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ベースオイル完全ガイド2026|Group I〜V+GTLのグレード別供給構造とDH-2深刻不足の実態
SPECIALIST GUIDE
2026 BASE OIL COMPLETE GUIDE ── GROUP I - V + GTL

ベースオイル完全ガイド2026|Group I〜V+GTLのグレード別供給構造とDH-2深刻不足の実態

潤滑油の主原料であるベースオイル(API分類Group I〜V+GTL)を、粘度指数・製法・不飽和炭化水素含有量・硫黄分の技術特性から世界サプライヤーマップ・2026年イラン情勢の影響まで、体系整理した専門ガイド。Pearl GTL損傷とGroup III世界的断絶、韓国輸出キャップと90日間Group II緊急暫定措置、Chevron NEXBASE 4 XP・ExxonMobil Baytown増強・HD Hyundai Shell 2027年稼働などの中期供給計画、日本独自規格DH-2大型トラック油のGroup I依存問題を、一次資料と技術的裏付けを持って整理する。整備業者・調達担当・研究者・調査関係者に向けた業界一次情報ハブ。

140,000b/d
Pearl GTL生産能力
Shell/QatarEnergy
合弁施設
カタール・ラスラファン
~100%
Group III欧州
ベースオイル価格上昇
(CNBC 2026年5月
報道)
~44%
米国Group III
生産能力喪失
(Gas-Price-Check
2026年5月分析)
90
Group II緊急暫定措置
業界団体
API/ILSAC/ATIEL
2026年5月承認
📅 初版公開: 🔄 最終更新: 📊 API分類: Group I〜V+GTL 🏷️ カテゴリ: エンジンオイル・潤滑油
TL;DR ── 3行まとめ
  1. Group分類の再定義局面:2026年5月のCNBC・Gas-Price-Check報道で、Group III欧州価格約100%上昇、米国生産能力約44%喪失が顕在化。業界団体は90日間の緊急暫定措置としてGroup IIの代替使用を条件付き承認し、API/ILSAC規格の適用が再定義された。Pearl GTL損傷(Group III+相当のGTL系高品質油)は市場の代替転換をさらに加速。
  2. 世界サプライヤーマップの変動:Pearl GTL(Shell/QatarEnergy、生産能力140,000バレル/日)が7月5日にCEO Saad al-Kaabi氏公式で約1年での修復完了見通しを表明。並行して韓国が石油製品の義務的輸出キャップ導入(SK Enmove・S-Oil・GS Caltex・HD Hyundai Shell)、UAEフジャイラのForce Majeure宣言、サウジLuberef Jeddahは継続操業確認。世界のGroup III供給地図が数ヶ月で変わった。
  3. 中期供給計画と日本のDH-2問題:Chevron Pascagoula NEXBASE 4 XP(2026年Q4本格稼働)、ExxonMobil Baytown増強(+8,000b/d)、HD Hyundai Shell Base Oil 2027年商業生産開始が中期回復の柱。ただし日本のDH-2大型トラック油はGroup I主体で規格の性質上代替不可、国内元売り3社の出荷制限と韓国からの補完輸入で細く維持されている。
ANSWER · SUMMARY

2026年ホルムズ封鎖以降、ベースオイル(Group I〜V+GTL)は供給変動。Pearl GTL約1年修復(Shell)、Group III欧州約100%上昇、米国能力約44%喪失韓国輸出キャップ90日Group II暫定措置、北米・韓国側の供給拡充計画、DH-2 Group I依存まで技術整理。

このガイドで分かること

  1. API分類Group I〜V+GTLのグレード別技術特性(粘度指数・製法・不飽和炭化水素・硫黄分・用途)と、それぞれの完成油への配合意義
  2. Pearl GTL・Luberef Yanbu・Luberef Jeddah・SK Enmove・S-Oil・GS Caltex・HD Hyundai Shell・Chevron Pascagoula・ExxonMobil Baytonwn等の世界サプライヤーマップと各社の2026年状況
  3. Pearl GTL損傷の技術的意義とGTL/PAO代替転換のメカニズム、Shell/QatarEnergy CEO Saad al-Kaabi氏公式の約1年修復見通しの重要性
  4. CNBC・Gas-Price-Check等の一次資料に基づくGroup III世界的断絶(欧州約100%上昇・米国能力約44%喪失)と韓国輸出キャップ導入の背景
  5. 業界団体API・ILSAC・ATIELによる90日間Group II緊急暫定措置の対象規格・条件・実務的含意
  6. Chevron Pascagoula NEXBASE 4 XP・ExxonMobil Baytown・HD Hyundai Shell 2027年稼働などの中期供給計画と2027年下期以降の構造転換見通し
  7. 日本独自規格DH-2大型トラック油とGroup I依存問題の技術的背景と、韓国輸入補完・国内元売り3社の出荷制限状況
  8. 整備業者・調達担当・研究者向けの実務対応10項目と、Group分類別の代替可否判断

なぜ「ベースオイル完全ガイド」が今必要なのか

2026年のエンジンオイル・潤滑油市場は、完成油(乗用車ガソリン用SP規格・大型ディーゼル用DH-2規格・工業用等)の売価・在庫・出荷制限といった「川下の現象」で語られることが多い。しかし現場の実務判断で最終的に効いてくるのは、その完成油を構成するベースオイルのグレード別供給構造である。API分類でGroup I〜V+GTLに区分される主原料は、それぞれ製法・粘度指数・不飽和炭化水素含有量・硫黄分が異なり、代替可否も規格ごとに厳密に規定されている。DH-2大型トラック油がGroup Iを主原料とすることや、乗用車用0W-20省燃費油がGroup III以上を要求することを技術的に理解しないまま川下の供給乱れだけを追うと、実務上の意思決定を誤りかねない。

本ガイドは、その技術的深度を保った上で2026年イラン情勢の影響を整理する。Pearl GTL損傷(Shell/QatarEnergyの合弁施設、生産能力140,000バレル/日)は、GTL由来のプレミアム合成油ベースオイルという世界最高峰の供給源を約1年制約する事象で、その代替需要がGroup IV(PAO)や高グレードGroup III以上へ流れる。CNBC報道の欧州Group III価格約100%上昇と、Gas-Price-Checkの米国Group III能力約44%喪失は、この代替需要の集中と、韓国の石油製品義務的輸出キャップ・UAEフジャイラのForce Majeure・製油所の燃料収率優先などの供給側要因が重ね合わさって生じた。業界団体API・ILSAC・ATIELの90日間Group II緊急暫定措置は、この構造的な需給不均衡を短期的に緩和する応急処置として位置づけられる。

並行して、中期的な供給拡充計画も動いている。Chevron Pascagoula NEXBASE 4 XP(2026年Q4本格稼働・北米初のGroup III+グローバルサプライヤー)、ExxonMobil Baytown増強(+8,000b/d)、HD Hyundai Shell Base Oil(大山工場)2027年商業生産開始が主な柱。これらは短期の急性の供給乱れを完全には解消しないが、2027年下期以降のグローバルGroup III+供給の量的回復を担う。加えてKline Groupの分析では、ディーゼル車のEV/水素シフトによる長期的な潤滑油需要縮小で、業界全体で500万トン規模の余剰が指摘されるため、需給バランスの構造転換も視野に入ってきた。日本のDH-2はGroup I主体で規格の性質上代替不可のため、これらの中期計画の恩恵が限定的で、独自の供給ネットワーク(国内元売り3社の出荷制限と韓国からの補完輸入)で細く維持されている状況にある。

本ガイドは、整備業者・調達担当・研究者・調査関係者の実務判断に資する技術的深度と一次資料の裏付けを重視した。個別の完成油・企業動向・政策対応は【エンジンオイル完全まとめ】と各専門版で扱う。本ガイドはベースオイルという「基層」に絞って、技術と供給構造の両面から2026年の変動を整理する。

CHAPTER 01 ── FUNDAMENTALS

ベースオイルの基本概念とAPI分類

ベースオイルは潤滑油の主原料で、完成品全体の約80〜90%を占める(残り10〜20%が添加剤パッケージ)。この章ではベースオイルの定義・製法概要・API(米国石油協会)分類の由来と、Group I〜V+GTLの位置付けを整理する。

1-1. ベースオイルの定義と製法概要

ベースオイルは、原油の減圧蒸留残渣(VGO:Vacuum Gas Oil)や天然ガスから、以下の主要な製法で製造される潤滑油用の炭化水素油である。粘度・粘度指数・不飽和炭化水素含有量・硫黄分・揮発性・低温流動性などの物性が完成油の性能を決める基盤となる。

主要な製法

  • 溶剤精製(Solvent Refining):フルフラール・NMP等の溶剤で芳香族分・不飽和炭化水素を抽出除去する伝統的製法。Group Iの標準製法。
  • 水素化精製(Hydrotreating):水素と触媒で不飽和炭化水素を飽和化。Group I改良品またはGroup II原料に使用。
  • 水素化分解(Hydrocracking):高圧水素と触媒で炭化水素分子を分解・異性化。Group IIとGroup IIIの主製法。
  • 触媒異性化(Catalytic Isomerization):ノルマルパラフィンを分岐鎖に異性化し粘度指数を向上。Group III(VHVI)の中核工程。
  • PAO重合(Polyalphaolefin Synthesis):エチレン・ブテン等のオレフィンから合成。Group IV(PAO)の製法。
  • エステル化(Esterification):脂肪酸とアルコールから合成。Group V(エステル)の代表製法。
  • GTL(Gas-to-Liquid):天然ガスからFischer-Tropsch合成でパラフィン系炭化水素を製造。Pearl GTL等が代表。

1-2. API分類の由来と目的

API(American Petroleum Institute、米国石油協会)は1993年にベースオイルをGroup I〜Vに分類する規格を制定した。目的は、乗用車ガソリンエンジン油や産業用潤滑油の性能規格(API SP、ILSAC GF-6等)で「同等以上のベースオイル」を明確に定義することにある。分類基準は粘度指数(VI)不飽和炭化水素含有量硫黄分の3項目で、この3項目により完成油の酸化安定性・粘度温度特性・清浄性が大きく変わる。

API分類基準(Group I〜III)

  • Group I:VI 80-119、不飽和炭化水素 10%超、硫黄分 0.03%超
  • Group II:VI 80-119、不飽和炭化水素 10%以下、硫黄分 0.03%以下
  • Group III:VI 120以上、不飽和炭化水素 10%以下、硫黄分 0.03%以下(VHVI:Very High Viscosity Index)
  • Group IV:PAO(Polyalphaolefin)専用分類
  • Group V:Group I〜IVに該当しない全て(エステル、アルキル化ナフタレン、シリコーン等)

1-3. GTLの位置付け

GTL由来のベースオイル(Pearl GTLが代表)は、天然ガスから合成されるパラフィン系炭化水素で、非常に高い粘度指数(130以上)と低い硫黄分・不飽和炭化水素含有量を実現する。API分類上はGroup III+またはGroup IIIに分類されるが、実質的な性能はGroup IVのPAO(ポリアルファオレフィン)に近く、GTL専用の非公式カテゴリとして「Group III+」または「GTL」と表記される。プレミアム合成油・レーシング用途・大型産業機械向けに使用される。

この章の小結:ベースオイルは潤滑油の主原料で完成品の80〜90%を占め、溶剤精製・水素化分解・触媒異性化・PAO重合・エステル化・GTLなどの製法別に区分される。API分類はVI・不飽和炭化水素・硫黄分の3項目でGroup I〜Vに分類し、GTLはGroup III+相当の最高品質油に位置付けられる。この分類は完成油規格での代替可否判断の根幹をなす。
CHAPTER 02 ── GROUP-BY-GROUP

Group I〜V+GTLの技術特性(製法・粘度指数・組成)

API分類のGroup I〜V+GTLについて、それぞれの製法・粘度指数・不飽和炭化水素・硫黄分・主要用途・代替関係を体系整理する。各グループは代替可否のパターンが決まっており、完成油の規格ごとに要求されるベースオイルグループが明確に規定されている。

Group 製法 粘度指数 主要用途 代替可否
Group I溶剤精製80-119DH-2大型トラック油、工業用ギヤ油、船舶用シリンダー油、汎用エンジン油の一部他Group不可
Group II水素化分解80-119一般乗用車ガソリンエンジン油、大型ディーゼル用の一部、工業用潤滑油Group III可
Group IIIVHVI水素化分解120以上省燃費エンジン油(0W-20/5W-30等)、100%化学合成油、高性能ATFGroup IV可
Group III+GTL/触媒異性化130以上プレミアム合成油、高性能省燃費油、大型産業機械Group IV可
Group IVPAO合成135以上プレミアム合成油、レーシング用途、極寒冷地用、航空機用他Group不可(用途特化)
Group Vエステル等変動大ジェットエンジン油、極圧添加剤、清浄性向上剤、特殊工業油他Group不可(用途特化)
GTLFischer-Tropsch140以上Pearl GTL由来の最高品質油、超プレミアム合成油、パラフィンGroup IV可

2-1. Group Iの技術特性と用途

Group Iは溶剤精製法で製造される最も伝統的なベースオイルで、粘度指数80-119、不飽和炭化水素10%超、硫黄分0.03%超という特性を持つ。芳香族分を一定量含むため、清浄剤・分散剤の添加剤溶解性に優れ、極圧潤滑性能も高い。日本のDH-2大型ディーゼル用エンジン油の主原料であり、船舶用シリンダー油・工業用ギヤ油・鉱物油系一般エンジン油の主流でもある。しかし低温流動性・酸化安定性はGroup II以上に劣り、省燃費エンジン油には使用されない。DPF(ディーゼル微粒子捕集フィルタ)対応の低灰分オイル配合において、Group Iの粘度特性がDH-2規格を実現するため、他Groupでの代替は規格の性質上不可である。

2-2. Group IIの技術特性と90日暫定措置での役割

Group IIは水素化分解法で製造され、Group Iから不飽和炭化水素と硫黄分を大幅に低減した中間グレードである。粘度指数80-119は同じだが、酸化安定性・清浄性・低温流動性が改善され、一般乗用車ガソリンエンジン油・大型ディーゼル用の一部・工業用潤滑油の主流となっている。2026年5月の業界団体API・ILSAC・ATIELによる90日間緊急暫定措置では、本来Group III以上を要求する潤滑油規格に対してGroup IIの代替使用が条件付きで承認された。対象は主に低速早期着火(LSPI)防止性能・省燃費性能のマージンを持つ処方で、乗用車ガソリンエンジン油の一部規格が該当する。この措置により整備現場の急性の供給乱れは緩和されたが、Group II需要が押し上げられGroup II価格にも上昇圧力がかかった。

2-3. Group IIIの技術特性と省燃費油の中核

Group IIIはVHVI(Very High Viscosity Index)水素化分解と触媒異性化の組み合わせで製造され、粘度指数120以上を実現する高品質油である。省燃費エンジン油(0W-20、5W-30等)の100%化学合成油、または半合成油の中核原料として、日本のトヨタ・日産・ホンダ・スズキ等が採用する低粘度油の生命線となっている。2026年5月のCNBC報道で欧州価格が約100%上昇、Gas-Price-Check分析で米国生産能力の約44%喪失が確認された。韓国のSK Enmove・S-Oil・GS Caltex・HD Hyundai Shell Base Oilが世界最大の生産者で、日本の乗用車用省燃費油はこの韓国産Group IIIに依存する部分が大きい。韓国の石油製品義務的輸出キャップ導入は日本市場に直接波及した。

2-4. Group IV(PAO)とGroup V(エステル)の位置付け

Group IV(PAO:Polyalphaolefin)はエチレン・ブテン等のオレフィンを化学的に重合して合成する100%合成油で、粘度指数135以上、極めて優れた低温流動性・酸化安定性・熱安定性を持つ。プレミアム合成油・レーシング用途・航空機用の主流で、Pearl GTL損傷後は代替需要が集中している。ExxonMobilのSpectraSyn、INEOS Oligomersの製品が代表。

Group V(エステル等)はGroup I〜IVに該当しない全ての潤滑油ベースオイルで、脂肪酸エステル・アルキル化ナフタレン・シリコーン・グリコール・アルキルベンゼン等が含まれる。ジェットエンジン油・極圧添加剤・清浄性向上剤・特殊工業油に使用される用途特化型で、他Groupと補完的な関係にある。

2-5. GTL(Gas-to-Liquid)の技術特性

GTLはFischer-Tropsch合成技術により天然ガスから炭化水素液体を製造する技術で、Pearl GTL(Shell/QatarEnergy、カタール・ラスラファン、生産能力140,000バレル/日)が代表施設。GTL由来のベースオイルは、粘度指数140以上、不飽和炭化水素0.01%以下、硫黄分0.001%以下という極めて優れた特性を持ち、Group IVのPAOに匹敵する性能を実現する。API分類上はGroup III+または独立カテゴリ「GTL」として扱われる。プレミアム合成油の中核・大型産業機械向け・レーシング用途で使用される。2026年春のイラン軍ミサイル攻撃で施設が損傷し、7月5日のShell/QatarEnergy CEO Saad al-Kaabi氏公式発言で約1年での修復完了見通しが表明された。

この章の小結:Group I〜V+GTLはそれぞれ製法・粘度指数・不飽和炭化水素・硫黄分・主要用途が明確に区分され、代替可否のパターンも規定されている。Group Iは他Groupで代替不可(DH-2規格の性質)、Group IIは90日暫定措置でGroup III代替を承認、Group IIIはGroup IV代替可、Group IV・Vは用途特化型で相互代替不可、GTLはGroup IV相当の最高品質油。この技術的理解が完成油の代替判断の基盤となる。
CHAPTER 03 ── GLOBAL SUPPLIER MAP

世界サプライヤーマップ(中東・韓国・北米・欧州)

Group I〜V+GTLの世界サプライヤーは、地域別に生産能力・グレード・供給先が異なる。この章では、中東(サウジ・カタール・UAE)・東アジア(韓国・中国)・北米・欧州の4地域別に、主要生産者と2026年時点の状況を整理する。

3-1. 中東地域(サウジ・カタール・UAE)

Luberef(サウジアラビア)

  • 所在:Yanbu、Jeddah
  • 親会社:Saudi Aramco子会社(旧Saudi Aramco Base Oil Company)
  • 主要製品:Group I、Group II、Group III(Yanbu Growth-II計画で増産中)
  • 2026年状況:Luberef Jeddahは6月29日時点で継続操業確認(新規原料契約下)。Luberef Yanbu Growth-II計画がGroup II増産の中期柱。

Pearl GTL(カタール)

  • 所在:ラスラファン
  • 合弁事業者:Shell・QatarEnergy
  • 生産能力140,000バレル/日(世界最大級のGTLプラント)
  • 主要製品:GTL由来Group III+ベースオイル、パラフィン、高品質液体燃料
  • 2026年状況:春のイラン軍ミサイル攻撃で損傷。7月5日にShell/QatarEnergy CEO Saad al-Kaabi氏公式発表で約1年での修復完了見通し(当初S&P Global試算3〜5年から大幅短縮)。

UAEフジャイラ地域

  • 主要生産者:ADNOC(アブダビ)、複数の民間ベースオイル生産者
  • 2026年状況:5月にForce Majeure宣言(バーレーン等含む)。原油輸送・電力供給・水供給の複合的影響で生産中断。

3-2. 東アジア地域(韓国・中国)

SK Enmove(韓国・旧SK Lubricants)

  • 所在:蔚山(Ulsan)
  • 主要製品:Group III(YUBASE ブランド)、世界最大のGroup III生産能力
  • 2026年状況:韓国政府の石油製品義務的輸出キャップの対象。国内供給優先で日本を含む輸出に影響。

S-Oil(韓国)

  • 所在:蔚山(Ulsan)
  • 主要製品:Group II、Group III(ULTRA-S ブランド)
  • 2026年状況:SK Enmoveと同様に輸出キャップ対象。Saudi Aramcoの子会社。

GS Caltex(韓国)

  • 所在:麗水(Yeosu)
  • 主要製品:Group II、Group III(Kixx LUBO ブランド)
  • 2026年状況:Chevron・GS Energyの合弁事業。輸出キャップ対象。

HD Hyundai Shell Base Oil(韓国)

  • 所在:大山(Daesan)
  • 主要製品:Group III(大山工場、2027年商業生産開始予定)
  • 2026年状況:HD Hyundai Oilbank・Shellの合弁事業。2027年稼働で中期供給拡充の柱。

3-3. 北米地域

Chevron Pascagoula(米国)

  • 所在:ミシシッピ州パスカグーラ
  • 主要製品:Group II、Group III(NEXBASE ブランド)、NEXBASE 4 XP(Group III+相当・2026年Q4本格稼働)
  • 2026年状況:北米初のGroup III+グローバルサプライヤーとして中期供給拡充の柱。

ExxonMobil Baytown(米国)

  • 所在:テキサス州ベイタウン
  • 主要製品:Group II、Group III、Group IV(PAO・SpectraSynブランド)
  • 2026年状況+8,000b/d増強計画(4cSt・6cStグレード)を進行中。Group III中期供給拡充の柱。

INEOS Oligomers(米国・欧州)

  • 所在:米国テキサス州La Porte、ベルギーFeluy
  • 主要製品:Group IV(PAO・DurasynブランドおよびOEM供給)
  • 2026年状況:ExxonMobil SpectraSynと並ぶ世界2大PAO生産者。Pearl GTL損傷後のGTL→Group IV代替転換で需要集中。

3-4. 欧州地域

Neste(フィンランド)

  • 主要製品:Group III+(Nexbase相当)、再生可能ベースオイル
  • 2026年状況:欧州市場向けGroup III+供給を段階的に拡大中。

Repsol(スペイン)・Total Energies(フランス)

  • 主要製品:Group I〜III、欧州市場のバランス供給
  • 2026年状況:CNBC報道の欧州Group III価格約100%上昇の直接影響を受ける供給側。
この章の小結:世界サプライヤーマップは中東(Luberef・Pearl GTL・UAEフジャイラ)・韓国(SK Enmove・S-Oil・GS Caltex・HD Hyundai Shell)・北米(Chevron Pascagoula・ExxonMobil Baytown・INEOS Oligomers La Porte)・欧州(Neste・Repsol・Total、INEOS Feluy)の4地域に集約される。2026年は中東の複数拠点で影響(Pearl GTL損傷・UAE Force Majeure・Luberef Jeddah継続確認)と、韓国4大生産者への輸出キャップ導入が同時発生し、北米(Chevron・ExxonMobil・INEOS)と韓国HD Hyundai Shellが中期供給拡充の柱として計画中。
CHAPTER 04 ── PEARL GTL

Pearl GTL損傷とGTL/PAO世界供給の変化

Pearl GTL(Shell/QatarEnergyの合弁施設、生産能力140,000バレル/日)は世界最大級のGTLプラントで、GTL由来のプレミアム合成油ベースオイル(Group III+相当)の中核供給源である。2026年春の損傷とその市場影響を、技術的背景と代替転換のメカニズムから整理する。

4-1. Pearl GTLの技術的位置付け

Pearl GTLはカタール・ラスラファンに立地するShellとQatarEnergyの合弁GTLプラントで、2011年から本格稼働を開始した。生産能力140,000バレル/日のうち、約半分がGTL由来のベースオイル・パラフィン、残りが液体燃料(GTL軽油等)である。ベースオイル部門ではShell「Pearl」ブランドで販売され、粘度指数140以上、不飽和炭化水素0.01%以下、硫黄分0.001%以下という極めて優れた特性を持つ。これはAPI分類上のGroup III+または独立カテゴリ「GTL」に相当し、実質的な性能はGroup IVのPAOに匹敵する。

Pearl GTLベースオイルの主な用途

  • プレミアム合成油(フェラーリ・ポルシェ・BMW M系等の高性能車向け純正油)
  • レーシング用途(F1・耐久レース等の高性能潤滑油)
  • 大型産業機械(風力タービンギヤ油・大型コンプレッサー油)
  • 航空機用の一部(民間航空機の一部潤滑用途)
  • 特殊工業油(半導体製造装置・精密機械の高性能油)

4-2. 2026年春の損傷と初期市場反応

2026年春、イラン軍のミサイル攻撃によりPearl GTLの施設が損傷した。詳細な損傷程度は非公開だが、S&P Global Commodity Insights等の業界分析では初期に3〜5年の修復期間が試算された。この試算は市場に大きな影響を与え、Group IV(PAO)や高グレードGroup III以上への代替需要が世界的に集中し、Group III欧州価格の上昇と米国Group III能力喪失の重ね合わせを加速した。

初期市場反応の主な動き(2026年4〜5月)

  • Shell純正油「Pearl」ブランドの流通制限(一部代理店で受注停止)
  • フェラーリ・ポルシェ等の高性能車純正油の在庫削減
  • ExxonMobil「SpectraSyn」(Group IV PAO)の代替需要急増と価格上昇
  • MANNOL(独・SCT)の警告「欧州合成潤滑油在庫は5月末〜6月初頭に枯渇可能性」(motorcycles.news 5月15日報道)
  • ミカド商事ブログ「2026年3Q(7-9月)のベースオイル価格はさらに上昇予想、添加剤・容器も値上がり、遡って価格改定されるケース発生」(5月15日付)

4-3. 7月5日のShell/QatarEnergy CEO公式発表

2026年7月5日、Shell/QatarEnergy CEOのSaad al-Kaabi氏が公式に約1年での修復完了見通しを表明した。これは当初のS&P Global試算3〜5年から大幅に短縮された見通しで、市場心理を安定させる方向で作用した。ただし修復完了までの約1年間はPearl GTL由来の高品質油の供給が制限されるため、Group IV(PAO)や高グレードGroup III以上への代替需要集中は継続する。

この公式発表の直前、7月2日にはTradingEconomicsの日次データでBrent原油が71.5〜72ドル/バレルの戦争前水準に到達し、6月4日時点の97ドル/バレル(第9回中東情勢閣僚会議前後の水準)から大幅に低下していた。原油相場の落ち着きとPearl GTL修復期間短縮見通しが重なったことで、市場全体の心理は一時的に安定に向かった。ただし7月12日のホルムズ海峡再閉鎖でこの安定は覆され、第2波リスクが顕在化した点は留意が必要である。

4-4. GTL/PAO代替転換のメカニズム

Pearl GTL損傷による市場影響は、単純な「供給不足」ではなく代替転換の連鎖として広がった。以下の3段階で理解できる。

代替転換の3段階連鎖

  1. 第1段階:GTL→Group IV(PAO):Pearl GTL由来品の代替として、ExxonMobil SpectraSyn等のGroup IV PAOへ需要移行。PAO価格が2026年5月から上昇局面入り。
  2. 第2段階:Group IV→高グレードGroup III:PAO供給も逼窮した供給乱れの中、高グレードGroup III(韓国SK Enmove YUBASE等)への代替需要が拡大。CNBC報道の欧州Group III約100%上昇の主要因の一つ。
  3. 第3段階:Group III→Group II(90日暫定措置):Group III需要集中で通常のGroup III油も供給乱れとなり、業界団体が90日間のGroup II緊急代替使用を条件付き承認。Group II価格にも上昇圧力(AOCUSA・Highline Warren 5月22日 Group II最大$2.40/gal改定)。

この3段階連鎖は、単一の損傷事象が世界潤滑油市場の全レベルに波及する構造を示す。特に、日本の乗用車用0W-20省燃費油はGroup III以上を要求するため、第2〜第3段階の直接影響を受けた。DH-2大型トラック油はGroup Iベースなので直接連鎖の対象外だが、原料ベースオイル全体の需給逼窮と国内元売り出荷制限の重なりで別経路の供給乱れが生じている。

この章の小結:Pearl GTL(Shell/QatarEnergy、140,000バレル/日)の2026年春損傷は、GTL/PAO代替転換の3段階連鎖(GTL→Group IV→高グレードGroup III→Group II)を引き起こし、世界潤滑油市場の全レベルに波及した。7月5日のShell/QatarEnergy CEO Saad al-Kaabi氏公式発表による約1年修復完了見通しは市場心理を安定させたが、その1年間はGroup IV・Group III代替需要集中が継続する見通し。
CHAPTER 05 ── GROUP III GLOBAL DISRUPTION

Group III世界的断絶(欧州100%・米国44%喪失)

2026年5月のCNBC・Gas-Price-Check等の一次資料により、Group III世界的断絶の実態が明らかになった。この章では、欧州価格約100%上昇と米国生産能力約44%喪失の背景・データ・実務含意を整理する。

5-1. CNBC報道の欧州Group III価格約100%上昇

2026年5月22日、CNBCはTwining業界アナリストの解説を引用する形で、Group IIIベースオイルの欧州価格が約100%上昇したと報道した。上昇の起点は2026年春のホルムズ海峡封鎖と同時期で、5月時点で1年前比の倍の水準に到達した。CNBC報道の主要ポイントは以下の通り。

CNBC報道の主要ポイント(2026年5月22日)

  • Group III欧州価格の約100%上昇(前年同月比)
  • 背景:Pearl GTL損傷、韓国輸出キャップ、UAE Force Majeure、製油所燃料収率優先
  • 影響:欧州の乗用車用0W-20・5W-30省燃費油の完成品価格に直接波及
  • Twining業界アナリストコメント:市場心理は「代替転換の連鎖」による構造的な変化
  • 短期見通し:90日間Group II暫定措置による緩和も、根本原因は未解消

5-2. Gas-Price-Check分析の米国Group III能力約44%喪失

2026年5月、Gas-Price-Checkは米国市場向けGroup IIIベースオイル生産能力の約44%喪失を分析報告した。これは在庫の減少ではなく、能力そのものの喪失(生産停止・輸入停止・Force Majeure等の複合要因)で、米国のGroup III需要(省燃費エンジン油の中核原料)に大きな構造的影響を与えた。

米国Group III能力喪失の背景要因

  • 韓国からの輸入減少(韓国輸出キャップの影響、SK Enmove・S-Oil・GS Caltex)
  • Pearl GTL損傷によるGTL/PAO代替転換の連鎖
  • UAEフジャイラのForce Majeureによる中東からの供給乱れ
  • 米国内Group III生産者(Chevron Pascagoula等)の生産能力制限
  • 製油所の燃料収率優先(ベースオイル副産物の抽出減少)

5-3. 米国卸価格改定(AOCUSA・Highline Warren)

2026年5月22日発効、AOCUSA(Association of Oil & Chemical USA)と大手潤滑油生産者Highline Warrenは連名で卸価格改定を発表した。改定幅はGroup II潤滑油最大$2.40/gal、Group III最大$3.00/galで、過去2ヶ月で4回目の連続改定となった(JobbersWorld・Costa Kapothanasis氏解説)。Highline WarrenはCostco「Kirkland Signature」・Walmart「SuperTech」の受託製造元のため、この卸改定は大衆向け消費者ブランドに直接波及する構造。

5-4. トヨタ・日産の米国ディーラー向け配給制

Gas-Price-Check報道では、Group III世界的断絶の影響でトヨタ・日産が米国ディーラー向けに配給制レターを発出する事態となったことが確認されている。0W-20・5W-30省燃費油の在庫を優先車種・優先地域に振り分ける仕組みで、日本のトヨタ・日産純正油のGroup III依存構造が国際的にも共有された事例。日本国内でも、スズキが7月卸値+40%、10月100円/L超改定予告を発表するなど、乗用車メーカー純正油の価格改定が広がっている。

5-5. 5大要因の重ね合わせ

Group III世界的断絶の5大要因(2026年)

  1. Pearl GTL損傷によるGTL/PAO代替転換連鎖(Ch04)
  2. 韓国輸出キャップ導入(世界最大生産国の輸出制限、Ch06で詳述)
  3. UAEフジャイラForce Majeure(中東側の複合供給停止)
  4. 製油所燃料収率優先(原油輸送目詰まりで燃料が優先されベースオイル副産物の抽出減少)
  5. 米国内Group III生産者の能力制限(Chevron Pascagoula等の減産)
この章の小結:2026年5月のGroup III世界的断絶は、CNBC報道の欧州価格約100%上昇とGas-Price-Check分析の米国能力約44%喪失で顕在化した。5大要因(Pearl GTL・韓国輸出キャップ・UAE Force Majeure・製油所燃料収率優先・米国生産能力制限)の重ね合わせで発生した構造的事象で、AOCUSA・Highline Warrenの卸改定・トヨタ・日産の米国ディーラー配給制・スズキの7月+40%改定など、川下への波及が具体化。90日間Group II暫定措置は短期緩和策として機能したが、根本原因の解消には中期供給計画(Ch09)の実装が必要。
CHAPTER 06 ── KOREA EXPORT CAP

韓国輸出キャップと4大生産者の対応

韓国は世界最大のGroup IIIベースオイル生産地の一つで、SK Enmove・S-Oil・GS Caltex・HD Hyundai Shell Base Oilの4大生産者が世界市場をリードしている。2026年5月の政府による石油製品義務的輸出キャップ導入は、日本を含む輸入国に直接影響を与えた。

6-1. 韓国産業通商資源部の輸出キャップ政策

2026年5月、韓国産業通商資源部は国内潤滑油供給の安定確保を優先するため、Group IIIを含む石油製品の義務的輸出キャップを導入した(CNBC報道)。この政策は「国内優先」の原則に基づき、輸出可能量を政府が上限で制限する仕組みで、日本・欧州・北米等の輸入国は韓国産Group IIIへのアクセスが制約された。

韓国輸出キャップの主要な運用ポイント

  • 対象:Group IIIを中心とする石油製品全般(Group IIも一部対象)
  • 方法:政府が四半期ごとに輸出上限量を設定
  • 優先順位:韓国国内潤滑油需要 → 長期契約輸出 → スポット輸出の順
  • 期間:2026年5月〜(当初は6ヶ月間、延長の可能性)
  • 背景:韓国内の潤滑油完成品価格の急上昇と、政府の物価安定政策

6-2. 韓国4大生産者の状況

SK Enmove(旧SK Lubricants)

韓国蔚山に立地する世界最大のGroup III生産者。ブランド「YUBASE」で世界市場に供給。世界市場シェアのGroup III約30%を占めるとされる。輸出キャップの影響を最も直接的に受ける主体で、日本の乗用車用0W-20・5W-30の主要原料供給源。

S-Oil

Saudi Aramcoの子会社で、韓国蔚山に立地。ブランド「ULTRA-S」でGroup II・Group IIIを供給。中東系資本のため、Luberef(サウジ)とのグローバルネットワークで供給調整の余地を持つが、韓国政府の輸出キャップは直接適用される。

GS Caltex

Chevron・GS Energyの合弁事業で、韓国麗水に立地。ブランド「Kixx LUBO」でGroup II・Group IIIを供給。Chevronのグローバルネットワークとの連携があるが、韓国産分は輸出キャップ対象。

HD Hyundai Shell Base Oil

HD Hyundai Oilbank・Shellの合弁事業で、韓国大山に立地。Group III中心の新規プラントとして2027年商業生産開始予定。既存生産能力は限定的だが、中期供給拡充の柱として位置付けられる。輸出キャップの対象だが、2027年稼働後の生産量は追加の供給源となる見通し。

6-3. 日本への直接波及

韓国輸出キャップは日本の潤滑油市場に直接波及した。日本の乗用車用0W-20・5W-30省燃費油は韓国産Group IIIに依存する部分が大きいため、SK Enmove・S-Oil・GS Caltex・HD Hyundai Shell の4大生産者からの供給乱れは、国内元売り3社(ENEOS・出光・コスモ)の完成品出荷制限とスズキ7月卸値+40%改定などの直接的な引き金となった。DH-2大型トラック油はGroup Iベースなので直接影響は限定的だが、Group I自体の中東供給乱れと重なって別経路の供給乱れが生じている。

6-4. 中期見通し:HD Hyundai Shell 2027年稼働の意義

HD Hyundai Shell Base Oil(大山工場)の2027年商業生産開始は、韓国4大生産者の生産能力を一段引き上げる中期供給拡充の柱となる。生産量が加われば、韓国政府の輸出キャップが解除・緩和される可能性があり、日本を含む輸入国の供給乱れ緩和につながる。ただし2027年稼働まで約1年半の空白期間があるため、その間はChevron Pascagoula NEXBASE 4 XP(2026年Q4本格稼働)とExxonMobil Baytown増強(+8,000b/d)による北米側の供給拡充が重要となる。

この章の小結:韓国産業通商資源部の2026年5月導入の石油製品義務的輸出キャップは、世界最大のGroup III生産地からの輸出制限として、日本の乗用車用省燃費油市場に直接波及した。SK Enmove・S-Oil・GS Caltex・HD Hyundai Shell の4大生産者が輸出キャップ対象で、日本の完成品供給乱れとスズキ7月卸値+40%改定の引き金となった。中期的にはHD Hyundai Shell の2027年稼働が空白緩和の柱となるが、それまでの1年半は北米側の供給拡充計画(Chevron・ExxonMobil)が重要。
CHAPTER 07 ── DH-2 & GROUP I

DH-2大型トラック油とGroup I依存問題

日本自動車工業会(JAMA)が定めた大型ディーゼル用エンジン油規格DH-2は、Group Iベースオイルを主体に配合される日本独自規格である。Group I主原料の性質から他Groupでの代替が不可能で、2026年のホルムズ封鎖以降、独自の供給乱れが発生している。

7-1. DH-2規格の技術的背景

DH-2(Diesel Heavy-duty type 2)は、日本自動車工業会(JAMA)が2004年に制定した大型ディーゼル車向けエンジン油の日本独自規格である。DPF(Diesel Particulate Filter:ディーゼル微粒子捕集フィルタ)対応の低灰分オイルとして設計され、大型トラック・バスの継続運行に必要な低SAPS(Sulfated Ash・Phosphorus・Sulfur)性能を実現する。

DH-2規格の主要な要求性能

  • 硫酸灰分:1.0%以下(DPF詰まり防止)
  • リン:0.12%以下(DPF触媒被毒防止)
  • 硫黄:0.5%以下(排気触媒保護)
  • 粘度グレード:SAE 10W-30、15W-40等が主流
  • API規格併記:API CJ-4以上と同等の性能
  • 試験:JASO M355などの日本独自試験

7-2. なぜGroup Iが必須なのか

DH-2規格の性能を実現するためには、以下の3つの技術的理由からGroup Iベースオイルが必須となる。他のGroupでは代替不可能な、規格の性質上の制約である。

Group I必須の3つの理由

  1. 粘度特性:DH-2の主流粘度グレード10W-30・15W-40の実現には、Group Iの粘度指数80-119の特性が最適。Group IIの粘度指数80-119でも近似の性能は得られるが、DH-2規格全体のバランスを取るためGroup Iが標準採用されている。
  2. 添加剤溶解性:DH-2の低灰分性能を実現するために配合される清浄剤・分散剤・耐摩耗剤等の添加剤パッケージは、Group Iの芳香族分に溶解しやすく設計されている。Group II以上では添加剤の溶解性が低下し、性能を維持するには添加剤処方の全面的な再設計が必要となる。
  3. 極圧潤滑性能:大型ディーゼルエンジンの高負荷連続運転では、Group Iの極圧潤滑性能が要求される。Group II・IIIは酸化安定性・粘度指数に優れるが、極圧潤滑性能ではGroup Iに劣る。

7-3. 2026年ホルムズ封鎖以降の供給乱れ

Group Iベースオイル自体は、中東(Luberef・UAE等)・韓国・国内元売り3社(ENEOS・出光・コスモ)の複数拠点から調達可能である。しかし2026年春のホルムズ封鎖以降、以下の複合要因でDH-2の供給乱れが発生した。

DH-2供給乱れの複合要因(2026年)

  • 原料ベースオイルの供給乱れ:中東からのGroup I輸入停滞、韓国からのGroup I輸出制限
  • 添加剤の同時供給乱れ:DH-2用清浄剤・分散剤のナフサ由来原料の供給乱れ、価格急上昇
  • 国内元売り3社の出荷制限継続:ENEOS等が既存契約先向け安定供給を優先、新規大型契約の受注抑制
  • Group I自体は他用途への配分競合:船舶用シリンダー油・工業用ギヤ油等の並行需要増
  • 結果:「原料はあるが日本規格品として出荷できない」という盲点が顕在化

7-4. 韓国輸入補完と国内元売り3社の出荷制限

DH-2の供給乱れに対して、日本では以下の2つの経路で細く補完が続いている。ただし規模は限定的で、大型トラック運送事業者は1〜2ヶ月分の安全在庫確保潤滑油直販スキーム(207組織参加)への参加検討が実務上必要となっている。

DH-2補完の2経路

  • 韓国からの一部輸入:韓国のGroup I生産者からの直接輸入(規模限定的)。韓国輸出キャップの適用外だが、韓国側のGroup I生産量自体が限られる。
  • 国内元売り3社の出荷制限下の供給:ENEOS・出光興産・コスモ石油が既存契約先向けに配分。新規契約の受注抑制継続。

7-5. DH-2の代替可否とEV/水素シフトの長期見通し

DH-2はGroup Iベース主体という規格の性質上、他Groupでの代替は現時点で不可である。技術的には、大型ディーゼルエンジン自体のEV化・水素燃料電池化が進めばDH-2規格そのものの需要が縮小するが、これは中長期の構造転換で、短期の供給乱れ解消策とはならない。Kline Groupの分析では、業界全体で500万トン規模の余剰が指摘されるが、これは全体供給の10%超に相当し、DH-2のGroup I依存問題とは別次元の話題である。

この章の小結:DH-2は日本自動車工業会が制定した大型ディーゼル用日本独自規格で、Group Iベースオイル主体の配合が要求される(粘度特性・添加剤溶解性・極圧潤滑性能の3理由)。2026年ホルムズ封鎖以降、原料・添加剤・国内元売り出荷制限の複合要因で供給乱れが発生し、韓国からの一部輸入と国内元売り3社の出荷制限下供給で細く補完される状況。大型トラック運送事業者は安全在庫と潤滑油直販スキーム参加検討が実務上必要となっている。
CHAPTER 08 ── 90-DAY EMERGENCY MEASURE

90日間Group II緊急暫定措置と業界団体対応

2026年5月、業界団体API・ILSAC・ATIELは90日間の緊急暫定措置として、本来Group III以上を要求する潤滑油規格に対してGroup IIの代替使用を条件付きで承認した。この章では、暫定措置の対象規格・条件・実務含意を整理する。

8-1. 業界団体3組織の役割

API(American Petroleum Institute、米国石油協会)

米国の潤滑油規格制定機関。API SP・SN Plus等のガソリンエンジン油規格を制定する。90日間暫定措置ではAPI SPの一部条件について、Group IIの代替使用を条件付き承認した。

ILSAC(International Lubricants Standardization & Approval Committee)

日米自動車メーカーが共同で定める潤滑油規格制定機関。ILSAC GF-6等の乗用車エンジン油規格を制定する。90日間暫定措置ではGF-6の一部条件について、Group IIの代替使用を条件付き承認した。

ATIEL(Association Technique de l'Industrie Européenne des Lubrifiants)

欧州潤滑油業界団体で、ACEA規格(欧州自動車工業会規格)の技術支援を行う。90日間暫定措置では欧州のACEA A5/B5・C2等の一部条件について、Group IIの代替使用を条件付き承認した。

8-2. 暫定措置の対象規格と条件

90日間Group II暫定措置の対象は、本来Group III以上を要求する潤滑油規格のうち、以下の3つの条件を満たす処方に限られる。全ての規格・処方が対象になるわけではない点に注意が必要。

暫定措置適用の3条件

  1. LSPI(Low-Speed Pre-Ignition:低速早期着火)防止性能のマージン:処方全体でLSPI防止性能が規格要求値を大幅に上回るマージンを持つこと
  2. 省燃費性能のマージン:省燃費性能が規格要求値を大幅に上回るマージンを持つこと(Group III→Group IIで粘度指数が下がり省燃費性能は多少劣化)
  3. API・ILSAC・ATIEL認証機関への事前届出:暫定使用の対象製品・処方・使用期間を届出

これらの条件により、暫定措置は「無条件のGroup III→Group II代替」ではなく、技術的に代替可能と判断された処方のみに限定される。特に、日本のトヨタ・日産・ホンダ等の乗用車メーカー純正油では、既に規格ギリギリの処方が多く、暫定措置の適用範囲は限定的である。

8-3. 期間90日の意味と延長可能性

暫定措置の期間90日間は、業界団体が「短期の急性の供給乱れを緩和する応急処置」として設定した最短期間である。2026年5月の発効から起算すると、2026年8月上旬に90日を満了する。ただし業界団体は、Group III世界的断絶の解消状況に応じて90日延長または90日間の再発効を判断する仕組みで、根本原因の解消(Pearl GTL修復・韓国輸出キャップ緩和等)が進まない場合は延長される可能性が高い。

8-4. 実務含意:整備現場と調達担当への影響

実務含意3点

  1. 整備現場:暫定措置対象の完成油は、性能は規格を満たすが「暫定使用品」の表示が追加される可能性がある。整備業者は顧客への説明対応(性能に問題ないが法規上の位置付けが暫定)が必要。
  2. 調達担当:暫定措置対象の完成油は、通常品より価格が低めに設定される場合と、Group II自体の需給逼窮で通常品より高価格化する場合の両方があり得る。市場動向のモニターが必要。
  3. 販売現場:スズキ・ダイハツの販売会社では油脂類交換を予約制に移行するなど、暫定措置とは別に運用面での調整が広がる。トラックニュース調査で整備業者の8割超がシンナー入手支障、エンジンオイル半数超が調達難という現場実態。
この章の小結:API・ILSAC・ATIELの90日間Group II緊急暫定措置は、Group III世界的断絶を短期緩和する応急処置として2026年5月に発効した。適用条件はLSPI防止性能マージン・省燃費性能マージン・事前届出の3項目で、無条件のGroup III→Group II代替ではない。2026年8月上旬に90日を満了するが、根本原因の解消状況に応じて延長・再発効の可能性が高い。実務上は整備現場・調達担当・販売現場での運用面調整が並行して広がっている。
CHAPTER 09 ── MID-TERM SUPPLY PLAN

中期供給計画(Chevron・ExxonMobil・HD Hyundai Shell)

2026年下期から2028年にかけて、複数のベースオイル供給拡充計画が進行している。北米側のChevron Pascagoula NEXBASE 4 XPとExxonMobil Baytown増強、韓国のHD Hyundai Shell Base Oil、サウジのLuberef Yanbu Growth-II、欧州のNeste拡充が主な柱となる。

9-1. 5大拠点の供給拡充計画

北米・韓国・サウジ・欧州の5大拠点で段階的に稼働する中期供給計画を、時系列と地域別に整理する。北米側のChevronExxonMobilが2026年下期〜2027年上期の即応枠、韓国HD Hyundai Shellが2027年の中核枠、サウジLuberefと欧州Nesteが2027〜2028年の補完枠となる。

中期供給拡充計画・5大拠点まとめ

  • Chevron Pascagoula NEXBASE 4 XP(米ミシシッピ州)2026年Q4本格稼働予定、Group III+相当。北米初のGroup III+グローバルサプライヤーとして韓国産Group III依存を緩和。90日間Group II暫定措置の延長期間中に稼働開始で、暫定措置の恒久化回避と根本供給拡充の両面で重要。
  • ExxonMobil Baytown増強(米テキサス州)+8,000b/d増強(4cSt・6cStグレード中心)、2026年下期〜2027年上期段階的稼働。Group III+Group IV両方の同時増強で、Pearl GTL代替転換の緩和に寄与。EHC(Group II)・Visom(Group III)・SpectraSyn(Group IV PAO)の全レンジ供給。
  • HD Hyundai Shell Base Oil 大山工場(韓国):HD Hyundai Oilbank・Shellの合弁事業、2027年商業生産開始予定、Group III中心。韓国4大生産者の合計生産能力を一段引き上げ、輸出キャップ緩和の可能性を持つ中期供給拡充の中核。
  • Luberef Yanbu Growth-II(サウジ):Saudi Aramco子会社のLuberefがYanbu製油所でGroup II増産計画を進行、2027〜2028年段階的稼働見通し。90日間Group II暫定措置による代替需要増を見越した中期対応。中東の供給側から北米・欧州・アジア市場に配分。
  • Neste Group III+欧州向け拡大(フィンランド):Group III+(Nexbase相当)と再生可能ベースオイルの欧州向け供給を段階的拡大。CNBC報道の欧州Group III約100%上昇を受けた欧州域内の供給拡充の主要主体。

9-2. 中期供給拡充の総合効果と限界

これらの5大拠点の稼働時期を時系列で整理すると、以下のように段階的な供給拡充が見込まれる。ただし短期の急性の供給乱れを完全には解消しない点に留意が必要。

時系列と限界

  • 2026年Q4:Chevron NEXBASE 4 XP稼働で北米側のGroup III+供給が段階的に増加開始
  • 2027年上期:ExxonMobil Baytown増強が段階的稼働、Group III+PAO両方の供給拡充
  • 2027年下期:HD Hyundai Shell 大山工場が商業生産開始、韓国4大生産者の合計生産能力が一段拡大
  • 2027年〜2028年:Luberef Yanbu Growth-II・Neste拡充が段階的稼働
  • 限界:中期計画は短期の急性の供給乱れを完全には解消せず、Kline Group分析の業界全体500万トン余剰リスクも並行して視野に

特に日本のDH-2大型トラック油はGroup I主体のため、これらの中期計画(Group II・Group III・Group IV中心)の恩恵が限定的である。DH-2の供給乱れ解消には、国内元売り3社の出荷制限緩和と、Group I自体の中東供給乱れ緩和が必要で、中期計画とは別経路の対応が求められる。

この章の小結:中期供給計画は北米(Chevron NEXBASE 4 XP 2026年Q4・ExxonMobil Baytown +8,000b/d)・韓国(HD Hyundai Shell 2027年)・サウジ(Luberef Yanbu Growth-II)・欧州(Neste拡充)の5大拠点で段階的に稼働する。2026年Q4〜2028年の期間で世界のGroup II・Group III・Group IV供給が拡充されるが、短期の急性の供給乱れを完全には解消しない。日本のDH-2はGroup I主体のため中期計画の恩恵が限定的で、別経路の対応が必要。
CHAPTER 10 ── PRACTICAL RESPONSE

実務対応10項目と調達戦略

整備業者・調達担当・研究者向けに、2026年下期のベースオイル供給乱れへの実務対応10項目を整理する。Group分類別の代替可否判断、安全在庫の目安、潤滑油直販スキーム参加、価格スライド条項の顧客契約への組み込みなど、意思決定に直結するチェックリスト形式。

10-1. 実務対応10項目チェックリスト

調達・在庫管理系(5項目)

  1. Group分類別在庫の現状把握:Group I(DH-2主体)・Group II(一般乗用車用)・Group III(省燃費油)別に自社取扱の在庫状況を可視化。特にGroup Iは代替不可のため優先確認。
  2. 1〜2ヶ月分の安全在庫確保:Pearl GTL修復完了までの1年間はGroup IV・Group III代替需要集中が継続。DH-2・Group I系油は特に安全在庫確保の目安を2ヶ月分に。
  3. 既存取引先との関係維持を最優先:割当通知には24〜48時間以内に確定発注。新規発注は既存契約先向けの安定供給を維持できる範囲で。
  4. 国内元売り品+商社経由の第2サプライヤー並行確保:ENEOS・出光興産・コスモ石油の元売り3社に加え、TAKMO・キャストロール・シェルジャパン等の商社経由第2サプライヤーを並行確保。
  5. 買い占め型発注抑制:国交省「前年同月同量」要請を踏まえた買い占め型発注抑制で、業界全体の目詰まり緩和に協力。

顧客対応・契約系(3項目)

  1. 価格スライド条項の顧客契約への組み込み:ベースオイル国際価格の変動に応じた価格スライド条項を、顧客との中長期契約に組み込む。CNBC・Gas-Price-Check・世銀・TradingEconomicsを参照指標に。
  2. 90日間Group II暫定措置の顧客説明:暫定措置対象の完成油について、性能は規格を満たすが法規上の位置付けが暫定である旨を顧客に説明。
  3. DH-2大型トラック運送事業者への安定供給誓約:大型トラックの継続運行に関わるDH-2は、Group I主体で代替不可のため、既存取引先の安定供給を最優先。

政策連携系(2項目)

  1. 潤滑油直販スキーム(207組織参加)への参加検討:2026年6月10日稼働の政府主導緊急ネットワーク。既存商流の目詰まり回避に有効。
  2. 中東情勢閣僚会議の議事把握と政策動向モニター:閣僚会議の頻度・議題・出荷抑制是正要請の追加発出等を継続モニター。

10-2. Group分類別の代替可否判断表

元Group 代替候補 代替可否 実務判断
Group IGroup II/III/IV不可DH-2規格の性質上、他Groupで代替不可。既存取引先の安定供給が最優先。
Group IIGroup III粘度指数・不飽和炭化水素は同等以上。Group III価格上昇下では非現実的な代替。
Group IIIGroup II(90日暫定)条件可API/ILSAC/ATIELの90日間暫定措置対象。LSPI・省燃費マージンが必要。
Group IIIGroup III+/GTL粘度指数・清浄性は同等以上。Pearl GTL損傷で供給乱れ、Chevron NEXBASE 4 XPで補完見通し。
Group IIIGroup IV(PAO)性能は上位互換だがコスト大幅増。プレミアム完成油以外では非現実的。
Group IVGroup III+/GTL条件可用途による。極寒冷地・レーシング用途では代替不可、一般プレミアム油は可。
Group V他Group不可ジェットエンジン油・極圧添加剤等の用途特化型で代替不可。
GTLGroup IV(PAO)性能は近似。Pearl GTL損傷時の主要代替候補。

10-3. 業種別の実務対応の焦点

業種別の焦点

  • 大型トラック運送事業者:DH-2安全在庫2ヶ月分、潤滑油直販スキーム参加、既存取引先関係維持
  • 乗用車ディーラー・整備業者:0W-20省燃費油のGroup III代替可否確認、90日暫定措置対応、顧客説明
  • 建設機械・農機オペレーター:ディーゼル系エンジン油・作動油の代替グレード適用可否、稼働継続
  • 船舶・海運事業者:船舶用シリンダー油のGroup I供給乱れ対応、代替グレード検討
  • 潤滑油商社・卸:国内元売り+商社経由の並行確保、価格スライド条項の顧客契約組み込み
  • 官公庁・研究機関:CNBC・Gas-Price-Check等の国際指標モニター、政策対応の体系的把握
この章の小結:実務対応10項目は調達・在庫管理系5項目、顧客対応・契約系3項目、政策連携系2項目に分類される。Group分類別の代替可否判断表は、Group I代替不可(DH-2規格の性質)、Group III→Group II条件付き代替可(90日暫定措置)、GTL→Group IV代替可(Pearl GTL損傷の主要代替候補)等の基本判断軸を提示。業種別(大型トラック運送・乗用車整備・建機・船舶・商社・官公庁)の焦点も併記した。
CHAPTER 11 ── SOURCES & GLOSSARY

主な情報源・用語集

本ガイドで使用した主な情報源と、専門用語の解説を整理する。整備業者・調達担当・研究者が一次情報に遡及する際の起点として活用いただきたい。

11-1. 主な情報源(政府・業界・国際)

Group 01 ── 政府・公的機関
  • 経済産業省|180社・70団体宛「出荷抑制の是正」要請(2026年4月13日付)
  • 経済産業省・国土交通省・資源エネルギー庁|潤滑油直販スキーム稼働(2026年6月10日・207組織参加)
  • 資源エネルギー庁|潤滑油の発注適正化(2026年6月5日公表)
  • 内閣官房|中東情勢に関する関係閣僚会議 議事概要(2026年3月24日〜6月26日)
  • METI(経済産業省)|日本の原油調達 7月に前年平月比10割回復めど(2026年6月11日)
  • 韓国産業通商資源部|石油製品義務的輸出キャップ導入発表(2026年5月)
Group 02 ── 業界団体・企業
  • API(American Petroleum Institute)|90日間Group II緊急暫定措置承認(2026年5月)
  • ILSAC(International Lubricants Standardization & Approval Committee)|GF-6条件付き代替承認
  • ATIEL(Association Technique de l'Industrie Européenne des Lubrifiants)|ACEA A5/B5・C2代替承認
  • Shell / QatarEnergy(CEO Saad al-Kaabi氏)|Pearl GTL約1年修復完了見通し公式表明(2026年7月5日)
  • Chevron|Pascagoula NEXBASE 4 XP 2026年Q4本格稼働計画
  • ExxonMobil|Baytown +8,000b/d増強計画
  • INEOS Oligomers|Group IV PAOのDurasynブランド供給
  • HD Hyundai Shell Base Oil|大山工場 2027年商業生産開始計画
  • SK Enmove / S-Oil / GS Caltex|輸出キャップ下の対応
  • Luberef(Saudi Aramco子会社)|Jeddah継続操業確認(2026年6月29日)、Yanbu Growth-II計画
  • Neste(フィンランド)|Group III+欧州向け供給拡大
  • プライシー編集部|キャストロール5月1日公式値上げ集計
  • ミカド商事ブログ|3Q価格上昇予想・添加剤・容器値上げ観測(2026年5月15日付)
Group 03 ── 国際メディア・分析機関
  • CNBC|Group IIIベースオイル欧州価格約100%上昇報道(2026年5月22日・Twining業界アナリスト解説)
  • Gas-Price-Check|米国Group III能力約44%喪失分析(2026年5月)
  • S&P Global Commodity Insights|Pearl GTL修復期間初期試算(3〜5年)
  • Kline Group|Middle East Lubricants Consulting レポート(2026年5月・業界余剰500万トン試算)
  • JobbersWorld・Costa Kapothanasis氏|AOCUSA・Highline Warren卸価格改定解説(2026年5月15日)
  • MANNOL(独・SCT)|ベースオイル最大50%上昇・欧州在庫枯渇可能性警告(motorcycles.news 2026年5月15日)
  • TradingEconomics|Brent原油日次データ(2026年6月4日97ドル・7月2日71.5〜72ドル)

11-2. 用語集

API(American Petroleum Institute、米国石油協会)
米国の石油関連団体でベースオイル分類(Group I〜V)や乗用車ガソリン用エンジン油規格(API SP等)を制定する。国際的な標準規格の役割を担う。
ILSAC(International Lubricants Standardization & Approval Committee)
日米自動車メーカーが共同で定める潤滑油規格制定機関。ILSAC GF-6等の乗用車エンジン油規格を制定する。
ATIEL(Association Technique de l'Industrie Européenne des Lubrifiants)
欧州潤滑油業界団体で、ACEA規格(欧州自動車工業会規格)の技術支援を行う。
粘度指数(Viscosity Index、VI)
温度変化に対する粘度の変化度合いを示す指標。VIが高いほど温度変化に対して粘度変化が少ない(優れた特性)。Group Iは80-119、Group IIは80-119、Group IIIは120以上。
不飽和炭化水素含有量
ベースオイル中に含まれる二重結合を持つ炭化水素の割合。低いほど酸化安定性が高い。Group Iは10%超、Group II・IIIは10%以下。
硫黄分
ベースオイル中の硫黄含有量。低いほど排気触媒の被毒を防止できる。Group Iは0.03%超、Group II・IIIは0.03%以下、GTLは0.001%以下。
VHVI(Very High Viscosity Index)
粘度指数120以上のベースオイル。Group IIIに相当する高粘度指数油で、水素化分解と触媒異性化の組み合わせで製造される。
Fischer-Tropsch合成
一酸化炭素と水素から炭化水素を合成する化学反応。天然ガスや石炭から液体燃料・ベースオイル・パラフィンを製造するGTL技術の中核。
DH-2(Diesel Heavy-duty type 2)
日本自動車工業会(JAMA)が2004年に制定した大型ディーゼル車向けエンジン油の日本独自規格。DPF対応の低灰分オイル。Group Iベースオイル主体の配合。
DPF(Diesel Particulate Filter)
ディーゼル微粒子捕集フィルタ。排気ガス中の粒子状物質を捕集する装置で、DH-2規格は低灰分油としてDPFの詰まりを防止する。
LSPI(Low-Speed Pre-Ignition)
低速早期着火。ガソリンエンジンの低速高負荷時に発生する異常燃焼で、エンジン損傷の原因となる。API SP・ILSAC GF-6の主要要求性能の一つ。
90日間Group II緊急暫定措置
2026年5月、API・ILSAC・ATIELが承認したGroup III代替使用の暫定措置。本来Group III以上を要求する潤滑油規格に対して、LSPI防止・省燃費性能のマージンを持つ処方でGroup II代替を条件付き承認。
この章の小結:3グループの主要情報源(政府・業界・国際)と12項目の用語集を整理した。政府(経産省・国交省・韓国産業通商資源部)、業界(API・ILSAC・ATIEL・Shell/QatarEnergy・Chevron・ExxonMobil・HD Hyundai Shell)、国際メディア(CNBC・Gas-Price-Check・S&P Global・Kline Group・JobbersWorld・MANNOL)の3レベルで一次資料に遡及可能。用語集はAPI・ILSAC・ATIEL・VI・不飽和炭化水素・硫黄分・VHVI・Fischer-Tropsch・DH-2・DPF・LSPI・90日暫定措置の12項目。
CHAPTER 12 ── FAQ & DISCLAIMER

よくある質問(FAQ・7問)・免責事項

本ガイドの内容を踏まえて、実務者・研究者から寄せられる典型的な質問を7問に整理した。JSON-LD FAQPageと同期しており、AI検索・検索エンジンの回答生成にも直接活用される構造。

ベースオイルとは何ですか、Group I〜Vの違いは何ですか

ベースオイルは潤滑油の主原料で、完成品全体の約80〜90%を占める(残り10〜20%が添加剤パッケージ)。API(米国石油協会)が粘度指数・不飽和炭化水素含有量・硫黄分により5分類+GTLに区分している。Group I(溶剤精製・低粘度指数80-119・DH-2主原料)、Group II(水素化分解・粘度指数80-119・一般エンジン油)、Group III(VHVI水素化分解・粘度指数120以上・省燃費油の中核)、Group IV(PAO・ポリアルファオレフィン合成油・高性能プレミアム)、Group V(エステル・アルキル化ナフタレン等・特殊用途)。GTLは天然ガス由来の合成油で、Group III+相当の最高品質油に分類される。日本のDH-2はGroup I主体、欧米の0W-20省燃費油はGroup III以上が中核となる。

Pearl GTLとは何ですか、なぜ重要なのですか

Pearl GTLはカタール・ラスラファンにあるShellとQatarEnergyの合弁GTL(Gas-to-Liquid)プラントで、生産能力は140,000バレル/日と世界最大級である。天然ガスから高品質液体燃料・ベースオイル・パラフィンを製造し、GTL由来のプレミアム合成油ベースオイル(Group III+相当の最高品質油)の世界供給の中核を担っている。2026年春のイラン軍ミサイル攻撃で施設が損傷し、当初はS&P Globalなどが3〜5年の修復期間を試算していたが、7月5日にShell/QatarEnergy CEOのSaad al-Kaabi氏が公式に約1年での修復完了見通しを表明した。修復期間の大幅短縮見通しは市場心理を安定させる方向で作用したが、その1年間はGroup IV(PAO)や高グレードGroup III以上への代替需要が世界的に集中する。

Group IIIベースオイルの供給断絶とは何ですか

Group IIIはAPI分類でVHVI(Very High Viscosity Index)水素化分解製法の高品質油で、粘度指数120以上・不飽和炭化水素0.03%以下・硫黄分0.03%以下を満たす。省燃費エンジン油(0W-20、5W-30等)の100%化学合成油や一部半合成油の中核原料となる。2026年5月のCNBC報道で欧州価格が約100%上昇、Gas-Price-Check分析で米国生産能力の約44%喪失が確認された。背景には、ホルムズ海峡経由の原油輸送の目詰まりで製油所が燃料収率を優先しベースオイル副産物の抽出が減少したこと、Group III世界輸出大国の韓国が国内供給確保のため石油製品の義務的輸出キャップを導入したこと、UAEフジャイラ等の生産者がForce Majeureを宣言したことがある。業界団体は90日間の緊急暫定措置としてGroup IIへの代替使用を条件付きで承認した。

韓国の輸出キャップとはどのようなものですか

韓国はGroup IIIベースオイルの世界最大輸出国の一つで、SK Enmove(旧SK Lubricants)・S-Oil・GS Caltex・HD Hyundai Shell Base Oilの4大生産者が世界市場をリードしている。2026年5月、韓国産業通商資源部は国内潤滑油供給の安定確保を優先するため、Group IIIを含む石油製品の義務的輸出キャップを導入した(CNBC報道)。輸出可能量が上限で制限されるため、日本を含む輸入国は韓国産Group IIIへのアクセスが制約された。日本のDH-2大型トラック油は主にGroup Iを使用するが、乗用車用0W-20等の省燃費油は韓国産Group IIIに依存する部分が大きく、この輸出キャップは日本市場にも直接波及する。中期的にはHD Hyundai Shell Base Oil(大山工場)が2027年から商業生産を開始する予定で、供給拡充が計画されている。

90日間Group II緊急暫定措置とは何ですか

2026年春以降のGroup III世界的断絶を受け、米国・欧州の業界団体(API・ILSAC・ATIEL等)は90日間の緊急暫定措置として、本来Group III以上を要求する潤滑油規格に対してGroup IIの代替使用を条件付きで承認した。対象は主に低速早期着火(LSPI)防止性能・省燃費性能のマージンを持つ処方で、乗用車ガソリンエンジン油の一部規格が該当する。この措置により整備現場の急性の供給乱れは緩和されたが、Group II需要が押し上げられGroup II価格にも上昇圧力がかかった。AOCUSA・Highline Warrenは5月22日発効でGroup II潤滑油最大$2.40/gal、Group III最大$3.00/galの卸価格改定を発表し、過去2ヶ月で4回目の連続改定となった。90日暫定措置の恒久化・延長・撤回は各業界団体の判断に委ねられる。

中期的な供給拡充計画にはどのようなものがありますか

2026年下期から2028年にかけて、複数のベースオイル供給拡充計画が進行している。①Chevron Pascagoula製油所のNEXBASE 4 XP(2026年Q4本格稼働・北米初のGroup III+グローバルサプライヤー)、②ExxonMobil Baytown増強(+8,000b/d・4cSt・6cStグレード)、③HD Hyundai Shell Base Oil大山工場(2027年商業生産開始・Group III中心)、④サウジ・Luberef Yanbu Growth-II(Group II増産)、⑤Neste Group III+の欧州向け供給拡大、⑥エステル系Group Vの日本国内生産増強、が主な計画である。ただしこれらは中期計画で、短期の供給乱れを完全には解消しない。加えてKline Groupの分析では、2027年下期以降にディーゼル車のEV/水素シフトによる長期的な潤滑油需要縮小が進み、業界全体で500万トン規模の余剰が指摘されるため、需給バランスの構造転換が進む可能性がある。

なぜプラスチックパレット株式会社がこの記事を書いているのですか

弊社(プラスチックパレット株式会社、千葉県我孫子市)は物流資材専門商社として、プラスチックパレット・折コン・PPバンド・ストレッチフィルム・再生プラスチック原料などを全国に卸値で販売している。物流資材の取扱を通じて運送事業者・整備業者・製造業者と日常的にやりとりする立場から、エンジンオイル・潤滑油・ベースオイルの供給問題が現場でどのような影響を及ぼしているかを実感を伴って把握できる立場にある。特に大型トラックの継続運行に関わるDH-2問題とGroup I依存構造、乗用車用の省燃費油とGroup III依存構造については、物流の当事者としての視点から情報収集を進めている。この記事は、2026年のベースオイル市況の全体像をGroup I〜V+GTLのグレード別供給構造という技術的深度から整理し、事業者・実務者・調達担当の意思決定に資することを目的としている。

免責事項

  1. 本記事は2026年7月18日時点の公開情報・一次資料・弊社独自取材に基づいて作成している。市況・政策・企業動向は日々変化するため、実務判断に用いる際は最新情報を必ずご確認いただきたい。
  2. 本記事内の数値・日付・企業名・発言等は、記載された出典に基づいて可能な限り正確を期しているが、二次情報経由の場合の伝聞誤差、時差による情報の陳腐化、翻訳過程での意味変化等の可能性を完全には排除できない。
  3. 本記事は業界動向の俯瞰と情報整理を目的としており、特定の投資判断・調達判断・政策判断を推奨するものではない。実際の意思決定は各読者の責任と判断のもと行っていただきたい。
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