印刷・情報用紙15%値上げの構造分析|
日本製紙ら大手5社の第2波値上げと
ナフサショック・パルプ高騰・物流費上昇の三重圧力【2026年6月版】
2026年5〜6月、印刷・情報用紙は10%以上の初回値上げが浸透中の最中に、日本製紙・北越コーポレーション・大王製紙・王子製紙の大手4社が7〜8月出荷分から15%以上(大王は15〜20%、タック紙含む)の第2波値上げを連続発表した。エリエール家庭紙も8月から15%以上値上げが決定。背景にはナフサ由来資材・パルプ・物流費・人件費の同時上昇という製紙業界の構造変化がある。出版業界・印刷会社・段ボール業界・同人誌印刷の現場まで、川下産業への波及と購買・調達担当者の対処を一次ソースで深掘りした報道型レポート。
2026年5〜6月、製紙大手4社が第2波の連鎖値上げを発表。第1波(10%以上)の浸透中、日本製紙5月21日、大王5月27日(15〜20%)、北越6月2日、王子6月8日が7〜8月出荷分から15%以上を追加改定。エリエール家庭紙も8月から15%以上。ナフサショック・パルプ高騰・物流費上昇の三重圧力で、パルプ・紙の国内企業物価指数は130.0と6カ月連続上昇中。
01大手製紙5社の印刷・情報用紙 第1波値上げ──時系列で整理
印刷・情報用紙の価格改定は、2025年8月から2026年2月にかけて、大手製紙メーカー5社が立て続けに発表する形で進行した。最初に動いた王子製紙を皮切りに、業界の慣行通り他社が追随し、半年以内に主要メーカー全社が10%以上の値上げを表明する展開となった。各社とも値上げは3年ぶりで、原燃料・資材価格の高止まり、物流費・人件費の上昇、環境対応投資の増加が共通の理由として挙げられている。なお、この第1波が浸透していく途上の2026年5〜6月に、各社は15%以上の第2波値上げを連続発表することになる(詳細はセクション02)。
主要5社 第1波値上げのスケジュール
2025年8月1日、印刷用紙・情報用紙の価格改定を発表。中下級紙、上質紙、塗工紙、PPC用紙、フォーム用紙など幅広い品種を対象に、現行価格の10%以上の値上げを実施。大手5社の中で最初に動いたメーカーとなり、業界全体の価格改定の発端となった。
10%以上 対象:中下級紙・上質紙・塗工紙・PPC・フォーム用紙2025年8月29日、印刷用紙・情報用紙全般を対象に現行価格の10%以上の値上げを発表。王子製紙発表から約1カ月後の追随発表となり、業界の価格改定が本格化する局面を象徴した。包装用紙についても2026年1月1日出荷分から別途値上げを実施。
10%以上 印刷・情報用紙全般印刷・情報用紙・ファインペーパーを対象に現行価格の10%以上の値上げを発表。2026年2月1日出荷分からの適用となり、王子製紙・三菱製紙に続く第3波の値上げとして位置付けられる。
10%以上 印刷・情報用紙・ファインペーパー書籍用紙やコピー用紙などの印刷・情報用紙を対象に、対象全品種で10%以上の値上げを発表。ロール状の塗工紙の標準的な商品の場合、上げ幅は1キログラム20円前後になる見通し。値上げは3年ぶり。日本経済新聞によると、生産縮小により効率が低下しているほか、円安などによる資材価格の高止まり、人件費・物流費の上昇で採算が悪化しているとされる。老朽化した設備の更新や環境対応の投資負担の膨張も指摘されている。
10%以上 1kg約+20円(塗工紙標準品)印刷・情報用紙を対象に2026年2月から10%以上の値上げを発表。日本製紙の発表とほぼ同時期となり、大手5社が出揃った形となった。日本製紙連合会の4月の紙・板紙需給速報では、グラフィック用紙のマイナスが続く一方、パッケージング用紙はプラス傾向と業界全体の需要構造の変化も示されている。
10%以上 印刷・情報用紙段ボール・包装用紙・紙器も連動値上げ
印刷・情報用紙だけでなく、段ボール・包装用紙・紙器・家庭紙といった紙製品のほぼ全カテゴリーで価格改定が同時進行している。これは「印刷用紙だけの問題」ではなく、紙製品全体の構造的なコスト上昇局面に入ったことを示している。
| メーカー | 対象製品 | 値上げ幅 | 適用時期 |
|---|---|---|---|
| レンゴー | 段ボール原紙・紙管原紙・チップボール/段ボール製品・紙器製品 | 1kg 10円以上 | 2025年10月1日納品分〜 |
| 王子HD系 | 包装用紙 | 10%以上 | 2025年10月〜(2026年1月から再改定) |
| 三菱製紙 | 包装用紙 | 10%以上 | 2026年1月1日出荷分〜 |
| 日本製紙 | 包装用紙 全種 | 10%以上 | 2026年3月1日出荷分〜 |
| 大王製紙 | 包装用紙 | 10%以上 | 2026年1月1日納入分〜 |
| 日本製紙 | 飲料用紙パック・プラ製ストロー等副資材 | 10%以上 | 2026年7月1日納入分〜 |
| 大王製紙(エリエール) | 家庭用全紙製品(トイレットペーパー・ティッシュ・生理用品・乳児用紙おむつ等)/業務用 | 15%以上 | 2026年8月1日納品分〜 |
| ユニ・チャーム | 紙おむつ・生理用品 主力商品 | 数% | 2026年7月以降 順次 |
製紙業界では、大手1社が値上げを発表すると、同じコスト構造の悩みを抱える他社が追随するケースがほとんどである。今回の連続値上げも王子製紙が口火を切り、約3カ月以内に5社全社が出揃った。「特定メーカーを避ければ安心」とは言い切れない局面であり、代替品の確保や仕入れ先の多元化を進めるにも、業界全体の同期した動きへの対処を念頭に置く必要がある。
02第2波値上げ──大手4社が15%以上の追加改定を3週間で揃える
2026年5〜6月、製紙業界は第1波(10%以上)の浸透途上にあるにもかかわらず、第2波の値上げ発表ラッシュに突入した。発端は2026年5月21日に発表された日本製紙の追加値上げである。同社は印刷用紙・情報用紙全般を対象に、現行価格より15%以上の値上げを2026年7月21日出荷分から実施すると公表した。値上げ理由として「中東情勢の緊迫化に伴う原材料の調達環境への深刻な影響」「ナフサをはじめとする原燃料の高騰」を明示しており、第1波(10%以上)の発表理由が「人件費・物流費・環境投資」中心であったのとは性質が異なる、原料コスト直撃型の価格改定となっている。
日本製紙の追加発表からわずか18日で、大王製紙(5月27日)、北越コーポレーション(6月2日)、王子製紙(6月8日)が相次いで追随した。第1波で半年かけて出揃った大手の動きが、第2波では3週間以内に揃う異例のスピードとなった。これは原燃料コスト上昇のスピードと深刻度を示すとともに、業界全体が「コスト転嫁の遅れは即経営危機」という共通認識を持って動いていることを示唆している。
第1波(2025年8月〜2026年2月発表/10%以上)と第2波(2026年5月〜6月発表/15%以上)は、わずか3〜5カ月のインターバルで連続発表された。これは前回値上げ局面(2021〜2022年のウクライナショック時)に類似する展開であり、当時も製紙各社は半年で2〜3回の追加値上げを実施した経緯がある。第2波の特徴は、(1)値上げ幅が10%以上→15%以上(大王はタック紙を含めて15〜20%)に拡大、(2)理由として明示的に「中東情勢」「ナフサ」が記載、(3)発表ラッシュの期間が3週間と異例の短さ、の3点である。
第2波 大手4社の値上げスケジュール
印刷用紙・情報用紙全般を対象に、現行価格より15%以上の値上げを発表。発表文では「複数の原燃料メーカーからナフサをはじめとする原燃料の高騰に伴う価格改定を受けており、今後も中東情勢の動向により大きく変動することが予想される」と明記。第1波(2月2日出荷分〜10%以上)からわずか3カ月余りでの追加値上げとなった。
15%以上 印刷用紙・情報用紙 全般 中東情勢・ナフサ 明示印刷・情報用紙に加えてタック紙(粘着加工紙)を対象に、現行価格より15〜20%の値上げを発表。第2波4社の中で値上げ幅の上限が最も高く、対象品種も広範囲に及ぶ。タック紙はラベル印刷・シール印刷の基材として広く使われており、物流向けバーコードラベル、医薬品・食品ラベル、販促POPなど産業横断的な影響が想定される。第1波(2月1日出荷分〜10%以上)からほぼ5カ月での再値上げで、印刷・情報用紙と家庭紙の両分野でナフサショックを反映する形となった。
15〜20% 印刷・情報用紙・タック紙 家庭紙と同時改定印刷用紙と情報用紙の価格を7月21日出荷分から15%以上引き上げると発表。中東危機の長期化で原燃料価格が上昇している分を反映する。日本経済新聞は「石油由来のナフサが不足し、製紙過程で使う化学品が値上がりしている。生産設備の整備費や人件費が上がっているうえ、デジタル化による需要減少で紙の生産効率も低下している」と報じた。日本製紙と同じ7月21日出荷分という発効日で歩調を合わせた。
15%以上 印刷用紙・情報用紙印刷用紙・情報用紙を中心とする製品全般を対象に、現行価格より15%以上の値上げを2026年8月1日出荷分から実施すると発表。同社は値上げ理由として、(1)原燃料価格の高止まりに加えた人件費・物流費の上昇、(2)主原料の木材チップが中国製紙メーカーの需要拡大とアジア地域の豪雨・洪水の影響で価格上昇、(3)中東情勢の不安定化に伴うエネルギーコスト、製紙工程で使用する薬品・抄紙用具・包装資材、設備保全に関わる工事費・建築資材、製品輸送費まで幅広いコストの上昇──を挙げた。王子製紙の発表で大手4社の追加値上げが出揃った。
15%以上 印刷用紙・情報用紙 大手4社で出揃う第1波と第2波の比較──インターバルの短さが示すもの
| メーカー | 第1波 適用 | 第1波 幅 | 第2波 適用 | 第2波 幅 | インターバル |
|---|---|---|---|---|---|
| 日本製紙 | 2026年2月2日 | 10%以上 | 2026年7月21日 | 15%以上 | 約5カ月半 |
| 大王製紙 | 2026年2月1日 | 10%以上 | 2026年7月1日 | 15〜20% | 約5カ月 |
| 北越コーポレーション | 2026年2月 | 10%以上 | 2026年7月21日 | 15%以上 | 約5カ月半 |
| 王子製紙 | 2025年10月1日 | 10%以上 | 2026年8月1日 | 15%以上 | 約10カ月 |
| 三菱製紙 | 2025年10月21日 | 10%以上 | 未発表(2026年6月時点) | ── | ── |
第1波と第2波のインターバルは、王子製紙を除いてわずか5カ月前後と異例の短さである。製紙業界の通常の価格改定サイクルは1〜2年に1回程度であり、半年以内の追加値上げは原燃料コストショック時の特徴的なパターンとされる。前回これと類似の展開を見せたのが2022年のウクライナショック時で、当時は1年で2〜3回の追加値上げが実施された。今回も同様のパターンに入った可能性が高く、購買担当者には「第3波の発表可能性」を視野に入れた中期計画の見直しが求められる局面となっている。
取引価格の実勢──第1波値上げが「ほぼ浸透」
日本経済新聞の市況報道によれば、2026年5月時点で印刷用紙の主要品種の取引価格は前月比8%程度上昇し、値上がりは約1年ぶりとなった。主要品種であるロール状の塗工紙(巻き取り、A3規格)の代理店卸価格は、1キログラム207〜238円前後と中心値で前月比16円程度の上昇となった。これは第1波(2025年8月発表分以降)の値上げが、人件費・物流費の上昇を受けた値上げを大手印刷会社などが受け入れる形で「ほぼ浸透」した状態を示している。第2波の15%以上値上げが浸透した場合、塗工紙の代理店卸価格は単純計算で1kg 240〜270円前後の水準に達する可能性があり、これは1997年9月以降の集計データを更新する歴史的高値となる。
03「15%値上げ」のもう一つの顔──エリエール家庭紙と紙パック
本稿のタイトルにある「15%値上げ」という数字は、印刷・情報用紙の第2波値上げ幅と同じ水準であるが、もう一つの文脈──大王製紙が2026年5月15日に発表した「エリエール」ブランドの家庭用全紙製品の値上げ幅──を指す側面もある。トイレットペーパー、ティッシュペーパー、生理用品、乳児用紙おむつ、ペーパータオルなど、消費者にも馴染みの深い製品が対象となった。適用は2026年8月1日納品分からで、病院や施設で扱う業務用品も同時に対象となる。
この発表が業界で特に注目されたのは、値上げ幅が15%以上と印刷・情報用紙の第1波(10%以上)を超える水準だったこと、そして値上げ理由として明示的に「中東情勢の混乱に伴うナフサ由来のポリエチレン等の原料コスト上昇」が挙げられたことだ。家庭紙のうちトイレットペーパー本体やティッシュは紙パルプ製品だが、紙おむつ・生理用品の吸収体・防水層・包装フィルムなどには大量のポリエチレン・ポリプロピレンが使われており、これらがナフサショックの直撃を受けている。
結果として、エリエール家庭紙の発表(5月15日)を契機に、わずか1週間後(5月21日)に日本製紙の印刷・情報用紙第2波発表が続いた格好となり、製紙業界全体のナフサショック反映のドミノが連鎖した形である。
ユニ・チャームも追随表明
同じ2026年5月、ユニ・チャームも紙おむつや生理用品を中心に主力商品を2026年7月以降、順次数%値上げする方針を明らかにした。値上げに合わせて商品のリニューアルも実施するという。家庭紙・衛生用品分野では、ナフサ由来資材の使用比率の高い製品ほど値上げ幅が大きくなる傾向が明確に表れている。
飲料用紙パックも値上げ──日本製紙が5月12日発表
2026年5月12日、日本製紙は牛乳やジュースなどの飲料用紙パックを2026年7月1日納入分から10%以上値上げすると発表した。プラスチック製ストローなどの副資材も同時に価格を改定する。日本経済新聞は「ホルムズ海峡の事実上の封鎖による影響でナフサ由来の材料が高騰した」と報じており、飲料用紙パックの内側コーティング(防水・品質保持目的)にナフサ由来素材が使われていることが値上げの直接要因とされる。輸送費上昇も理由として挙げられた。乳業メーカー・飲料メーカーは紙パック価格と内容物コストの両面で値上げ圧力に直面しており、店頭価格への波及は2026年下半期以降本格化する見通しである。
「印刷用紙10%」「家庭紙15%」「印刷・情報用紙15-20%(第2波)」の値上げ幅の意味
同じ製紙業界の値上げでありながら、印刷・情報用紙の第1波が「10%以上」、家庭紙が「15%以上」、印刷・情報用紙の第2波が「15%以上」(大王はタック紙含めて15〜20%)と段階的に拡大した背景には、製品コスト構造の違いと、ナフサショックの進行度合いがある。印刷・情報用紙の第1波は主にパルプ・古紙・電力・物流・人件費・環境投資の上昇を反映したものだったが、第2波と家庭紙はナフサ由来資材の高騰を直接転嫁する形となった。製紙工程の塗工紙樹脂・コーティング材・塗料・接着剤・薬品はいずれもナフサ由来であり、印刷・情報用紙の第2波もこのコスト要因を主因としている。とりわけタック紙(粘着加工紙)は粘着剤・剥離紙のシリコーン樹脂等にナフサ由来資材を多用するため、大王製紙の値上げ幅が最大20%に達した背景にはこの構造がある。
04三重圧力の構造──ナフサショック・パルプ高騰・物流費
製紙業界の値上げは、2022年のウクライナショック後の局面以来の大規模なものだが、今回の特徴は単一の要因ではなく3つの圧力が同時に作用していることにある。各社の値上げ発表文を読むと、共通して指摘されているコスト上昇要因が明確に浮かび上がる。
──ナフサ由来資材の高騰
2026年2月末のホルムズ海峡封鎖を起点とするナフサ価格高騰は、製紙業界では塗工紙の樹脂コーティング、ラミネート紙、家庭紙の吸収体・防水層、タック紙の粘着剤・剥離紙、包装フィルム、シーリング材、塗料、接着剤などナフサ由来資材を直撃。国産ナフサ基準価格は2026年第1四半期で1キロリットル65,700円とほぼ前期並みだったが、ホルムズ海峡封鎖の影響が反映される第2四半期は2倍近くに上昇する見込み。実勢では2026年6月時点で1キロリットル125,103円という歴史的高値に達している。
──パルプ・木材チップ・古紙
2025年2月積み対日パルプ価格は、包装用紙・家庭紙向けN-BKP(北米針葉樹)が1トン915ドル、印刷用紙向けL-BKP(南米広葉樹)が1トン695ドルで2カ月連続上昇。欧州のNBSKパルプは2024年4月に1トン1,380ユーロの記録的水準。さらに王子製紙の第2波発表文によれば、主原料の木材チップが中国製紙メーカーの需要拡大とアジア地域の豪雨・洪水の影響で価格上昇が進んでいる。古紙価格も高止まりしており、原料3カテゴリーが同時に上昇する状況。
──構造コストの恒久的上昇
2024年問題による物流費上昇、製紙業の賃上げ・人手不足を背景とした労務費上昇、老朽化した設備の更新・環境対応投資負担の膨張──これらは中東情勢が落ち着いても解消されない構造的なコスト上昇要因。王子製紙の第2波発表文では「製紙工程で使用する薬品、抄紙用具、包装資材、設備保全に関わる工事費や建築資材、製品輸送費まで幅広いコストが上昇している」と説明されており、上流から下流まで連鎖的なコスト上昇が起きている。
ナフサ価格の最新動向──Q2で2倍近くに上昇
化学工業日報「国産ナフサ価格、過去最高へ 1~3月は横ばい」(2026年4月30日付)によれば、2026年第1四半期(1〜3月)の国産ナフサ基準価格は1キロリットル65,700円で前期からほぼ横ばいだった。これはベースとなる輸入ナフサ価格が中東情勢悪化前の期間(2025年11月後半〜2月前半)の市況で円換算されたためで、ナフサ市況そのものは1トン565〜590ドルの低位安定で推移していた。しかし、ホルムズ海峡封鎖を受けて3月以降のナフサ需給環境は一変し、2月末に1トン600ドル未満だったナフサ市況は3月末(5月前半到着分)に1,200ドル超に達した。同紙は4〜6月期の国産ナフサ基準価格は金額・上昇幅とも過去最高を大幅に更新する可能性が高いと報じている。
実勢では、ナフサのスポット価格は2026年5月にピークを付けた後、米国産ナフサの輸入増などを背景に6月初旬にかけて一時下落した。ただし、これは危機の収束を意味せず、四半期ごとに改定される国産ナフサの基準価格は4〜6月期に大きく上昇する見込みで、ポリエチレン・ポリプロピレンの大手メーカーは4月以降価格改定を発表している。スポット価格が乱高下する一方で、川下のプラスチック原料・包装資材の価格は上昇基調が続いており、製紙業界はこの上流コスト上昇を第2波値上げで転嫁する局面に入った。
日銀統計が示す価格指数の上昇トレンド
日本銀行の国内企業物価指数(PPI)によると、パルプ・紙・同製品の指数は2026年3月時点で130.0(2020年=100基準)に達し、前年同月比4.3ポイント上昇、前月比0.2ポイント上昇と6カ月連続で上昇している。これは2018年1月の最小値92.3と比べて約41%の上昇に相当し、製紙業界の価格水準そのものが構造的に新しいフェーズに入ったことを示している。注目すべきは、上昇が「単発のスパイク」ではなく「継続的なトレンド」になっている点だ。中東情勢が短期的に改善しても、パルプの世界需給・物流費・人件費・環境投資のコスト上昇は継続するため、紙価格はナフサショック以前の水準には戻りにくい。第2波値上げが反映される2026年下半期のPPIはさらに上昇する見込みである。
需要構造の変化──グラフィック用紙の減少とパッケージング用紙の増加
日本製紙連合会の2026年4月の紙・板紙需給速報によると、グラフィック用紙(新聞用紙・印刷用紙)はマイナスが続く一方、パッケージング用紙はプラス傾向にあった。ただし5月の速報ではグラフィック用紙・パッケージング用紙ともに前年同月比マイナスに転じており、第1波値上げ後の駆け込み発注の反動や、デジタルシフトの加速、消費低迷の影響が混在している可能性がある。デジタルシフトによる新聞・出版市場の縮小、EC物流による段ボール需要の継続増加という需要構造の変化は基本トレンドとして続いており、各品種のコスト転嫁圧力に微妙な差を生んでいる。需要が縮小する印刷・情報用紙でも価格改定を実施せざるを得ない事情には、生産縮小による単位コスト上昇という製紙業特有のジレンマがある。
05川下産業への波及──出版・印刷・段ボール・同人誌の現場
製紙メーカーの値上げは、サプライチェーンの川下にある印刷会社・出版社・パッケージング業界・小売業まで連鎖的に波及する。本セクションでは2026年6月時点で確認できる川下への影響を、業界ごとに整理する。
JAGAT「数字で読み解く印刷産業2026」によれば、2025年の紙の出版物(書籍・雑誌)販売金額は9,647億円(前年比4.1%減)となり、1975年以来50年ぶりに1兆円を割り込んだ。電子出版は5,815億円(同2.7%増)で紙+電子の出版市場規模は1兆5,462億円(同1.6%減)。書籍1冊あたりの加重平均価格(本体)は2024年で1,306円と5年で10%上昇し、文庫新刊は801円で5年14%上昇。出版社は紙値上げを書籍価格に転嫁する一方で、初版部数削減・重版抑制・ページ数削減・紙質変更・企画中止といった「見えにくい縮小」も同時に進行している。
帝国データバンクが2026年5月7日に発表した「印刷業」の倒産・休廃業解散動向(2025年度)によれば、2025年度の印刷業の休廃業・解散は230件(前年度比18.6%・36件増)で年間最多を更新、倒産(法的整理・負債1,000万円以上)91件と合わせ年間300件超が市場から退出した。デジタル化による「ペーパーレス化」、紙やインク等の資材高騰、人材難、代表者の高齢化が経営課題となっている。印刷業全体の売上高はピーク(2007年度8.3兆円)に比べ約7割(5.8兆円)の水準まで縮小。印刷メディア広告費も2025年で1兆1,929億円(前年比6.0%減)と4年連続マイナス(電通「2025年日本の広告費」)。需要減と原材料費上昇のダブルパンチで中小印刷会社の経営体力は限界に近づいており、第2波値上げの吸収余地は乏しい。
2026年4月下旬以降、同人誌の印刷費が急騰し、X(旧Twitter)でトレンド入りするほどの話題となった。サンライズ印刷(5月15日入稿分から)、大陽出版(5月11日発注分から)、志免研(5月7日注文分から約10%前後)など複数の同人誌専門印刷所が価格改定を発表。一部サークルでは「見積もりが5月以降約5倍になった」という報告も拡散した(条件依存)。中小印刷所はコスト吸収能力が大手より低く、原料高の影響がダイレクトに反映される傾向にある。同人文化はコミケ以降「安く刷って広く配る」インフラに支えられてきたが、その前提が揺らいでいる。
段ボール需要はEC物流の継続成長で底堅いものの、レンゴーの段ボール原紙1kg+10円以上値上げ(2025年10月〜)、王子マテリアの包装用紙10%以上値上げ(2026年1月〜)、日本製紙の包装用紙10%以上値上げ(2026年3月〜)が連鎖的に発表され、川下の食品・日用品・通販各社の包装コストを直接押し上げている。古紙ジャーナル(2026年4月)は「段ボール製品で価格修正、段原紙据え置きという連動性なき異例の動き」を報じており、業界内のコスト転嫁の歪みも顕在化している。
大王製紙の第2波で対象となったタック紙(粘着加工紙)は、物流向けバーコードラベル、医薬品ラベル、食品ラベル、販促POPなどラベル・シール印刷業界の基幹素材。15〜20%という業界最大の値上げ幅は、ラベル印刷会社の原価構造を直撃する。タック紙の粘着剤・剥離紙のシリコーン樹脂はナフサ由来であり、原料コスト直撃型の典型例。サプライチェーンの末端では、商品ラベル・配送ラベル・販促ステッカーのコスト上昇として小売・物流業界全体に波及する。
日本製紙の飲料用紙パック10%以上値上げ(2026年7月1日納入分〜)は、牛乳・ジュース・豆乳など液体食品メーカーの容器コストを押し上げる。紙パックの内側コーティング(防水・品質保持目的)にはポリエチレン等のナフサ由来素材が使われており、ナフサショックの直撃を受けている。プラスチック製ストロー等副資材も同時値上げ。乳業・飲料メーカーは紙パック値上げと内容物原料コスト上昇のダブル圧力下にあり、店頭価格への転嫁は2026年下半期から本格化する見通しである。
actibook「2026年『ナフサ不足』の影響と実態」によれば、「パルプ・紙・紙加工品製造」業種のうち、ハンバーガー包装紙やコーヒーフィルター等に使用されるポリエチレンラミネート紙といった「塗工紙製造」が最も調達リスクが高く、80.1%(113社/141社)を占めた。塗工紙はナフサ由来の樹脂コーティングが必須であり、ナフサ価格高騰の影響を構造的に避けられない。第2波値上げは、この調達リスクの構造を製紙メーカー側から価格転嫁する形で反映したものと位置付けられる。
06購買・調達の現場対応と2026年下半期〜2027年見通し
第2波値上げが7〜8月出荷分から適用される今、購買担当者・資材メーカー・商社には限られた時間軸の中で意思決定が求められる。本記事は特定の調達判断を推奨するものではないが、実務的な選択肢と中長期シナリオを整理する。
現場対応の3つの選択肢
① 短期(〜2026年7月中旬):駆け込み発注と在庫戦略──第2波値上げは大手4社とも7〜8月出荷分から適用されるため、2026年6月末〜7月中旬が当面の駆け込み発注のタイミングの境目となる。ただし紙は重量物で保管コストが嵩むため、過剰な在庫前倒しは別のリスクを生む。代理店・卸商の事前仕入れ状況とキャッシュフローを踏まえた現実的な確保が原則。
② 中期(2026年下半期〜2027年):取引先分散化と品種代替──製品グレードごとに大手5社の品揃えを比較し、相対的に有利な選択肢を確保。ただし業界慣行として大手の値上げは追随を招くため絶対的な逃げ場はなく、第2波時点で未発表の三菱製紙も追随する可能性が高い。むしろ「複数メーカーとの取引関係を維持しておくこと」自体が、突発的な納期遅延や受注制限への保険となる。同じ印刷・情報用紙でも、塗工紙・上質紙・PPC用紙・フォーム用紙・ファインペーパー・タック紙で値上げ幅や納期遅延の実態に差が出る場合があり、発注品種の見直し余地も検討対象となる。
③ 長期:紙そのものの使用量削減と代替検討──デジタル化(電子文書・電子書籍・電子インボイス)、再生紙比率の引き上げ、紙器から樹脂・金属容器への切り替え、パッケージング設計の見直しなど構造的な対応。ただし樹脂容器もナフサショックの影響下にあるため、完全な逃げ場は存在しない。「使用量そのものを減らす」「サプライチェーンを多元化する」という王道の対処が、結局のところ最も効果的な戦略となる。
2026年下半期〜2027年の3シナリオ
第1波(10%以上)の浸透途上で、7〜8月出荷分から第2波(15%以上、大王は15〜20%)の適用が始まる。8月からは家庭紙15%値上げ、7月から飲料用紙パック10%値上げも適用。三菱製紙の第2波追随発表が出るかどうかが、業界全体の追加値上げ局面入りを示すシグナルとなる。購買・調達現場では値上げ後価格を前提とした年度予算の再策定が進む局面。
中東情勢が継続する場合、ナフサ由来資材の価格高止まりが続き、第3波の値上げ発表の可能性が浮上する。2022年のウクライナショック時は半年で2〜3回の追加値上げが実施された経緯があり、今回も同様のパターンに入った可能性が高い。同時に、製紙業界では生産設備の集約・統廃合、グラフィック用紙からパッケージング用紙への生産シフトが加速。中小印刷会社の倒産は年300件超のペースが継続し、業界再編が本格化する局面。
値上げ後の価格水準が定着し、購買・調達戦略は「値上げ前に戻る」前提を捨てた設計へ移行。デジタル化・再生紙比率引き上げ・パッケージング設計見直しが本格化し、紙使用量そのものが減少するシナリオも視野に入る。製紙業界はパッケージング・産業用途への構造シフトを完成させ、グラフィック用紙の縮小均衡が進む。出版業界は紙書籍の縮小と電子書籍のシェア拡大が同時進行し、印刷会社は付加価値型・小ロット・特殊加工へのシフトが生き残り条件となる。
業界各種レポートが共通して示すのは、2026年内に紙価格が中東情勢悪化前の水準に戻ることは期待しにくいという認識である。第2波値上げまで実行されたことで「値上げ前に戻る」シナリオは事実上消滅し、第2波後の価格が「新標準」として定着する可能性が高い。購買・調達はその前提で長期的な戦略を組み立てる局面に入った。
出典・エビデンス一覧
- 日本製紙「印刷・情報用紙の価格改定について」(2026年5月21日発表/第2波 15%以上)https://www.nipponpapergroup.com/news/2026/news260521160000.html
- logi-today「王子製紙、印刷・情報用紙を15%以上値上げ」(2026年6月8日発表/木材チップ・中東情勢・薬品・抄紙用具・包装資材まで言及)https://www.logi-today.com/962382
- RTB SQUARE「王子製紙、印刷・情報用紙を15%以上値上げ 製紙大手の値上げ揃う」(2026年6月/第2波 大手4社揃う・各社適用日一覧)https://rtbsquare.work/archives/60581
- ニュープリネット「大王製紙 印刷・情報用紙とタック紙を15〜20%値上げ、7月1日出荷分より」(2026年5月27日発表/第2波 業界最大の値上げ幅)https://www.newprinet.co.jp/
- 日本経済新聞「北越コーポレーション、印刷用紙など値上げ 7月出荷分から15%以上」(2026年6月2日/第2波)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB0295J0S6A600C2000000/
- 日本経済新聞「印刷用紙8%値上がり 製紙、採算確保へ人件費など転嫁」(2026年5月27日/第1波の浸透状況・塗工紙卸価格207〜238円)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB2540F0V20C26A5000000/
- 日本経済新聞「日本製紙、飲料用紙パックなど10%値上げ 原料高騰で」(2026年5月12日/ホルムズ封鎖言及)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC129A20S6A510C2000000/
- 日本製紙「印刷・情報用紙の価格改定について」(2025年11月13日発表/第1波 10%以上)https://www.nipponpapergroup.com/news/year/2025/news251113006026.html
- 日本経済新聞「日本製紙、印刷紙を10%以上値上げ 資材や人件費上昇で」(2025年11月13日)https://www.nikkei.com/article/DGKKZO92577040T11C25A1QM8000/
- 印刷ジャーナルDIGITAL「王子製紙、印刷・情報用紙を10月1日出荷分から値上げ」(2025年8月)https://www.pjl.co.jp/news/enterprise/2025/09/19109.html
- 印刷ジャーナルDIGITAL「三菱製紙、印刷・情報用紙を10月21日出荷分から値上げ」https://www.pjl.co.jp/news/enterprise/2025/09/19108.html
- 大王製紙「家庭用・業務用製品の価格改定について」(2026年5月15日発表/エリエール 15%以上)https://www.daio-paper.co.jp/news/
- 北海道新聞「エリエール紙製品値上げ 大王製紙、原料コスト増で」(2026年5月15日)https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1312338/
- 時事通信/Yahoo!ニュース「大王製紙やユニ・チャーム、原材料高で紙おむつ値上げへ」(2026年5月15日)https://news.yahoo.co.jp/articles/faee600741542faf611598ef713e88d3319399f8
- レンゴー「段ボール原紙・紙管原紙・チップボール、段ボール製品・紙器製品の価格改定について」(2025年)https://www.rengo.co.jp/news/2025/25_news_031.html
- 日本経済新聞「王子HD系、包装用紙を10%以上値上げ 26年1月から」(2025年10月)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC104NF0Q5A011C2000000/
- 化学工業日報「国産ナフサ価格、過去最高へ 1~3月は横ばい」(2026年4月30日/Q2は2倍近く上昇見込み)https://chemicaldaily.com/archives/797566
- 日本経済新聞「国産ナフサ価格、1〜3月ほぼ横ばい 中東危機で4〜6月は2倍弱上昇へ」(2026年4月28日)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB260OO0W6A420C2000000/
- GD Freak「グラフで見る!パルプ・紙・同製品の価格の推移」(日本銀行 企業物価指数より)https://jp.gdfreak.com/public/detail/jp010501006000010199/1
- 帝国データバンク「『印刷業』の倒産・休廃業解散動向(2025年度)」(2026年5月7日発表/一次ソース)https://www.tdb.co.jp/report/industry/260507-printing25fy/
- JAGAT「出版・広告・小売業界と印刷産業〜2025年」(2025年紙書籍9,647億円・50年ぶり1兆円割れ/印刷メディア広告費1兆1,929億円)https://www.jagat.or.jp/archives/548351
- 日本経済新聞「書籍、5年で1割値上げ 印刷用紙・物流費が上昇 新刊の文庫、1000円超も」(2025年11月/書籍1冊1,306円・文庫801円)https://www.nikkei.com/article/DGKKZO92760080R21C25A1QM8000/
- ワタナベ流通「紙は高級品になるのか」(出版業界・教科書業界への影響整理)https://www.wataryu.co.jp/column/industrynews01/
- 橘川幸夫note「印刷費高騰で揺らぐ同人誌文化の転換点」(2026年4月〜5月/同人誌印刷所の値上げ事例)https://note.com/metakit/n/nb3b2341ecf99
- actibook クラウドサーカス「2026年『ナフサ不足』の影響と実態」(2026年5月/塗工紙製造の調達リスク80.1%)https://actibook.cloudcircus.jp/media/column/2026-naphtha-crisis
- 機能紙選定ナビ「ホルムズ海峡封鎖で包装資材・食品パッケージが届かない?」(2026年6月/ナフサ価格動向)https://www.tamura1753.jp/Functional-Paper-Selection/blog90/
- 古紙ジャーナル「段ボール製品で価格修正、段原紙据え置き連動性なき異例の動き」(2026年4月)https://kosijnl.co.jp/backnumber/company/35372.html
- 浜田紙業「【2026年6月最新紙値上げ一覧】印刷用紙や情報用紙、産業用紙値上げを王子製紙や大王製紙、日本製紙等製紙メーカーが発表」https://kaminotakuhaibin.com/archives/9989