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2026 SUPPLY CHAIN GUIDE / MILK & EGG

牛乳・乳製品・卵の価格構造2026|飼料・紙パック・卵パックの三層コストを解読

牛乳が上がるのは飼料のせい、という説明だけでは足りない。中東情勢は配合飼料、飲料用紙パック、卵パックを含む食品容器という三つの層から食卓に届いている。しかも2026年度の飲用乳価は据え置きで決着した。上流のコストは上がり、店頭価格は動かない。この局面で負担がどこに滞留しているのかを、公表資料から整理する。

初版公開 最終更新 対象品目 牛乳・乳製品・鶏卵 監視カテゴリ MONITORING 次回更新目安 2026年10月中旬
TL;DR — 3行要約
  • 牛乳と卵に中東情勢が届く経路は三つある。配合飼料、飲料用紙パックの内側コーティング、卵パックを含む食品容器で、それぞれ原料も価格の決まり方も異なるため、ひとまとめに論じると実態を見誤る。
  • 配合飼料は3期連続で値上げとなり、2026年7〜9月期は前期比で1トンあたり約3,700円の上昇。JA全農は公表資料のなかで、中東情勢の悪化による原油価格の高騰を穀物相場の変動要因として挙げている。
  • 一方で2026年度の飲用乳価は据え置きで決着した。上流のコストは上がり店頭価格は動かないため、負担は生産者側と乳業各社に滞留している。値上げがないことは負担がないことを意味しない。
【総論】

2026年の牛乳と卵は「上流は上がり、店頭は動かない」局面にある。配合飼料は3期連続で上昇し7〜9月期は約3,700円/トンの値上げ、日本製紙は飲料用紙パックを10%以上改定した。一方で2026年度の飲用乳価は据え置きで合意。コスト増は転嫁されず生産者側に滞留している。

3期
配合飼料供給価格の
連続値上げ期間
10%+
飲料用紙パックの改定率
(日本製紙・7月1日納入分)
据置
2026年度
飲用・発酵乳向け乳価
315円
鶏卵1パック全国平均
(2026年5月・小売物価統計)

CHAPTER 01牛乳と卵に中東情勢が届く3つの経路

牛乳が値上がりする理由を尋ねると、多くの場合「飼料が高いから」という答えが返ってくる。これは正しいが、説明としては足りない。中東情勢が食卓に届く経路は一つではなく、原料も価格の決まり方も異なる三つの層が同時に動いているためである。

LAYER 01
配合飼料、中身をつくるコスト
乳牛と採卵鶏が食べる配合飼料の主原料は、輸入したとうもろこしと大豆粕である。価格はシカゴ定期の相場と為替で決まり、そこに海上輸送費が乗る。中東情勢は原油価格を通じてこの相場に影響する。生乳と鶏卵の生産コストを規定する層。
LAYER 02
飲料用紙パック、容器をつくるコスト
牛乳の紙パックは紙だけでできているわけではない。内側には防水と品質保持を目的としたコーティングが施されており、ここにナフサ由来素材が使われる。パルプ価格とナフサ価格の双方から影響を受ける層。
LAYER 03
卵パック・食品容器、包むコスト
卵パックはポリスチレンまたはPETを主原料とする成形品で、食品トレーと同じ樹脂系統にある。ナフサから樹脂への流れが直接届くため、三層のなかで最も上流の変動を受けやすい。

三層の違いは「価格の決まり方」に出る

この三層は、原料が異なるだけでなく価格が決まる仕組みそのものが異なる。配合飼料はJA全農が四半期ごとに改定を発表する。紙パックはメーカーが個別に価格改定を発表する。生乳の取引価格は生産者団体と乳業各社の年度交渉で決まる。鶏卵は日々の相場で動く。

したがって、上流でコストが上がったとき、それが最終価格に届くまでの時間も経路ごとに違う。日々動く鶏卵相場には短期間で反映されるが、年度交渉で決まる生乳の取引価格は次の交渉まで動かない。2026年に起きているのは、まさにこの時間差が表面化した状態である。

📌 この章のポイント

・中東情勢は「飼料」「紙パック」「食品容器」の三経路から牛乳と卵に届く
・三層は原料が異なるだけでなく、価格が決まる仕組みも改定の周期も異なる
・上流の変動が最終価格に届く速度は経路ごとに違い、その差が2026年の局面を作っている

CHAPTER 022026年1月〜7月、価格に関わる出来事の時系列

牛乳・乳製品・卵の価格に直接関係した出来事を時系列で整理する。国際情勢そのものの全体像は、上位ハブ記事である【イラン情勢2026完全まとめ】米・イラン対立・ホルムズ海峡と日本産業への影響を参照されたい。

時期出来事どの層に効くか
2026-01-23 関東生乳販連と乳業大手3社が、2026年度の飲用向け・発酵乳向け生乳取引価格を据え置きで合意 生乳取引価格
2026-02-28 ホルムズ海峡が事実上封鎖 全層の起点
2026-03-19 JA全農が2026年4〜6月期の配合飼料供給価格を発表(前期比 全国全畜種総平均で1トンあたり約1,250円の値上げ) 第1層 飼料
2026-04 大豆粕のシカゴ定期が360ドル/トン台まで上昇 第1層 飼料
2026-05上旬 とうもろこしのシカゴ定期が480セント/ブッシェル前後まで上昇 第1層 飼料
2026-05-12 日本製紙が飲料用紙パックを7月1日納入分から10%以上値上げすると発表。プラスチック製ストロー等の副資材も同時改定 第2層 紙パック
2026-05-20 食品トレー業界5社が20〜30%の価格改定を実施 第3層 食品容器
2026-06-19 JA全農が2026年7〜9月期の配合飼料供給価格を発表(前期比 全国全畜種総平均で1トンあたり約3,700円の値上げ)。3期連続の値上げ 第1層 飼料
2026-06-24 総務省が小売物価統計調査を公表。鶏卵1パックの全国平均は2026年5月時点で315円 店頭価格
2026-07-01 日本製紙の飲料用紙パック改定が納入分から適用開始 第2層 紙パック
2026-07-12 ホルムズ海峡が再閉鎖 全層の起点
📌 時系列から読めること

注目すべきは、1月23日の乳価据え置き合意が2月28日のホルムズ海峡封鎖より前に行われている点である。2026年度の生乳取引価格は、その後に起きた飼料と容器のコスト上昇を織り込まないまま確定した。この順序が、後述する価格転嫁の断面を生んでいる。

CHAPTER 03第1層、配合飼料はどこで中東情勢とつながるのか

配合飼料は乳牛と採卵鶏の生産コストの中核を占める。その価格は、JA全農が四半期ごとに全国全畜種総平均として改定を発表する仕組みになっている。2026年の推移は次の通りである。

前期比の改定額発表日備考
2026年1〜3月期 約 +4,200円/トン(+5.1%) 2025-12-19 4四半期ぶりの引き上げ。新価格は平均8万6,050円程度とみられる
2026年4〜6月期 約 +1,250円/トン 2026-03-19 2期連続の値上げ
2026年7〜9月期 約 +3,700円/トン 2026-06-19 3期連続の値上げ

中東情勢が穀物相場に届く経路

ここで重要なのは、JA全農自身が公表資料のなかで中東情勢に言及している点である。2026年6月19日発表の飼料情勢では、原料相場の動きが次のように説明されている。

とうもろこしのシカゴ定期は、2月には430セント/ブッシェル前後で推移していたが、中東情勢の悪化による原油価格の高騰や、4月中旬の米国中西部の天候不順による作付遅延懸念などから、5月上旬には480セント/ブッシェル前後まで上昇した。その後は米国産地の天候が改善し良好な生育が期待されていることなどから下落し、同資料の時点では420セント/ブッシェル前後で推移している。

大豆粕のシカゴ定期は、2月には340ドル/トン前後で推移していたが、中東情勢の悪化により原油価格が高騰していることや、大豆粕の米国内および輸出需要が旺盛であることなどから4月には360ドル/トン台まで上昇した。同資料の時点では米国産大豆の良好な生育が期待されていることなどから下落し、330ドル/トン台で推移している。

なぜ原油価格が穀物相場を動かすのか

原油と穀物は直接の代替関係にはないが、複数の経路でつながっている。ひとつはバイオ燃料で、とうもろこしはエタノールの原料でもあるため、原油価格が上がるとエタノール向けの需要期待が高まり、穀物相場を押し上げる方向に働く。もうひとつは生産・輸送コストで、農業機械の燃料、肥料、そして産地から港湾までの内陸輸送費が原油価格に連動する。

実際、JA全農の同資料では、シカゴ定期に加算される内陸産地からの集荷コストなどについても、輸出需要の推移や物流の状況によって変動する要素として扱われている。相場そのものが下落しても、内陸輸送費や海上運賃が高止まりすれば、日本の到着価格は下がりにくい。

⚠ 相場の下落と供給価格の上昇が同時に起きている

2026年6月19日時点で、とうもろこしも大豆粕もシカゴ定期はピークから下落している。それにもかかわらず、7〜9月期の配合飼料供給価格は約3,700円/トンの値上げとなった。これは配合飼料の供給価格が、相場だけでなく為替、海上運賃、そして数ヶ月前に手当てした原料の調達コストを反映して決まるためである。

相場が下がったというニュースを見て「飼料は下がるはずだ」と判断すると、実際の改定と逆方向の見通しを立てることになる。

なお配合飼料の値上げが畜産経営に与える影響は、業態によって異なる。同じ飼料価格の上昇でも、生乳を出荷する酪農、子牛を生産する繁殖、肉牛を仕上げる肥育では、収益構造も価格転嫁の余地も違う。業態別の詳細は当社の2026年のJA全農配合飼料値上げ、酪農・繁殖・肥育の3業態別に見る畜産経営の現在地で扱っている。

CHAPTER 04第2層、飲料用紙パックの内側にあるナフサ由来素材

牛乳の紙パックは、外側から見れば紙である。しかし内側には防水と品質保持を目的としたコーティングが施されており、ここにナフサ由来素材が使われている。紙パックが紙とプラスチックの複合材であるという事実が、2026年に価格として表面化した。

日本製紙の改定内容

日本製紙は2026年5月12日、牛乳やジュースなどの飲料用紙パックを2026年7月1日納入分から10%以上値上げすると発表した。プラスチック製ストローなどの副資材も同時に価格を改定している。

値上げの要因については、ホルムズ海峡の事実上の封鎖による影響でナフサ由来の材料が高騰したことが挙げられ、あわせて輸送費の上昇も理由とされた。乳業メーカーと飲料メーカーは、中身の原料コストと容器コストの両面から改定圧力を受ける形になる。

紙パックの改定が持つ意味

この改定が示しているのは、紙の容器を選べばナフサ市況から逃れられるわけではないということである。プラスチック容器から紙容器への切替は環境対応の文脈で進められてきたが、飲料用紙パックの防水層がナフサ由来である以上、上流の変動は同じように届く。

紙とプラスチックのどちらが有利かという議論ではなく、複合材である以上は複数の原料市況を同時に監視する必要があるというのが、調達実務上の含意となる。パルプ価格が落ち着いていても、コーティング材が上がれば紙パックのコストは上がる。

なお印刷・情報用紙を含む紙全般の価格改定については、当社の印刷・情報用紙15%値上げの構造分析で、パルプ・ナフサ・物流費の三方向から整理している。

CHAPTER 05第3層、卵パックと食品容器の樹脂系統

三層のうち、上流の変動を最も直接に受けるのがこの層である。卵パックはポリスチレン(発泡PSまたはA-PET等)を主原料とする成形品で、食品トレーと同じ樹脂系統にある。ナフサから樹脂への流れが加工段階を挟まずに届くため、価格改定の周期も短い。

食品容器の価格改定

食品トレー業界では2026年5月20日、主要5社が20〜30%の価格改定を実施した。エフピコが20%以上、中央化学とデンカポリマーが30%以上という水準である。背景には樹脂メーカーによる90〜100円/kgの改定があり、樹脂改定から製品改定への波及が段階的に進んだ形となる。

詳細は当社の食品トレー業界一斉値上げの分析記事で、再生材利用の現状とあわせて検証している。

⚠ 卵パック個別の改定率について

上記の20〜30%という数値は食品トレーを対象とした改定率である。卵パックは食品トレーと同じポリスチレン系統の容器であるが、卵パック単独の改定率として公表された資料を当社では確認できていない。同じ樹脂系統にある容器として同方向の圧力を受けると考えられるものの、数値をそのまま卵パックに当てはめることはできない。

再生材という別系統

食品容器の分野では、国内で回収されたトレーを原料とする再生材の活用が進んでいる。再生材は中東産ナフサの調達環境から相対的に独立しているため、バージン樹脂が高い局面では経済合理性が相対的に高まる。ただし業界全体の回収率には上限があり、供給量には制約がある。

この構造は、当社が扱う再生プラスチック原料と同じである。原料の由来が国内循環にあるか輸入樹脂にあるかで、価格の動き方と供給の安定性が変わる。

CHAPTER 062026年の特異点、飲用乳価の据え置きという判断

ここまで見てきた三層は、いずれもコストが上昇する方向に動いた。にもかかわらず、牛乳の店頭価格は2026年に入ってから大きく動いていない。その理由が、生乳の取引価格をめぐる年度交渉の結果にある。

2026年1月23日の合意

2026年1月23日、関東生乳販連は明治・森永乳業・雪印メグミルクと協議し、2026年度(2026年4月〜)の飲用向け・発酵乳向け生乳の取引価格を据え置くことで合意した。対象は主に家庭向け飲用牛乳と発酵乳(ヨーグルト等)向けの生乳である。

生乳の取引価格は、乳業メーカーが酪農家から生乳を買い取る価格であり、牛乳の原価の中核を占める。これが据え置かれるということは、乳業メーカーにとっては原料調達コストが前年度と同水準に保たれることを意味し、店頭価格を改定する直接の要因が生じないことになる。

据え置きが選ばれた背景

飼料価格が上昇を続けるなかで据え置きが選ばれた背景には、需要側の事情がある。乳価を引き上げれば店頭価格に転嫁され、牛乳の消費がさらに減退する懸念がある。加工向けでは脱脂粉乳の在庫が積み上がっており、需給が緩んでいる側面もある。生産者にとって価格引き上げは収益改善の手段であるが、それによって需要が縮めば結果として生乳の販売量が減る。

据え置きは、この二律背反のなかで消費側の負担増を抑える方向で決着したものといえる。ただし後述するように、コストが消えたわけではない。

2月28日より前の決定であったこと

時系列の観点で重要なのは、この合意が2026年1月23日、すなわちホルムズ海峡が事実上封鎖された2月28日より前に行われている点である。2026年度の生乳取引価格は、その後に生じた飼料相場の変動、紙パックの改定、食品容器の改定を織り込まないまま確定している。

年度交渉という仕組みは価格の安定に寄与する一方で、年度の途中に大きな環境変化が起きた場合、次の交渉まで調整の機会がない。2026年は、その構造上の特性が表面化した年にあたる。

CHAPTER 07負担はどこに滞留しているのか、価格転嫁の断面

上流のコストが上がり、店頭価格が動かないとき、その差はどこかが負担している。ここが本記事で最も伝えたい論点である。

牛乳、階段状に動く価格

牛乳の場合、生乳取引価格が年度単位で決まるため、コスト上昇は次の交渉まで生産者側と乳業各社に滞留する。酪農家は上昇した配合飼料を購入しながら、生乳の販売価格は据え置かれた水準で受け取ることになる。乳業各社は生乳の調達コストが変わらない一方で、紙パックをはじめとする容器コストの上昇を負担する。

これは消費者にとっては当面の値上げがないことを意味するが、構造としては次の年度交渉に向けて圧力が蓄積している状態である。値上げがないことは、負担がないことを意味しない。

卵、日々の相場で動く価格

鶏卵は牛乳と価格形成の仕組みが根本的に異なる。取引は日々発表される相場を指標として行われるため、飼料コストの変動に加えて、季節性や鳥インフルエンザの発生状況といった需給要因が短期間で価格に反映される。

総務省の小売物価統計調査によると、鶏卵1パックの全国平均小売価格は2026年5月時点で315円である(2026年6月24日公表)。同調査の集計では、統計期間中の最高値は2026年3月の315円となっている。

牛乳が階段状に動くのに対し、卵は連続的に動く。同じ「飼料が上がった」という事象に対して、卵のほうが早く価格に現れる。両者を同じ枠組みで論じられない理由がここにある。

品目価格の決まり方改定の周期2026年のコスト増の行き先
牛乳・発酵乳 生乳取引価格の年度交渉 年1回(年度単位) 据え置きのため、生産者側と乳業各社に滞留
バター・チーズ等の乳製品 加工原料乳の取引価格+製造コスト メーカーごとの改定発表 容器・エネルギーコストは製品価格に反映されうる
鶏卵 日々の相場(荷受会社が発表) 日次 飼料コストと需給が短期間で相場に反映
飲料用紙パック 製紙メーカーの価格改定 メーカーの発表による 納入価格の改定を乳業側が吸収するか製品価格へ反映するかは、公表資料上確認できていない
卵パック・食品容器 成形メーカーの価格改定 樹脂改定から数ヶ月遅れ パック業者・流通が負担、一部は店頭へ
📌 この章のポイント

牛乳の店頭価格が動いていないことを「影響がなかった」と読むのは誤りである。年度交渉という仕組みが価格の変動を吸収している間、コストは生産者側と乳業各社に滞留している。次の年度交渉が、蓄積した圧力の調整の場となる。

CHAPTER 08購買・調達実務で使う判断軸

ここまでの構造分析を、食品メーカー・流通・給食事業者などの実務判断に落とし込む。

判断軸1:中身と容器を分けて見積もる

牛乳・乳製品の調達価格を検討する際、生乳の取引価格と容器のコストは別々に動く。2026年は生乳が据え置き、容器が上昇という組み合わせになっている。仕入価格の改定通知を受けた際は、改定要因が中身なのか容器なのかを確認することで、次の改定の見通しが立てやすくなる。

判断軸2:改定の周期が異なることを前提に置く

生乳の取引価格は年度単位、紙パックはメーカーの発表単位、鶏卵は日次で動く。年間の調達計画を立てる際、これらを同じ前提で見積もると計画と実績が乖離する。牛乳は年度の切り替わり、卵は月次以下の変動という粒度で管理を分けることが実務上の対処となる。

判断軸3:据え置きは次期の変動幅を大きくしうる

Chapter 07で述べた通り、2026年度の据え置きはコストを消していない。次の年度交渉では、蓄積した飼料コストと容器コストが議論の対象となる。中長期の調達計画では、据え置きが続く前提ではなく、次期に調整が入る可能性を織り込むほうが安全側の見積もりとなる。

判断軸4:容器の見直しは中身と切り離して検討できる

容器コストの上昇に対しては、中身の調達とは独立して手を打つ余地がある。容量あたりの容器コストが低い荷姿への切替、業務用の大容量規格の活用、再生材を使用した容器の採用などが該当する。とくに再生材はナフサ市況から相対的に独立しているため、バージン樹脂が高い局面では検討の価値がある。

判断軸5:観測すべき指標

次の改定を先読みするために、継続して確認する意味がある指標は次の通りである。

  • JA全農の配合飼料供給価格の四半期改定(発表は改定期の前月中旬ごろ)
  • とうもろこし・大豆粕のシカゴ定期と為替(飼料改定の先行指標)
  • 生乳取引価格の年度交渉(例年1月ごろに合意が報じられる)
  • 製紙・成形メーカーの価格改定発表(容器コストの先行指標)
  • 鶏卵相場(日次で公表され、飼料コストの反映が最も早い)
📌 この章のポイント

2026年の局面で調達判断を誤らせやすいのは、「牛乳の価格が動いていない」という表面の観察である。三層それぞれの改定周期を把握し、中身と容器を分けて見積もることで、次に何が動くかを先読みできる。当社では食品容器・再生材に関するご相談を承っている。

CHAPTER 09用語集

本記事で使用する用語を整理する。

配合飼料
とうもろこし・大豆粕などを配合して家畜の栄養要求に合わせた飼料。日本は原料の多くを輸入に依存するため、国際相場と為替、海上運賃の影響を直接受ける。
シカゴ定期
シカゴ商品取引所で取引される穀物の先物価格。とうもろこしはセント/ブッシェル、大豆粕はドル/トンで表示され、日本の飼料原料調達の基準指標となる。
生乳取引価格
酪農家から乳業メーカーが生乳を買い取る価格。生産者団体と乳業各社の交渉で年度単位に決まる。用途によって飲用向け・発酵乳向け・加工向けに区分される。
用途別乳価
同じ生乳でも、飲用牛乳向けかバター・脱脂粉乳などの加工向けかで取引価格が異なる仕組み。加工向けは国際競争にさらされるため相対的に低い水準となる。
生乳販連
指定生乳生産者団体。地域の酪農家の生乳を集め、乳業メーカーとの取引価格交渉を担う。関東生乳販連、ホクレンなどが該当する。
脱脂粉乳
生乳から脂肪分と水分を除いて粉末化したもの。生乳が余剰となった際の調整弁として製造されるため、在庫水準が需給の緩みを示す指標となる。
飲料用紙パック
牛乳・ジュースなどに用いる紙製容器。紙単体ではなく、内側に防水と品質保持を目的としたコーティングが施された複合材であり、その素材はナフサ由来である。
ナフサ
原油を精製して得られる粗製ガソリン。ポリエチレン・ポリプロピレン・ポリスチレンなど、容器包装に使われる樹脂の出発原料にあたる。
ポリスチレン
卵パックや食品トレーの主原料となる樹脂。発泡させた発泡ポリスチレン(PSP)と、透明性の高いものとに大別される。ナフサから製造される。
A-PET
非結晶性ポリエチレンテレフタレート。透明な卵パックや食品容器に用いられる。ポリスチレンとは樹脂系統が異なり、価格の動き方にも差が出る。
鶏卵相場
荷受会社が日々発表する鶏卵の取引指標価格。サイズ別に公表され、これをもとに実際の取引価格が決まる。日次で動くため飼料コストの反映が最も早い。
小売物価統計調査
総務省統計局が実施する、全国の店頭価格を調査した統計。家庭が実際に支払う価格の水準を把握する際の一次資料となる。生産者段階や卸売段階の価格とは区別して扱う。
ホルムズ海峡
ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ海峡。世界の海上原油輸送の重要な経路であり、通航状況が原油とナフサの調達環境に直結する。
価格転嫁
上流で生じたコスト上昇を、下流の取引価格や販売価格へ反映させること。転嫁が進まない場合、コストは供給側の事業者に滞留する。

CHAPTER 10出典・エビデンス一覧

配合飼料・穀物相場

  • 全国農業協同組合連合会(JA全農)「令和8年1〜3月期の配合飼料供給価格について」2025年12月19日発表。全国全畜種総平均で1トン当たり約4,200円の値上げ
  • 日本経済新聞「配合飼料価格5%高 JA全農1〜3月、原料高・円安で4期ぶり上昇」2025年12月19日。前期比5.1%上昇、新価格は平均8万6,050円程度とみられると報道
  • JA全農「令和8年4〜6月期の配合飼料供給価格について」2026年3月19日発表。前期比で全国全畜種総平均1トン当たり約1,250円の値上げ
  • JA全農「令和8年7〜9月期の配合飼料供給価格改定について」2026年6月19日発表。前期比で全国全畜種総平均1トン当たり約3,700円の値上げ。あわせて飼料情勢として、とうもろこしのシカゴ定期が2月430セント/ブッシェル前後から中東情勢の悪化による原油価格の高騰などを受けて5月上旬480セント/ブッシェル前後まで上昇し、発表時点では420セント/ブッシェル前後で推移していること、大豆粕のシカゴ定期が2月340ドル/トン前後から4月に360ドル/トン台まで上昇し、発表時点では330ドル/トン台で推移していることを公表
  • 農林水産省「配合飼料価格安定制度について」制度の概要および補填の仕組み

生乳取引価格

  • 関東生乳販連と明治・森永乳業・雪印メグミルクの協議による、2026年度(2026年4月〜)の飲用向け・発酵乳向け生乳取引価格の据え置き合意。2026年1月23日
  • 日本農業新聞「<最新>26年度の飲用乳価据え置き 関東生乳販連と乳業大手合意」
  • 農林水産省 畜産局牛乳乳製品課「最近の牛乳乳製品をめぐる情勢について」2026年4月

容器・包装

  • 日本製紙による飲料用紙パックの価格改定発表。2026年5月12日発表、2026年7月1日納入分から10%以上。プラスチック製ストローなどの副資材も同時改定。日本経済新聞「日本製紙、飲料用紙パックなど10%値上げ 原料高騰で」2026年5月12日
  • 飲料用紙パックの内側コーティングにナフサ由来素材が使われていること、およびホルムズ海峡の事実上の封鎖の影響でナフサ由来材料が高騰したことは、当社記事「印刷・情報用紙15%値上げの構造分析」で整理している
  • 食品トレー業界5社の価格改定(エフピコ20%以上、中央化学・デンカポリマー30%以上)。2026年5月20日

店頭価格

  • 総務省統計局「小売物価統計調査」鶏卵1パックの全国平均価格は2026年5月時点で315円(2026年6月24日発表資料に基づく)
  • JA全農たまご株式会社が公表する鶏卵相場。サイズ別に日次で発表され、実際の取引価格の指標となる

本記事で採用しなかった情報について

  • 一部の価格比較サイトが「2026年7〜8月の乳製品値上げ第2波」として掲載している雪印メグミルクの改定内容(乳食品52品・市乳59品・宅配17品の計128品、改定率2.4〜10.5%等)は、一次ソースを確認したところ2025年に実施された改定であり、2026年の改定ではないと判断したため本記事では採用していない
  • 卵パック単独の価格改定率を示す公表資料は、2026年7月時点で当社では確認できていない。本記事では食品トレーの改定率を、同じ樹脂系統の容器における参考値として区別して記載している

CHAPTER 11よくある質問

牛乳や卵の価格が、なぜ中東情勢と関係するのですか

三つの経路があります。第一に配合飼料で、原料のとうもろこしと大豆粕はシカゴ定期の相場で動き、JA全農は2026年6月19日の公表資料で中東情勢の悪化による原油価格の高騰を相場変動の要因として挙げています。第二に容器で、飲料用紙パックの内側コーティングにはナフサ由来素材が使われており、卵パックを含む食品容器はポリスチレンやPETを主原料としています。第三に輸送で、冷蔵配送の燃料費が影響を受けます。

2026年度の飲用乳価が据え置きになったのはなぜですか

2026年1月23日、関東生乳販連が明治・森永乳業・雪印メグミルクと協議し、2026年度の飲用向け・発酵乳向け生乳の取引価格を据え置くことで合意しました。飼料価格は上昇が続いていますが、牛乳の需要動向と消費者の価格受容の限界が背景にあるとされています。この結果、上流のコスト上昇が店頭価格へ転嫁されにくい状態となり、負担が生産者側に滞留する構造が生じています。

牛乳の紙パックはなぜ値上げされたのですか

日本製紙は2026年5月12日、牛乳やジュースなどの飲料用紙パックを2026年7月1日納入分から10%以上値上げすると発表しました。プラスチック製ストローなどの副資材も同時に価格を改定しています。飲料用紙パックは内側に防水と品質保持を目的としたコーティングが施されており、ここにナフサ由来素材が使われています。ホルムズ海峡の事実上の封鎖によりナフサ由来の材料が高騰したことが要因とされ、輸送費の上昇も理由に挙げられています。

卵の価格は牛乳と同じ動き方をしますか

動き方が異なります。牛乳は生乳の取引価格が年度単位の交渉で決まるため、価格が階段状に変化し、2026年度は据え置きとなりました。一方で鶏卵は日々の相場で取引されるため、飼料コストに加えて季節性や鳥インフルエンザの発生状況が短期間で価格に反映されます。総務省の小売物価統計調査によると、鶏卵1パックの全国平均小売価格は2026年5月時点で315円です。

なぜプラスチックパレット株式会社がこの記事を書いているのですか

当社は千葉県我孫子市に本社を置く物流資材専門の商社で、プラスチックパレット・折りたたみコンテナ・再生プラスチック原料を全国のお客様へ供給しています。取り扱う資材の多くがナフサ由来の樹脂を原料とするため、原油・ナフサ市況と国際情勢は日々の調達判断そのものです。食品容器も同じ樹脂系統にあり、食品メーカーや流通のご担当者と接する機会が多いことから、公表資料に基づいて価格構造を整理しています。

CHAPTER 12本記事の位置づけと免責事項

本記事は、当社が制作している「2026年サプライチェーン完全ガイド」シリーズのうち、食品分野を扱う記事です。国際情勢そのものの全体像については上位ハブ記事である【イラン情勢2026完全まとめ】米・イラン対立・ホルムズ海峡と日本産業への影響を参照してください。

本記事は流通・購買のご担当者を想定した専門版です。石油化学や畜産の予備知識を前提とせずに同じ論点を扱った解説版として、ニュースで聞くイラン情勢が招く「2026年の肉と牛乳の値上げ」をやさしく解説、家計を守るために知っておきたい本当の理由を用意しています。社内共有や取引先への説明にはこちらもご活用ください。

免責事項
  1. 情報の時点性について|本記事の記載内容は2026年7月24日時点で確認できた公開情報に基づいています。穀物相場、為替、各社の価格改定、生乳取引価格の交渉状況は変動するため、記載時点以降の状況を反映していない場合があります。
  2. 流通段階の区別について|本記事では生産者段階(配合飼料価格・生乳取引価格)、卸売段階(鶏卵相場)、小売段階(小売物価統計調査)を区別して記載しています。異なる段階の価格を相互に換算・推計することは行っていません。ある段階の数値から別の段階の価格を推測する用途には使用できません。
  3. 投資判断への非該当|本記事は食品の調達・購買実務に資する情報提供を目的としており、特定の金融商品の売買や投資判断を推奨するものではありません。企業名・団体名の記載は事実関係の説明のためであり、当該企業の評価を示すものではありません。
  4. 要約と整理の限界について|各社および各団体の公表内容は本記事の主題に沿って要約しています。改定の対象品目、適用条件、地域別・畜種別の差異については、各出典元の原資料をあわせてご確認ください。配合飼料の改定額は全国全畜種総平均であり、地域別・畜種別・銘柄別に異なります。
  5. 引用の取り扱いについて|本記事における各社の発表内容、統計数値は、公表資料の内容を当社が要約・整理したものです。正確な表現については各出典元の原文をご参照ください。記載に誤りを発見された場合は、お手数ですがご連絡いただけますと幸いです。
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