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FLASH REPORT

【2026年7月23日速報】フーシ派が紅海でサウジ石油タンカー2隻を攻撃、ブレント100.95ドル・ドル円163.80円で円建て原油は1バレル16,500円台、ナフサ調達コストが再上昇局面へ

イエメンの親イラン武装組織フーシ派が、紅海を航行するサウジアラビアの石油タンカー2隻を攻撃したと発表した。ホルムズ海峡の代替経路として機能してきた紅海側の輸出ルートにも制約が及ぶ形となり、ブレント原油は7月24日0時22分に100ドル台へ乗せ、ドル円も163円台後半で推移している。調達実務への波及経路を、確認済み事実と当事者発表を区別して整理する。

監視カテゴリ MONITORING / FLASH 公開 最終更新 次回更新目安 2026年7月24日夕方

TL;DR

  • フーシ派は2026年7月23日、紅海でサウジアラビアの石油タンカー2隻を弾道ミサイル・巡航ミサイル・無人機で攻撃したと発表。サウジ国営通信SPAは1隻の船首火災を確認し、乗組員は全員無事と報じた。
  • ブレント原油は7月24日0時22分に1バレル100.95ドル(前日比+7.31%)へ上昇。7月23日22時25分のドル円163.80円で換算すると1バレル16,536円となり、ドル建ての上昇率を上回る負担増になる。
  • ホルムズ海峡の通航は7月13〜19日の週で53隻と前週比66%減、湾内への入域は8隻に縮小した。紅海はホルムズの代替経路として機能してきたため、湾岸産原油の出口が両方向で狭まる構造になった。

ANSWER

2026年7月23日、フーシ派が紅海でサウジ石油タンカー2隻を攻撃したと発表し、サウジ国営通信は1隻の船首火災を確認した。ブレント原油は翌24日0時22分に100.95ドルへ上昇し、ドル円163.80円で換算すると1バレル16,536円。ホルムズの代替経路だった紅海にも制約が及び、ナフサ調達の前提が変わりつつある。

ブレント原油
100.95
ドル/バレル
7月24日0:22・前日比+7.31%
円建て原油
16,536
円/バレル
100.95×163.80で算出
ホルムズ通航
53
隻/7月13〜19日
前週157隻から66%減
紅海で被攻撃
2
隻(ENCELIA・LAYLA)
フーシ派の発表による

CHAPTER 012026年7月20日から23日までの時系列

今回の紅海タンカー攻撃は、単独で発生した事象ではない。フーシ派によるサウジアラビア向け海上封鎖の表明から実行までは3日間であり、その間に米国側の警告と原油市場の反応が段階的に積み上がっている。日本時間ベースで整理する。

日時(日本時間)事象区分
7月20日フーシ派、サウジアラビアに対する海上封鎖の実施を表明。紅海を通過するサウジ籍船舶に警告を送付当事者発表
7月21日トランプ大統領、フーシ派が紅海封鎖に踏み切れば「米国が対処する」と発言。あわせてイラン中部ピックアックス山(コラング山)への攻撃可能性に言及要人発言
7月21日Lloyd's List Intelligenceが7月13〜19日のホルムズ海峡通航を53隻と集計。前週157隻から66%減第三者追跡
7月22日イラン外務省バゲイ報道官、ピックアックス山で核関連活動は行われていないと否定当事者発表
7月22日CMA CGM、ホルムズ海峡周辺の情勢を理由に緊急燃油サーチャージを2026年8月1日積み日から導入すると公表企業公表
7月22日ブレント原油の清算値が94.07ドル。前日から3ドル超の上昇市場データ
7月23日 未明英国海運貿易オペレーション(UKMTO)、サウジ南西部アルシュカイクの西南西約70海里で船舶が被弾し火災が発生したとの船長報告を公表公的機関公表
7月23日フーシ派報道官、サウジアラビアの石油タンカー2隻(ENCELIA・LAYLA)への攻撃実施を発表当事者発表
7月23日サウジ国営通信SPA、2隻のうち1隻の船首で火災が発生し、乗組員は全員無事と報道。当局は国際法違反と指摘確認済み事実
7月23日 12:27ブレント原油が96.27ドル。6月8日以来の高値市場データ
7月23日 21:36トランプ大統領、イランとフーシ派に対し「またやるなら処罰する」と表明。「フーシ派からの攻撃は今後、イランの責任とする」と述べる要人発言
7月23日 21:38ブレント原油が99.22ドル(前日比+5.15ドル、+5.47%)市場データ
7月23日 21:40ドル円が163.694円(前日比+0.564円、+0.35%)市場データ
7月23日 22:25ドル円が163.80円。同日の高値163.85円、安値163.00円市場データ
7月24日 00:22ブレント原油が100.95ドル(前日比+6.88ドル、+7.31%)。心理的節目の100ドルを上抜け。同日の高値は101.05ドル、安値は93.68ドル市場データ
凡例。「確認済み事実」は政府・国際機関・海事当局の公表資料、または複数の独立報道で裏付けられた事項。「第三者追跡」は調査会社・船舶追跡による把握。「当事者発表」は交戦当事者や武装組織の主張であり、独立確認のない攻撃主体・戦果は確定事実として扱わない。

CHAPTER 02紅海タンカー攻撃の詳細と確認状況

フーシ派の報道官は7月23日、サウジアラビアの石油タンカー2隻に攻撃を実施したと明らかにした。同組織は7月20日に表明したサウジ向け海上封鎖に両船が「違反した」ことを理由として挙げている。使用兵器は複数の弾道ミサイルと巡航ミサイル、および無人機であるとした。対象船舶はENCELIA(エンセリア)LAYLAの2隻で、後者は日本語媒体により「レイラ」「ライラ」の表記が分かれている。

独立して確認されている範囲

サウジアラビアの国営通信SPAは、2隻のうち1隻が紅海を航行中に攻撃を受け炎上していると確認した。運輸総局当局者の話として、エンセリアの船首で火災が発生したが乗組員は全員無事であると報じている。SPAは攻撃を行った主体には言及していない。当局は同船と乗組員の安全を確保し、海洋環境保護の措置を講じたとし、今回の攻撃を国際法違反としている。もう1隻の状況については、本稿の情報締切時点で確認されていない。

公的機関の側では、英国海運貿易オペレーション(UKMTO)が、サウジ南西部アルシュカイクの西南西約70海里の海域を航行するタンカーの船長から、正体不明の飛翔体による攻撃を受けて火災が発生し、乗組員が消火活動を行っているとの通報があったと公表している。海事関連の情報筋は、これに先立ちエンセリアが紅海に面したサウジのジザン港周辺を航行中に救難信号を発信したとしている。

即座に押さえる3ポイント

  • 攻撃主体は自称である。2隻への攻撃を実行したというのはフーシ派自身の発表であり、サウジ当局は主体に言及していない。独立して確認されている範囲は、1隻の船首火災と乗組員の無事、および海域の位置情報に留まる。
  • 「約10隻を引き返させた」は当事者の主張である。フーシ派はサウジの港に向かう船舶に警告を出し、およそ10隻を引き返させたとも主張しているが、船舶追跡データによる裏付けは本稿時点で確認できていない。
  • 紅海での積載タンカー直接攻撃は今局面で新しい事象である。これまで紅海側の制約は主に航行忌避と保険料の上昇として表れていた。実際の被弾が確認されたことで、リスクの性質が「回避可能な不確実性」から「実損の発生」へ移行している。

CHAPTER 03紅海が担ってきた迂回路としての機能

今回の攻撃が持つ意味を理解するには、なぜサウジアラビアのタンカーが紅海を航行していたのかを押さえる必要がある。ホルムズ海峡の通航が制約を受けた2026年3月以降、サウジアラビアにとって紅海側の港湾は、ペルシャ湾を経由せずに原油を積み出せる経路として重要性を増していた。ホルムズ海峡が使いにくい局面において、紅海は代替ではなく主要な出口の一つになりつつあった。

迂回の同時制約という構造

この構造が意味するのは、ホルムズと紅海の制約が単純に足し算されるのではないという点である。ホルムズが制約を受けたときに紅海が機能していれば、湾岸産原油には出口が残る。逆もまた同様である。両方が同時に制約を受けると、代替経路そのものが失われるため、影響は掛け算に近い形で拡大する。

ジェトロの分析によれば、2026年のホルムズ海峡の状況を受けて、サウジアラビアでは紅海沿いのジッダ港(ジッダ・イスラム港)やキング・アブドゥッラー港から輸入し、内陸部の首都リヤドやペルシャ湾沿いへ陸送するケースが生じていた。紅海側の港湾は、輸出だけでなく輸入面でも代替機能を担っていたことになる。

紅海を避けた場合に生じるコスト

紅海・スエズ運河ルートを避けて喜望峰を経由する場合、欧州・中東とアジアを結ぶ航路では片道で約3,500海里の距離が追加され、航海日数は10日から14日程度長くなる。ジェトロは、日本と欧州間のリードタイムが紅海ルートの25〜50日に対し、喜望峰ルートでは40〜65日と、およそ10〜15日長期化すると整理している。

加えて、スエズ運河には幅と深さの制約があり、通過できる船舶はスエズマックスの規模までで、超大型タンカーは通行できない。原油の大量輸送に関する限り、スエズ運河は完全な代替にならないという前提を踏まえておく必要がある。

CHAPTER 04責任帰属の一体化という論点

市場の反応という観点で見た場合、7月23日に生じた最も大きな変化は、タンカー2隻の被弾そのものよりも、その後の要人発言にある可能性がある。トランプ大統領は同日21時36分(日本時間)、イランとフーシ派に対し「またやるなら処罰する」と表明したうえで、「フーシ派からの攻撃は今後、イランの責任とする」と述べた。

7月21日発言との差分

7月21日の時点では、フーシ派による紅海封鎖の威嚇について「そうなれば米国が対処する」という表現が用いられていた。これは対処の主体と意思を示すものである。これに対し7月23日の発言は、行為の主体(フーシ派)と責任の帰属先(イラン)を分離したうえで結びつけている。表現上の差は小さく見えるが、想定される対応の連鎖が変わる。

これまでの整理

紅海での事象はフーシ派に対する対処、ホルムズでの事象はイランに対する対処と、地理と相手方が対応していた。実務上も、紅海リスクと湾岸リスクは別個の評価対象として扱いやすかった。

7月23日以降の想定

紅海での事象がイランへの対応の根拠として位置づけられる。地理的に離れた2つの海域のリスクが、政策上は一体のものとして扱われる可能性が生じる。

調達実務の側から見ると、この変化は「紅海が落ち着けば湾岸も落ち着く」あるいは「湾岸の問題は紅海には及ばない」といった、海域を分けたシナリオ設計が成り立ちにくくなることを意味する。一方のリスクが顕在化したときに、他方の状況も同時に動くという前提で計画を置き直す必要がある。

なお、一部のアナリストは、フーシ派によるサウジ向け海上封鎖の表明を、戦闘終結に向けた交渉で優位に立とうとするイランの戦術的な動きとみている。この見方に立てば、紅海での行動は独立した軍事行動ではなく交渉材料として位置づけられることになるが、本稿の情報締切時点でこの解釈を裏付ける公的資料は確認されていない。

CHAPTER 05ホルムズ海峡の通航データ、3つの調査系列

ホルムズ海峡の通航状況については複数の調査機関が数値を公表しているが、対象期間・船種の定義・AIS停止船の推定方法が異なるため、同じ時期でも数値が一致しない。単一の指標で全体を判断せず、系列ごとに何を測っているかを踏まえて読む必要がある。

調査主体対象期間数値比較対象
Lloyd's List Intelligence2026年7月13〜19日通航53隻前週157隻から66%減
Lloyd's List Intelligence2026年7月13〜19日非イラン系25隻前週108隻から77%減
Lloyd's List Intelligence2026年7月13〜19日湾内への入域8隻前週43隻・7月初旬76隻
AXSMarine2026年7月12〜16日日次平均14隻7月1〜7日の34隻超から59%減
AXSMarine2026年7月12〜16日載貨重量ベース68%減7月第1週比
IMF PortWatch2026年7月13〜19日日次平均10隻6月下旬〜7月初旬は約25隻

AIS停止船の増加という論点

Lloyd's List Intelligenceの集計によれば、観測されたタンカー通航のうち約70%がAIS(船舶自動識別装置)を停止した状態で行われた。前週の55%、2週前の42%から段階的に上昇している。AISを停止した船舶は追跡データ上で捕捉されにくいため、公表される通航隻数は実際の通航を下回る方向に偏る。数値の減少幅がそのまま物流量の減少幅を表すわけではない点に注意が必要である。

なお、LNG船の通航については、本稿の対象期間に新たな公表データを確認していない。前稿までに整理した状況からの変化の有無は、本稿では判断できない。

また、AXSMarineの集計では、日次平均通航が7月1〜7日の34隻超から、7月8〜9日の29.5隻、7月10〜11日の18隻、7月12〜16日の14隻へと段階的に低下している。これは単一の事象による急落ではなく、攻撃の発生と航路変更の判断が積み重なった結果として通航忌避が広がったことを示している。

MST Marqueeのエネルギー調査責任者Saul Kavonic氏は2026年7月21日、ホルムズ海峡を通じたフローが戦前水準の約15%まで低下しているとの見方を示し、現在の戦闘の強度が数週間続くか地域のエネルギーインフラが攻撃対象となれば、原油が1バレル100ドルを再び試す可能性があると指摘していた。この指摘は「戦闘の強度の継続」と「エネルギーインフラへの攻撃」という2つの条件を並列で挙げたものだが、実際には紅海での石油タンカーへの攻撃という形で後者に近い事象が先に発生した。100ドルへの到達は、攻撃が公表された翌日の7月24日0時22分である。戦闘の長期化を待たずに水準が動いた点が、今回の値動きの特徴といえる。

CHAPTER 06円建て原油コスト、価格と為替の積で見る

日本の調達担当者にとって重要なのは、ドル建ての原油価格そのものではなく、円換算した実際の負担額である。輸入価格はドル建て価格と為替レートの積で決まるため、原油高と円安が同時に進行する局面では、円建てコストの上昇幅はドル建ての上昇率を上回る。

項目数値時点
ブレント原油100.95ドル/バレル2026年7月24日 0時22分
同・前日比+6.88ドル(+7.31%)前日清算値94.07ドル
同・日中レンジ高値101.05/安値93.68ドル2026年7月23〜24日
参考・前日夜の水準99.22ドル/バレル2026年7月23日 21時38分
ドル円163.80円2026年7月23日 22時25分
同・同日レンジ高値163.85/安値163.00円2026年7月23日
円建て原油(算出値)16,536円/バレル100.95×163.80
同・キロリットル換算約104,006円/kL1バレル=158.987リットルで換算

為替側の状況

円建ての算出にあたっては、原油の値(7月24日0時22分)と為替の値(7月23日22時25分)で確認時点が約2時間ずれている。この間に為替が動いていれば算出値も変わるため、上表は目安として扱う必要がある。ドル円は1986年12月以来の高値圏で推移しており、7月21日には163.24円前後の高値、7月22日の終値は163.16円前後、7月23日は22時25分時点で163.80円まで水準を切り上げた。7月23日の東京市場では片山財務相が「必要あれば果断に行動する」と円安をけん制したが、地政学リスクに伴うドル買いと介入警戒感による円買いが交錯する展開が続いた。

原油高が円安を後押しする経路も指摘されている。原油価格の上昇は日本の貿易赤字拡大につながるため、それ自体が円売り要因として作用する。また、エネルギー価格の上昇が米国のインフレ圧力として意識されることで、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ観測が強まり、日米金利差の観点からもドル買いが入りやすい。7月23日時点のFedWatchでは、7月28〜29日の米連邦公開市場委員会(FOMC)における利上げ織り込みが3割強となっていた。

調達計画で確認すべき前提

  • ドル建て価格の見通しだけでなく、為替前提をセットで明記しているか。原油と為替が同方向に動く局面では、片方だけの前提では実勢と乖離する。
  • 円建て換算値を社内共有の共通指標として使っているか。ドル建て価格の変動率と、実際の支払額の変動率は一致しない。
  • 為替の前提を置き直す頻度が、市況の変動速度に追いついているか。原油は7月23日から24日にかけて7.37ドル、為替は7月23日の1日で0.85円の値幅で動いている。

CHAPTER 07海運・保険・サーチャージの実務動向

原油価格の変動が荷主の負担として表れる最初の経路は、燃料油価格を介した海上輸送コストである。船社は燃料調達コストの変動を付加料金として転嫁するため、数日から数週間で運賃通知の形で実務に届く。今回はホルムズ海峡周辺の情勢が再燃してから、船社の公表までが約1週間であった。

CMA CGMの緊急燃油サーチャージ

コンテナ船社世界3位のCMA CGMは2026年7月22日、ホルムズ海峡周辺における情勢の再燃を理由に緊急燃油サーチャージ(EFS)を導入すると公表した。同社は、直近数週間に観測されていた燃料価格の落ち着きが反転し、全地域・全航路でバンカーコストが上昇し海上輸送の総コストに影響しているとしている。適用は2026年8月1日の積み日を基準とし、金額はコンテナあたり65〜165ドル、当面の間継続するとされる。7月23日22時25分のドル円163.80円で換算すると、およそ10,600円から27,000円の範囲にあたる。

なお同社は、これとは別に2026年8月1日から中東・紅海向けのピークシーズンサーチャージ(PSS)の改定も案内している。付加料金が複数同時に設定される局面では、見積書上の内訳を項目別に確認しておく必要がある。

日本の海運各社の状況

日本郵船・商船三井・川崎汽船の海運大手3社は、2026年3月1日までにホルムズ海峡の航行停止を決定していた。その後、2026年7月6日には商船三井が管理する少なくとも8隻(原油を各200万バレル積載できる超大型タンカー5隻、化学品タンカー2隻、自動車運搬船1隻)が、イランに近い航路を使ってホルムズ海峡からの退出を進めていると報じられている。これらの船舶はイラン戦争の開始以来、海峡内に足止めされていたものである。

各社の業績見通しの前提も動いている。商船三井は2026年3月末に公表した中期経営計画では情勢が4月末をめどに収束する前提を置いていたが、4月30日には正常化時期の見通しを7月へ後ろ倒しした。海運大手3社の2027年3月期連結純利益予想は5月11日に出そろい、燃料費の高騰と航行ルートの制約により3社とも前期比で減益の見通しとなった。日本郵船が前期比7.9%減の1,950億円、商船三井が20.3%減の1,700億円、川崎汽船が28.6%減の950億円である。各社ともホルムズ海峡が7月以降に正常化する前提を置いていたが、7月下旬の現時点でその前提は実現していない。前提が外れた分は、下期の見通しに反映される可能性がある。

荷主側の確認事項。サーチャージは運賃本体と異なり、通知から適用までの期間が短い。8月1日積みの貨物については、7月中に船社からの通知を確認し、見積書上の内訳(基本運賃・EFS・PSS・その他)を分けて把握しておくことが、社内での価格説明を容易にする。

CHAPTER 08ナフサから樹脂への波及と時差構造

プラスチックパレット、再生樹脂材料、PPバンド、ストレッチフィルムはいずれも原油からナフサを経て製造される石油化学製品である。ただし、7月23日から24日にかけての原油急伸がそのまま翌週の樹脂価格に反映されるわけではない。値決めに使われる価格系列が3つあり、それぞれ時差が異なるためである。

価格系列性質市況からの時差
スポット価格アジア市場で日々成立する取引価格。市況の変動が即時に表れるほぼ同時
輸入通関CIF船積み・航海・入港・通関を経て日本に到着した貨物の価格約2か月
国産ナフサ基準価格四半期ごとに、入着時の為替で円換算して決まる値決め用の指標4か月前後

直近の実績値

ナフサの輸入CIF価格は2026年6月25日に1トン627ドルまで下落し、2026年2月の軍事衝突前の水準を下回っていた。その後、7月15日に808ドル、7月16日に842ドルへ反発し、6月25日比で34%の上昇となった。以下の数値はいずれも輸入CIF系列であり、アジア市場のスポット価格とは別の系列である。7月16日時点の為替は1ドル162.28円、国産ナフサ価格指標は96,965円/キロリットルであった。

この時差構造から、7月23日から24日にかけて生じた原油の上昇が輸入通関CIFに表れるのは9月以降、国産ナフサ基準価格に反映されるのは第4四半期以降が目安となる。逆に言えば、現在進行中の価格改定はそれ以前の市況を織り込んだものであり、今回の変動とは対象期間が異なる。「原油が上がったから来月の樹脂が上がる」という単純な対応関係にはならない。

時差構造が実務にもたらす3つの帰結

  • 下落局面で価格改定が実施される場合がある。2026年6月下旬にナフサ価格が衝突前水準を下回った局面でも、7月1日発効の改定は予定どおり実施された。値決めに使われる基準価格が下落局面の市況をまだ織り込んでいなかったためである。
  • 上昇の反映も同様に遅れる。今回の急伸は、当面の見積書には表れない。ただし遅れて必ず届くため、第4四半期以降の予算前提として織り込んでおく必要がある。
  • 「ナフサが上がった/下がった」の議論は系列を明示しないと噛み合わない。スポットの話をしているのか通関CIFの話をしているのかで、同じ時期でも逆方向の結論になりうる。

CHAPTER 09日本産業への含意と波及タイムライン

今回の事象が実務に届く経路は、時間軸ごとに性質が異なる。市場価格の変動は当日中に確認できるが、調達価格や納期への反映には段階がある。以下は経路ごとの想定であり、確定した予測ではない。

PHASE 1 / 即時(1〜3日)

市場価格と為替に反映

原油・ナフサのスポット価格、為替、海運株に表れる。戦争保険料の指標も同じ時間軸で動くが、本稿の対象期間では新たな公表値を確認していない。この段階では調達価格は動かないが、翌四半期以降の前提を置き直す材料になる。

PHASE 2 / 短期(1〜4週間)

サーチャージと運賃通知

船社からの燃油サーチャージ通知、フォワーダーからの見積改定、航路変更に伴うリードタイムの延長通知が届く。CMA CGMのEFSは8月1日積みから適用される。

PHASE 3 / 中期(1〜3か月)

輸入通関CIFへの反映

7月下旬の市況が船積み・航海・通関を経て通関統計に表れる。9月以降のナフサ輸入価格に上昇圧力が生じる可能性がある。石化製品の在庫水準と稼働率の動向が並行して重要になる。

PHASE 4 / 長期(3〜12か月)

国産基準価格と契約価格

国産ナフサ基準価格に反映され、樹脂の契約価格の値決めに影響する。第4四半期以降の調達予算に関わる段階であり、複数シナリオでの試算が必要になる。

国内で継続している価格抑制措置

原油価格の変動が国内の燃料価格にそのまま転嫁されるわけではない点も、前提として押さえておく必要がある。政府は2026年3月11日、イラン情勢を踏まえた緊急的激変緩和措置を決定し、ガソリンの全国平均小売価格が1リットル170円程度を超える見込みとなった場合に、170円を超える部分について10割の補助を行う仕組みを導入した。軽油・重油・灯油についてもガソリンと同額の補助が講じられている。

供給面では、民間備蓄の義務量を70日分から55日分へ暫定的に縮小して在庫を市場へ供給できるようにしたほか、国家備蓄の放出も実施されている。これらの措置により、原油価格の上昇が小売価格へ届くまでには制度上の緩衝がある。ただし補助は燃料油価格激変緩和対策基金を財源としており、NHKの報道によれば基金残高は2026年6月末時点で約3,800億円である。原油高が長期化した場合、措置の規模と期間は財源の制約を受けることになる。

石油化学原料であるナフサは、この燃料油補助の対象ではない。ガソリンや軽油の店頭価格が抑制されていても、樹脂原料の調達価格には同じ緩衝が働かない点に注意が必要である。

モニタリングすべき5指標

  • ブレント原油の終値ベースの推移。日中の変動ではなく、終値が100ドル台を継続的に維持するかどうかが、値決めへの反映を判断する境目になる。7月24日0時22分の100.95ドルは節目の上抜けにあたるが、定着したかどうかは数日の終値で確認する必要がある。
  • ドル円と介入の有無。円建てコストは為替で大きく変わる。7月28〜29日のFOMCと日銀金融政策決定会合の結果は、為替前提を置き直す機会になる。
  • ホルムズ海峡の通航隻数とAIS停止率。通航隻数の減少幅は、AIS停止船の増加によって実態より大きく見える場合がある。両方をあわせて確認する。
  • 紅海の航行状況と船社の航路方針。今回の攻撃を受けて、紅海経由を継続するか喜望峰迂回に切り替えるかの判断が船社ごとに分かれる可能性がある。
  • アジアナフサのスポット価格と輸入通関CIFの乖離。2つの系列の差は、今後2か月間に通関価格へ届く変動幅の目安になる。

業界別の想定される影響

業界主な影響経路確認の目安
物流・倉庫燃料費、包装資材(PPバンド・ストレッチフィルム)の調達価格第4四半期の資材予算
樹脂成形原料樹脂の契約価格、稼働率の維持国産基準価格の改定時期
食品・日用品包装材コスト、輸送コスト包材メーカーからの改定通知
建設・建材塩ビ管など石化系建材、施工用資材各社の価格改定発表
輸出型製造業コンテナ運賃とサーチャージ、リードタイム8月1日積み分の見積内訳
農業・畜産肥料・燃料・飼料の輸送コスト秋肥・冬季燃料の調達時期

情報の変化についての注意

本稿は2026年7月24日1時00分(日本時間)までに公表・確認された情報を対象としている。戦時下における当事者発表・船舶位置情報・被害情報は不完全であり、後日訂正される可能性がある。特に攻撃主体と戦果に関する当事者の主張は、独立確認を経るまで確定事実として扱わないことをお勧めする。

CHAPTER 10用語集

ホルムズ海峡

ペルシャ湾とアラビア海を結ぶ海上の要衝。湾岸産油国から積み出される原油とLNGの主要な出口にあたる。航路幅が限られるため、通航を管制または妨害されると代替経路の確保が難しい地形上の特性を持つ。

バブ・エル・マンデブ海峡

紅海とアデン湾を結ぶ海峡。イエメン沿岸に面しており、紅海・スエズ運河ルートを利用する船舶は必ずここを通過する。フーシ派の活動範囲と重なるため、紅海航行のリスク評価では中心的な地点となる。

UKMTO

英国海運貿易オペレーション(United Kingdom Maritime Trade Operations)。中東海域を航行する商船からの通報を受け付け、事案情報を公表する英海軍の組織。船舶被害の第一報が公的に確認できる経路の一つ。

AIS

船舶自動識別装置(Automatic Identification System)。船名・位置・針路などを自動発信する仕組み。安全上の理由で意図的に停止される場合があり、停止した船舶は追跡データ上で捕捉されにくくなる。

VLCC

超大型原油タンカー(Very Large Crude Carrier)。原油を約200万バレル積載できる船型で、長距離の原油輸送における主力となる。スエズ運河は幅と深さの制約から通行できない。

スエズマックス

スエズ運河を通航できる最大船型。幅と喫水の制限によって規定される。この制約により、超大型タンカーはスエズ運河を利用できず、紅海ルートの代替性には船型による限界がある。

EFS

緊急燃油サーチャージ(Emergency Fuel Surcharge)。燃料油価格の急変時に船社が設定する付加料金。基本運賃とは別立てで、通知から適用までの期間が短い点が特徴。

PSS

ピークシーズンサーチャージ(Peak Season Surcharge)。荷動きが集中する時期に設定される付加料金。EFSとは設定理由が異なるため、同時期に両方が課される場合がある。

ナフサ

原油を蒸留して得られる軽質留分。エチレン、プロピレン、ブタジエン、BTXなどの石化基礎原料の出発点となり、ポリエチレン・ポリプロピレン・PVCなど汎用樹脂の価格に連動する。

通関CIF

運賃・保険料込みの輸入価格。実際に日本へ到着し通関を経た貨物の価格であり、スポット市況からおよそ2か月遅れて動く。国産ナフサ基準価格の算定にも用いられる。

国産ナフサ基準価格

石化製品の値決めに使われる四半期ごとの指標。入着時の為替で円換算されて決まるため、上流の市況変動が反映されるまで4か月前後を要する。

FedWatch

金利先物の価格から、米連邦公開市場委員会(FOMC)における政策金利の変更確率を算出した指標。市場参加者が織り込んでいる金融政策の方向性を確認する目安として用いられる。

CHAPTER 11出典・エビデンス一覧

日本語媒体

英語媒体・海事専門機関

公的機関・調査機関

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CHAPTER 12よくある質問

紅海でタンカーが攻撃されたことは、ホルムズ海峡の状況とどう関係しますか

サウジアラビアはホルムズ海峡が使いにくい局面で、紅海側の港湾から原油を積み出す経路の重要性を高めてきました。2026年7月23日にフーシ派が紅海でサウジ籍タンカー2隻を攻撃したと発表したことで、この経路にも制約が及ぶ形になります。ホルムズと紅海が同時に制約を受ける状態は、湾岸産原油の出口が両方向で狭まることを意味し、影響は単純な足し算ではなく掛け算に近い形で拡大します。

ブレント原油100.95ドルは、日本の調達コストにどう反映されますか

2026年7月24日0時22分時点のブレント100.95ドルに、7月23日22時25分のドル円163.80円を乗じると、円建てでは1バレル16,536円になります。日本の輸入価格はドル建て価格と為替の積で決まるため、原油高と円安が同時に進む局面では円建てコストの上昇幅がドル建ての上昇率を上回ります。ただし実際の仕入価格への反映には通関・値決めの時差があり、当月の見積書に直ちに表れるわけではありません。なお両者の確認時点は約2時間ずれているため、算出値は目安です。

ナフサや樹脂価格への影響はいつごろ表れますか

スポット市況の変動が輸入通関CIF価格に届くまで約2か月、国産ナフサ基準価格に届くまで4か月前後を要します。2026年7月23日から24日にかけての原油急伸が輸入CIFに反映されるのは9月以降、国産基準価格では第4四半期以降が目安です。逆に言えば、現在進行中の価格改定はそれ以前の市況を織り込んだものであり、今回の変動とは対象期間が異なります。

コンテナ輸送のコストにはどのような影響がありますか

CMA CGMは2026年7月22日、ホルムズ海峡周辺の情勢を理由に緊急燃油サーチャージを2026年8月1日積み日から導入すると公表しました。金額はコンテナあたり65〜165ドルで、当面継続とされています。同社は別途、8月1日から中東・紅海向けのピークシーズンサーチャージの改定も案内しており、付加料金が複数同時に設定される局面では見積書の内訳を項目別に確認する必要があります。

なぜプラスチックパレット株式会社がこの記事を書いているのですか

当社はプラスチックパレット、再生樹脂材料、PPバンド、ストレッチフィルムなどの物流資材を全国のお客様に供給する商社です。これらの資材はいずれも原油からナフサを経て製造される石油化学製品であり、中東情勢と海上輸送の動向が調達価格と納期に直接影響します。お客様の調達計画に資する事実情報を、確認済み事実と当事者発表を区別したうえで整理し、継続的に発信しています。

DISCLAIMER

  • 本稿は2026年7月24日1時00分(日本時間)までに公表・確認された情報を対象としています。時刻はいずれも公表資料・報道に基づくもので、正確な発生時刻とは異なる場合があります。
  • 原油価格・為替レート・通航隻数などの数値は変動します。本稿掲載の数値は各時点のものであり、閲覧時点の実勢とは異なります。実際の判断にあたっては最新の一次情報をご確認ください。
  • 本稿は情報提供を目的としたものであり、投資判断・金融商品の売買・特定の調達契約を推奨するものではありません。
  • 海外報道の要約・翻訳にあたっては原義の保持に努めていますが、原文のニュアンスが完全に再現されない場合があります。原典の確認をお勧めします。
  • 引用は各媒体の引用ルールに従い最小限にとどめ、事実関係は当社の記述として再構成しています。出典は第11章に一覧で記載しています。
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