ニュースで聞くイラン情勢が招く「2026年シンナーショック」をやさしく解説、
外壁塗装の見積が急に
高くなった本当の理由
家計と暮らしへの影響を、一般の方向けにわかりやすく解説します【2026年6月29日更新版/米イラン覚書合意・アスクル直販開始など最新情報を反映】
2026年、外壁塗装やDIYに使う「シンナー」が値段大幅上昇。原因は中東のホルムズ海峡封鎖。日本ペイント75%・関西ペイント50%超値上げ、実勢価格3.75倍も。30坪戸建外壁塗装で施主負担増+15〜25万円。6/14米イラン覚書合意・6/25ナフサ627ドル/t(衝突前下回る)・6/23アスクル直販開始で局面転換。値下がりは下半期以降の見通し。
2026年6月、状況に大きな変化がありました
初版公開(6月5日)以降、米国とイランが6月14日に「イスラマバード覚書」に合意(6月17日G7サミットで正式署名)。6月19日にはタンカー6隻がホルムズ海峡を通過し、6月25日にアジアのナフサ価格が衝突前の水準を下回りました。さらに6月23日からアスクルによるシンナー直販ルートもスタート。本記事では、これらの動きが家計にどう影響するかをCHAPTER 08「2026年6月の新展開」で詳しく解説しています。
「外壁塗装の見積をもらったら、思っていたより20万円近く高かった」「ホームセンターのシンナーコーナーから商品が消えている」「DIYで補修したかったのに、業者から『シンナーが入らないのでしばらく工事できません』と言われた」──2026年に入ってから、このような声が全国の家庭から聞こえてくるようになりました。
この背景にあるのが、メディアで「2026年シンナーショック」「シンナー目詰まり」と呼ばれている現象です。本記事では、専門用語をできるだけ使わず、一般の方が暮らしと家計への影響を理解できるよう、やさしく解説します。なぜシンナー不足が起きたのか、私たちの生活にどう影響するのか、施主としてどう対処すればよいのか──そして、2026年6月に起きた局面転換とその意味について、順番に見ていきましょう。
そもそも「シンナー」って何?──暮らしの意外なところで使われている液体
「シンナー」と聞くと、ペンキ屋さんが使っている独特なにおいの液体を思い浮かべる方が多いかもしれません。実際その通りで、シンナーは塗料を薄めたり、塗装に使った道具を洗ったりするための「希釈剤・洗浄剤」です。料理にたとえると、味噌汁を作るときの「お湯」のような存在で、塗料の濃さを調節して塗りやすくするために欠かせない液体です。
塗料は「コーヒー豆」だとすると、シンナーは「お湯」のようなもの。コーヒー豆だけでは飲めず、お湯で薄めて初めて飲める状態になります。同じように、塗料もシンナーで薄めて初めて、刷毛やローラーで塗れる状態になるのです。お湯(シンナー)が手に入らないと、いくらコーヒー豆(塗料)があっても、コーヒー(塗装作業)は成立しません。
シンナーが使われている場面は、私たちの想像以上に幅広いのが特徴です。代表例として、家の外壁塗装や屋根塗装、自動車のキズや事故修理時の塗り直し(板金塗装)、看板やサインの製作、家具や建具の仕上げ塗装、さらには工場で機械の油汚れを落としたり、装置を洗浄したりする産業用途まで、ありとあらゆる「塗る・洗う」場面で活躍しています。つまり、シンナーが手に入らなくなると、私たちの身の回りの「塗る」「洗う」が止まる──そんな影響力のある液体なのです。
シンナーの主な成分は「トルエン」「キシレン」と呼ばれる物質で、これらは原油(石油)から作られています。だからこそ、世界の原油市場や中東情勢の影響を、シンナーは直接的に受けるのです。
なぜシンナーが手に入らなくなったの?──中東のホルムズ海峡封鎖
事の発端は、米国とイスラエルがイランを軍事攻撃したことでした。これに対しイランが反撃し、ペルシャ湾の出口にあたるホルムズ海峡が事実上封鎖されたのです。
ホルムズ海峡は、日本にとって「石油の高速道路の料金所」のような場所です。日本が輸入する原油の多くがこの海峡を通って運ばれてきます。料金所が閉まってしまうと、後ろに何台もタンカーが渋滞してしまい、日本に石油が届かなくなる──そんなイメージです。
原油はシンナーの「原料の原料」です。原油から精製されるナフサという液体を、さらに加工することでトルエン・キシレンが作られ、それを使ってシンナーが作られます。ホルムズ海峡が止まる=シンナーの原料供給が不安定になるという連鎖が起きたのです。
2.1 「物がない」のではなく「届かない」のが本当の問題
ここがやや意外に感じられる部分ですが、実は原料(トルエン・キシレン)の在庫量そのものは確保されていたのです。経済産業省のの発表でも、赤澤亮正経済産業大臣は「我が国全体として必要となる量は確保できている」と説明しています。
では、なぜ現場に届かなかったのか。理由は、シンナーメーカーや問屋が「将来、原料が入ってこなくなるかもしれない」と不安になり、手持ちのシンナーを抱え込んでしまったからです。経産大臣はこれを「目詰まり」と表現しました。
コロナ初期の「トイレットペーパー騒動」を覚えていますか?倉庫にはトイレットペーパーは十分あったのに、「もう買えなくなるかも」という不安から皆が買いだめし、店頭から消えてしまった現象──今回のシンナーも、これとよく似た構造です。違うのは、買いだめしているのが一般消費者ではなく、シンナーを扱う業者だという点です。
塗料メーカー各社の「異例の値上げ」──たった3ヶ月で2倍近くに
原料供給に不安が広がる中、塗料・シンナーを作るメーカー各社は、相次いで大幅な値上げと出荷制限に踏み切りました。2026年3〜5月の動きを整理すると、業界全体に異例の連鎖反応が起きていることがわかります。
3.1 大手メーカーの「異例75%値上げ」
最初に大きな衝撃が走ったのは、業界最大手のひとつ、日本ペイントが発注分から、建築用シンナー製品を75%値上げすると発表したことでした。一般的に塗料の値上げは数%〜十数%の範囲が多いため、75%という上げ幅は業界関係者にとっても「歴史的」と表現されるレベルです。
続いて関西ペイントが4月13日出荷分から50%以上の値上げと、出荷量制限(「昨年同月の出荷実績まで」しか売らないという仕組み)を導入。エスケー化研は溶剤系塗料を20〜30%値上げし、下塗り材の受注を停止。これに中堅各社が続々と追随し、アステックペイントはシンナー70%値上げ、大信ペイントは60〜70%、ロックペイントは30%以上、と相次いで値上げを発表しました。
3.2 「出荷を止める」メーカーまで現れた
さらに深刻なのが、値上げではなく出荷そのものを止めてしまったメーカーがあることです。水谷ペイントは3月30日からシンナー製品の出荷を停止。菊水化学工業も4月6日から出荷停止。塗料の通販大手では、4月17日付で「流通経路の安定化のため」エスケー化研・菊水化学の取り扱いを一時停止する措置まで取られました。
結果として、ホームセンターのシンナーコーナーには「お一人さま1缶まで」「入荷時期未定」の貼り紙が並び、棚から商品が消える事態となりました。プロの塗装業者だけでなく、DIYで外壁のタッチアップや補修をしようとしていた一般家庭にも影響が直撃しています。
私たちの暮らしへの影響──外壁塗装・自動車修理・身の回りの製品
シンナー不足は、家計や暮らしのさまざまな場面に波及しています。代表的な4つの場面を見てみましょう。
見積が急に高くなる、工事日程が延びる
もっとも家庭に直結する影響です。2025年内に契約済みの工事でも「材料が確保できない」「価格が上がってしまった」と業者から相談されるケースが増えています。新たに見積を取ると、塗料代の値上げが反映されて総額が大きく変動します。
修理日数が延びる、保険対応に影響
事故やこすりキズで車を板金塗装に出した際、シンナー不足で塗装作業が滞り、車の預かり日数が予定より長引くケースが出ています。代車費用や保険会社との調整など、家計への影響は意外な形で現れます。
仕上げが間に合わず納期遅延
新築の家具、リフォームの建具、お店の看板──これらの最終工程である「塗装」にもシンナーは使われます。シンナーが入らないことで、注文した商品の納品が遅れる、というケースも報告されています。
棚から商品が消える、購入個数制限
「お一人さま1缶まで」「入荷時期未定」の貼り紙が全国のホームセンターで広がりました。週末に外壁のちょっとした補修をしようと思っていた家庭が、材料が手に入らず計画を延期するという話も増えています。
これらの影響は、私たちが普段意識しない「家の維持・車の維持・身の回りの新品」というところに、じわじわと表れているのが特徴です。
家計への影響額──30坪戸建の外壁塗装で「+15〜25万円」
では、具体的に家計はいくら影響を受けるのでしょうか。最も家庭にとって身近な「戸建外壁塗装」を例に、影響額を見てみます。
一般的な戸建住宅の外壁塗装工事において、見積総額のうち「材料費」(塗料・シンナー類)が占める割合は約20〜30%と言われています。残りの70〜80%は人件費・足場代・諸経費です。そして、2026年3月以降のシンナー・塗料の値上げを受けて、材料費は概ね15%以上の値上がりが現実となっています。
30坪戸建・外壁塗装工事の総額負担増
30坪前後の戸建住宅の外壁塗装で、材料費が15%値上がりした場合の総額負担増の目安です。塗料グレード・施工会社・施工面積によって変動しますが、シンナー値上げが公式75%・実勢では3.75倍に達する2026年4〜6月期の見積では、施主側も「工事をギリギリまで先延ばしするか、いま動くか」の判断を迫られる局面となっています。
もちろん、これはあくまで一例です。築20〜30年の戸建で大規模なシーリング工事や下地補修が必要な場合、追加コストはさらに大きくなります。逆に、簡易補修や部分塗り直しで済む場合は、影響額は小さくなります。複数の業者から見積を取り、内訳を比較することが、これまで以上に重要になっています。
「中東情勢は落ち着いてきたのに、なぜ値段は下がらない?」
2026年6月に入って、中東情勢に大きな変化がありました。6月14日には米国とイランが暫定的な合意(「イスラマバード覚書」、詳しくはCHAPTER 08で解説)に達し、6月19日にはタンカーがホルムズ海峡を通過、6月25日にはアジアのナフサ価格が1トン627ドルと、軍事衝突前の水準(632ドル)を下回りました(日本経済新聞)。「だったらシンナーも安くなるはず」と思った方も多いかもしれません。
しかし残念ながら、答えは「いいえ、すぐには下がりません」です。理由は大きく4つあります。一般の方向けにわかりやすく整理します。
6.1 理由①:海外価格は「数ヶ月遅れ」で国内に反映される
日本のシンナーメーカーが原料を仕入れる価格は、海外スポット価格の動きをそのまま反映するのではなく、2〜3ヶ月遅れで反映する仕組みになっています。これを業界では「価格スライド制」と呼びます。
輸入ワインを思い浮かべてください。フランス現地でブドウが豊作で安くなったとしても、その安さが日本のスーパーの店頭価格に反映されるのは、輸入・通関・流通を経た数ヶ月後ですよね。シンナーの原料も同じで、足元(2026年6月)の海外価格下落が国内のシンナー価格に反映されるのは、早くて2026年7〜9月以降になります。
6.2 理由②:円安が、海外の値下がりを打ち消してしまう
原料は世界中で「ドル建て」で取引されます。海外でドル建ての価格が下がっても、日本円が安く(=円安)なれば、円に換算したときの値段はあまり下がりません。2026年5月時点で1ドル=158円台、前年比で約9%の円安が進行しています。
海外旅行を思い浮かべてください。現地のホテル代がドル建てで20%安くなっても、円安が進んでいると、円で支払う金額はそれほど下がらない、あるいは前より高くなることもありますよね。シンナーの原料も全く同じ状況です。
6.3 理由③:「量はあるけれど、必要な種類が届かない」
これは最も見過ごされやすい構造的な問題です。中東のかわりに、米国やマレーシアなどから原料を輸入することはできるのですが、これらの国から来る原料は、シンナーに向いていない「種類違い」の原料が中心なのです。
お米を例に考えてみましょう。「コシヒカリ」が足りなくなったので、代わりに「ササニシキ」や「タイ米」を輸入してきた、と想像してください。お米全体の量は確保できていても、「コシヒカリの寿司を握ろうとしている職人」にとっては、ササニシキやタイ米では代わりになりません。シンナーの原料も同じで、量だけ補ってもシンナー作りに必要な「種類」は足りていないのが現実です。
6.4 理由④:物流費・人件費・脱炭素コストが上がり続けている
シンナーを工場から塗料店、現場まで運ぶには、専用車両と有資格者のドライバーが必要です(シンナーは消防法上の「危険物」のため)。2024年4月のトラックドライバー残業規制(「物流2024年問題」)以降、こうした人件費・物流費は構造的に上がり続けています。さらに、化学業界全体の脱炭素対応コスト(環境対応への投資)も、最終的に製品価格に上乗せされる方向にあります。
──これら4つの要因が重なり合って、原料市況が一時的に下がっても、現場のシンナー価格はそれに見合うペースでは回復しないのです。業界の見方では、完全な価格・供給の正常化は2026年下半期(7〜12月)以降で、しかも「値上がり前の水準に戻る」ことは過去25年の塗料業界の歴史を見てもほぼ期待できない、とされています。
「原料の海外価格が下がった」のは事実。
でも、それが私たちの財布まで届くには、まだ時間がかかる──
これが、いま現場で起きている現実です。
施主としてできる5つのこと──いま外壁塗装を検討中の方へ
では、いま外壁塗装やリフォームを検討している方は、具体的にどうすればよいのでしょうか。業界の実情を踏まえた、施主として現実的にできる5つの対応策をまとめます。
- 水性塗料への切替を検討する 現在不足が深刻なのは、シンナーで薄める「溶剤系(油性)塗料」です。一方、水で薄める「水性塗料」は、最新のラジカル制御型と呼ばれるタイプであれば、従来の油性塗料と同等の15〜20年の耐候性を実現しています。関西ペイントは2026年6月以降、水性塗料の生産能力を約20%増強する方針です。業者に「水性塗料での施工は可能ですか?」と尋ねてみる価値は十分あります。
- 業者に「材料の在庫は確保済みですか?」と必ず確認する 業者を選ぶ際に、見積金額だけでなく「契約後に必要なシンナーや塗料の在庫を確保できているか」を必ず確認しましょう。材料未確保のまま契約してしまうと、工事日程が後ろにずれるリスクがあります。メーカー認定施工店は優先供給枠の対象になる場合もあるため、認定店かどうかも確認ポイントです。2026年6月23日からは政府公認のアスクル直販ルート(CHAPTER 08で解説)も始まったので、業者がこのルートを使えるかも質問のポイントになります。
- 「出荷日」基準か「受注日」基準か確認する メーカーの値上げは、多くの場合「契約日」ではなく「出荷日」が基準になっています。つまり、4月中に契約しても、出荷が5月以降になれば新価格が適用されることがあります。見積書に「価格は出荷日時点のもの」「材料費の変動を反映する場合あり」といった条項がないか、確認しておきましょう。
- 複数業者から見積を取り、内訳を比較する 値上げが続く局面では、業者によって調達ルートや在庫状況が異なるため、見積額にこれまで以上の差が出やすくなります。最低でも2〜3社から相見積もりを取り、「材料費」「人件費」「諸経費」の内訳を比較しましょう。極端に安い見積には「材料の品質」「施工品質」のリスクが隠れている可能性もあるため、安さだけで判断しないことが重要です。
- 急がない補修なら、2026年下半期以降を検討する選択肢も 外壁の劣化が進んでいる、雨漏りのリスクがある、というケースでは早めの工事が必要ですが、見た目の塗り直しなど「すぐでなくてもよい工事」であれば、業界が見込む正常化時期(2026年下半期〜2027年)まで様子を見る選択肢もあります。ただし、覚書合意(2026年6月14日)後の状況次第では、8月中旬以降の交渉が破綻するリスクもある(CHAPTER 08参照)ため、「待てば必ず安くなる」とは限らない点に注意が必要です。
大切なのは、信頼できる業者と率直な対話をすること。状況を理解した上で見積を出してくれる業者は、施主にとって最良のパートナーになります。
2026年6月の新展開──米イラン覚書合意とアスクル直販で何が変わったか
本記事の初版(6月5日)公開後、2026年6月には立て続けに大きな動きがありました。家計と外壁塗装の見通しに直接関わる3つのトピックを、やさしく解説します。
8.1 6月14日:米イラン両国が「イスラマバード覚書」に合意
2026年6月14日、約100日間続いた米国とイランの対立に大きな転機が訪れました。両国はパキスタンの仲介により、戦闘を止めて交渉に入るための14項目の暫定的な約束ごと「イスラマバード覚書」に合意。6月17日にはフランスで開かれたG7サミット(先進国首脳会議)の最終日に、トランプ米大統領とイランのペゼシュキアン大統領が正式に署名しました。
- 6月14日 米イラン両国が「イスラマバード覚書」14項目に合意 仲介国はパキスタン。カタール・サウジアラビア・トルコ・エジプトも交渉を後押し。
- 6月17日 G7サミット会期中にデジタル署名で正式発効 フランス・エヴィアン=レ=バンで開催中の先進国首脳会議の最終日に署名。
- 6月19日 日本向けタンカー6隻がホルムズ海峡を通過 原油価格は4%下落、衝突前の水準に近づく(日本経済新聞)。
- 6月25日 アジアのナフサ価格が1トン627ドルと、衝突前の水準(632ドル)を下回る 3月のピーク約1,300ドル/tから5割以上の下落。4ヶ月ぶりの安値水準(日本経済新聞)。
覚書の主な内容は、シンナーの原料が日本に届きやすくなるための「お膳立て」が4項目あります:
- 第1項 米軍がホルムズ海峡周辺の海上封鎖を30日以内に解除 原油タンカーや化学品船の通航を再開できるよう、米軍の妨害を取りやめる。
- 第2項 イランが海峡に敷設した機雷を30日以内に取り除く 物理的な航行の安全を回復し、商船が安心して通れるようにする。
- 第3項 60日間ホルムズ海峡の通行料を無料に イランがホルムズ海峡通過料を徴収しないことで、輸送コストを下げる。
- 第4項 米国制裁の段階的解除+イランの核開発一時停止 米国がイラン制裁を緩和し、イランがウラン濃縮を一時停止する相互合意。
夫婦げんかにたとえると、本格的な仲直り(平和条約)ではなく「60日間お互い冷静になろう」という暫定的な約束です。シンナーの原料が日本に届きやすくなる「下地」は整いましたが、根本的な問題が解決したわけではありません。三菱総合研究所も6月19日の論評で「これは平和ではなく対立の一時停止であり、本質的な問題は60日後(2026年8月中旬)に先送りされている」と慎重に評価しています。
8.2 6月23日:アスクルによる「シンナー直販ルート」がスタート
もう一つの大きな動きが、2026年6月23日に始まった「アスクル直販ルート」です。これは経済産業省・国土交通省と通販大手アスクルが連携した、シンナー不足の現場に直接シンナーを届ける仕組みです。
1缶 税込13,500円・16リットル入り
初期搬入分は720缶。需要に応じてシンナーメーカーから随時補充。市中ホームセンターの実勢価格15,000円超と比べ、約1割安く設定されています。
国交省窓口経由の3ステップ
①国土交通省「燃料油や石油製品等の供給に関する相談窓口」に申請→②国交省・経産省からアスクルへ情報共有→③アスクルから案内メール受領→④専用フォームで注文。
注文の翌々日以降に発送
千葉県柏市の物流倉庫から発送。卸売業者を介さず、シンナーメーカー→アスクル→需要家の直送ルートで、流通の「目詰まり」を物理的に回避する設計です。
前年実績確認+転売対策
国交省担当者は「前年の調達実績などを確認する」と説明。一度に大量購入したり転売したりすることがないよう、運用面で配慮されています。
普段のスーパーが品薄なときに、農家が直接配送してくれる「産地直送便」が始まったようなものです。ただしこれは「事業者(自動車整備業者・工務店など)向け」で、一般家庭が直接申し込むことはできません。外壁塗装業者やDIY代行業者が利用することで、施主にとっては「業者の調達経路が増える」「業者の在庫確保がしやすくなる」という間接的なメリットがあります。業者を選ぶ際に「アスクル直販ルートも使えますか?」と聞いてみると、業者の調達力を測る一つの目安になります。
8.3 シンナー原料の「1.8倍供給スキーム」も発表
あまりニュースで大きく取り上げられませんでしたが、2026年6月3日に政府はシンナーの原料となるトルエン等を、例年比で最大1.8倍まで拡大して供給する方針も発表しています。これは、4月13日の経産省局長要請で「目詰まり解消」を呼びかけた段階から一歩進み、原料そのものの物理的な増産にも踏み込んだ施策です。アスクル直販ルートは、この増産分を確実に現場へ届ける「出口」として位置付けられています。
8.4 結局、家計への見通しはどう変わったの?
これら3つの動き(覚書合意・アスクル直販開始・1.8倍供給スキーム)を整理すると、家計と外壁塗装の見通しは次のように考えるとわかりやすいでしょう。
原料の流れと現場供給が改善
覚書合意でホルムズ海峡の通航が回復し、原料調達は改善。6月25日のナフサ627ドルは衝突前水準を下回り、上流の市況は鎮静化。アスクル直販と1.8倍供給スキームで、業者の現場調達ルートも増えた。
価格はすぐには下がらない
CHAPTER 06で説明した4つの理由(数ヶ月ラグ・円安・原料の種類違い・物流コスト)は今も有効。値上がり前の水準への回帰は、業界の見方ではほぼ期待できない。
8月中旬の節目で再リスクも
覚書は60日間の暫定枠組み。8月中旬の最終合意が破綻すれば、ホルムズ海峡が再封鎖されシンナー価格・供給が再び悪化する可能性も。
楽観と警戒の両睨みで
「すぐ安くなる」とも「まだまだ悪化する」とも言えない局面。短期の見通し改善と中期の不確実性を踏まえ、業者選びと工事タイミングを慎重に判断するのが現実的。
言い換えれば、2026年6月は「シンナー危機の終わり」ではなく、「新しい局面のはじまり」です。完全な平常化はまだ先ですが、4〜5月のような「金を出しても買えない」極端な状況からは少しずつ抜け出しつつあります。
いつまで続くの?──今後の見通しをやさしく
最後に、多くの方が気になる「いつまでこの状況が続くのか」について、現時点でわかっていることをまとめます。
業界の見方では、塗装業界向けのシンナー供給は2026年下半期(7〜12月)にかけて段階的に正常化する見通しです。実際、有機溶剤メーカーの三協化学は5月12日・6月2日と段階的に新規受付を再開しており、徐々に回復の兆しが見えています。
赤澤亮正経済産業大臣もの閣議後会見で「ナフサについては定期修理集中期間が終了し、7月に前年並みの生産量に戻る見込み」と表明しており、原料の物理的な供給は7月以降回復に向かう見通しです。
一方で、ホルムズ海峡周辺の中東情勢は依然として不安定で、米欧の石油メジャー(大手石油会社)の経営トップは「中東の製油設備の物理的な被害は再稼働まで3〜5年を要する可能性があり、本格的な平時水準への復旧は2027年以降にずれ込む」との見方を示しています。
つまり、目先の「シンナーがまったく手に入らない」という極端な状況は2026年後半に解消に向かう一方、価格が値上がり前の水準に戻ることは、ほぼ期待できない──というのが、現時点での最も現実的な見通しです。
言い換えれば、「2026年シンナーショック」は完全に終わるわけではなく、「新しい価格水準」が暮らしの新常態(ニューノーマル)として定着する方向にあります。私たち施主・消費者も、この前提を踏まえて住まいの維持計画を立てていくことが必要になりそうです。
本記事は、一般の方向けに2026年シンナーショックの基礎を、6月29日時点の最新動向を含めてやさしく解説したものです。塗料メーカー各社の詳細な値上げ状況、原料市況の構造分析、政府対応の経緯、業界の長期見通し、覚書後のトルエン入手予想4段階タイムラインなど、より専門的・実務的な内容については、本格的な解説記事をご用意しています。
▶ 2026年シンナー・ショックの深層|イスラマバード覚書後のトルエン入手予想と高値定着の現実 を読むまとめ──施主・家庭の方が押さえておきたい7つのポイント
- 2026年2月末の中東情勢悪化(ホルムズ海峡封鎖)を発端に、原料の供給不安からシンナーメーカー各社が出荷を絞り、市場に「目詰まり」が発生した。
- 大手塗料メーカー各社は3〜5月にかけて異例の連鎖値上げを実施(日本ペイント75%、関西ペイント50%以上、エスケー化研20〜30%など)。実勢価格では1缶4,000円→15,000円超の3.75倍に達するケースも報告されている。
- 30坪戸建の外壁塗装では、施主の総額負担増は+15〜25万円が目安。材料費が工事費全体の20〜30%を占めるため、見積総額に直接影響する。
- 原料の海外価格は2026年6月25日に1トン627ドルと衝突前水準(632ドル)を下回ったが、①数ヶ月のタイムラグ、②円安(1ドル158円台)、③原料の種類違い、④物流・人件費・脱炭素コスト──の4要因により、シンナー価格はすぐには戻らない。完全正常化は2026年下半期以降の見通し。
- 2026年6月14日、米イラン両国が「イスラマバード覚書」に合意(6月17日G7署名)。6月19日にタンカー6隻ホルムズ通過、6月23日にアスクルによる事業者向けシンナー直販ルートも開始された。原料調達ルートと現場への供給経路が大きく改善した。
- ただし三菱総研は本覚書を「対立の一時停止、本質は60日後への先送り」と慎重評価。8月中旬の最終合意成否が今後のトルエン・シンナー価格・供給を左右する大きな節目となる。
- 施主としては、①水性塗料への切替検討、②材料在庫の事前確認(アスクル直販ルートの利用可否も含む)、③出荷日基準の確認、④相見積もりでの比較、⑤工事タイミングの見極めの5つを意識することで、賢い意思決定が可能になる。
本記事の参考情報源
- 日本経済新聞「ナフサ価格がアジアで下落、衝突前下回る 代替調達で供給懸念が後退」(2026年6月25日/東京オープンスペック1トン627ドル)
- 日本経済新聞「日本向けなどタンカー6隻ホルムズ通過 原油4%安で衝突前水準近づく」(2026年6月19日)
- 米国・イラン両政府「14項目覚書(イスラマバード覚書)」(2026年6月14日合意・6月17日G7サミットデジタル署名/仲介国パキスタン)
- CNN「米国、イランとの覚書14項目公表」(2026年6月17日)
- 三菱総合研究所「米イラン覚書合意は対立の一時停止、本質は60日後への先送り」(2026年6月19日)
- 毎日新聞「アスクルでシンナー直販 23日開始 工務店や自動車整備業を支援」(2026年6月22日/金子恭之国土交通相会見)
- 毎日新聞「直販シンナー、アスクル倉庫に到着『一刻も早く届けたい』」(2026年6月22日/千葉県柏市・720缶搬入・1缶税込13,500円)
- TBS NEWS DIG「塗料用シンナー直接販売ルート23日受付開始 卸を介さない新たな供給ルート」(2026年6月22日)
- 日刊自動車新聞「経産省、整備工場や工務店などへ塗料用シンナーの直接販売を6月23日に開始 アスクルが直接配送」(2026年6月19日/赤澤経産相会見)
- logistics-today「赤澤亮正経産大臣、ナフサ7月に前年並み生産量に戻る見通し表明」(2026年6月2日)
- 日本経済新聞「塗装用シンナー調達難、メーカーに生産抑制避けるよう要請 経産省」(2026年4月14日)
- 日本経済新聞「日本ペイント、シンナー製品で75%値上げ ホルムズ封鎖受け」(2026年3月25日)
- 日本経済新聞「関西ペイント、シンナー製品50%以上値上げ 中東情勢受け」(2026年4月2日)
- Bloomberg「日本ペイントHD、建築用シンナー製品を75%値上げ―原材料の調達難」(2026年3月25日)
- 建設通信新聞Digital「シンナーが手に入らない/塗装工事業者から悲痛の声」(2026年4月27日)
- ロイター「アジアのナフサ価格急落、ADNOCがオマーン経由で輸出再開」(2026年6月2日)
- 経済産業省 製造産業局長「溶剤等関係事業者 各位」(2026年4月13日付通知)
- 化学工業日報「国産ナフサ価格、過去最高へ 1~3月は横ばい」(2026年4月30日)
- 新電力ネット「ナフサの価格推移(通関統計)」(2026年6月2日更新)
- 児玉塗装「ナフサショック・中東情勢による塗装材料への影響|各メーカーの出荷・受注状況まとめ」(2026年5月11日更新)
- プライシー「2026年最新 日本ペイントシンナー値上げはなぜ?影響と対策」(2026年)
- WEB塗料報知「関西ペイント、シンナー製品を50%以上値上、出荷統制」(2026年4月3日)
本記事に関する注意事項
- 本記事は、2026年6月5日に初版公開後、2026年6月29日時点で公開されている公的統計・報道情報をもとに、一般の方向けにやさしく解説した記事です。市場状況・メーカー各社の対応はその後変動している可能性があります。
- 本記事に記載された値上げ率・実勢価格・影響額の試算(例:30坪戸建で+15〜25万円)はあくまで一般的な目安であり、実際の見積金額・施工内容・地域・塗料グレード等により大きく異なります。イスラマバード覚書(2026年6月14日合意・6月17日G7署名)後の8月中旬最終合意節目を含め、覚書最終合意の成否により今後の見通しは変動する可能性があります。
- 本記事は外壁塗装・リフォーム・特定の塗装業者・特定の塗料メーカーへの推奨や保証を行うものではありません。実際の業者選定・工事判断はお客様ご自身の責任においてご判断ください。アスクル直販ルートは事業者向けの仕組みであり、一般家庭が直接利用することはできません。
- 本記事は特定の政党・政治的立場を支持・批判する意図を持つものではありません。中東情勢・政府対応・両国首脳への言及は、公表された会見内容・公式合意文書の報道的引用に基づくものです。
- 本記事の内容を転載・引用される場合は、出典(プラスチックパレット株式会社 公式ブログ)を明記のうえご利用ください。