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イラン情勢と接着剤・インキ・溶剤供給制限の実態【2026年5月3日更新】
更新版 2026年5月3日更新 初版:2026年3月30日

【緊急レポート】イラン情勢と接着剤・インキ・溶剤
供給制限の実態

〜中東情勢緊迫化によるナフサ調達断絶と、物理的供給限界の実態〜
一次ソース(各社IR・公式プレスリリース・決算トランスクリプト)に基づき情報を更新しました。

初版公開: 最終更新:
▼ 結論

2026年2月28日のホルムズ海峡封鎖以降、接着剤・インキ・溶剤サプライチェーンは物理的な断絶段階に入った。帝国データバンク調査(2026年4月)で製造業の96.6%がマイナス影響を確認。接着剤製造のナフサ依存度は87.3%。H.B. Fullerは40件超のFM受領・VAM欧州+300%急騰。三菱ケミカルVAM+40円/kg・DICスチレン系+100円/kgで新規スポット受注は実質停止。日本ペイントのシンナー75%値上げ・大信ペイント60〜70%値上げで塗料用溶剤の棚が消えた。停戦後も正常化は2026年秋以降が最短の見通しで、「価格交渉」ではなく「確保」の戦いが続く。

1. ホルムズ海峡封鎖とナフサ断絶:構造的事実

2026年2月28日の米・イスラエルによるイラン攻撃を起点に、ホルムズ海峡が事実上封鎖され、 アジア向けナフサ調達が断絶しました。日本の接着剤・インキ・溶剤のサプライチェーンは、 この「動脈」に直結しています。本記事の上流構造は2026年ナフサ・クライシス総論で、ナフサ備蓄の限界はナフサ備蓄4ヶ月の陰で進む石化産業の構造的敗北で詳述しています。

アジアのナフサ中東依存度 70〜80% C&EN(米化学会誌)
欧州VAMスポット価格上昇 +300% H.B. Fuller Q1 2026決算
日本の原油中東依存度 約94% 資源エネルギー庁
三菱ケミカルのナフサ中東依存 約70% 石油化学工業協会
C&EN / Japan Times / 三菱ケミカル(3月10日通知)

三菱ケミカルは3月10日、ナフサ不足懸念を理由に水島エチレンプラントの生産削減を顧客に通知。 シンガポールのPCS(石化会社)は全顧客にフォースマジュールを正式発令。 出光興産も千葉・山口のエチレン設備停止の可能性を通知した。

木原官房長官は3月30日、「ナフサなど石油関連製品のサプライチェーン確保のため、近く政府の対応方針をとりまとめる」と表明。 政府は備蓄水準の充足を強調しているが、企業側では個別製品の調達フロー確保と夏以降の価格転嫁への警戒が続いている。

NEW ─ 帝国データバンク調査(2026年4月17日)

帝国データバンクが化学製品メーカー52社からのサプライチェーンを分析した結果、直接・間接的に仕入れを行う製造業は全国で約4万7,000社(製造業全体の約3割)に上ることが判明。4月上旬のアンケートでは、中東情勢の影響によるマイナス影響が「ある」とした企業の割合は96.6%に達した。接着剤・ゼラチン製造業のナフサ依存度は87.3%で25業種中上位。「値上げを全面的に受け入れても調達不安が解消される保証はなく、極めて異常な状況」(化学品製造業者)との声が相次いでいる。

2. グローバル主要メーカーのサプライチェーン影響(一次ソース確認済み)

海外大手のフォースマジュール(FM)や価格改定は、資本・技術提携を通じて日本の主要メーカーへ波及しています。 以下は公式プレスリリース・決算発表・規制当局への届出で裏付けられた情報です。

メーカー 日本への関連 確認された最新動向(一次ソース)
H.B. Fuller セメダイン等(資本・技術提携) サプライヤーから40件超のFMを受領(Q1 2026決算、3月25〜26日発表)。 4月1日より全世界で最低10%の価格引き上げを実施(一部品目は40〜50%)。 欧州VAMスポット価格は前比+300%超。同社は主要原料の確保に成功しており、 原料調達を優先確保しつつ価格転嫁を進める戦略をとっている。
BASF 三井化学 / DIC(合弁・提携) 2026年3月23日付公式プレスリリース:東アジア(中国本土除く)向けMDI・TDIを 500ドル/t値上げ(即時または契約条件に準拠)。2月25日にはASEAN向けMDIを+200ドル/t値上げ。 ウレタン・顔料原料のコスト急騰が続いている。
Henkel 日本ヘンケル / コニシ(製品・技術) 2026年3月11日の年次報告では、接着剤部門の有機売上+1〜3%成長を予測。 中東情勢に伴う原料コスト増と不確実性をリスク要因として明示しており、 コスト転嫁を加速させている。産業用接着剤の在庫優先配分が進む状況。
Dow 東レ / 三井化学(原料・製品) サウジのSadara Chemical(Dow 35%出資、ジュバイル)がサプライチェーン混乱を理由に 設備を一時停止(Argus Media、3月31日報道)。エチレン150万t/年・TDI 20万t/年・ MDI 40万t/年規模の拠点であり、日本向け原料に直接波及。 Dowは一部市場でエタノールアミンのフォースマジュールを発令(3月10日)。
Sika Japan 建築・自動車用シーリング材 建設用シール材・接着剤を国内で供給。旧横浜ゴムのハマタイト事業は2021年11月に Sikaが取得済みで、現在は「Sika Japan」として展開。 原材料確保を優先事項に設定し、出荷対応の不安定化が続く。
3M / スリーエムジャパン テープ・接着剤全般 4月27日〜7月中旬分の一部品目(ビニール電気テープ系)について、 3月16日までの先行発注を顧客に要請(3M公式文書)。 物流混乱への対応として在庫管理を強化しており、一部テープ類で欠品が発生している。
三菱ケミカル 国内石化 / 接着剤原料 VAM(酢酸ビニルモノマー)について3月17日通知で+40円/kg超の値上げ。 「中東情勢によるナフサ入荷の不安定化」を直接の原因として明記。 新規スポット受注は実質停止状態。3月10日に水島エチレンプラントの生産削減を顧客通知済み。
DIC 国内インキ / 接着剤 3月24日通知でインキ・粘着剤に不可欠なポリスチレン・スチレン系製品を+100円/kg超値上げ。 既存顧客へのアロケーション(割当供給)を厳格化。 契約数量を超える発注は事実上の強制キャンセルに近い状態。
日本ペイント 塗料・溶剤 シンナー類全般を対象に3月19日発注分より75%値上げを実施。 塗料用シンナーの店頭品薄・入手困難が顕在化。 三協化学(溶剤メーカー)は3月31日時点で新規販売を一時停止。
大信ペイント NEW 塗料・シンナー販売 3月中旬の時点で既にシンナー類の販売数量制限を実施。さらに2026年4月1日出荷分からシンナー全般を60〜70%値上げする緊急措置を発表。日本ペイントの75%値上げに続く業界全体への波及が鮮明となっている(BSRweb 2026年3月30日)。
サンスター技研 NEW シーリング材・接着剤 シーリング材・接着剤全般を対象に30%以上の値上げを通知(テイガク 2026年5月2日更新確認)。ナフサ由来原料の調達困難と物流コスト高騰を値上げ理由として明示。

3. 「ナフサ・パラドックス」:上流原料の製造限界

日本の石油化学産業は原料ナフサの約70%を中東に依存しています。 この「動脈」が止まったことで、接着剤やインキの核となる中間原料の国内生産が限界に達しています。

■ 酢酸ビニルモノマー(VAM)の危機

木工用・包装用接着剤の主原料であるVAMについて、三菱ケミカルが3月17日通知で1kgあたり40円以上の値上げを断行。 国内自給率が極めて低いこの原料は、現在、新規のスポット受注が実質停止されています。 欧州のVAMスポット市場では前比+300%超の急騰が確認されています(H.B. Fuller Q1 2026決算)。

■ スチレン系樹脂の供給断絶

インキや粘着剤に不可欠なポリスチレン・スチレン系製品について、DICが3月24日通知で 1kgあたり100円以上の値上げを発表。DICは既存顧客への「アロケーション」を厳格化しており、 契約数量を超える発注は事実上の強制キャンセルに近い状態です。

Dow / Argus Media(3月31日)

Dow傘下のSadara Chemical(サウジ・ジュバイル)がサプライチェーン混乱を理由に設備を一時停止。 エチレン150万t/年・プロピレン40万t/年規模の拠点であり、MDI・TDI・エチレンオキサイド等の 周辺原料に広く波及。Dowは一部市場でエタノールアミンのフォースマジュールを発令(3月10日)。

■ トルエン・キシレン・メタノールの代替品対応(三協化学 最新情報)

三協化学株式会社は3月31日時点での新規販売一時停止を公表する一方、自社サイトで代替品案内を正式発信している。同社によれば、塗料・接着剤・インキ用途の洗い溶剤として「サンシルクNX」等の代替提案を行っているが、「日々状況が変化しており、供給の見通しが不透明」としており、代替品についても数量確保の保証はない状況である。

4. 「喜望峰ルート」転換が生んだ物流の空白

欧州系大手(3M・Henkel・Sika等)からの輸入製品において、国内在庫のひっ迫が顕在化しています。

Global Cold Chain Alliance 状況報告(3月4日・12日)

Hapag-Lloyd・CMA CGM・Ocean Network Express(ONE)・COSCO Shippingがホルムズ海峡の通航を停止。 MSCは湾内向け全貨物に「End of Voyage」宣言(3月3日)。CMA CGMは緊急紛争サーチャージとして 最大4,000ドル/コンテナを導入。喜望峰経由への変更でスエズ比10〜15日の遅延が追加された。

リードタイムの20〜30日延長が確定的となるなか、3月中旬以降に国内在庫が底を突いた 欧州産特殊接着剤(耐熱・高圧用等)の補充便はいまだ輸送中のものも多い。 品目・地域・顧客によって状況は異なるが、特定品目で「在庫ゼロ」が続く状況も出始めており、 調達部門の対応が急がれます。

■ 戦略的アロケーションと顧客選別

日東電工は半導体用プロセス材料や自動車用高付加価値品へ限られた石油系原料を優先配分する 「内部アロケーション」を強化。中小規模の商社やスポット購入者に対しては「在庫なし」と回答する一方、 主要OEMには「サーチャージ(割増料金)」を条件に供給を維持するという顧客選別が鮮明になっています。

5. 「4月1日の断壁」以降:予測の実績と今後の見通し

予測事項 4月25日時点の実態
価格の「時価(変動制)」化 H.B. Fuller・DICをはじめ実施済み。建材メーカーは見積有効期限を2週間に短縮する動きが相次いでいる。
納期回答の完全停止・常態化 TOTOなど住宅設備大手が新規受注停止。「納期未定」の常態化が各所で確認されている。
BOP(代替原料)の強制適用リスク 各社での代替調達模索は本格化。北米・西アフリカ産ナフサへの転換検討が急務だが、価格差が大きく実用化には課題が残る。
「供給有事」の継続期間 4月25日時点で停戦の実質的な成果は出ておらず、ホルムズ通航は引き続き実質ゼロ水準。 仮に停戦が成立しても、残存機雷の掃海・港湾ボトルネック(約2,190隻の滞留)・ 保険市場の回復には数カ月を要する見込みで、正常化は早くとも2026年秋以降とする専門家見解が主流となっている。

6. 製造業が取るべき対応

2026年4月25日現在、調達担当者が直面しているのは「価格交渉」ではなく「確保」の戦いです。以下の点を優先的に確認してください。

① アジア域内の代替ルートも制約:韓国が5カ月間のナフサ輸出規制を発動しており、 アジア域内での代替調達先も狭まっています。北米・西アフリカ産原料への切り替えを含む複数ルートの検討が急務です。

② 停戦後も正常化しない前提でのBCP:4月8日の停戦発効後も海峡の実態は変わらなかった事実が示すように、 「停戦=供給正常化」では動かない計画が必要です。正常化タイムラインは「2026年秋以降」として計画することを推奨します。

③ 溶剤類の緊急確認:塗料用シンナー等の溶剤類の急騰・在庫枯渇が顕在化しています。 接着剤・インキに加え、溶剤類全般の在庫と代替品を今すぐ確認してください。

④ 有効期限切れの見積書の確認:DIC・三菱ケミカル等の新価格が強制適用されているため、 旧価格での契約が維持されているか至急の再確認が必要です。

この「化学品有事」は、ホルムズ海峡の物流が安定する時期まで継続する見通しです。 最新のFM情報やアロケーション状況については、引き続き経済メディアや官公庁の発表を注視してください。

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