実務対応10項目
2026年下期以降のDH-2供給乱れに対して、大型トラック運送事業者が取るべき実務対応を10項目に整理する。調達・在庫管理系5項目、運用・整備系3項目、中長期対応系2項目に分類したチェックリスト形式。
9-1. 調達・在庫管理系(5項目)
調達・在庫管理系
- 既存取引先との関係維持を最優先:割当通知には24〜48時間以内に確定発注。新規発注は既存契約先向けの安定供給を維持できる範囲で。元売り3社(ENEOS・出光・コスモ)または長年取引のある独立系メーカーとの関係が最重要。
- 1〜2ヶ月分の安全在庫確保:Pearl GTL修復完了までの1年間はGroup IV・Group III代替需要集中が継続し、DH-2原料のGroup I供給乱れも継続の見通し。安全在庫の目安は1〜2ヶ月分。BIB容器(1000L)またはドラム缶(200L)で管理。
- 国内元売り品+商社経由の第2サプライヤー並行確保:元売り3社に加え、TAKMO・キャストロール・シェルジャパン・ExxonMobil日本・BP日本等の独立系メーカーを第2サプライヤーとして並行確保。特定の1社に依存しない調達分散が実務上重要。
- 買い占め型発注抑制:国交省「前年同月同量」要請を踏まえた買い占め型発注抑制で、業界全体の目詰まり緩和に協力。過剰な先回り発注は他事業者の供給乱れを悪化させる。
- 潤滑油直販スキーム(207組織参加)への参加検討:6月10日稼働の政府主導緊急ネットワーク。既存商流の目詰まりを回避しDH-2を確実に確保する経路として活用。参加要件・手続きは経産省・国交省・資源エネ庁に問い合わせ可能。
9-2. 運用・整備系(3項目)
運用・整備系
- 車両整備の予約制運用:オイル交換タイミングの平準化により、月内・週内のDH-2需要のピークを分散。整備業者との調整で、複数車両の同時交換を避け、在庫圧迫を回避。スズキ・ダイハツ販売会社の予約制運用が先行事例として参考になる。
- 代替グレードの技術的検討:SAE 15W-40と10W-30の相互適用可否を車両メーカー・整備業者と協議。DH-2規格の枠内で粘度グレードの選択肢を持つことで、特定グレードの供給乱れに柔軟対応。ただしメーカー保証範囲・整備マニュアルの確認が前提。
- 節油運転の徹底:アイドリング抑制・急加速抑制・エンジン負荷平準化によりオイル劣化を遅らせ、交換サイクルを可能な範囲で延長。ただし整備マニュアルの推奨交換時期を大幅に超えないよう、走行データと油分析結果に基づく管理が必要。
9-3. 中長期対応系(2項目)
中長期対応系
- 価格スライド条項の顧客契約への組み込み:ベースオイル国際価格の変動に応じた価格スライド条項を、荷主との中長期契約に組み込む。CNBC・Gas-Price-Check・世銀・TradingEconomicsを参照指標に、DH-2の仕入れ価格変動を運送料金に転嫁できる仕組みを構築。
- 2027年下期以降のEV/水素シフト検討開始:大型トラックのEV化・水素燃料電池化の技術動向を継続モニター。政府補助金・車両メーカーの新モデル投入計画・充電・水素インフラ整備の進捗を踏まえ、2027年下期以降の段階的な車両更新計画を検討。DH-2需要の長期的な縮小と、次世代技術への転換を視野に。
9-4. 業種別の焦点(大型トラック運送・大型バス・特殊車両)
業種別の焦点
- 大型トラック運送事業者(長距離運送):DH-2安全在庫2ヶ月分、潤滑油直販スキーム参加、荷主との価格スライド条項、節油運転の徹底
- 大型バス事業者(路線バス・高速バス):DH-2安全在庫1ヶ月分、既存取引先関係維持、車両整備の予約制運用、DPF清掃サイクルの最適化
- 大型建設機械オペレーター(ゼネコン・建設会社):DPF搭載モデルのDH-2需要とDH-2非搭載モデル(DH-1等)の使い分け、稼働継続のための調達分散
- 特殊車両運用(ミキサー車・タンクローリー・冷凍車):稼働特性に応じた交換サイクルの調整、荷主との契約条件の再検討
- 整備業者(大型トラック整備専業):DH-2在庫の可視化、複数元売り・独立系メーカーとの並行取引、顧客への説明対応
中期見通しとEV/水素シフトの影響
2026年下期以降のDH-2市場を、短期(〜3ヶ月)・中期(3〜12ヶ月)・長期(1年超)の3段階見通しで整理する。中期はPearl GTL修復・Group III世界的断絶の緩和、長期はEV/水素シフトによる需要の構造転換が焦点となる。
10-1. 見通し3段階
7月12日ホルムズ再閉鎖の影響が9〜10月の価格・調達に反映される段階。Brent原油の再上昇、Group I系原料の供給乱れ継続、元売り3社の出荷制限延長リスク、独立系メーカーの追加価格改定通知の発出リスクが焦点。事業者は既存取引先との関係維持、1〜2ヶ月分の安全在庫確保、潤滑油直販スキーム207組織参加への参加検討が実務上の最優先。9月・10月のDH-2需給状況は7月時点で不透明。
Pearl GTL約1年修復(Shell/QatarEnergy公式)の進捗確認期。並行してChevron NEXBASE 4 XP(2026年Q4本格稼働)、ExxonMobil Baytown増強(+8,000b/d)でGroup III+PAO供給が拡充、Group III世界的断絶が部分緩和。ただしDH-2はGroup I主体の日本規格の性質上、国際供給拡充の恩恵が限定的で、韓国からの補完輸入と国内元売り出荷制限の緩和の組み合わせがDH-2安定化の焦点。中東情勢の第2波の推移次第で状況は変動。
大型トラックのEV化・水素燃料電池化の段階的進展により、DH-2需要そのものが長期的に縮小する構造転換期。日野・いすゞ・三菱ふそう・UDトラックス等の車両メーカーが電動大型トラック・水素燃料電池大型トラックの本格投入を進める。政府の脱炭素政策・グリーン成長戦略・自動車税制の変化と連動。DH-2需要は2030年代前半にピークアウトの見通し(Kline Group分析等)。大型トラック運送事業者は段階的な車両更新計画の検討が中長期の実務課題。
10-2. DH-2モニタリング5指標
ENEOS・出光・コスモの出荷制限緩和・追加が末端指標。出光ダフニー6月29日一部解除の追加事例に注目。
中東・韓国からのGroup I輸入価格、Luberef・SK Enmove等の価格改定通知が主要指標。
TradingEconomics日次。80ドル/バレル超で警戒、100ドル/バレル超で緊急対応検討。
207組織参加の運用状況、追加参加・脱退の動き、対象品目の拡大・縮小が政策シグナル。
開催頻度と議題。DH-2含む重要物資の政策対応の追加要請発出が実務対応の政策シグナル。
10-3. EV/水素シフトの影響(2027年下期以降)
2027年下期以降、大型トラックのEV化・水素燃料電池化が段階的に進むことで、DH-2需要は長期的に縮小する見通しである。ただし、EV化は短距離・軽負荷用途から段階的に進み、大型長距離運送・大型建設機械・大型バス等の重負荷連続運転用途は当面ディーゼルが主流となる。DH-2需要のピークアウトは2030年代前半と見込まれ、大型トラック運送事業者は段階的な車両更新計画を中長期の実務課題として検討する必要がある。
EV/水素シフトの主要動向と数値目標
- 政府目標(グリーン成長戦略):2030年までに新車販売の20〜30%を電動車(BEV・FCV・PHEV)化、大型トラック含む商用車の脱炭素化を推進
- 電動大型トラックの市販化状況:日野「Profia HEV」(既販売中)、いすゞ「Giga BEV」(2027年市販化予定・航続距離約200km想定)、三菱ふそう「eCanter」の大型モデル展開(既販売中の小型に加え中型・大型を段階投入)、UDトラックス(Volvo Group傘下)も欧州モデルの日本投入検討
- 水素燃料電池大型トラック:トヨタ・日野・いすゞ・ダイムラートラック等の共同開発、2027年以降の段階的市販化予定。長距離運送用途では航続距離500km超・水素充填時間15分程度を目標
- 水素ステーション整備目標:政府は2030年に1,000箇所を目標(2025年末時点で全国約170箇所)、大型トラック向け高圧水素ステーションを段階的に拡充
- 充電インフラ整備:政府は2030年までに公共用急速充電器3万基以上を目標、大型トラック運送事業者の自社インフラ整備計画も並行
- 自動車税制の変化:脱炭素車両への優遇税制(自動車重量税・自動車税環境性能割)、化石燃料車両への課税強化の政策動向
- DH-2需要の長期見通し:Kline Group分析等で2030年代前半のピークアウト見通し、2040年に向けて緩やかな縮小トレンドが継続する見通し
主な情報源・用語集
本ガイドで使用した主な情報源と、専門用語の解説を整理する。大型トラック運送事業者・整備業者・調達担当・政府関係者が一次情報に遡及する際の起点として活用いただきたい。
11-1. 主な情報源(3グループ)
- 日本自動車工業会(JAMA)|DH-2規格制定(2004年)、JASO M355認証
- 経済産業省|180社・70団体宛「出荷抑制の是正」要請(2026年4月13日)
- 経済産業省・国土交通省・資源エネルギー庁|潤滑油直販スキーム稼働(2026年6月10日・207組織参加)
- 国土交通省・金子恭之国土交通大臣|第7回中東情勢関係閣僚会議「前年同月同量」要請(2026年5月12日)
- 資源エネルギー庁|潤滑油の発注適正化(2026年6月5日公表)
- 内閣官房|中東情勢に関する関係閣僚会議 議事概要(2026年3月24日〜6月26日、第1〜11回)
- METI(経済産業省)|日本の原油調達 7月に前年平月比10割回復めど(2026年6月11日)
- 自動車検査登録情報協会・国土交通省|大型トラック保有台数統計
- 環境省|新長期規制・ポスト新長期規制・排出ガス規制
- ENEOSホールディングス|川崎・根岸・水島製油所、国内シェア約4割、DH-2認証品供給
- 出光興産|千葉事業所・愛知製油所、ダフニーブランド、6月29日一部受注制限解除
- コスモ石油|四日市・堺製油所、コスモ ザ ビーイング・アルティマ
- TAKMO(旧TAKUMIモーターオイル)|4月26日 4要因公式声明
- キャストロール(Castrol・BP傘下)|5月1日公式値上げ
- シェルジャパン|Shell「Rimula」DH-2認証品
- ExxonMobil日本|「Mobil Delvac」DH-2認証品
- BP日本|「BP Vanellus」DH-2認証品
- Lubrizol日本・Infineum日本・Chevron Oronite日本・Afton Chemical日本|DH-2用添加剤パッケージ供給
- SK Enmove・S-Oil・GS Caltex・HD Hyundai Shell Base Oil|韓国主要ベースオイル生産者
- Luberef(Saudi Aramco子会社)|Jeddah継続操業(2026年6月29日)
- Shell / QatarEnergy(CEO Saad al-Kaabi氏)|Pearl GTL約1年修復完了見通し(2026年7月5日)
- トラックニュース|整備業者資材不足調査(2026年5月26日)
- CNBC|Group III欧州約100%上昇・韓国輸出キャップ報道(2026年5月22日)
- Gas-Price-Check|米国Group III能力約44%喪失分析(2026年5月)
- プライシー編集部|キャストロール5月1日公式値上げ集計
- ミカド商事ブログ|3Q価格上昇予想・添加剤・容器値上げ観測(2026年5月15日付)
- MANNOL(独・SCT)|ベースオイル最大50%上昇警告(motorcycles.news 2026年5月15日)
- Kline Group|Middle East Lubricants Consulting レポート(2026年5月・業界余剰500万トン試算)
- TradingEconomics|Brent原油日次データ(2026年6月4日97ドル・7月2日71.5〜72ドル)
- S&P Global Commodity Insights|Pearl GTL修復期間初期試算(3〜5年)
11-2. 用語集
本ガイド本文の初出箇所で詳述している用語について、参照時の補足として集約する。より詳細な技術的背景は各章の該当箇所を参照。
- DH-2(Diesel Heavy-duty type 2)
- JAMAが2004年制定の大型ディーゼル用エンジン油の日本独自規格。詳細はCh01参照。
- JAMA(Japan Automobile Manufacturers Association)
- 日本自動車工業会。DH-2をはじめとする各種規格を制定する自動車業界団体。
- JASO(Japanese Automotive Standards Organization)
- 日本自動車技術会規格制定組織。DH-2の認証試験「JASO M355」を制定・運営。
- DPF(Diesel Particulate Filter)
- ディーゼル微粒子捕集フィルタ。排気ガス中のPM(粒子状物質)を捕集する装置。
- 低SAPS(Sulfated Ash・Phosphorus・Sulfur)
- 硫酸灰分・リン・硫黄の総称。低SAPS性能はDPF寿命延長と排気触媒被毒防止に必要。DH-2要求値はCh01参照。
- 新長期規制・ポスト新長期規制
- 日本の自動車排出ガス規制。2005年施行の新長期規制と2009年施行のポスト新長期規制で、大型ディーゼル車のNOx・PM排出量が段階的に削減された。DH-2規格の制定背景。
- ACEA E-9
- 欧州自動車工業会(ACEA)が定めた大型ディーゼル用エンジン油の低SAPS規格。DH-2と技術要求は近いが、欧州の運用環境に最適化された配合。
- API CJ-4 / CK-4
- 米国石油協会(API)が定めた大型ディーゼル用エンジン油の低SAPS規格。CJ-4は2007年、CK-4は2016年制定。DH-2の性能要求と対応する国際規格。
- SAE(Society of Automotive Engineers)
- 米国自動車技術会。潤滑油の粘度分類規格を制定。DH-2の主流粘度グレードはSAE 10W-30・15W-40。
- Group I ベースオイル
- API分類の一つ。溶剤精製法で製造される伝統的なベースオイル(粘度指数80-119、不飽和炭化水素10%超、硫黄分0.03%超)。DH-2の主原料。詳細はCh03参照。
- 添加剤パッケージ
- ベースオイルに配合される機能性化学品群。清浄剤・分散剤・耐摩耗剤・酸化防止剤・粘度指数向上剤等で構成。DH-2用添加剤はGroup I前提で設計。詳細はCh03参照。
- 潤滑油直販スキーム
- 2026年6月10日稼働の政府主導緊急ネットワーク。経産省・国交省・資源エネ庁とりまとめ、207組織参加。詳細はCh08参照。
よくある質問(FAQ・7問)・免責事項
本ガイドの内容を踏まえて、大型トラック運送事業者・整備業者・調達担当・政府関係者から寄せられる典型的な質問を7問に整理した。JSON-LD FAQPageと同期しており、AI検索・検索エンジンの回答生成にも直接活用される構造。
DH-2規格とは何ですか、なぜ日本独自規格なのですか
DH-2(Diesel Heavy-duty type 2)は、日本自動車工業会(JAMA)が2004年に制定した大型ディーゼル車向けエンジン油の日本独自規格である。DPF(ディーゼル微粒子捕集フィルタ)対応の低灰分オイルとして設計され、硫酸灰分1.0%以下・リン0.12%以下・硫黄0.5%以下の低SAPS性能を実現する。国際規格のACEA E-9(欧州)・API CJ-4/CK-4(米国)と技術要求は近いが、日本のディーゼル排出ガス規制(新長期規制・ポスト新長期規制)と大型トラック・バスの実運用環境(連続長距離運行・積荷重量・気候条件)に最適化された配合が要求されるため、規格の細部が独自化されている。SAE 10W-30・15W-40が主流粘度グレードで、Group Iベースオイル主体の配合が標準となる。
なぜDH-2はGroup IIやGroup IIIで代替できないのですか
DH-2規格の性能を実現するためには、粘度特性・添加剤溶解性・極圧潤滑性能の3つの技術的理由からGroup Iベースオイルが必須となる。①粘度特性:DH-2の主流粘度グレード10W-30・15W-40の実現には、Group Iの粘度指数80-119の特性が最適である。②添加剤溶解性:DH-2の低灰分性能を実現するために配合される清浄剤・分散剤・耐摩耗剤等の添加剤パッケージは、Group Iの芳香族分に溶解しやすく設計されている。Group II以上では添加剤の溶解性が低下し、性能を維持するには添加剤処方の全面的な再設計が必要となる。③極圧潤滑性能:大型ディーゼルエンジンの高負荷連続運転では、Group Iの極圧潤滑性能が要求される。Group II・IIIは酸化安定性・粘度指数に優れるが、極圧潤滑性能ではGroup Iに劣る。
2026年のDH-2供給乱れはどのような経緯で発生しましたか
2026年2月28日のホルムズ海峡封鎖以降、以下の複合要因でDH-2の供給乱れが発生した。①原料ベースオイルの供給乱れ:中東からのGroup I輸入停滞、韓国からのGroup I輸出制限。②添加剤の同時供給乱れ:DH-2用清浄剤・分散剤のナフサ由来原料の供給乱れ、価格急上昇。③国内元売り3社(ENEOS・出光・コスモ)の出荷制限継続:既存契約先向け安定供給を優先、新規大型契約の受注抑制。④Group I自体は他用途への配分競合:船舶用シリンダー油・工業用ギヤ油等の並行需要増。⑤結果:「原料はあるが日本規格品として出荷できない」という盲点が顕在化。経産省は4月13日付で180社・70団体宛「出荷抑制の是正」要請を発出し、6月10日から潤滑油直販スキームが207組織参加で稼働、川中の目詰まり解消が政策的に進められている。
元売り3社の出荷制限はどのような状況ですか
国内潤滑油元売り3社(ENEOS・出光興産・コスモ石油)は、2026年春以降DH-2の出荷制限を継続している。ENEOSは川崎・根岸・水島製油所でGroup I〜Group II系の製造能力を持ち、国内シェア約4割の最大手として既存契約先向け安定供給を優先。出光興産は千葉事業所・愛知製油所で製造し、独自ブランド「ダフニー」を展開、工業用潤滑油の国内シェアはトップクラスで、2026年6月29日に一部受注制限を解除し需給緩和の兆しを示した。コスモ石油は四日市・堺製油所で製造し、他の元売り2社と同様に契約先優先の運用を継続。3社とも6月10日稼働の潤滑油直販スキームには参加社の中核として位置付けられ、DH-2を含む重要用途の供給ネットワークに組み込まれている。7月12日ホルムズ再閉鎖の影響で7月以降の運用は再評価段階にある。
韓国からの補完輸入の実態と規模はどれくらいですか
DH-2の原料となるGroup Iベースオイルの韓国からの補完輸入は、日本の供給乱れを部分的に緩和する役割を果たしている。韓国のGroup I生産者はSK Enmove・S-Oil・GS Caltex等の主要製油所で、Group III中心の輸出構造の中でGroup Iの生産量は限定的である。加えて、韓国政府の石油製品義務的輸出キャップ(2026年5月導入)は主にGroup IIIを対象とするが、Group Iも一部影響を受ける。日本のDH-2完成品として仕上げるためには、韓国輸入のGroup Iに国内の添加剤パッケージを配合し、JAMA規格の試験(JASO M355等)に合格させる必要があり、規模は国内元売り3社の供給量と比較して限定的である。中期的にはHD Hyundai Shell Base Oil(大山工場)が2027年から商業生産を開始する予定だが、これはGroup III中心のため、DH-2向けGroup I補完への直接寄与は限られる。
大型トラック運送事業者は2026年下期に何をすべきですか
大型トラック運送事業者の実務対応は以下の10項目に整理される。①既存取引先との関係維持を最優先し、割当通知には24〜48時間以内に確定発注。②DH-2の1〜2ヶ月分の安全在庫確保(Pearl GTL修復完了までの1年間は代替転換の連鎖が継続)。③国内元売り品+商社経由の第2サプライヤー並行確保。④価格スライド条項の顧客契約への組み込み。⑤6月10日稼働の潤滑油直販スキーム(207組織参加)への参加検討。⑥国交省「前年同月同量」要請を踏まえた買い占め型発注抑制。⑦車両整備の予約制運用(オイル交換タイミングの平準化)。⑧代替グレード(15W-40と10W-30の相互適用)の技術的検討。⑨大型トラックドライバーへの節油運転(アイドリング抑制・急加速抑制)の徹底。⑩2027年下期以降のEV/水素シフト検討開始。特に第2波リスク(7月12日ホルムズ再閉鎖)への対応が焦点となる。
なぜプラスチックパレット株式会社がこの記事を書いているのですか
弊社(プラスチックパレット株式会社、千葉県我孫子市)は物流資材専門商社として、プラスチックパレット・折コン・PPバンド・ストレッチフィルム・再生プラスチック原料などを全国の運送事業者・製造業者に卸値で販売している。大型トラック運送事業者との日常的なやりとりを通じて、DH-2大型トラック油の供給問題が現場でどのような影響を及ぼしているかを実感を伴って把握できる立場にある。特に大型トラックの継続運行に関わるDH-2は、代替不可の日本独自規格として物流業界の基盤を支える存在で、その供給乱れは物流全体に波及する重要論点である。この記事は、大型トラック運送事業者・整備業者・調達担当・政府関係者が2026年のDH-2市況を体系的に把握し、実務判断に資するために作成した。弊社はDH-2の販売窓口ではないが、業界当事者としての情報収集・整理を継続している。
免責事項
- 本記事は2026年7月18日時点の公開情報・一次資料・弊社独自取材に基づいて作成している。市況・政策・企業動向は日々変化するため、実務判断に用いる際は最新情報を必ずご確認いただきたい。
- 本記事内の数値・日付・企業名・発言等は、記載された出典に基づいて可能な限り正確を期しているが、二次情報経由の場合の伝聞誤差、時差による情報の陳腐化、翻訳過程での意味変化等の可能性を完全には排除できない。
- 本記事は業界動向の俯瞰と情報整理を目的としており、特定の投資判断・調達判断・政策判断を推奨するものではない。実際の意思決定は各読者の責任と判断のもと行っていただきたい。
- 本記事内でリンクしている外部サイト・記事の内容については、当該サイトの提供者に帰属し、弊社はその正確性・完全性を保証するものではない。
- 本記事の内容について、明示または黙示を問わず一切の保証を行わない。本記事の利用または利用不能により生じた損害について、弊社は責任を負いかねる。なお本記事は【エンジンオイル完全まとめ】の子記事として位置づけられ、より広い視座での俯瞰は親カテゴリマップを参照されたい。