空域・飛行経路

中東の空域制限で日本〜欧州の直行便は止まったのか、迂回ルート

公開この記事は2026年7月26日時点の情報です読む時間 約14分

この記事の答え

何が起きた
2026年2月28日以降、中東の空域が制限されました。影響が出たのは、ドバイ・ドーハ・アブダビを経由する乗り継ぎです。日系航空会社の欧州直行便は運航を続けています。
出張と貨物への影響
直行便はもともと中東上空を通っていません。ただ、2022年からのロシア上空の迂回で飛行時間は2〜3時間延び、燃料が増える分だけ積める貨物が減っています。
確かめておくこと
旅程が中東のハブ空港を経由するかどうかです。JALの羽田〜ドーハ線は、ハブ空港そのものへ就航する路線のため運休しました。
次に見るところ
各航空会社の運航状況案内と、季節ダイヤの所要時間です。2026年冬ダイヤは10月下旬からで、所要時間と便数が見直されます。
飛行時間の延長2〜3時間ロシア上空経由の従前ルートとの比較
ANA 羽田→ロンドン14:252023年時点の時刻表・北回り
JAL フランクフルト→成田13:052026年3月29日〜10月24日・南回り・追い風

14:25は14時間25分、13:05は13時間05分の所要時間です。北回りと南回りの距離差は、羽田〜ロンドン線で約185kmあり、北回りのほうが長くなります。

閉じたのは中東の空港と乗り継ぎで、日系の欧州直行便は飛んでいます

日系航空会社の欧州直行便は運航を続けています。これらの路線は、もともと中東上空を通っていないためです。

2026年2月28日以降、中東の空域が制限されているという報道が続きました。ドバイ・ドーハ・アブダビといった空港の名前が並び、欠航や遅延の情報が飛び交いました。

この状況を受けて、日本と欧州を結ぶ便そのものが飛べなくなったと理解されることがあります。

結論から述べます。日系航空会社の欧州直行便は運航を続けています。理由は単純で、これらの路線はもともと中東上空を通っていないためです。

2026年の状況(対象ごと)
対象状況理由
日系の欧州直行便運航を継続往路は北回り、復路は南回りで、中東の空域制限の対象地域を通らない
中東ハブ経由の乗り継ぎ欠航・遅延・ルート変更が発生ドバイ・ドーハ・アブダビの各空港と周辺空域が影響を受けた
JAL 羽田〜ドーハ線運休ハブ空港そのものへ就航する路線であるため
中東キャリアの運航一時停止のうえ一部再開・縮小運航自社ハブの機能が制約を受けたため

2つの異なる制約が同時にあります 2026年の航空経路をめぐる状況では、時期も原因も異なる2つの制約が重なっていることを押さえる必要があります。

ひとつは2022年から続くロシア上空の迂回、もうひとつは2026年2月28日以降の中東空域の制限です。前者は日本〜欧州の飛行経路そのものを変え、後者は主に乗り継ぎ経路に影響しました。以下の章で順に整理します。

なぜ報道と実感がずれるのか

空域に関する報道は、性質上「どこが閉じたか」を中心に伝えます。一方で読み手が知りたいのは「自分の予定している便は飛ぶのか」です。この2つは直結しません。

ある空域が閉じても、そこを通らない便は影響を受けません。逆に空域が開いていても、空港の機能が制約されれば便は飛びません。

2026年の中東で起きたのは、主に後者でした。ドバイ・ドーハ・アブダビはいずれも世界有数の乗り継ぎ拠点です。そこに集まっていた便が止まれば、影響は広い範囲に及びます。報道が大きく扱ったのは自然なことです。

ただしその影響はこれらの空港を経由する旅程に限られていました。経由しない日本〜欧州の直行便は別の話でした。

混同されやすい2つの概念
概念意味影響が及ぶ範囲
空域を通るその地域の上空を飛行経路が通過することその空域を経路に含む便のみ。迂回できれば運航は継続できる
空港に降りるその地域の空港へ離着陸することその空港を発着する便すべて。迂回では代替できない

この記事の組み立て

この記事では、何が閉じて何が閉じていないのかを整理します。そのうえで、2022年から続くロシア上空の迂回が、飛行時間と搭載能力に及ぼしている影響を確かめます。

第2章と第3章で2つの制約をそれぞれ確認し、第4章で日本発欧州線が実際にどこを飛んでいるかを示します。第5章では往復でルートが異なる理由を、第6章では飛行時間の実データを扱います。第7章で何に影響が出たのかを整理し、第8章では貨物の観点から積載能力への波及を見ます。

ロシア上空の迂回は2022年から続いています

2022年のロシアによるウクライナ侵攻を受けて、日本を含む西側諸国の航空会社はロシア領空を飛べなくなりました。この迂回は2026年現在も続いています。

日本と欧州を結ぶ最短経路は、シベリア上空を横断するルートです。長らくこの経路が使われてきました。しかし2022年のロシアによるウクライナ侵攻を受けて、日本を含む西側諸国の航空会社はロシア領空領空国家の主権が及ぶ空域。他国の航空機が飛行するには当該国の許可が必要となる。制裁や紛争により飛行が制限されることがある。を飛べなくなりました。

2022年3月から経路が変わりました

JALとANAは2022年、欧州路線でロシア上空を迂回する経路の運用を始めました。

JALは2022年3月4日、北回りでの運航を開始しました。その日の実績では、羽田発ロンドン行きのJL43便が15時間12分のフライトでした。ロンドン発羽田行きのJL44便は15時間55分のフライトとなりました。パイロットの疲労を考慮し、通常の3人編成より人員を増やす対応も取られています。

ANAは2022年4月15日、日本発の欧州路線を北回りでも運航できるようにすると発表しました。アラスカなどを経由して、ロシア領空を迂回する経路です。中央アジアを飛ぶ南回りに比べ、偏西風偏西風(ジェット気流)中緯度の上空を西から東へ吹く強い風。航空機の飛行時間と燃料消費に大きく影響する。東向きの飛行では追い風、西向きでは向かい風となる。に乗ることで1時間程度飛行時間を短縮できるためです。

同年4月18日の成田発ブリュッセル行きから実施されました。当時の南回りは15時間40分ほどを要していました。

当初は「当面通常運航」の方針でした

経路の変更は、すぐに決まったわけではありません。2022年2月28日の時点では、JALとANAはいずれも欧州路線を当面は通常運航する見通しとしていました。安全に影響が及ぶとみられる場合に、運休や飛行経路の変更を検討するという姿勢でした。

当時JALが週1往復で運航していた羽田〜モスクワ線については、2月24日の羽田発と25日のモスクワ発を欠航しています。

その後、ロシア上空の飛行ができなくなり、3月4日からJALが北回りでの運航を開始しました。ANAが日本発を北回りとする運用を発表したのは4月15日で、実施は同月18日の成田発ブリュッセル行きからです。数週間から1カ月半ほどの間に、日本〜欧州の経路が組み替えられたことになります。

乗務員の編成にも影響が及びました

飛行時間が延びれば、乗務員の負担も増えます。JALが北回りでの運航を始めた際には、パイロットの疲労を考慮し、通常の3人で組む編成より人員を増やした対応が取られています。

経路の変更は燃料や所要時間だけでなく、運航体制そのものにも影響します。

この制約は2026年時点でも続いています ロシア上空の迂回は一時的な措置ではなく、2026年現在も継続しています。つまり日本〜欧州の飛行経路は、中東情勢が動く以前から既に平時の形ではありませんでした。

2026年に加わった中東の空域制限は、この状態の上に重なったものとして理解する必要があります。

中東各国の空域制限は2026年2月28日に始まりました

ドバイとアブダビの空港は再開しましたが、一部の運航に縮小された状態が続いています。表の日付は、いずれも当時案内された期限です。

2026年2月28日、米国・イスラエルによるイランへの攻撃が始まり、イランが周辺国の米軍施設等へ報復しました。これを受けて中東各国が空域を制限し、湾岸地域の航空輸送が大きな影響を受けました。

影響を受けた空港と航空会社

2026年前半に確認された内容
対象確認された内容
ドバイ国際空港(DXB)運航停止を経て再開したが、一部の運航に縮小
アブダビ ザイード国際空港(AUH)同じく再開したが縮小運航
ハマド国際空港(DOH)乗り継ぎ便に影響が及んだ
JAL 羽田〜ドーハ線羽田発は2026年4月10日まで、ドーハ発は4月11日までの運航停止が案内された
エティハド航空2026年4月30日まで一部の便を減便して運航
サウディアアンマン・クウェート・ドバイ・アブダビ・ドーハ・バーレーン・モスクワ・ペシャワール発着便の欠航を発表
イラク領空2026年6月、イラク航空当局が72時間の領空閉鎖を発表

各社・各当局の発表および報道によります。運航状況は随時変わるため、最新情報は各社の運航状況案内でご確認ください。上の日付はいずれも当時案内された期限です。その後の延長・再開の状況は、この記事では確認できていません。

2026年前半の時系列

時期できごと
2026年2月28日米国・イスラエルによるイランへの攻撃が開始。イランが周辺国の米軍施設等へ報復し、中東各国が空域を制限
2026年3月2日までサウディアがアンマン・クウェート・ドバイ・アブダビ・ドーハ・バーレーン・モスクワ・ペシャワール発着便の欠航を発表
2026年4月10日・11日までJALが羽田〜ドーハ線の運航停止を案内(羽田発は10日まで、ドーハ発は11日まで)
2026年4月30日までエティハド航空が一部の便を減便して運航
2026年6月イランとイスラエルの間で攻撃の応酬が発生。イラク航空当局が72時間の領空閉鎖を発表
2026年7月12日ホルムズ海峡の再閉鎖。原油市況が反発

各社・各当局の発表および報道によります。日付はいずれも当時案内された期限です。その後の延長・再開の状況は、この記事では確認できていません。

ドバイとアブダビは再開しましたが、縮小運航が続いています

ドバイ国際空港とアブダビのザイード国際空港は、運航停止を経ていずれも再開しています。ただし一部の運航に縮小された状態が続いており、従来の水準には戻っていません。

乗り継ぎを含む旅程では、予約時点で運航が案内されていても変更が生じうる状況にあります。

この記事は空域と飛行経路に焦点を当てています。各社の減便規模や燃料価格の推移については、当社の別稿「ジェット燃料が4月209ドルから7月116ドルへ」で週次データとともに整理しています。

日本発は北回り、欧州発は南回りで、どちらも中東を通りません

日本発は北極圏に近いアラスカ・グリーンランド上空を通る北回り北回り日本から北東へ向かい、アラスカやグリーンランドなど北極圏に近い空域を経て欧州に至る経路。ロシア領空を北側から回避する。日本発の便で主に用いられる。です。欧州発はトルコ・中央アジア上空を通る南回り南回り欧州から南下し、トルコ・アゼルバイジャン・カザフスタンなど中央アジアからカスピ海周辺を経て、中国上空を通って日本に至る経路。欧州発の便で主に用いられる。で、いずれも中東の空域制限の対象地域を通りません。

では、日系の欧州線は実際にどこを飛んでいるのでしょうか。2026年時点の標準的な運用は次のとおりです。

  • 経路1 北回り 日本発で主に使われます。日本から北東へ向かい、アラスカ、グリーンランドなど北極圏に近い空域を経て欧州に至ります。ロシア領空を北側から回避する経路です。
  • 経路2 南回り 欧州発で主に使われます。欧州から南下し、トルコ、アゼルバイジャン、カザフスタンなど中央アジアからカスピ海周辺を経て、中国上空を通って日本に至る経路です。
  • 経路3 従前ルート 2022年まで使われていた、シベリア上空を横断する経路です。距離が最も短いのですが、2022年以降は日系を含む西側の航空会社が使えない状態が続いています。

気象条件により、日本発で南回り、欧州発で北回りが使われることもあります。固定された経路ではなく、その日の風の状況に応じて選ばれる運用です。

南回りは中東の空域制限の対象地域を通りません

ここがこの記事の要点にあたります。復路で使われる南回りは、トルコからカスピ海周辺を経て中央アジアへ抜ける経路です。2026年に制限を受けたペルシャ湾岸の空域とは位置が異なります。イラクやイランの上空を通る経路でもありません。

報道でも、同じ指摘がなされています。日系各社の日本発西欧行きは日本・アラスカ・グリーンランド経由で、2026年の制限対象地域は飛行していないという指摘です。

運休となったのは、ドーハのハマド国際空港へ乗り入れる路線です。これは空港そのものへの就航路線だったためです。

「空域を通る」と「空港に降りる」は別の話です 混同されやすいのですが、この2つは分けて考える必要があります。ある地域の空域が制限されても、その上空を通らない経路の便は影響を受けません。

一方、その地域の空港へ乗り入れる路線は、空域が開いていても空港の機能が制約されれば運航できません。2026年の中東で起きたのは主に後者で、日本〜欧州の直行便は前者に該当しませんでした。

往復でルートが違うのは、偏西風を追い風にするためです

日本から欧州へは北回りが、欧州から日本へは南回りが追い風を受けやすくなります。追い風で飛べば、時間だけでなく積む燃料も減らせます。

日本発が北回り、欧州発が南回りという運用は、一見すると非効率に見えます。同じ2地点を結ぶのに、往路と復路で違う経路を飛ぶためです。しかしこれには明確な理由があります。

距離が短い経路が、必ずしも所要時間が短いわけではありません

JALの担当者は過去の取材に対し、羽田とロンドンを結ぶ路線について北回りは南回りより100海里海里航空・海運で用いる距離の単位。1海里は1,852メートル。100海里はおよそ185キロメートルにあたる。ほど飛行距離が長いと説明しています。100海里はおよそ185キロメートルにあたります。

距離の関係(羽田〜ロンドン線)
北回り > 南回り 約100海里(約185km)の差

それでも欧州発で南回りが選ばれる理由
南回りは偏西風(ジェット気流)が追い風になります。
→ ロンドン発では南回りのほうが1時間30分〜1時間40分ほど短縮されたと記録されています。

日本発で北回りが選ばれる理由
日本から欧州へ向かう場合は北回りが追い風になります。
→ 南回りより1時間程度の短縮(ANAの2022年4月発表)

偏西風は西から東へ吹きます。したがって日本から欧州へ向かう西行きの便は、本来は向かい風になります。ただ北回りの高緯度側では風の状況が異なり、追い風を得やすい経路が選べます。

逆に欧州から日本へ向かう東行きの便は、中央アジア上空を通る南回りで強い追い風を受けられます。

川を渡るときの経路にたとえると 川を横断するとき、対岸の真正面を目指して直線的に漕ぐより、流れに乗って斜めに進んだほうが早く着くことがあります。

距離だけを見れば遠回りですが、流れという外からの力を味方につけるほうが結果的に速くなります。航空機にとっての偏西風は、この川の流れにあたります。

追い風は燃料と搭載量にも効きます

追い風で飛べる利点は、飛行時間の短縮だけではありません。向かい風で飛ぶよりも搭載する燃料を減らせるため、その分だけ旅客と貨物を多く積めます。ANAは2022年の発表で、北回りの採用による効果としてこの点にも触れています。

逆に言えば、飛行距離が延びる経路では燃料を多く積む必要があり、積載能力が圧迫されるということでもあります。この関係は第8章で改めて扱います。

飛行時間は、ロシア上空を通っていたころより2〜3時間延びています

飛行時間は、2022年からのロシア上空迂回により従前より2〜3時間延びています。ANAの羽田とロンドンを結ぶ路線は、2023年時点の時刻表で羽田発14時間25分です。

ロシア上空を通っていた従前のルートと比べ、迂回によって飛行時間は2時間から3時間ほど延びています。具体的な数字を、確認できた時点とともに並べます。

日本〜欧州線の所要時間
路線・便所要時間経路時点
JAL 羽田→ロンドン(JL43)15時間12分北回り2022年3月4日の実績
JAL ロンドン→羽田(JL44)15時間55分北回り2022年3月4〜5日の実績
ANA 成田→ブリュッセル約15時間40分南回り2022年4月時点
ANA 羽田→ロンドン14時間25分北回り2023年時点の時刻表
ANA ロンドン→羽田14時間05分南回り2023年時点の時刻表
JAL 成田→フランクフルト(JL407)14時間10分―2026年3月29日〜10月24日のダイヤ
JAL フランクフルト→成田(JL408)13時間05分―2026年3月29日〜10月24日のダイヤ

各時点の報道および時刻表によります。飛行時間は季節ダイヤ・機材・気象条件によって変わります。最新の所要時間は各社の時刻表でご確認ください。なお、2026年時点で確認できたのはJALの成田〜フランクフルト線のダイヤです。ANAの羽田〜ロンドン線の数値は2023年時点のものです。

復路のほうが短くなっています

2026年のJAL成田〜フランクフルト線は、成田発が14時間10分、フランクフルト発が13時間05分です。復路のほうが1時間05分短く、第5章で見た偏西風の効果が、現在のダイヤにも表れています。

一方、2022年3月のJAL羽田〜ロンドン線の北回り初日は、往路15時間12分、復路15時間55分でした。復路のほうが長くなっていました。これは当時、往復とも北回りを採用していたためです。

JALはその後、復路を南回りとする運用に変更しています。この変更により、ロンドン発では1時間30分から1時間40分ほど短縮されたと記録されています。

経路の運用は固定ではありません この章の数値は各時点のもので、経路の運用自体も見直されてきました。JALは当初、往復とも北回りで運航し、その後に復路を南回りへ変更しています。ANAも南回りから北回りへの切り替えを段階的に進めました。

気象条件によって日本発で南回り、欧州発で北回りが使われることもあります。このため、個々の便の経路は運航当日の判断によります。

影響が出たのは直行便ではなく、中東経由の乗り継ぎでした

2026年2月28日以降に影響が出たのは、ドバイ・ドーハ・アブダビといった中東ハブを経由する乗り継ぎでした。JALの羽田とドーハを結ぶ路線が運休したのは、ハブ空港ハブ空港多数の路線が集まり、乗り継ぎの拠点となる空港。ドバイ・ドーハ・アブダビは、欧州とアジアを結ぶ乗り継ぎ拠点として機能してきた。そのものへ就航する路線だったためです。

ここまで見てきたとおり、2026年の中東空域の制限が、日本〜欧州の直行便の経路に直接及んだわけではありません。では、何が変わったのでしょうか。

中東ハブ経由という選択肢が使いにくくなりました

日本から欧州へ向かう場合、日系や欧州系の直行便のほかに、中東のハブ空港で乗り継ぐ経路が広く使われてきました。エミレーツ航空のドバイ、カタール航空のドーハ、エティハド航空のアブダビを経由するルートです。

直行便より運賃が抑えられることが多く、価格を重視する場合の選択肢となっていました。

2026年2月28日以降、これらのハブ空港と周辺空域が制限を受け、各社が運航を停止しました。その後に一部再開したものの縮小運航が続いており、従来のように安定して使える経路ではなくなりました。

経路の種類ごとの2026年の状況
経路の種類状況利用時の留意点
日系の直行便運航を継続飛行時間は従前より2〜3時間長い
欧州系の直行便運航を継続各社ともロシア上空を迂回している
中東ハブ経由一時停止のうえ縮小運航運航状況が変わりうるため、旅程の確定前に確認が必要
アジア系ハブ経由中東の制限の直接の影響は受けにくい乗り継ぎ時間と総所要時間の比較が必要

二重の制約が選択肢を狭めました

2022年からのロシア上空の迂回によって、日本〜欧州の最短経路は既に使えなくなっていました。そこに2026年の中東空域の制限が加わり、比較的安価な乗り継ぎ経路も不安定になりました。

直行便が止まったわけではありませんが、経路の選択肢そのものは狭まっています。

実務上の含意 欧州向けの出張や貨物輸送を計画する際、「中東経由だから安い」という前提は、2026年時点では成り立ちにくいものです。

運賃の比較にあたっては、運航状況の安定性と、遅延・欠航が生じた場合の代替手段まで含めて検討する必要があります。特に納期の制約が厳しい貨物では、経路の冗長性(代わりの経路があること)が価格差を上回る判断材料になりえます。

飛ぶ距離が延びると燃料が増え、積める貨物が減ります

飛行距離が延びれば燃料の搭載量が増え、その分だけ積める貨物が減ります。迂回の影響は、貨物の側からは積載能力の低下として現れます。

飛行時間が延びることの影響は、旅客の負担感だけにとどまりません。貨物の側からは、積載能力の低下として現れます。

最大離陸重量という制約があります

航空機には、離陸できる総重量の上限が定められています。この上限から機体そのものの重量を差し引いた残りを、燃料と、旅客・貨物・郵便物で分け合う構造になっています。

積載可能量の関係
最大離陸重量 − 機体重量 − 燃料重量
= 積載可能量(旅客+貨物+郵便物)

飛行距離が延びると
必要な燃料が増える → 燃料重量が増える
→ 積載可能量が減る → 積める貨物が減る

迂回によって飛行距離が延びれば、その分だけ多くの燃料を積む必要があります。結果として、同じ機材でも運べる貨物の量が減ります。

1便あたりの輸送効率が下がるため、同じ量を運ぶのに必要な便数が増え、単位あたりのコストが上がります。

追い風を選ぶ運用は、この制約への対応でもあります

第5章で見たとおり、ANAは北回りの採用にあたって、飛行時間の短縮に加えてもう1つの点を挙げています。燃料搭載量を減らして旅客や貨物を多く積める点です。

経路の選択は、単に早く着くためだけの判断ではありません。積載能力を確保するための判断でもあります。

燃料を運ぶために燃料が要ります

ここには入れ子の構造があります。追加で積んだ燃料そのものにも重量があり、それを運ぶために燃料を消費します。距離が延びるほど、この効果は無視できなくなります。

国土交通省航空局の資料に引用された、国際クリーン交通委員会(ICCT)の2021年の研究があります。往復分の燃料を積む場合(100%タンカリングタンカリング出発地において復路分の燃料の一部または全部を給油する運用。燃料価格の安い空港で多く積むことで費用を抑えられる一方、機体重量が増えて燃費が悪化し、搭載可能な貨物量も減少する。EU・トルコでは規制が導入されており、韓国も2028年から開始する予定とされる。)の追加燃料消費の割合が、機種クラス別に示されています。

100kmあたりの追加燃料消費割合と、1,000km・4,500kmの換算
機種クラス例100km1,000km4,500km
リージョナル機Embraer 190/1950.322%3.2%14.5%
ナローボディAirbus A3200.388%3.9%17.5%
ワイドボディBoeing 7770.342%3.4%15.4%
先進ワイドボディAirbus A3500.265%2.7%11.9%

100kmあたりの数値はICCTの研究によります。1,000kmおよび4,500km換算は当社が単純に乗じたもので、実際の消費は積載量・気象・運航条件により変わります。同資料には、4,500km飛行における典型的なワイドボディ機で追加燃料消費が15%程度になるとの記載があり、上の表の換算と整合します。

この数値が示すのは、長距離になるほど余分な燃料を積むことが不利になるということです。

同資料でも、湾岸諸国発のような長距離便では追加燃料消費が大きいため、タンカリングは一般に経済的でないとされています。迂回による飛行距離の延長も、同じ理屈で燃料消費を押し上げます。

迂回は二重にコストを押し上げます 飛行距離が延びれば、(1) 単純に多くの燃料が必要になります。加えて(2) その燃料を運ぶための燃料も必要になります。さらに搭載可能量の上限は変わらないため、(3) 積める貨物と旅客が減ります。

2022年から続くロシア上空の迂回で、日本〜欧州線の飛行時間は2〜3時間延びています。これは、この3つが同時に効いている状態が4年以上続いているということでもあります。

航空貨物の運賃がどのように算出されるか、また荷姿の設計で課金重量をどう抑えるかについては、当社の別稿「航空貨物の運賃は実重量と容積重量の大きい方で決まる」で計算例とともに整理しています。この章では、経路の変更が積載能力に及ぼす影響に絞って扱いました。

空域は短い間に変わるため、予想ではなく確かめる先を挙げます

将来の経路を予想するのではなく、確かめる先を挙げます。2026年7月時点では、ロシア上空は短期での変化が見込みにくく、中東空域は不確実です。

空域の状況は、情勢によって短期間で変わります。将来の経路を予想するのではなく、確認しておく情報源を挙げます。

確認先と更新の頻度
確認先内容更新頻度
各航空会社の運航状況案内運休・減便・経路変更の最新情報随時
外務省 海外安全ホームページ渡航先の安全情報、空域・空港の状況随時
各社の季節ダイヤ所要時間の見直し。夏ダイヤは3月下旬、冬ダイヤは10月下旬から年2回
燃油サーチャージの改定旅客は2カ月ごと、貨物は月2回の例がある定期
フォワーダーからの案内スペースの需給、経路変更に伴うリードタイムの見直し随時

方向を左右する要素

2026年7月時点の状況
要素7月時点の状況経路への影響
ロシア上空2022年以降、日系を含む西側の航空会社は迂回を継続短期での変化は見込みにくい
中東空域2026年7月12日にホルムズ海峡の再閉鎖が発生不確実。乗り継ぎ経路に影響しうる
中東ハブの運航一部再開したが縮小運航が続く安定性の回復には時間を要する
季節ダイヤ2026年冬ダイヤは10月下旬から所要時間と便数が見直される

情報の種類によって確認先が変わります

知りたいこと確認先
自分の予約便が飛ぶか予約した航空会社の運航状況案内。旅行会社経由の場合は手配元
その地域へ渡航してよいか外務省 海外安全ホームページの危険情報・スポット情報
所要時間が変わったか各社の時刻表。季節ダイヤの切り替え時に見直されることが多い
貨物のスペースが取れるかフォワーダー。スペースの需給とリードタイムの見直しについて
燃料費の反映燃油サーチャージの改定案内。旅客は2カ月ごと、貨物は月2回の例がある

旅程を組むときの実務的な備え 直行便が運航を続けているとはいえ、乗り継ぎを含む旅程では運航状況の変化に備える必要があります。

経路の冗長性、すなわち代替手段が確保できるかどうかを、運賃と並ぶ判断材料に置くことが有効です。貨物では、納期の制約が厳しい案件ほどこの点の比重が大きくなります。

よくある質問

中東の空域制限で、日本と欧州を結ぶ直行便は止まったのか。

日系航空会社の欧州直行便は運航を続けている。日本発の欧州線は往路がアラスカやグリーンランド上空を通る北回り、復路がトルコや中央アジア上空を通る南回りで運航されており、いずれも中東の空域制限の対象地域を通らないためである。2026年2月28日以降に影響が出たのは、ドバイ・ドーハ・アブダビといった中東のハブ空港を経由する乗り継ぎ便であった。JALの羽田とドーハを結ぶ路線は、ハブ空港そのものへ就航する路線であるため運休となった。

日本発の欧州線は、どのルートを飛んでいるのか。

2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、日系航空会社はロシア上空を迂回している。標準的な運用は、日本発が北極圏に近いアラスカ・グリーンランド上空を通る北回り、欧州発がトルコ・カザフスタンなど中央アジア上空を通る南回りである。気象条件により、日本発で南回り、欧州発で北回りが使われることもある。復路の南回りはカスピ海周辺を通る経路にあたり、ペルシャ湾岸の空域とは異なる。

なぜ往路と復路でルートが違うのか。

偏西風(ジェット気流)の向きによる。日本から欧州へ向かう場合は北回りが、欧州から日本へ戻る場合は南回りが追い風を受けやすい。JALの担当者の説明では、羽田とロンドンを結ぶ路線で北回りは南回りより100海里ほど飛行距離が長いが、欧州発では南回りのほうが1時間30分から1時間40分ほど短くなったと記録されている。追い風で飛べば飛行時間が短くなるだけでなく、搭載する燃料を減らせるため、旅客と貨物を多く積めるという利点もある。

迂回によって飛行時間はどれだけ延びたのか。

ロシア上空を通っていた従前のルートと比べ、2時間から3時間ほど延びている。ANAの羽田とロンドンを結ぶ路線では、2023年時点の時刻表で羽田発が14時間25分、ロンドン発が14時間05分であった。JALの成田とフランクフルトを結ぶ路線は、2026年3月29日から10月24日までのダイヤで成田発が14時間10分、フランクフルト発が13時間05分となっている。飛行時間は季節のダイヤや気象条件によって変わるため、最新の所要時間は各社の時刻表でご確認いただきたい。

なぜプラスチックパレット株式会社がこの記事を書いているのですか。

当社は千葉県我孫子市を拠点に、プラスチックパレット・再生樹脂原料・PPバンド・ストレッチフィルム等の物流資材をお取扱いしている。輸出梱包に用いるパレットは航空貨物で使われるため、飛行経路の変更が搭載能力に及ぼす影響は調達実務に関わる。飛行距離が延びれば燃料の搭載量が増え、その分だけ積める貨物が減るという関係にあるためである。空域の状況を正確に把握しておくことが、輸送手段の選択と荷姿の設計に役立つと考え、本記事を作成している。

用語集14語
北回り

日本から北東へ向かい、アラスカやグリーンランドなど北極圏に近い空域を経て欧州に至る経路。ロシア領空を北側から回避する。日本発の便で主に用いられる。

南回り

欧州から南下し、トルコ・アゼルバイジャン・カザフスタンなど中央アジアからカスピ海周辺を経て、中国上空を通って日本に至る経路。欧州発の便で主に用いられる。

ポーラールート

極地に近い高緯度の空域を通る経路の総称。日本と欧州を結ぶ場合、北極圏に近い空域を通ることで飛行距離を短縮できる。

偏西風(ジェット気流)

中緯度の上空を西から東へ吹く強い風。航空機の飛行時間と燃料消費に大きく影響する。東向きの飛行では追い風、西向きでは向かい風となる。

海里

航空・海運で用いる距離の単位。1海里は1,852メートル。100海里はおよそ185キロメートルにあたる。

最大離陸重量

機体が離陸できる総重量の上限。この値から機体重量と燃料重量を差し引いた残りが、旅客・貨物・郵便物に割り当てられる。

ペイロード

航空機が搭載できる旅客・貨物・郵便物の総重量。飛行距離が延びて燃料搭載量が増えるほど圧迫される。

ハブ空港

多数の路線が集まり、乗り継ぎの拠点となる空港。ドバイ・ドーハ・アブダビは、欧州とアジアを結ぶ乗り継ぎ拠点として機能してきた。

領空

国家の主権が及ぶ空域。他国の航空機が飛行するには当該国の許可が必要となる。制裁や紛争により飛行が制限されることがある。

FIR(飛行情報区)

Flight Information Regionの略。航空交通の業務が提供される空域の区分で、ICAOが設定する。国境とは必ずしも一致せず、洋上では隣接国が分担して担当する場合がある。空域の制限はこの区分を単位として告知されることが多い。

NOTAM(ノータム)

航空従事者に向けて発出される航空情報。空域の閉鎖・制限、空港施設の状況、航法援助施設の運用状況などが通知される。空域の制限は正式にはこの形で周知される。

ダイバート

目的地の空港に着陸できず、別の空港へ着陸すること。気象条件、空港の閉鎖、機材の不具合などが理由となる。空域や空港の状況が急に変わる局面では発生の可能性が高まる。

タンカリング

出発地において復路分の燃料の一部または全部を給油する運用。燃料価格の安い空港で多く積むことで費用を抑えられる一方、機体重量が増えて燃費が悪化し、搭載可能な貨物量も減少する。EU・トルコでは規制が導入されており、韓国も2028年から開始する予定とされる。

マルチクルー編成

長時間の飛行で乗務員の疲労を考慮し、通常より人数を増やして交代しながら操縦する編成。迂回により飛行時間が延びた路線で採られることがある。

出典・エビデンス一覧14件(公式資料1・報道や解説11・当社2)

飛行経路・飛行時間

  1. 報道・解説乗りものニュース「ロシア上空迂回で超ロングフライトになった『ANA欧州線』運航はどう変化? 実乗&パイロットに聞く"工夫"」2023年8月(ANA羽田〜ロンドン線の羽田発14時間25分・ロンドン発14時間05分、従前ルートより2〜3時間の延長の根拠)|https://trafficnews.jp/post/127315
  2. 報道・解説乗りものニュース「『ロシア上空を迂回』なぜ往復でルートが異なる? JAL・ANA欧州線 『北回り』の方が距離は短いが」2024年7月(往路北回り・復路南回りの運用、羽田〜ロンドン線で北回りが約100海里長いこと、ロンドン発の南回りが1時間30分〜1時間40分短縮された記録の根拠)|https://trafficnews.jp/post/133525
  3. 報道・解説Aviation Wire「JALとANAどう飛ぶロシア迂回ルート アンカレッジ寄らない北回り、イスタンブール通過の南回り」2022年3月(JL43便15時間12分・JL44便15時間55分の実績、マルチクルー編成の根拠)|https://www.aviationwire.jp/archives/246092
  4. 報道・解説Aviation Wire「ANAも欧州便ルート変更 日本発を北回りで時間短縮、4/18ブリュッセル行きから」2022年4月(ANAの北回り採用、南回り15時間40分から1時間程度の短縮、燃料搭載量を減らして旅客や貨物を多く積める点の根拠)|https://www.aviationwire.jp/archives/249091
  5. 報道・解説タビシタ「日本ドイツ直行便の運航状況」2026年1月更新(JAL成田〜フランクフルト線 JL407 14時間10分・JL408 13時間05分、2026年3月29日〜10月24日ダイヤの根拠)|記事ページ
  6. 報道・解説Aviation Wire「JALとANA、欧州便は通常運航 ロシア情勢注視し判断」(2022年時点の対応方針の根拠)|https://www.aviationwire.jp/archives/245670

2026年の空域制限

  1. 報道・解説スカイスキャナー「空域閉鎖でフライトに影響?飛行機の欠航・遅延時に確認すべきことと対応ガイド」2026年4月(ドバイ・ドーハ・アブダビの状況、JAL羽田〜ドーハ線の運航停止期間、エティハド航空の減便、ドバイ国際空港とアブダビ ザイード国際空港の再開と縮小運航の根拠)|記事ページ
  2. 報道・解説特典旅行「中東情勢の緊迫化に伴う注意事項および空港・フライト運航情報について」(サウディアの欠航対象路線、イラク航空当局による72時間の領空閉鎖の根拠)|https://www.tokutenryoko.com/news/passage/18340
  3. 報道・解説弾丸トラベルは怖くない「JAL・ANA国際線は大丈夫?イラン攻撃による中東情勢と欧州便の迂回ルートまとめ」2026年3月(日本発西欧行きが日本・アラスカ・グリーンランド経由で制限対象地域を飛行しないこと、ドーハ線の運休理由の根拠)|記事ページ
  4. 報道・解説100点を目指さない空旅「2026年版|日本からヨーロッパへ安く行く方法|中東航空停止で使える代替ルート4選」2026年3月(中東キャリア経由が価格面で選ばれてきた経緯、ロシア上空制限との二重の制約の根拠)|記事ページ

燃料消費・積載能力

  1. 公式資料国土交通省 航空局・経済産業省 資源エネルギー庁「第8回持続可能な航空燃料(SAF)官民協議会 事務局説明資料」令和8年1月28日(第8章に記載したICCT 2021年研究による機種クラス別の追加燃料消費割合、4,500km飛行における典型的なワイドボディ機で15%程度とする記述、EU・トルコ・韓国のタンカリング規制の概要の根拠。本資料は当社が直接取得して確認した)|資料PDF
  2. 報道・解説ICCT(International Council on Clean Transportation)"Potential tankering under an EU sustainable aviation fuels mandate" 2021年4月(上記資料に引用された原典。当社が確認したのは引用元資料の記載である)

文:プラスチックパレット株式会社 編集部

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