イラン情勢×ナフサショックで変わる食品包装の実態【2026年5月】
カルビー2色化・らでぃっしゅぼーや紙包装・
スーパー容器→袋へ、官民30項目確保の構造を解剖
2026年5月、ナフサショックが食品流通に波及。カルビー14商品の2色印刷化(5月25日出荷〜)、カゴメの透明パッケージ化、らでぃっしゅぼーやのプラ袋→紙への切り替え(5月11日〜)、イトーヨーカドーの天ぷら・巻きずしのバラ売り・紙袋化など対応が連鎖。農水省は57項目調査で30項目の供給問題なしを確認し、5月27日に官民情報交換会を初開催した。
なぜ食品包装が変わるのか――ナフサと食品流通の二重の連鎖
食品包装の変更は2つの経路でナフサショックの影響を受けている。第一の経路は「容器・フィルム素材」だ。食品トレー・包装フィルム・袋類の大半はポリエチレン(PE)・ポリプロピレン(PP)・ポリスチレン(PS)など石油化学品を原料とするプラスチックで構成される。2026年2月28日のイラン攻撃に起因するホルムズ海峡の事実上の封鎖でナフサ供給が逼迫し、これらの樹脂原料コストが前年比30〜40%超に急騰した。
第二の経路は「印刷インキ」だ。食品パッケージに施されるグラビア印刷は、トルエン・キシレンなどナフサ由来の芳香族溶剤をインキの溶剤として大量に使用する。東京インキが2026年5月1日出荷分からグラビアインキ関連製品を30%以上値上げすると発表した通り、インキ原料の顔料・樹脂・添加剤・溶剤すべてが同時に値上がりする事態となった。包装フィルムの素材コストと、そこに印刷するインキコストが同時に高騰したことで、食品メーカーと流通は二重のコスト圧力に晒されている。
企業の対応一覧――印刷2色化・透明化・容器廃止・生産停止
以下に、2026年4〜5月に確認された主要各社の包装形態変更の対応を整理する。
ポテトチップス(うすしお・コンソメ・のりしお等)、かっぱえびせん、フルグラなど主力14商品のパッケージを従来の多色印刷から2色印刷に変更。グラビア印刷では6〜7色の特色インクが必要だが1色でも入荷が止まれば生産ライン全体が止まるリスクがあるため、2色に絞り込むことで調達リスクを低減。5月12日の官房副長官会見では「印刷インク・ナフサともに直ちに供給上の問題はない」との見解が示され、政府が同日ヒアリングを実施した。
トマトケチャップの外装パッケージを、印刷の下地として使用している白インクを廃止した透明デザインに変更。白インクは使用可能な種類が限られ代替が難しいため、白インクを使わない仕様に切り替えることで安定供給を確保する判断をした。パッケージの見た目は変わるが、内容品の品質・容量に変更はない。
ファミリーマートがサンドイッチ包装ロゴの白黒化を検討中と産経新聞が報道。同社はプラスチック使用量が少ない容器への変更、包装に使う色数の削減、容器の共通化(異なる商品で同一形状の容器を使い調達効率を上げる)なども検討している。太子食品工業は2026年6月出荷分から一部商品の包装に印刷されている文字を簡素化し、順次白黒印刷に変更する予定とした。
刺身・ステーキなどの容器の蓋をプラスチック製からラップフィルムに順次変更。着色容器を白色(インク使用量削減)に切り替え。また冷やし中華・うどんなどでは帯状フィルムをシールに変更し、包装コスト上昇を吸収しながら価格を据え置く取り組みも実施。買い物客からは「特に違和感はない」「価格据え置きの方が助かる」との声が聞かれた。
透明プラスチック容器に入れていた天ぷら・巻きずし・総菜類をバラ売りに変更し、紙の袋に包む形式に転換。プラスチック製トレーを廃止することで容器コストを削減するとともに、容器の調達リスクを回避する判断。自社の惣菜コーナーでの対応として、FNNプライムオンラインが2026年5月20日に報じた。
ホットコーヒー用のカップの蓋をプラスチック製から紙製に変更。ストロー廃止などで蓄積してきた脱プラ知見を活用し、ナフサショックへの対応として素材転換を実施。報道特集(2026年5月放送)でも紹介された対応のひとつ。コンビニ大手各社のなかで最もわかりやすい素材代替の事例として注目されている。
オイシックス・ラ・大地が運営する青果宅配サービス「らでぃっしゅぼーや」は、5月11日からバナナ・玉ねぎなどの梱包をプラスチック袋から白新聞紙に切り替え。品質保持に包装が不要なリンゴや玉ねぎの一部では梱包そのものを廃止。自社便配送のため、梱包変更に合わせて配達時の衝撃を抑える対応を行い品質を保持。同社は2026年5月22日に変更内容を正式発表した。
高知県を代表する土産菓子「ミレービスケット」がナフサ不足を理由に一部商品の生産を停止したことを共同通信(NEWSjp)が報道。包装資材の調達困難が即座に生産停止につながった事例として、サプライチェーンの脆弱性を象徴するケースとなった。中小食品メーカーが包装資材のコスト急騰・調達難に直面した際の「選択肢のなさ」を示している。
小売現場の変化――ポリ袋撤去・揚げ物バラ売り・パスタ結束テープ廃止
食品メーカーの包装変更にとどまらず、小売現場そのものも変化している。各地のスーパーでは買い物客が無料で使えるロールタイプのポリ袋が売り場から撤去され始めた。マルコストアーの山川悟史社長は「中東情勢の影響でポリ袋が品薄状態で不足している。メーカー側から出荷制限をかけざるを得ないと連絡があった」と説明しており、消費者の「どうしよう」という声が各地から上がっている。
揚げ物・惣菜コーナーではイトーヨーカドー以外の食品スーパーでも同様の対応が広がっている。天ぷら・唐揚げ・コロッケ等をプラスチック製のパック容器で個包装していた惣菜を、油紙・薄葉紙・紙袋で提供するバラ売り形式へ転換する動きが相次いでいる。食品メーカー側では、日清製粉ウェルナが2026年4月10日にパスタ製品の束を固定する結束テープの廃止を告知。テープの原料であるポリプロピレン系素材の調達が困難になったことへの対応で、包装の一部省略という方向性が食品流通の上流から下流まで一貫して現れている。
| 事業者・事例 | 変更内容 | 種別 | 時期 |
|---|---|---|---|
| カルビー | ポテトチップス等14商品 多色→2色印刷 | 印刷削減 | 5月25日出荷〜 |
| カゴメ | ケチャップ外装 白インク廃止・透明パッケージ化 | 印刷削減 | 5月下旬〜 |
| 太子食品工業 | 一部商品 文字簡素化・白黒印刷へ順次変更 | 印刷削減 | 6月出荷〜 |
| ファミリーマート | サンドイッチ包装ロゴ白黒化検討・容器共通化 | 印刷削減 | 5月〜検討中 |
| イトーヨーカドー | 刺身・ステーキ蓋 プラ→ラップ。着色容器→白 | 容器変更 | 5月21日〜 |
| イトーヨーカドー | 天ぷら・巻きずし トレー→バラ売り・紙袋へ | 販売形態 | 5月21日〜 |
| ローソン | ホットコーヒー蓋 プラ→紙製に変更 | 容器変更 | 5月頃〜 |
| らでぃっしゅぼーや | バナナ・玉ねぎ等 プラ袋→白新聞紙。一部梱包廃止 | 容器変更 | 5月11日〜 |
| マルコストアー他 | 売り場のロール式ポリ袋を撤去 | 販売形態 | 5月15日〜 |
| 日清製粉ウェルナ | パスタ製品の結束テープ廃止 | 販売形態 | 4月10日告知 |
| ミレービスケット | ナフサ不足を理由に一部商品の生産停止 | 生産停止 | 5月13日報道 |
政府の対応――農水省57項目調査と官民情報交換会(5月27日)
食品包装形態の変更が相次ぐなか、農林水産省はサプライチェーン各段階で使われる包装用資材など57項目を対象に事業者への聞き取り調査を実施した。最初の段階で当面の確保のめどがついたと確認した12項目は、ハウス用ビニール・コメ袋・牛乳パック・食肉包装フィルム・水産業の発泡スチロール箱・納豆の容器・カップ麺の容器・飲料ペットボトルなどだ。
2026年5月22日の閣議後会見で鈴木憲和農相は「植物油の容器など18項目を追加し、計30項目は全体として供給に問題ないと確認している。肥料や菓子袋も当面の確保を見込む」と述べた。一方で残る27項目については「きめ細かい情報共有を図り、解決できることは至急対応する」として、対応継続中であることを示した。
5月22日の会見では、農水省と経産省の合同で食品製造・流通・小売など業界団体との情報交換会設置も発表された。2026年5月27日に農業・畜産・水産を含む約230団体を対象にオンラインで初回会合を開催し、経産省幹部は「情報が不足し心配になることで経済活動が滞っているのも事実だ。業界の方々の不安や要望を聞き、改善につなげていく」と述べた。
| 農水省57項目調査の確認状況 | 主な対象品目 | 状況 |
|---|---|---|
| 第1次確認(12項目) | ハウス用ビニール・コメ袋・牛乳パック・食肉包装フィルム・水産発泡スチロール・納豆容器・カップ麺容器・飲料ペットボトル等 | 当面確保 ✓ |
| 第2次確認(+18項目、計30項目) | 植物油容器・肥料・菓子袋等 | 当面確保 ✓ |
| 残り27項目 | 調査・対応継続中 | 継続調査中 |
技術対応の最前線――水性フレキソ印刷・容器共通化・リターナブル化
ナフサ依存の包装形態から脱却しようとする技術的対応も始まっている。凸版印刷の持ち株会社であるTOPPANホールディングスは、トルエン系グラビアインキを使用しない水性フレキソ印刷パッケージの量産を開始した。水性フレキソ印刷は溶剤としてトルエンを使用しないため、ナフサ由来原料への依存度を大幅に低減できる。ただし版材・乾燥設備・印刷適性の違いから既存のグラビア印刷設備との互換性はなく、移行には設備投資と品質試験が必要となる。
容器の「共通化」戦略も浮上している。ファミリーマートが検討しているように、異なる商品に同一形状・同一素材の容器を用いることで、1種類の容器の調達量を増やしサプライヤーとの交渉力を高める手法だ。大量調達による価格安定と、代替サプライヤーへの切り替え容易性の両方を確保できる。また、食品メーカーと流通の間で使い捨てプラスチックを繰り返し使用できるリターナブル容器に切り替える動きも長期的な方向性として注目され始めている。
らでぃっしゅぼーやの紙包装への切り替えは、1988年の創業以来「持続可能な社会の実現」を理念に掲げてきた同社の方向性と一致した対応でもある。プラスチック削減の観点から取り組んできた姿勢が、ナフサショックという緊急事態に対して即応できる体制につながった事例と見ることができる。
今後の見通し――2026年夏以降の値上げラッシュと消費者の受容
帝国データバンクは2026年5月以降の飲食料品値上げ動向について、食品包装などでは大幅な値上げが相次いでおり「早ければ今夏以降、ナフサ不足を要因とした値上げラッシュの可能性がある」と警告している。2026年5月の飲食料品値上げは合計70品目(菓子が38品目で最多)にとどまったが、包装・資材を要因とした値上げが過去最多ペースで推移しており、夏以降の本格波及が懸念される。
一方、消費者の受容度は想定より高いとの見方もある。イトーヨーカドーでの取材では「特に違和感はない」「価格を据え置いてもらえる方が助かる」という声が聞かれ、包装の変更を受け入れる素地が消費者側にも形成されている。エコバッグの普及率が8割を超えた社会基盤があるように、「包装が変わる・減る」ことへの抵抗感は以前より小さくなっていると業界関係者は指摘する。
高市早苗首相は「年を越えて安定供給のめどがついている」と表明し、政府は米国・アルジェリア・ペルーなど中東以外からのナフサ輸入が情勢緊迫化前比で3倍に拡大していると強調している。ただし調達先の多元化によるコスト高は構造的に続き、包装資材の価格高止まりは当面不可避な状況だ。食品メーカー・流通各社にとって、包装形態の見直しは「一時的な緊急対応」にとどまらず、脱プラ・軽量化・印刷簡素化を組み合わせた「包装コスト構造の恒久的な見直し」へと移行する転換点になる可能性がある。
出典・エビデンス一覧
- カルビー株式会社「ポテトチップス等14商品のパッケージ変更に関するお知らせ」(2026年5月12日)― 2色印刷への変更・5月25日出荷分から
https://www.calbee.co.jp/ - カゴメ株式会社「トマトケチャップの外装パッケージのデザイン変更について」(2026年5月14日)― 白インク廃止・透明デザインへ
https://www.kagome.co.jp/ - 日本経済新聞「オイシックス、宅配野菜の梱包をプラから紙へ 中東情勢の影響で」(2026年5月22日)― らでぃっしゅぼーや5月11日から紙包装・梱包廃止
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC227XJ0S6A520C2000000/ - 日本経済新聞「ナフサ不足で変わる店頭 ヨーカ堂、刺し身の蓋をプラからラップに」(2026年5月)― イトーヨーカドーの対応詳報
https://www.nikkei.com/ - FNNプライムオンライン「ナフサショックでイトーヨーカ堂がプラスチック削減強化へ」(2026年5月20日)― 天ぷら・巻きずしのバラ売り・紙袋化
https://news.yahoo.co.jp/articles/3b1407ce4aab05ee62eb1d9b6e719d5c06e4b4f1 - 産経新聞「ファミマがサンドイッチ包装ロゴの白黒化を検討、ローソンはプラ蓋を紙に 中東情勢に対応」(2026年5月21日)
https://www.sankei.com/ - TVでた蔵「ナフサ供給懸念 容器の変更相次ぐ」大下容子ワイド!スクランブル(2026年5月21日放送)― イトーヨーカドー・ファミリーマートの対応
https://datazoo.jp/n/ - 共同通信・NEWSjp「【独自】ミレービスケット生産停止 高知名物、ナフサ不足で一部商品」(2026年5月13日)
https://nordot.app/ - 読売新聞「油揚げ包装、ナフサ調達難で白黒に…モヤシの包装も文字数減らしてインク量を半分以下に」(2026年5月14日)
https://www.yomiuri.co.jp/ - 株式会社日清製粉ウェルナ「マ・マースパゲティ製品および乾麺の結束テープに関するお知らせ」(2026年4月10日)― 結束テープの廃止
https://www.nippn.co.jp/ - 農林水産省 鈴木憲和農相 閣議後記者会見(2026年5月22日)― 57項目調査・30項目確保確認・官民情報交換会の設置発表
https://www.maff.go.jp/ - 日本経済新聞「包装見直しで官民情報交換会、27日初会合 食品や小売りが参加」(2026年5月22日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA221P10S6A520C2000000/ - 日本経済新聞「ナフサ調達難による食品容器・包装の変更、官民が情報交換会を開催」(2026年5月27日)― 農水省・経産省と約230団体が初会合
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA270XN0X20C26A5000000/ - 農林水産省・マイナビニュース「食品の包装デザイン変更 ナフサ不足で影響広がる」(2026年5月29日)― 農水省調査の最新状況
https://news.mynavi.jp/techplus/article/20260529-4519901/ - 帝国データバンク「飲食料品値上げ、ナフサ供給不安でラッシュ再燃の兆し 値上げ要因『包装・資材』、過去最多ペース」(2026年4月30日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001323.000043465.html - 東京インキ グラビアインキ関連製品価格改定通知(2026年5月1日出荷分から30%以上値上げ)
https://plastic-pallet.co.jp/calbee-package-monochrome-naphtha20260512/ - プラスチックパレット株式会社「イラン情勢とカルビーポテトチップスの白黒化、包装資材高騰時代のメーカー判断」(2026年5月)
https://plastic-pallet.co.jp/calbee-package-monochrome-naphtha20260512/ - ライブドアニュース「スーパーのポリ袋撤去 ナフサショックでキノコ栽培にも影響」(2026年5月15日)― マルコストアーのポリ袋撤去
https://news.livedoor.com/topics/detail/31281264/ - プラスチックパレット株式会社「イラン情勢×ナフサショックで広がる『マイ容器持参割引』」(2026年5月26日)― 小売現場の変化と脱プラの潮流
https://plastic-pallet.co.jp/my-container-discount-naphtha-shock-eco-bag-trend-20260526/