印刷・情報用紙15%値上げの構造分析
──日本製紙ら大手5社の連続価格改定と
ナフサショック・パルプ高騰・物流費上昇の三重圧力【2026年5月版】
王子製紙・三菱製紙・大王製紙・日本製紙・北越コーポレーションの大手5社が印刷・情報用紙の連続値上げを発表。エリエール家庭紙は8月から15%以上の値上げが決定した。背景にはナフサ由来資材・パルプ・物流費・人件費の同時上昇という製紙業界の構造変化がある。購買担当者・資材メーカー・商社が押さえるべき価格動向を一次ソースで深掘りした報道型レポート。
2026年、製紙大手5社が印刷・情報用紙を10%以上連続値上げ。王子製紙・三菱製紙・大王製紙・日本製紙・北越コーポレーションが順次発表。大王製紙エリエールは8月から家庭紙を15%以上値上げ。理由はナフサ由来資材高騰・パルプ価格上昇・物流費/人件費上昇の三重圧力。パルプ・紙の国内企業物価指数は130.0で6カ月連続上昇中。
01大手製紙5社の印刷・情報用紙 連続値上げ──時系列で整理
印刷・情報用紙の価格改定は、2025年8月から2026年2月にかけて、大手製紙メーカー5社が立て続けに発表する形で進行した。最初に動いた王子製紙を皮切りに、業界の慣行通り他社が追随し、半年以内に主要メーカー全社が10%以上の値上げを表明する展開となった。各社とも値上げは3年ぶりで、原燃料・資材価格の高止まり、物流費・人件費の上昇、環境対応投資の増加が共通の理由として挙げられている。
主要5社の値上げスケジュール
2025年8月1日、印刷用紙・情報用紙の価格改定を発表。中下級紙、上質紙、塗工紙、PPC用紙、フォーム用紙など幅広い品種を対象に、現行価格の10%以上の値上げを実施。大手5社の中で最初に動いたメーカーとなり、業界全体の価格改定の発端となった。
10%以上 対象:中下級紙・上質紙・塗工紙・PPC・フォーム用紙2025年8月29日、印刷用紙・情報用紙全般を対象に現行価格の10%以上の値上げを発表。王子製紙発表から約1カ月後の追随発表となり、業界の価格改定が本格化する局面を象徴した。包装用紙についても2026年1月1日出荷分から別途値上げを実施。
10%以上 印刷・情報用紙全般印刷・情報用紙・ファインペーパーを対象に現行価格の10%以上の値上げを発表。2026年2月1日出荷分からの適用となり、王子製紙・三菱製紙に続く第3波の値上げとして位置付けられる。
10%以上 印刷・情報用紙・ファインペーパー書籍用紙やコピー用紙などの印刷・情報用紙を対象に、対象全品種で10%以上の値上げを発表。ロール状の塗工紙の標準的な商品の場合、上げ幅は1キログラム20円前後になる見通し。値上げは3年ぶり。日本経済新聞によると、生産縮小により効率が低下しているほか、円安などによる資材価格の高止まり、人件費・物流費の上昇で採算が悪化しているとされる。老朽化した設備の更新や環境対応の投資負担の膨張も指摘されている。
10%以上 1kg約+20円(塗工紙標準品)印刷・情報用紙を対象に2026年2月から10%以上の値上げを発表。日本製紙の発表とほぼ同時期となり、大手5社が出揃った形となった。日本製紙連合会の4月の紙・板紙需給速報では、グラフィック用紙のマイナスが続く一方、パッケージング用紙はプラス傾向と業界全体の需要構造の変化も示されている。
10%以上 印刷・情報用紙段ボール・包装用紙・紙器も連動値上げ
印刷・情報用紙だけでなく、段ボール・包装用紙・紙器・家庭紙といった紙製品のほぼ全カテゴリーで価格改定が同時進行している。これは「印刷用紙だけの問題」ではなく、紙製品全体の構造的なコスト上昇局面に入ったことを示している。
| メーカー | 対象製品 | 値上げ幅 | 適用時期 |
|---|---|---|---|
| レンゴー | 段ボール原紙・紙管原紙・チップボール/段ボール製品・紙器製品 | 1kg 10円以上 | 2025年10月1日納品分〜 |
| 王子HD系 | 包装用紙 | 10%以上 | 2025年10月〜(2026年1月から再改定) |
| 三菱製紙 | 包装用紙 | 10%以上 | 2026年1月1日出荷分〜 |
| 日本製紙 | 包装用紙 全種 | 10%以上 | 2026年3月1日出荷分〜 |
| 大王製紙 | 包装用紙 | 10%以上 | 2026年1月1日納入分〜 |
| 大王製紙(エリエール) | 家庭用全紙製品(トイレットペーパー・ティッシュ・生理用品・乳児用紙おむつ等)/業務用 | 15%以上 | 2026年8月1日納品分〜 |
| ユニ・チャーム | 紙おむつ・生理用品 主力商品 | 数% | 2026年7月以降 順次 |
製紙業界では、大手1社が値上げを発表すると、同じコスト構造の悩みを抱える他社が追随するケースがほとんどである。今回の連続値上げも王子製紙が口火を切り、約3カ月以内に5社全社が出揃った。「特定メーカーを避ければ安心」とは言い切れない局面であり、代替品の確保や仕入れ先の多元化を進めるにも、業界全体の同期した動きへの対処を念頭に置く必要がある。
02「15%値上げ」の正体──大王製紙エリエール家庭紙の意味
本稿のタイトルにある「15%値上げ」という数字は、大王製紙が2026年5月15日に発表した「エリエール」ブランドの家庭用全紙製品の値上げ幅を指す。トイレットペーパー、ティッシュペーパー、生理用品、乳児用紙おむつ、ペーパータオルなど、消費者にも馴染みの深い製品が対象となった。適用は2026年8月1日納品分からで、病院や施設で扱う業務用品も同時に対象となる。
この発表が業界で特に注目されたのは、値上げ幅が15%以上と印刷・情報用紙の10%以上を超える水準だったこと、そして値上げ理由として明示的に「中東情勢の混乱に伴うナフサ由来のポリエチレン等の原料コスト上昇」が挙げられたことだ。家庭紙のうちトイレットペーパー本体やティッシュは紙パルプ製品だが、紙おむつ・生理用品の吸収体・防水層・包装フィルムなどには大量のポリエチレン・ポリプロピレンが使われており、これらがナフサショックの直撃を受けている。
ユニ・チャームも追随表明
同じ2026年5月、ユニ・チャームも紙おむつや生理用品を中心に主力商品を2026年7月以降、順次数%値上げする方針を明らかにした。値上げに合わせて商品のリニューアルも実施するという。家庭紙・衛生用品分野では、ナフサ由来資材の使用比率の高い製品ほど値上げ幅が大きくなる傾向が明確に表れている。
「印刷用紙10%」と「家庭紙15%」の幅の差は何を示すか
同じ製紙業界の値上げでありながら、印刷・情報用紙が「10%以上」で揃ったのに対し、家庭紙(特に紙おむつ・生理用品を含む大王製紙の発表)が「15%以上」となった理由は、製品コスト構造の違いに帰着する。印刷・情報用紙は主原料のパルプ・古紙が大きな比率を占めるのに対し、家庭紙(とりわけ衛生用品)はパルプに加えてポリエチレン・ポリプロピレン・吸水ポリマー(SAP)などのナフサ由来資材の使用比率が高い。中東情勢で直撃を受けたナフサ系資材の値上げが、家庭紙の値上げ幅を5ポイント押し上げた格好だ。
03三重圧力の構造──ナフサショック・パルプ高騰・物流費
製紙業界の値上げは、2022年の「コロナ後インフレ」局面以来3年ぶりの大規模なものだが、今回の特徴は単一の要因ではなく3つの圧力が同時に作用していることにある。各社の値上げ発表文を読むと、共通して指摘されているコスト上昇要因が明確に浮かび上がる。
──ナフサ由来資材の高騰
2026年2月末のホルムズ海峡封鎖を起点とするナフサ価格高騰は、製紙業界では塗工紙の樹脂コーティング、ラミネート紙、家庭紙の吸収体・防水層、包装フィルム、シーリング材、塗料、接着剤などナフサ由来資材を直撃。特にポリエチレンラミネート紙といった塗工紙製造分野では、調達リスクが高い企業の比率が業界最高水準となった。
──グローバル需給の逼迫
2025年2月積み対日パルプ価格は、包装用紙・家庭紙向けN-BKP(北米針葉樹)が1トン915ドル(前月比1%上昇)、印刷用紙向けL-BKP(南米広葉樹)が1トン695ドル(前月比3%上昇)と2カ月連続で上昇。欧州のNBSKパルプは2024年4月時点で1トン1,380ユーロという記録的水準を記録した。グローバルなパルプ需給逼迫が国内紙価格を継続的に押し上げる構造。
──構造コストの恒久的上昇
2024年問題による物流費上昇、製紙業の賃上げ・人手不足を背景とした労務費上昇、老朽化した設備の更新・環境対応投資負担の膨張──これらは中東情勢が落ち着いても解消されない構造的なコスト上昇要因。レンゴーは「賃上げの実施や人手不足の深刻化を背景とした労務費の上昇、物流コストのアップ」「設備の維持修繕費用の高騰、環境対策の実施」をバリューチェーン全般のコスト構造変化として明示した。
日銀統計が示す価格指数の上昇トレンド
日本銀行の国内企業物価指数(PPI)によると、パルプ・紙・同製品の指数は2026年3月時点で130.0(2020年=100基準)に達し、前年同月比4.3ポイント上昇、前月比0.2ポイント上昇と6カ月連続で上昇している。これは2018年1月の最小値92.3と比べて約41%の上昇に相当し、製紙業界の価格水準そのものが構造的に新しいフェーズに入ったことを示している。
注目すべきは、上昇が「単発のスパイク」ではなく「継続的なトレンド」になっている点だ。中東情勢が短期的に改善しても、パルプの世界需給・物流費・人件費・環境投資のコスト上昇は継続するため、紙価格はナフサショック以前の水準には戻りにくいというのが業界共通の認識となっている。
需要構造の変化──グラフィック用紙の減少とパッケージング用紙の増加
日本製紙連合会の2026年4月の紙・板紙需給速報によると、グラフィック用紙(新聞用紙・印刷用紙)はマイナスが続く一方、パッケージング用紙はプラス傾向にある。デジタルシフトによる新聞・出版市場の縮小、EC物流による段ボール需要の継続増加という需要構造の変化が、各品種のコスト転嫁圧力に微妙な差を生んでいる。需要が縮小する印刷・情報用紙でも価格改定を実施せざるを得ない事情には、生産縮小による単位コスト上昇という製紙業特有のジレンマがある。
04購買担当者の視点──実務的対処の選択肢
紙製品全般のコスト上昇局面において、購買担当者・資材メーカー・商社は短期・中期・長期の3つの時間軸で対処を組み立てる必要がある。本記事は特定の調達判断を推奨するものではないが、業界各種レポート・流通筋の議論を整理すると、概ね以下のパターンに集約される。
① 短期:値上げ前の駆け込み発注と在庫戦略
最も直接的な対処は、価格改定の適用日前に発注を確定させ、現行価格での仕入れを最大化することだ。ただし、流通在庫の保有期間や倉庫費・キャッシュフローへの影響とのバランス確認が必要。紙は重量物であり保管コストが嵩むため、過剰な在庫前倒しは別のリスクを生む。代理店・卸商の事前仕入れ状況も確認しながら、現実的な範囲での確保が原則となる。
② 中期:取引先メーカーの分散化と品種代替
製品グレードごとに王子製紙・日本製紙・大王製紙・三菱製紙・北越コーポレーションの品揃えを比較し、値上げ幅と納期が相対的に有利な選択肢を確保するアプローチ。ただし業界慣行として大手の値上げ発表は他社追随を招くため、絶対的な「逃げ場」はない。むしろ「複数メーカーとの取引関係を維持しておくこと」自体が、突発的な納期遅延や受注制限への保険となる。
同じ印刷・情報用紙でも、塗工紙・上質紙・PPC用紙・フォーム用紙・ファインペーパーで値上げ幅や納期遅延の実態に差が出ることがある。発注品種の見直しで吸収できる余地があるか、サンプル取り寄せと実機評価を含めて検討する局面と言える。
③ 長期:紙そのものの使用量削減と代替検討
より構造的な対応として、紙そのものの使用量を削減する選択肢もある。デジタル化(電子文書・電子書籍・電子インボイス)による紙使用量削減、再生紙比率の引き上げによるバージンパルプ依存度の低減、紙器から樹脂・金属容器への切り替えなどが含まれる。長期的にはパッケージングの設計そのものを見直し、輸送効率の高い容器・梱包への再設計が、紙価格上昇への根本的な対処となる。
ただし、紙器からの代替先となる樹脂容器・段ボール代替包装も、ナフサショックの影響を受けている品目が多い点には注意が必要だ。完全な逃げ場が存在しない以上、「使用量そのものを減らす」「サプライチェーンを多元化する」という王道の対処が、結局のところ最も効果的な戦略となる。
052026年下半期〜2027年の見通し
製紙業界の価格動向は、短期・中期・長期で異なるシナリオが想定される。現時点で報じられている各種データから読み取れる見通しを整理する。
2月発表の印刷・情報用紙10%値上げが流通在庫の入れ替わりを経て実勢価格に反映される時期。8月からは家庭紙15%値上げが適用され、消費者向け価格にも転嫁が広がる。購買・調達現場では値上げ後価格を前提とした年度予算の再策定が進む局面。
中東情勢が継続する場合、ナフサ由来資材の価格高止まりが続き、第2波の値上げ発表の可能性が浮上する。同時に、製紙業界では生産設備の集約・統廃合、グラフィック用紙からパッケージング用紙への生産シフトが加速。一部メーカーの新聞用紙生産設備停止など、業界再編の動きが本格化する局面。
値上げ後の価格水準が定着し、購買・調達戦略は「値上げ前に戻る」前提を捨てた設計へ移行。デジタル化・再生紙比率引き上げ・パッケージング設計見直しが本格化し、紙使用量そのものが減少するシナリオも視野に入る。製紙業界はパッケージング・産業用途への構造シフトを完成させ、グラフィック用紙の縮小均衡が進む。
業界各種レポートが共通して示すのは、2026年内に紙価格が中東情勢悪化前の水準に戻ることは期待しにくいという認識である。値上げ後の価格が「新標準」として定着し、購買・調達はその前提で長期的な戦略を組み立てる局面に入った。
出典・エビデンス一覧
- 日本製紙「印刷・情報用紙の価格改定について」(2025年11月13日発表)https://www.nipponpapergroup.com/news/year/2025/news251113006026.html
- 日本経済新聞「日本製紙、印刷紙を10%以上値上げ 資材や人件費上昇で」(2025年11月13日)https://www.nikkei.com/article/DGKKZO92577040T11C25A1QM8000/
- 時事通信「日本製紙、印刷・情報用紙値上げ」(2025年11月13日)https://sp.m.jiji.com/article/show/3651712
- 印刷ジャーナルDIGITAL「日本製紙、印刷・情報用紙を2026年2月から値上げ」https://www.pjl.co.jp/news/enterprise/2025/11/19333.html
- 印刷ジャーナルDIGITAL「王子製紙、印刷・情報用紙を10月1日出荷分から値上げ」(2025年8月)https://www.pjl.co.jp/news/enterprise/2025/09/19109.html
- 印刷ジャーナルDIGITAL「三菱製紙、印刷・情報用紙を10月21日出荷分から値上げ」https://www.pjl.co.jp/news/enterprise/2025/09/19108.html
- 北越コーポレーション「印刷・情報用紙の価格改定について」(2025年11月17日発表)https://hokuetsucorp.com/
- 北海道新聞「エリエール紙製品値上げ 大王製紙、原料コスト増で」(2026年5月15日)https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1312338/
- 共同通信/Yahoo!ニュース「エリエール紙製品値上げ 大王製紙、原料コスト増で」(2026年5月15日)https://news.yahoo.co.jp/articles/562e8ba063b6d3913584aae0de1d0f1a76a18434
- TBS NEWS DIG/Yahoo!ニュース「大王製紙 家庭用・業務用の全製品を値上げ 中東情勢の影響で」(2026年5月)https://news.yahoo.co.jp/articles/1733b9504dc87894312f63c02a803d3c8d6ecb2a
- レンゴー「段ボール原紙・紙管原紙・チップボール、段ボール製品・紙器製品の価格改定について」(2025年)https://www.rengo.co.jp/news/2025/25_news_031.html
- 日本経済新聞「レンゴー、段ボール原紙など値上げ」(2025年7月3日)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB037XA0T00C25A7000000/
- 日本経済新聞「王子HD系、包装用紙を10%以上値上げ 26年1月から」(2025年10月)https://www.nikkei.com/nkd/company/article/?DisplayType=1&ng=DGXZQOUC104NF0Q5A011C2000000
- ニュープリネット「日本製紙 包装用紙全種を10%以上値上げ、3月1日出荷分より」https://www.newprinet.co.jp/
- 日本経済新聞「パルプ2月積み価格が上昇」(2025年3月)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB1068P0Q5A310C2000000/
- GD Freak「グラフで見る!パルプ・紙・同製品の価格の推移」(日本銀行 企業物価指数より)https://jp.gdfreak.com/public/detail/jp010501006000010199/1
- actibook クラウドサーカス「2026年『ナフサ不足』の影響と実態」(2026年5月)https://actibook.cloudcircus.jp/media/column/2026-naphtha-crisis
- 古紙ジャーナル「【段ボール製品で価格修正】製品値上げ、段原紙据え置き連動性なき異例の動き」(2026年4月)https://kosijnl.co.jp/backnumber/company/35372.html
- 矢野経済研究所「2026年版 紙パルプ産業白書」https://mono.ipros.com/product/detail/2000431851/
- 浜田紙業「【2026年5月最新紙値上げ一覧】印刷用紙や情報用紙、産業用紙値上げを王子製紙や大王製紙、日本製紙等製紙メーカーが発表」https://kaminotakuhaibin.com/archives/9989