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ジェット燃料が4月209ドルから7月116ドルへ、欧州「6週間分」警告が現実化しなかった3つの理由と再上昇局面
MARKET ANALYSIS / 航空燃料市況

ジェット燃料が4月209ドルから7月116ドルへ、欧州「6週間分」警告が現実化しなかった3つの理由と再上昇局面

2026年のジェット燃料市況は、上昇・下落・再上昇の3局面をたどった。4月にIEAが警告した欧州の在庫枯渇はなぜ現実化しなかったのか。減便2万便による需要抑制、代替調達、域内製油所の最大稼働という3要素を週次データで検証し、7月12日のホルムズ海峡再閉鎖後の再上昇局面と、日本の燃油サーチャージへの反映時差を整理する。

2026年7月版 初版公開: 最終更新: カテゴリ:航空・エネルギー市況
TL;DR ── 3行で読む
  • IATAの週次指標は3月6日週157.41ドル、3月20日週197.00ドル、4月3日週209ドルでピークを打ち、6月141.64ドル、7月1日116.63ドルへと下落した。ピークからの下落幅は44.2%である。
  • 4月にIEAが警告した「欧州は残り6週間分」という在庫枯渇は現実化しなかった。5月に世界の運航計画から12,000便から13,000便が削られて約200万席が減り、需要側が先に縮んだことが大きい。
  • 日本の燃油サーチャージは2カ月平均で算定されるため、7〜8月発券分の65,000円には4〜5月の高値が反映されている。7月の下落が届くのは9月以降発券分だが、その算定期間には再上昇局面が含まれる。
SUMMARY ── この記事の要点

ジェット燃料のIATA指標は4月3日週の209ドルをピークに、7月1日には116.63ドル44.2%下落した。4月に警告された欧州の在庫枯渇は、減便・代替調達・域内製油所の稼働で回避された。ただし欧州のクラックは6月初旬に121ドル超と平時の約4倍で、構造的な不足は残る。

ピーク(IATA週次)
209ドル
2026年4月3日週
1バレル・史上最高値
直近(IATA)
116.63ドル
2026年7月1日
ピーク比 −44.2%
欧州ジェットクラック
121ドル超
2026年6月初旬
平時30ドル程度の約4倍
WTI 終値
93.193ドル
2026年7月23日
前日比 +6.84%

CHAPTER 012026年ジェット燃料価格の全推移、上昇・下落・再上昇の3局面

本記事は2026年3月31日に「ジェット燃料2倍高騰」として公開し、4月26日に第1回の更新を行った。当時は価格上昇が続く局面にあり、欧州の在庫枯渇が現実味を帯びて語られていた。それから3カ月が経過し、市況は明確に反転している。まず全体像を数字で押さえる。

2月下旬
約95ドル
3月6日週
157.41ドル
3月20日週
197.00ドル
4月3日週
209ドル ← ピーク
6月
141.64ドル
7月1日
116.63ドル

1バレルあたり。IATA Jet Fuel Price Monitor の値を各報道から採録した。3月6日週・3月20日週はOman Observer、4月3日週はCargo Facts、6月および7月1日はoilgasstoragenewsの集計による。バーの長さは209ドルを100%とした相対比。

時点 価格(1バレル) 局面 主な要因
2026年2月下旬 約95ドル 開戦前 平時の水準
3月6日までの週 157.41ドル 上昇 2月28日の攻撃開始、ホルムズ海峡の輸送停止
3月20日までの週 197.00ドル 上昇 中東からの製品輸出が細る
4月3日までの週 209ドル ピーク 供給不足の織り込みが最大に
5月1日(欧州) 187ドル 高止まり 前年比でほぼ倍の水準
2026年6月 141.64ドル 下落 停戦交渉の進展でリスクプレミアムが縮小
2026年7月1日 116.63ドル 下落 前月比 −17.66%、ピーク比 −44.2%

出典は本文および第12章の一覧を参照。5月1日の187ドルは欧州の水準としてIATAが示した値で、CNBC(2026年5月6日)の報道による。

CHAPTER 024月の「残り6週間」警告はなぜ現実化しなかったのか

2026年4月に発せられた警告の内容

2026年4月、欧州の航空燃料をめぐって複数の警告が相次いだ。IEA事務局長のファティ・ビロル氏は4月中旬、欧州に残るジェット燃料の在庫が6週間ほどであるとの見方を示し、ホルムズ海峡が開かない場合には燃料不足を理由とする欠航が生じうると述べた。欧州空港評議会(ACI Europe)は4月9日付でEUに書簡を送り、海峡が再開しなければ域内が構造的な燃料不足に直面すると警告した。米ConocoPhillipsも、輸入依存国が6月から7月に不足に直面する可能性を指摘していた。

実際に起きたこと

結果は異なった。欧州委員会は2026年5月18日、EU域内で燃料不足は生じていないとし、ホルムズ封鎖が続く場合に地域的な制約が生じうるとの留保を付した。6月5日にもEUの運輸担当委員が同様の見解を示している。6月に懸念された物理的な供給不足は現実化しなかった。

ここで重要なのは、警告そのものが誤りだったのではなく、警告を受けた各主体が行動した結果として回避されたという点である。要因は3つに整理できる。

要因 内容 確認できる根拠
1. 需要側の抑制 航空会社が数週間前から運航計画を削り、収益性の低い期間の消費を絞った 2026年5月に世界の運航計画から12,000便から13,000便が削減、約200万席が減少
2. 代替調達 大西洋圏を中心に、湾岸以外からの輸入を積み増した EUが域内在庫の把握と代替供給源への移行調整を進めた
3. 域内製油所の稼働 欧州の製油所がジェット燃料の生産を最大化した ロッテルダムの大型製油所を運営するシェル蘭子会社トップが4月22日に言及
「在庫日数」という指標の読み方

IEAによると、欧州の2025年末時点のジェット燃料在庫は需要の37日分に相当し、これ自体は特異な水準ではなかった。「6週間分」という表現は、この在庫日数を前提に、供給が途絶したまま従来どおりの需要が続いた場合の計算値である。需要が縮めば在庫日数は伸びる。実際に起きたのは、需要側が先に縮んだことによる在庫日数の延命であった。

本章の記述は、S&P Global、CNBC、CAPA、CTI-FWD等の報道および分析記事から確認できた内容に基づく。EU域内の在庫実数や代替調達量の全体像について、当社が確認できた公表資料の範囲では網羅的な数値を把握できていない。

CHAPTER 03減便2万便が生んだ需要抑制の効果

第2章で挙げた3要因のうち、規模の面で最も大きかったのが需要側の抑制である。ここは4月版でも「減便が相次いでいる」として扱ったが、当時は費用削減の文脈で捉えていた。実際にはそれが供給不足の回避に直接寄与した。

削減は「欠航」ではなく計画的な配分だった

2026年5月に世界の運航計画から削られたのは12,000便から13,000便で、座席数にして約200万席にあたる。これらは搭乗直前に旅客へ通知される欠航ではなく、数週間前に決定された計画的な削減であった。収益性の低い時期に手元のケロシンを配分し、需要が集中する7月と8月の運航を維持するという判断が働いている。

航空会社 削減規模 時期・備考
ルフトハンザグループ 短距離 20,000便 10月までの累計。4月20日から1日あたり120便が計画から外れた。CityLine子会社の27機を退役させ、燃料節約量は4万トンとした
ユナイテッド航空 全体の約5% 第2四半期から第3四半期
スカンジナビア航空(SAS) 1,000便 4月単月。3月の数百便に続く追加
KLM 欧州域内 160便 4月16日発表
キャセイパシフィック航空 旅客便の約2% 5月中旬から6月末
アシアナ航空 22便 4月から7月

2026年4月から6月にかけての各社発表および報道による。ルフトハンザについてはAl Jazeera(2026年4月23日)ほか、その他はAirHelpの集計を参照した。

費用面の負担は各社が公表している

ルフトハンザグループは、ジェット燃料価格の上昇による追加費用が2026年通年で20億ドルに達するとの見通しを示した。モルガン・スタンレーは同社の投資判断を引き下げ、燃料費の影響を16億ユーロ、EBITDAへの影響を約8億ユーロと見積もっている。同社が最大40機、保有機材の約5%を地上に留める可能性も指摘された。ユナイテッド航空のスコット・カービーCEOは、価格が続いた場合の年間追加燃料費が最大110億ドルになりうると述べている。

需要抑制が価格下落を後押しした

減便は各社にとって収益機会の放棄だが、市場全体で見ると需要が先に縮んだことが価格の反転を早めた。4月時点で「価格が下がっても物量が足りない」と見られていた構図は、需要側が縮小したことで緩和に向かった。停戦交渉の進展によるリスクプレミアムの縮小と、この需要抑制が重なった結果が、6月から7月にかけての下落である。

CHAPTER 04欧州の構造的不足は解消していない、クラックと在庫の実態

価格が下落し、物理的な不足も回避された。しかしそれは欧州の需給構造が正常化したことを意味しない。指標を見ると、平時とは明確に異なる状態が続いている。

クラックスプレッドは平時の約4倍

クラックスプレッドとは、原油と石油製品の価格差である。ジェット燃料の場合、原油に対してどれだけ上乗せして取引されているかを示し、精製マージンと需給の締まり具合を映す。

指標 平時の目安 2026年の水準
北西欧州 ジェットクラック 約30ドル/バレル 6月初旬に121ドル超(約4倍)
ICE ジェットクラック ピーク時 約78ドル/バレル
シンガポール ジェットクラック ピーク79ドル → 40ドルへ低下
欧州 ジェット・ディーゼル価格差 −5〜+2ドル/バレル 45〜48ドル/バレル

欧州は伝統的にディーゼル需要が厚く、ディーゼルがジェット燃料より高く取引されるのが通常である。2026年はこの関係が逆転した。なお、ICEおよびシンガポール・欧州の各クラック水準は出典媒体に測定日の記載がなく、2026年の一連の局面における水準として掲載している。北西欧州クラックの121ドル超のみ2026年6月初旬と時点が特定できている。

2026年の一連の局面では、シンガポールのクラックがピークの79ドルから40ドルまで低下した一方、欧州は65ドルから68ドルの水準を保った。この差そのものが、欧州側に残る構造的な不足を示している。アジア市場が先に落ち着き、欧州が取り残される形となった。

在庫と依存構造

欧州のジェット燃料需要は2025年で1日あたり約150万バレルであった。CERAの分析によると、紛争前は約67%が域内生産で賄われ、約13%がホルムズ海峡経由の中東からの輸入であった。北西欧州に限れば、ジェット燃料輸入の相当部分を同海峡経由に依存していたとされる。

在庫の指標となるアムステルダム・ロッテルダム・アントワープ(ARA)のジェット燃料・ケロシン在庫は、2026年6月19日までの週で554,000トンであった。2026年4月中旬には6年ぶりの低水準まで落ち込んでいる。

先物市場は夏場の弱含みを織り込んでいる

Plattsは2026年6月26日時点で、北西欧州渡しジェット燃料(Jet CIF NWE Cargo)の7月限を1トンあたり920ドル、8月限を912ドルと評価した。先の限月がわずかに安いことは、夏場に向けた弱含みの見方を示す。ただし複数のトレーダーは、この見方がホルムズ海峡の状況と船舶が実際に通航できるかに依存すると指摘している。中東の製油所が戦前の生産水準に戻る時期は、設備の損傷と再稼働に要する時間の両面から見通しが立っていない。

CHAPTER 05米国市場の推移、Argus指数とEIA見通し

米国市場は欧州とやや異なる動きを示した。産油国であり域内精製能力も厚いため、絶対水準は欧州より低く推移したが、上昇率では欧州に劣らない。

指標 時点 価格 変化
Argus 米ジェット燃料指数 2026年2月 2.17ドル/ガロン
Argus 米ジェット燃料指数 2026年3月20日 4.56ドル/ガロン 2月比 +110.1%
米ガルフコースト 2026年2月 2.26ドル/ガロン
米ガルフコースト 2026年4月 3.93ドル/ガロン 2カ月で +73.9%
米ガルフコースト 2026年6月 約3.57ドル/ガロン 4月比 −9.2%
Argus 米ジェット燃料指数 2026年6月4日 3.30ドル/ガロン
EIA 短期エネルギー見通し 2026年第3四半期 2.80〜3.20ドル/ガロン 見通し値

Argus指数の2月・3月20日の値はFox News(2026年3月23日)、米ガルフコーストおよびEIA見通しはoilgasstoragenewsの集計による。

中間留分の指標も記録を更新した

ジェット燃料と同じ中間留分に属するディーゼルの国際指標も、2026年に記録を更新している。北西欧州向けバージ渡しの価格を反映するICE LSGO先物は、2026年4月2日に1トンあたり1,569.50ドルの最高値をつけた。従来の最高値は2022年3月9日、ロシアによるウクライナ侵攻直後に記録した1,546.75ドルであり、これを上回った。

ジェット燃料とディーゼルは製油所の同じ工程から生産されるため、一方の需給が締まればもう一方にも波及する。航空燃料の問題が陸上輸送のディーゼル価格に及ぶのは、この構造による。当社が扱う物流資材の輸送コストも、この経路で影響を受ける。

CHAPTER 067月12日の再閉鎖と再上昇局面

7月1日に116.63ドルまで下がった市況は、その後に再び動いた。2026年7月12日、イラン革命防衛隊(IRGC)によるホルムズ海峡の再閉鎖が発生し、原油市場が反応している。

日付 WTI ブレント 備考
2026年7月8日 70.44ドル 74.16ドル 商船攻撃を受けた上昇局面
2026年7月23日 93.193ドル 100.17ドル WTIは前日比+6.84%、ブレントは+6.49%で約2カ月ぶりに100ドル台を回復
2026年7月24日 約89.3ドル 約96.8ドル 交渉再開の観測で反落。ただし週間ではWTIが約8〜10%高、ブレントが約10〜12%高

7月8日の値は当社既報による。7月23日のWTI終値はOANDA証券、ブレントは宮野宏樹「米国市場レポート」(2026年7月24日)、7月24日の値はTradingEconomicsの集計による。

7月24日の反落は、パキスタンが中国の支援を受けて米国とイランの交渉再開を模索しているとの報道を受けたものとされる。同日までに米中央軍はイランへの攻撃を13夜連続で実施しており、緊張の緩和と継続の両方の材料が並存する状態にある。

ただし、原油が7月下旬に上昇したことは、次期の燃油サーチャージの算定に影響する。日本のサーチャージの算定期間との関係は次章で整理する。

CHAPTER 07日本の燃油サーチャージに反映されるまでの時差

市況が下がっているにもかかわらず、日本の国際線燃油サーチャージは2026年7月から8月発券分で過去最高水準にある。これは算定の仕組みによる時間差である。

算定は2カ月平均、適用は2カ月後

ANA・JALの燃油特別付加運賃は、シンガポール市場のケロシン価格と為替レートの2カ月平均で算定され、2カ月ごとに改定される。日本航空が2026年6月12日に公表した内容によると、7月から8月発券分の算定根拠は次のとおりである。

項目 数値 期間
シンガポールケロシン 2カ月平均 178.21米ドル/バレル 2026年4月〜5月
為替 2カ月平均 158.85円/米ドル 同期間
円貨換算額 28,308円
本来適用されるゾーン ゾーンW(28,000円基準)
実際に適用されたゾーン ゾーンT(25,000円基準) 政府の緊急的激変緩和措置による補助を反映

出典:日本航空プレスリリース第26025号(2026年6月12日)。

路線別の金額推移

ANA公式サイト(2026年6月30日更新)による日本発・片道1人あたりの金額は次のとおりである。

路線区分(日本発) 4月発券分 5〜6月発券分 7〜8月発券分 4月比
欧州・北米(ハワイ除く)・中東・オセアニア 31,900円 56,000円 65,000円 +103.8%
ハワイ・インド・インドネシア 20,400円 36,800円 40,400円 +98.0%
タイ・シンガポール・マレーシア等 16,300円 29,000円 33,500円 +105.5%
ベトナム・グアム・フィリピン等 10,500円 19,700円 22,500円 +114.3%
東アジア(韓国を除く) 9,400円 14,700円 15,400円 +63.8%
韓国・ロシア(ウラジオストク) 3,300円 6,700円 7,400円 +124.2%

出典:ANA公式サイト「燃油特別付加運賃 / 航空保険特別料金について」2026年6月30日更新。JALはANAと同一のケロシン基準を用いるが適用条件表の設定が異なるため、路線により金額に差が生じる。東京〜ニューヨーク往復2名の場合、5〜6月発券分で224,000円、7〜8月発券分で260,000円となる。

9月以降発券分の算定期間は6月〜7月である

日本航空は上記プレスリリースで、9月以降発券分を2026年8月に案内する予定と明記している。算定期間は6月から7月であり、この期間には6月の下落局面と7月下旬の再上昇局面の双方が含まれる。加えて為替は、算定に使われた4〜5月平均の158.85円に対し、7月24日のニューヨーク市場終値が163.83円と円安方向に振れている。ドル建て価格が下がっても円換算額が同じ幅では下がらない構造にある。

CHAPTER 08日本の航空会社への影響と国内線の扱い

大手2社の負担

日本航空の鳥取三津子社長は2026年4月1日、2月までの平均価格と比べて燃料価格が約2.5倍になっていること、1バレル200ドル以上が続いた場合に1カ月あたり300億円ほど燃料費の負担が増えることを明らかにした。同社の航空燃料費は支出全体の約25%を占める。ANAホールディングスの芝田浩二社長も同日、現行のサーチャージ算定式では原油価格の上昇に対応できていないとの認識を示している。

第1章で見たとおり、4月3日週の209ドルというピークは1カ月ほどで反転した。したがって「200ドル以上が続いた場合」という前提は、少なくとも6月から7月にかけては解消している。ただし7月下旬の再上昇局面が続く場合には、再び同じ前提が視野に入る。

国内線には燃油サーチャージが課されていない

2026年7月時点で、ANA・JALの国内線に燃油サーチャージは課されていない。飛行距離が短く、燃料コストが運賃に占める割合が国際線より小さいためである。ただし変化の材料が2つある。

  • 地域航空会社のフジドリームエアラインズ(FDA)は、国内線で燃油サーチャージを徴収している。国内線で徴収している数少ない事業者である。
  • 日本航空は2027年4月からの国内線導入を計画していると報じられている(日本経済新聞、2026年4月1日)。ANAも検討を表明している。

地域航空各社が直面する構造については、当社の別稿「イラン情勢で追い詰められる日本の地域航空」で整理している。また、燃油サーチャージの仕組みを暮らし目線で解説した記事として「ニュースで聞くイラン情勢が招く『2026年航空券の値上がり』をやさしく解説」も公開している。

CHAPTER 09航空貨物・輸出梱包コストへの波及

ジェット燃料の市況は旅客運賃だけでなく、航空貨物の輸送コストにも直接及ぶ。当社が扱う輸出梱包資材は、この経路で市況と接している。

迂回と燃料搭載量が積載能力を圧迫する構造

中東の空域が使えない状況では、欧州方面の路線が迂回を強いられる。飛行時間が延びれば必要な燃料搭載量が増え、機体の最大離陸重量という制約のもとで、積める貨物と旅客の量が削られる。1便あたりの輸送効率が下がるため、同じ貨物量を運ぶのに必要な便数が増え、単位あたりのコストが上昇する。

燃料価格に地域差がある局面では、安い出発地で往復分の燃料を積み込む運用が採られることがある。これは燃料費の節約になる一方、機体重量が増えることで燃費が悪化し、搭載可能な貨物スペースも減る。どちらの選択も、貨物側から見れば積載能力の低下として現れる。

航空貨物は重量で課金される

航空貨物の運賃は原則として重量に基づいて算出される。したがって、貨物そのものだけでなく梱包資材の重量も運賃の対象となる。輸出用のプラスチックパレットを例にとると、同じ1,100×1,100mmの規格でも製品によって自重が異なり、当社が取り扱う輸出向けの軽量タイプでは自重7.0kg、標準的なタイプでは10.0kg程度と、1枚あたり約3kgの差がある。

この差は平時であれば大きな論点になりにくいが、燃料価格が平時の水準を上回り、航空運賃の単価が上がる局面では、同じ枚数でも運賃差が拡大する。輸出案件で航空便を使う場合、パレットの選定が輸送コストに反映される度合いが増す。

航空貨物運賃の単価は路線・時期・契約条件によって大きく異なり、公表された標準単価は存在しない。本記事では具体的な単価の試算は行わない。実際の輸送コストへの影響は、個別の見積で確認いただきたい。

原油から2方向へ枝分かれする

原油は精製の過程で、ジェット燃料と、樹脂原料のもととなるナフサに枝分かれする。中東からの供給が細る局面では、両方が同時に影響を受ける。航空運賃が上がる一方で、プラスチックパレットやストレッチフィルム、PPバンドといった梱包資材の原料コストも上昇する。輸送手段と梱包資材の双方が同じ上流に依存しているという点が、物流実務における2026年の特徴である。

CHAPTER 10見通しとモニタリング指標

2026年7月26日時点で、市況の方向は一意に定まっていない。下落要因と上昇要因が並存している。将来の価格を予想するのではなく、判断の材料となる指標を挙げる。

# 指標 確認先・頻度 着眼点
1 IATA Jet Fuel Price Monitor IATA・週次 7月12日の再閉鎖以降、116.63ドルからどう動いたか
2 北西欧州ジェットクラック Platts等・日次 平時の約30ドルへ収れんするか、65〜68ドル圏に留まるか
3 ARAハブ在庫 Insights Global・週次 554,000トン(6月19日週)から積み増しに転じるか
4 燃油サーチャージ 9月以降発券分 JAL・ANA公式 2026年8月に案内予定。算定期間は6月〜7月
5 ドル円レート 日次 4〜5月平均158.85円に対し、7月24日終値163.83円

方向を左右する要素の整理

要素 現状 価格への向き
中東情勢 7月12日に再閉鎖。24日は交渉再開の観測で反落 不確実
需要側 7月・8月は繁忙期で消費が増える時期 押し上げ
先物カーブ Jet CIF NWE 7月920ドル/mt、8月912ドル/mt やや押し下げ
中東の製油所 戦前水準への復帰時期が見通せていない 押し上げ
為替(日本の輸入コスト) 7月24日終値163.83円と円安方向 押し上げ

CHAPTER 11用語集

ジェット燃料(ケロシン)

航空機用のタービン燃料。原油の精製工程で得られる中間留分に属し、ディーゼルと同じ工程から生産されるため、双方の需給が相互に影響する。

IATA Jet Fuel Price Monitor

国際航空運送協会が週次で公表するジェット燃料の価格指標。主要な精製拠点のスポット価格を需要で加重平均したもので、S&P Global Plattsのデータを用いる。

クラックスプレッド

原油価格と石油製品価格の差。精製マージンと需給の締まり具合を示す。ジェット燃料の場合、北西欧州の平時の目安は1バレルあたり30ドル程度とされる。

リグレード

ジェット燃料とディーゼルの価格差を指す。欧州はディーゼル需要が厚いため通常はディーゼルが割高で、価格差は1バレルあたりマイナス5ドルからプラス2ドル程度で推移する。

ARAハブ

アムステルダム・ロッテルダム・アントワープを結ぶ欧州最大級の石油製品集積地。北西欧州のジェット燃料供給の要であり、同地域の在庫水準が需給判断の指標として使われる。

ICE LSGO

北西欧州向けバージ渡しの低硫黄軽油先物。ディーゼルおよび中間留分の国際的な価格指標として用いられる。

燃油特別付加運賃

燃油サーチャージの正式名称。ANA・JALはシンガポールケロシン価格と為替の2カ月平均で算定し、2カ月ごとに改定する。適用は算定期間の約2カ月後となる。

ゾーン

燃油サーチャージの適用額を決める階段状の区分。2026年7〜8月発券分は本来ゾーンW(28,000円基準)に該当したが、政府の補助を踏まえてゾーンT(25,000円基準)が適用された。

フューエル・タンカリング

燃料価格の安い空港で往復分の燃料を積み込む運用。燃料費を抑えられる一方、機体重量の増加で燃費が悪化し、搭載可能な貨物量も減少する。

ペイロード

航空機が搭載できる旅客・貨物・郵便物の総重量。最大離陸重量から機体重量と燃料重量を差し引いた残りであり、燃料搭載量が増えるほど圧迫される。

CHAPTER 12出典・エビデンス一覧

日本の一次資料

  1. 一次ANA(全日本空輸)公式サイト「燃油特別付加運賃 / 航空保険特別料金について」2026年6月30日更新(4月・5〜6月・7〜8月発券分の路線別金額の根拠)|https://www.ana.co.jp/ja/jp/guide/plan/charge/fuelsurcharge/
  2. 一次日本航空 プレスリリース第26025号「JAL/JTA国際線『燃油特別付加運賃』の改定を申請(2026年7月〜8月発券分)」2026年6月12日(ケロシン178.21米ドル・為替158.85円・円貨28,308円・ゾーンW/T・9月以降は8月案内予定の根拠)|https://press.jal.co.jp/ja/release/202606/009574.html

国際機関・海外媒体(二次ソース経由)

  1. 二次Oman Observer「Jet fuel beats 2026 forecast of $88 per barrel to all-time high」(IATA週次データ 3月6日週157.41ドル・3月20日週197.00ドルの根拠)
  2. 二次Cargo Facts「Jet fuel price surpassed $200 per barrel last week」(IATA Jet Fuel Price Monitor 4月3日週209ドルの根拠)
  3. 二次oilgasstoragenews「Jet Fuel Price Today: Global, US & Per Gallon Guide」2026年7月1日時点(IATA指標 6月141.64ドル・7月1日116.63ドル、米ガルフコースト2.26→3.93→3.57ドル/ガロン、EIA短期エネルギー見通しの根拠)|https://oilgasstoragenews.com/jet-fuel-price/
  4. 二次CNBC「Iran war threatens jet fuel shortage that could disrupt summer travel in Asia and Europe」2026年5月6日(5月1日時点の欧州187ドル、ACI Europe 4月9日書簡、ConocoPhillipsの見解の根拠)|https://www.cnbc.com/2026/05/06/iran-war-jet-fuel-europe-asia-summer-flights.html
  5. 二次S&P Global「European jet fuel prices ease, but supply risks remain」2026年6月29日(欧州需要150万バレル/日、域内生産67%・ホルムズ経由13%のCERA分析、ARA在庫554,000トン、Jet CIF NWE 7月920ドル・8月912ドルの根拠)|記事ページ
  6. 二次CAPA「Europe's airlines face Jun-2026 jet fuel shortages if Strait of Hormuz stays closed」2026年4月23日(欧州2025年末在庫が需要37日分相当、ARA在庫が4月中旬に6年ぶり低水準の根拠)
  7. 二次CTI-FWD「Europe's aviation fuel crisis: what to expect in summer 2026」2026年6月24日(5月の削減12,000〜13,000便・約200万席、欧州委員会5月18日の表明、IATA週次-14.2%で119.17ドルの根拠)
  8. 二次OilPrice.com「European Airlines Say Jet Fuel Supply Is Under Control for Summer」2026年5月18日(IEA事務局長の4月中旬の発言、ルフトハンザの追加燃料費20億ドルの根拠)
  9. 二次Al Jazeera「Lufthansa cuts 20,000 flights as Iran war causes jet fuel shortage」2026年4月23日(ルフトハンザ2万便削減・1日120便・CityLine 27機退役・燃料節約4万トンの根拠)
  10. 二次Fox News「Jet fuel prices soar as airlines warn supplies could run dry within weeks」2026年3月23日(Argus米ジェット燃料指数2.17→4.56ドル/ガロン、ユナイテッド航空の約5%削減と年間110億ドルの根拠)
  11. 二次S&P Global「European jet fuel prices break new record on fears of escalating Middle East war」2026年4月2日(ICE LSGO 1,569.50ドル/mtの最高値、2022年3月9日の1,546.75ドルとの比較の根拠)
  12. 二次Yahoo Finance「Europe Faces Jet Fuel Price Surge and Supply Shortages」(欧州リグレード45〜48ドル、ICEジェットクラック約78ドル、シンガポール79→40ドル、欧州65〜68ドルの根拠)
  13. 二次MEXC掲載「Lufthansa Stock Falls After Morgan Stanley Downgrade on Fuel Cost Concerns」2026年4月2日(最大40機・保有機材の約5%、燃料コスト16億ユーロ、EBITDA約8億ユーロ減の根拠)
  14. 二次AirHelp(2026年4月23日)欧州各社の削減規模の集計(KLM 160便、SAS 1,000便、キャセイパシフィック約2%、アシアナ22便の根拠)

原油・為替(二次ソース経由)

  1. 二次OANDA証券「WTI原油見通し」2026年7月24日(7月23日WTI終値93.193ドル・前日比+6.84%の根拠)|記事ページ
  2. 二次宮野宏樹「米国市場レポート 2026年7月24日」(7月23日ブレント100.17ドル・前日比+6.49%、約2カ月ぶりの100ドル回復の根拠)
  3. 二次TradingEconomics 原油・ブレント原油ページ(2026年7月24日のWTI約89.3ドル、ブレント約96.8ドル、週間騰落の根拠)|https://jp.tradingeconomics.com/commodity/crude-oil
  4. 二次みんかぶFX「24日の為替市場の四本値」2026年7月25日掲載(ドル円 7月24日終値163.83円の根拠)|https://fx.minkabu.jp/news/374216
  5. 二次Business Insider Japan「イラン攻撃影響でJAL社長『月300億円負担増』」2026年4月2日(約2.5倍、月300億円、燃料費が支出の約25%、ANA社長の発言の根拠)
  6. 二次日本経済新聞(2026年4月1日報道)JALの国内線燃油サーチャージ2027年4月導入計画

FAQよくあるご質問

2026年のジェット燃料価格はどう推移したのか。

上昇と下落と再上昇の3局面をたどった。IATAの週次指標では2026年3月6日までの週が1バレル157.41ドル、3月20日までの週が197.00ドル、4月3日までの週が209ドルでピークに達した。その後は6月に141.64ドル、7月1日には116.63ドルまで低下し、ピーク比で44.2%の下落となった。ただし7月12日のホルムズ海峡再閉鎖を受けて原油が反発し、7月23日にはWTIが93.193ドル、ブレントが100.17ドルまで戻している。

4月に警告された欧州の燃料不足は、なぜ現実化しなかったのか。

需要側の抑制、代替調達、域内製油所の稼働という3つが同時に働いたためである。2026年5月には世界の運航計画から12,000便から13,000便が削られ、約200万席が減少した。ルフトハンザは10月までに短距離2万便の削減を決め、ユナイテッド航空も約5%の削減を実施した。あわせて欧州の製油所がジェット燃料の生産を最大化し、大西洋圏からの代替輸入が積み増された。欧州委員会は2026年5月18日にEU域内で燃料不足は生じていないと表明している。

燃料価格が下がったのに、日本の燃油サーチャージが過去最高なのはなぜか。

算定に2カ月平均を用いる仕組みによる時間差である。2026年7月から8月に発券する航空券に適用される金額は、その2カ月前にあたる4月から5月の実績で決まる。JALの発表によると、この期間のシンガポールケロシン市況価格の2カ月平均は1バレル178.21米ドル、為替平均は1米ドル158.85円で、円貨換算額は28,308円であった。7月に市況が下がっても、それが反映されるのは9月以降発券分となる。

欧州の構造的な供給不足は解消したのか。

解消していない。北西欧州のジェットクラックスプレッドは2026年6月初旬に1バレル121ドルを超え、平時の目安である30ドル程度の約4倍の水準となった。通常はディーゼルがジェット燃料より高く取引され、両者の価格差は1バレルあたりマイナス5ドルからプラス2ドル程度で推移するが、2026年はこの関係が逆転し、価格差は45ドルから48ドルまで拡大した。欧州はジェット燃料輸入の相当部分を湾岸地域に依存しており、この構造は短期では変わらない。

なぜプラスチックパレット株式会社がこの記事を書いているのですか。

当社は千葉県我孫子市を拠点に、プラスチックパレット・再生樹脂原料・PPバンド・ストレッチフィルム等の物流資材をお取扱いしている。原油は精製の過程でジェット燃料とナフサに枝分かれし、ナフサは樹脂原料を経てプラスチックパレットや梱包資材へとつながる。輸出梱包に用いるパレットは航空貨物と海上輸送の双方で使われるため、ジェット燃料市況と樹脂原料市況の双方を日々の調達を通じて把握できる立場にある。同じ原油価格の変動が空の輸送コストと梱包資材コストに同時に及ぶ構造を整理するため、本記事を作成している。

NOTICE / 本記事についての注意事項
  • 本記事は2026年3月31日に初版を公開し、2026年4月26日の更新を経て、2026年7月26日に全面的に改稿したものである。市況の反転を受けて構成と結論を見直しており、4月版の記述をそのまま引き継いでいない箇所がある。
  • ジェット燃料価格・原油価格・為替相場は日々変動する。記事中の数値は最終更新時点で確認できた公表値であり、その後の推移により状況が変わる。特にIATA Jet Fuel Price Monitorは週次で更新されるため、最新回は発表元で直接ご確認いただきたい。
  • 本記事で用いたIATA指標・欧州の在庫および価格差・海外航空会社の削減規模に関する数値は、いずれも報道機関および分析媒体を経由して取得したものであり、当社が一次資料を直接確認したものではない。出典欄では取得経路を「一次」「二次」として区別して表記している。日本の燃油サーチャージに関する数値のみ、ANA公式サイトおよび日本航空プレスリリースを直接確認している。
  • 2026年7月12日のホルムズ海峡再閉鎖以降のジェット燃料週次指標について、当社が確認できた公表資料の範囲では数値を把握できていない。本記事では原油価格の動きから当該指標を推計することは行っていない。
  • 本記事は特定の企業・商品・投資対象の売買を推奨するものではなく、投資判断・経営判断の最終的な根拠として作成したものではない。引用に際しては出典として本記事URLを明記されたい。記載内容に事実誤認があった場合は、お問い合わせフォームよりご連絡いただきたい。

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