中東の空域制限で日本〜欧州の直行便は止まったのか、迂回ルートの実際と飛行時間の変化
中東の空域が閉じたというニュースを受けて、日本と欧州を結ぶ便が飛べなくなったと受け取られることがある。実際には日系の直行便は運航を続けており、そのルートはもともと中東上空を通っていない。何が閉じて何が閉じていないのかを整理したうえで、2022年から続くロシア上空の迂回が飛行時間と搭載能力に及ぼしている影響を確認する。
- 日系航空会社の欧州直行便は運航を続けている。日本発は北極圏に近いアラスカ・グリーンランド上空を通る北回り、欧州発はトルコ・中央アジア上空を通る南回りで、いずれも中東の空域制限の対象地域を通らない。
- 2026年2月28日以降に影響が出たのは、ドバイ・ドーハ・アブダビといった中東ハブを経由する乗り継ぎであった。JALの羽田とドーハを結ぶ路線が運休したのは、ハブ空港そのものへ就航する路線だったためである。
- 飛行時間は2022年からのロシア上空迂回により従前より2〜3時間延びている。ANAの羽田とロンドンを結ぶ路線は2023年時点の時刻表で羽田発14時間25分。飛行距離が延びれば燃料の搭載量が増え、その分だけ積める貨物が減る。
日系の欧州直行便は運航を続けている。日本発は北回り、欧州発は南回りで、いずれも中東の空域制限の対象地域を通らないためである。2026年に影響が出たのは中東ハブを経由する乗り継ぎであった。2022年からのロシア上空迂回により、飛行時間は従前より2〜3時間延びている。
従前ルートとの比較
北回り
南回り・追い風
北回りのほうが長い
CHAPTER 01何が閉じて、何が閉じていないのか
2026年2月28日以降、中東の空域が制限されているという報道が続いた。ドバイ・ドーハ・アブダビといった空港の名前が並び、欠航や遅延の情報が飛び交った。この状況を受けて、日本と欧州を結ぶ便そのものが飛べなくなったと理解されることがある。
結論から述べる。日系航空会社の欧州直行便は運航を続けている。理由は単純で、これらの路線はもともと中東上空を通っていないためである。
| 対象 | 2026年の状況 | 理由 |
|---|---|---|
| 日系の欧州直行便 | 運航を継続 | 往路は北回り、復路は南回りで、中東の空域制限の対象地域を通らない |
| 中東ハブ経由の乗り継ぎ | 欠航・遅延・ルート変更が発生 | ドバイ・ドーハ・アブダビの各空港と周辺空域が影響を受けた |
| JAL 羽田〜ドーハ線 | 運休 | ハブ空港そのものへ就航する路線であるため |
| 中東キャリアの運航 | 一時停止のうえ一部再開・縮小運航 | 自社ハブの機能が制約を受けたため |
2026年の航空経路をめぐる状況を理解するには、時期も原因も異なる2つの制約が重なっていることを押さえる必要がある。ひとつは2022年から続くロシア上空の迂回、もうひとつは2026年2月28日以降の中東空域の制限である。前者は日本〜欧州の飛行経路そのものを変え、後者は主に乗り継ぎ経路に影響した。以下の章で順に整理する。
なぜ報道と実感がずれるのか
空域に関する報道は、性質上「どこが閉じたか」を中心に伝える。一方で読み手が知りたいのは「自分の予定している便は飛ぶのか」である。この2つは直結しない。ある空域が閉じても、そこを通らない便は影響を受けないし、逆に空域が開いていても空港の機能が制約されれば便は飛ばない。
2026年の中東で起きたのは、主に後者だった。ドバイ・ドーハ・アブダビはいずれも世界有数の乗り継ぎ拠点であり、そこに集まっていた便が止まれば影響は広範囲に及ぶ。報道が大きく扱ったのは自然なことである。ただしその影響はこれらの空港を経由する旅程に限られており、経由しない日本〜欧州の直行便は別の話だった。
| 混同されやすい2つの概念 | 意味 | 影響が及ぶ範囲 |
|---|---|---|
| 空域を通る | その地域の上空を飛行経路が通過すること | その空域を経路に含む便のみ。迂回できれば運航は継続できる |
| 空港に降りる | その地域の空港へ離着陸すること | その空港を発着する便すべて。迂回では代替できない |
本記事の構成
第2章と第3章で2つの制約をそれぞれ確認し、第4章で日本発欧州線が実際にどこを飛んでいるかを示す。第5章では往復でルートが異なる理由を、第6章では飛行時間の実データを扱う。第7章で何に影響が出たのかを整理し、第8章では貨物の観点から積載能力への波及を見る。
CHAPTER 02ロシア上空の迂回、2022年から続く制約
日本と欧州を結ぶ最短経路は、シベリア上空を横断するルートである。長らくこの経路が使われてきたが、2022年のロシアによるウクライナ侵攻を受けて、日本を含む西側諸国の航空会社はロシア領空を飛べなくなった。
2022年3月からの経路変更
JALとANAは2022年、欧州路線でロシア上空を迂回する経路の運用を始めた。JALが北回りでの運航を開始した2022年3月4日の実績では、羽田発ロンドン行きのJL43便が15時間12分、ロンドン発羽田行きのJL44便が15時間55分のフライトとなった。パイロットの疲労を考慮し、通常の3人編成より人員を増やす対応も取られている。
ANAは2022年4月15日、日本発の欧州路線について、アラスカなどを経由してロシア領空を迂回する北回りでも運航できるようにすると発表した。中央アジアを飛ぶ南回りに比べ、偏西風に乗ることで1時間程度飛行時間を短縮できるためである。同年4月18日の成田発ブリュッセル行きから実施された。当時の南回りは15時間40分ほどを要していた。
当初は「当面通常運航」の方針だった
経路の変更は即座に決まったわけではない。2022年2月28日の時点では、JALとANAはいずれも欧州路線を当面は通常運航する見通しとしており、安全に影響が及ぶとみられる場合に運休や飛行経路の変更を検討するという姿勢であった。当時JALが週1往復で運航していた羽田〜モスクワ線については、2月24日の羽田発と25日のモスクワ発を欠航している。
その後、ロシア上空の飛行ができなくなり、3月4日からJALが北回りでの運航を開始した。ANAが日本発を北回りとする運用を発表したのは4月15日で、実施は同月18日の成田発ブリュッセル行きからである。数週間から1カ月半ほどの間に、日本〜欧州の経路が組み替えられたことになる。
乗務員の編成にも影響が及んだ
飛行時間が延びれば、乗務員の負担も増える。JALが北回りでの運航を始めた際には、パイロットの疲労を考慮し、通常の3人で組む編成より人員を増やした対応が取られている。経路の変更は燃料や所要時間だけでなく、運航体制そのものにも影響する。
ロシア上空の迂回は一時的な措置ではなく、2026年現在も継続している。つまり日本〜欧州の飛行経路は、中東情勢が動く以前から既に平時の形ではなかった。2026年に加わった中東の空域制限は、この状態の上に重なったものとして理解する必要がある。
CHAPTER 03中東空域の制限、2026年2月28日以降
2026年2月28日、米国・イスラエルによるイランへの攻撃が始まり、イランが周辺国の米軍施設等へ報復した。これを受けて中東各国が空域を制限し、湾岸地域の航空輸送が大きな影響を受けた。
影響を受けた空港と航空会社
| 対象 | 2026年前半に確認された内容 |
|---|---|
| ドバイ国際空港(DXB) | 運航停止を経て再開したが、一部の運航に縮小 |
| アブダビ ザイード国際空港(AUH) | 同じく再開したが縮小運航 |
| ハマド国際空港(DOH) | 乗り継ぎ便に影響が及んだ |
| JAL 羽田〜ドーハ線 | 羽田発は2026年4月10日まで、ドーハ発は4月11日までの運航停止が案内された |
| エティハド航空 | 2026年4月30日まで一部の便を減便して運航 |
| サウディア | アンマン・クウェート・ドバイ・アブダビ・ドーハ・バーレーン・モスクワ・ペシャワール発着便の欠航を発表 |
| イラク領空 | 2026年6月、イラク航空当局が72時間の領空閉鎖を発表 |
各社・各当局の発表および報道による。運航状況は随時変更されるため、最新情報は各社の運航状況案内でご確認いただきたい。上記の日付はいずれも当時案内された期限であり、その後の延長・再開の状況は本記事では確認できていない。
2026年前半の時系列
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 2026年2月28日 | 米国・イスラエルによるイランへの攻撃が開始。イランが周辺国の米軍施設等へ報復し、中東各国が空域を制限 |
| 2026年3月2日まで | サウディアがアンマン・クウェート・ドバイ・アブダビ・ドーハ・バーレーン・モスクワ・ペシャワール発着便の欠航を発表 |
| 2026年4月10日・11日まで | JALが羽田〜ドーハ線の運航停止を案内(羽田発は10日まで、ドーハ発は11日まで) |
| 2026年4月30日まで | エティハド航空が一部の便を減便して運航 |
| 2026年6月 | イランとイスラエルの間で攻撃の応酬が発生。イラク航空当局が72時間の領空閉鎖を発表 |
| 2026年7月12日 | ホルムズ海峡の再閉鎖。原油市況が反発 |
各社・各当局の発表および報道による。日付はいずれも当時案内された期限であり、その後の延長・再開の状況は本記事では確認できていない。
ドバイとアブダビは再開したが縮小運航が続く
ドバイ国際空港とアブダビのザイード国際空港は、運航停止を経ていずれも再開している。ただし一部の運航に縮小された状態が続いており、従来の水準には戻っていない。乗り継ぎを含む旅程では、予約時点で運航が案内されていても変更が生じうる状況にある。
本記事は空域と飛行経路に焦点を当てている。各社の減便規模や燃料価格の推移については、当社の別稿「ジェット燃料が4月209ドルから7月116ドルへ」で週次データとともに整理している。
CHAPTER 04日本発欧州線の実際のルート、北回りと南回り
では、日系の欧州線は実際にどこを飛んでいるのか。2026年時点の標準的な運用は次のとおりである。
気象条件により、日本発で南回り、欧州発で北回りが使われることもある。固定された経路ではなく、その日の風の状況に応じて選択される運用である。
南回りは中東の空域制限の対象地域を通らない
ここが本記事の要点にあたる。復路で使われる南回りは、トルコからカスピ海周辺を経て中央アジアへ抜ける経路であり、2026年に制限を受けたペルシャ湾岸の空域とは位置が異なる。イラクやイランの上空を通る経路でもない。
報道でも、日系各社の日本発西欧行きは日本・アラスカ・グリーンランド経由であり、2026年の制限対象地域は飛行していないとの指摘がなされている。運休となったのはドーハのハマド国際空港へ乗り入れる路線であり、これは空港そのものへの就航路線だったためである。
混同されやすいが、この2つは分けて考える必要がある。ある地域の空域が制限されても、その上空を通らない経路の便は影響を受けない。一方、その地域の空港へ乗り入れる路線は、空域が開いていても空港の機能が制約されれば運航できない。2026年の中東で起きたのは主に後者であり、日本〜欧州の直行便は前者に該当しなかった。
CHAPTER 05なぜ往復でルートが違うのか、偏西風の影響
日本発が北回り、欧州発が南回りという運用は、一見すると非効率に見える。同じ2地点を結ぶのに往路と復路で違う経路を飛ぶためである。しかしこれには明確な理由がある。
距離が短い経路が、必ずしも所要時間が短いわけではない
JALの担当者は過去の取材に対し、羽田とロンドンを結ぶ路線について北回りは南回りより100海里ほど飛行距離が長いと説明している。100海里はおよそ185キロメートルにあたる。
偏西風は西から東へ吹く。したがって日本から欧州へ向かう西行きの便は本来向かい風になるが、北回りの高緯度側では風の状況が異なり、追い風を得やすい経路が選べる。逆に欧州から日本へ向かう東行きの便は、中央アジア上空を通る南回りで強い追い風を受けられる。
川を横断するとき、対岸の真正面を目指して直線的に漕ぐより、流れに乗って斜めに進んだほうが早く着くことがある。距離だけを見れば遠回りだが、流れという外力を味方につけるほうが結果的に速い。航空機にとっての偏西風は、この川の流れにあたる。
追い風は燃料と搭載量にも効く
追い風で飛べる利点は、飛行時間の短縮だけではない。向かい風で飛ぶよりも搭載する燃料を減らせるため、その分だけ旅客と貨物を多く積める。ANAは2022年の発表で、北回りの採用による効果としてこの点にも触れている。
逆に言えば、飛行距離が延びる経路では燃料を多く積む必要があり、積載能力が圧迫されるということでもある。この関係は第8章で改めて扱う。
CHAPTER 06飛行時間はどれだけ延びたか
ロシア上空を通っていた従前のルートと比べ、迂回によって飛行時間は2時間から3時間ほど延びている。具体的な数字を、確認できた時点とともに並べる。
| 路線・便 | 所要時間 | 経路 | 時点 |
|---|---|---|---|
| JAL 羽田→ロンドン(JL43) | 15時間12分 | 北回り | 2022年3月4日の実績 |
| JAL ロンドン→羽田(JL44) | 15時間55分 | 北回り | 2022年3月4〜5日の実績 |
| ANA 成田→ブリュッセル | 約15時間40分 | 南回り | 2022年4月時点 |
| ANA 羽田→ロンドン | 14時間25分 | 北回り | 2023年時点の時刻表 |
| ANA ロンドン→羽田 | 14時間05分 | 南回り | 2023年時点の時刻表 |
| JAL 成田→フランクフルト(JL407) | 14時間10分 | ― | 2026年3月29日〜10月24日のダイヤ |
| JAL フランクフルト→成田(JL408) | 13時間05分 | ― | 2026年3月29日〜10月24日のダイヤ |
各時点の報道および時刻表による。飛行時間は季節ダイヤ・機材・気象条件によって変動する。最新の所要時間は各社の時刻表でご確認いただきたい。なお、2026年時点で確認できたのはJALの成田〜フランクフルト線のダイヤであり、ANAの羽田〜ロンドン線の数値は2023年時点のものである。
復路のほうが短いという特徴
2026年のJAL成田〜フランクフルト線を見ると、成田発が14時間10分、フランクフルト発が13時間05分で、復路のほうが1時間05分短い。第5章で見た偏西風の効果が、現在のダイヤにも表れている。
一方、2022年3月のJAL羽田〜ロンドン線の北回り初日は、往路15時間12分に対して復路15時間55分と、復路のほうが長かった。これは当時、往復とも北回りを採用していたためである。JALはその後、復路を南回りとする運用に変更しており、この変更によりロンドン発では1時間30分から1時間40分ほど短縮されたと記録されている。
本章の数値は各時点のものであり、経路の運用自体も見直されてきた。JALは当初、往復とも北回りで運航し、その後に復路を南回りへ変更している。ANAも南回りから北回りへの切り替えを段階的に進めた。気象条件によって日本発で南回り、欧州発で北回りが使われることもあるため、個々の便の経路は運航当日の判断による。
CHAPTER 07影響が出たのは直行便ではなく乗り継ぎだった
ここまで見てきたとおり、2026年の中東空域の制限が日本〜欧州の直行便の経路に直接及んだわけではない。では、何が変わったのか。
中東ハブ経由という選択肢が使いにくくなった
日本から欧州へ向かう場合、日系や欧州系の直行便のほかに、中東のハブ空港で乗り継ぐ経路が広く使われてきた。エミレーツ航空のドバイ、カタール航空のドーハ、エティハド航空のアブダビを経由するルートである。直行便より運賃が抑えられることが多く、価格を重視する場合の選択肢となっていた。
2026年2月28日以降、これらのハブ空港と周辺空域が制限を受け、各社が運航を停止した。その後に一部再開したものの縮小運航が続いており、従来のように安定して使える経路ではなくなった。
| 経路の種類 | 2026年の状況 | 利用時の留意点 |
|---|---|---|
| 日系の直行便 | 運航を継続 | 飛行時間は従前より2〜3時間長い |
| 欧州系の直行便 | 運航を継続 | 各社ともロシア上空を迂回している |
| 中東ハブ経由 | 一時停止のうえ縮小運航 | 運航状況が変わりうるため、旅程の確定前に確認が必要 |
| アジア系ハブ経由 | 中東の制限の直接の影響は受けにくい | 乗り継ぎ時間と総所要時間の比較が必要 |
二重の制約が選択肢を狭めた
2022年からのロシア上空の迂回によって、日本〜欧州の最短経路は既に使えなくなっていた。そこに2026年の中東空域の制限が加わり、比較的安価な乗り継ぎ経路も不安定になった。直行便が止まったわけではないが、経路の選択肢そのものは狭まっている。
欧州向けの出張や貨物輸送を計画する際、「中東経由だから安い」という前提は2026年時点では成り立ちにくい。運賃の比較にあたっては、運航状況の安定性と、遅延・欠航が生じた場合の代替手段まで含めて検討する必要がある。特に納期の制約が厳しい貨物では、経路の冗長性が価格差を上回る判断材料になりうる。
CHAPTER 08燃料搭載量の増加が積載能力に及ぶ経路
飛行時間が延びることの影響は、旅客の負担感だけにとどまらない。貨物の側からは、積載能力の低下として現れる。
最大離陸重量という制約
航空機には、離陸できる総重量の上限が定められている。この上限から機体そのものの重量を差し引いた残りを、燃料と、旅客・貨物・郵便物で分け合う構造になっている。
迂回によって飛行距離が延びれば、その分だけ多くの燃料を積む必要がある。結果として、同じ機材でも運べる貨物の量が減る。1便あたりの輸送効率が下がるため、同じ量を運ぶのに必要な便数が増え、単位あたりのコストが上昇する。
追い風を選ぶ運用は、この制約への対応でもある
第5章で見たとおり、ANAは北回りの採用にあたって、飛行時間の短縮に加えて燃料搭載量を減らして旅客や貨物を多く積める点を挙げている。経路の選択は、単に早く着くためだけの判断ではなく、積載能力を確保するための判断でもある。
燃料を運ぶために燃料が要る
ここには入れ子の構造がある。追加で積んだ燃料そのものにも重量があり、それを運ぶために燃料を消費する。距離が延びるほど、この効果は無視できなくなる。
国土交通省航空局の資料に引用された国際クリーン交通委員会(ICCT)の2021年の研究では、往復分の燃料を積む場合(100%タンカリング)の追加燃料消費の割合が機種クラス別に示されている。
| 機種クラス | 例 | 100kmあたりの 追加燃料消費割合 | 1,000km換算 | 4,500km換算 |
|---|---|---|---|---|
| リージョナル機 | Embraer 190/195 | 0.322% | 3.2% | 14.5% |
| ナローボディ | Airbus A320 | 0.388% | 3.9% | 17.5% |
| ワイドボディ | Boeing 777 | 0.342% | 3.4% | 15.4% |
| 先進ワイドボディ | Airbus A350 | 0.265% | 2.7% | 11.9% |
100kmあたりの数値はICCTの研究による。1,000kmおよび4,500km換算は当社が単純に乗じたもので、実際の消費は積載量・気象・運航条件により変動する。同資料には、4,500km飛行における典型的なワイドボディ機で追加燃料消費が15%程度になるとの記載があり、上表の換算と整合する。
この数値が示すのは、長距離になるほど余分な燃料を積むことが不利になるということである。同資料でも、湾岸諸国発のような長距離便では追加燃料消費が大きいためタンカリングは一般に経済的でないとされている。迂回による飛行距離の延長も、同じ理屈で燃料消費を押し上げる。
飛行距離が延びれば、(1) 単純に多くの燃料が必要になる。加えて(2) その燃料を運ぶための燃料も必要になる。さらに搭載可能量の上限は変わらないため、(3) 積める貨物と旅客が減る。2022年から続くロシア上空の迂回で日本〜欧州線の飛行時間が2〜3時間延びているということは、この3つが同時に効いている状態が4年以上続いているということでもある。
航空貨物の運賃がどのように算出されるか、また荷姿の設計で課金重量をどう抑えるかについては、当社の別稿「航空貨物の運賃は実重量と容積重量の大きい方で決まる」で計算例とともに整理している。本章では経路の変更が積載能力に及ぼす影響に絞って扱った。
CHAPTER 09見通しとモニタリング指標
空域の状況は情勢によって短期間で変わる。将来の経路を予想するのではなく、確認すべき情報源を挙げる。
| # | 確認先 | 内容 | 更新頻度 |
|---|---|---|---|
| 1 | 各航空会社の運航状況案内 | 運休・減便・経路変更の最新情報 | 随時 |
| 2 | 外務省 海外安全ホームページ | 渡航先の安全情報、空域・空港の状況 | 随時 |
| 3 | 各社の季節ダイヤ | 所要時間の見直し。夏ダイヤは3月下旬、冬ダイヤは10月下旬から | 年2回 |
| 4 | 燃油サーチャージの改定 | 旅客は2カ月ごと、貨物は月2回の例がある | 定期 |
| 5 | フォワーダーからの案内 | スペースの需給、経路変更に伴うリードタイムの見直し | 随時 |
方向を左右する要素
| 要素 | 2026年7月時点の状況 | 経路への影響 |
|---|---|---|
| ロシア上空 | 2022年以降、日系を含む西側の航空会社は迂回を継続 | 短期での変化は見込みにくい |
| 中東空域 | 2026年7月12日にホルムズ海峡の再閉鎖が発生 | 不確実。乗り継ぎ経路に影響しうる |
| 中東ハブの運航 | 一部再開したが縮小運航が続く | 安定性の回復には時間を要する |
| 季節ダイヤ | 2026年冬ダイヤは10月下旬から | 所要時間と便数が見直される |
情報の種類によって確認先が変わる
| 知りたいこと | 確認先 |
|---|---|
| 自分の予約便が飛ぶか | 予約した航空会社の運航状況案内。旅行会社経由の場合は手配元 |
| その地域へ渡航してよいか | 外務省 海外安全ホームページの危険情報・スポット情報 |
| 所要時間が変わったか | 各社の時刻表。季節ダイヤの切り替え時に見直されることが多い |
| 貨物のスペースが取れるか | フォワーダー。スペースの需給とリードタイムの見直しについて |
| 燃料費の反映 | 燃油サーチャージの改定案内。旅客は2カ月ごと、貨物は月2回の例がある |
直行便が運航を続けているとはいえ、乗り継ぎを含む旅程では運航状況の変化に備える必要がある。経路の冗長性、すなわち代替手段が確保できるかどうかを、運賃と並ぶ判断材料に置くことが有効である。貨物では、納期の制約が厳しい案件ほどこの点の比重が大きくなる。
CHAPTER 10用語集
日本から北東へ向かい、アラスカやグリーンランドなど北極圏に近い空域を経て欧州に至る経路。ロシア領空を北側から回避する。日本発の便で主に用いられる。
欧州から南下し、トルコ・アゼルバイジャン・カザフスタンなど中央アジアからカスピ海周辺を経て、中国上空を通って日本に至る経路。欧州発の便で主に用いられる。
極地に近い高緯度の空域を通る経路の総称。日本と欧州を結ぶ場合、北極圏に近い空域を通ることで飛行距離を短縮できる。
中緯度の上空を西から東へ吹く強い風。航空機の飛行時間と燃料消費に大きく影響する。東向きの飛行では追い風、西向きでは向かい風となる。
航空・海運で用いる距離の単位。1海里は1,852メートル。100海里はおよそ185キロメートルにあたる。
機体が離陸できる総重量の上限。この値から機体重量と燃料重量を差し引いた残りが、旅客・貨物・郵便物に割り当てられる。
航空機が搭載できる旅客・貨物・郵便物の総重量。飛行距離が延びて燃料搭載量が増えるほど圧迫される。
多数の路線が集まり、乗り継ぎの拠点となる空港。ドバイ・ドーハ・アブダビは、欧州とアジアを結ぶ乗り継ぎ拠点として機能してきた。
国家の主権が及ぶ空域。他国の航空機が飛行するには当該国の許可が必要となる。制裁や紛争により飛行が制限されることがある。
Flight Information Regionの略。航空交通の業務が提供される空域の区分で、ICAOが設定する。国境とは必ずしも一致せず、洋上では隣接国が分担して担当する場合がある。空域の制限はこの区分を単位として告知されることが多い。
航空従事者に向けて発出される航空情報。空域の閉鎖・制限、空港施設の状況、航法援助施設の運用状況などが通知される。空域の制限は正式にはこの形で周知される。
目的地の空港に着陸できず、別の空港へ着陸すること。気象条件、空港の閉鎖、機材の不具合などが理由となる。空域や空港の状況が急に変わる局面では発生の可能性が高まる。
出発地において復路分の燃料の一部または全部を給油する運用。燃料価格の安い空港で多く積むことで費用を抑えられる一方、機体重量が増えて燃費が悪化し、搭載可能な貨物量も減少する。EU・トルコでは規制が導入されており、韓国も2028年から開始する予定とされる。
長時間の飛行で乗務員の疲労を考慮し、通常より人数を増やして交代しながら操縦する編成。迂回により飛行時間が延びた路線で採られることがある。
CHAPTER 11出典・エビデンス一覧
飛行経路・飛行時間
- 乗りものニュース「ロシア上空迂回で超ロングフライトになった『ANA欧州線』運航はどう変化? 実乗&パイロットに聞く"工夫"」2023年8月(ANA羽田〜ロンドン線の羽田発14時間25分・ロンドン発14時間05分、従前ルートより2〜3時間の延長の根拠)|https://trafficnews.jp/post/127315
- 乗りものニュース「『ロシア上空を迂回』なぜ往復でルートが異なる? JAL・ANA欧州線 『北回り』の方が距離は短いが」2024年7月(往路北回り・復路南回りの運用、羽田〜ロンドン線で北回りが約100海里長いこと、ロンドン発の南回りが1時間30分〜1時間40分短縮された記録の根拠)|https://trafficnews.jp/post/133525
- Aviation Wire「JALとANAどう飛ぶロシア迂回ルート アンカレッジ寄らない北回り、イスタンブール通過の南回り」2022年3月(JL43便15時間12分・JL44便15時間55分の実績、マルチクルー編成の根拠)|https://www.aviationwire.jp/archives/246092
- Aviation Wire「ANAも欧州便ルート変更 日本発を北回りで時間短縮、4/18ブリュッセル行きから」2022年4月(ANAの北回り採用、南回り15時間40分から1時間程度の短縮、燃料搭載量を減らして旅客や貨物を多く積める点の根拠)|https://www.aviationwire.jp/archives/249091
- タビシタ「日本ドイツ直行便の運航状況」2026年1月更新(JAL成田〜フランクフルト線 JL407 14時間10分・JL408 13時間05分、2026年3月29日〜10月24日ダイヤの根拠)|記事ページ
- Aviation Wire「JALとANA、欧州便は通常運航 ロシア情勢注視し判断」(2022年時点の対応方針の根拠)|https://www.aviationwire.jp/archives/245670
2026年の空域制限
- スカイスキャナー「空域閉鎖でフライトに影響?飛行機の欠航・遅延時に確認すべきことと対応ガイド」2026年4月(ドバイ・ドーハ・アブダビの状況、JAL羽田〜ドーハ線の運航停止期間、エティハド航空の減便、ドバイ国際空港とアブダビ ザイード国際空港の再開と縮小運航の根拠)|記事ページ
- 特典旅行「中東情勢の緊迫化に伴う注意事項および空港・フライト運航情報について」(サウディアの欠航対象路線、イラク航空当局による72時間の領空閉鎖の根拠)|https://www.tokutenryoko.com/news/passage/18340
- 弾丸トラベルは怖くない「JAL・ANA国際線は大丈夫?イラン攻撃による中東情勢と欧州便の迂回ルートまとめ」2026年3月(日本発西欧行きが日本・アラスカ・グリーンランド経由で制限対象地域を飛行しないこと、ドーハ線の運休理由の根拠)|記事ページ
- 100点を目指さない空旅「2026年版|日本からヨーロッパへ安く行く方法|中東航空停止で使える代替ルート4選」2026年3月(中東キャリア経由が価格面で選ばれてきた経緯、ロシア上空制限との二重の制約の根拠)|記事ページ
燃料消費・積載能力
- 国土交通省 航空局・経済産業省 資源エネルギー庁「第8回持続可能な航空燃料(SAF)官民協議会 事務局説明資料」令和8年1月28日(第8章に記載したICCT 2021年研究による機種クラス別の追加燃料消費割合、4,500km飛行における典型的なワイドボディ機で15%程度とする記述、EU・トルコ・韓国のタンカリング規制の概要の根拠。本資料は当社が直接取得して確認した)|資料PDF
- ICCT(International Council on Clean Transportation)"Potential tankering under an EU sustainable aviation fuels mandate" 2021年4月(上記資料に引用された原典。当社が確認したのは引用元資料の記載である)
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FAQよくある質問
中東の空域制限で、日本と欧州を結ぶ直行便は止まったのか。
日系航空会社の欧州直行便は運航を続けている。日本発の欧州線は往路がアラスカやグリーンランド上空を通る北回り、復路がトルコや中央アジア上空を通る南回りで運航されており、いずれも中東の空域制限の対象地域を通らないためである。2026年2月28日以降に影響が出たのは、ドバイ・ドーハ・アブダビといった中東のハブ空港を経由する乗り継ぎ便であった。JALの羽田とドーハを結ぶ路線は、ハブ空港そのものへ就航する路線であるため運休となった。
日本発の欧州線は、どのルートを飛んでいるのか。
2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、日系航空会社はロシア上空を迂回している。標準的な運用は、日本発が北極圏に近いアラスカ・グリーンランド上空を通る北回り、欧州発がトルコ・カザフスタンなど中央アジア上空を通る南回りである。気象条件により、日本発で南回り、欧州発で北回りが使われることもある。復路の南回りはカスピ海周辺を通る経路にあたり、ペルシャ湾岸の空域とは異なる。
なぜ往路と復路でルートが違うのか。
偏西風(ジェット気流)の向きによる。日本から欧州へ向かう場合は北回りが、欧州から日本へ戻る場合は南回りが追い風を受けやすい。JALの担当者の説明では、羽田とロンドンを結ぶ路線で北回りは南回りより100海里ほど飛行距離が長いが、欧州発では南回りのほうが1時間30分から1時間40分ほど短くなったと記録されている。追い風で飛べば飛行時間が短くなるだけでなく、搭載する燃料を減らせるため、旅客と貨物を多く積めるという利点もある。
迂回によって飛行時間はどれだけ延びたのか。
ロシア上空を通っていた従前のルートと比べ、2時間から3時間ほど延びている。ANAの羽田とロンドンを結ぶ路線では、2023年時点の時刻表で羽田発が14時間25分、ロンドン発が14時間05分であった。JALの成田とフランクフルトを結ぶ路線は、2026年3月29日から10月24日までのダイヤで成田発が14時間10分、フランクフルト発が13時間05分となっている。飛行時間は季節のダイヤや気象条件によって変わるため、最新の所要時間は各社の時刻表でご確認いただきたい。
なぜプラスチックパレット株式会社がこの記事を書いているのですか。
当社は千葉県我孫子市を拠点に、プラスチックパレット・再生樹脂原料・PPバンド・ストレッチフィルム等の物流資材をお取扱いしている。輸出梱包に用いるパレットは航空貨物で使われるため、飛行経路の変更が搭載能力に及ぼす影響は調達実務に関わる。飛行距離が延びれば燃料の搭載量が増え、その分だけ積める貨物が減るという関係にあるためである。空域の状況を正確に把握しておくことが、輸送手段の選択と荷姿の設計に役立つと考え、本記事を作成している。
- 本記事は2026年7月26日時点で確認できた報道および各社の公表内容をもとに、当社が整理したものである。空域の状況・運航状況・飛行経路は情勢によって短期間で変わるため、記載内容は執筆時点のものである。実際の旅程や輸送を計画される際は、各航空会社の運航状況案内および外務省の海外安全情報を直接ご確認いただきたい。
- 本記事に記載した飛行時間は、確認できた時点をそれぞれ併記している。ANAの羽田〜ロンドン線の数値は2023年時点の時刻表、JALの羽田〜ロンドン線の数値は2022年3月の運航実績、ANAの成田〜ブリュッセル線の数値は2022年4月時点のものであり、いずれも現在のダイヤとは異なる可能性がある。2026年時点で確認できたのはJALの成田〜フランクフルト線のダイヤのみである。
- 第3章に記載した各社・各当局の措置は、いずれも当時案内された内容である。その後の延長・再開・変更の状況について、当社が確認できた公表資料の範囲では把握できていない。最新の運航状況は各社の案内でご確認いただきたい。
- 飛行経路は気象条件・機材・運航当日の判断によって選択されるものであり、本記事で示した北回り・南回りの運用は標準的な傾向を整理したものである。個々の便が実際にどの経路を飛ぶかを保証するものではない。
- 本記事で用いた飛行時間・経路・運航状況に関する情報は、いずれも報道機関および解説媒体を経由して取得したものであり、当社が各航空会社の一次資料を直接確認したものではない。出典欄では取得経路を「二次」と表記している。正確な情報が必要な場合は、各社の公表資料を直接ご参照いただきたい。