サプライチェーン・レポート / 2026年 納豆

イラン情勢と100円納豆の終焉、石油と大豆に支配された伝統食の真実

日本の食卓の象徴である納豆が、今、未曾有の情勢に直面しています。スーパーの棚で安価に並ぶその裏側には、中東の戦火、北米の農業政策、そしてグローバルな物流網の限界という巨大な構造が隠されています。本稿では、納豆を高度に工業化され国際情勢に依存した「精密なグローバル・プロダクト」として再定義し、2026年4月下旬時点のエビデンスで全体像をまとめています。

初版公開: / 最終更新: / プラスチックパレット株式会社

その後の動き

  • 納豆の値上げは2026年6月1日に実施されました。ミツカンは納豆全19商品を6〜20%(参考小売価格・税別)、タカノフーズは「おかめ納豆」を含む全商品を15%値上げしています。ミツカンは5月1日から4商品の販売を休止しました。
  • 両社が理由に挙げたのは、ナフサ高による容器・フィルムなど包材のコスト上昇です。第3章で見た「容器から先に効く」流れが、そのまま値上げにつながりました。
  • 原料の状況はまだ落ち着いていません。9月上旬もホルムズ海峡を通る商船は5月以来の少なさで、ナフサのスポット価格は9月10日に1トン871ドルと、前年同期より55%高い水準です。
  • ほかの食品の値上げは10月の値上げ一覧と食品・日用品の値上げまとめで追っています。

2026年10月1日時点。出典:ミツカン ニュースリリース(2026年5月1日)/タカノフーズの発表(テレビ朝日系ANN、2026年5月)/Breakwave Advisors(2026年9月8日)/Trading Economics(2026年9月10日)

WTI原油(4/24)

$94.7

2026年4月下旬の値

SGナフサスポット(4/1)

$917/MT

▲2/27比+60%。2026年4月下旬の値

ホルムズ通航量

平時比-90%超

2026年4月下旬の値

PS樹脂(PSジャパン)

+90円/kg以上

2026年4月下旬の値

シカゴ大豆先物

$11.5〜11.7/bu

2026年4月下旬の値

国内市場の現状 — 3000億円「絶頂期」と構造的脆弱性

史上初の3000億円市場突破

全国納豆協同組合連合会(納豆連)の最新データによれば、2025年の納豆市場規模は業務用を含め3,018億円に達しました。2023年の約2,695億円からわずか2年で12%近い成長を遂げています。

年次市場規模前年比主な要因
2023年2,695億円—健康意識の定着
2024年2,850億円+5.7%物価高による「安価なタンパク源」へのシフト
2025年3,018億円+5.9%メディア露出増・ひきわり需要の拡大

輸出量5,247トン — 8年で3倍の「NATTO」

財務省貿易統計(2025年確報)によると、2025年の納豆輸出量は5,247.6トンを記録し、初めて5,000トンの大台を突破。対中輸出は1,652トンと過去最高を更新。北米・東南アジアでも「ジャパニーズ・ヴィーガン・フード」として定着しています。

ホルムズ「二重封鎖」の現実 — 4月13日以降の情勢

情勢の経緯と「二重封鎖」フェーズの成立

2026年2月28日、米・イスラエルによる大規模攻撃への報復としてIRGCがホルムズ海峡通過船への攻撃を開始。3月2日に公式閉鎖を宣言し、3月27日には「米国・イスラエルおよびその同盟国の港湾に出入りする船舶」の通過を禁じました。

4月13日、米CENTCOMがイラン港湾(バンダルアッバース、カーグ島等)へ出入りする全船舶を対象とした海上封鎖を正式発動。IRGCの実力封鎖と重なり、商業通航はほぼ停止状態となっています。

通航量(平時比)

-90%超

1日10隻前後

WTI 取引中最高値(4/7)

$117.63

三井住友DSアセットマネジメント確認

WTI 直近終値(4/24)

$94.7

停戦期待で下落も情勢悪化前比+50%超
Trading Economics

日本の石油備蓄

約8か月

高市首相が追加20日分放出決定(4/10)

停戦合意→機能不全→再騰のサイクル

4月7日の取引中にWTIは117.63ドルの高値を記録(終値は110ドル台)。4月8日の米・イラン2週間停戦合意を受けて時間外取引で91.05ドルまで急落しましたが、イスラエルがレバノン攻撃を継続したことでイランがホルムズ封鎖を再表明し、4月9日には97.87ドルへ反発。4月23日には週間上昇幅が17%超に達しましたが、4月24日には外交的進展への期待から94.7ドルに下落しました(Trading Economics)。

日本への直接影響

  • 原油中東依存度:日本の輸入量の約94%が中東産で、そのうち約90%がホルムズ海峡を経由(global-scm.com / OilPrice, 2026.03.25)。
  • 邦船の通航停止:日本郵船・商船三井・川崎汽船は3月初旬より通航を停止し、安全海域で待機を継続。
  • IRGCによる拿捕:4月22日、IRGCがパナマ船籍MSC Francescaなど外国籍コンテナ船2隻を拿捕・1隻に発砲(Al Jazeera、2026.04.23)。
  • イランの「日本船通航容認」発言:アラグチ外相は「日本船の通航を認める用意がある」と述べたが(Japan Times、2026.03.21)、米海上封鎖や保険・金融制約と矛盾しており実務的な通航再開には至っていない。
「イラン戦争が数か月続けば世界的なエネルギー不足が現実のものになる」— TotalEnergies CEO パトリック・プヤネ(Reuters、2026年4月25日)

ポリスチレンの地政学 — 「ナフサ・ショック」が容器コストに大きく影響

シンガポールナフサスポット:3月25日に1,000ドル到達

SGナフサスポット ピーク(3/25)

$1,000+/MT

SGナフサスポット(4/1)

$917/MT

2/27比 +60%

国内ナフサ民間在庫

〜20日分

平時比大幅減

エチレンクラッカー稼働率

50〜60%

好不況目安90%を大幅下回る

国内主要メーカーの4月一斉値上げ(確定)

メーカー対象製品値上げ額実施時期
PSジャパン ポリスチレン全般 +90円/kg以上 2026年4月1日〜
DIC ポリスチレン樹脂 +85円/kg以上 2026年4月1日〜
旭化成 ポリエチレン製品 +120円/kg以上(3割超) 2026年4月1日〜(日経・PR TIMES 2026.04.13)
信越化学工業 塩化ビニル樹脂・塩ビ管 +30円/kg以上 2026年4月1日〜(暮らしの設備ガイド 2026.04.25)
カネカ/JSP 押出法PS断熱材等 +40% 2026年4月1日〜(住宅建材レポート 2026.04.16)

フォースマジュール宣言の波及

  • 台湾フォルモサ・プラスチックスが4月1日付でエチレン下流製品にフォースマジュール宣言。
  • 住友化学グループのシンガポール子会社PCS(年産能力110万トン)も不可抗力を発動。
  • 汎用合成樹脂の取引価格は3月比3割上昇、食品包装材の値上げが加速(日本経済新聞、2026.04.15)。
  • 帝国データバンクによると、国内製造業のうち約3割でナフサ調達リスクが生じている可能性(2026.04.21)。
「市場は、ナフサ供給が止まった場合の波及的インパクトをまだ織り込んでいない。日本は非常に脆弱だ。コロナと同様の事態になりかねない」— Mateen Chaudhry, BCMG Managing Director(Bloomberg, 2026年3月)

納豆メーカーへの影響 — 容器・被膜・包材の三重コスト増

ポリスチレン樹脂の急騰は、納豆の製品コスト構造を根底から揺さぶっています。ここでは、納豆資材専門商社・食品包装業界の一次情報をもとに、その影響を具体的に解剖します。

PSP容器:現行価格から約4割相当の値上げ

納豆資材の専門商社である全容器(食品産業新聞社取材、2026年4月)によると、PSジャパン・東洋スチレンがそれぞれ4月1日出荷・納入分からポリスチレン樹脂を90円/kg以上値上げすることを発表。同社によれば「現行価格から約4割の値上げに相当する」という。PS樹脂の在庫についても、JPCA(石油化学工業協会)の月次統計(2025年12月末時点)から平時出荷ベースで試算すると約2か月分しかないとされており(LOGISTICS TODAY、2026年4月5日)、PE・PPの3.5〜4か月分と比べてPS固有の大きな薄さが浮き彫りになっています。

PS樹脂の実質値上げ幅

約40%

現行価格比

PS樹脂在庫(12月末)

約2か月分

JPCA月次統計より試算

食品包装材 仕入れ値上昇

2〜3割増

包装資材仕入れ値上昇

値上げ計画食品品目数

3,593品目

2026年1〜4月
うち包材コスト起因が8割超

蓋フィルム(被膜):PE値上げが「もう一本の矢」

納豆容器を封止する透明フィルム(被膜)はポリエチレン(PE)製です。プライムポリマーが4月1日納入分からPE・PPを90円/kg以上値上げすると発表(全容器取材、2026年4月)。PSP容器と被膜は別素材でありながら、ともにナフサ由来という同一の原因で同時に高騰するという二重構造が、納豆メーカーのコスト計算を狂わせています。さらにTOPPANホールディングスは4月21日以降、包装材の値上げを食品・日用品メーカーへ打診する方針を示しており(日本経済新聞、2026年4月)、包材コスト増は川下の納豆メーカーに対して「PSP容器→被膜フィルム→外装包材」という三段階で押し寄せています。

「5月には全社が価格改定」— 専門商社の見立て

全容器は食品産業新聞の取材に対し、「5月には納豆製造にかかわる全ての企業が価格改定を行うだろう」と明言。容器・被膜メーカー側からも「5〜6月の値上げは避けられないが、夏から年内は通常通り供給できる見込み。ただし通常以上の注文は受けられない」と供給制限の方針が示されています。

「PSP容器や被膜が大幅に値上げされれば、納豆も値上げせざるを得ない。メーカーが耐えられるレベルではない」— 納豆資材専門商社・全容器(食品産業新聞社取材、2026年4月)

価格転嫁の難しさ:「集客商品」という構造的制約

全容器は納豆の価格転嫁の難しさについても核心を突く証言を残しています。「納豆はスーパーでの集客力が高く、価格は簡単には上げられない」。現状では下段商品が100円以下で並ぶ一方、上段商品は170〜180円と価格差が大きく開いており、価格帯ごとの二極化が進んでいます。野村総合研究所(NRI)の分析(2026年3月31日)でも、「原油価格の上昇と品不足の双方を背景とする今回の値上げは、通常の転嫁よりもより大きな幅で、またより早く表面化する可能性が高い」と警告しています。

帝国データバンクの調査では、2026年1〜4月に値上げを計画している食品3,593品目のうち、包装材・容器・資材コストの上昇を直接の理由として挙げる企業が8割を超えている(宮野宏樹「プラ3割高騰の衝撃」note、2026年4月)。ナフサ・ショックはすでに、単なる化学業界の問題を超えて食品値上げと一体化して進行しています。

北米大豆の供給動向 — バイオ燃料需要・在庫急減・物流の三重圧力

バイオ燃料需要による「作付け構造」の変化

日本の納豆用大豆の調達コストを構造的に押し上げている最大の要因の一つが、米国国内での大豆油の「エネルギー転用」です。再生可能ディーゼル(RD)および持続可能な航空燃料(SAF)向けの需要爆発が、食用・食品加工向けの大豆市場と直接競合しています。

米国大豆油のバイオ燃料転用率:20年で1%未満→46%へ

USDAのデータによれば、バイオ燃料用として使用される米国産大豆油の割合は、2001/02年度の1%未満から2022/23年度には46%に上昇しています(市場調査レポート、USDA データ)。米国で生産された大豆油の約半分近くがすでにエネルギー用途に振り向けられており、食品・食品加工向けの取り合いが年々激化しています。

米国大豆油のバイオ燃料転用率(2022/23)

46%

2001/02年度は1%未満(USDAデータ)

RFS 2026年BBD義務量

+70%

2025年比(EPA最終規則、2026年4月1日)

RFS発表後の大豆油価格変動

+15%超

発表から2日間で上昇(丸紅経済研究所、2025年9月)

2026年BBD向け大豆油量(目標)

56億gal

前年比67%増(EPA RFS 2026-27)

EPA再生可能燃料基準(RFS)2026年規則の衝撃

米国環境保護庁(EPA)は2026年4月1日、連邦官報に2026〜2027年の再生可能燃料基準(RFS)最終規則を公示しました(Federal Register, 2026.04.01)。その中で特に注目されるのが、バイオマスベースディーゼル(BBD)の混合義務量で、2026年分は2025年比で約7割増と市場予想を大幅に上回る引き上げ幅となりました(丸紅経済研究所、2025年9月)。BBDの原料の4割強を大豆油が占めるとみられており、同ルール発表後の2日間で大豆油価格は15%強上昇し、その後も高値圏で推移しています。

さらに今回の最終規則では、外国産バイオ燃料・原料から生成されるクレジット(RIN)を米国産の50%の価値に減額する措置も導入されており(ジェトロ、2025年6月)、実質的に米国産大豆油の優先的な利用を義務付ける内容となっています。これは「米国ファースト」政策のバイオ燃料版であり、米国産大豆の国内消費を構造的に押し上げます。

納豆用大豆への波及:「食品用」は後回しにされる構造

こうした大豆油のエネルギー転用は、大豆の需給にも複合的な影響を与えます。丸紅経済研究所の分析(2025年9月)によれば、米国の大豆需要全体に占めるバイオ燃料用の割合は約5%程度にとどまるため、大豆価格への直接的な押し上げ効果は限定的とも見られます。しかし構造的な問題はその先にあります。

  • 圧搾量の増加→油取り優先品種へのシフト:大豆油需要の増大により、農家は「油分が多く取れる品種」や大規模圧搾に適した品種を優先する傾向が強まっています。これにより、納豆に必要な小粒・非遺伝子組み換え(Non-GMO)品種の作付け優先度が相対的に低下しています。
  • IPハンドリングプレミアムの上昇:納豆用大豆には一般大豆と混ざらない厳格な分別生産流通管理(IPハンドリング)が必要ですが、この管理コスト(プレミアム)が人件費・エネルギー高騰と相まって上昇しています。
  • 2026年農業肥料2割高:イラン情勢の緊迫化で天然ガス由来の化学肥料コストが上昇。日本経済新聞(2026年3月11日)は「農業肥料が前年比2割高、3年ぶり高値」と報じており、来期(2026/27年度)の北米大豆の生産コスト押し上げ要因となっています。
大豆油の約3割以上がバイオ燃料に転用されており、2026年には前年比67%増の56億ガロンを大豆油由来ディーゼル燃料に充てる方針が示された。— 食用油の世界的需要に関する業界分析(2025年)

シカゴ先物の動向(4月27日時点)

ピーク(3月12日)

$12.27/bu

約2年ぶり高値

停戦後安値(4月8日頃)

$11.5/bu

1か月ぶり安値

4月上旬〜現在

$11.5〜11.7/bu

停戦の機能不全で再び上昇圧力

4月8日の停戦合意で原油が急落し、バイオ燃料需要連動で大豆も1か月ぶりの安値へ。停戦の機能不全とホルムズ緊張の再燃で、エネルギー高→バイオ燃料需要→大豆価格という経路で再び上昇圧力が生じています。

USDA 在庫報告(2026年Q1):大幅減確認

USDAの穀物在庫報告(2026年3月31日発表)によると、2026年Q1の米国大豆在庫は21億ブッシェルに急減(前期32.9億bu→▲36%)。一方、2026年作付面積は8,470万エーカーと増加予想で、増産が価格上昇圧力を部分的に相殺する見込みです。

輸入コストを増幅する「物流の三重苦」

  • 円安:1ドル=150〜160円台が継続。ドル建て価格が安定していても円換算での仕入れコストは高止まり。
  • 海上保険料・運賃の急騰:邦船3社がホルムズ通航を停止し安全海域で待機。代替ルートの保険料・運賃が急伸。
  • 肥料コストの上昇:天然ガス由来の化学肥料コストが上昇しており、来期(2026/27年度)の北米大豆生産コストにも波及見込み(日本経済新聞、2026年3月11日)。

製造・物流エネルギーコスト — 「三重苦」の拡大

LNG・LPG価格の急騰

ホルムズ海峡封鎖による供給停滞懸念から、アジアのLNG価格は40%超急騰、LPG価格は前月比最大80%の急騰が報告されています(global-scm.com、2026.04.15)。納豆製造工程で使用するボイラー燃料(灯油・ガス)にも大きく影響しています。

燃料費・電気料金の上昇

2026年4月以降、政府の電気・ガス補助金が段階的に縮小・終了する見込みで、24時間稼働の発酵・冷却工程の電力コストが経営を圧迫しています。東京都内のガソリンは補助金なしの実勢価格が200円台に到達した時期もあり(補助金再開後は170円程度に抑制)、チルド配送に直結する軽油価格も高止まりしています。

帝国データバンク試算:燃料費30%増で利益8割消失

帝国データバンクの試算(2026年3月)では、燃料費が30%増加することで運輸業の利益の約8割が消失するという数字が示されています。チルド物流各社が「燃料サーチャージ」をメーカーに請求しており、「原材料高」「容器高」「物流費高」の三重苦が現実化しています。

生産者の66.7%が悪影響を実感

2026年3月の実態調査(株式会社ビビッドガーデン等 / PR TIMES)では、生産現場の66.7%がすでに生産活動への悪影響を実感。影響項目の筆頭は「燃料費(89.5%)」、次いで「梱包資材(73.0%)」と続いています。

豆腐との比較・総括 — 「自然食品」という幻想の終わり

豆腐も同様の構造リスク

日本食糧新聞「納豆・豆腐特集2026」(2026.03.23)によれば、2025年の豆腐輸出量は金額ベース11億7,745万円・3,420トンと史上初めて10億円・3,000トンの大台を突破。好調な外見の裏で、納豆と全く同じコスト構造の歪みを抱えています。

共通課題納豆の状況豆腐の状況
原料大豆 北米産小粒大豆に依存
USDA在庫 -36%(2026 Q1)
北米産普通大豆に依存
バイオ燃料需要との競合が拡大
容器(PS/PP) PSジャパン+90円/kg
DIC+85円/kg(4月実施済)
豆腐パック(PP/PS)も同様
ナフサ由来で同構造の値上げ
製造エネルギー 蒸煮・発酵(ボイラー・電力)
LPG前月比最大+80%
煮沸・冷却(重油・ガス・電力)
同様にLPG急騰が大きく影響
物流 冷蔵配送(チルド)
燃料サーチャージ上乗せ
冷蔵配送+重量大
軽油高騰・ドライバー不足

「石油化学の末端製品」としての伝統食

「大豆、水、菌、凝固剤」というシンプルな原材料で構成される納豆や豆腐は、一見すると地政学リスクとは無縁の「究極のローカル自然食品」に見えます。しかしその実態は以下の3点において、石油化学工業の末端製品です。

  • 「器」の石油依存:PSP容器はナフサ由来。2026年4月の一斉値上げが確定し、コスト転嫁が進行中。
  • 「肥料」のガス依存:北米大豆の豊作を支える化学肥料は天然ガス由来。中東の不安定化が来期の生産コストを規定する。
  • 「鮮度」の電力依存:24時間コールドチェーンは化石燃料発電と軽油消費によって支えられている。

総括:一粒の大豆から見える「世界の歪み」

2026年4月27日現在、ホルムズ海峡は「IRGCによる機雷・武力封鎖」と「米CENTCOMによるイラン港湾封鎖」が重なる史上初の二重封鎖フェーズにあります。WTIは取引中に117ドル台を記録後、停戦合意・機能不全のサイクルで90〜97ドル台を往来しています(情勢悪化前の60ドル台から依然+50%超)。ナフサスポットは2月末比60%高の高止まりを続け、PSジャパン・DICによるPS樹脂の一斉値上げも現実となりました。

大豆先物市場はUSDA在庫の大幅減少という実需圧力を背景に、停戦の行方に連動しながら11.5〜11.7ドル台で推移しています。農林水産省や業界団体が「適正価格形成に向けたコスト指標」の公表を目指している事実は、メーカーの自助努力がすでに限界を超えたことを示しています。

「1パック100円の納豆」は、地球の裏側の平和と安価なエネルギーという「奇跡」の上に成り立っていました。その奇跡は今、ホルムズ海峡の二重封鎖という歴史的事態によって根底から揺らいでいます。特定の国・素材への依存を減らす中長期的な供給網の再構築が、メーカーにも消費者にも求められています。

出典・エビデンス一覧32件(公的機関7・報道や企業25)

中東情勢・ホルムズ海峡・原油価格

  • 三井住友DSアセットマネジメント「ホルムズ海峡の運航状況と原油相場と日本株」市川雅浩 チーフマーケットストラテジスト / 2026年4月9日
    WTI取引中最高値$117.63(4/7)、停戦後時間外$91.05(4/8)等を確認。
  • OANDA Japan「WTI原油見通し(市況ニュース)」2026年4月7日
    4月7日終値は110ドル台で推移していたことを確認(「117.63ドル」は取引中高値)。
  • Trading Economics「WTI原油先物 価格推移」2026年4月24日参照
    終値$94.7(4/24)、週間上昇+17%超(4/23)、停戦の機能不全後の反発推移等を確認。
  • 新電力ネット「原油価格の見通し・予測」2026年4月参照
    EIA短期エネルギー見通し(2026.04.07)でのブレント96ドル予測等を確認。
  • global-scm.com「ホルムズ海峡危機:情勢と実務リスク」2026年4月14日・15日・26日更新
    二重封鎖フェーズの構造、日本の中東原油依存度94%、通航量平時比-90%超、LPG最大+80%等を確認。
  • 時事ドットコム「依然続くホルムズ海峡封鎖◆家計影響どこまで?」2026年4月19日
    原油価格推移、停戦合意の経緯(4月8日合意・即日の機能不全)等を確認。
  • JBpress「ホルムズ海峡封鎖の長期化リスク、生産活動への下振れ圧力」2026年4月26日
    石油備蓄・ナフサ不足の拡大、テールリスクからリスクシナリオへの転換等を確認。
  • Reuters「TotalEnergies CEO 世界的エネルギー不足警告」2026年4月25日配信
    プヤネCEOの「数か月続けば世界的エネルギー不足」発言を確認。
  • Al Jazeera ライブブログ「IRGC、外国籍船2隻拿捕」2026年4月23日
    MSC Francesca(パナマ船籍)等の拿捕・発砲を確認。
  • Japan Times「イランのアラグチ外相、日本船通航容認の意向」2026年3月21日
    「容認の用意」発言の確認。ただし米封鎖・保険制約と矛盾するため実務的通航には至っていない旨も確認。

ナフサ・ポリスチレン樹脂・石油化学製品

  • 食品産業新聞社「納豆資材の専門商社から見た納豆市場、中東情勢で納豆資材が急遽値上げに【全容器】」2026年4月(ssnp.co.jp)
    PSジャパン・東洋スチレンが+90円/kg(現行比約4割相当)、プライムポリマーPE+90円/kg(4月1日〜)、「5月には全社価格改定」「メーカーが耐えられるレベルではない」等を確認。
  • LOGISTICS TODAY「食品トレー原料PS、在庫2か月」2026年4月5日
    JPCA月次統計(2025年12月末時点)からPS在庫は平時出荷ベースで約2か月分しかない旨、PE・PPの3.5〜4か月分と比較してPS固有の薄さを確認。4月中旬以降PSシートを起点にフィルム類でも値上げ・受注制限通知が発生している旨を確認。
  • 野村総合研究所(NRI)「日用品の価格上昇はもう始まっている:家計負担の試算値は年間1.8万円~2.6万円程度」2026年3月31日(木内登英 エグゼクティブ・エコノミスト)
    発泡PSシートが4月下旬出荷分から+120円/kg値上げの見通し、ゴミ袋等PE製品が5月下旬から30%以上値上げ見込みを確認。品不足が加わった価格上昇は「より大きな幅で、より早く表面化する」との警告を確認。
  • 宮野宏樹「プラ3割高騰の衝撃 ナフサ・ショックが家計を揺さぶる2026年春」(note)2026年4月
    帝国データバンク調査:2026年1〜4月に値上げ計画の食品3,593品目のうち包材・容器コスト起因が8割超であることを確認。発泡PSシート+120円/kg、PP+90円/kg以上(4月下旬〜)等を確認。
  • 日本経済新聞「ナフサ相場」コンパス・「ナフサ高の影響、プラ3割高騰で食品包装材など値上げ」2026年4月13日・15日
    旭化成ポリエチレン+120円/kg以上(3割超、4月1日〜)、汎用合成樹脂3月比3割上昇、TOPPANホールディングスが4月21日以降に包装材値上げ打診(仕入れ値2〜3割増)等を確認。
  • 帝国データバンク「ナフサ不足、国内製造業の3割で調達リスク(二次流通まで4万社超)」2026年4月21日追記
    製造業約3割での調達リスク、燃料費30%増→運輸業利益8割消失の試算を確認。
  • 暮らしの設備ガイド「ナフサ不足で値上がりする日用品・製品・サービス一覧」2026年4月25日
    信越化学+30円/kg(塩ビ、4月1日〜)、カネカ断熱材+40%(4月1日〜)等を確認。
  • 住宅建材供給チェーンのナフサショック現況まとめ2026年4月16日
    エチレンクラッカー稼働率50〜60%、JSP押出PS+40%、国土交通省4月13日付事務連絡等を確認。

大豆市場・北米農業・バイオ燃料政策

  • 米国環境保護庁(EPA)「Renewable Fuel Standard (RFS) Program: Standards for 2026 and 2027」Federal Register, 2026年4月1日公示(最終規則)
    2026年BBD義務量を2025年比+70%に設定。外国産RINを米国産の50%評価に削減。RFS導入以来最高の混合義務量を設定した旨を確認。
  • 丸紅経済研究所「2026-27年再生可能燃料基準(RFS)の公表」2025年9月2日
    2026年BBD義務量が市場予想を上回る約7割増となった旨、RFS発表後2日で大豆油価格が15%強上昇した旨を確認。米国大豆需要のバイオ燃料用は約5%程度である旨も確認。
  • ジェトロ「米環境保護庁、2026〜2027年の再生可能燃料混合基準案を公表」2025年6月24日
    BBD混合総量2026年:240億2,000万ガロン、外国産RINを米国産の50%評価に削減する提案等を確認。
  • 大豆派生商品の世界市場調査レポート(Mordor Intelligence / USDAデータ引用)2025年10月
    バイオ燃料用米国産大豆油の割合が2001/02年度の1%未満→2022/23年度に46%に上昇したUSDAデータを確認。
  • 鶴巻農業関連記事「大豆油・菜種油の世界的な需要の現状」2025年
    米国大豆油の3割以上がバイオ燃料転用、2026年に56億ガロンを大豆油由来ディーゼルに充てる方針等を確認。
  • 日本経済新聞「農業肥料が前年比2割高 3年ぶり高値、中東緊迫化で原料も調達難」2026年3月11日
    イラン情勢を背景とした天然ガス由来化学肥料の2割高を確認。
  • Trading Economics「大豆先物 価格推移・ニュース」2026年3月〜4月参照
    3/12に$12.27高値、停戦後に$11.5安値、停戦の機能不全後$11.5〜11.7台等を確認。バイオ燃料需要との連動メカニズムも記述を確認。
  • USDA 穀物在庫報告(Grain Stocks)2026年3月31日発表
    2026 Q1米国大豆在庫21億ブッシェル(前期32.9億buから急減、▲36%)を確認。
  • USDA 作付意向報告(Prospective Plantings)2026年3月31日発表
    2026年大豆作付面積8,470万エーカー増加予想を確認。
  • USDA WASDEレポート2026年3月10日発表
    世界大豆生産見通し下方修正(アルゼンチン・ウクライナ不作の影響)を確認。

納豆・豆腐業界・物流・生産現場

  • 全国納豆協同組合連合会(納豆連)2025年市場規模3,018億円を確認。
  • 財務省「2025年貿易統計(確報)」輸出量5,247.6トン・対中1,652トン等を確認。
  • 日本食糧新聞「納豆・豆腐特集2026」2026年3月23日
    豆腐輸出11億7,745万円・3,420トン等を確認。
  • 株式会社ビビッドガーデン等「生産現場の実態調査」(PR TIMES)2026年3月
    生産者66.7%が悪影響実感、燃料費89.5%・梱包資材73.0%等を確認。

文:プラスチックパレット株式会社 編集部

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