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イラン情勢と日本・アジアの紙オムツ供給への影響(SAP供給実態)|2026年6月5日更新
特別調査報告|衛生用品危機

イラン情勢と日本・アジアの
紙オムツ供給への影響
(SAP供給実態)

2026年6月5日更新版|ホルムズ海峡封鎖が招く供給網断絶と「半開きの危機」

初版: 最終更新:
▼ 結論

2026年3月31日、ホルムズ海峡封鎖によるナフサ供給断絶が紙オムツ産業を根底から揺さぶっている。原料アクリル酸の高騰でSAP(高吸水性ポリマー)市場が混乱し、日本触媒は3月27日に酸化エチレン等を+90円/kg値上げ、住友精化はシンガポール原料供給元のフォースマジュール宣言を受け出荷遅延、独BASFは生産コスト前月比15%増を計上。消費財4強もP&Gが利益10億ドル下方修正・喜望峰経由で輸送28日→42日、ユニ・チャームはPP不織布調達が予定の30%のみで「ムーニー」増産不可、花王はメリーズ容器のPE価格35%上昇でプレミアム化シフト、ユニリーバはタイ法人が4月全カテゴリー値上げを先行決断するなど、それぞれの「有事の経営」が始まった。

2026年6月5日 アップデート
「予測」から「実現」へ ── 大手3社の値上げが2026年夏に同時着弾

初版から約2か月、紙オムツ業界は「予測の値上げ」から「実現の値上げ」へと局面が移った。大王製紙は2026年5月15日、「エリエール」ブランド全品を8月1日出荷分から15%以上値上げと公式発表。ユニ・チャームは2026年7月以降、紙おむつ・生理用品など主力商品を5%前後値上げする方針を流通側に伝達(日経新聞・時事通信2026年5月15日報道)。花王は2026年9月以降に生理用品「ロリエ」や紙おむつを値上げする方向で小売企業と交渉中(読売新聞オンライン2026年5月19日報道)。一方、アジア・ナフサ価格はロイター通信6月3日報道で3月過去最高1トン1,300ドルから6月2日788ドルへ4割超下落したが、これはADNOCのオマーン経由STS(船から船への積み替え)方式での片肺輸出再開と、アジア石化需要そのものの萎縮による複合要因であり「停戦・正常化」ではなく「半開きで止まっている危機」が実態である。

イラン情勢と衛生用品危機 ―― ホルムズ海峡封鎖が招く供給網断絶の実態

紙オムツは、現代の家庭・育児・介護の現場で「あって当然」のものとして消費されてきた製品です。しかし2026年3月、その「当然」を支えてきた巨大なサプライチェーンが、ホルムズ海峡封鎖を起点とした連鎖崩壊の只中にあります。

本記事では、ナフサ→アクリル酸→SAP→紙オムツという一連の流れを、世界の主要メーカーの一次情報・公式エビデンスとともに解剖します。本シリーズの全体像は2026年ナフサ・クライシス総論で、医薬品サプライチェーンへの波及はジェネリック医薬品の供給崩壊で詳述しています。

$120
原油価格の到達点(1バレル)
2026年3月、ホルムズ海峡封鎖懸念を反映
$850+
アジア・ナフサ市況(1トン)
ロイター 2026/3/26 ・年初来約40%急騰
+90円
日本触媒の原料値上げ幅(1kgあたり)
2026年3月27日 酸化エチレン等の誘導品
$10億
P&Gの海上運賃サーチャージ試算
2026年3月25日 投資家向け説明会・通期下方修正
2026年6月5日 KPI追加
最新動向を示す4指標
15%+
大王製紙「エリエール」全品値上げ幅
2026年5月15日 公式発表・8月1日出荷分から
5%前後
ユニ・チャーム主力商品値上げ幅
日経・時事通信 2026/5/15 ・7月以降順次
9月
花王「ロリエ」紙おむつ値上げ時期
読売新聞オンライン 2026/5/19 ・小売交渉中
$788
アジア・ナフサ急落値(1トン)
ロイター 2026/6/3 ・3月の1,300ドルから4割超↓

ホルムズ海峡の「窒息」とナフサ・ショック

1.1 地政学リスクの劇的変化(2026年3月の現実)

2026年3月31日現在、ホルムズ海峡を巡る緊張は極限状態にあります。イラン政府による通行規制の強化は、エネルギー市場のみならず、世界の化学品サプライチェーンを根底から揺るがしています。

  • エビデンス①:イラン政府はホルムズ海峡の主権を強調し、特定国に関連する船舶の通過を制限。これにより世界の原油輸送の約2割が停滞するリスクが顕在化(2026年3月31日、主要経済ニュース)。
  • エビデンス②:原油価格は一時1バレル=120ドルを突破。価格高騰以上に、日本へのタンカー到着遅延という「物理的な供給不足」が深刻化しています。

1.2 石油化学の源流:ナフサの供給断絶

紙オムツを構成するプラスチックや合成繊維のすべての源流は「ナフサ(粗製ガソリン)」にあります。日本はナフサ輸入の約8割以上を中東に依存しており、この動脈が遮断されることは、衛生用品産業にとって致命的な打撃を意味します。

  • 市場データ:2026年3月26日のロイター通信によれば、アジアのナフサ市況は1トン=850ドルを超え、2026年初頭比で約40%急騰。中東からの輸出フローが滞り、国内のエチレンセンターは稼働率を大幅に下げざるを得ない状況です。

中東インフラの物理的被害状況については中東エネルギーインフラの崩壊と「失われる5年間」を参照してください。

2026年6月5日 補足
1.3 ナフサ急落の真相 ── 「停戦」ではなく「半開き」の供給

2026年6月3日のロイター通信は「アジアのナフサ価格急落」を報じた。3月の過去最高1トン1,300ドルから6月2日788ドルへ4割超の下落、ブレント原油に対する精製マージンも3月の過去最高1トン467ドルから足元84ドル程度まで縮小した。一見、危機の収束を示すかのような数字だが、実態は3つの要因が重なった「半開きの正常化」である。第一に、UAEのADNOC(アブダビ国営石油)が4月に停止していたルワイス製油所のナフサ輸出(月約100万トン規模)を、5月にオマーンのソハール港経由のSTS(船から船への積み替え)方式で一部再開した(報道で確認されたタンカーは2隻のみ)。第二に、アジアの石油化学需要そのものが弱体化した(シンガポール・インドネシア・韓国・台湾の石化コンプレックスで減産や不可抗力が続発)。第三に、極端な供給不安プレミアムの剥落である。停戦合意でも紛争再燃でもなく、迂回ルートの片肺運転と需要破壊が同時に進む状況であり、紙オムツ業界の構造的供給リスクは終結していない

吸水性ポリマー(SAP)市場の構造破壊

紙オムツの性能を決定づける中核素材、高吸水性ポリマー(SAP)。この市場は、日本とドイツの数社が世界シェアを分け合う寡占状態にあり、上流の混乱がダイレクトに波及します。

2.1 主要プレイヤーの苦境とエビデンス

世界的なSAP供給網は、原料不足とエネルギーコスト増という「二重苦」に直面しています。

企業名 本拠地 2026年3月の動向とエビデンス
日本触媒 日本 原料価格改定:3月27日、酸化エチレン等の誘導品を1kgあたり90円以上値上げ。SAP原料のアクリル酸供給もタイト化。
BASF ドイツ 製造コスト急騰:3月のICISレポートにて、欧州拠点の生産コストが前月比15%増。サーチャージの導入を検討。
住友精化 日本 供給遅延:シンガポールの原料供給元が「不可抗力(FM)」を宣言。アジア市場への出荷に遅延が発生。
Evonik ドイツ 収益性圧迫:石油化学原料のスポット価格高騰により、長期契約の見直しと価格転嫁を加速。

2.2 原料「アクリル酸」の供給制限

SAPの主原料であるアクリル酸は、ナフサから精製されるプロピレンを起点とします。国内石化各社が減産に踏み切ったことで、アクリル酸の市況価格は高騰。SAPメーカーは、製品の安定供給を維持するために、顧客であるオムツメーカーに対して異例の「割当供給」や「大幅な価格改定」を要請せざるを得ない状況です。「ナフサ4ヶ月分確保済み」の数字に隠れた構造的問題はナフサ備蓄4ヶ月の陰で進む石化産業の構造的敗北で詳述しています。

2026年6月5日 補足
2.3 三菱ケミカル ── アクリル酸+40円/kg値上げの直接エビデンス

三菱ケミカルは2026年4月1日出荷分から、紙おむつなどに使われる高吸水樹脂(SAP)の原料となるアクリル酸製品を1kgあたり40円以上値上げすることを公表した(papamamamoney.com 2026年4月時点の報告)。三菱ケミカルは日本のSAP原料市場の主要プレイヤーであり、この値上げは日本触媒・住友精化・三洋化成等のSAPメーカーへの供給コストを直接押し上げ、ひいては紙オムツメーカーの調達コスト構造を再定義する。第2章で示した「SAPメーカーによる割当供給・大幅な価格改定」が、原料サプライヤー段階で具体的な数値として実現したことを意味する。

消費財4強(P&G、ユニ・チャーム、花王、ユニリーバ)の経営激震

原材料費の暴騰と物流網の寸断は、単なる「コスト増」の枠を超え、各社の収益構造とグローバル戦略を根本から変容させています。

3.1
P&G:グローバル・サプライチェーンの「目詰まり」と財務下方修正 世界最大の消費財メーカーが直面する未曾有の輸送遅延

世界最大の消費財メーカーであるP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)は、最もマクロ経済の影響を受けやすい体質にあります。

航路変更による「動脈硬化」

2026年3月初旬、主要海運会社(マースク、MSC等)がホルムズ海峡周辺の危険回避のため、アジア・欧州航路を喜望峰経由に完全シフトしました。P&Gはこの影響を直撃。輸送期間が従来の28日から42日以上へ延び、在庫回転率が大幅に悪化しています。

財務的エビデンス

P&Gは3月25日の投資家向け説明会にて、2026年度の通期純利益成長率の見通しを下方修正。背景として、原材料高に加え、未曾有の「海上運賃サーチャージ(割増金)」が10億ドル規模で利益を圧迫するとの試算を示しました。

戦略

パンパース等の主力製品において、米国市場を中心に「段階的な価格引き上げ」を継続。広告宣伝費の効率化でコスト増を補填する構えです。

3.2
ユニ・チャーム:アジア拠点の「不可抗力(FM)」ドミノ タイ・インドネシア・中国の生産拠点が原料調達難に

アジア市場で圧倒的シェアを持つユニ・チャームは、製造拠点の多くをタイ、インドネシア、中国に置いています。これら拠点の原料調達が「物理的に」困難になっています。

PP(ポリプロピレン)の消失

2026年3月3日付のICIS(国際化学品情報サービス)のレポートでは、東南アジアの主要石化プラントが、中東産ナフサの欠乏により「不可抗力(フォース・マジュール)」を宣言しました。オムツの表面材に欠かせないPP不織布の調達が、予定の30%しか確保できない事態に陥っています。

SAPの割当供給

同社が依存する住友精化等のSAPメーカーも出荷制限を行っており、「ムーニー」「マミーポコ」の増産が不可能な状況です。

戦略

同社は販促費(クーポンやポイント還元)を大幅に抑制し、実質的な店頭価格を維持しつつ、供給安定を最優先する「有事の在庫管理モード」へ移行しています。

2026年6月5日 続報
2026年Q1決算で「資材は調達できる」と表明、7月から5%前後値上げ

ユニ・チャームは2026年5月8日に2026年1〜3月期連結決算(IFRS基準)を発表。純利益は前年同期比21%減の197億円(前年同期のインド工場火災関連保険金収入の反動)。売上高は3%増の2,341億円、コア営業利益は8%増の314億円と、海外事業(売上高の7割)が牽引した。島田弘達専務執行役員は「資材などはある程度先まで調達できる状況」「現時点では商品供給面の問題は起きていない」と説明し、「トップメーカーとして商品を切らさないよう調達を第一優先で考えている」「コスト増には価値転嫁などで対応」と表明。2026年12月期通期予想は売上高1兆100億円(7%増)・純利益865億円(33%増)を据え置いた。実際の価値転嫁として、2026年7月以降、紙おむつ・生理用品など主力商品を5%前後値上げする方針を流通側に伝達(日経新聞・時事通信2026年5月15日報道)。初版で示した「有事の在庫管理モード」は機能しており、Q1段階では供給維持に成功した。ただし、値上げの本格化は7月以降であり、夏場の消費動向が試金石となる。

3.3
花王:日本国内の「ナフサ・デカップリング」への苦闘 国内生産比率が高い構造ゆえの中東依存の直撃

花王は国内生産比率が高く、日本のエネルギー政策(ナフサの中東依存)の影響をダイレクトに受ける構造です。

エビデンス

日本のナフサ輸入はサウジアラビア、UAE、クウェートの中東3カ国で大半を占めます。3月15日以降、日本の主要エチレンセンター(市原、倉敷等)が稼働率を70%以下に引き下げました。

容器と中身の両面コスト増

「メリーズ」に使用されるプラスチック容器(外装)のポリエチレン価格が、3月末時点で2026年初頭比35%上昇。洗浄成分(界面活性剤)の石油由来原料も高騰しています。

戦略

同社はブランド力を背景に、「高付加価値化(プレミアム・ライン)」への強制的なシフトを進めています。低価格帯の製品ラインを縮小し、1枚あたりの利益が高い高機能品に資源を集中させることで、販売数量の減少を単価上昇で補う方針です。

2026年6月5日 続報
9月以降に「ロリエ」紙おむつを値上げ方向、7月「アタック」「ビオレ」先行

読売新聞オンライン(2026年5月19日付)によれば、花王は2026年9月以降、生理用品「ロリエ」や紙おむつを値上げする方向で、取引先の小売企業と交渉していることが判明した。同社は「生活必需品の安定供給のため、必要な対応の一つ」と回答。先行する7月以降には衣料用洗剤「アタック」やスキンケアの「ビオレ」も値上げ予定であり、生理用品・紙おむつ・洗剤・スキンケアという同社の主力カテゴリーが順次値上げ局面に入る。生理用品や紙おむつは、不織布・高吸水性樹脂などナフサ由来原材料を多く使用、洗剤や化粧品の界面活性剤もナフサ由来原料が多いため、初版で示した「プレミアム化シフト」のみでは吸収しきれない局面に到達した。

3.4
ユニリーバ:インフレ経済下での「先行値上げ」の決断 競合に先駆けた価格転嫁とセーフティ・ストックの引き上げ

ユニリーバは、世界的なインフレ局面において、最も「価格転嫁」に積極的な姿勢を示しています。

エビデンス

2026年3月17日、ユニリーバ・タイ法人のCEOは「原材料と物流費の予測不可能な高騰」を理由に、4月からの全カテゴリー(洗剤、衛生用品等)の値上げを断行すると発表。これは、競合他社が値上げを躊躇する中での先行的な決断です。

在庫の「セーフティ・アップ」

同社はグローバルで「安全在庫(セーフティ・ストック)」の水準を従来の1.5倍に引き上げる指令を出しました。これは、物流の不確実性が高まる中で、欠品によるシェア喪失を最も恐れていることの表れです。

3.5
2026年6月版追加大王製紙:業界最大幅「15%以上値上げ」を業界に先駆けて公式発表 エリエール家庭用・業務用 全品 8月1日出荷分から

初版では消費財4強(P&G・ユニ・チャーム・花王・ユニリーバ)を分析したが、2026年5月の動向では国内大手の大王製紙が業界全体に先駆けた値上げを公式発表した。同社は2026年5月15日、紙おむつなど「エリエール」ブランドの家庭用・業務用製品の全品を現行価格から15%以上値上げすると発表(2026年8月1日出荷分から)。理由として「中東情勢悪化の影響で、ナフサ由来の素材をはじめとする原材料価格が上昇しているため」を明示した(時事通信 2026年5月15日)。

4社平均を上回る値上げ幅の意味

ユニ・チャームの5%前後・花王の値上げ交渉中とは対照的に、大王製紙の「15%以上」は業界全体で最大幅。これは①国内紙パルプ業界のコスト構造(電気代・人件費・物流費)の悪化、②原材料(SAP・不織布・パルプ)の調達価格上昇、③家庭用と業務用を同時に値上げする一括対応、の三重要因によるものと業界では解釈されている。なお、同社は2026年2月にも家庭用・業務用紙製品を4月1日納品分から10%以上値上げすると発表しており(日経新聞2026年2月9日)、わずか半年でさらなる値上げが必要となるほど原料コスト圧迫が深刻化していることを示す。

「グーン」へのインパクト

大王製紙のベビー用紙おむつ「グーン」はマミーポコ(ユニ・チャーム)と並ぶ低価格帯ブランド。15%以上の値上げは、消費者の購買行動に大きな影響を与え、メリーズ(花王)・パンパース(P&G)等プレミアムブランドへの「逆ダウントレード」を誘発する可能性もある。価格データを分析するプライシー編集部によると、グーンはセールやクーポン頻度が高くブランド選びでの柔軟性が高い半面、定価ベースの上昇は家計に直接影響する。

各社のリスク耐性と対応の対比

企業 最大の懸念点 2026年3月の戦略的トーン
P&G グローバル物流の遅延(喜望峰経由) 財務防衛:利益予想を下げ、株主還元と効率化を優先。
ユニ・チャーム 東南アジアでの原料物理的不足 供給優先:プロモーションを停止し、欠品阻止に全力を挙げる。
花王 日本国内の石化原料コスト増 プレミアム化:高付加価値化による単価上昇でコストを吸収。
ユニリーバ 全カテゴリーでのコストインフレ 先行突破:市場に先駆けて値上げを公表し、在庫を積み増す。

このように、消費財4強はそれぞれ自社の強みと市場特性に応じた「有事の経営」を展開しており、2026年4月以降、これら全ての動きが合流して、我々の生活圏における「オムツ価格の再定義」が行われることになります。

2026年6月5日 5社対比 補足
3.6 値上げ幅と時期の対比 ── 2026年夏に同時着弾する5社の動き
企業 値上げ時期 値上げ幅 対象・出典
大王製紙 2026/8/1
出荷分から
15%以上 エリエール家庭用・業務用全品/2026年5月15日公式発表(時事通信)
ユニ・チャーム 2026/7以降
順次
5%前後 紙おむつ・生理用品など主力商品/2026年5月15日報道(日経・時事通信)
花王 2026/9以降
(7月先行)
交渉中 「ロリエ」紙おむつ等(9月)・「アタック」「ビオレ」(7月先行)/2026年5月19日読売
ユニリーバ・タイ 2026/4から 非公開 全カテゴリー(洗剤・衛生用品等)/2026年3月17日発表(先行値上げ)
P&G 2026年通年
段階的
非公開 パンパース等主力製品/2026年3月25日 通期下方修正

初版で予測した「数%〜10%以上の価格改定」は、大王製紙の15%以上で大きく上振れた。一方、ユニ・チャームは5%前後と相対的に抑制的だが、Q1決算では「価値転嫁で対応」を明言。2026年夏(7〜9月)に大手3社の値上げが同時着弾するのは、消費者の家計と販売チャネルにとって過去にない局面となる。

供給網の再編と今後の展望

現在進行中の中東危機は、単なる「一時的な値上がり」ではなく、衛生用品業界の構造そのものを変容させています。

4.1 供給網の「脱・中東依存」への模索

日本企業を中心に、特定地域への依存リスクを低減する動きが加速しています。

  • 調達の多角化:中東産ナフサ以外の原料調達(米国産シェール由来やバイオマス由来原料)へのシフトが急務となっていますが、設備転換には時間を要するため、短期的には供給制約が続く見込みです。

4.2 市場価格と消費者への影響

エビデンスが示す通り、上流から下流まで一貫してコストが増大しています。

  • 価格改定の常態化:2026年4月以降、大手メーカー各社は「数%〜10%以上」の価格改定、あるいはプロモーション(特売)の削減を順次実施。
  • プレミアムシフト:低利益な普及品を絞り込み、利益率の高い高機能製品へリソースを集中させる「選択と集中」が加速します。
2026年6月5日 追記
4.3 「半開きの正常化」を打ち消す5つの構造要因

ナフサ価格が6月3日報道で4割超下落したにもかかわらず、紙オムツ業界の正常化が短期で進まない構造要因は5つある。

  • ① 紛争リスクプレミアムは恒久化:イラン情勢が完全停戦に至っていない以上、海上保険料・サーチャージは平時水準には戻らない。喜望峰経由のリードタイム延長(28日→42日以上)も継続中。
  • ② アジア石化需要そのものの萎縮:シンガポール・インドネシア・韓国・台湾の石油化学コンプレックスで減産・不可抗力宣言が続き、SAP・PP不織布の供給回復は限定的。ナフサ価格下落は「需要破壊」の側面が大きい。
  • ③ 大手の値上げは2026年夏に既に決定済み:大王製紙(8月15%以上)・ユニ・チャーム(7月5%前後)・花王(9月)の値上げ決定は、原料市況の短期的な下落では撤回されない。原料コストの「水準訂正」は完了している。
  • ④ 紙おむつの製造ライン投資判断は数年スパン:製造ラインの脱・中東依存(米国シェール由来・バイオマス由来等)には設備転換・サプライヤー認定・品質試験で数年を要する。短期での構造転換は物理的に不可能。
  • ⑤ 大人用紙おむつ需要は高齢化で堅調:日本衛生材料工業連合会の統計によれば、2023年の大人用紙おむつ生産数量は90億7,700万枚(2024年は前年比4%増)。乳幼児用は少子化で減少傾向だが、大人用は高齢化を背景に堅調で、原料高騰のしわ寄せが介護家計に直接かかる構造。

これら5要因が重なり、原料市況の一時的な下落が小売店頭価格の安定化に直結しない構造が固定化している。実際、乳幼児用紙おむつの価格は2024年9月時点で2020年比約2割高と既に長期上昇トレンドにあり、今夏の値上げでさらなる上昇圧力がかかる(papamamamoney.com)。

冷静なリスク管理の時代

本レポートが示した通り、イラン情勢は石油化学産業のバリューチェーンを通じて、我々の家庭に直結しています。一枚の紙オムツの供給維持には、現在、かつてないほどのコストと地政学的リスクが介在しています。

2026年の衛生用品市場は、以下の3点が鍵となります。

01
物理的供給の確保
値段以上に「商品が棚に並ぶか」が焦点となる局面。
02
コストの価格転嫁
メーカー、小売、消費者の全段階でコスト負担を分かち合う段階。
03
地政学への感度
中東情勢の一挙一動が、翌月の家庭の支出に直結する現実。

消費財各社は、この危機を乗り越えるためにデジタル技術による在庫の最適化と、原材料の代替化を急いでいます。我々消費者も、エビデンスに基づいた冷静な市場理解を持つことが、この不確実な時代における最大のリスク管理となります。

2026年6月5日 結語追記
「予測」が「実現」になった2か月、そして見えてきた「半開きの危機」

初版(2026年3月31日)から約2か月、本記事の「予測」は次々と「実現」へと姿を変えた。大王製紙の15%以上値上げ・ユニ・チャームの5%前後値上げ・花王の9月値上げ方向・三菱ケミカルのアクリル酸+40円/kg値上げは、いずれも公式発表または信頼性の高い報道として確定した事実である。一方、6月3日のナフサ急落報道に対し、安易に「危機終了」と判断することは戦略的に誤りである。ADNOCのオマーン経由STSによる片肺輸出再開と、アジア石化需要の萎縮が同時進行する「半開きの危機」が実態であり、紙オムツ業界の構造的供給リスクは、2026年下半期から2027年にかけて継続する見込みである。消費者・小売・メーカー・原料サプライヤーの全段階で、「平時のサプライチェーンには戻らない」という前提のもとでの戦略再構築が必要となっている。

参考文献・エビデンス一覧
2026年6月5日更新版・元エビデンスは完全保持/本セクションでは元24件+新規12件を一字一句保持して掲載
  • CENTCOM 公式発表 米中央軍によるイラン港湾封鎖措置(Operation Epic Fury)の対象範囲・内容。2026年4月13日発令。
  • Reuters(2026年4月22日) WTI原油の一時90.70ドル上昇・90ドル台前半推移、Brent前日比101.15ドル到達後99.67ドルで清算を報道。JP Morgan・Citiの原油価格上振れシナリオ(120〜150ドル超)も同社報道。
  • Reuters(2026年4月25日) TotalEnergies プヤネCEOによる「数か月の戦争継続で世界的エネルギー不足」発言、マクロン仏大統領の「数日〜数週間以内の完全再開」目標発言。
  • Reuters Japan 三井化学・三菱ケミカル等のエチレン設備減産可能性、ナフサ調達リスクに関する報道。
  • Al Jazeera(2026年4月23日) IRGCによるコンテナ船2隻拿捕(MSC Francesca、Epaminondas)・1隻への発砲を報道。
  • Al Jazeera / global-scm.com(2026年4月4日更新) 「海峡が開通しても混乱は数カ月続く」とするアナリスト見解。滞留約2,190隻の処理・機雷掃海・保険市場回復・恒久リスクプレミアムを阻害要因として列挙。
  • global-scm.com(2026年4月15日・18日・19日・22日・26日 各更新版) ホルムズ海峡危機の情勢と実務リスク連載。通航数・CENTCOM措置の詳細・日本船社の対応・ナフサ在庫構造(民間在庫約20日分・UAE等3カ国でナフサ輸入の約67%)・4月17日開放宣言から24時間以内の再封鎖逆転を報告。
  • 毎日新聞(2026年4月18日) IRGCによる「再封鎖」宣言、通峡試行中の商船2隻への銃撃(Reutersを引用)を報道。
  • Security対策Lab(rocket-boys.co.jp) 平時1日平均140隻→通常の10%未満への激減、国内精製所稼働率67.7%(過去最低)、ペルシャ湾内180隻超・1億7,200万バレル超のタンカー足止めを報告。
  • 野村総合研究所 木内登英氏(2026年3月31日) エチレン由来日用品の価格上昇による家計負担を試算。4人家族で年間1万8,000円〜2万5,500円の負担増。日本サニパック30%以上値上げ・発泡ポリスチレン1kgあたり120円値上げ・EO誘導品90円/kg以上値上げ等の具体的数値を提示。
  • 日本経済新聞(2026年2月9日) 大王製紙が家庭用・業務用紙製品を2026年4月1日納品分から10%以上値上げすると発表。
  • 時事ドットコム 原油先物が紛争前60ドル台から4月7日に112.95ドルへ急騰、4月8日の停戦合意と価格動向を報道。ニッセイ基礎研究所 上野剛志主席エコノミスト「協議継続中は90〜100ドル台で一進一退、5月末停戦なら年内70ドル台」との予測を引用。
  • ジェトロ ビジネス短信(2026年4月) 在ベトナム日系商社ヒアリング(3月30日〜4月2日)。1〜3か月分の在庫で対応中だが川上の先細りにより見通し不透明。コスト上昇分は今後2〜3か月で末端価格に転嫁との予測。
  • 日本経済新聞(2026年4月8日) 韓国での有料ゴミ袋買い占め・購入枚数制限、韓国首相による「包装材の需給不安で食料供給まで脅かされている」発言を報道。
  • 朝日新聞・FNNプライムオンライン(2026年4月9日) 三菱ケミカル・三井化学等のエチレン減産を3月上旬から継続中と報道。
  • ユニ・チャーム 2025年12月期・各四半期決算説明資料 / 第66期中間株主通信 2025年12月期通期:売上高9,453億円(前年比4.4%減)、コア営業利益1,089億円(同21.4%減)。中国事業は2021〜2024年で実質売上高が2割以上減少。インドネシアでは与信管理強化に伴う出荷抑制と販売網の再構築を進める方針。東南アジアではダウントレードの傾向とeコマース競合の台頭が続く。
  • 東洋経済オンライン(2025年7月18日) ユニ・チャームの中国・インドネシア二大市場での変調を報告。中国事業は2022年12月期から実質売上高がマイナスに転じ、インドネシアでは営業力・価格競争力の強化を進めるローカル競合の台頭を報告。
  • Euromonitor International(2024年) アジア太平洋地域は世界の衛生用品小売売上高の40%超を占める。東南アジアの大人用失禁用品は2021〜2026年にCAGR15%の成長見通し。インドネシアが成長を牽引。中国と東南アジアでアジア太平洋地域売上の70%超を占める。
  • J-marketing.net(JMR生活総合研究所) 花王・P&G・ユニ・チャームの値上げ戦略の比較分析。P&Gが2021〜2022年に北米・アジアで複数回の値上げを実施した実績、花王の「戦略的値上げ」の手法と競合各社の対応を詳述。
  • 日本経済新聞(2023年2月) インドネシアのベビー用品市場での競争。ユニ・チャームが一般品より5割高の環境配慮型紙おむつを投入、キンバリー・クラークが現地大手を買収して攻勢。インドネシアの出生数は日本の5倍以上。
  • マネー現代(Yahoo!ファイナンス) 石化各社の大型値上げ(関西ペイント50%超・日本サニパック30%以上)、経団連会長の「長期化を想定した次の打ち手」発言(2026年4月6日)を報道。
  • Mordor Intelligence / GII Consulting SAP市場レポート(2024〜2026年) 世界SAP市場は上位5社で75%超を占める寡占構造(日本触媒・住友精化・三洋化成・BASF・Evonik)。アクリル酸はSAP生産コストの約70%を占め、四半期ごとに最大25%変動。ベビー用紙おむつがSAP需要の約65〜70%を占める。2025〜2026年のCAGRは約8%で成長見込みだが、原材料コスト高騰と入手可能性が市場成長の妨げになると分析。
  • ニュースイッチ(日刊工業新聞) 日本触媒の世界生産能力(年71万トン・世界トップ)および5拠点体制、住友精化の逆相懸濁重合法による差別化、中国でのSAP供給過剰による価格競争激化、バイオプロピレン由来SAP開発の動向を報告。
  • 三菱ケミカル 製品情報 アクリル酸はプロピレンを直接酸化して製造され、高吸水性樹脂(SAP)の主原料として使用されることを確認。
  • 御津電子株式会社(2026年4月5日) ホルムズ封鎖下でナフサ価格が短期間で600ドル台後半から1,100ドル前後まで上昇したケースを報告。サーチャージ条項・ナフサリンク型価格改定の実務対応を解説。
  • 【2026年6月版追加】時事通信(2026年5月15日) 大王製紙が紙おむつなど「エリエール」ブランドの家庭用・業務用製品の全品を現行価格から15%以上値上げすると発表。中東情勢悪化の影響で、ナフサ由来の素材をはじめとする原材料価格が上昇しているため。2026年8月1日出荷分から価格改定。
  • 【2026年6月版追加】日本経済新聞(2026年5月15日) 「ユニ・チャームや大王製紙、紙おむつ値上げ 材料高騰で2026年夏から」。最大手のユニ・チャームは2026年7月から順次、紙おむつや生理用品など主力商品を5%前後値上げ。同社は「新商品やリニューアルもからめ、一枚でより長」と価値転嫁策を説明。
  • 【2026年6月版追加】読売新聞オンライン(2026年5月19日) 花王が2026年9月以降、生理用品や紙おむつを値上げする方向で取引先の小売企業と交渉していることを報道。中東情勢の悪化に伴うナフサの供給停滞の影響が生活必需品にも広がってきた。花王は7月以降順次、衣料用洗剤の「アタック」やスキンケアの「ビオレ」を値上げし、9月以降に生理用品の「ロリエ」などの値上げに踏み切る方針。「生活必需品の安定供給のため、必要な対応の一つ」と回答。
  • 【2026年6月版追加】日本経済新聞(2026年5月8日) ユニ・チャーム 2026年1〜3月期連結決算(IFRS基準):純利益197億円(前年同期比21%減・前年同期のインド工場火災関連保険金収入の反動)、売上高3%増の2,341億円、コア営業利益8%増の314億円。島田弘達専務執行役員「資材などはある程度先まで調達できる状況」「現時点では商品供給面の問題は起きていない」「トップメーカーとして商品を切らさないよう調達を第一優先」「コスト増には価値転嫁などで対応」と表明。2026年12月期通期見通しは売上高1兆100億円(7%増)・純利益865億円(33%増)を据え置き。
  • 【2026年6月版追加】Reuters(2026年6月3日) 「アジアのナフサ価格急落、ADNOCがオマーン経由で輸出再開」。アジア・ナフサ指標価格(7月後半渡し)は6月2日に1トン788ドルと3月初旬以来の安値。UAEのADNOC(アブダビ国営石油)が4月に停止していたルワイス製油所のナフサ輸出(月約100万トン規模)を、5月にオマーンのソハール港経由のSTS(船から船への積み替え)方式で一部再開。
  • 【2026年6月版追加】LOGI-TODAY(2026年6月3日) 「ナフサ急落、ソハール積み替えで供給に動き」。3月の過去最高1トン1,300ドルから4割下落、精製マージンも3月の過去最高1トン467ドルから足元84ドル/トンへ縮小。下落要因は3つ(供給不安プレミアム剥落・需要破壊・代替ルート確立)。シンガポール・インドネシア・韓国・台湾の石化コンプレックスで減産や不可抗力。日本にとっては調達不安緩和の材料だが、川下への供給が直ちに正常化するとは言い切れないと分析。
  • 【2026年6月版追加】papamamamoney.com「2026年オムツ値上げカレンダー」(2026年4月時点更新) 三菱ケミカルが紙おむつなどに使われる高吸水樹脂の原料となるアクリル酸製品を2026年4月1日出荷分から1kgあたり40円以上値上げ。乳幼児用紙おむつの価格は2024年9月時点で2020年比約2割高。
  • 【2026年6月版追加】プライシー編集部「2026年5月 おむつの値上げはいつから?ブランド別の値上げ額と節約対策」(2026年5月) 大王製紙(グーン・エリエール)は2026年8月1日納品分から全品15%以上値上げ(公式発表)。ユニ・チャーム(ムーニー・マミーポコ等)は2026年7月以降5%前後値上げ方針報道。ブランド別の値上げの受け方分析(パンパースは半年間で値下がりゼロ、メリーズ・グーンはセールやクーポン頻繁)。
  • 【2026年6月版追加】日本衛生材料工業連合会 統計調査 2023年の大人用紙おむつ生産数量は90億7,700万枚、2024年は前年比4%増(高齢化を背景に堅調推移)。乳幼児用は少子化で減少傾向だが、大人用は介護需要で継続的な増加。
  • 【2026年6月版追加】ケアニュース「進化続ける大人用紙おむつの最新トレンド」 日本衛生材料工業連合会の高橋紳哉専務理事インタビュー。「円安が止まらない。大人用紙おむつは近年、値上げ傾向にあったが、生産控えの動きなどをみると、原材料高騰分を吸収できような状況ではないのかもしれない」「国は重点支援地方交付金で、介護事業者へ水光熱費や食材料費の高騰分を支援するが、おむつ代は残念ながら対象とされていない」と業界の構造的圧迫を報告。
  • 【2026年6月版追加】value_keizai_lab note解説「ナフサ急落をやさしく解説」(2026年6月) ロイター6月3日報道の解説。供給ルートの一部復旧と需要破壊の同時進行を分析し、「半開きで止まっている危機」の構造を整理。
免責事項:本記事は2026年6月5日時点の公開情報をもとにした分析であり、特定の投資行動・経営判断・法的判断を推奨するものではありません。ホルムズ海峡をめぐる情勢は数時間単位で変動するため、最終判断は各企業のIR・資源エネルギー庁・外務省海外安全情報等の最新一次情報をご確認ください。
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