ニュースで聞くイラン情勢が招く『2026年ナフサ・クライシス』をやさしく解説、暮らし・食品・建材・電気代への波及、覚書合意後も値上げが続く本当の理由【2026年7月版】
戦争は止まった、なのに値上げは続く。ナフサ・クライシスが暮らしのすみずみに残す影響を、身近な言葉でひもとく
1. そもそもナフサ・クライシス2026って、なに?
「ナフサ」というのは、原油から作られる無色透明の液体で、私たちの身の回りにあるプラスチック製品のほぼすべての原料です。ペットボトル、食品トレイ、シャンプーの容器、洗剤のボトル、化粧品の入れ物、車のバンパー、家電のケース──実は、家の中で目に映るものの半分近くが、ナフサから作られた「石油化学製品」だと言われています。
ナフサは「暮らしのパンの原料の小麦粉」に似ています。パン屋さんに小麦粉が届かないと、菓子パンも食パンもフランスパンも作れなくなります。私たちが直接「小麦粉が値上がりした」と実感しなくても、パン屋さんが「材料代が上がった」と少しずつパンの値段を上げていく──そんな感じで、ナフサが値上がりすると、スーパーの食品からドラッグストアの日用品まで、じわじわと値段が上がるのです。
「ナフサ・クライシス2026」とは、2026年2月28日の米国・イスラエルによるイラン攻撃で中東の重要な海の通り道「ホルムズ海峡」が事実上封鎖されて、日本のナフサ供給が一気に崩れた事態を指します。値段が上下しても、現物の確保がむずかしい状態が続き、暮らしの隅々まで影響が広がっています。
- ナフサは「プラスチック製品ほぼ全部の原料」で、暮らしのあらゆるモノに直結する
- 2026年2月28日のイラン戦争でナフサ供給ルートが一時止まり、価格は乱高下・値上げが波及
- 6月14日イスラマバード覚書で戦争は止まったが、値上げは時間差で残り続けている
2. なぜ2026年2月28日から始まったのか、開戦から覚書合意までの流れ
2026年2月28日、米国とイスラエルはイランへの本格的な軍事攻撃を開始しました。翌3月1日、イラン国営メディアは最高指導者ハメネイ師の死亡を伝え、中東全域が緊張状態に突入。イランは周辺国の米軍基地に報復し、原油の大動脈であるホルムズ海峡が事実上の封鎖状態に入りました。
ホルムズ海峡は「日本行きのタンカーのための細い峠道」のようなイメージです。幅33kmしかない狭い水路に、世界の原油輸送量の約20%が集中して通っています。ここが機雷や攻撃で危険になると、タンカーは「回り道」を余儀なくされます。回り道は距離が長い、時間がかかる、保険料が上がる、というトリプルパンチで、そのコストが最終的には私たちが払うプラスチック製品や食品の値段に反映されます。
2-1. ここまでの経緯を時系列で追う
3. 価格の乱高下、5月ピーク→6月急落→7月落ち着き局面へ
シンガポール市場のナフサ価格は、この4か月間で歴史的な乱高下を見せました。イラン戦争前(2026年2月末)に1トン588ドルだったところから、3月に1,000ドル超へ突き抜け、5月16日には1,043ドル/MTで歴史的ピークをつけました。ところが6月に入り、6月3日には767ドルへ約26%急落、6月末には500ドル台/MTまで落ちる場面もありました(原油急落と連動)。参考として、Brent原油は5月ピーク114ドル/バレル超から6月末には68ドル/バレル台へ急落しています。
ジェットコースターのように乱高下する原料価格は、パン屋さんにとって「今日はこの値段だが、明日はいくらになるかわからない材料」で仕入れを続けるようなものです。値上げしても、後で下がったら値下げしないといけないのか?──企業はこう悩みます。でも実際には、包装材や食品として「最終製品」に届くまで数ヶ月かかるので、値下げは追いつきません。だから覚書合意の後も、私たちのスーパーの値札は変わらないのです。
3-1. なぜここまで乱高下したのか、3つの理由
急上昇の理由は、①ホルムズ海峡封鎖でタンカーが通れなくなったこと、②アジア各国の石油化学メーカーがフォースマジュール(不可抗力)を続々宣言したこと、③米国産ナフサや紅海側からの代替調達が間に合わなかったこと──の3つでした。
急落の理由も3つあります。①米国などからの輸入や、サウジアラビアの紅海側からのホルムズ海峡を迂回した調達が3月以降進んで供給不安が和らいだこと、②中国からのプラスチック樹脂供給が増えたこと(中国は石炭やメタノールなどナフサ以外のルートで作れる工場が多く、国内需要の弱さもあって輸出玉が増えた)、③在庫調整が重なったこと──です。需給の緊張度を映すクラックスプレッド(ナフサと原油の価格差)はピークの4分の1に縮小しました(ごりお【化学業界解説】、2026年6月)。
3-2. 高市総理と赤澤経産大臣の見通し
高市早苗総理は2026年5月25日の記者会見で、「原油は6月のホルムズ海峡を経由しない代替調達が8割程度まで引き上がり、年度を越えて来年春まで石油の安定供給を確保できる」「ナフサ由来の石油製品は年を越えて供給継続が可能」と説明しました(nippon.com、2026年5月25日)。赤澤亮正経済産業大臣も2026年6月2日、「ナフサは定期修理集中期間終了で7月に前年並みの生産量に戻る」との見通しを表明しています。
ただし、これはあくまで政府の楽観的な見立て。実際には、石油化学プラントの多くは長期修理に入っており、フル生産再開には時間がかかります。「政府は足りていると言うが、業界は不足している」という認識のずれが続いています(テレビ朝日、2026年5月20日)。
4. イスラマバード覚書合意、でも暮らしはどうなる?
2026年6月14日、米国のトランプ大統領は「イランと戦闘終結で合意した」と発表しました。合意文書は通称「イスラマバード覚書」と呼ばれ、仲介はパキスタン、カタール・サウジアラビア・トルコ・エジプトも交渉を促進しました。100日以上続いた米・イスラエルとイランの軍事衝突に、ようやく一区切りがついた瞬間です。
続く6月17日、フランス・エヴィアン=レ=バンで開催されていたG7サミット最終日に、トランプ米大統領・J.D.バンス副大統領とイランのペゼシュキアン大統領・ガリバフ国会議長らによってデジタル形式で正式に署名されました(セキュリティ対策Lab、2026年6月)。
イスラマバード覚書は「離婚調停の暫定合意書」に似ています。「これから60日間だけ、この条件で別々に暮らしましょう」と決めたようなもので、まだ本格的な離婚条件(最終合意)は決まっていません。だからパートナーがちょっと機嫌を損ねると、明日にでも修羅場に戻る可能性があります。実際、6月末までに米イラン直接衝突が3回・商船被弾2件が確認されています。
4-1. 覚書14項目のうち、暮らしに直結する4項目
| 項目 | 内容 | 暮らしへの影響 |
|---|---|---|
| 第4条 | 米国の海上封鎖解除(30日以内) | イラン産原油の市場復帰、原油価格の安定へ |
| 第5条 | イランによるホルムズ海峡開放(機雷除去30日以内、60日間通行料無料) | タンカーが通れるようになる、供給網回復 |
| 第6条 | 3,000億ドル(約45兆円)規模の民間投資基金創設 | イラン復興・地域安定化の初期投資 |
| 第10条 | イラン産原油・石油化学品の輸出禁止即時解除 | ナフサ・化学品の追加供給ルート復活 |
出典:CNN.co.jp(2026年6月)「米国、イランとの覚書14項目公表」、JBpress(2026年6月)「米国・イラン覚書14カ条」全訳。
4-2. 覚書合意後の脆弱性、11日で衝突3回・商船被弾2件
しかしこれは平和条約ではなく、たった60日間の話し合い期間の約束にすぎません。6月末までに米イラン直接衝突が3回、商船被弾が2件確認されています。イラン議会の国家安全保障委員会のアジジ議員は6月27日のSNS投稿で「ホルムズ海峡はイランが統治する。米国はコントロールをエスカレーションと取り違えるべきではない。これは停戦違反ではなく停戦管理である」と発言。米国側は「停戦違反」と非難し、イラン側は「停戦管理」と言い張る──この解釈のずれが、今後60日間続く可能性があります。
5. 電気ガス代の値上げと政府の5,000円支援、7月1日開始
中東情勢を受けた高市早苗総理は2026年5月25日、補正予算3兆円強・電気ガス支援5,000円を表明しました。この補正予算は2026年6月5日に国会で成立し、総額は3兆1,135億円となりました。6月12日には経済産業省が電気ガス料金の値引き単価を特例認可・承認、そして2026年7月1日から3か月間の支援がスタートしています(補助金ポータル、2026年7月)。
5-1. 値引き単価と標準家庭の負担軽減額
| 対象 | 7月使用分 | 8月使用分 | 9月使用分 | 3か月合計 |
|---|---|---|---|---|
| 電気(低圧) | 3.5円/kWh | 4.5円/kWh | 3.5円/kWh | 合計5,000円程度 |
| 電気(高圧) | 1.8円/kWh | 2.3円/kWh | 1.8円/kWh | — |
| 都市ガス | 14.0円/㎥ | 18.0円/㎥ | 14.0円/㎥ | — |
出典:経済産業省プレスリリース(2026年6月12日)、補助金ポータル(2026年7月)「電気代・ガス代補助金、2026年7〜9月に3か月合計5,000円へ拡充」。
「5,000円の値引き」と聞くと大きな金額に感じますが、実は「値上げ幅の一部を政府が肩代わり」しているだけ。もともとの電気代・ガス代が値上がりしていて、その値上げ分の何割かを補助でカバーする形です。だから請求書を見て「あれ、去年より高い」と感じることが少なくありません。値引きが自動反映される仕組みなので申請不要ですが、契約中の会社の請求書で値引き額が明記されているかチェックするのがおすすめです。
5-2. 補正予算3兆1,135億円の中身
- 「中東情勢等対応予備費」創設:2.5兆円 — ガソリン補助金・LPガス支援等の緊急対応枠
- 電気ガス料金支援:5,135億円 — 7〜9月の3か月間の値引き原資
- 予備費復元:0.5兆円 — 支援で減った予備費を1兆円に戻す
- 重点支援地方交付金:0.1兆円 — LPガス利用者や特別高圧電力の追加支援
財源はすべて特例公債(赤字国債)の追加発行で賄われます。2025年度分の特例公債のうち、税収増で3兆円分が発行不要となる見通しのため、通年ベースでは総額を増やさず対応できると政府は説明しています(時事ドットコム、2026年5月25日)。
5-3. 支援が終わった10月以降どうなる?
現時点で、支援は9月使用分(10月検針分)までと決まっています。10月以降の延長は現時点で未定で、原油・ナフサ価格の推移、覚書の履行状況によって政府が改めて判断することになります。冬の電気代高騰期に向けて、10月〜11月の政府対応が注目されます。
6. 食品値上げの波、包装資材コスト転嫁が続く
ナフサ・クライシスは、食品の値上げにも直結しています。日本経済新聞は「値上げは化学品など原料段階から始まり、徐々に供給網の川中、川下へ波及している。家庭用の食品向け密閉保存袋や食用油、包材コスト上昇で豆腐など身近な製品で値段が上がる見込みだ」と報じています(日経ビジュアルデータ、2026年5月)。
スーパーで売られている豆腐やヨーグルトを買ったとき、パッケージ(プラスチック容器)はゴミ箱に捨てるだけの脇役に見えます。でも実は、その容器にもナフサから作られたプラスチックが使われていて、包材が値上がりすると、豆腐そのものは同じでも「豆腐の値段」が上がってしまうのです。目に見えない場所でナフサが暮らしに関わっています。
6-1. 影響が広がっている食品カテゴリー
| カテゴリー | ナフサ関連の使途 | 影響 |
|---|---|---|
| 豆腐・納豆・乳製品 | プラスチック容器・フィルム | 包材コスト転嫁で値上げ |
| 食用油 | ペットボトル・キャップ | ボトル1本あたり数円〜十数円上昇 |
| 食品向け密閉保存袋 | ポリエチレン・ポリプロピレン素材 | 家庭用ジップ袋・保存袋の値上げ |
| 菓子パン・スナック | 個包装フィルム | 個包装コストの上昇分が転嫁 |
| 飲料(ペットボトル) | PET樹脂・キャップ・ラベル | 500ml換算数円の値上げ |
| 冷凍食品 | 包装フィルム・パッケージ | 包材コスト上昇で価格改定 |
出典:日本経済新聞ビジュアルデータ(2026年5月11日)「ナフサやエチレンの複雑な供給網、中東情勢どう影響?」ほか。
6-2. 帝国データバンク調査、製造業の3割が調達リスク
帝国データバンクの調査では、化学製品メーカー52社から直接・間接的(二次流通まで)に仕入れる製造業は全国で約4万7,000社にのぼり、集計可能な製造業全体の約3割がナフサ関連製品の調達リスクに直面する可能性があるとされています(アクティブック、2026年7月)。これは「燃料費が上がる」だけの問題ではなく、現物の原料が手に入らないという構造的な危機です。
7. 建材・住宅の値上げ、30社超が6月1日から一斉改定
2026年6月1日出荷分を境に、建設資材・物流資材・包装資材を中心とした30社超の一斉値上げが進行しています。改定幅は10〜80%と広範。ルーフィング40〜50%、断熱材40%、シンナー50〜80%が大幅上昇です。「発注日」ではなく「出荷日」基準で新価格適用される事例が多く、5月発注済みの案件にも影響が及んでいます(当社発表、2026年6月)。
住宅を建てる・リフォームすることを考えている方には、これはとても重要な話です。「4月に見積もりを取った工務店の金額」と「6月以降に発注した実費」は大きく違ってきます。工務店側も「材料代が上がったので追加でお願いします」と、後から請求が来る可能性が。特に雨どい・断熱材・エクステリア・水道関係の樹脂部品は、目立たないところで値上がりの影響を受けやすい部位です。
7-1. 主な建材値上げの例
| メーカー・製品 | 改定率 | 実施時期 | 対象品目 |
|---|---|---|---|
| タキロンシーアイ | 20%以上 | 2026年6月1日出荷分〜 | 雨どい・デッキ材・エクステリア製品・収納製品・勝手口ステップ |
| ルーフィング系メーカー | 40〜50% | 2026年6月〜 | 屋根下地材・防水シート |
| 断熱材メーカー | 約40% | 2026年6月〜 | 硬質ウレタン系断熱材 |
| 塗料・シンナーメーカー | 50〜80% | 2026年6月〜 | 塗装用シンナー・溶剤 |
| PVC(塩化ビニル樹脂) | 大幅上昇 | 2026年3〜6月 | 塩ビ管・シート・建材各種 |
出典:当社集計「建設・物流・包装資材 値上げ一覧 2026年6月|30社超・ナフサショック影響まとめ」(2026年6月)。改定率は各メーカー公式発表による目安値。
7-2. なぜ建材にこれほど影響が出るのか
建材の多くは、実は「石油化学製品」です。塩化ビニル管・雨どい・断熱材・エクステリア用の樹脂製品──これらはすべて、ナフサから作られるプラスチック素材が原料。「家を建てる材料の半分は石油からできている」と言っても大げさではありません。だからナフサが値上がりすると、住宅建築コスト全体が跳ね上がる構造になっています。
インドではPVC(塩化ビニル樹脂)の国内価格が3月だけで78%急騰という歴史的な動きになりました。日本国内でも塩ビ管・建築資材の値上げが続いており、住宅リフォーム・新築予定の家計への影響は無視できません。
8. なぜ覚書合意後も値上げは続くのか、3つの時間軸
「戦争が止まったのに、なぜスーパーの値上げが止まらないの?」──これは、この夏に多くの方が抱く素朴な疑問です。答えは、原料から最終製品まで届くのに3つの時間差があるためです。
「ダムから水道の蛇口まで水が届くのに時間がかかる」構造をイメージしてください。ダム(中東の油田)で水が満タンになっても、川(タンカー・パイプライン)を流れ、浄水場(製油所・化学プラント)で処理され、水道管(サプライチェーン)を通って各家庭の蛇口(スーパーの棚)に届くまで、何ヶ月もかかります。ダムに水を足しても、蛇口の水が急に増えるわけではありません。値上げも同じで、原料が下がっても、最終製品の値下げは何ヶ月も先です。
8-1. 第一の時間差:物流の時間差(〜1ヶ月)
ホルムズ海峡が通行可能になっても、ペルシャ湾内に停泊中の石油タンカーが200隻前後、その他大型商船が1,000隻前後たまっているとされています(第一ライフ資産運用経済研究所、2026年6月)。平時のホルムズ海峡通航は1日100〜130隻程度なので、湾内の船が湾外に出るだけで最短10日、実際にはそれ以上かかる計算です。加えて機雷除去も30日以内が目標ですが、機雷が完全に除去されないと商船は安心して通れません。
8-2. 第二の時間差:生産の時間差(1〜3ヶ月)
国内エチレン4月稼働率は67.3%と過去最低水準まで落ち込みました(石油化学工業協会、2026年5月21日発表)。損益分岐の90%を44ヶ月連続で下回っており、稼働を落としていた石油化学プラントの再稼働には、通常1ヶ月以上の準備期間が必要です。赤澤経産大臣の「7月に前年並みの生産量に戻る」発言も、この定期修理集中期間終了のタイミングに沿ったものですが、政府と業界の認識には依然としてずれがあります。
8-3. 第三の時間差:サプライチェーンの時間差(3〜6ヶ月)
原料 → 樹脂 → 包装材 → 最終製品まで、サプライチェーン全体を通過するのに数ヶ月かかります。例えば、6月に契約したナフサが実際に化学プラントで樹脂になるのは7〜8月、その樹脂が包装材メーカーで加工されるのが8〜9月、そして食品メーカーが包材を仕入れて製品に使うのが9〜10月──こうしたリードタイムを経て、スーパーの棚に「値下げされた製品」が並ぶには、最速でも半年前後の遅れが生じます。
- 物流の時間差(〜1ヶ月):機雷除去・タンカー再配置に時間がかかる
- 生産の時間差(1〜3ヶ月):石油化学プラントのフル稼働再開に時間
- サプライチェーンの時間差(3〜6ヶ月):原料→樹脂→包装→最終製品の連鎖に時間
専門家の見立てでは、値上げ局面は2026年内は高止まり、本格的な落ち着きは2026年末〜2027年前半とされています(当社系列記事、2026年6月)。政府の電気ガス補助が9月末で終了することを踏まえると、暮らしにとって最も厳しい時期は10月以降になる可能性もあります。
9. 私たちができる暮らしの防衛策、4つの実践的対処
ナフサ・クライシスの影響を全部避けることはできませんが、「知って備える」ことで負担を軽くする工夫はできます。個人・家族単位でできる4つの実践的な防衛策を整理します。
9-1. 日用品の備蓄、2〜3ヶ月多めのストック
密閉保存袋(ジップロック等)、洗剤、シャンプー、トイレットペーパー、キッチンペーパー──樹脂製品や紙包材を通常より2〜3ヶ月多めにストックしておくと、値上げの波を穏やかに乗り切れます。特に業務用サイズを買うと、単価が下がるうえに包装材の消費も減るので一石二鳥です。ただし、賞味期限のある食品類は無理な備蓄は避け、日常的に消費するペースで管理しましょう。
9-2. 電気ガス補助を活かした夏の節電
7〜9月の電気ガス補助(3か月合計5,000円)は自動反映です。ただし基本料金は変わらないため、使用量を極端に増やせば値引き効果を超える負担増もあり得ます。エアコンの設定温度を1℃上げる、待機電力をこまめに切る、冷蔵庫の温度設定を「中」にする、といった省エネの積み重ねが効きます。政府も「経済活動にブレーキをかけない範囲での節電」を呼びかけています。
9-3. 食品の買い方見直し、代替品と業務用サイズ
値上げ品目には、①ブランドを一段下げる(PB商品への切り替え)、②業務用サイズを買う(単価が下がり、包装材の消費量も減る)、③詰替パウチを活用する(本体ボトルを繰り返し使える)といった選択肢があります。食用油や調味料はプラスチックボトルの製品より、瓶詰めや大容量パウチのほうが割安な場合もあります。買い物メモに「値上げ前の値段」をメモしておくと、代替判断がしやすくなります。
9-4. 長期消費計画の再設計、住宅・車の買い替え時期
住宅リフォーム・新築、車の買い替えなど、材料コストが大きく効く買い物は、建材・部品の供給が正常化する2027年前半まで様子を見ることも選択肢です。急ぎでない場合、価格が落ち着くタイミングを待つと数十万円〜数百万円の差が出る可能性があります。ただし、金利や住宅ローンの動向とも関係するため、単純な「待ち」だけでなくトータルで判断してください。
- 日用品の適正備蓄:密閉保存袋・洗剤・トイレットペーパー等を通常の2〜3ヶ月分ストック
- 電気ガス補助の見える化:請求書で値引き額を確認、月次の使用量を意識する
- 食品の買い方見直し:値上げ品はPB商品や業務用サイズ、代替品検討
- 住宅・車の買い替え計画:急ぎでなければ2027年前半まで様子見も検討
- ガソリン補助金の動向:現行は170円/L維持だが基金枯渇観測あり、給油タイミングに注意
10. これからのシナリオと今後の見通し
イスラマバード覚書を土台に、これから60日間で最終合意に向かうか、それとも脆さが露呈して再び衝突が起きるか──暮らしの値上げは、この動向に大きく左右されます。3つのシナリオで整理します。
シナリオA:最終合意が成立、覚書が延長される(30%)
ホルムズ海峡が完全に通れるようになり、イラン産原油が世界市場に戻る。ナフサ価格は原油と連動して2027年前半まで$500〜600/MTの安定域へ。石油化学プラントもフル稼働に戻り、包装資材・食品・建材の値上げは秋以降落ち着き、2027年春には一部で値下げも見られる可能性。
シナリオB:60日間で最終合意に至らず、暫定枠組継続(50%・最有力)
覚書は延長されるが、最終合意には至らず。ホルムズ海峡は「開いているが不安定」な状態が続き、シンガポールナフサ価格は$600〜800/MTの高止まり。値上げは2026年内高止まり、本格的な落ち着きは2027年前半以降。政府補助の延長議論が10月以降本格化。
シナリオC:覚書崩壊、軍事衝突再開(20%)
イスラエルの強硬姿勢や米国内の反発で覚書が破綻し、再びホルムズ海峡が閉鎖される。シンガポールナフサ価格は$1,000/MT超に再急騰、包装資材・食品の第2波値上げが2026年秋〜冬に到来する可能性。政府はガソリン補助・電気ガス補助の延長・拡充を検討することになる。
11. よくある質問(Q&A)
- 時事ドットコム(2026年5月25日)「電気・ガス代5000円支援 補正予算3兆円規模―高市首相表明」
- nippon.com(2026年5月25日)「電気・ガス代5000円支援=補正予算3兆円規模―高市首相表明」
- 日本経済新聞(2026年5月25日)「7〜9月の電気・ガス代補助5000円、標準的な世帯で 首相表明」
- テレビ朝日ANNニュース(2026年5月26日)「7〜9月の電気・ガス代補助5000円 高市総理が表明 補正予算案、来週にも国会提出」
- NRI 木内登英(2026年5月26日)「高市首相は3兆円強の補正予算の編成を表明:財政の信頼性維持と節約呼びかけの是非」
- 経済産業省プレスリリース(2026年6月12日)「電気・ガス料金負担軽減支援事業 特例認可・承認」
- 補助金ポータル(2026年7月)「電気代・ガス代補助金、2026年7〜9月に3か月合計5,000円へ拡充|いつから・いつまで・いくら安くなる」
- 資源エネルギー庁「電気・ガス料金支援サイト」(denkigas-gekihenkanwa.go.jp)
- logistics-today「赤澤経産大臣記者会見」(2026年6月2日)「ナフサは定期修理集中期間終了で7月に前年並みの生産量に戻る」
- 厚生労働省(2026年6月3日告知)「中東情勢による価格高騰等に伴う事業活動縮小、休業で雇用調整助成金の活用案内」
- 首相官邸「高市内閣総理大臣記者会見」(2026年6月15日)米イラン覚書合意について「事態の収束に向けた大きな一歩として歓迎」
- CNN.co.jp(2026年6月)「米国、イランとの覚書14項目公表」
- JBpress(2026年6月)「【最終版全訳】『米国・イラン覚書14カ条』…戦争終結に向けた合意書の歴史的意義と構造的欠陥」
- ウィキペディア「イスラマバード覚書」項目
- TradingKey(2026年6月19日)「米イラン停戦合意14項目の全文が明らかに」
- セキュリティ対策Lab(2026年6月)「米イラン停戦『イスラマバード覚書』の全容-ホルムズ海峡封鎖解除のプロセス」
- 第一ライフ資産運用経済研究所 嶌峰義清(2026年6月)「米・イラン戦闘終結の覚書発効も課題は多い」
- note ごりお【化学業界解説】(2026年6月)「ナフサ価格が急落【6/8~12週間振り返り】」
- 大景化学 業界整理(2026年6月)「ナフサ価格5/16 $1,043→6/3 $767の急落」
- 石油化学工業協会(2026年5月21日発表)「エチレン4月稼働率67.3%」
- Global-SCM(2026年5月19日)「ホルムズ海峡危機:情勢と実務リスク」
- 日本経済新聞ビジュアルデータ(2026年5月11日)「ナフサやエチレンの複雑な供給網、中東情勢どう影響?」
- アクティブック(2026年7月)「2026年『ナフサ不足』の影響と実態ーリスクと企業が取れる対策とは」
- 帝国データバンク調査「化学製品メーカー52社の取引ネットワーク分析」
- Bloomberg(2026年5月4日)「UAEフジャイラ攻撃 Brent原油114ドル超」
- テレビ朝日「【ナフサショック】政府は『足りている』業界は『不足』真実はどこに?」(2026年5月20日)
- シンガポール石油製品価格(Reuters)—6月末シンガポールナフサ$68/バレル台
- 時事ドットコム(2026年6月19日)「日本人乗る全船舶、ペルシャ湾外へ 1隻がホルムズ海峡通過―茂木外相」
- 当社集計(2026年6月)「建設・物流・包装資材 値上げ一覧 2026年6月|30社超・ナフサショック影響まとめ」
- 当社姉妹記事「ナフサの『目詰まり』を一般向けにわかりやすく解説、米イラン覚書合意でもスーパーの値上げが続く本当の理由」
- 当社姉妹記事「ニュースで聞くイラン情勢が招く『2026年イスラマバード覚書の脆さ』をやさしく解説、ホルムズ海峡で続く戦闘が暮らしに与える本当の影響【2026年6月版】」