シンガポールの石化はなぜ半減したのか、自国に原油はゼロ、6月の生産52.3%減と住友化学系2社の停止
シンガポールには油田がありません。日量150万バレルの製油所は、すべて輸入した原油で動いています。2026年3月、1週間のうちに3社が続けて生産の停止を宣言しました。うち2社は住友化学が出資する会社です。6月の石油化学の生産は前年同月比52.3%減、7月も48.7%減です。それでも日本への樹脂の量は減っていません。上がったのは、値段のほうでした。
- シンガポールには油田がありません。日量150万バレルの製油所は全量が輸入原油で動いており、SRCという製油所は原油の65%をホルムズ海峡経由で調達していました。
- 2026年3月、PCSが5日、Asterが6日、TPCが9日と、1週間のうちに3社が続けてフォースマジュールフォースマジュール不可抗力です。天災や紛争などで契約どおりに供給できなくなったとき、供給者が宣言します。宣言されると、買い手は決まっていた量を受け取れなくなります。解除されるまで効力が続きます。を宣言しました。PCSとTPCは住友化学が出資する会社です。
- 止まり方が一本の線でつながっています。SRCがナフサをパイプラインでPCSに送っており、SRCが供給を絞ったためPCSが止まり、PCSからオレフィンオレフィンエチレンやプロピレンなど、樹脂の原料になる基礎的な化学品です。ナフサを高温で分解してつくります。オレフィンをつくる会社と樹脂をつくる会社が分かれていると、上流が止まれば下流も止まります。を受けるTPCも止まりました。
- シンガポール政府系のEDBEDBシンガポール経済開発庁です。投資誘致を担う政府機関で、毎月の製造業の生産統計を公表しています。この記事の生産の数字はここのものです。の統計で、2026年6月の石油化学の生産は前年同月比52.3%減、7月も48.7%減、1〜7月累計で34.4%減です。石油製品の在庫は6月に13年ぶりの低さになりました。
- それでも日本への樹脂の量は減っていません。4品目の合計は8,284トンから8,686トンへ4.9%増です。ただし金額は27.7%増で、6月のHDPEの単価は2025年通年の2.07倍でした。
CHAPTER 01油田のない国で、何が起きたのでしょうか
シンガポールはアジア最大級の製油所と石油化学の集積地です。ジュロン島ジュロン島シンガポール南西部の人工島です。7つの島を埋め立ててつなげたもので、製油所と石油化学の工場が集まっています。100社を超える企業が操業しています。には100社を超える企業が並んでいます。しかし、この国には油田が1つもありません。
日量150万バレルの精製能力は、すべて輸入した原油で動いています。だから原料の途絶に対して、この国はいちばん無防備でした。
日本はナフサが買えなくなって工場を止めました。中国は原油もナフサも買うのをやめて、それでも樹脂を増産して輸出に回しました。マレーシアは産油国でありながら最大の製油所が稼働率50%まで落ちました。そしてシンガポールでは、1週間のうちに3社が続けて生産の停止を宣言しました。
当社は物流資材の商社です。ポリプロピレンでできたパレット、PPバンド、ストレッチフィルムを扱っています。シンガポールは日本のポリエチレンの仕入れ先の1つで、住友化学が出資する工場もあります。そこで起きたことは、当社の仕入れの話でもあります。
CHAPTER 02原油はすべて輸入、その3分の2が中東です
シンガポールのガン・キムヨン副首相が2026年4月7日に国会で行った声明が、この国の立ち位置を端的に示しています。
| 項目 | 平時 | 2026年3月 |
|---|---|---|
| ホルムズ海峡を通る船 | 1日約135隻 | 1日約6隻 |
| ブレント原油 | 71ドル/バレル | ピーク141ドル |
| スポットLNG | 11ドル/MMBtu | ピーク22ドル |
ガン・キムヨン副首相兼貿易産業相の国会声明(2026年4月7日)を直接参照しました。副首相は世界の海上輸送原油の4分の1、ガスの5分の1がこの海峡を通っており、そのうち8割超がアジア向けだったとも述べています。
同じ声明で、副首相はシンガポールがエネルギーのほぼ全量を輸入しており、電力の約95%が天然ガス由来であると述べています。そして製油所については、こう書かれています。
「Our refineries have adjusted by reducing their run rates and brought in shipments from sources outside of the Middle East.」——当国の製油所は稼働率を引き下げ、中東以外の調達先から出荷を持ち込むことで対応した。具体的な稼働率は示されていません。政府の公式文書で製油所に触れているのは、当社が確認した範囲でこの一文だけです。
中東への依存度は、出典によって数字が分かれます。シンガポールの原油供給の約3分の2が中東産とする報道と、2025年に70%超(2024年の50%から上昇)とする分析があり、当社ではどちらが正しいか判定できません。企業単位ではっきりしているのは、後述するSRCという製油所が原油の65%をホルムズ海峡経由で調達していたという数字です。
CHAPTER 033月、1週間で3社が続けて止まりました
ホルムズ海峡が閉じたのは2026年2月28日です。その1週間後に何が起きたかを、日付順に並べます。
| 日付 | 会社 | 内容 |
|---|---|---|
| 2026年3月5日 | PCS | 全契約についてフォースマジュールを宣言 |
| 2026年3月6日 | Aster | エチレン・プロピレン・スチレンでフォースマジュール |
| 2026年3月9日 | TPC | LDPE・EVA・PPでフォースマジュール |
| 2026年3月10日 | SRC | 稼働率を75%から約60%へ |
| 同 | エクソンモービル | 稼働率を80%超から50%以下へ |
PCSは同社の公式通知、Asterはロイターとエスアンドピー・グローバル、TPCはアーガス・メディア、SRCとエクソンモービルはロイターによります。
PCSの通知は同社のサイトに残っています。「中東における武力紛争の激化により、世界的な海上輸送とサプライチェーンに重大な混乱が生じた」ため、「顧客との現行のすべての契約に基づく義務の履行を、一時的に妨げられている」という内容です。期間と範囲については「不確実なままである」と書かれています。
当社が2026年8月29日時点で確認した限り、PCSの公式ニュース欄には3月5日以降の投稿がなく、解除の告知は出ていません。TPCの解除も確認できていません。Asterについては、2026年6月24日時点でフォースマジュールが継続中だと報じられています。つまり、この3社が3月に止めたものは、少なくとも夏まで戻っていない可能性があります。
CHAPTER 04止まり方が、一本の線でつながっています
この記事でいちばん申し上げたいのがここです。3社が別々に止まったのではありません。順番に倒れました。
| 段階 | 会社 | 何が起きたか |
|---|---|---|
| ① 原油 | SRC(日量29万バレル) | 原油の65%がホルムズ経由。入着が遅れ、稼働率75%→60% |
| ② ナフサ | SRC → PCS | SRCのナフサは一部がパイプラインでPCSへ。3月に顧客5社のうち少なくとも2社への供給を遅延・カット |
| ③ エチレン | PCS(年109万〜110万トン) | 3月5日にフォースマジュール |
| ④ 樹脂 | TPC(PP年40万トン ほか) | PCSからのオレフィンが途絶。3月9日にフォースマジュール |
SRCからPCSへのパイプラインはアーガス・メディア、SRCのナフサ供給カットとホルムズ依存65%はロイター、PCSとTPCのフォースマジュールは各社の通知および報道によります。
PCSは日本側の合弁会社JSPCが50%を持ち、住友化学はそのJSPCの54.66%を保有しています。実質でおよそ27%です。TPCは日本側のNSPCが70%を持ち、住友化学はNSPCの95.71%を保有。実質でおよそ67%になります。持分でいえば、住友化学が深く関わっているのはエチレンのPCSよりも、樹脂をつくるTPCのほうです。
54.66%と95.71%という数字は、住友化学が2005年2月7日に公表した資料に記載されたものです。2026年時点の比率を明記した資料を、当社は見つけられませんでした。その後にシェル側の持分でカタールエナジーが参入していますが、これは相手方50%の中の再編であり日本側は変わっていないとみられます。ただし断定はできません。
もう1つ、混同しやすい点があります。Asterは、この線とは別の会社です。2024年にシェルがブコム島のエネルギー・化学パークをインドネシアのチャンドラ・アスリとグレンコアの合弁に売却してできた会社で、シェルはPCSの50%とTPCの30%は売らずに保持しています。PCSとAsterは資本関係のない別会社で、3月5日と6日のフォースマジュールは、同じ原料途絶に対する独立した反応です。
CHAPTER 05石油化学の生産は、6月に半分になりました
結果が政府の統計に出ています。シンガポール経済開発庁(EDB)が2026年7月27日に公表した月次の製造業統計です。
| 化学クラスターの生産 | 2026年5月 | 2026年6月 | 2026年7月 | 1〜7月累計 |
|---|---|---|---|---|
| 石油化学 | 42.5%減 | 52.3%減 | 48.7%減 | 34.4%減 |
| 石油 | 12.3%減 | 10.2%減 | 7.0%減 | 10.8%減 |
| スペシャリティ | 2.8%減 | 0.1%減 | 5.5%増 | 1.1%減 |
| その他化学 | 17.4%増 | 22.0%増 | 8.0%増 | 11.0%増 |
| 化学クラスター全体 | 11.4%減 | 11.6%減 | 10.6%減 | 9.7%減 |
シンガポールEDB「Monthly Manufacturing Performance – July 2026」(2026年8月26日)を直接参照しました。いずれも前年同期比です。減少の理由として「定期修理、需要の弱さ、原料供給の途絶」と書かれています。
石油化学だけが半減しています。スペシャリティは6月がほぼ横ばい、7月はむしろ5.5%増、その他化学は6月に22.0%増です。同じ化学クラスターの中で、原料をナフサに頼る部門だけがピンポイントで落ちました。
EDBは2026年7月27日の6月号で、6月の石油化学を52.7%減、スペシャリティを0.0%、化学クラスター全体を11.7%減と発表しました。2026年8月26日の7月号で、それぞれ52.3%減、0.1%減、11.6%減に改定されています。本記事は7月号の数値を採りました。当社が最初に公開したときは6月号の52.7%を使っていたため、その部分を差し替えています。生産統計は速報値であり、翌月以降に改定されることがあります。
輸出も同じ形です。シンガポール企業庁の統計で、2026年7月の石油化学製品の輸出は前年同月比22.5%減の8億960万シンガポールドルでした。同じ月の非石油国内輸出は、AI関連の電子部品が好調で24.2%増です。
シンガポール企業庁の週次統計で、2026年6月10日の週の石油製品在庫は3,441万バレル。2013年7月以来の低い水準でした。うち残渣燃料は1,484万バレルで約8年ぶりの低さです。アジアの石油取引の中心が、運用上の最低水準に近づいていました。
CHAPTER 06それでも、伸びた部門があります
シンガポールは一方的にやられたわけではありません。船に燃料を売る商売は伸びました。
国際エネルギー機関(IEA)は2026年4月の月報で、シンガポールについてこう書いています。本レポートで需要見通しを大幅に上方修正した唯一の大規模石油消費国である、と。
| シンガポールのバンカー販売 | 数量 | 前年比 |
|---|---|---|
| 2025年通年 | 5,677万トン | 3.4%増(過去最高) |
| 2026年1〜3月 | 1,467万トン | 12.0%増 |
| 2026年1〜5月 | 2,357万トン | 5.3%増 |
シンガポール海事港湾庁(MPA)が公開している月次データを、当社が集計しました。1995年1月から2026年5月までの全燃料種が公開されています。
報道では2025年の販売量を5,620万トン・3.2%増としているものがあります。当社が原データで確かめたところ、これはLNGを除いた数字でした。全燃料種の合計は5,677万トンで3.4%増、うちLNGが57万トンです。どちらも間違いではありませんが、範囲が違います。本記事はLNGを含む全燃料種で統一しました。なおLNGは2024年の46万トンから2025年の57万トンへ増えています。
累計では増えていますが、月ごとに見ると向きが変わっています。2026年1月は前年同月比16.5%増、2月12.9%増、3月6.6%増と伸びが縮み、4月は1.2%減、5月は6.8%減で前年割れに転じました。1〜5月累計の5.3%増は、1〜3月の伸びによるものです。「売る商売で勝った」と言えるのは3月までで、その後は両方とも前年を下回っています。月ごとの数字は当社の定点観測ページに載せています。
値段も上がりました。2026年3月のシンガポールのVLSFOVLSFO・MGO船の燃料の種類です。VLSFOは硫黄分の少ない重油、MGOは船舶用の軽油を指します。2020年の規制強化以降、VLSFOが主流になりました。(低硫黄C重油)は1トン920ドルで、前年3月の517.50ドルの約1.8倍。船舶用軽油(MGO)は1,624ドルで、前年の648ドルの2.5倍です。
つまりシンガポールは、つくる商売では負けて、売る商売では勝ちました。製油所と石化は原料が来ずに止まり、給油と取引の商売は値上がりと需要増で伸びた。ハブであることの、両面が同時に出た形です。
CHAPTER 07日本への樹脂は、量ではなく値段が変わりました
ここが日本の買い手にとっての結論です。調べる前は、生産が半減したのだから日本への供給も減っているだろうと考えていました。数字は違いました。
| シンガポールからの輸入(1〜6月累計) | 2025年 | 2026年 | 増減 |
|---|---|---|---|
| LDPE | 688トン | 524トン | 23.8%減 |
| HDPE | 4,854トン | 3,900トン | 19.7%減 |
| PP(ホモ) | 931トン | 2,293トン | 146.3%増 |
| PP(ブロック) | 1,811トン | 1,969トン | 8.7%増 |
| 4つの合計 | 8,284トン | 8,686トン | 4.9%増 |
プラサーチ「樹脂別国別輸入実績」(財務省貿易統計による)を当社が直接読み、合計と増減は当社が計算しました。
ポリエチレンは減り、ポリプロピレンは増えて、合計では4.9%増えています。
同じ期間の金額は16億9,185万円から21億6,077万円へ、27.7%増えました。量が4.9%増で金額が27.7%増ですから、差の分だけ単価が上がっています。平均単価は1kgあたり204円から249円になりました。
6月の1か月だけを取り出すと、もっとはっきりします。
| 2026年6月単月の輸入単価(1kg) | シンガポールから | 輸入全体の平均 |
|---|---|---|
| PP(ホモ) | 360円 | 278円 |
| PP(ブロック) | 419円 | 291円 |
| HDPE | 337円 | 283円 |
| LDPE | 281円 | 314円 |
プラサーチの累計値から当社が計算しました。6月単月は1〜6月累計から1〜5月累計を差し引いたものです。
4品目のうち3品目で、シンガポールからの輸入は全体の平均より高くつきました。HDPEの単価は2025年通年の163円に対し、6月単月は337円。2.07倍です。
同じ2026年6月、中国からのPPは1kg264円で、輸入全体の278円より安くなりました。シンガポールからのPPは360円です。同じ月、同じ品目で96円の差があります。石炭からつくる装置が動いていた中国と、原油が来なくて止まったシンガポール。その差が、日本の仕入れ値の差として現れています。
ナフサは逆に、なかったものが現れました。2026年5月の日本のシンガポールからのナフサ輸入は35,449キロリットルで、財務省貿易統計の表記は「全増」——前年同月がゼロだったということです。ただし日本の輸入総量143万キロリットルの約2.5%にとどまります。中東の穴を埋めたのは米国の499,076キロリットルとアルジェリアの266,843キロリットルでした。
ただしこれは6月までの数字です。シンガポールの石化生産が52.3%減ったのは6月、輸出が22.5%減ったのは7月です。生産の落ち込みが日本の輸入に効いてくるとすれば7月以降で、その統計はまだ公表されていません。「減っていない」と結論づけるのは早すぎます。
CHAPTER 08ENEOSは、この局面で製油所の半分を買いました
供給が細っている最中に、日本の会社が逆の動きをしました。
2026年5月14日、ENEOSホールディングスがシェブロンから、シンガポールを含む6市場の事業を21.7億米ドル(約3,360億円)で取得すると発表しました。取得するのはシェブロンのシンガポール、マレーシア、フィリピン、オーストラリア、インドネシアの各社の株式100%で、そこにSRCの持分50%が含まれています。
SRCは第3章と第4章に出てきた、原油の65%をホルムズ経由で調達していて3月に稼働率を60%まで落とした、あの製油所です。
ENEOSのリリースには、狙いとして「コスト競争力に優れた輸出型製油所輸出型製油所国内需要ではなく輸出向けに製品をつくる製油所です。シンガポールの製油所は国内市場が小さいため、生産の大半を域内に輸出しています。と下流の燃料油および潤滑油事業を取得することで、当社は東南アジア地域における成長機会を取り込み、かつ日本にとって重要な輸出市場であるオーストラリアでのトレーディング機会を強化」と書かれています。株式取得の完了は2027年中の予定です。国内の石油需要が減り続けるなかで、外に出るという判断です。
2027年のクロージング時点で原料事情がどうなっているかは、誰にも分かりません。当社が申し上げられるのは、日本の元売り最大手が、原料が途絶している最中に、その原料途絶で止まった製油所の半分を買う判断をした、という事実だけです。ENEOSはリリースで、各国当局の承認などが前提であるとしています。
この記事に出てきた言葉の意味7語
出典・エビデンス一覧
PCS Pte. Ltd.「PCS Pte. Ltd. Issues Formal Notice of Force Majeure」(2026年3月5日)
ENEOSホールディングス「シェブロン社のアジア・オセアニア地域の事業の取得について」(2026年5月14日)
アーガス・メディア「Singapore's TPC declares FM on upstream supply woes」(2026年3月9日)
エスアンドピー・グローバル「Factbox: More chemical plant shutdowns, force majeures reported in Asia」(2026年3月6日)
住友化学「Sumitomo Chemical Upgrades Polypropylene Capacity in Singapore」(2005年2月7日)
ICIS「Singapore July petrochemical exports fall 22.5%; NODX grows 24.2%」(2026年8月17日、シンガポール企業庁の統計による)
ベアード・マリタイム(シンガポール企業庁の週次統計による、2026年6月11日)
シンガポール海事港湾庁(MPA)「Bunker Sales Breakdown, Monthly」
国際エネルギー機関(IEA)「Oil Market Report」2026年4月号・8月号
ベトナムの樹脂はいつまで買えるのか、6月のPPは日本の輸入の43.4%、唯一のPE工場は5月から停止
日本のPE仕入れ先シンガポールはなぜ戻らないのか|製油所は7月に回復、石化だけ24年ぶりの低水準
樹脂原料はなぜ高いままなのか|ナフサ118,900円とPP・PE4品目の国別価格2026年の全記録
プラサーチ「樹脂別国別輸入実績」2025年1〜6月・2025年通年・2026年1〜5月・1〜6月(財務省貿易統計による)
よくあるご質問
シンガポールには油田がないのですか。
ありません。日量150万バレルの精製能力はすべて輸入した原油で動いています。ガン・キムヨン副首相は2026年4月7日の国会声明で、シンガポールはエネルギーのほぼ全量を輸入しており、電力の約95%が天然ガス由来だと述べています。アジア最大級の製油所と石油化学の集積地でありながら、原料はすべて外から来ています。
2026年3月に何社が止まったのですか。
1週間のうちに3社です。3月5日にPCSが全契約についてフォースマジュールを宣言し、6日にAsterがエチレン・プロピレン・スチレンで、9日にTPCがLDPE・EVA・PPで宣言しました。あわせて3月10日には、SRCが稼働率を75%から約60%へ、エクソンモービルが80%超から50%以下へ引き下げたと報じられています。
なぜ3社が続けて止まったのですか。
原料が順番に途切れたためです。SRCは原油の65%をホルムズ海峡経由で調達しており、入着が遅れて稼働率を下げました。SRCのナフサは一部がパイプラインでPCSに送られており、3月に顧客5社のうち少なくとも2社への供給が遅延・カットされました。PCSはそれを受けて3月5日にフォースマジュールを宣言し、PCSからオレフィンを受けているTPCも3月9日に宣言しています。原油、ナフサ、エチレン、樹脂という順番で倒れました。
住友化学はどれくらい関わっているのですか。
PCSは日本側の合弁会社JSPCが50%を保有し、住友化学はそのJSPCの54.66%を保有しています。実質でおよそ27%です。TPCは日本側のNSPCが70%を保有し、住友化学はNSPCの95.71%を保有しているため、実質でおよそ67%になります。ただしこれらの比率は住友化学が2005年2月7日に公表した資料によるもので、2026年時点の比率を示す資料を当社は見つけられませんでした。
シンガポールの生産はどれくらい落ちたのですか。
シンガポール経済開発庁の統計で、2026年6月の石油化学の生産は前年同月比52.3%減、7月も48.7%減で、1〜7月累計は34.4%減です。同じ化学クラスターでもスペシャリティは6月がほぼ横ばいの0.1%減、7月は5.5%増、その他化学は6月が22.0%増でしたから、原料をナフサに頼る部門だけが落ちています。輸出も2026年7月の石油化学製品が前年同月比22.5%減でした。
シンガポールは一方的に損をしたのですか。
いいえ。船に燃料を売る商売は伸びています。2025年のバンカー販売は5,677万トンで1995年以降の最高、2026年1〜3月は前年同期比12.0%増でした。IEAは2026年4月の月報で、シンガポールを「需要見通しを大幅に上方修正した唯一の大規模石油消費国」と評しています。つくる商売では負けて、売る商売では勝った形です。
日本へのシンガポールからの樹脂は減りましたか。
2026年6月までの数字では減っていません。PP・PPブロック・HDPE・LDPEの合計は1〜6月累計で8,284トンから8,686トンへ4.9%増えました。ポリエチレンは減り(LDPE23.8%減、HDPE19.7%減)、ポリプロピレンが増えています。ただし生産が52.3%落ちたのは6月、輸出が22.5%落ちたのは7月ですので、日本の輸入に効いてくるとすれば7月以降です。その統計はまだ出ていません。
シンガポールから買うと高いのですか。
2026年6月については高くつきました。1kgあたりの輸入単価は、PPが360円(輸入全体の平均278円)、PPブロックが419円(同291円)、HDPEが337円(同283円)で、4品目のうち3品目が平均を上回っています。HDPEは2025年通年の163円に対して2.07倍です。同じ月の中国からのPPが264円でしたので、96円の差がありました。
ENEOSがシンガポールの製油所を買ったと聞きました。
2026年5月14日、ENEOSホールディングスがシェブロンのシンガポール・マレーシア・フィリピン・オーストラリア・インドネシアの各社の株式100%を21.7億米ドル(約3,360億円)で取得すると発表しました。そこにSRCの持分50%が含まれています。SRCは原料難で3月に稼働率を60%まで落とした製油所です。株式取得の完了は2027年中の予定で、各国当局の承認などが前提とされています。
なぜプラスチックパレット株式会社がこの記事を書いているのですか。
当社は物流資材の商社で、プラスチックパレット、再生樹脂原料、PPバンド、ストレッチフィルムを取り扱っています。これらはすべてポリエチレンとポリプロピレンからできており、シンガポールは日本のポリエチレンの仕入れ先の1つです。自社の仕入れのために追いかけている数字を、そのままお伝えしています。
文:プラスチックパレット株式会社 編集部
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