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再生基油(RRBO)が中東依存脱却の道筋に、ENEOS×トヨタ実証と阪和興業ネットワークの実態
SPECIALIST · SOLUTION TRACK
2026 LUBRICANT SUPPLY CHAIN RECONSTRUCTION ── RRBO AS A MIDDLE-TERM ALTERNATIVE

再生基油(RRBO)が中東依存脱却の道筋に、ENEOS×トヨタ実証と阪和興業ネットワークの実態

2026年の潤滑油危機の中期的解決策として、再生基油(RRBO)が浮上している。ENEOSが2024年5月27日にトヨタ自動車の協力のもと低炭素基油製造の実証に成功、阪和興業が「唯一の再生ベースオイル輸入商社」として経済産業省委託調査に協力。本記事はRRBOの技術基礎から実装状況、DH-2適用可能性までを業界当事者・調達担当者向けに事実ベースで整理する。

2024/5/27
ENEOS×トヨタ
低炭素基油
製造実証成功
公式発表日
GF-6
ILSAC規格
Sequence IIIH試験
原油由来と
同等性確認
3
再生油分類
再生重油/
再調整油/
RRBO
2028
中期実用化
目標年
循環経済
移行加速化
📅 初版公開: 🔄 最終更新: 📊 対象: 業界当事者・調達担当者 🏷️ カテゴリ: エンジンオイル・潤滑油 / Solution Track
TL;DR ── まず3行で結論
  1. 2026年のエンジンオイル・DH-2危機に対して、再生基油(RRBO)が中期的な構造的代替として本命候補化しつつある。APIグループ分類は「原油由来か廃油由来か」ではなく飽和分・硫黄分・粘度指数の3つの化学性状で決まるため、十分に精製されたRRBOはGroup II・Group IIIとして使用可能。海外ではSafety-Kleen(Group II+)・PURAGLOBE(Group III/III+)が商業規模で流通している。
  2. 日本国内ではENEOSが2024年5月27日にトヨタ自動車の協力のもと使用済み潤滑油からの低炭素基油製造に成功、ILSAC GF-6のSequence IIIH試験で原油由来基油と同等の高温酸化安定性を確認。阪和興業は「唯一の再生ベースオイル輸入商社」として経済産業省委託調査事業「潤滑油の安定供給に向けた原料確保の多様化に関する調査・分析事業」に協力する立場にある。国内の廃潤滑油の多くは従来、再生重油として燃焼処理されており水平リサイクル(RRBO化)は限定的だったが、この構造は転換期を迎えつつある。
  3. 短期(〜2026年10月)は緊急代替には間に合わないが、中期(2026年後半〜2028年)はGroup I不足の補完源として現実的候補、長期(2028年以降)は中東依存脱却×循環経済のダブルストーリー。DH-2適用にはJASO M355認証の新規取得ハードルがあり、SN500・600N・150BS等の高粘度Group I品はRRBO単独での完全代替が難度高い。循環経済移行加速化パッケージ(2024年12月循環経済関係閣僚会議決定)の政策的追い風の中で、業界当事者は輸入経路と国内商業生産の両面から準備を進める段階にある。
ANSWER · SUMMARY

再生基油(RRBO)は2026年潤滑油危機の中期的な構造的代替候補ENEOS×トヨタ2024年5月実証でILSAC GF-6同等性を確認、阪和興業が唯一の再生ベースオイル輸入商社として経産省委託調査に協力。短期の緊急代替にはならないが、2026年後半〜2028年にGroup I不足の補完源として現実的候補化する見通し。

この記事でわかること

  1. RRBO(Re-Refined Base Oil、再精製基油)の技術的基礎と、他のリサイクル油(再生重油・再調整油)との違い
  2. APIグループ分類の性状定義と、廃油由来でもGroup II・Group IIIになる化学的根拠
  3. 世界のRRBO市場実態:Safety-Kleen(Group II+)・PURAGLOBE(Group III/III+)等の主要プレイヤー
  4. 日本の廃潤滑油フローの現状(再生重油偏重・水平リサイクル未確立)
  5. ENEOS×トヨタ2024年5月27日低炭素基油製造実証の詳細(ILSAC GF-6・Sequence IIIH試験)
  6. 阪和興業の輸入ネットワークと経済産業省委託調査事業の実態
  7. DH-2規格への適用可能性とJASO M355認証の新規取得ハードル
  8. SN500・600N・150BS(ブライトストック)等高粘度Group I品代替の難所
  9. 短期・中期・長期のロードマップと業界当事者の実務判断ポイント
  10. 循環経済(サーキュラーエコノミー)移行加速化パッケージとの整合性・政策的追い風

なぜ今、RRBOが「もう一つの答え」になるのか

2026年、日本の潤滑油サプライチェーンは、ホルムズ海峡封鎖(2026年2月28日以降)を起点とする三重の危機に直面している。第1層はGroup Iベースオイルの中東・韓国からの輸入減、第2層はカタール・Pearl GTL損傷(Shell/QatarEnergy CEO 2026年7月5日発表で修復に約1年)を契機とするGroup III世界的断絶、第3層はDH-2大型トラック油の元売り3社受注制限による国内需給ひっ迫。運送業界・整備業界・製造業界のいずれもが、この三重の危機の同時解決を迫られている。

短期の対応策としては、元売り3社・独立系メーカーとの調達分散、潤滑油直販スキーム207組織参加による代替不可用途の確保、荷主との価格スライド条項交渉、非中東原油シフト(米国産ライトナフサ・アフリカ産・中南米産等)が並行して進められている。しかし、これらは既存の供給構造の中での調整であり、根本的な構造転換ではない。

そこで浮上しているのが、再生基油(RRBO:Re-Refined Base Oil)という選択肢である。使用済みエンジンオイル・作動油から蒸留・水素化処理などで分子レベルまで再精製した基油であり、海外では既に商業規模で流通している。APIグループ分類は原油由来か廃油由来かではなく化学性状のみで決まるため、十分に精製されたRRBOはGroup II・Group IIIとして完全に使用可能である。

日本国内でも、ENEOSが2024年5月27日にトヨタ自動車の協力のもとで低炭素基油製造の実証成功を発表、阪和興業が「唯一の再生ベースオイル輸入商社」として経済産業省委託調査事業に協力する立場にある。従来、日本の廃潤滑油の多くは再生重油(燃料油)として焼却処理されており、水平リサイクル(RRBO化)は限定的だった。この構造が中東依存脱却×循環経済のダブルストーリーの下で転換期を迎えつつある。

本記事は、業界当事者・調達担当者向けに、RRBOの技術的基礎、世界市場の実態、日本国内の実装状況、DH-2への適用可能性、時間軸別のロードマップ、政策的追い風を事実ベースで整理する。緊急局面の解決策としては間に合わないが、2026年後半〜2028年の中期構造改革の本命候補として、今のうちに情報整理をしておく価値は極めて高い。

CHAPTER 01 ── PROBLEM CONTEXT

現状のGroup I供給問題と代替の必要性

RRBOの検討に入る前に、なぜ代替が必要なのか、現在の供給問題の全体像を整理する。三重の危機と、そこから浮上する構造的代替の必要性を明確にする。

1-1. 三重の危機の同時進行

2026年潤滑油サプライチェーンの三重の危機

  • 第1層:Group Iベースオイルの中東・韓国からの輸入減:2026年2月28日ホルムズ海峡封鎖以降、日本のGroup I原料の輸入経路が細り、DH-2大型トラック油の主原料が需給ひっ迫。
  • 第2層:Group III世界的断絶:カタール・Pearl GTL損傷(Shell/QatarEnergy CEO 2026年7月5日発表、修復に約1年)、韓国輸出キャップ、UAE Fujairah Force Majeure。CNBC 2026年5月22日報道で欧州の卸価格が約100%上昇、Gas-Price-Checkの分析で米国のGroup III能力が約44%喪失。
  • 第3層:DH-2の元売り3社受注制限:ENEOS・出光興産・コスモ石油の3社が2026年上期に受注制限を実施。JAMAが2004年に制定した日本独自のJASO M355規格でGroup I主体の配合が業界標準のため、代替転換ができず国内需給ひっ迫。

1-2. Group I不足の構造的性質

Group Iは古い時代のベースオイルとされるが、日本のDH-2大型トラック油、工業用プロセスオイル、船舶油、重質ギヤ油などで依然として基幹的な位置づけにある。特に日本市場では以下の理由でGroup I依存度が高い。

日本市場のGroup I依存度が高い理由

  • DH-2認証はGroup I前提で設計:JASO M355認証は、Group Iベースオイルの特性を前提に性能規定。他Groupへの切り替えは認証範囲外。
  • 芳香族分・極性成分による溶解性:添加剤・アスファルテン・ゴム・樹脂等への溶解性が高く、工業用ギヤ油・船舶油・プロセスオイル等で重宝される。
  • 低SAPS添加剤との相性:DH-2の低灰分化を実現する添加剤は、Group Iの芳香族分と最適に働く。
  • 整備マニュアル指定:日野・いすゞ・ふそう・UDトラックス等の国内大型トラックメーカーが整備マニュアルでGroup I主体品を指定。

1-3. 既存の対応策の限界

三重の危機に対する短期的対応策は、既に業界全体で並行実施されている。しかし、これらは既存の供給構造内での調整であり、中期的な構造転換ではない。

既存の対応策 効果の性質 限界・課題
調達分散(元売り3社+独立系)短期・戦術的供給プールそのものは中東依存構造のまま
潤滑油直販スキーム207組織参加短期・救済的緊急ネットワークで既存商流の目詰まり解消は可能だが供給量拡大は限定的
非中東原油シフト(米ライト等)中期・部分的クラッカー得率ミスマッチによる実質コスト上振れ構造
安全在庫の確保短期・防御的Pearl GTL修復完了までの1年間の緩衝が主目的
エコドライブ・オイル消費削減短期・需要側個別企業レベルの削減効果に留まる

1-4. 構造的代替への渇望

業界の実務レベルでは、既存の対応策と並行して「もう一つの答え」が求められている。それは短期の緊急代替ではなく、中期の構造的代替である。具体的には以下の条件を満たす必要がある。

構造的代替に求められる条件

  1. 中東・韓国依存を根本から減らせる供給源であること
  2. 技術的にGroup I・II・III相当の性能を実現できること
  3. 日本国内のインフラで実装可能であること(元売り3社の既存設備活用・輸入経路の拡大等)
  4. 脱炭素・循環経済の政策的追い風と整合すること
  5. 2026年後半〜2028年に商業化のめどが立つこと

この5条件を満たす候補として、再生基油(RRBO:Re-Refined Base Oil)が浮上している。次章以降で、その技術的基礎から実装状況までを整理する。

この章のまとめ:2026年の日本の潤滑油サプライチェーンは第1層(Group I中東・韓国輸入減)・第2層(Group III世界的断絶)・第3層(DH-2元売り3社受注制限)の三重の危機に直面。既存の対応策(調達分散・直販スキーム・非中東シフト・安全在庫・需要側削減)は短期戦術としては機能するが、供給構造そのものの転換ではない。中期の構造的代替が求められる中で、RRBO(再生基油)が中東依存脱却×循環経済の5条件を満たす候補として浮上している。
CHAPTER 02 ── RRBO TECHNICAL BASICS

RRBOの技術的基礎(分類・製造工程)

RRBOを検討するには、まず「リサイクル油」の分類を正確に区別する必要がある。すべての再生油が同じではない。この章では、リサイクル油の3分類、RRBOの製造工程、APIグループ分類の性状定義を整理する。

2-1. リサイクル油には3種類ある

日本語で「リサイクル油」と一括りにされることが多いが、実務上は以下の3種類に明確に区別される。今回検討すべきなのは再生重油ではなくRRBOである。

種類 内容 主な用途
再生重油
(JIS K 2170)
廃油から水分や固形物を除き、燃料として調整ボイラー、工業炉(燃料油化)
再調整油
(再生潤滑油)
ろ過・脱水・遠心分離・添加剤補充などを行ったもの一部の作動油、切削油、低負荷用途
RRBO
再精製基油
廃潤滑油を蒸留・水素化処理などで分子レベルまで再精製エンジン油、作動油、ギヤ油などの原料

米国EPA(環境保護庁)も、使用済み油の利用方法を「潤滑油への再精製」「燃料油化」「石油精製・石化原料化」の3区分に整理しており、これは日本の3分類と概ね一致する。日本では従来、回収された廃潤滑油の多くが再生重油として燃焼処理されており、潤滑油に戻す水平リサイクル(RRBO化)は限定的な状況にあった。この構造がGroup I不足への代替として今、注目されている。

2-2. RRBOの一般的な製造工程

米国エネルギー省の報告では、現代的な再精製設備は前処理後に「減圧薄膜蒸留」と「水素化、溶剤抽出または白土処理による仕上げ」を行い、主にGroup IまたはGroup IIの基油を製造すると説明されている。具体的な工程は以下の5段階。

RRBOの製造工程(5段階)

  1. 回収・選別:使用済みエンジン油、ディーゼルエンジン油、作動油などを回収し、塩素系溶剤、ブレーキ液、不凍液、燃料、水分などの混入を管理。
  2. 前処理:ろ過、遠心分離、脱水によって、水、スラッジ、金属摩耗粉、固形異物を除去。
  3. 減圧蒸留・薄膜蒸留:低圧下で加熱し、ガソリン・軽油分、水分、軽質分、重質残渣と、潤滑油として使用できる留分を分離。
  4. 仕上げ精製:水素化処理、溶剤抽出、白土処理などによって、硫黄、窒素、酸化生成物、劣化した添加剤、臭気、着色成分を除去。
  5. 粘度別の分留・添加剤配合:N100、N150、N220などの粘度グレードに分け、清浄分散剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤などを配合して完成潤滑油に。

2-3. APIグループ分類の性状定義

APIのグループ分類は、「原油から作ったか、廃油から作ったか」ではなく、主に以下の化学性状で決まる。この事実こそがRRBOをGroup I・II・IIIとして使用可能にする根拠である。

API区分 飽和分 硫黄分 粘度指数
Group I90%未満、または0.03%超80以上120未満
Group II90%以上0.03%以下80以上120未満
Group III90%以上0.03%以下120以上

したがって、十分に精製された廃油由来基油は、Group IIやGroup IIIとして使用可能である。反対に、簡易的な溶剤抽出や白土処理だけで仕上げたものは、Group I相当になる場合がある。「廃油由来」という出自ではなく、精製後の化学性状で判定される仕組みは、RRBOをエンジンオイル危機の代替として位置づける上での技術的根拠となる。

2-4. エンジンオイルへの適用可否の判定基準

APIも「基油を変更する場合には、配合量や基油グループによって追加エンジン試験や適合確認が必要」と定めている。RRBOをエンジンオイルに使う場合、確認すべきなのは基油の出自ではなく、完成油としての以下の項目である。

完成油としての判定基準(RRBO配合エンジン油)

  • API SP、CK-4などのサービスカテゴリー:ガソリン用・ディーゼル用の性能規格
  • ILSAC GF-6A / GF-6B:省燃費指定オイル規格
  • ACEA規格:欧州自動車工業会の性能規格
  • 自動車メーカー承認:トヨタ・日産・日野・いすゞ等の個別承認
  • SAE粘度グレード:0W-20、5W-30等の粘度分類
  • 酸化安定性、低温始動性、蒸発性、清浄性:物性値の確認
この章のまとめ:リサイクル油は再生重油・再調整油・RRBOの3種類に区別され、Group I〜III不足への代替候補として今検討すべきはRRBOである。RRBOの製造工程は回収・選別 → 前処理 → 減圧蒸留・薄膜蒸留 → 仕上げ精製 → 粘度別分留・添加剤配合の5段階。APIグループ分類は化学性状(飽和分・硫黄分・粘度指数)で決まるため、廃油由来でもGroup II・IIIとして使用可能。エンジンオイルへの適用可否は基油の出自ではなく、完成油としてのAPI・ILSAC・ACEA・OEM承認・粘度グレード・物性値で判定される。
CHAPTER 03 ── GLOBAL RRBO MARKET

世界のRRBO市場実態と主要プレイヤー

日本国内の議論に入る前に、世界のRRBO市場の実態を確認する。既に商業規模で流通している事実こそが、日本での実装可能性を裏付ける最大のエビデンスである。

3-1. 世界のRRBO主要プレイヤー

海外では既にRRBOが商業規模で流通しており、Group II・Group IIIの主要供給者として実績を積み上げているプレイヤーが存在する。

世界の主要RRBOプレイヤー

  • Safety-Kleen(米国、Clean Harbors傘下):再精製Group II+基油を製造・販売。北米最大級のRRBO供給者として自動車OEM向け実績を蓄積。
  • PURAGLOBE(欧州・ドイツ):再精製Group III / III+基油を製造・販売。高性能合成油系相当のRRBOを実現する数少ないプレイヤー。
  • Avista Oil(欧州・米国):多拠点でRRBO製造、Group II系を中心に供給。
  • Vertex Energy(米国):中規模RRBO製造で船舶油・工業油向けを中心に供給。
  • その他の中規模プレイヤー:欧州・アジア各国で中小規模のRRBOメーカーが並行存在。

3-2. RRBOによる各Groupの製造実績

世界のRRBOプレイヤーの製造実績を、APIグループ別に整理する。全Groupで実績があり、Group III相当まで到達している点が重要である。

API Group 代表的なRRBO製造事例 主要用途
Group I 相当簡易再精製設備・白土処理仕上げ品工業油・低負荷用途
Group II 相当Avista Oil・その他中規模プレイヤー汎用エンジン油・作動油
Group II+ 相当Safety-Kleen(米国)自動車OEM向け・重負荷エンジン油
Group III / III+PURAGLOBE(ドイツ)省燃費指定合成油・高性能エンジン油

3-3. 世界のRRBO市場動向

世界の廃油リサイクル市場は、規制のコンプライアンス・技術の進歩・持続可能な資源管理の必要性の高まりによって推進されている。自動車、製造、海洋、発電などの産業が、廃油の回復と再利用を強化するために高度なろ過、真空蒸留、水処理技術に投資しており、RRBO市場全体は成長基調にある。

世界のRRBO市場推進要因

  • 環境規制:EU廃棄物指令(WFD)、米国EPA使用済み油管理規則、危険な廃棄物処理と二酸化炭素排出量削減に関する政府規制
  • 循環経済(サーキュラーエコノミー)政策:G7・G20・OECD・ISO等の国際的な循環経済推進枠組
  • 自動車OEMの採用:グローバル自動車メーカーがカーボンニュートラル戦略の一環としてRRBO配合オイルを製品ラインアップに追加
  • 持続可能な資源管理:バイオ燃料・代替エネルギー源への需要増加と並行してRRBOへの需要も増加
  • 技術進歩:真空薄膜蒸留、水素化処理技術の高度化で高品質RRBOの製造コストが低下

3-4. 世界事例から見た日本への示唆

世界の実態を踏まえると、以下の3つの示唆が日本に対して得られる。

世界事例から日本への示唆

  1. 技術的な実現性は既に証明済み:Safety-KleenのGroup II+、PURAGLOBEのGroup III/III+の商業実績があり、日本での実装は「未知の技術挑戦」ではない。
  2. グローバルOEM向け実績:自動車OEM向けの品質担保が既に達成されているため、日本の元売り3社・大型トラックメーカーとの整合も理論的には可能。
  3. 輸入経路の存在:既に世界市場に流通している以上、日本への輸入経路確保は物流問題であり技術問題ではない。阪和興業がこの経路を担う立場にある。
この章のまとめ:世界のRRBO市場は既に商業規模で流通しており、Safety-Kleen(Group II+)・PURAGLOBE(Group III/III+)・Avista Oil・Vertex Energy等の主要プレイヤーが自動車OEM向け実績を蓄積。全APIグループ(I〜III相当)でRRBO製造実績があり、技術的な実現性は既に証明済み。市場推進要因は環境規制・循環経済政策・自動車OEMの採用・持続可能な資源管理・技術進歩の5要因。日本への示唆は①技術実現性は証明済み、②グローバルOEM向け品質担保あり、③輸入経路確保が物流問題として現実的、の3点。
CHAPTER 04 ── JAPAN'S CURRENT WASTE OIL FLOW

日本の廃潤滑油フローの現状

世界の実態を踏まえて、日本国内の廃潤滑油フローの現状を整理する。ここで重要な事実は、日本の廃潤滑油の多くが従来「再生重油(燃料油)」として焼却処理されており、水平リサイクル(RRBO化)は限定的だったという構造である。この構造がGroup I不足への代替として今、転換期を迎えている。

4-1. 日本の従来の廃潤滑油処理構造

日本では従来、回収された廃潤滑油の多くが「再生重油(JIS K 2170)」として調整され、ボイラー・工業炉の燃料として使用されてきた。全国オイルリサイクル協同組合が北海道から九州まで各地の組合員企業をとりまとめ、再生重油の流通を担ってきた歴史がある。

従来の日本の廃潤滑油処理フロー

  1. 回収:整備工場・運送事業者・工場から廃潤滑油を回収
  2. 集荷:オイルリサイクル業者の拠点に集約
  3. 調整:水分・固形物除去、粘度・引火点調整
  4. 再生重油化:JIS K 2170準拠の燃料油として調整
  5. 供給先:ボイラー・工業炉・製紙工場・製鉄所等の燃料用途

この構造は、循環経済の観点からは「燃料油化(サーマルリサイクル)」であり、EU等で標準となっている「水平リサイクル(マテリアルリサイクル)」よりも位階の低いリサイクルと位置づけられる。米国EPAの分類でも「潤滑油への再精製」「燃料油化」「石油精製・石化原料化」の3区分のうち、日本は「燃料油化」が中心という状況であった。

4-2. エンジンオイルの水平リサイクル化の困難

日本の廃潤滑油リサイクル業界の中で、「自動車エンジン油の水平リサイクル」は困難な領域とされてきた。新日本油脂工業のリサイクル案内でも、以下の分類が明記されている。

従来の日本の再生潤滑油業界による分類

  • 再生可能となる潤滑油:タービン油、作動油、ギヤー油、軸受油、真空ポンプ油等の工業用潤滑油、鉱油系金属加工油
  • 再生不適な潤滑油自動車エンジン油、防錆油、絶縁油、溶剤が混入した潤滑油

「自動車エンジン油は再生不適」という業界通念は、以下の理由に基づく:①燃焼由来の高温酸化生成物が多く含まれる、②DPF対応の低SAPS添加剤の劣化が複雑、③様々な粘度・銘柄が混ざっており分別回収が難しい、④分子レベル再精製の設備投資が大きい、⑤経済性の観点で再生重油化の方が採算に合う。ENEOS×トヨタの2024年5月実証は、この業界通念を技術的に覆した画期的な突破口である。

4-3. 政府調査による現状把握

環境省の2025年公表資料および経済産業省の2023年委託調査でも、日本の廃潤滑油リサイクルの現状が整理されている。基油再生の事業化には、分別回収・運搬コスト・法制度・補助制度の整備が必要とされている。

政府調査で指摘されている実装課題

  • 分別回収の仕組み:エンジン油と工業油を分けて回収する枠組みが未確立
  • 運搬コスト:全国分散型の発生源から集約するロジスティクスコストが大きい
  • 法制度:廃棄物処理法・化審法・消防法との整合性、有価物か廃棄物かの判断枠組み
  • 補助制度:初期投資・設備投資への政府支援の枠組み整備
  • 品質基準:RRBO配合エンジン油の品質規格・OEM承認の枠組み整備

4-4. 転換期の兆し

「再生不適」だった自動車エンジン油の水平リサイクルが、技術・政策・市場の3つの側面から転換期を迎えつつある。

転換期の兆しの3側面

  • 技術側面:ENEOS×トヨタ2024年5月実証で「再生不適」の通念を覆す成功事例が誕生。海外RRBO技術の輸入・応用の余地も拡大。
  • 政策側面:循環経済(サーキュラーエコノミー)移行加速化パッケージ(2024年12月循環経済関係閣僚会議決定)、経済産業省委託調査事業「潤滑油の安定供給に向けた原料確保の多様化」で政策的裏付け。
  • 市場側面:2026年のGroup I・III不足で「もう一つの答え」への需要が顕在化。中東依存脱却×循環経済のダブルストーリーが業界当事者の関心を集める。
この章のまとめ:日本の廃潤滑油リサイクルは従来、再生重油(燃料油)中心の構造で、自動車エンジン油は「再生不適な潤滑油」とする業界通念があった。政府調査でも分別回収・運搬コスト・法制度・補助制度・品質基準の5つの実装課題が指摘されている。しかし、ENEOS×トヨタ2024年5月実証で「再生不適」の通念を覆す成功事例が誕生、循環経済移行加速化パッケージ・経産省委託調査での政策的裏付け、Group I・III不足による市場需要の顕在化が同時進行し、業界は転換期を迎えつつある。
CHAPTER 05 ── ENEOS × TOYOTA 2024 DEMONSTRATION

ENEOS×トヨタ2024年5月実証の詳細

日本のRRBO実装における最重要事例が、ENEOSがトヨタ自動車の協力のもと2024年5月27日に公式発表した「使用済み潤滑油からの低炭素基油製造実証」である。この実証は「再生不適」の業界通念を技術的に覆す画期的な突破口であり、日本のRRBO実装ロードマップの起点となっている。

5-1. 実証プロジェクトの概要

ENEOS×トヨタ実証プロジェクト概要

  • 発表日:2026年ではなく2024年5月27日(ENEOS公式リリース)
  • 主体:ENEOS株式会社(旧JXTGエネルギー、現ENEOSホールディングス傘下)
  • 協力:トヨタ自動車株式会社
  • 公募事業名:環境省「脱炭素社会を支えるプラスチック等資源循環システム構築実証事業」(令和4年度採択)
  • 実証事業名:「廃潤滑油を活用した潤滑油基油への再生プロセス構築」
  • 実証期間:2022年度から2年間
  • 成果:使用済み潤滑油からの低炭素基油(CO2排出量を抑えた基油)の製造に成功

5-2. 実証の技術内容

技術検討においては、トヨタ自動車の協力のもと市場から集められた使用済みエンジンオイルを原料として使用された。分子レベルまで再精製することでベースオイル(基油)に戻し、これを配合したガソリンエンジンオイル(0W-20)を開発。

実証の技術評価結果

  • 対象製品:粘度グレード0W-20のガソリンエンジンオイル
  • 評価試験ILSAC GF-6のSequence IIIH試験(国際潤滑油標準化認証委員会が定めるガソリンエンジンオイル規格GF-6で規定された高温酸化防止性の国際指標。高温走行をシミュレートした運転パターンに供試した後のエンジンオイルの粘度増加等から高温酸化安定性を評価)
  • 試験結果:低炭素基油を配合したガソリンエンジンオイルは、従来の原油由来基油を配合したガソリンエンジンオイルと同等の高温酸化安定性を有することが確認された

5-3. 実証の意義

この実証の意義は、単なる技術成功ではなく、日本のRRBO実装における「再生不適」の業界通念を技術的に覆した点にある。以下の3点で画期的である。

ENEOS×トヨタ実証の3つの意義

  1. 技術的意義:自動車エンジン油の水平リサイクルが国内で実証されたことで、業界通念を技術的に覆した。特にILSAC GF-6の国際規格レベルの性能担保は、認証取得へのハードルを大きく下げる根拠となる。
  2. 供給チェーン的意義:ENEOS(元売り3社最大手・国内シェア約4割)とトヨタ(世界最大自動車メーカーの1つ)の連携により、実装後の供給チェーン統合が視野に入る。回収→再精製→配合→販売→OEM採用の全工程を国内完結型で構築できる可能性が示された。
  3. 政策的意義:環境省公募事業(脱炭素社会を支えるプラスチック等資源循環システム構築実証事業)の下での成功事例として、政府支援の下でRRBO実装が進む先例となる。

5-4. 今後の展開(ENEOS公式表明)

ENEOSは実証成功発表時に、以下の今後の展開方針を公式に表明している。

ENEOSの今後の展開方針

  • 製造体制の早期実現:使用済み潤滑油を原料とした低炭素基油の製造体制の早期実現を図る
  • 実証実験のスケールアップ:実証規模から商業規模への段階的拡大
  • 製油所・事業所の既存設備の有効利用:川崎・根岸・水島製油所等の既存インフラを活用
  • ステークホルダーとの対話:当該事業活動における積極的かつ丁寧な対話を進める

5-5. 並行して進む関連取り組み

ENEOSは低炭素基油の実証と並行して、以下の関連取り組みを進めている。これらはRRBO実装と統合されたカーボンニュートラル戦略の一環である。

ENEOSの関連取り組み

  • 植物由来ベースオイル100%使用エンジンオイル(2024年12月開発成功、粘度グレード0W-20、API SP / ILSAC GF-6認証取得)
  • ENEOS GXシリーズ(植物由来の原料を使用した潤滑油・グリース商品)
  • 潤滑油サプライチェーンのライフサイクル全体のCO2排出量可視化
  • 次世代規格対応:API SQ / ILSAC GF-7、JASO GLV-2への対応検討
この章のまとめ:ENEOS×トヨタは2024年5月27日、環境省公募事業「脱炭素社会を支えるプラスチック等資源循環システム構築実証事業」(令和4年度採択、2022年度から2年間の実証期間)の下で「廃潤滑油を活用した潤滑油基油への再生プロセス構築」を進め、使用済み潤滑油からの低炭素基油製造に成功。ILSAC GF-6のSequence IIIH試験で原油由来基油と同等の高温酸化安定性を確認。この実証は技術的(業界通念を覆す)・供給チェーン的(国内完結型構築の可能性)・政策的(政府支援下の先例)の3つの意義を持つ。ENEOSは製造体制の早期実現・スケールアップ・既存設備活用・ステークホルダー対話の4方針を公式表明している。
CHAPTER 06 ── HANWA COMPANY & METI COMMISSIONED STUDY

阪和興業の輸入ネットワークと経産省委託調査

日本のRRBO実装のもう一つの重要な軸が、輸入経路の確保である。阪和興業株式会社が「唯一の再生ベースオイル輸入商社」として位置づけられ、経済産業省委託調査事業に協力する立場にある。この章では、阪和興業の実務ネットワークと政府調査との関係を整理する。

6-1. 阪和興業の基油取扱ラインアップ

阪和興業株式会社は化学品・潤滑油原料部門で、Group I〜Group Vの全グループの基油に加え、PAO・パラフィン・ナフテン・アロマ・流動パラフィン・再生ベースオイル等の様々な基油をアジア市場を中心に供給している。

阪和興業の基油取扱ラインアップ

  • API Group I〜Group V:全グループの基油をアジア市場中心に供給
  • PAO(ポリアルファオレフィン):Group IV完全合成油の原料
  • パラフィン・ナフテン・アロマ・流動パラフィン:特殊用途向け基油
  • 再生ベースオイル(RRBO):唯一の再生ベースオイル輸入商社としての位置づけ
  • その他:バイオナフサ・SAF・バイオディーゼル・UCO・プラ/タイヤ分解油・再生樹脂等の循環経済関連商品

6-2. 「唯一の再生ベースオイル輸入商社」としての立場

阪和興業は自社サイトで「唯一の再生ベースオイル輸入商社」と自らを位置づけており、以下の実務体制で日本のRRBO輸入を担っている。

阪和興業のRRBO輸入体制

  • 従来からの取扱実績:海外で製造されているRRBOの取扱いを継続
  • 潤滑油品質委員会オブザーバー参加:日本の潤滑油業界の品質基準策定に関与
  • 各国のRRBO製造業者へのヒアリング:Safety-Kleen・PURAGLOBE等のグローバルRRBOプレイヤーとの継続的な情報交換
  • 交渉・サンプル評価:日本向け輸入品の交渉と品質評価
  • グローバルOEM向け実績の活用:グローバル自動車OEM向けの実績をベースにした国内普及活動

6-3. 経済産業省委託調査事業への協力

阪和興業は経済産業省の委託調査事業「潤滑油の安定供給に向けた原料確保の多様化に関する調査・分析事業」にヒアリングで協力しており、その内容は経済産業省の調査資料に掲載されている。この事実は、政府が公式にRRBOを「原料確保の多様化」の選択肢として検討していることを示す重要なエビデンスである。

経済産業省委託調査の位置づけ

  • 事業名:潤滑油の安定供給に向けた原料確保の多様化に関する調査・分析事業
  • 目的:中東・韓国依存の脱却、代替原料の多様化の政策的検討
  • 調査対象:RRBO(再生ベースオイル)を含む代替原料の実態
  • ヒアリング対象:阪和興業(唯一の再生ベースオイル輸入商社)等の業界当事者
  • 成果物:経産省調査資料として公表

6-4. 阪和興業の段階的アプローチ方針

阪和興業は、日本のRRBO実装について段階的アプローチ方針を公式に表明している。以下の3段階で社会実装を進めるという考え方である。

阪和興業の段階的アプローチ方針

  1. 第1段階:グローバルOEM向け実績品の輸入普及:グローバルOEM向けの実績を積み重ねてきた再生基油の輸入品の国内普及を促す。既に品質担保された輸入RRBOで国内市場を立ち上げる。
  2. 第2段階:国内普及の拡大:輸入RRBOの取扱量を段階的に拡大し、業界の受容性を高める。
  3. 第3段階:国内精製品の有効活用:最終的に国内精製品を有効活用していく形での社会実装を実現。

この段階的アプローチは、ENEOS×トヨタの国内商業生産立ち上げと並行することで、輸入と国内生産の両輪でRRBO実装を進める戦略と整合する。輸入経路で市場需要を先に立ち上げ、国内生産が本格化した段階でシームレスに国内品へ移行する構想である。

6-5. PENTAS FLORA JAPAN等の他プレイヤー

阪和興業に加え、PENTAS FLORA JAPAN等のプレイヤーもRRBOの日本向け案内を行っている。また海外の主要RRBOプレイヤー(Avista Oil・Vertex Energy等)についても、日本代理店の設置や商社経由での輸入経路確保の可能性が業界内で議論されている。

その他の日本向けRRBOプレイヤー

  • PENTAS FLORA JAPAN:RRBOのGroup II+ N150、Group III 5cStを日本向けに案内
  • Avista Oil(欧州・米国)日本代理店経由の輸入可能性:多拠点でGroup II系RRBOを製造しており、商社経由での日本向け輸入経路確保の余地あり
  • Vertex Energy(米国):中規模RRBO製造で船舶油・工業油向け中心。日本の船舶事業者・工業向け商社経由の輸入経路の可能性
  • その他の中小規模商社:既存の潤滑油輸入商社がRRBO商流への参入を検討する動き

供給量・最低ロット・タンク/ドラム/ISOタンク条件・長期契約の可否は個別確認が必要だが、日本のRRBO輸入経路が「阪和興業一社」ではなく複数プレイヤーで構成される市場になりつつある点は重要である。特にDH-2代替を検討する運送業界・整備業界にとって、輸入経路の多様化は調達リスク分散の観点で重要な意味を持つ。

この章のまとめ:阪和興業株式会社は「唯一の再生ベースオイル輸入商社」として、Group I〜V基油に加えRRBOをアジア市場中心に供給。潤滑油品質委員会にオブザーバー参加、各国のRRBO製造業者(Safety-Kleen・PURAGLOBE等)へのヒアリング・交渉・サンプル評価を実施。経済産業省委託調査事業「潤滑油の安定供給に向けた原料確保の多様化に関する調査・分析事業」にヒアリング協力しており、政府が公式にRRBOを代替原料として検討していることを示すエビデンス。阪和興業は「輸入品の国内普及→国内普及の拡大→国内精製品の有効活用」の3段階アプローチを公式表明。PENTAS FLORA JAPANも日本向けRRBOを案内しており、輸入経路が複数プレイヤーで構成されつつある。
CHAPTER 07 ── DH-2 APPLICABILITY

DH-2規格への適用可能性と認証ハードル

エンジンオイル危機の中核であるDH-2大型トラック油に対して、RRBOがどこまで代替候補となり得るかを技術的に検証する。理論上の可能性、実務上のハードル、認証取得の必要性を整理する。

7-1. DH-2規格の要件(復習)

DH-2はDPF搭載大型ディーゼルトラック用の日本独自のJASO M355規格に対応するエンジン油である。以下の3つの技術要件が特徴。

DH-2の3つの技術要件

  • 低SAPS要件:硫酸灰分1.0%以下・リン0.12%以下・硫黄0.5%以下。DPFを目詰まりさせない設計。
  • Group Iベースオイル主体の配合:業界標準として国内元売り3社(ENEOS・出光・コスモ)がこの配合で製造。
  • 大型ディーゼル高負荷耐久性:長距離連続運転・高負荷条件下での耐熱性・耐酸化性・耐摩耗性の性能要件。

7-2. RRBOによるDH-2要件充足の理論的可能性

RRBOがDH-2の技術要件を満たせるかを、化学性状ベースで検証する。結論として、化学性状としては要件を満たす候補となり得るが、実務上は認証取得の新規プロセスが必要となる。

DH-2要件 RRBO側の対応可能性 実務上の課題
硫酸灰分1.0%以下製造段階で管理可能原料廃油の混入管理が必要
リン0.12%以下製造段階で管理可能添加剤配合の再設計が必要
硫黄0.5%以下水素化処理で達成可能Group I相当なら要件充足しやすい
Group Iベースオイル相当簡易再精製品で対応可能整備マニュアル指定との整合
大型ディーゼル耐久性実証試験で確認必要ENEOS×トヨタ実証は乗用車0W-20対象
JASO M355認証新規取得が必要時間・コスト・試験工程

7-3. JASO M355認証取得のハードル

DH-2として市場に供給するには、日本自動車工業会(JAMA)が制定したJASO M355規格の認証取得が必要である。この認証取得は、以下の複数のハードルを乗り越える必要がある。

JASO M355認証取得の実務ハードル

  1. 試験項目の充足:規格で規定された全試験項目(酸化安定性・耐摩耗性・耐熱性・DPF適合性等)に合格する必要
  2. 大型ディーゼルエンジン試験:乗用車エンジンより高負荷・長時間の実機試験が必要
  3. DPF適合性試験:低灰分・低リン・低硫黄の実運用条件下での長期試験
  4. 元売り3社・大型トラックメーカー承認:日野・いすゞ・ふそう・UDトラックス等の整備マニュアル指定との整合
  5. 試験期間・コスト:初期認証取得に1〜2年、費用は数千万円規模

7-4. ENEOS実証の意義と次のフェーズ

ENEOS×トヨタの2024年5月実証はガソリン車用0W-20(ILSAC GF-6対応)を対象とした乗用車向けの成功事例である。DH-2への適用は次のフェーズとなり、以下の段階的展開が想定される。

ENEOS実証からDH-2適用への段階的展開

  1. フェーズ1(達成済み):乗用車ガソリン0W-20(ILSAC GF-6)でSequence IIIH試験合格
  2. フェーズ2(想定):他の乗用車粘度(5W-30・0W-16等)・API SP等での実証拡大
  3. フェーズ3(想定):ディーゼル車向け(API CK-4等)での実証
  4. フェーズ4(DH-2適用の本命):DH-2規格(JASO M355)での実証・認証取得
  5. フェーズ5(本格商業化):DH-2適用RRBO配合オイルの市場投入

フェーズ2〜4に各1〜2年を要すると想定すると、DH-2適用の本格商業化は2027〜2029年頃が現実的な時間軸となる。この間、DH-2用途はGroup I原料の輸入拡大・調達分散・直販スキーム活用等の既存対応策で凌ぐ必要がある。

7-5. DH-2以外の大型ディーゼル油への適用

DH-2認証取得は時間を要するが、DH-2以外の大型ディーゼル油(API CK-4・CJ-4等の海外規格対応品)は、より早期にRRBO配合品の実用化が可能な余地がある。

DH-2以外の適用候補

  • 建設機械用エンジン油:大型ホイールローダー・ブルドーザー等。整備マニュアル指定の範囲でRRBO配合品への切り替え検討
  • 船舶用エンジン油:海事分野。IMO規制対応の中でRRBO配合品の導入検討
  • 気動車用エンジン油:JR6社の非電化区間ディーゼルカー。整備部門との個別協議
  • 大型農業機械用エンジン油:大型トラクター等の一部
この章のまとめ:RRBOのDH-2要件充足は、化学性状としては可能な候補だが、実務上はJASO M355認証の新規取得が必要(試験期間1〜2年、費用数千万円規模)。ENEOS×トヨタ実証はガソリン車0W-20(ILSAC GF-6)が対象で、DH-2適用の本格商業化は2027〜2029年頃が現実的な時間軸。この間、DH-2用途は既存対応策で凌ぐ必要がある。並行して、DH-2以外の大型ディーゼル油(建設機械・船舶・気動車・農業機械)への適用は、より早期に実用化可能な余地がある。
CHAPTER 08 ── HIGH-VISCOSITY BOTTLENECK

高粘度品・特殊用途での代替の難所

RRBOの適用可能性を語る上で、避けて通れないのが高粘度Group I品・特殊用途での代替難度である。SN500・600N・150BS(ブライトストック)・工業用ギヤ油・船舶油・プロセスオイルなど、RRBO単独での代替が難しい領域を整理する。

8-1. Group I粘度別の代替可能性の整理

Group Iベースオイルは粘度別に複数グレードが存在し、RRBOによる代替可能性はグレードによって大きく異なる。SN150(軽・中粘度)は代替しやすいが、SN500・600N・150BS(高粘度)は難度が高い。

Group Iグレード 粘度・特徴 RRBOによる代替可能性
SN150 相当軽・中粘度RRBO Group II+で代替しやすい(PENTAS FLORA JAPAN案内品等)
SN500 相当中粘度粘度と揮発性を含めた配合調整が必要
600N 相当中〜高粘度単独RRBOでは限界、PAO・エステルとの混合処方検討
SN800 相当高粘度RRBO単独代替は困難
150BS(ブライトストック)超高粘度RRBOだけでの完全代替は難度が最高

8-2. 高粘度品代替が難しい構造的理由

高粘度Group I品のRRBO代替が難しい構造的理由を整理する。原料構成と設備の両方に起因する。

高粘度品代替の構造的困難さ

  • 再精製RRBOの粘度分布:一般にN100〜N220程度の軽・中粘度品が主で、ブライトストック相当まで安定的に作るには特別な原料構成と設備が必要
  • 原料廃油の性状:使用済み潤滑油の平均粘度は軽・中粘度品が中心のため、高粘度成分の抽出量が限定的
  • 減圧薄膜蒸留の効率:高粘度留分を効率的に分離するには特殊な蒸留設備が必要
  • 世界的にもGroup Iブライトストック能力の縮小継続:原油由来のGroup Iブライトストック製造能力自体が世界的に縮小しており、RRBO代替の需要は増大しているが供給は追いつかない

8-3. 高粘度代替の複合処方アプローチ

高粘度Group I品のRRBO単独代替が難しい中で、業界では複合処方によるアプローチが検討されている。

高粘度Group I代替の複合処方候補

  • 高粘度Group II:Chevron Pascagoula NEXBASE 4 XP等の新規供給設備で高粘度Group IIの供給拡大が期待
  • ポリイソブチレン(PIB):粘度指数向上剤・増粘剤として使用
  • PAO(ポリアルファオレフィン):Group IV完全合成油、粘度・耐熱性の補完
  • エステル系(Group V):特殊な化学構造の合成油、極性成分としての機能補完
  • RRBO Group II+:中粘度領域の主原料

これらを組み合わせた複合処方により、Group Iブライトストック相当の粘度・性能を実現する試みが世界的に進められている。日本の元売り3社・独立系メーカーも同様のアプローチを検討していると推定される。

8-4. 特殊用途での適用課題

エンジンオイル・作動油の主要用途以外に、Group Iベースオイルは特殊な物性を要する用途で使用されており、これらへのRRBO適用にも個別の課題がある。

特殊用途でのRRBO適用課題

  • 工業用ギヤ油:Group I芳香族分の溶解性が重要。RRBO Group II系への変更で添加剤の析出・スラッジ・シール材への影響のリスク
  • 船舶用オイル:長期連続運転・海洋環境下の耐久性、IMO規制対応との整合
  • プロセスオイル:ゴム・樹脂等への溶解性、色相・臭気・純度の厳格な要件
  • 変圧器油・絶縁油:電気絶縁性の厳格な要件、RRBO由来品での代替は現時点で困難
  • 金属加工油:切削・研削性能、Group I芳香族の役割

これらの用途では、単純にRRBOへ置換するのではなく、添加剤処方の全面的な見直しが必要となる場合がある。用途別の個別評価と実証試験が不可欠である。

この章のまとめ:Group I粘度別のRRBO代替可能性は、SN150相当は代替しやすいがSN500・600N・SN800・150BSと高粘度になるほど難度が上がる。特に150BS(ブライトストック)はRRBO単独での完全代替が難度最高。構造的理由は再精製RRBOの粘度分布・原料廃油の性状・減圧薄膜蒸留の効率・世界的Group Iブライトストック能力の縮小継続の4点。代替アプローチは高粘度Group II・PIB・PAO・エステル系(Group V)・RRBO Group II+の複合処方が世界的に検討中。工業用ギヤ油・船舶油・プロセスオイル・変圧器油・金属加工油等の特殊用途は用途別の個別評価が不可欠。
CHAPTER 09 ── ROADMAP

実務判断のロードマップ(時間軸別対応)

RRBOの技術的可能性・実装状況を踏まえて、業界当事者・調達担当者が「いつ・何を・どうすべきか」の実務判断ロードマップを整理する。短期・中期・長期の3段階で対応方針を明確化する。

9-1. 短期・中期・長期の3段階見通し

SHORT ── 2026年下期(〜10月頃)
短期:既存対応策の徹底、RRBO情報収集

現在進行中のエンジンオイル危機の緊急局面にはRRBOは間に合わない。既存対応策(元売り3社+独立系メーカー調達分散、潤滑油直販スキーム207組織参加、荷主との価格スライド交渉、安全在庫確保)を徹底。並行して、阪和興業・PENTAS FLORA JAPAN等の輸入経路の情報収集、ENEOS・トヨタの動向モニタリング、経産省委託調査資料の入手を進める段階。中期に向けた準備期間と位置づける。

MID ── 2026年11月〜2028年
中期:輸入RRBO試行、ENEOS商業生産期待

Group I原料の段階的安定化とパラレルに、RRBOが選択肢として現実化する見通し。輸入RRBO(阪和興業・PENTAS FLORA JAPAN経由)を用途別に試行導入、認証取得・OEM承認との整合を確認。ENEOSは実証実験のスケールアップと製油所既存設備の有効利用を進めており、商業生産の立ち上げが期待される。運送業界・整備業界は用途別(軽負荷→重負荷・DH-2以外→DH-2)の段階的置換を検討。

LONG ── 2028年以降
長期:中東依存脱却×循環経済の構造転換

循環経済(サーキュラーエコノミー)移行加速化パッケージ(2024年12月循環経済関係閣僚会議決定)の政策的追い風のもと、日本の潤滑油サプライチェーンは構造転換期に入る。DH-2認証RRBO配合品の市場投入、国内商業生産の本格化、輸入と国内生産の両輪体制の確立。中東依存脱却×循環経済のダブルストーリーで、日本独自の潤滑油循環モデルの構築が進む可能性。

9-2. 業界当事者別の実務判断ポイント

業界当事者の立場別に、RRBOへの向き合い方の実務判断ポイントを整理する。

業界当事者別の実務判断ポイント

  • 元売り3社(ENEOS・出光・コスモ):ENEOS×トヨタ実証の追随、独自RRBO開発の検討、既存製油所設備の有効利用、大型トラックメーカーとの認証取得協力
  • 大型トラックメーカー(日野・いすゞ・ふそう・UDトラックス):整備マニュアル指定の更新余地の検討、RRBO配合品の実車試験、保証範囲の再定義
  • 独立系潤滑油メーカー(TAKMO・キャストロール等):輸入RRBOの試行、独自ブランドでのRRBO配合品開発、輸入商社との連携
  • 運送事業者:既存対応策の徹底、中期RRBO試行への準備、業界団体(全日本トラック協会等)からの情報収集
  • 整備工場:メーカー承認範囲内でのRRBO配合品の受容、顧客への説明準備
  • 荷主・製造業者:物流費上昇を含む複合的コスト構造の理解、運送事業者との価格スライド条項の追加交渉

9-3. 調達担当者向けの仕入れ時確認項目

RRBOをGroup Iの代替として評価する場合、価格だけでなく最低限以下の項目確認が必要である。

RRBO仕入れ時の確認項目(基油性状)

  • APIグループ(I〜V)
  • 40℃・100℃動粘度
  • 粘度指数
  • 流動点・引火点
  • NOACK蒸発量
  • 硫黄分・飽和分・色相
  • 酸価・水分・金属分・塩素分
  • アニリン点・溶解性

RRBO仕入れ時の確認項目(品質管理)

  • 原料廃油の回収元と分別方法
  • ロットごとの分析表
  • 工場・試験所のISO認証
  • バッチ間の粘度・色・臭気の変動
  • 輸入時のSDS、化審法、消防法上の扱い
  • 年間供給可能量と供給停止時の代替拠点

RRBO仕入れ時の確認項目(完成油評価)

  • 添加剤との相溶性
  • シール膨潤性
  • 酸化安定性
  • スラッジ・ワニス発生
  • 抗乳化性・防錆性
  • 摩耗・極圧性能
  • API・ILSAC・ACEA・OEM承認

9-4. モニタリングしたい情勢の指標

RRBO関連でモニターしておくべき情勢

  • ENEOSの実証実験スケールアップ進捗:公式リリースとしての続報
  • 経済産業省委託調査資料の公表内容:「潤滑油の安定供給に向けた原料確保の多様化」の詳細
  • 阪和興業の輸入取扱量の変化:業界紙・アニュアルレポート等の情報
  • 他の元売り(出光・コスモ)のRRBO開発動向:独自事業立ち上げの可能性
  • Safety-Kleen・PURAGLOBE等の日本進出動向:日本市場向け輸出体制の変化
  • 循環経済関連の政策・補助制度の整備:経産省・環境省の予算措置

情報収集ルート(業界紙・専門メディア)

  • LOGISTICS TODAY:物流業界全般の速報・分析。運送事業者向けの潤滑油調達動向の記事も継続チェック
  • トラックニュース:整備・部品業界の週次動向。DH-2等の運送業界向け情報の一次ソース
  • ジュンツウネット21:潤滑油・グリース専門情報サイト。ENEOS等のメーカー動向・技術情報の詳細
  • 物流ニッポン・運輸新聞:物流業界紙。運送事業者の実務動向・業界団体の情報
  • RIM Intelligence:化学・エネルギー市況情報。国際的なベースオイル・添加剤市況
  • 経済産業省・環境省の公表資料:政策動向・委託調査資料の一次ソース
この章のまとめ:短期(〜2026年10月)は既存対応策の徹底とRRBO情報収集の準備段階、中期(2026年11月〜2028年)は輸入RRBO試行とENEOS商業生産期待、長期(2028年以降)は中東依存脱却×循環経済の構造転換期。業界当事者別の実務判断ポイントは元売り3社・大型トラックメーカー・独立系メーカー・運送事業者・整備工場・荷主の6つの立場で異なる。調達担当者向けの仕入れ時確認項目は基油性状・品質管理・完成油評価の3カテゴリーで整理。モニタリング指標はENEOS実証・経産省調査資料・阪和興業取扱量・他元売り動向・海外プレイヤー日本進出・循環経済政策の6点。
CHAPTER 10 ── CIRCULAR ECONOMY POLICY

循環経済パッケージとの整合性・政策的追い風

RRBOの実装は個別企業の技術開発だけで進むものではなく、循環経済(サーキュラーエコノミー)政策の枠組みとの整合が不可欠である。この章では、日本政府の循環経済政策の全体像と、RRBO実装がその中でどのように位置づけられているかを整理する。

10-1. 循環経済(サーキュラーエコノミー)移行加速化パッケージ

2024年12月、循環経済に関する関係閣僚会議で「循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行加速化パッケージ」が決定された。これは日本政府として、国際競争力のある価格で安定的に供給できる体制構築を目指し、研究開発や設備導入支援などの取組を促進する政策枠組みである。

循環経済移行加速化パッケージの位置づけ

  • 決定年月:2024年12月循環経済に関する関係閣僚会議
  • 目的:国際競争力のある価格で安定的に供給できる体制構築
  • 手段:研究開発支援、設備導入支援等の促進
  • 対象領域:プラスチック・繊維・金属・食品残さ・木質バイオマス等、幅広い資源循環分野
  • 潤滑油分野の位置づけ:廃潤滑油の資源循環はこのパッケージの直接対象ではないが、資源循環経済小委員会等での議論の中で関連分野として位置づけられる

10-2. 経済産業省・環境省の関連取り組み

経済産業省と環境省の関連取り組みを整理する。RRBO実装は複数省庁の政策枠組みが交差する領域にある。

経産省・環境省のRRBO関連取り組み

  • 経済産業省・産業構造審議会 資源循環経済小委員会:2023年9月20日第1回、2026年4月3日第13回まで継続的に議論。廃棄物リサイクルの政策枠組みを検討
  • 経済産業省委託調査事業「潤滑油の安定供給に向けた原料確保の多様化に関する調査・分析事業」:阪和興業等のヒアリング協力を含む調査。RRBOを含む代替原料の実態把握
  • 環境省公募事業「脱炭素社会を支えるプラスチック等資源循環システム構築実証事業」:令和4年度採択事業の中でENEOSの「廃潤滑油を活用した潤滑油基油への再生プロセス構築」が実施
  • 資源循環経済政策の現状と課題:G7・G20・OECD・ISO等の国際的な循環経済推進枠組との整合

10-3. カーボンニュートラルとの整合性

RRBOは単なる原料代替ではなく、日本のカーボンニュートラル戦略と整合する戦略的選択肢である。ENEOSも「潤滑油のライフサイクル全体で排出するCO2の削減」を実証の目的の1つとして明示している。

RRBOとカーボンニュートラル戦略の整合

  • ライフサイクルCO2削減:原油掘削・輸送・精製プロセスの回避による削減効果
  • 資源循環(サーキュラー):燃焼処理(サーマルリサイクル)から水平リサイクル(マテリアルリサイクル)への位階向上
  • 中東依存脱却:エネルギー安全保障の観点での戦略的意義
  • グローバル競争力:欧州・北米が先行する循環経済モデルへのキャッチアップ
  • OEM戦略との整合:グローバル自動車OEMのカーボンニュートラル戦略との整合(トヨタ・ホンダ・日産等の欧州向け輸出戦略等)

10-4. 業界当事者に求められる政策関与

循環経済パッケージの下でRRBOを実装するには、業界当事者が政策形成に積極的に関与する必要がある。以下の関与ポイントを整理する。

業界当事者の政策関与ポイント

  • 資源循環経済小委員会・関連ワーキンググループへの意見提出:経産省の政策形成プロセスへの参画
  • 循環経済関連の補助制度・設備投資支援の申請:ENEOSの環境省公募事業採択のような支援活用
  • 業界団体(潤滑油品質委員会等)を通じた意見集約:業界横断的な調整
  • OEM・調達担当者との情報共有:RRBOの認証取得プロセスへの理解共有
  • 国際的なRRBO動向のモニタリング:欧州・北米の政策・市場動向の追跡
この章のまとめ:循環経済(サーキュラーエコノミー)移行加速化パッケージ(2024年12月循環経済関係閣僚会議決定)が政策的追い風を提供。経済産業省・産業構造審議会 資源循環経済小委員会での継続的議論、経産省委託調査事業「潤滑油の安定供給に向けた原料確保の多様化」、環境省「脱炭素社会を支えるプラスチック等資源循環システム構築実証事業」が3つの政策ハブ。RRBOはライフサイクルCO2削減・資源循環位階向上・中東依存脱却・グローバル競争力・OEM戦略整合の5点でカーボンニュートラル戦略と整合。業界当事者は資源循環経済小委員会への意見提出・補助制度活用・業界団体を通じた意見集約・OEMとの情報共有・国際動向モニタリングの5点で政策関与を進めるべきである。
CHAPTER 11 ── GLOSSARY & SOURCES

用語集・情報源

この記事で使用した専門用語と主要情報源を整理する。業界当事者・調達担当者の情報収集の起点として活用いただきたい。

11-1. 用語集

RRBO(Re-Refined Base Oil、再精製基油)
使用済みエンジンオイル・作動油などの廃潤滑油を蒸留・水素化処理などで分子レベルまで再精製し、再びエンジンオイル・作動油・ギヤ油の原料として使える基油に戻したもの。
再生重油(JIS K 2170)
廃油から水分や固形物を除き、燃料として調整したもの。ボイラー・工業炉向け。日本の廃潤滑油処理の従来の主流だった燃料油化のカテゴリー。
再調整油(再生潤滑油)
ろ過、脱水、遠心分離、添加剤補充などを行った再利用油。一部の作動油、切削油、低負荷用途向け。
水平リサイクル(マテリアルリサイクル)
使用済み製品を、同じ用途の製品原料として再利用するリサイクル形態。RRBO化はこの位階に位置づけられる。燃焼処理(サーマルリサイクル)より循環経済的な位階が高い。
APIグループ分類
アメリカ石油協会(API)が定めるベースオイルの分類。Group I〜Vの5グループがあり、飽和分・硫黄分・粘度指数の化学性状で分類される。
低SAPS(低灰分)
SAPS = Sulfated Ash(硫酸灰分)・Phosphorus(リン)・Sulfur(硫黄)の頭文字。DPFを目詰まりさせないため、これらの含有量を抑えた設計。DH-2の必須要件。
JASO M355
日本自動車工業会(JAMA)が2004年に制定した日本独自のディーゼルエンジン油規格。DPF対応の低SAPS要件が特徴。DH-2エンジン油はこの規格に対応。
ILSAC GF-6
国際潤滑油標準化認証委員会(ILSAC)が定めるガソリンエンジンオイル規格。省燃費指定オイルの性能規定。ENEOS×トヨタ実証がこの規格レベルで性能担保。
Sequence IIIH試験
ILSAC GF-6で規定された高温酸化防止性の国際指標。高温走行をシミュレートした運転パターンに供試した後のエンジンオイルの粘度増加等から高温酸化安定性を評価。
SN500・600N・150BS(ブライトストック)
Group Iベースオイルの粘度別グレード。SN150(軽・中粘度)は代替しやすいが、SN500・600N・150BS(高粘度)になるほどRRBO単独での代替が難度が高い。
循環経済(サーキュラーエコノミー)
資源を「作って→使って→捨てる」のリニアな経済モデルから、「作って→使って→回収→再利用」の循環モデルへの転換を目指す経済枠組み。2024年12月に日本政府が移行加速化パッケージを閣議決定。
Pearl GTL
カタールにある世界最大の合成油原料工場。Shell/QatarEnergyの合弁事業。損傷影響で修復まで約1年(2026年7月5日CEO表明)。Group III世界的断絶の中心的原因。

11-2. 主な情報源

政府・業界団体
  • 経済産業省|産業構造審議会 資源循環経済小委員会(2023年9月20日第1回〜2026年4月3日第13回)
  • 経済産業省|委託調査事業「潤滑油の安定供給に向けた原料確保の多様化に関する調査・分析事業」
  • 環境省|公募事業「脱炭素社会を支えるプラスチック等資源循環システム構築実証事業」(令和4年度採択)
  • 循環経済に関する関係閣僚会議|「循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行加速化パッケージ」(2024年12月決定)
  • 日本自動車工業会(JAMA)|JASO M355規格制定(2004年)
  • 日本産業廃棄物処理振興センター|廃油リサイクルの現状に関する調査
元売り・潤滑油メーカー
  • ENEOS株式会社|「使用済み潤滑油の再利用に向けた実証において低炭素基油の製造に成功」2024年5月27日公式リリース
  • ENEOS株式会社|植物由来ベースオイル100%使用エンジンオイル開発(2024年12月)
  • ENEOSホールディングス|3R推進 ESGデータブック(環境)
  • トヨタ自動車株式会社|ENEOS実証への協力(市場から集めた使用済みエンジンオイルの提供)
  • 出光興産|千葉事業所・愛知製油所
  • コスモ石油|四日市・堺製油所
  • Shell / QatarEnergy CEO Saad al-Kaabi|Pearl GTL約1年修復発表(2026年7月5日)
商社・RRBOプレイヤー
  • 阪和興業株式会社|「唯一の再生ベースオイル輸入商社」、化学品・潤滑油原料部門、経産省委託調査事業へのヒアリング協力
  • PENTAS FLORA JAPAN|RRBO Group II+ N150、Group III 5cStの日本向け案内
  • Safety-Kleen(米国、Clean Harbors傘下)|再精製Group II+基油の商業生産
  • PURAGLOBE(ドイツ)|再精製Group III / III+基油の商業生産
  • 新日本油脂工業|工業用潤滑油の再生事業(エンジン油は「再生不適」と分類)
  • 全国オイルリサイクル協同組合|再生重油(JIS K 2170)の全国流通
国際機関・分析
  • 米国環境保護庁(EPA)|使用済み油の3区分(潤滑油再精製・燃料油化・石油精製原料化)
  • 米国エネルギー省(DOE)|再精製設備の技術報告
  • API(アメリカ石油協会)|ベースオイル分類基準・基油変更時の追加試験要件
  • ILSAC(国際潤滑油標準化認証委員会)|GF-6規格・Sequence IIIH試験
この章のまとめ:用語集12項目(RRBO・再生重油・再調整油・水平リサイクル・APIグループ分類・低SAPS・JASO M355・ILSAC GF-6・Sequence IIIH試験・Group I粘度別グレード・循環経済・Pearl GTL)と、政府・業界団体、元売り・潤滑油メーカー、商社・RRBOプレイヤー、国際機関・分析の4グループから主要情報源を整理しました。もっと詳しく知りたい方は、【エンジンオイル完全まとめ】の親カテゴリマップから他の詳細記事を参照ください。
CHAPTER 12 ── FAQ, SUMMARY & DISCLAIMER

FAQ・まとめ・免責事項

この記事の内容を踏まえて、業界当事者・調達担当者から寄せられる典型的な質問を7問に整理し、要点をまとめ、免責事項をお伝えします。

12-1. よくある質問(FAQ・7問)

RRBOとは何ですか、通常の再生油との違いは何ですか

RRBO(Re-Refined Base Oil、再精製基油)は、使用済みエンジンオイル・作動油などの廃潤滑油を蒸留・水素化処理などで分子レベルまで再精製し、再びエンジンオイル・作動油・ギヤ油の原料として使える基油に戻したもの。日本のリサイクル油には3種類あり、①再生重油(廃油から水分等を除き燃料として調整、JIS K 2170準拠、ボイラー・工業炉向け)、②再調整油(ろ過・脱水・遠心分離・添加剤補充で低負荷用途に再利用)、③RRBO(分子レベル再精製、エンジン油・作動油・ギヤ油の原料)に分類される。日本では従来、回収された廃潤滑油の多くが再生重油として燃焼処理され、水平リサイクル(RRBO化)は限定的であった。米国EPAも使用済み油の利用方法を「潤滑油への再精製」「燃料油化」「石油精製・石化原料化」の3区分に整理しており、Group I〜III不足への代替候補として今検討すべきは再生重油ではなくRRBOである。

RRBOはAPI Group I・II・IIIの代替になるのですか

技術的にはYes。APIのグループ分類は「原油から作ったか、廃油から作ったか」ではなく、飽和分・硫黄分・粘度指数の3つの化学性状のみで決まる。具体的にはGroup I(飽和分90%未満または硫黄分0.03%超・粘度指数80以上120未満)、Group II(飽和分90%以上・硫黄分0.03%以下・粘度指数80以上120未満)、Group III(飽和分90%以上・硫黄分0.03%以下・粘度指数120以上)。十分に精製された廃油由来基油は、Group IIやGroup IIIとして使用可能。実際に海外ではSafety-KleenがRRBO Group II+基油を、PURAGLOBEがRRBO Group III/III+基油を製造・販売している。反対に、簡易的な溶剤抽出や白土処理だけで仕上げたものは、Group I相当になる場合がある。米国エネルギー省の報告でも、現代的な再精製設備が減圧薄膜蒸留と水素化・溶剤抽出・白土処理による仕上げで主にGroup IまたはGroup IIの基油を製造すると説明されている。

ENEOSとトヨタ自動車のRRBO実証プロジェクトの内容は何ですか

ENEOSは2024年5月27日、環境省公募事業「脱炭素社会を支えるプラスチック等資源循環システム構築実証事業」(令和4年度採択)の下で「廃潤滑油を活用した潤滑油基油への再生プロセス構築」を進め、使用済み潤滑油から低炭素基油(CO2排出量を抑えた基油)の製造に成功したと発表。技術検討においてはトヨタ自動車の協力のもと市場から集めた使用済みエンジンオイルを原料として使用。この低炭素基油を配合したガソリンエンジンオイル(0W-20)は、ILSAC GF-6で規定された高温酸化防止性の国際指標であるSequence IIIH試験で、従来の原油由来基油を配合したガソリンエンジンオイルと同等の高温酸化安定性を有することが確認された。今後は使用済み潤滑油を原料とした低炭素基油の製造体制の早期実現を図るべく、実証実験のスケールアップ・製油所や事業所の既存設備の有効利用等の検討を進めるとしている。

阪和興業の再生基油の取扱い状況と経済産業省との関係は何ですか

阪和興業株式会社は日本における「唯一の再生ベースオイル輸入商社」と自社サイトで位置付けており、Group I〜Group V、PAO、パラフィン、ナフテン、アロマ、流動パラフィン、再生ベースオイル等の様々な基油をアジア市場を中心に供給している。従来から海外で製造されているRRBOの取扱いを行い、潤滑油品質委員会にオブザーバーとして参加、各国のRRBO製造業者へのヒアリング・交渉・サンプル評価を実施。経済産業省の委託調査事業「潤滑油の安定供給に向けた原料確保の多様化に関する調査・分析事業」にヒアリングで協力しており、その内容は経済産業省の調査資料に掲載されている。同社は「グローバルOEM向けの実績を積み重ねてきた再生基油の輸入品の国内普及を促し、最終的に国内精製品を有効活用していく形での社会実装が最も現実的」と表明しており、輸入と国内再精製の両面で普及活動を展開している。

RRBOはDH-2大型トラック油の代替になりますか

理論上は可能だが、DH-2固有の技術ハードルがある。DH-2はDPF搭載の大型ディーゼルトラック用の日本独自のJASO M355規格に対応し、硫酸灰分1.0%以下・リン0.12%以下・硫黄0.5%以下の低SAPS要件と、Group Iベースオイル主体の配合が業界標準。RRBOでもGroup I相当・Group II+相当の性状は製造可能なため、化学性状としては要件を満たす候補となり得るが、実務上は①DH-2認証を新規に取得する必要があり時間とコストが必要、②大型ディーゼルエンジンの高負荷連続運転に対する耐久性の実証が必要、③国内元売り3社(ENEOS・出光・コスモ)と大型トラックメーカー(日野・いすゞ・ふそう・UDトラックス)の整備マニュアル指定との整合が必要。ENEOSの2024年実証はガソリン車用の0W-20が対象で、DH-2への適用は次のフェーズ。中期的(2026年後半〜2028年)にDH-2認証RRBOが実現すれば、Group I不足の緩和策として現実的候補となる。

RRBOが完全代替になるのは何時期ですか、その時までの短期対応はどうすればよいですか

時間軸は3段階で整理される。【短期(〜2026年10月頃)】:現在進行中のエンジンオイル危機(Pearl GTL約1年修復・DH-2受注制限)の緊急局面には間に合わない。国内商業生産未確立、輸入も限定的な段階。運送事業者・整備業者は元売り3社・独立系メーカー(TAKMO等)との調達分散、潤滑油直販スキーム207組織参加による代替不可用途の確保、荷主との燃料・オイル価格スライド条項交渉が現実的対応。【中期(2026年後半〜2028年)】:ENEOSのスケールアップと阪和興業経由の輸入拡大が進めば、Group I不足の補完源として現実的候補化。DH-2認証RRBOの実証が進む可能性も。【長期(2028年以降)】:循環経済(サーキュラーエコノミー)移行加速化パッケージ(2024年12月循環経済関係閣僚会議決定)の政策的追い風のもと、中東依存脱却×循環経済のダブルストーリーとして日本の潤滑油サプライチェーンの構造転換の一翼を担う可能性。ただしSN500・600N・150BS等の高粘度Group I品はRRBOだけでの完全代替が難度高く、ポリイソブチレン・PAO・エステル等との複合処方が並行検討される。

なぜプラスチックパレット株式会社がこの記事を書いているのですか

弊社(プラスチックパレット株式会社、千葉県我孫子市)は物流資材専門商社として、プラスチックパレット・折コン・PPバンド・ストレッチフィルム・再生プラスチック原料などを全国の運送事業者・製造業者に卸値で販売している。日常的に運送事業者・整備業者・製造業者とやりとりする立場から、2026年のエンジンオイル・DH-2大型トラック油の値上げと調達難が業界にどのような影響を及ぼしているかを実感を伴って把握できる。同時に、弊社は再生プラスチック原料の取扱いを通じて「水平リサイクル(マテリアルリサイクル)」の実践的知見を持ち、循環経済(サーキュラーエコノミー)の実装課題を業界当事者として理解している。この2つの視点から、エンジンオイル危機の中期的解決策としての再生基油(RRBO)の可能性を、業界当事者・調達担当者向けに整理することを目的としてこの記事を作成した。弊社はRRBOの取扱窓口ではないが、業界動向の情報収集と整理を継続している。

12-2. この記事の要点まとめ

3つのポイント

  1. 技術的可能性:APIグループ分類は化学性状で決まり廃油由来でも要件を満たせる。世界のSafety-Kleen(Group II+)・PURAGLOBE(Group III/III+)が商業実績。日本国内はENEOS×トヨタが2024年5月27日にILSAC GF-6同等性を確認する実証成功。
  2. 実装体制:阪和興業が「唯一の再生ベースオイル輸入商社」として経産省委託調査に協力、輸入経路の第一段階を担う。ENEOSが国内商業生産の立ち上げに向けたスケールアップを進める。輸入と国内生産の両輪で段階的実装が進む見通し。
  3. 実務判断:短期(〜2026年10月)は既存対応策の徹底とRRBO情報収集の準備段階、中期(2026年11月〜2028年)は輸入RRBO試行とENEOS商業生産期待、長期(2028年以降)は中東依存脱却×循環経済の構造転換期。DH-2認証取得は本命だが2027〜2029年の時間軸。SN500・150BS等の高粘度Group I品はRRBO単独代替が難度高く複合処方が並行検討。

12-3. 業界当事者・調達担当者へ

2026年下期の緊急局面は既存対応策で凌ぐ必要がありますが、中期の構造改革として輸入RRBOの試行、ENEOSの商業生産動向のモニタリング、経産省委託調査資料の入手、業界団体を通じた政策関与を並行して進めることを推奨します。RRBOは「もう一つの答え」として、日本の潤滑油サプライチェーンの中期構造改革の本命候補です。中東依存脱却×循環経済のダブルストーリーで、業界当事者としての戦略的準備を進める段階にあります。

より詳しい情報や関連記事は、【エンジンオイル完全まとめ】の親カテゴリマップから他の詳細記事もあわせてご覧ください。

免責事項

  1. 本記事は2026年7月18日時点の公開情報・一次資料・弊社独自取材に基づいて作成しました。市況・政策・企業動向は日々変化するため、実際の調達判断・投資判断・技術評価の際は、最新情報を必ずご確認ください。
  2. 本記事内の技術データ・時間軸・供給量・企業動向は、業界の一般的な情報を基にした整理であり、個別企業の公式方針・技術仕様・供給契約条件を保証するものではありません。個別の調達検討・技術評価は、各企業の営業担当者・技術担当者に直接ご確認ください。
  3. 本記事は業界当事者・調達担当者向けの参考情報を目的としており、特定の商品・サービス・企業を推奨するものではありません。実際の意思決定は、各読者の責任のもと行ってください。
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