ナフサ供給「目詰まり」の正体
|3層構造を一次情報で解読する
精製プロセスの優先順位
補助金制度の歪み
在庫の3段階ロック
価格急落の正体
6月中旬以降
経産省は「日本全体として量は確保、流通の目詰まり解消が課題」と表明(4/14)、日化協も「川上の原料は維持、個別製品では偏り」と公式追認(5/15)。本稿は「目詰まり」の正体を、従来の3層構造(物理/経済/流通)に需要破壊・覚書合意の2つの局面変化を加えた計5層として一次情報で解読する。①物理的:ナフサ収率前年比-4.2%、エチレン4月稼働率67.3%(過去最低)。②経済的:緊急激変緩和措置(170円超補助)対ナフサ補助なしの格差。③流通的:精製・石化・商社の各段階ロックでフリー在庫実質ゼロ。④需要破壊:5/16 $1,043→6/3 $767/MT(約26%急落)、5/21日経「お金を出せば確保できる」高値在庫リスク、ガソリン109.8 vs ナフサ128.3「ワニの口」(5/30日経)、米国産輸入5倍、食品値上げ6月再燃で包装資材要因7割(2023年以降最高)。市況≠実購入価格──フォーミュラ+プレミアム/海上輸送費・戦争保険料/円安/軽質ナフサ得率ミスマッチの4つの上乗せで実コストは依然高水準。⑤局面転換(6/25新設):6/14米・イラン14項目覚書合意(イスラマバード覚書)、6/18デジタル署名で正式発効、6/19日本向け含むタンカー6隻ホルムズ通過、原油WTI80ドル近辺・Brent83ドル台。赤澤経産大臣6/2「ナフサ7月に前年並みの生産量」表明。ただし三菱総研6/19「和平ではなく対立の一時停止、本質は60日後への先送り」と慎重評価。覚書合意は「危機収束」ではなく、市況反転・実購入コスト・需要構造復元の3点を分けて読む必要がある。
序文 ── 抽象的な言葉の裏にある「供給のジレンマ」
2026年4月以降、日本の石油化学業界や製造現場では、原料となるナフサの確保が深刻な課題となっています。政府はこの状況を「供給網の目詰まり」と表現し、物流や流通プロセスの停滞を示唆しています。5月15日には日本化学工業協会も「川上の原料は維持できているが、個別製品では偏りが残る」と公式に認めました(日経5/15報道)。
しかし、石油精製メーカー各社の稼働状況や収支構造、国家備蓄の運用実務を丁寧に紐解くと、そこには「単なる停滞」だけではない、より構造的な背景が見えてきます。それは、限られたエネルギー資源をどう配分するかという、国家レベルの優先順位が生んだ「需給のミスマッチ」です。ナフサショックの全体像と他産業への波及については「2026年ナフサショック|ホルムズ海峡封鎖が引き起こす供給網危機の全貌」で詳述しています。
ナフサ由来の基礎化学品を扱う主要52社を起点に、一次・二次取引先まで分析した結果、全国の製造業約15万社のうち4万6,741社(約3割)が調達リスクに直面する可能性が明らかになった。対象企業の約9割は資本金1億円未満の中小企業であり、影響は自動車部品から食品包装まで広範に及ぶ。
精製プロセスの優先順位と「収率」の物理的限界(5月18日更新)
1.1 「ガソリンシフト」を示す数値
政府が言う「目詰まり」は、製油所の心臓部である常圧蒸留装置(トッパー)における、意図的な分留コントロールの結果です。石油精製メーカーは、原油を熱して各成分を取り出す際、温度管理によって各製品の割合を微調整しています。
平均稼働率
(高水準維持)
前年比変化
(最大-5%)
5/16時点(為替158.45円)
5/16時点(1kL)
2月末に1トン600ドル台後半だったナフサ市況は、ホルムズ海峡封鎖から2週間余りで1,100ドル前後に達した(3月末)。その後も高水準が継続し、5月16日時点のナフサは1トン1,043ドル、国産ナフサ価格指標は116,858円/kL(為替158.45円)となっている。4〜6月の国産ナフサ基準価格は1〜3月(6万円台半ば)の約2倍に上昇する見通し(日経5/15報道:「中東危機で4〜6月は2倍弱上昇へ」)。
代わりに増えているのがガソリンおよび軽油の基材です。精製メーカー各社は、社会インフラ維持のために「軽質分(ナフサになる成分)」を強引にガソリン側へ混ぜ込むことで、燃料供給を死守しています。
1.2 備蓄原油の「重質化」による技術的制約
政府が放出した国家備蓄原油は長期保存向けの重質原油の割合が高く、ライトナフサの収率が構造的に低い状態です。重質原油からは、プラスチック原料となる「ライトナフサ」が少量しか取れません。無理にナフサを増やそうとすると後続の二次装置(FCC:流動接触分解装置)に過度な負荷がかかり、プラント故障のリスクが高まるため、現場は慎重な運転を余儀なくされています。
実際に三菱ケミカル旭化成エチレン(AMEC、水島コンビナート)は、2026年4月11日からナフサ調達難を受けて稼働を縮小しています(化学工業日報)。国内のエチレン生産設備全12基のうち、4月初旬時点で6基が減産体制、フル稼働を維持できているのはわずか3基という前例のない状況です。
「ナフサの調達は6月中旬から6月末くらいまではめどが立った」と明言。AMECについても「6月中旬くらいまでは稼働にめどが立った」と発言。調達先は政府連携のもとで多角化を進め、米国・中南米・一部アフリカ・中央アジアを挙げた。一方で「価格は高騰しており、価格転嫁はマスト。ポリエチレンやポリプロピレンなどの中間財は価格転嫁せざるを得ない」と強調。「これだけのコストアップを価格転嫁していく作業はマスト。事業そのものが成り立たなくなる」とした(ロイター 2026年4月15日報道)。なお、米国からのナフサ輸入は5月で前年比約4倍(月135万kL規模)まで拡大する見込み。
補助金制度の運用がもたらす「経済的インセンティブ」の差(5月18日更新)
2.1 暫定税率廃止後の「緊急的激変緩和措置」再開
2026年の燃料行政には、二つの大きな構造変化が起きています。一つは暫定税率の廃止です。ガソリンの揮発油税暫定税率(25.1円/L)は2025年12月31日に、軽油引取税の暫定税率(17.1円/L)は2026年4月1日に廃止されました(資源エネルギー庁、与野党6党合意による法改正)。
もう一つは緊急的激変緩和措置の再開です。2026年2月末以降の中東情勢急変による原油価格高騰を受け、政府は3月19日出荷分から、ガソリン全国平均が170円を超えた分を補助する変動型措置を再開しました。資源エネルギー庁の措置によりガソリン補助単価は4月9日以降48.8円/L、4月16日以降は35.5円/Lに縮小しています。
| 製品区分 | 補助制度(2026年5月時点) | 採算状況 |
|---|---|---|
| 燃料油(ガソリン・軽油等) | 緊急的激変緩和措置 ── ガソリン170円超過分を補助(変動型) 3/19再開/4/9以降48.8円/L、4/16以降35.5円/L 出典:資源エネルギー庁 燃料油価格激変緩和対策事業 |
黒字保護 |
| ナフサ(石化原料) | 補助なし(制度対象外) | 逆ザヤ継続 |
補助によって利益が保護された「燃料」を優先し、赤字が出る「ナフサ」の生産やスポット販売を抑制するのは、企業として極めて合理的な判断です。これが、末端に原料が流れてこない「経済的目詰まり」の正体です。経済産業省は5月1日からENEOS・出光興産・コスモ石油・太陽石油の4社に対し、石油国家備蓄第2弾(約580万kL、20日分相当)の放出も実行に移しています(4/24発表)。
2.2 「選択的非生産」という経営判断
ホルムズ海峡の事実上の封鎖を受け、旭化成は4月1日出荷分からポリエチレン全製品を+120円/kg以上(3割超)値上げ。三井化学・出光興産出資のプライムポリマー、日本ポリエチレンも同時期に値上げを発表。直近数年の数円〜数十円規模と比べ、異例の大幅値上げとなった。
三菱ケミカルグループは2026年4月17日、界面活性剤の原料となる酸化エチレンなどを5月1日納入分から値上げすると発表(日経4/17報道)。酸化エチレンは1kgあたり130円以上の値上げで、洗剤などに使われる中間材料に波及する。鹿島コンビナート(茨城県神栖市)で生産しており、日用品メーカーなどに供給。三菱ケミカルGの酸化エチレン生産能力は国内全体の4割弱を占め、シェア最大の日本触媒(国内4割)も既に4月1日出荷分から値上げ済み。基礎化学品の値上げは樹脂・洗剤・界面活性剤分野まで連鎖している。
石油精製各社は株主への利益責任を負う企業です。ENEOSや出光興産の直近のIR資料では、不採算部門(特に石化原料部門)の収支改善が急務とされており、高利益率の特定製品への優先配分が行われています。これが統計上の在庫を特定ラインへ「ロック」させている正体です。同様のアロケーション体制は梱包資材分野でも進行しており、「ストレッチフィルム・PPバンド・OPPテープ供給危機と価格急騰の全貌レポート Vol.1」で具体例を整理しています。
統計上の「在庫期間」と現場の「原料確保」の認識差
3.1 「ナフサ」と「製品(樹脂)」の強引な合算
政府の在庫統計には、液体としての「ナフサ」だけでなく、既にメーカーの倉庫にある「ポリエチレン(PE)」や「ポリプロピレン(PP)」などの樹脂製品が含まれています。経済産業省の「化学工業統計」では、製品在庫を原料換算(ナフサ何トン分か)して備蓄量に加算しています。製品として固まった在庫は特定のグレードや形に固定されており、汎用的な原料(ナフサ)としての機能は失われています。
3.2 タイムラグという名の「空白の45日間」
政府は国家石油備蓄の放出を在庫日数にカウントしていますが、そこには物理的な「精製リードタイム」が考慮されていません。国家備蓄から原油を放出し、製油所で精製し、ナフサとして化学工場へ届けるまでには最短でも約45日(1.5ヶ月)を要します。経産省は4月15日に第2弾の国家備蓄放出(約20日分)を決定し、5月1日から順次放出(総量約580万kL、5,400億円規模)を実行に移しましたが、この精製リードタイムはそのまま残っています。
① 「ナフサ」と「既製の樹脂製品(PE/PP等)」を原料換算で合算 ── 実際には汎用原料として機能しない在庫を含む。
② 備蓄原油から製油所精製を経てナフサが届くまで最短45日(1.5ヶ月)のリードタイムが在庫日数に算入 ── 政府が「精製待ちの原油」を今すぐ使える「ナフサ在庫」としてカウントしているため、現場で原料が切れた状態でも数字上は「在庫がある」と発表できる構造になっている。
3.3 スポット市場が示す「流動性ゼロ」の現実
経産省は「日本全体として必要な量を確保できている」と表明しつつ、「流通の目詰まり解消」で事態の打開を図る方針を示した。日化協も5月15日に「川上の原料は維持できているが個別製品では偏りが残る」と認めた。一方、帝国データバンクは「短期的な解決は難航することが予想される」と評価している。「量がある」と「現場に届く」は全く別の問題であることを、これらの発言が浮き彫りにしている。
在庫の「不在」を証明する3指標
| 指標 | 内容 |
|---|---|
| ① スポット価格の乖離 | 通常価格の2倍以上がスポット市場で提示されており、フリー在庫は実質ゼロ。本当に自由に使える在庫が市場にあるならば、これほどの価格乖離は起きない。 |
| ② リードタイム「回答不能」 | 日本ポリエチレンは4月納入分からリードタイムを「未定」に設定(+90円/kg以上の値上げと同時)。政府が言う「在庫確保」が事実であれば、リードタイムが「未定」になることは論理的にあり得ない。 |
| ③ メーカー稼働縮小 | 三菱ケミカル旭化成エチレン(水島)が4月11日より減産を開始(化学工業日報)。国内12基中6基減産、フル稼働3基のみ。 |
サプライチェーンにおける在庫の「偏在」と流動性の課題
4.1 在庫の「3つの壁」
政府統計上の在庫が市場に流れてこない理由は、以下の3つの「壁」によって在庫の所在が偏っているためです。
4.2 帝国データバンク調査が示す「川下への波及」
主要化学品メーカー52社を起点とした調査の結果、全国4万6,741社(全製造業の約3割)がナフサ関連製品の調達リスクに直面する可能性がある。対象企業の約9割(4万1,417社)は資本金1億円未満の中小企業であり、コストを販売価格に乗せる価格転嫁力が弱く、経営圧迫が深刻化している。
業種別のナフサ関連取引割合(帝国データバンク調査)
帝国データバンクが4月上旬に実施したアンケートによると、原油高の影響を経営へのマイナスと答えた企業は96.6%に達する。主力事業縮小につながるまでの期間として「6ヶ月未満」と回答した企業は4割超。製造業に限ると「3ヶ月未満でも経営に重大な影響が及ぶ」が22.8%に上り、現場への影響が表れるまでの時間は想定より遙かに短い。
この影響は建材・住宅設備分野でも具体的に表れており、「『建材有事』から『設備有事』へ2026」でTOTO・LIXIL・クリナップの受注停止経緯を整理しています。また、自動車部品業界の「ナフサ6月懸念」についてはトヨタ系Tier1サプライヤーの2026年4月決算記事を参照ください。日経4月12日報道では、旭化成ホームズが戸建て住宅の値上げを予定、建材メーカーの4割が3ヶ月後の在庫に影響が出ると予測しています。
5月以降の最新動向(5月18日新設)
5月に入り、4月時点では予測の段階だった「ナフサ6月懸念」の構造的影響が、決算発表と石化再編という形で具体化してきています。本章では5月時点で顕在化した3つの新事実を整理します。
5.1 旭化成・西日本エチレンJV設立合意(5月12日)
旭化成は2026年5月12日、水島事業所のスチレンモノマー(SM)・低密度ポリエチレン(LDPE)・高密度ポリエチレン(HDPE)の2030年生産終了計画を正式発表しました。同時に、三井化学・三菱ケミカル・旭化成の3社で「西日本エチレンJV」を設立する基本合意も成立。出資比率は三井化学45%・三菱ケミカル45%・旭化成10%です。AMEC(水島)から大阪OPC(大阪石油化学コンビナート)へ集約し、現在の95.1万トン体制を45.5万トン体制(約52%減)に縮小する大規模再編が動き出しました。これは単なるコストカットではなく、過剰設備の構造的整理が「ナフサ調達危機」を契機に一気に進行した事例として記録されます。
5.2 三菱ケミカルG決算が示す「180億円下振れリスク」(5月13日)
三菱ケミカルグループが2026年5月13日に発表した決算では、2027年3月期に約180億円の業績下振れリスクが示されました。要因として、サウジMMA(メチルメタクリレート)拠点の4月からの生産休止、MMA関連で約100億円規模の下振れが盛り込まれており、ホルムズ封鎖の影響が単なる原料費上昇ではなく、海外拠点の生産停止という具体的損失として企業会計に表れています。日経5月16日朝刊では、需給逼迫が続くシンナーで日本ペイントが再値上げ検討に入ったとも報じられており、川下への二次値上げ波が継続中です。
5.3 日化協・経産省の公式コメント(5月15日)
日本化学工業協会は2026年5月15日、「川上の原料は維持できているが、個別製品では偏りが残る」との公式見解を発表しました。これは4月14日に経産省が発した「全体は足りているが流通の目詰まり」というメッセージとほぼ同内容であり、業界団体としても同じ構造認識に到達していることを示しています。一方で、製造業の現場では4月17日に三菱ケミカルGが酸化エチレン+130円/kg値上げを発表(5月1日納入分から)するなど、川中・川下への価格転嫁が連鎖的に進行しています。
5.4 旭化成ホームズの戸建て値上げと給湯器メーカー対応
日経4月12日報道では、旭化成ホームズが戸建て住宅の値上げを予定、建材メーカーの4割が3ヶ月後の在庫に影響が出ると予測しています。給湯器分野でも、ノーリツが2026年3月2日付で温水機器を値上げ済み(4年で4回目)、三菱電機は2026年4月8日生産分からエコキュート・電気温水器の部品塗装仕様変更を実施(中東情勢に伴うナフサ調達不足が要因と販売店・工事店に案内)。「現物が手に入らない」「色味がわずかに異なる」という現場の異変が、最終消費者向け製品にまで及んでいます。
需要破壊と買い控えの3層分解 ── 価格急落の正体(6月4日新設)
5月18日時点では「ナフサ価格は高止まり、6月にかけて過去最高更新の可能性」(化学工業日報4/30)が大勢の見方でした。しかし、5月末から6月初頭にかけてナフサ価格は急落しました。5月16日時点で1トン1,043ドル・国産116,858円/kLだった価格は、6月3日時点で1トン767ドル・国産87,125円/kL(為替159.69円)と約26%下落(大景化学公表データ)。この下落の主因は「供給回復」ではなく、需要破壊(demand destruction)と買い控えです。本章では、5月18日以降に顕在化した「買えない/買い控え」の動きを石化メーカー・川中ユーザー・川下層の3層で分解します。
6/3時点(5/16比 -26.5%)
6/3時点(1kL/為替159.69円)
過去最低・44カ月連続90%割れ
前年同月比(石化協5/21発表)
6.1 石化メーカー層 ── 「お金を出せば確保できる」フェーズへの移行
4月時点では「ナフサが物理的に足りない」が現場の問題意識でした。しかし、5月中旬以降は様相が変わります。2026年5月21日、日本経済新聞は「ナフサはお金を出せば確保できる、化学大手が悩む高値在庫リスク」と題する記事を掲載しました。
「中東情勢の緊迫化によって日常生活を支えるナフサ(粗製ガソリン)への依存が顕在化した。足元ではナフサの代替調達が進み、切迫感は和らぎつつある。だが中東外からの代替品は割高で、調達を増やしすぎれば高値在庫を抱えるリスクもある。原料価格と需給バランスを見極め、どう供給網を構築するかが問われる」
同日、石油化学工業協会は4月のエチレン生産設備稼働率を発表。67.3%(速報値)で1996年以降の統計で過去最低、44カ月連続で90%割れとなりました(石化協プレスリリース・日経新聞・時事通信報道)。4月エチレン生産量は28万3,500トン(前年同月比-37.1%)です。
「ホルムズ海峡の封鎖という逆風下でも市場が必要とする量はおおむね確保できている」と語る一方、「目詰まり」の原因として工藤氏が挙げたのは「値上げ観測や供給懸念からくる前倒し需要の存在」。さらに「3月に比べると冷静に調達を進めている」「中期的には価格が非常に大きな問題」と述べ、価格高騰による需要減退に懸念を示した(時事通信・日経5月21日報道)。「ナフサの代替調達は進んではいるものの価格は高止まりしている」として、今後への懸念を強調(テレビ朝日報道)。
石化メーカーの調達は「量の問題(4月)」から「高値在庫リスクの問題(5月以降)」へとフェーズ移行しました。中東外からの代替調達品は通常時の約2倍の価格で、これを抱え込んで在庫評価損を出すリスクと、稼働率維持のための調達のバランスが、化学大手の経営判断の中心課題となっています。三菱ケミカルグループの筑本学副会長(5月21日就任予定)は「プレミアムを支払うことで必要な量が調達できている状況だ」と発言(日経5/21)。
6.2 川中ユーザー層 ── 前倒し需要の終焉と買い控え
主要4樹脂(ポリエチレン2品種・ポリプロピレン・塩化ビニル樹脂)の国内出荷数量は、4月実績で前年同月比1〜7%減(石化協5月21日発表)。原料高を見据えて出荷が増えた3月と比べても減少しています。3樹脂で2025年の平均出荷数量を上回ったため水準は大きくは落ち込んでいませんが、低水準の生産が続く中、在庫を取り崩しながら出荷を維持している構図です。
工藤会長が挙げた「値上げ観測や供給懸念からくる前倒し需要」は、4月までは大きな駆け込み需要を生んでいましたが、5月以降は終焉しつつあります。前倒し需要が一巡し、在庫を抱えた川中ユーザーは新規発注を抑制する局面に移行しました。
米国産ナフサ輸入5倍 ── 調達多角化の決定的データ
「中東情勢の悪化をうけ、石油化学製品の原料であるナフサ(粗製ガソリン)の調達先の米国シフトが鮮明だ。米国から日本への輸入量は5倍に増えた。一方、日本を取り巻くナフサ相場は3割上昇し、様々な製品の値上げを通して企業や家計の負担をさらに高めそうだ」「欧州の調査会社ケプラーの船舶追跡情報によると、5月の米国から日本へのナフサ輸入量は27日時点で32万トンに達した。過去12カ月平均の5倍に急増している」
ガソリンとナフサ「ワニの口」── 同じ石油製品で異なる産業構造
5月30日、日本経済新聞は「ガソリンとナフサ、値動き『ワニの口』 同じ石油製品で異なる産業構造」と題する記事を掲載。2月27日の価格を100とすると、5月28日時点でガソリンは109.8、ナフサは128.3とのスポット価格データを示しました(日経5月30日)。第2章で論じた緊急的激変緩和措置(170円超過分補助)対象であるガソリンと、補助対象外であるナフサの「経済的目詰まり」の構造が、5月末時点の実数で裏付けられた形です。
6.3 川下層 ── 価格転嫁の重圧と需要消失への現場対応
5月30日、日本経済新聞は「食品値上げラッシュ、ナフサ不足で『6月にも再燃』 帝国データ調べ」を報じました。主要食品メーカー195社調査で値上げ要因「包装資材」が7割と、要因別の集計を始めた23年以来最も高い比率に達しました。
「中東問題によるナフサ(粗製ガソリン)不足の影響が川下に出始め、包装資材やエネルギー、物流費の上昇分を転嫁する動きが強まりつつある。値上げの要因別では『包装資材』が7割と、要因別の集計を始めた23年以来最も比率が高くなった。山崎製パンは原材料や包装資材の高騰を受け7月から一部パンや菓子を値上げする。オタフクソースは一部業務用商品の販売を一時休止する」
同日、日経はもう一本「ドンキが白黒包装の低価格PB ナフサ不足逆手に、水500mlで40円」を掲載。包装の簡素化(モノクロ印刷化)でコストを抑え、500mlペットボトル飲料水を40円で販売するPB戦略を報じました。これはナフサ不足を逆手に取った川下小売の現場対応であり、「需要そのものの消失への対策」が始まったことを示しています。
工業用有機溶剤・薬品メーカーの三協化学株式会社は2026年6月2日、自社サイトで「中東情勢に伴う一部製品の新規受付再開・出荷納期について」を案内しました。4〜5月の新規受付停止状態から、価格高騰を背景に需給ピークアウトが顕在化したことで、一部製品の出荷再開に踏み切った形です。需要破壊と買い控えで需給バランスが緩和したエビデンスといえます。
6.4 価格データが示す需要破壊の実証 ── 5/16 $1,043 → 6/3 $767
※参考市況:下表のナフサ国際市況(MOPJ:Mean of Platts Japan等のスポット指標)および国産ナフサ価格指標は、あくまでベンチマークとしての参考値であり、実需者が実際に購入する価格とは乖離します。実購入コストには本節6.5で論じる「4つの上乗せ要因」が加わるため、市況の急落=危機収束と短絡的に判断することはできません。
| 時点 | ナフサ国際市況 | 為替 | 国産ナフサ価格指標 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2026年2月末 | $600台後半 | − | − | ホルムズ封鎖直前 |
| 2026年3月末 | $1,200超 | − | − | 5月前半到着分の取引価格(化学工業日報) |
| 2026年5月16日 | $1,043 | 158.45円 | ¥116,858/kL | 大景化学公表 |
| 2026年6月3日 | $767 | 159.69円 | ¥87,125/kL | 大景化学公表/5/16比 約-26% |
化学工業日報2026年4月30日の予測「4〜6月期の国産ナフサ基準価格は過去最高を大幅に更新する可能性が高い」は、5月中旬時点では現実味を帯びていました(5/16=116,858円/kL)。しかし6月3日時点では国産87,125円/kL。1〜3月期の65,700円/kLからは依然+33%高ですが、5/16比では約26%下落しています。供給回復ではなく、「お金を出せば確保できる」フェーズ移行(5/21日経)と化学大手の高値在庫リスク回避、川中の前倒し需要終焉、川下の値上げ転嫁による需要消失が同時進行した結果としての価格下落です。日経5月30日「ワニの口」の構造分析(ガソリン109.8 vs ナフサ128.3)は、ナフサ側が依然として補助なしの逆ザヤ構造下にあることを示しつつ、その逆ザヤを支える需要そのものが消失し始めている局面を捉えています。
ナフサ価格は依然として2月末比で+28〜30%水準にあり、6月以降に補助なしのナフサが反転上昇する可能性は残ります。しかし、需要破壊が一定の規模で進行している今、川中・川下では「高くて売れない/買えない」の局面が長期化する見通しです。第5章で論じた西日本エチレンJV(5/12合意)のような構造的再編は、まさにこの「需要破壊後の市場縮小」を前提とした戦略選択と読むことができます。
6.5 市況だけ見ると見落とす ── 実購入コストの4つの上乗せ要因
第6章6.4で示したナフサ国際市況の急落(5/16 $1,043 → 6/3 $767、約-26%)は、需給バランスの転換を示す重要な指標です。しかし、これは『市況』であって『実需者の購入価格』ではありません。化学大手の調達担当者・購買部門が日々向き合っているのは、市況に複数のコストが上乗せされた『実取引価格』です。本節では、市況の数字を額面通りに読むと見落とす4つの上乗せ要因を整理します。
上乗せ① ── 長期契約フォーミュラとプレミアム
ナフサの主要取引は、市況スポットではなく長期契約のフォーミュラ価格(参照指標+プレミアム)で行われます。中東情勢悪化以降は、調達確実性を優先するため、通常時の数倍に達するプレミアムを上乗せして契約する事例が増えています。三菱ケミカルグループの筑本学副会長は2026年5月21日、「プレミアムを支払うことで必要な量が調達できている状況だ」と発言(日経5/21)。石化協・工藤幸四郎会長も同日、「中東外からのナフサ価格は通常時の約2倍」「この(高値の)レベルがある程度続くという前提でいるべきではないか」と述べています。市況$767への下落は、このプレミアム部分にはほぼ反映されていません。
上乗せ② ── 海上輸送費・戦争保険料の高騰
中東外からの代替調達が拡大したことは、調達ルートの長距離化を意味します。アフリカ・欧州産は喜望峰経由で輸送日数約14日増・燃料コスト約1.5倍、米国産は太平洋横断ルート、中央アジア産も陸送と海上の組み合わせで長距離化しています。さらに、ホルムズ海峡周辺を航行する船舶への戦争保険料が爆騰しており、VLCC(大型タンカー)・MR(中型タンカー)の用船料も高止まり。これらはすべて市況指標には含まれない「物流系上乗せコスト」です。5月27日時点でKplerの船舶追跡情報が示した米国産ナフサ32万トン(過去12カ月平均の5倍)の輸入急増は、この物流コスト構造を実需者が現に飲み込んでいる証拠でもあります。
上乗せ③ ── 円安進行による為替コスト
大景化学公表データの為替推移を見ると、5月16日時点の158.45円/$から6月3日時点には159.69円/$へと、ナフサ市況下落期間中に円安が進行しました。国産ナフサ価格指標は「市況×為替」で算出される構造のため、市況下落分の一部を為替が相殺しています。ドル建てでは約26%下落したナフサも、円建ての国産ナフサ価格指標で見ると下落幅はやや圧縮(116,858円/kL → 87,125円/kL、約-25.4%)。さらに、輸送費・保険料も多くがドル建てで請求されるため、円安は実購入価格を底支えする方向に効きます。
上乗せ④ ── 軽質ナフサ得率ミスマッチ(最も見落とされる構造的上乗せ)
これは技術的な論点ですが、実購入コストを最も静かに、しかし最も構造的に押し上げている要因です。日本のエチレン製造設備(ナフサクラッカー)は、長年にわたり中東産ナフサの組成を前提に設計・運用されてきました。配管・熱交換器・分離塔・副生物処理ラインのすべてが、中東産特有のパラフィン度・芳香族度の比率に最適化されています。
一方、代替調達の主力となっている米国産ナフサはシェールガス由来でライト(軽質)寄りの組成、ロシア・カザフスタン産は重質寄りで、いずれも中東産とは性状が異なります。同じ1トンを購入しても、得られる派生品(エチレン・プロピレン・C4留分・BTX芳香族)の構成比率が変わるため、結果的に「欲しい派生品を必要量得るために、より多くのナフサを買う/別ルートから補完調達する」必要が生じます。これは市況の数字には現れない「実質コストアップ」です。
さらに、設計外の組成のナフサを処理することは、クラッカーの熱バランス管理を難しくし、稼働率を抑制せざるを得ない側面があります。4月のエチレン稼働率67.3%(過去最低)には、原料調達難だけでなく、この『組成ミスマッチによる安全運転』という技術的制約も影響していると考えるのが現場感覚に近いでしょう。副生物(重質油・ピッチなど)の処理ルートも組成変化で詰まりやすく、これも見えないコスト増として実需者にのしかかっています。
ナフサ国際市況の6月3日時点$767という数字だけを見ると「危機は峠を越した」と読みたくなります。しかし本節で論じた通り、実需者の購入価格には①フォーミュラ+プレミアム、②海上輸送費・戦争保険料、③円安、④軽質ナフサの得率ミスマッチの4つの上乗せが乗っており、実購入コストは依然として高水準を維持しています。むしろ、需要破壊と買い控えで市況が下落している間も、これら4要因による実コスト圧迫は継続しており、川下への価格転嫁圧力は遅効的に効いてくる可能性が高いと見るべきです。市況の数字を「危機収束のシグナル」と短絡的に読まず、実購入コスト・契約条件・調達リードタイムの3点で現場をモニタリングする姿勢が、今この局面の調達戦略には不可欠です。
局面転換 ── 米イラン覚書合意と需要破壊の併走/覚書合意≠危機収束(6月25日新設)
第6章で論じた「需要破壊によるナフサ市況急落(5/16 $1,043→6/3 $767、約26%下落)」と「実購入コストには4つの上乗せ要因が残存」という構造に、2026年6月14日以降の米・イラン覚書合意という新たな外部要因が加わりました。本章ではこの局面転換を、覚書の内容、ホルムズ通航再開の実態、政府・業界の見通し、そして「覚書合意≠危機収束」の3軸構造を一次情報で論証します。本章は、本記事の中核である3層構造(物理/経済/流通)に5月以降加わった第6章「需要破壊」と並ぶ、第5の局面変化レイヤーに位置づけられます。
イスラマバード覚書
(6/14合意・6/18署名)
6/19時点
(衝突前水準近づく)
ホルムズ通過タンカー
(6/19日経)
「ナフサ前年並み生産量」
(6/2発言)
7.1 米・イラン14項目覚書(イスラマバード覚書)── 6月14日合意・6月18日デジタル署名
2026年6月14日、トランプ米大統領は自身のSNSで「イランと戦闘終結で合意した」と発表。仲介国はパキスタンで、合意文書は通称「イスラマバード覚書(Islamabad Memorandum of Understanding)」と呼ばれます。100日以上続いてきた米・イスラエルとイランの軍事衝突に、ようやく一区切りがついた瞬間です。覚書は6月18日、トランプ大統領とマスード・ペゼシュキアン大統領がデジタル署名する形で正式発効しました(G7サミット会期中)。
(1) 米国の海上封鎖を解除(30日以内に完了)── 米軍がイランの港湾を封鎖していた措置の解除、イラン石油が市場に戻る土台。
(2) イランによるホルムズ海峡の機雷除去(30日以内)── ホルムズ海峡の物理的な航行安全が回復していく。
(3) 60日間ホルムズ海峡の通行料無料── タンカーが安心して通れる期間が確保され、輸送費の追加負担が一時的に和らぐ。
(4) イランの石油輸出再開── 世界の原油供給が増え、ナフサ・LNG・石化原料の上昇圧力が和らぐ。
残り10項目には、核問題(イランのウラン濃縮活動の扱い)、制裁解除の最終形、凍結資産(米国制裁で使えないイラン海外口座)へのアクセス回復、国連による覚書承認といった長期的に交渉が必要な事項が含まれます。三菱総研6/19が「本質は60日後への先送り」と指摘するのは、これらの根本課題が今後の協議に委ねられたためです。
なお、長期交渉事項のうち「凍結資産アクセス回復」(米国制裁で使えなくなっていたイラン海外口座へのアクセス)は、ナフサ供給と無関係ではありません。イランが海外資産にアクセスできれば、石油・ガス開発投資の再開やインフラ復旧の資金調達が可能になり、中期的にはイラン産原油・ナフサの供給能力回復につながります。逆に、凍結資産解除が進まなければ、ホルムズ通航が再開しても、イラン側の供給能力は4月以前のレベルには戻りません。覚書14項目の「短期的に履行可能な4項目」と「長期交渉に委ねられた10項目」は、ナフサ供給という観点で見ると、短期の海峡開放と中期の供給能力回復という時間軸の異なる2つの効果を持つと整理できます。
7.2 ホルムズ海峡通航の再開 ── 6月19日タンカー6隻通過、原油は衝突前水準近づく
覚書発効の翌日、ホルムズ海峡で具体的な変化が起こりました。2026年6月19日、日本経済新聞は「日本向けなどタンカー6隻ホルムズ通過 原油4%安で衝突前水準近づく」と題する記事を掲載。
「日本向けを含む少なくとも6隻の大型タンカーが海峡を通過したことが明らかになった。原油価格はWTI(ニューヨーク原油先物)が一時前週末比6%安の1バレル80ドル近辺と、3月10日以来の安値をつけ、北海ブレント原油先物も83ドル台と前週末から4%下落した。衝突前の60ドル台にはまだ届かないが、最高値(4月7日144.42ドル)から見ると4割以上の下落」
本記事の第6章で示した6月3日時点のナフサ国際市況($767/MT)と国産ナフサ価格指標(87,125円/kL)は、この6月19日の原油下落とほぼ整合的な方向にあります。ただし、6月後半時点のナフサ市況・国産ナフサ価格指標の確定数値は本記事公開時点(6月25日)では未公表のため、今後の続報を待つ必要があります。
7.3 一進一退の「ゆらぎ」── 6月20〜21日の動向
ただし、楽観だけではいられません。6月20日には「船舶通過の動きはあるが、戦闘開始前に比べると低調」とNHKが報じ、6月21日にはイラン側が「レバノンでの停戦違反があった」(イスラエルとヒズボラの停戦合意違反をイランが主張)としてホルムズ海峡の再封鎖を主張する場面もありました。それでも週末を通じて約800万バレルの輸送能力を持つタンカー5隻が海峡を通過するなど(Bloomberg)、実際の物流はゆっくりと続いています。米国とイランの公式説明には食い違いも見られ、6月21日にはスイスで覚書署名後の初めての協議が始まりました。
7.4 政府の供給見通し ── 赤澤経産大臣「ナフサ、定期修理集中期間終了で7月に前年並み生産量」
覚書合意に先立つ2026年6月2日、赤澤亮正経済産業大臣は記者会見で、本記事の核心テーマであるナフサについて重要な見通しを示しました。
赤澤大臣は「ナフサについては、定期修理の集中期間が終了することで7月に前年並みの生産量に戻る」との見通しを示しました(logistics-today報道)。第3章で論じた国家備蓄第2弾(5月1日放出開始)の精製リードタイム約45日が7月中旬に到来することと、製油所の定期修理集中期間が終わることが重なるタイミングです。これは「政府用語としての目詰まり」が制度的・物理的な要因解消に向けて動き出すという、政府公式の重要なシグナルといえます。
本記事の第1章で論じた「ナフサ収率前年比-4.2%」「エチレン4月稼働率67.3%(過去最低)」という物理的制約が、7月以降に解消方向に向かう可能性が政府公式コメントで示された形です。ただし、これは「国内のナフサ生産量」の話であり、第6章で論じた「実購入コスト」の問題(フォーミュラ+プレミアム、海上輸送費、円安、軽質ナフサ得率ミスマッチ)とは別の論点です。生産量回復≠実購入価格低下、という点に注意が必要です。
具体的に分解すると、赤澤大臣発言は「国内製油所が定期修理から復帰してナフサ生産量がトン数ベースで前年並みに戻る」ということを意味しますが、実需者の購入価格は「市況×(フォーミュラ+プレミアム)+海上輸送費+為替+得率調整」という多変数の合成で決まります。国内生産量回復は市況の下押し要因にはなりますが、プレミアム部分(中東外調達の確実性確保コスト)と得率調整(軽質ナフサ組成ミスマッチによる派生品歩留まり低下)は、国内供給回復だけでは解消されません。さらに、国内製油所が前年並みに生産しても、その原料となる原油の輸入ルート(中東依存度)と組成が回復しない限り、ライトナフサの収率・組成は中東情勢前の状態には戻りません。調達担当者は7月の生産回復を「コスト改善のシグナル」と短絡的に読まず、実購入価格データの継続モニタリングが必要です。
7.5 三菱総研の警鐘 ── 「対立の一時停止、本質は60日後への先送り」
覚書合意の翌週、三菱総合研究所は2026年6月19日付のコラム「アメリカとイスラエルによるイラン攻撃⑦ 危機の先延ばし 米・イラン覚書14項目の意味するもの」で、覚書の本質を冷静に分析しています。
「覚書の内容を精査すると、この文書が実現したのは和平ではなく対立の一時停止であり、その本質は危機の解決ではなく危機の先送りにあることが分かる。短期間で履行可能なものはホルムズ海峡の開放、石油輸出再開、凍結資産へのアクセス回復などに限られる。一方で核問題、地域安全保障、制裁解除の最終形、国連による承認といった本質的な課題は、いずれも今後の交渉に委ねられた」
「条文全体を通して見ると、最も難しい問題を解決したのではなく、60日後へ先送りしたという構図が浮かび上がる」
三菱総研の分析は、本記事第6章6.5で論じた「市況急落は『危機収束』を意味しない」という構造論と完全に整合します。覚書発効から60日後(=2026年8月中旬)には通行料無料措置が終了し、覚書本体の継続実行性が改めて試される局面が訪れます。その時点で核問題・制裁解除の最終形をめぐる協議が決裂すれば、ホルムズ通航は再度緊張に晒される可能性があります。調達戦略は「8月中旬を見据えたシナリオプランニング」が不可欠です。
7.6 「覚書合意≠危機収束」── 市況反転・実購入コスト・需要構造復元の3点を分けて読む
本章の最も重要な結論は、覚書合意を「危機の終わり」と読み替えてしまうことの危険性です。本記事ではこれを3つの軸で分けて読むことを提案します。
| 軸 | 6月25日時点の評価 | 注意点 |
|---|---|---|
| 軸① 市況反転 | 部分的に進行中 | 覚書合意・ホルムズ通航再開・赤澤大臣「7月前年並み生産」発言で原油・ナフサ市況は下落基調。ただし60日後(8月中旬)の通行料無料終了とその後の交渉動向次第で反転リスク。 |
| 軸② 実購入コスト | 高水準維持 | フォーミュラ+プレミアム、海上輸送費・戦争保険料、円安、軽質ナフサ得率ミスマッチの4要因は覚書合意のみでは解消しない。クラッカー設計の組成適合化には設備改造を伴う技術投資が必要で、短期間では解消できない。 |
| 軸③ 需要構造復元 | 長期化見通し | 第6章で論じた化学大手の高値在庫リスク回避・川中の前倒し需要終焉・川下の値上げ転嫁による需要消失は、中東情勢が安定しても短期間では復元しない。西日本エチレンJV(5/12合意・95.1万トン→45.5万トン)は需要構造復元を「待たない」前提の戦略選択。 |
2026年6月14日の米・イラン14項目覚書合意、6月18日のデジタル署名、6月19日のホルムズ通航再開、6月2日の赤澤大臣「ナフサ7月前年並み」発言は、確かに「大きな一歩」(高市総理6月15日会見)です。しかし三菱総研6/19が指摘する通り、本質は「対立の一時停止、60日後への先送り」です。本記事第6章で論じた市況≠実購入価格の4要因はそのまま残存し、需要破壊で失われた需要構造もすぐには元に戻りません。2026年初頭の中東依存構造へは戻らず、「新しい正常状態」へゆっくり移行する一里塚として覚書合意を位置づけるのが現実的です。調達戦略としては、①市況反転シグナルへの過剰反応を避ける、②実購入コスト4要因の継続モニタリング、③需要構造復元を「待たない」生産・販売戦略の再構築 ── この3点が、本章の実務的示唆となります。
主要イベントタイムライン(6月25日更新)
抽象的な言葉の先にある、新しい市場の現実
政府の「目詰まり」という表現は、4月14日の経産省「量は確保できている」発言・5月15日の日化協「川上の原料は維持できているが個別製品では偏り」と、帝国DBが示す「調達リスクに直面する製造業3割」という現実の乖離に、そのまま体現されています。「量がある」と「現場に届く」は全く別の問題です。
そして5月12日の西日本エチレンJV合意、5月13日の三菱ケミカルG決算180億円下振れリスクが示すように、4月時点では「予測」だった構造変化が、5月には「決算」「合意」という形で具体化しました。6月にかけては、5/21の石化協・工藤会長会見「価格高騰による需要減退に懸念」、5/27の米国産ナフサ輸入5倍、5/30の食品値上げラッシュ再燃・ドンキ白黒包装PB、6/2の三協化学「一部新規受付再開」、6/3のナフサ価格約26%下落と、「買えない/買い控え」を主軸とした需要破壊が3層で同時進行する局面に移行しました。
さらに6月中旬には、6/14米・イラン14項目覚書合意(イスラマバード覚書)、6/18デジタル署名、6/19日本向け含むタンカー6隻ホルムズ通過と、外部環境の局面転換が重なりました。同時に、6/2赤澤亮正経済産業大臣「ナフサ、定期修理集中期間終了で7月に前年並みの生産量」発言が、国内供給回復の政府公式シグナルとして示されました。しかし三菱総研6/19が冷徹に分析する通り、これらは「和平ではなく対立の一時停止、本質は60日後への先送り」です。市況反転シグナルの読み違えは、今後の調達戦略にとって致命的な判断ミスを招きかねません。
1. 物理的要因(LAYER 01):ガソリン優先の精製設定でナフサ収率前年比-4.2%、備蓄原油の重質化もライトナフサ生産を制約。エチレン4月稼働率67.3%(過去最低、44カ月連続90%割れ)、生産量28万3,500トン(前年比-37.1%)が物理的制約を実証(石化協5/21)。
2. 経済的要因(LAYER 02):暫定税率廃止(ガソリン25.1円/L=2025/12/31、軽油17.1円/L=2026/4/1)後の緊急的激変緩和措置(170円超過分補助)が「儲かる燃料」と「損する原料」を分断。日経5/30「ワニの口」で実数化──2/27=100時、5/28ガソリン109.8 vs ナフサ128.3。
3. 流通的要因と川下波及(LAYER 03):在庫が精製・石化・商社の各段階でロックされフリー在庫実質ゼロ。帝国データバンクが4万6,741社(製造業の約3割)の調達リスクを数値化、対象の約9割が資本金1億円未満の中小企業で価格転嫁力が弱い。米国産ナフサ輸入5倍(5/27 Kpler/32万トン)で代替調達が拡大。
4. 需要破壊と市況≠実購入価格(LAYER 04/6月4日新設):ナフサ価格は5/16 $1,043→6/3 $767/MT(国産87,125円/kL)へ約26%急落。供給回復ではなく、化学大手の高値在庫リスク回避(5/21日経「お金を出せば確保できる」)、川中の前倒し需要終焉、川下の需要消失(食品値上げ6月再燃で包装資材要因7割)の3層同時進行が価格を押し下げた。市況急落は危機収束ではない──実需者の購入価格には①フォーミュラ+プレミアム、②海上輸送費・戦争保険料、③円安、④軽質ナフサ得率ミスマッチ(クラッカー設計の中東産前提)の4要因が上乗せされ、実コストは依然高水準。
5. 6月中旬以降の局面転換 ── 覚書合意≠危機収束(LAYER 05/6月25日新設):6/14米・イラン14項目覚書(イスラマバード覚書)合意、6/18デジタル署名で正式発効、6/19日本向け含むタンカー6隻ホルムズ通過、原油WTI80ドル近辺・Brent83ドル台(日経6/19)。6/2赤澤亮正経産大臣「ナフサ7月に前年並みの生産量」表明(logistics-today)。ただし三菱総研6/19「対立の一時停止、本質は60日後への先送り」。①市況反転(部分的進行)、②実購入コスト(高水準維持)、③需要構造復元(長期化)の3点を分けて読む必要がある。2026年初頭の中東依存構造へは戻らず、「新しい正常状態」へゆっくり移行する一里塚として読むのが現実的。
これらのエビデンスが示すのは、「目詰まり」が「政策的な選択の結果」であり、さらに2026年6月後半に始まった局面転換も「危機の終わり」ではなく「構造変化の本格化」であるということです。5月12日の西日本エチレンJV合意(三井化学45%・三菱ケミカル45%・旭化成10%、95.1万トン→45.5万トンへ約52%減)や5月13日の三菱ケミカルG決算180億円下振れリスクが示すように、業界の構造再編は既に動き出しており、これは「需要構造復元を待たない」戦略選択です。エネルギー配分の優先順位が変わったという現実を正確に認識し、冷徹なエビデンスに基づいた調達戦略の再構築こそが、今この局面で最も必要とされています。建材・物流資材を含む2026年5月1日出荷分からの値上げ動向については「建設・物流・包装資材30社一覧」で網羅的に整理しています。
参照エビデンス一覧(6月25日更新)
- 石油連盟(PAJ)「週刊石油統計」2026年4月11日版 ── ナフサ収率4.2%低下・稼働率85%。
- 化学工業日報(2026年3月18日) ── ナフサ市況1,100ドル/MT到達・三菱ケミカル旭化成エチレン稼働縮小。
- 旭化成株式会社(2026年3月31日) ── ポリエチレン全製品+120円/kg値上げ発表。
- プライムポリマー・日本ポリエチレン(2026年4月1日) ── PE・PP値上げ・リードタイム未定通知。
- 日本経済新聞(2026年4月13日) ── 旭化成ポリエチレン3割超値上げ報道。
- 資源エネルギー庁「燃料油価格激変緩和対策事業(緊急的激変緩和措置)」── 3/19再開、ガソリン170円超過分補助の変動型、4/9以降48.8円/L・4/16以降35.5円/L。
- 資源エネルギー庁「ガソリンの暫定税率廃止」── ガソリン暫定税率25.1円/L=2025年12月31日廃止、軽油暫定税率17.1円/L=2026年4月1日廃止。
- 経済産業省 資源エネルギー庁(2026年4月14日) ── 「流通の目詰まり」認定・量確保表明、シンナー目詰まり解消指示(4/10高市総理)。
- MAYロイター通信「ナフサ調達は6月までめど、中間財の値上げ避けられず=旭化成社長」(2026年4月15日) ── 工藤幸四郎社長会見、AMEC稼働6月中旬めど、調達先多角化、価格転嫁マスト。
- MAY日本経済新聞「三菱ケミカルG、界面活性剤原料を値上げ 原料ナフサ価格高騰で」(2026年4月17日) ── 酸化エチレン+130円/kg、5/1納入分から、国内シェア4割弱(日本触媒は4/1出荷分から既に値上げ実施)。
- MAY日本経済新聞「ナフサ高騰、旭化成ホームズは戸建て住宅値上げ 建材メーカー4割が在庫に影響」(2026年4月12日) ── 戸建建築費の6割を資材費が占める構造を背景に値上げ予定。
- 帝国データバンク「ナフサ関連製品サプライチェーン動向分析調査」(2026年4月17日) ── 4万6,741社・約3割の調達リスク試算・資本金1億円未満が約9割。
- Rim Intelligence「ナフサ市場価格レポート」(2026年4月11日) ── $902/MT・国産高水準継続。
- MAY大景化学「ナフサ価格推移表」(2026年5月16日時点) ── ナフサ1,043ドル/MT・為替158.45円・国産ナフサ価格指標116,858円/kL。
- 経済産業省「化学工業統計調査」2026年第1四半期速報 ── 在庫合算手法・DOI推移。
- 首相官邸(2026年4月10日) ── 高市首相・国家石油備蓄の追加放出(約20日分)決定、シンナー目詰まり解消指示。
- MAY経済産業省プレスリリース「第2弾の国家備蓄石油の放出を行います」(2026年4月15日/4月24日) ── 約580万kL(20日分)・5,400億円規模、ENEOS・出光・コスモ・太陽石油の4社、5/1から順次放出開始。
- MAY旭化成株式会社「水島事業所の生産体制見直し及び西日本エチレンJV基本合意」(2026年5月12日) ── 水島SM・LDPE・HDPE 2030年生産終了、JV出資比率:三井化学45%・三菱ケミカル45%・旭化成10%、95.1万トン→45.5万トンへ約52%減。
- MAY三菱ケミカルグループ「2026年3月期決算」(2026年5月13日) ── 27年3月期180億円下振れリスク、サウジMMA拠点4月から生産休止、MMA関連約100億円。
- MAY日本経済新聞「日化協『川上の原料維持できている』 個別製品では偏りも」(2026年5月15日)/「需給逼迫のシンナー『供給責任果たせている』 日本ペイント社長、再値上げ検討」(2026年5月16日朝刊) ── 業界団体・大手塗料メーカーの現状認識。
- 株式会社ミズテック給湯器・エコキュート関連調査(2026年5月最新) ── ノーリツ2026/3/2値上げ実施(4年で4回目)、三菱電機エコキュート2026/4/8生産分から塗装仕様変更(ナフサ調達不足が要因)。
- JUN日本ポリエチレン株式会社「ポリエチレンの価格改定について」(2026年5月18日プレスリリース) ── 2026年5月25日納入分よりPE全製品の価格改定実施、国産ナフサ価格125千円/KL超水準を想定、社長:安田 孝。
- JUN石油化学工業協会「2026年4月のエチレン生産設備稼働率」発表(2026年5月21日) ── 4月稼働率67.3%(過去最低、44カ月連続90%割れ)、エチレン生産量28万3,500トン(前年比-37.1%)、主要4樹脂出荷数量前年同月比-1〜7%。工藤幸四郎会長記者会見(時事通信・日経5/21報道)「目詰まり」原因として「値上げ観測や供給懸念からくる前倒し需要」を指摘、「中期的には価格が非常に大きな問題」「価格高騰による需要減退に懸念」を表明。
- JUN日本経済新聞「『ナフサはお金を出せば確保できる』 化学大手が悩む高値在庫リスク」(2026年5月21日) ── 「足元ではナフサの代替調達が進み、切迫感は和らぎつつある」「中東外からの代替品は割高で、調達を増やしすぎれば高値在庫を抱えるリスクもある」。三菱ケミカルグループ筑本学副会長「プレミアムを支払うことで必要な量が調達できている状況」。
- JUN日本経済新聞「米国からのナフサ輸入5倍に 中東危機で調達シフト、相場は3割高」(2026年5月27日/5月28日) ── 欧州の調査会社ケプラー(Kpler)船舶追跡情報、5月27日時点で米国から日本へのナフサ輸入32万トン、過去12カ月平均の5倍。
- JUN日本経済新聞「ガソリンとナフサ、値動き『ワニの口』 同じ石油製品で異なる産業構造」(2026年5月30日掲載) ── 2/27=100時点に対する5/28スポット価格、ガソリン109.8 vs ナフサ128.3。緊急的激変緩和措置の有無による「経済的目詰まり」を実数で裏付け。
- JUN日本経済新聞「食品値上げラッシュ、ナフサ不足で『6月にも再燃』 帝国データ調べ」(2026年5月30日) ── 主要食品メーカー195社調査で値上げ要因「包装資材」7割(2023年集計開始以来最高)。山崎製パン7月一部値上げ、オタフクソース一部業務用商品の販売一時休止。同日「ドンキが白黒包装の低価格PB ナフサ不足逆手に、水500mlで40円」報道 ── 包装簡素化による需要破壊対応。
- JUN化学工業日報「国産ナフサ価格、過去最高へ 1〜3月は横ばい」(2026年4月30日) ── 4〜6月期の国産ナフサ基準価格は「金額、上昇幅とも過去最高を大幅に更新する可能性が高い」と予測。3月末ナフサ市況$1,200超、6月前半到着分は$1,000前後で推移。
- JUN三協化学株式会社「中東情勢に伴う一部製品の新規受付再開・出荷納期について」(2026年6月2日更新) ── 工業用有機溶剤・薬品メーカー、4〜5月の新規受付停止状態から一部製品の出荷再開を案内。需要破壊と買い控えで需給バランス緩和を実証。
- JUN大景化学株式会社「ナフサ価格推移表」(2026年6月3日時点) ── ナフサ$767/MT・為替159.69円・国産ナフサ価格指標87,125円/kL。5/16時点($1,043/MT・116,858円/kL)から約26%下落。供給回復ではなく需要破壊を主因とする価格急落。
- JUN-2logistics-today「赤澤経産大臣記者会見」(2026年6月2日) ── 赤澤亮正経済産業大臣が「ナフサについては、定期修理の集中期間が終了することで7月に前年並みの生産量に戻る」との見通しを表明。第3章の国家備蓄第2弾(5/1放出開始)の精製リードタイム45日が7月中旬到来と重なる時期。物理的目詰まり解消の政府公式シグナル。
- JUN-2厚生労働省「中東情勢による価格高騰等に伴う事業活動縮小、休業で雇用調整助成金の活用案内」(2026年6月3日告知) ── 中東情勢に起因する事業活動縮小・休業を余儀なくされた企業向けに雇用調整助成金の活用を案内。ナフサ調達難の影響を受ける川中・川下企業の資金繰り対応策。
- JUN-2セキュリティ対策Lab「米・イラン覚書14項目の意味するもの ── 仲介国パキスタンの『イスラマバード覚書』」(2026年6月15日掲載) ── 2026年6月14日合意の14項目覚書の全文を整理。米国の海上封鎖30日以内に解除、イランの機雷除去30日以内、60日間ホルムズ通行料無料、石油輸出再開などの主要4項目に加え、核問題・制裁解除最終形・凍結資産アクセス回復・国連承認を含む長期交渉事項を網羅的に解説。
- JUN-2首相官邸「高市内閣総理大臣記者会見」(2026年6月15日) ── 米・イラン覚書合意について「事態の収束に向けた大きな一歩として歓迎」と表明。「実際にしっかりと覚書の署名が行われること、確実に覚書の内容が実行されること、ここが重要」「ホルムズ海峡における自由で安全な航行の確保、イランの核問題等についての最終的な合意の早期実現が大事」。
- JUN-2日本経済新聞「日本向けなどタンカー6隻ホルムズ通過 原油4%安で衝突前水準近づく」(2026年6月19日) ── 6/18のトランプ・ペゼシュキアン両大統領デジタル署名による覚書発効を受け、6/19に日本向けを含む大型タンカー6隻のホルムズ通過を確認。WTIは一時前週末比6%安の80ドル近辺と3月10日以来の安値、Brent 83ドル台と4%下落。最高値(4/7 144.42ドル)から4割以上の下落。
- JUN-2三菱総合研究所「アメリカとイスラエルによるイラン攻撃⑦ 危機の先延ばし 米・イラン覚書14項目の意味するもの」(2026年6月19日掲載コラム) ── 「覚書の内容を精査すると、この文書が実現したのは和平ではなく対立の一時停止であり、その本質は危機の解決ではなく危機の先送りにある」「短期間で履行可能なものはホルムズ海峡の開放、石油輸出再開、凍結資産へのアクセス回復などに限られる」「核問題・地域安全保障・制裁解除の最終形は今後の交渉に委ねられた」「条文全体を通して見ると、最も難しい問題を解決したのではなく、60日後へ先送りしたという構図が浮かび上がる」。
- JUN-2NHK・Bloomberg(2026年6月20-21日) ── 6/20 NHK「船舶通過の動きはあるが戦闘開始前に比べると低調」。6/21 イラン側「レバノン停戦違反」を訴えホルムズ再封鎖を主張も、Bloomberg「ホルムズ海峡原油輸送、イランの再閉鎖表明後も続く」報道。週末を通じて約800万バレル分のタンカー5隻が通過。6/21にスイスで覚書署名後の初協議開始(NHK)。
- JUN第6章6.5節 編集ノート(実需者視点の技術論点)── 市況≠実購入価格の4要因(プレミアム/海上輸送費/円安/軽質ナフサ得率ミスマッチ)については、①プレミアム部分は2026年5月21日の日経記事ならびに同日の三菱ケミカルG筑本副会長発言・石化協工藤会長発言、②海上輸送費は2026年4月以降の中東情勢関連報道、③円安は大景化学公表データ(5/16=158.45円、6/3=159.69円)を一次根拠とする。④軽質ナフサ得率ミスマッチについては、日本のエチレンクラッカー設計の慣行と米国産ライトナフサの組成差から導かれる業界共通認識を、当社が実需者調達現場の知見として整理したもの。具体的な収率数値は公表データが限定的なため、本記事では性状差の構造のみ論じ、定量数値の提示は行わない。
- JUN-2第7章 編集ノート(覚書合意の構造評価)── 米・イラン14項目覚書合意の本質を「危機収束」ではなく「対立の一時停止」と評価する論拠は、三菱総研6/19コラムを主たる一次根拠とする。覚書14項目のうち暮らし・経済直結4項目以外(核問題・制裁解除最終形・凍結資産アクセス回復・国連承認等)の長期交渉事項については、セキュリティ対策Lab6/15掲載記事を参照し整理した。覚書合意と需要破壊の併走、市況反転・実購入コスト・需要構造復元の3軸分離論については、第6章で論じた「市況≠実購入価格」の枠組みを6月後半の局面に拡張するものとして、当社が実需者調達現場の知見と整合させて構成。
免責事項・編集方針
本記事は2026年4月12日初回公開・2026年6月25日最終更新時点で取得した一次情報・公的機関・業界各社の公式情報を独自に収集・整理したものです。情勢は日々変動しており、本記事の情報に基づく判断については必ず最新情報・専門家の助言を得た上で行ってください。MAYタグ=5月新出典、JUNタグ=5月18日以降〜6月上旬の新出典、JUN-2タグ=6月中旬以降(覚書合意・赤澤大臣発言・三菱総研慎重評価等)の新出典として識別表示しています。