ナフサは石油備蓄法の「石油」に含まれるのに備蓄日数の算定には入らない、2026年に見えた制度と実態のずれ
「石油の備蓄は約230日分ある」という数字は、ナフサには当てはまらない。石油備蓄法はナフサを指定石油製品に含めているが、備蓄日数の算定対象は燃料油だからである。制度上は含まれ、算定には入らない。ナフサには4ヶ月分という別の物差しが用意されていた。2つの基準が並存する構造を、経済産業省の一次資料から整理する。
- 石油備蓄法第2条の「石油」は原油・指定石油製品・石油ガスを指す。指定石油製品には揮発油・ナフサ・ジェット燃料油・軽油・灯油・重油が含まれ、ナフサは制度の対象内にある。
- ただし経済産業省は、備蓄日数について燃料油が算定の対象でありナフサ等への供給分は算定に含まないと注記している。約230日分という数字はナフサ需要を分母に含まない計算であり、そのまま読み替えることはできない。
- ナフサには別の物差しが用意された。調達済みの輸入と国内精製で2ヶ月分、川中製品の在庫で2ヶ月分、合わせて4ヶ月分という供給見通しが2026年4月10日の対応方針に示されている。
ナフサは指定石油製品として石油備蓄法の対象に含まれる。しかし経済産業省は備蓄日数の算定対象を燃料油とし、ナフサ等への供給分を含めないと明記している。約230日分はナフサの数字ではない。ナフサには4ヶ月分という別の物差しが示された。数字を読む際は基準の確認が要る。
2026年7月19日時点の現在地
2026年の情勢下で「日本の石油備蓄は何日分あるか」という数字が繰り返し報じられた。しかしその数字が何を対象として計算されているかは、あまり説明されてこなかった。ナフサを扱う立場では、この点の確認が判断を分ける。
ナフサは制度の対象に含まれている
石油の備蓄の確保等に関する法律(石油備蓄法)第2条は、「石油」を原油・指定石油製品・石油ガスと定義している。指定石油製品は「揮発油、灯油、軽油その他の炭化水素油であつて、経済産業省令で定めるもの」とされ、関東経済産業局の説明では揮発油・ナフサ・ジェット燃料油・軽油・灯油・重油がこれにあたる。
つまりナフサは、石油備蓄法の対象から外れているわけではない。制度上の「石油」に含まれている。
ただし備蓄日数の算定には入らない
一方、経済産業省が2026年4月10日に示した対応方針には、備蓄放出のスケジュールに関する注記として次の記載がある。日数はいずれも備蓄法基準であり、燃料油が算定の対象で、ナフサ等への供給分は算定に含まない、という内容である。国際エネルギー機関の考え方と同様であるとも付記されている。
同資料は4月1日時点の備蓄量を、代替調達がない場合の備蓄法に基づく算定で約230日分(速報値)としている。この数字はナフサ需要を含まない計算である。
第1に、制度上は含まれ、算定には入らない。ナフサは指定石油製品として石油備蓄法の対象だが、備蓄日数を計算する際の対象は燃料油である。「対象外だから守られない」という単純な構図ではない。
第2に、ナフサには別の物差しが示された。同じ資料で、調達済みの輸入ナフサと国内精製で2ヶ月分、川中製品の在庫で2ヶ月分、合わせて国内需要4ヶ月分を確保するという見通しが示されている。備蓄日数とは異なる考え方である。
第3に、供給の継続は明記されている。経済産業省は国家備蓄原油の第二弾放出について、ナフサを含め燃料油以外の用途にも供給を継続し安定供給に万全を期すとしている。
3月から5月までの備蓄放出
2026年の備蓄放出は3段階で行われた。経済産業省が公表したスケジュールに沿って整理する。
2026年6月以降の備蓄放出および民間備蓄義務量の変更について、当社として本記事の作成時点で公表資料を確認できていない。上記は2026年4月10日公表の対応方針に基づく。
石油備蓄法におけるナフサの位置づけ
制度の条文に立ち返って確認する。ナフサがどこに位置づけられているかを押さえると、報じられる数字の意味が変わって見える。
第2条の定義
石油備蓄法第2条は「石油」を原油・指定石油製品・石油ガスと定義する。指定石油製品は「揮発油、灯油、軽油その他の炭化水素油であつて、経済産業省令で定めるもの」とされ、石油ガスは「プロパン、ブタンその他経済産業省令で定める炭化水素を主成分とするガス(液化したものを含む。)」と定義されている。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 原油 | 精製前の原油 |
| 指定石油製品 | 揮発油、ナフサ、ジェット燃料油、軽油、灯油、重油 |
| 石油ガス | プロパン、ブタンを主成分とするガス(液化したものを含む) |
指定石油製品の具体的な品目は、関東経済産業局が石油備蓄法に基づく石油製品販売業の届出に関する説明のなかで示している。
制度の沿革
石油備蓄法は第一次石油危機を受けて1975年に制定された。石油精製業者等に対する基準備蓄量の常時保有義務、これに反する場合の勧告・命令・罰則、緊急時における義務解除としての基準備蓄量の減少などを定めている。
制定当時、石油ガス(LPG)は対象とされていなかった。その後の情勢変化を踏まえ、1981年の法改正により石油ガス輸入業者に対する備蓄義務が新たに設けられている。制度が後から対象を広げた例である。
ナフサの備蓄義務はどう変わったか
ナフサについても、当初は全量の備蓄が義務づけられていた。一般社団法人エネルギー情報センターの2026年5月26日の分析によれば、石油危機以降、割高な国産ナフサの購入と備蓄コストの負担により石油化学業界の国際競争力が低下したため、業界からナフサの輸入自由化と備蓄義務の撤廃が求められた。
これを受けて1982年4月、通商産業省は「石油化学原料用ナフサ対策について」を省議決定した。ナフサの備蓄義務量は毎年5分の1ずつ軽減され、1993年度から完全に義務の対象外となった。
| 時期 | ナフサの扱い |
|---|---|
| 1976年(石油備蓄法に基づく運用開始) | 全量の備蓄義務 |
| 1982年4月 | 通商産業省が「石油化学原料用ナフサ対策について」を省議決定 |
| 1982年度〜1992年度 | 備蓄義務量を毎年5分の1ずつ軽減 |
| 1993年度〜 | 備蓄義務の対象外 |
出典:一般社団法人エネルギー情報センター(2026年5月26日)。同センターは一般社団法人であり、この記述は内閣府および経済産業省の資料を引用しつつ同センターが整理したものである。当社として当時の省議決定の原文は確認できていない。
備蓄の3本立て
日本の石油備蓄は、国が保有する国家備蓄、石油備蓄法に基づき石油精製業者等が義務として保有する民間備蓄、UAE・サウジアラビア・クウェートとの間で実施する産油国共同備蓄の3つで構成される。産油国共同備蓄は、日本のタンクにおいて産油国の国営石油会社が保有する在庫であり、危機時には日本企業が優先供給を受けることができる仕組みである。
国家備蓄は原油の形で保管される。資源エネルギー庁によれば、放出された原油は国内の石油精製事業者によって精製され、ガソリン・灯油・軽油・重油などとして供給される。備蓄の放出は、精製工程を経て製品になる仕組みである。
備蓄日数の算定から外れる理由
制度の対象に含まれながら、備蓄日数の算定には入らない。この一見矛盾する扱いには、備蓄日数という指標の性格が関わっている。
算定の対象は燃料油
経済産業省の対応方針には、備蓄放出のスケジュールに関する注記として、日数はいずれも備蓄法基準であり、燃料油が算定の対象で、ナフサ等への供給分は算定に含まないと記されている。国際エネルギー機関の考え方と同様であるとも付記されている。
備蓄日数は「国内の石油消費量をもとに計算したもの」である。資源エネルギー庁の「石油備蓄の現況」も同様の説明を用いている。分母となる消費量を燃料油に限定すれば、算定される日数は燃料油を何日賄えるかを示す数値になる。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 算定の基準 | 備蓄法基準(国内の石油消費量をもとに計算) |
| 算定の対象 | 燃料油 |
| 算定に含まないもの | ナフサ等への供給分 |
| 考え方の根拠 | 国際エネルギー機関の考え方と同様 |
| 2026年4月1日時点 | 約230日分(速報値・代替調達がない場合) |
数字は正しいが、対象が違う
約230日分という数字そのものに誤りがあるわけではない。燃料油を対象とした算定として正確である。問題は、この数字を見た読み手が「ナフサも同じだけ確保されている」と受け取る場合に生じる。
当社は【ナフサ・原油完全まとめ】において、ナフサ価格に3つの系列があり、どの系列を見ているかで数字が変わることを整理した。備蓄日数についても構造は同じである。数字が正しいことと、その数字が自社の関心事に当てはまることは別である。
「石油の備蓄が◯日分ある」という記述に接した際は、分母が何を指しているかを確認する必要がある。備蓄法基準の日数は燃料油の消費量をもとに計算されており、ナフサ等への供給分は含まれない。石油化学原料としてのナフサを扱う立場では、この日数を自社の調達余力として読むことはできない。
ナフサに用意された別の物差し
ナフサが備蓄日数の算定から外れる一方で、経済産業省は別の枠組みで供給見通しを示している。2026年4月10日の対応方針にある「ナフサ由来の化学製品の需給見通し」である。
4ヶ月分という考え方
同資料は、既に調達済みの輸入ナフサと国内での精製で2ヶ月分、川中製品の在庫で2ヶ月分を確保し、少なくとも国内需要4ヶ月分を確保できるとしている。川中製品の在庫2ヶ月分は、ナフサの精製が仮にゼロであっても需要を満たす供給ができる期間として説明されている。
| 構成 | 期間 | 内容 |
|---|---|---|
| 調達済みの輸入ナフサ+国内精製 | 2ヶ月分 | 原料としてのナフサ |
| 川中製品の在庫 | 2ヶ月分 | ナフサ精製がゼロでも需要を満たせる期間 |
| 合計 | 4ヶ月分 | 少なくとも国内需要を確保 |
数量ベースの内訳
同資料は数量も示している。ナフサの国内精製は月あたり約110万キロリットル相当を継続し、中東以外からの輸入を月あたり約45万キロリットルから約90万キロリットルへ加速するとされた。これにより川中製品在庫の取り崩し量が減り、在庫を活用できる期間が半年以上に延伸するという見通しである。
需要側の規模は、2024年の平均値で月あたり約280万キロリットル相当とされている。中東からの輸入は月あたり約120万キロリットル相当であった。
調達元の構成
| 調達元 | 比率(2024年) |
|---|---|
| 中東(UAE、クウェート、カタール等) | 44.6% |
| 国内 | 39.4% |
| その他輸入 | 16.0% |
一方、ナフサの世界生産に占める中東の割合は2023年で16%である。世界生産は約3.3億トン(約4.9億キロリットル)で、中国が33%、アジアが20%、欧州が13%、日本と北米がそれぞれ3%を占める。日本の調達が中東に偏っていた構造が、この対比から見える。
川中製品の側も見ている
対応方針は、ナフサそのものだけでなく川中製品にも言及している。プラスチックの原料となるポリエチレンは国内生産割合が7割を超えるが、世界から新たな調達を強化するとされた。国内流通量は年間約194万トンで、調達元は国内が70%、タイが12%、中東と韓国がそれぞれ5%、シンガポールが3%、米国が2%という構成である(2024年)。
原料が止まった場合に中間製品の在庫で凌ぐという考え方は、備蓄日数とは別の発想に立っている。備蓄が「原料をどれだけ持っているか」を測るのに対し、こちらは「供給網のどの段階に、どれだけの緩衝があるか」を測っている。
2つの基準が並存する構造
燃料油には備蓄日数、ナフサには供給見通しという、性格の異なる2つの物差しが並存している。両者の違いを整理する。
| 項目 | 備蓄日数(備蓄法基準) | ナフサ由来製品の供給見通し |
|---|---|---|
| 対象 | 燃料油 | ナフサおよび川中製品 |
| 単位 | 日分 | ヶ月分 |
| 算定の考え方 | 国内の石油消費量をもとに計算 | 調達済み原料と製品在庫の積み上げ |
| 法的な裏づけ | 石油備蓄法に基づく義務と目標 | 義務ではなく需給見通し |
| 2026年の数値 | 約230日分(4月1日・速報値) | 少なくとも4ヶ月分(4月10日) |
| 放出・活用の仕組み | 国家備蓄・民間備蓄の放出、義務量の引き下げ | 代替調達の加速と在庫の取り崩し |
義務があるものと、ないもの
決定的な違いは、法的な義務の有無にある。燃料油については、石油精製業者等に基準備蓄量の常時保有義務があり、これに反する場合の勧告・命令・罰則が定められている。2026年には民間備蓄義務量が55日分へ引き下げられ、その水準が維持された。義務量を動かすこと自体が政策手段になっている。
一方、ナフサ由来製品の4ヶ月分という数字は、義務ではなく見通しである。企業が持つ在庫を積み上げた結果として示されたものであり、一定の水準を保つよう求める規定に基づくものではない。
供給の継続は明記されている
ただし、算定に含まれないことと供給されないことは別である。経済産業省は国家備蓄原油の第二弾放出について、ナフサを含め燃料油以外の用途にも供給を継続し安定供給に万全を期すと明記した。石油の需給見通しにおいても、ナフサを含め燃料油以外の用途にも供給を継続する前提で、代替調達率50%を見込めば2026年末まで供給を確保できる目途がついたとしている。
Chapter 03で見たとおり、ナフサは1982年4月の省議決定を経て1993年度から備蓄義務の対象外となった。定義に含まれたまま義務の側で外された結果が、現在の扱いにつながっている。当社は、この構造を次のように整理している。ナフサは制度の枠内にあり供給の対象でもあるが、備蓄水準を測る指標の分母には入っていない。したがって公表される日数を自社の調達余力として読み替えることはできず、ナフサについては別に示される見通しを確認する必要がある。なおこの整理は経済産業省の資料をもとに当社が導いたものであり、同省がこの表現を用いているわけではない。
当社はこれまでの記事で、ナフサを備蓄制度の対象外と記した箇所がある。条文上ナフサは指定石油製品に含まれるため、この記述は正確ではない。正しくは備蓄日数の算定対象が燃料油であり、ナフサ等への供給分が算定に含まれないという扱いである。本記事の整理を正とし、該当記事は順次修正する。
流通の目詰まりと個別対応
2026年に生じた問題は、量の不足だけではなかった。経済産業省は、日本全体の石油供給は足りているが流通段階で目詰まりが発生していると整理し、個別の対応を進めた。
流通円滑化対策
対策は2つの柱で構成された。第1に、政府の重要物資タスクフォースの要請に基づき、重要施設向けには元売から直接販売する経路を新設した。対象は医療・交通・公共サービス・農業・水産業・畜産業・重要物資の製造業等である。第2に、元売から卸事業者向けの販売について、系列・非系列にかかわらず前年同月比同量を基本とするよう大手元売事業者に要請し、大手卸売事業者にも同趣旨の要請を行った。
経済産業省は2026年3月14日から情報提供の受付を開始し、寄せられる情報や関係省庁からの供給要請を踏まえて、石油会社や石油製品会社等と調整しながら流通経路を開拓した。
実際に対応された事例
| 分野 | 内容 | 対応 |
|---|---|---|
| 医療 | 新生児医療用カテーテル、注射針・採血管の滅菌工程に必要なボイラー用A重油の供給不足 | 厚生労働省と経済産業省が連携し、元売事業者と調整のうえ当面必要な重油を確保 |
| 医療 | 医療用器具等の滅菌に必要な酸化エチレンガスの供給不安 | 厚生労働省と経済産業省が連携し、石油化学企業等と調整のうえ当面必要な酸化エチレンを確保 |
| 交通 | 九州地方の路線バス用軽油の不足 | 国土交通省と経済産業省が連携し、元売事業者と調整のうえ当面必要な軽油を確保 |
| 塗料 | 塗料用シンナーへの供給不安 | 川上の石油化学企業は原料の国内供給を継続。不足があった事業者に個別に問い合わせ、供給網を遡って目詰まり箇所を特定 |
省庁横断の体制
対応方針は、高市首相の指示を踏まえ、工業のみならず農業・医療等に関係するものも含むサプライチェーン全体について取りまとめられた。国土交通省がバス・フェリー・鉄道・航空・トラック運送および上下水道処理を、厚生労働省がカテーテル・採血管・輸血パック・注射器・医療用機器等の滅菌・透析回路の医療用プラスチック・手術中に使用する廃液容器・医療用手袋・エプロン等を、農林水産省が温室ハウス・乳製品工場・活魚運搬船・漁船・食品製造事業者等を担当する。環境省は廃棄物処理、文部科学省は教育・研究を所管する。
各省庁が供給不足に係る情報を経済産業省に提供し、同省が石油会社や石油製品会社と調整して流通経路を開拓するという流れである。備蓄放出という量の手当てとは別に、届け先を調整する仕組みが動いていたことになる。
LPGとの対比
同じ石油備蓄法のもとで、LPGは異なる扱いを受けている。制度が後から対象を広げた例として参考になる。
1981年の法改正
石油備蓄法の制定当時、石油ガス(LPG)は対象とされていなかった。その後の情勢変化を踏まえ、1981年に法改正が行われ、石油ガス輸入業者に対する備蓄義務が新たに設けられた。LPガスについては1988年度末に50日分を達成すべく段階的な増強が図られている。
現在の備蓄水準
日本LPガス協会によると、LPGは輸入量の40日分にあたる約106万トンが民間備蓄として法律で義務づけられ、国家備蓄と合わせて約245万トンが確保されている(2026年3月末時点)。国内で使われるLPガスの約85%は輸入品である。
| 項目 | ナフサ | LPG |
|---|---|---|
| 石油備蓄法上の区分 | 指定石油製品 | 石油ガス |
| 備蓄義務 | 燃料油としての算定に含まれない | あり(輸入量の40日分) |
| 備蓄量 | ― | 民間約106万トン、国家備蓄と合わせ約245万トン |
| 制度への編入 | 制定時から指定石油製品に含まれる | 1981年の法改正により追加 |
| 2026年の供給指標 | 供給見通し4ヶ月分(義務ではない) | 備蓄日数(義務に基づく) |
用途が扱いを分けている
LPGは家庭用の暖房・給湯に直結する。石油備蓄法第1条は、目的を「国民生活の安定と国民経済の円滑な運営に資すること」と定めている。ナフサは石油化学の原料であり、消費者に届くまでに複数の工程を経る。なおLPGが制度に追加された1981年の改正について、エネルギー・金属鉱物資源機構は「その後の情勢変化を踏まえ」た措置と記すにとどまり、当社として追加の理由を示す資料は確認できていない。
ただし2026年の推移は、その工程の先に医療用器具や建設資材が並んでいることを示した。Chapter 07で挙げた新生児医療用カテーテルや注射針の事例は、原料段階の制約が生活に直結しうることを表している。当社は、工程の数と生活への近さが必ずしも対応しないと整理している。この整理は経済産業省が公表した個別事例をもとに当社が導いたものである。
調達実務への含意
制度の構造を踏まえて、調達の現場で何を確認すべきかを整理する。特定の対応を推奨するものではなく、判断材料として提示する。
公表される日数を自社の余力と読まない
備蓄法基準の日数は燃料油を対象とした算定である。石油化学原料としてのナフサ、あるいはその先の樹脂・製品を扱う立場では、この日数が自社の調達余力を示すものではない。ナフサについては、経済産業省が別に示す供給見通しを確認することになる。
川中製品の在庫という緩衝を把握する
2026年4月の見通しでは、川中製品の在庫2ヶ月分が供給の緩衝として計算に入っていた。同資料は、各川中製品によって製品在庫の期間が異なるため、各製品の供給状況を注視のうえ製品調達等も検討すべきとしている。自社が扱う品目がどの川中製品に連なるかを把握しておくと、影響の時期を読みやすくなる。
要請ベースの措置を把握する
2026年には、元売から卸事業者への販売を前年同月比同量とする要請、重要施設向けの直接販売経路の新設といった措置が取られた。いずれも法的義務ではなく要請に基づく。自社が重要物資タスクフォースの認める重要施設に該当するかどうか、また取引先がこれらの要請の対象に含まれるかどうかは、供給確保の可否に関わる。
2026年7月時点で確認すべき4点
第1に、報じられる備蓄日数の対象が燃料油であることを前提に読む。第2に、ナフサについては経済産業省が示す供給見通しを別途確認する。2026年4月10日時点では少なくとも4ヶ月分とされた。第3に、自社が扱う品目が連なる川中製品の在庫状況を確認する。第4に、6月以降の備蓄放出および民間備蓄義務量の変更については、当社として本記事の作成時点で公表資料を確認できていないため、最新の公表内容を確認する。
本記事は2026年7月19日時点で確認できるエビデンスに基づいている。備蓄放出の状況および民間備蓄義務量は政策判断により変更されうるため、8月中旬の交渉期限前後には内容が変わる可能性がある。数値は2026年4月10日公表の対応方針および資源エネルギー庁の公表資料に基づくものであり、それぞれ基準時点が異なる。次回更新は2026年8月中旬を予定している。
用語集
正式名称は「石油の備蓄の確保等に関する法律」。第一次石油危機を受けて1975年に制定された。石油の供給が不足する事態に備え、国民生活の安定と国民経済の円滑な運営に資することを目的とする。
石油備蓄法第2条にいう「揮発油、灯油、軽油その他の炭化水素油であつて、経済産業省令で定めるもの」。具体的には揮発油・ナフサ・ジェット燃料油・軽油・灯油・重油が該当する。
石油備蓄法に基づき、国内の石油消費量をもとに備蓄日数を計算する基準。燃料油が算定の対象であり、ナフサ等への供給分は算定に含まれない。国際エネルギー機関の考え方と同様とされる。
国が保有する石油備蓄。石油備蓄法に基づき国が備蓄基地を建設し、原油の形で保管する。経済産業大臣の指示があるときのみ出し入れを行う。放出された原油は国内の石油精製事業者によって精製される。
石油備蓄法に基づき石油精製業者等が義務として保有する備蓄。基準備蓄量の常時保有義務があり、これに反する場合の勧告・命令・罰則が定められている。2026年には義務量が55日分へ引き下げられ、その水準が維持された。
UAE・サウジアラビア・クウェートとの間で実施される備蓄。日本のタンクにおいて産油国の国営石油会社が保有する在庫であり、危機時には日本企業が優先供給を受けることができる。2026年3月26日に約6日分の放出が開始された。
石油備蓄法に基づき石油精製業者等が常時保有すべき備蓄量。緊急時には義務解除として基準備蓄量を減少させる措置が取られる。義務量を動かすこと自体が政策手段となる。
ナフサから作られる中間段階の化学製品。エチレン・プロピレン・ベンゼン等の基礎化学品と、ポリエチレン・ポリプロピレン・塩化ビニル等がこれにあたる。2026年の需給見通しでは、この在庫2ヶ月分が供給の緩衝として計算に入れられた。
中東以外からの調達が全体に占める比率。2026年の備蓄放出計画では、輸送上のリスクが顕在化しても備蓄放出で対応できるよう保守的に4割と設定された。需給見通しでは50%を前提とした試算も示されている。
中東情勢に伴う重要物資の安定的な供給確保のために設置された政府の枠組み。認定した重要施設向けには元売から直接販売する経路が新設された。対象は医療・交通・公共サービス・農業・水産業・畜産業・重要物資の製造業等である。
燃料油価格の急な上昇を抑えるための補助。2026年3月19日から実施され、ガソリン小売価格を全国平均で1リットル170円程度に抑制する水準で設計された。軽油・灯油・重油はガソリンと同額、航空機燃料はその4割が補助対象となった。
国際エネルギー機関が用いる備蓄日数の算定基準。備蓄法基準とは計算に使用する値が異なるため、日数は必ずしも一致しない。ナフサ等への供給分を算定に含まない点は備蓄法基準と共通する。
出典・エビデンス一覧
出典は、法令、官庁・独立行政法人の資料、業界団体・報道、当社の関連記事の4区分に分けて記載している。
法令
- 石油の備蓄の確保等に関する法律 第2条(「石油」とは原油、指定石油製品及び石油ガスをいう。「指定石油製品」とは揮発油、灯油、軽油その他の炭化水素油であつて経済産業省令で定めるもの)/昭和50年12月27日法律第96号
- 石油の備蓄の確保等に関する法律 第1条(目的規定)/同上
官庁・独立行政法人の資料
- 「中東情勢を踏まえた燃料油・石油製品の安定供給確保及び重要物資の安定的な供給確保のための対応方針(案)」資料2(備蓄日数の算定対象は燃料油でありナフサ等への供給分は算定に含まない、4月1日時点約230日分・速報値、民間備蓄義務量55日分維持、国家備蓄原油の第二弾放出約20日分、ナフサ由来化学製品の需給見通し4ヶ月分、国内精製約110万kl/月相当、中東以外からの輸入を約45→90万kl/月へ、需要規模約280万kl/月相当、調達元シェア2024年で中東44.6%・国内39.4%・その他16.0%、ナフサ世界生産シェア2023年で中東16%、ポリエチレン国内流通量約194万t/年)/経済産業省 中東情勢に伴う重要物資の安定的な供給確保のためのタスクフォース/2026年4月10日
- 「石油の備蓄の確保等に関する法律について」(指定石油製品とは揮発油、ナフサ、ジェット燃料油、軽油、灯油、重油)/経済産業省 関東経済産業局
- 「石油備蓄の現況」(備蓄日数は石油備蓄法に基づき国内の石油消費量をもとに計算、IEA基準との併記)/資源エネルギー庁 燃料供給基盤整備課/2026年2月
- 「石油備蓄等について」資料7(国家備蓄・民間備蓄・産油国共同備蓄の3構成、産油国共同備蓄は危機時に優先供給を受けられる仕組み)/資源エネルギー庁
- 「今こそ知りたい、日本の『石油備蓄』のしくみとは?」(国家備蓄基地は10基地、放出された原油は国内の石油精製事業者により精製、民間備蓄義務の15日分引き下げ)/資源エネルギー庁
- 石油備蓄法:用語辞典(1975年制定、基準備蓄量の常時保有義務と勧告・命令・罰則、1981年の法改正により石油ガス輸入業者に備蓄義務を設定、LPガスは1988年度末に50日分を達成すべく段階的増強)/エネルギー・金属鉱物資源機構
業界団体・報道
- 「ナフサ不足の状況、例年の8割程度は確保できるが備蓄等は徐々に微減の見込み、量だけでなく代替輸入ナフサ品質の違いや目詰まりも課題に」(ナフサは当初全量の備蓄義務があったが、石油危機以降の国際競争力低下により業界から輸入自由化と備蓄義務撤廃が求められ、1982年4月の通商産業省「石油化学原料用ナフサ対策について」省議決定を経て、義務量が毎年5分の1ずつ軽減され1993年度から対象外となった。2025年の国内生産量約1,310万kL・輸入量約2,039万kL、2025年の輸入先はUAE29%・クウェート21%・カタール19%、2024年の中東依存度73.6%)/一般社団法人エネルギー情報センター 主任研究員 森正旭/2026年5月26日
- 「LPガス事業の現在:供給」(民間備蓄は輸入量の40日分・約106万トン、国家備蓄と合わせ約245万トン。2026年3月末時点。国内使用の約85%が輸入)/日本LPガス協会
当社の関連記事
- 「【ナフサ・原油完全まとめ】2026年ナフサ価格3系列の全記録、スポット・通関CIF・国産基準価格が2ヶ月ずつずれて伝わる構造」/2026年7月19日
- 「【2026年7月版】中東依存を10年前に脱していたLPGがなぜ過去最高値になったのか、米国産への需要集中とパナマ運河が示す代替調達の限界」/2026年7月19日
- 「【建設資材・養生テープ完全まとめ】2026年イラン情勢下の建設資材調達、供給・工期・価格改定の全体像」/2026年7月19日
- 「ナフサ供給「目詰まり」の正体2026|需要破壊・米イラン覚書合意・7月前年並み生産、目詰まりの3層構造を一次情報で解読【2026年6月25日】」
よくあるご質問
ナフサは石油備蓄法の対象外なのですか
対象外ではありません。石油備蓄法第2条は「石油」を原油・指定石油製品・石油ガスと定義しており、関東経済産業局の説明によれば指定石油製品には揮発油・ナフサ・ジェット燃料油・軽油・灯油・重油が含まれます。ナフサは制度の枠内にあります。ただし経済産業省は、備蓄日数について燃料油が算定の対象でありナフサ等への供給分は算定に含まないと注記しています。制度上は含まれるが、備蓄水準を測る指標の分母には入らないという扱いです。
「石油の備蓄が約230日分」という数字はナフサにも当てはまりますか
当てはまりません。この数字は2026年4月1日時点で代替調達がない場合の備蓄法基準による算定で、燃料油を対象としています。ナフサ等への供給分は算定に含まれていません。ナフサについては別の物差しが示されており、経済産業省は2026年4月10日の対応方針で、調達済みの輸入ナフサと国内精製で2ヶ月分、川中製品の在庫で2ヶ月分、合わせて少なくとも国内需要4ヶ月分を確保できるとしています。
ナフサには備蓄義務がないのですか
現在はありません。ただし当初は全量の備蓄が義務づけられていました。一般社団法人エネルギー情報センターによれば、石油危機以降に石油化学業界の国際競争力が低下したことから業界が備蓄義務の撤廃を求め、1982年4月に通商産業省が「石油化学原料用ナフサ対策について」を省議決定しています。義務量は毎年5分の1ずつ軽減され、1993年度から完全に対象外となりました。燃料油については現在も基準備蓄量の常時保有義務があり、2026年には民間備蓄義務量が55日分へ引き下げられたうえでその水準が維持されています。LPGについては1981年の法改正により石油ガス輸入業者への備蓄義務が設けられ、現在は輸入量の40日分にあたる約106万トンが対象です。
調達の現場では何を確認すればよいですか
報じられる備蓄日数が燃料油を対象としていることを前提に読むことが出発点になります。そのうえでナフサについては経済産業省が別に示す供給見通しを確認します。2026年4月10日時点では少なくとも4ヶ月分とされました。また同資料は川中製品ごとに在庫期間が異なるとしており、自社が扱う品目がどの川中製品に連なるかを把握しておくと影響の時期を読みやすくなります。なお6月以降の備蓄放出および民間備蓄義務量の変更については、当社として本記事の作成時点で公表資料を確認できていません。
なぜプラスチックパレット株式会社がこの記事を書いているのですか
当社は千葉県我孫子市に本社を置き、プラスチックパレット・再生樹脂材料・PPバンド・ストレッチフィルム等の物流資材を全国のお客様にお届けする専門商社です。当社が扱う資材はナフサを起点とする石油化学製品であり、備蓄制度がナフサをどう扱っているかは当社自身の調達判断に直結します。報じられる備蓄日数を自社の余力として読み替えてよいのかという問いは、実務上の課題でもありました。確認した一次情報を、同じ構造の影響を受けるみなさまにも活用いただけるよう記事として整理しています。
- 本記事の内容は2026年7月19日時点で確認できる情報に基づいています。備蓄放出の状況および民間備蓄義務量は政策判断により変更されうるため、記載内容が現時点の状況と異なる場合があります。
- 掲載した数値は経済産業省・資源エネルギー庁・業界団体の公表資料に基づく参考値です。備蓄量は2026年4月1日時点の速報値、ナフサ調達元シェアは2024年、LPGの備蓄量は2026年3月末時点と、それぞれ基準時点が異なります。
- 本記事は情報提供を目的としたものであり、法令の解釈について確定的な見解を示すものではありません。個別の適用については所管官庁または専門家にご確認ください。調達・発注の判断は読者ご自身の責任において行ってください。
- 法令の条文および官庁資料を参照した箇所については、要約の過程で原文のニュアンスが完全には再現されない可能性があります。正確な内容は各出典元の原資料をご参照ください。
- 引用にあたっては出典元を明記し、必要最小限の範囲にとどめています。本記事の内容を転載・引用される場合は、出典として本記事のURLを明記してください。