イラン情勢と
国内ストレッチフィルム不足
最前線
マレーシア産FM連鎖・シンガポール供給麻痺・中国産大増産——3月の予測から約1ヶ月、各論点の現況を最新エビデンスで検証・更新した決定版。
2026年5月3日時点で輸入納期が大幅に延伸し、国内生産も需要に追いつかない状況にある。ナフサ高騰+円安のダブルパンチで調達コスト急騰。マレーシア産は日本到着まで54〜82日(EB Packaging)、国内エチレン稼働率68.6%(石化協4/23)・三菱ケミカル鹿島5月定修で5月は更に縮小。中国産+729万トン(2026年末)で中国産は比較的入手しやすいが4週間超のリードタイムが必要。再生・中国産への切り替えが現実解。
ホルムズ海峡——「事実上の閉鎖」は続いている
3月27日予測 → 5月3日現況
3月27日の記事は「ホルムズ海峡の事実上の閉鎖」を前提に書かれました。その後の動向は、予測が保守的だったことを示しています。本記事の上流構造は2026年ナフサ・クライシス総論で、中東インフラの物理的被害は中東エネルギーインフラの崩壊と「失われる5年間」で詳述している。
米・イスラエルがイランへの攻撃を開始。IRGCが警告を発令し、タンカー通過量が約70%急落。150隻超が海峡外に待機。
イランが「中国籍船のみ通過を許可」と発表。シグナリングした中国船がいくつか通過に成功。米国・イスラエル・西側同盟国向けは全面禁止。
米国がイラン港湾を封鎖。4月18日、イランが「再閉鎖」宣言。IRGCがタンカーに発砲。米海軍がイラン船を拿捕(USS Spruance / 貨物船 Touska)。
停戦延長にもかかわらず、通過船は1日わずか8隻程度(平時は約135隻)。イラン議会議長「米の封鎖が続く限り再開は不可能」と声明。
エビデンス
- タンカー追跡データ(LSEG):4月22日の通過船数は約8隻、うちタンカー3隻CNBC 4/22
- イラン国家安全保障会議:「平和的解決まで海峡管理を継続」と声明NPR 4/19
- マレーシア・インド・中国・韓国籍の一部船舶は「友好国」として通過を許可Al Jazeera 4/18
中東産ナフサの途絶は「3月と同レベル」ではなくさらに深刻化しています。旭化成社長が「6月までめど」と発言した非中東代替調達(月間90万kL)が進んでいますが、喜望峰ルート経由で輸送日数が+14日、燃料コスト1.5倍と構造的なコスト高は長期化する見通しです。
マレーシア・シンガポールの現況
LCチタン・ペトロナスのFM、ジュロン島停滞の検証
業界では「マレーシアだけが安定」と語られてきたが、実態はより複雑だ。マレーシアの石化拠点はガスベース(Kertih)とナフサベース(Pengerang)の二層構造に分かれており、ホルムズ海峡危機の影響も対照的である。汎用品は供給量が確保されている一方でナフサ高騰により値上げが進んでおり、Nano薄膜(15μm未満)に必要なmLLDPEはPengerang(350,000トン/年)の停止とシンガポール添加剤ハブ崩壊により事実上のアロケーション配給状態にある。マレーシア中堅メーカー・EB Packagingから直接入手した情報では、生産だけで4〜5週間(28〜35日)、日本到着まで54〜82日を要するとのことだ。
Kertih/Pengerangの二層構造の詳細・Scientex/Thong Guan/EB Packagingの最新動向・mLLDPE崩壊の構造的分析・調達戦略については、専門レポートを参照されたい。
マレーシアのストレッチフィルム供給は本当に「安定」なのか — Pengerang停止・mLLDPE枯渇・添加剤ハブ崩壊で見える二層構造【2026年5月版】
Kertih正常稼働とPengerang停止の構造的背景、4大メーカー(Scientex・Thong Guan・Hiroyuki・EB)の最新動向、日本ユーザー向けの調達戦略まで網羅した完全解説版。
mLLDPEアロケーション状態
(EB Packaging現場情報)
リードタイム目安
中国産PE大増産——数字の検証
「2026年700万トン増産」予測の現在地
記事が引用したSunSirsの「729万トン新規能力」という数字は、複数の独立した調査機関のデータで裏付けられています。
2026年中国PE新規能力:調査機関横断データ
- SunSirs:2026年新規PE能力追加=729万トン、名目能力成長率18.5%SunSirs 2025/12
- GlobalData:SABIC福建プラント2(60万t/年)が2026年稼働予定。中国が世界増産をリードHydrocarbon Engineering 2024/8
- Argus Media:中国はLLDPEを中心にHDPE・LDPEでも最大の増産国、2028年まで拡大継続Argus Media 2024/3
- SunSirs 最新(3月2026):1〜2月輸出量が前年比+61.5%。3月時点の国内PE総能力は4,134万トン、年末予測5,344万トンSunSirs 2026/3
主要稼働プロジェクト(確認済み)
2026年上半期稼働確認・予定
- 華錦アラムコ(遼寧省盤錦):HDPE 50万t+FDPE 45万t+PP 100万t。2026年H1に稼働可能性SunSirs
- 東明中油(Dongming Zhongyou):FDPE 40万t+HDPE 40万t。2026年H1稼働予定SunSirs
- SABIC福建(Zhangzhou):HDPE/PE 60万t/年。2026年稼働見込みGlobalData
SunSirsも確認しているとおり、新規能力の大半は2026年H2(7〜12月)に集中します。4〜6月の現時点では「増産は来ているが市場には届いていない」状態が続いています。2月の輸出量+61%は数量ベースでは増えていますが、世界的な需要集中によりスポット価格は依然高止まりしています。
日本国内の石化サプライチェーン:新情報
3月予測にはなかった国内側の深刻化
3月27日時点の記事は輸入面(マレーシア・中国)を中心に分析していましたが、その後、国内の石化設備自体も深刻な影響を受けていることが明らかになりました。
国内エチレン設備の現況(4月時点)
- 国内エチレン設備12基のうち6基が減産状態。3月の稼働率は68.6%(過去最低・石化協4/23発表)日本経済新聞 4/23
- 三菱ケミカル・出光興産・三井化学・旭化成が相次いで減産を発表(2026年3月)note / 宮野宏樹
- 東洋紡:LLDPE系フィルムの4月21日納入分から値上げ+過剰発注自粛を要請logi-today.com
- 東ソー:LLDPE値上げ+90円/kg以上、旭化成:+120円/kg以上を表明logi-today.com
- プライムポリマー・日本ポリエチレン:3月9〜10日に供給制約の通知を取引先に送付logi-today.com
- 政府タスクフォース(4月2日初会合):医療用プラスチックを優先配分、物流資材は後順位logi-today.com
5月に向けたさらなる悪化要因 NEW
- 三菱ケミカル鹿島(茨城県神栖市・年産48万5,000トン)が5月から定期修理に入る予定。国内能力の8%を占める設備が減産中のまま定修入りするため、5月の国内供給はさらに減少する可能性があるロジ・トゥデイ
- 東ソー四日市(年産49万3,000トン):3月17日に「再稼働の無期限延期」を発表していたが、4月末の再稼働を目指すとの報道(4月1日付)。非中東ナフサの確保が進み、回復に期待ロジ・トゥデイ
- 国産ナフサ基準価格:4月3日の日本着スポット価格は1,190ドル/トン(円換算13万3,981円/kL)に達した。2025年10〜12月期の基準価格6万5,600円/kLの2倍超。「届かない」から「高すぎる」フェーズへ移行ロジ・トゥデイ
- 積水化学工業:「中東情勢の不安により石油・ナフサ由来の原料調達環境が急速に悪化」として2026年5月7日出荷分からポリエチレン管・塩化ビニル管の値上げを発表積水化学工業プレスリリース 2026年4月
- 三菱ケミカル「ダイアラップ」(包装用フィルム・ストレッチフィルム):15%値上げを発表宮野宏樹 note
- プライムポリマー:ポリエチレン・ポリプロピレン全品目を4月1日納入分から+90円/kg以上値上げ宮野宏樹 note
「国内に樹脂があっても製品が作れない」構造的断絶 NEW
- 国内ストレッチフィルム生産量No.1は大化工業(ダイカラップブランド)だが、市場流通全体の10%未満(旭産業調査)。国内製造インフラは長年の輸入依存により空洞化しているplastic-pallet.co.jp / 梱包資材レポート
- 政府が言う「目詰まり解消」は上流(石化プラント)の問題。しかし樹脂を「ストレッチフィルム」に成形できる国内設備が壊滅的に縮小しており、「上流の樹脂が確保できても下流の製品は作れない」断絶が存在するplastic-pallet.co.jp / 梱包資材レポート
- POごみ袋・食品保存袋・キッチン用ポリ袋で2026年5月下旬から3割以上の値上げが業界紙で報道されており、ストレッチフィルムを含む包装用フィルム全般への波及は既定路線宮野宏樹 note 2026/4
3月版の記事は「輸入が止まる」ことを主軸にしていましたが、正確には「輸入納期が大幅に延伸し、国内生産も頑張っているが需要に追いつかない」という二重の調達難局になっています。マレーシア産は日本到着まで54〜82日、中国産も4週間以上かかるうえ、ナフサ高騰+円安のダブルパンチでコストも大幅上昇。3月の稼働率68.6%は「設備保全に必要な最低限」ギリギリの水準で、追加停止リスクは継続中です。
マレーシア産 vs 中国産:現場比較の更新
3月版の比較表に「国内代替コスト」列を追加
| 比較項目 | マレーシア産(従来型) | 中国産(代替型) | 国内調達(参考) |
|---|---|---|---|
| 供給可否(5月現在) | 汎用厚物(20μm以上)は供給量確保もナフサ高騰で値上げ継続 Nano薄膜(15μm未満)はmLLDPE配給状態 |
在庫あり、スポット価格高騰 | メーカーがアロケーション実施中 |
| 供給の核心問題 | Kertih(ガスベース)は正常稼働だがPengerang(ナフサベース・350,000t/年mLLDPE)が停止。PCGの国内優先方針で輸出割当が縮小中 | 北米エタン依存で相対的安定(中国ExxonMobil Huizhou) | 三菱ケミカル鹿島5月定修で5月供給がさらに減少 |
| 価格水準(前年比) | 汎用品:供給量確保もナフサ高騰で値上げ Nano薄膜:mLLDPE配給・大幅値上げ |
+30〜50%程度(推定) | +20〜35%(業界報告) |
| 主流厚み(供給可能品) | 20μm以上の汎用厚物(安定) 15μm未満Nano薄膜(mLLDPE配給) |
17〜20μm(厚手) | 15μm前後(品薄) |
| フィルム特性 | 汎用品:柔らかく伸びが良い Nano薄膜:極薄・高性能 |
伸びにくい・締め付け強い | 従来どおりだが数量制限 |
| リードタイム(2026年5月) | EB Packagingより直接情報:生産だけで4〜5週間、日本到着まで54〜82日。「今後さらに悪化する可能性」と明言 | 4週間以上(コンテナ輻輳) | 通常2週間程度 |
| 現場テスト | 汎用品は従来設定でOK Nano薄膜はmLLDPE確約が必要 |
テンション再調整が必須 | 従来設定でOK |
2026年下半期シナリオ:アップデート版
「4月第2週でマレーシア産消滅」は現実になった——次は?
- ホルムズ封鎖継続・国内エチレン設備50%稼働
- マレーシア産Nano薄膜(mLLDPE依存)はアロケーション配給・汎用厚物は比較的入手可能
- 中国産スポット高騰・リードタイム4週間超
- 国内メーカーの追加値上げ連続発生
- 政府が医療品を優先配分 → 物流資材は後回し
- 三菱ケミカル鹿島5月定修 → 5月供給さらに減少
- 非中東ナフサ(豪・米・アルジェリア)が本格稼働
- 旭化成「6月めど」発言が実現すれば国内回復方向へ
- 中国PE新規設備が一部稼働開始 → 輸出量増加
- 価格は前年比+20〜35%の高値圏が続く
- 中国PE新規能力が集中稼働 → 輸出ドライブ加速
- 汎用PE品でサプライ過剰に転換する可能性
- 「価格はコロナ前に戻らない」が業界コンセンサス化
- 長期購買契約・価格フォーミュラ見直しが標準化
物流現場が今すぐ行うべき「4つの決断」
3月版の3項目を現状に合わせて更新・追加
プロフェッショナル・ナビゲーション(5月3日更新版)
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「既存取引先の枠」を緊急確認する アロケーション体制下では、取引実績のない新規顧客・増量発注は後回しにされます。現在の割当供給枠を緊急確認し、継続意思を表明することが最優先事項です。
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再生ストレッチフィルム・中国産フィルムへの切り替えを検討する 国内メーカーはナフサ高騰直撃でアロケーション実施中かつ大幅値上げが相次いでおり、従来どおりの調達が困難になっています。現実的な代替手段として2つの選択肢があります。①再生ストレッチフィルム:環境配慮型で価格競争力があり、倉庫内パレット保管用途では品質上十分な代替になりえます。②中国産ストレッチフィルム:18μm×500mm等の汎用品が比較的入手しやすい状況で、リードタイムは4週間以上ですが調達可能です。弊社では中国産ストレッチフィルム(18μ×500mm×300m)を1本1,500円・10箱単位で2026年6月初旬より販売開始予定。在庫確保にお困りの方はお早めにご相談ください。
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荷主への「有事価格」提示を遅らせない 前年比+20〜35%のコスト上昇は企業努力で吸収できる範囲を超えています。政府タスクフォースの優先順位(医療品優先)を踏まえると、物流資材の追加値上げはさらに続く見通しです。今すぐ荷主に対してコスト転嫁交渉を開始してください。