中東産ナフサの代替が別の不足を生む、軽質ナフサへの転換で採れにくくなるブタジエンと芳香族
2026年、日本は中東以外からのナフサ調達を月45万キロリットルから90万キロリットルへ倍増させた。量は確保に向かう。ただし米国産やマレーシア産の軽質ナフサは、分解したときに得られる製品の比率が中東産と異なる。エチレンは採れても、ブタジエンや芳香族が減る。合成ゴムやポリスチレンの原料である。代替調達が別の不足を生む仕組みを、公表資料の範囲で整理する。
- ナフサは分解すると複数の製品が同時に得られ、エチレンだけを選んで作ることはできない。その比率は原料の性状で変わる。同沸点の炭化水素では、パラフィン・ナフテン・芳香族の順に分解しやすい。
- 米国産やマレーシア産の軽質ナフサへ代替すると、エチレンは得られるものの、ブタジエンや芳香族といった副生留分が採れにくくなる。合成ゴム・ポリスチレン・ナイロンの原料である。
- 中東からの供給不足を補うための代替調達が、別の製品の不足を招きうる構造にある。ただし産地別の得率を数値で示した公表資料は、当社として本記事の作成時点で確認できていない。
ナフサ分解では複数の製品が同時に得られ、その比率は原料の性状で決まる。軽質ナフサに代替するとエチレンは採れてもブタジエンと芳香族が減る。合成ゴム・ポリスチレン・ナイロンの原料である。量の確保が、別の品目の不足を生むという構造にある。産地別の得率は公表されていない。
2026年7月21日時点の現在地
2026年のナフサ調達をめぐる議論は、量の確保に集中してきた。中東以外からの輸入を増やせば供給は維持できる、という組み立てである。ただし調達先が変わると、同じ量のナフサからでも得られる製品の比率が変わる。
量は確保に向かっている
経済産業省は2026年4月10日の対応方針で、中東以外からのナフサ輸入を月あたり約45万キロリットルから約90万キロリットルへ加速し、国内精製で月あたり約110万キロリットル相当を維持するとした。ナフサの調達元は2024年の実績で国内が39.4%、中東が44.6%、その他の輸入が16.0%である。国内の約4割と中東以外の約4割を合わせ、例年の8割程度の供給能力を維持できるという見通しになる。
ただし性状が異なる
一般社団法人エネルギー情報センターの主任研究員による2026年5月26日の分析は、この点に注意を促している。中東からの調達が困難になった場合、米国産やマレーシア産などの軽質ナフサへ原料を代替することが考えられるが、軽質ナフサを使用するとエチレンは得られるものの、ブタジエンや芳香族といった副生留分が採れにくくなるという指摘である。
同分析は、これらの副生留分が合成ゴム・ポリスチレン・ナイロンといった中間製品の原料であるため、特定の川下製品において供給不足を招く恐れがあるとしている。ナフサの品質の違いによって分解時に得られる製品の比率が変わることを、製品バランスの歪みと表現している。
なお同センターは一般社団法人であり、この分析は内閣府および経済産業省の資料を引用しつつ同センターが整理したものである。官庁が直接公表した記述ではない点に留意が必要である。本記事で原料の性状に関する記述の根拠とするのは、この分析である。
第1に、ナフサ分解は複数の製品が同時に得られる工程である。エチレンだけを選んで作ることはできない。原料の性状と分解条件によって、得られる製品の比率が決まる。
第2に、軽質ナフサではエチレン以外が減る。これは公表資料で確認できる方向である。なお同沸点の炭化水素ではパラフィン・ナフテン・芳香族の順に分解しやすいとされるが、この順序と軽質・重質の区分を結びつけて説明した公表資料は確認できていない。
第3に、産地別の得率は公表されていない。当社として本記事の作成時点で、中東産・米国産・マレーシア産それぞれの得率を数値で示した公表資料は確認できていない。本記事は方向と仕組みの整理にとどめる。
代替調達がどこまで進んだか
性状の話に入る前に、代替がどの規模で進んだかを確認する。量の変化が大きいほど、性状の変化も無視できなくなる。
もとの調達構造
| 項目 | 数値 | 時点 |
|---|---|---|
| 国内生産量 | 約1,310万キロリットル | 2025年 |
| 輸入量 | 約2,039万キロリットル | 2025年 |
| 輸入先 UAE | 29% | 2025年 |
| 輸入先 クウェート | 21% | 2025年 |
| 輸入先 カタール | 19% | 2025年 |
| 中東3カ国の合計 | 約68% | 2025年 |
| 輸入ナフサの中東依存度 | 73.6% | 2024年 |
国内生産分の原料である原油についても、日本は約90%から93%を中東から輸入しており、ホルムズ海峡への依存度は約93%とされる。輸入ナフサだけでなく国産ナフサの根源においても、中東への依存が高い構造にある。
他国はどう対応したか
中国は原油の5割超を中東に依存しているが、エチレンの原料としてナフサ以外に石炭・メタノール・エタンを活用しており、リスクが比較的分散されている。韓国はロシア産ナフサの輸入拡大、自国からのナフサ輸出の抑制、リサイクル材の活用などを検討した。日本・韓国・台湾といった北東アジア諸国は、原料をナフサに依存する度合いが高い点で共通している。
ナフサ分解という工程
得率の話を理解するには、工程の性質を押さえる必要がある。ナフサ分解は、目的の製品を1つだけ作る工程ではない。
複数の製品が同時に得られる
ナフサ分解には通常、管型加熱炉が使用される。ナフサを水蒸気で希釈し、加熱した特殊鋼製の管に通して800〜850℃の温度下、0.1〜0.3秒という短い時間で分解する。水蒸気で希釈するのは、管の内表面に炭素状物質が蓄積して詰まりが生じることを防ぐためである。
分解生成物は急冷して分解ガスと分解油に分ける。分解ガスは脱水・圧縮・精製ののち、低温加圧下で精密蒸留を行い、エチレン・プロピレン・ブタジエンなどが得られる。分解油は水素化・抽出・蒸留などの工程を経て、ベンゼン・トルエン・キシレンといった芳香族炭化水素が生産される。
得られる比率の例
| 製品 | 収率の一例(重量%) | 別の資料による範囲 |
|---|---|---|
| エチレン | 30% | 22〜25% |
| プロピレン | 15% | 12〜16% |
| ブタジエン | 4% | 4〜5% |
| 芳香族(BTX) | 15% | 10〜13% |
| ブチレン | ― | 3〜8% |
収率の一例は日本大百科全書による。同書は原料の性状や分解の条件によって異なると明記している。範囲は業界企業が公表する資料による。エネルギー・金属鉱物資源機構は、日本で最も広く採用されている管式加熱法のStone & Webster法について、反応温度700〜800℃、反応時間0.6〜1.3秒で得られるエチレンの純度は99.9%、収率は20〜25%程度としている。
工程の性質から導かれること
エチレンだけを選んで作ることはできない。ナフサを分解すれば、エチレン・プロピレン・ブタジエン・芳香族が同時に生成する。その比率は原料の性状と分解条件で決まる。したがって原料の産地が変われば、得られる製品の構成も変わる。量を確保することと、必要な製品を必要な比率で得ることは、別の問題である。
なぜアジアはナフサなのか
欧米ではナフサ以外にエタンやLPGも分解の原料として使用される。アジアでは中東をはじめとする産油国とクラッカーの所在地が遠く離れており、船で原料を輸送する必要があるため、船やタンクのコストが相対的に有利なナフサが原料になっている。この選択が、2026年に中東依存という形で表れた。
分解しやすさの順序
原料の性状が得率を決める仕組みは、炭化水素の種類による分解のしやすさの違いに由来する。
パラフィン・ナフテン・芳香族
エネルギー・金属鉱物資源機構は、ナフサ分解の原料油について次のように整理している。同沸点の炭化水素では、パラフィン・ナフテン・芳香族の順に分解しやすいことから、パラフィン系炭化水素のナフサが最適である、というものである。
| 種類 | 構造 | 分解のしやすさ |
|---|---|---|
| パラフィン | 鎖状の飽和炭化水素 | 最も分解しやすい |
| ナフテン | 環状の飽和炭化水素 | 中間 |
| 芳香族 | ベンゼン環を持つ炭化水素 | 最も分解しにくい |
軽質と重質
ナフサは沸点の範囲によって軽質と重質に分けられる。軽質ナフサは沸点が低く、炭素数の少ない成分を多く含む。
ここで注意が要る。軽質ナフサを使用した場合にエチレンは得られるがブタジエンや芳香族が採れにくくなることは、Chapter 05で示すとおり公表資料で確認できる。一方、その理由を炭化水素の種類の構成から説明した公表資料は、当社として本記事の作成時点で確認できていない。分解しやすさの順序は炭化水素の種類による違いを示すものであり、軽質・重質という沸点による区分と直接対応するものではない。本記事では両者を別の事実として扱い、両者をつなぐ説明は行わない。
軽質ナフサで何が減るか
2026年の代替調達で焦点になるのは、米国産とマレーシア産である。いずれも軽質ナフサとして扱われている。
公表されている記述
一般社団法人エネルギー情報センターの2026年5月26日の分析は、次のように整理している。中東からの調達が困難になった場合、米国産やマレーシア産などの軽質ナフサへ原料を代替することが考えられる。具体的には、軽質ナフサを使用するとエチレンは得られるものの、ブタジエンや芳香族といった副生留分が採れにくくなる、という内容である。
| 製品 | 軽質ナフサへの代替による方向 |
|---|---|
| エチレン | 得られる |
| ブタジエン | 採れにくくなる |
| 芳香族(ベンゼン・トルエン・キシレン) | 採れにくくなる |
方向のみを示す。減少幅を数値で示した公表資料は、当社として本記事の作成時点で確認できていない。
製品バランスの歪みという表現
同分析は、ナフサの品質の違い(軽質か重質か)によって分解時に得られる製品の比率が変わることを、製品バランスの歪みと表現している。そのうえで、中東からの供給不足を補うための代替調達が別の製品の供給不足を引き起こすリスクにつながるため、十分な警戒が必要としている。
代替調達は総量を確保する手段である。同時に、得られる製品の構成を変える行為でもある。中東産の不足を埋めるほど、ブタジエンや芳香族から作られる製品の側で不足が生じうる。当社は、量の問題を解いた先に構成の問題が現れる関係にあると整理している。この整理は一般社団法人エネルギー情報センターの分析をもとに当社が導いたものであり、同センターがこの表現を用いているわけではない。
接触改質装置との関係
ナフサはクラッカーの原料になるだけでなく、ガソリン基材や芳香族を製造する接触改質装置の原料にもなる。この装置は中間から重質のナフサを原料とする。軽質ナフサはこの用途には向かないため、原料が軽質化すると芳香族の供給は分解工程と改質工程の両面から影響を受けることになる。
減る留分はどこへ向かう原料か
ブタジエンと芳香族が減ることの意味は、その先にある製品を見ると具体的になる。
| 留分 | 主な中間製品 | 最終用途の例 |
|---|---|---|
| ブタジエン | SBR(スチレンブタジエンゴム)、BR(ブタジエンゴム)、ABS樹脂 | タイヤ、工業用ゴム部品、家電・自動車の樹脂部品 |
| ベンゼン | スチレンモノマー、カプロラクタム | ポリスチレン(食品トレー・容器)、ナイロン |
| キシレン | テレフタル酸 | PET樹脂、ポリエステル繊維 |
一般社団法人エネルギー情報センターが明示しているのは、副生留分が合成ゴム・ポリスチレン・ナイロンの原料になるという3点である。上表の中間製品名および最終用途は、一般的な化学工業の流れに基づき当社が補足したものであり、同センターの記述ではない。
代替しにくい材料が並ぶ
合成ゴムは、Oリングやガスケットのように単価が低く代替が難しい部品に使われる。1点が欠けるだけで装置全体が停止する場合がある。ポリスチレンは食品トレーの原料であり、当社が扱う物流資材とも近い領域にある。
当社が主に扱うプラスチックパレット・ストレッチフィルム・PPバンドは、ポリエチレンやポリプロピレンを原料とする。これらはエチレンとプロピレンから作られるため、軽質化によって直接減る側ではない。ただし同じコンビナートで生産される他品目の需給が崩れれば、生産計画や出荷の優先順位を通じて影響が及びうる。
ブタジエンには別の要因もある
ブタジエンの供給については、原料の性状とは別の要因も報じられてきた。日本経済新聞は2025年9月、ブタジエンがエチレンやプロピレンを作る際の副産物として得られるため、プラスチック製品の需要減でエチレンの生産が低迷するとブタジエンの生産にも影響が及ぶと報じている。化学メーカーはブタジエンを主産物として作る製法の開発を進めているとされる。
2026年の状況では、この需要側の要因と、本記事で扱う原料側の要因が重なりうる。両者は別の経路であり、混同しないよう区別して読む必要がある。
産地別の得率が公表されていない
本記事がここまで方向のみを示し、数値を示していないことには理由がある。産地別の得率を示す公表資料を確認できていないためである。
確認できたものと、できなかったもの
| 項目 | 確認の可否 | 出典 |
|---|---|---|
| 分解しやすさの順序 | 確認できた | エネルギー・金属鉱物資源機構 |
| 一般的な収率の範囲 | 確認できた | 日本大百科全書ほか |
| 軽質ナフサで副生留分が減る方向 | 確認できた | 一般社団法人エネルギー情報センター |
| 産地別のパラフィン分などの組成 | 確認できていない | ― |
| 産地別の製品ごとの得率 | 確認できていない | ― |
| ブタジエンの減少幅 | 確認できていない | ― |
数値を出さない理由
調査の過程で、産地別の組成やブタジエンの減少率を数値で示す記述をいくつか見かけた。ただしいずれも出典が明記されておらず、公的機関または業界団体による公表資料に遡ることができなかった。
得率は原料の性状だけでなく分解条件でも変わる。日本大百科全書も、収率は原料の性状や分解の条件によって異なると明記している。したがって産地名だけで一義的に決まる数値ではない。出所の確認できない数値を本記事に載せることは、読者の判断を誤らせる可能性がある。
本記事は仕組みと方向を扱うものであり、影響の大きさを示すものではない。ブタジエンや芳香族がどの程度減るかは、原料の実際の組成、クラッカーの設計、運転条件によって変わる。個別の影響については、取引先の化学メーカーに直接確認する以外に確度の高い方法はない。
公表を求める性質の情報でもある
経済産業省は2026年4月10日の対応方針で、川中製品ごとに製品在庫の期間が異なるため、各製品の供給状況を注視のうえ製品調達等も検討すべきとしている。原料の性状によって製品構成が変わるのであれば、どの品目がどの程度影響を受けるかは、調達計画を立てる側にとって必要な情報にあたる。当社としては、今後こうしたデータが公表されることを期待している。
エチレン再編との重なり
原料の軽質化は、単独で起きているわけではない。国内のエチレン設備は再編の途上にあり、両者が同じ時期に進んでいる。
稼働率の低下
石油化学工業協会が2026年5月21日に発表したところによれば、国内エチレンの4月の稼働率は67.3%であった。損益分岐点とされる90%を長期にわたり下回る状況が続いている。2026年3月には北東アジア全体の稼働率が2月の約80%から60%へ低下した。
再編がブタジエンに及ぼす影響
日本ゼオンは2026年3月5日に公表した資料で、エチレンセンターの再編に伴うブタジエンのバランス変化を整理している。同資料は、停止するエチレン装置に隣接するブタジエン抽出設備は大幅に稼働が落ちる可能性があるとし、2031年の国内エチレン能力は5,000千トンを下回り、生産量は4,400千トン程度、稼働率は91%まで回復すると予想している。同社は、国内のブタジエン需給が将来的に引き締まった場合に備え、自製ブタジエンの活用を進める方針を示している。
| 要因 | 経路 | ブタジエンへの影響 |
|---|---|---|
| 需要側(従来からの課題) | 樹脂需要の減少でエチレン生産が低迷 | 副産物であるブタジエンも減少 |
| 設備側(再編) | エチレン装置の停止に伴い抽出設備の稼働が低下 | 抽出能力が低下する可能性 |
| 原料側(2026年) | 軽質ナフサへの代替で得率が変化 | 採れにくくなる方向 |
3つの要因は別の経路である。当社が整理のために並べたものであり、これらが同時に働くことを示す公表資料を確認しているわけではない。
時間軸が異なる
需要側の要因は数年単位で継続してきたものであり、設備側の再編は2030年前後に向けた計画である。これに対し原料側の変化は2026年に始まった。3つは時間軸が異なるため、短期の動きを設備再編の結果と読み違えないよう注意が要る。
調達実務への含意
仕組みを踏まえて、調達の現場で何を確認すべきかを整理する。特定の対応を推奨するものではなく、判断材料として提示する。
品目によって影響の向きが異なる
ポリエチレンやポリプロピレンを原料とする製品は、エチレンとプロピレンの側に連なる。軽質ナフサへの代替によって直接減る側ではない。一方、合成ゴム・ポリスチレン・ナイロン・ポリエステルを原料とする製品は、ブタジエンや芳香族の側に連なる。自社が扱う品目がどちらに属するかを把握しておくと、影響の向きを読みやすくなる。
量の確保と品目の確保を分けて考える
供給量が例年の8割程度まで戻ったという情報は、総量についてのものである。品目ごとの需給が同じ比率で戻ることを意味しない。取引先から供給に関する説明を受ける際は、総量の話か特定品目の話かを確認することになる。
数値の出所を確認する
原料の性状による影響を数値で説明する資料に接した場合、その数値の出所を確認する必要がある。Chapter 07で述べたとおり、産地別の得率を示す公表資料は当社として確認できていない。得率は分解条件によっても変わるため、産地名だけで一義的に決まるものではない。
2026年7月時点で確認すべき4点
第1に、自社が扱う品目がエチレン・プロピレン系か、ブタジエン・芳香族系かを整理する。第2に、供給に関する情報が総量のものか品目別のものかを区別する。第3に、影響の程度については取引先の化学メーカーに直接確認する。第4に、産地別の得率データが公表された場合は、それを一次情報として確認する。
本記事は2026年7月21日時点で確認できるエビデンスに基づいている。代替調達の構成および国内の設備稼働状況は変化するため、内容は変わりうる。原料の性状に関する記述は一般社団法人エネルギー情報センターの2026年5月26日の分析、技術的な記述はエネルギー・金属鉱物資源機構および日本大百科全書に基づく。次回更新は2026年8月中旬を予定している。
用語集
原油を精製して得られる石油製品の一種。石油化学の基幹原料であり、分解することでエチレン・プロピレン・ブタジエン・芳香族などの基礎化学品が製造される。2025年の日本の国内生産量は約1,310万キロリットル、輸入量は約2,039万キロリットルであった。
沸点が低く炭素数の少ない成分を多く含むナフサ。2026年の代替調達では米国産やマレーシア産がこれにあたるとされる。使用した場合にエチレンは得られるがブタジエンや芳香族が採れにくくなるとされる。
原料に対して得られる製品の割合。ナフサ分解では複数の製品が同時に生成するため、それぞれの比率を指す。原料の性状と分解条件によって変わる。
鎖状の飽和炭化水素。同沸点の炭化水素のなかでは最も分解しやすく、パラフィン系炭化水素のナフサが分解の原料として最適とされる。
環状の飽和炭化水素。分解のしやすさはパラフィンと芳香族の中間にあたる。
ベンゼン環を持つ炭化水素。ベンゼン・トルエン・キシレンの頭文字からBTXと呼ばれる。分解しにくい一方、それ自体がポリスチレン・ナイロン・ポリエステルの原料となる。
炭素数4の不飽和炭化水素。SBR・BRといった合成ゴムやABS樹脂の原料となる。ナフサ分解の副産物として得られるため、エチレンの生産動向に左右される。
ナフサを高温で熱分解し、基礎化学品を製造する設備。エチレンプラントとも呼ばれる。日本では管式加熱法が主に採用されている。
原料ナフサとスチームを混合して加熱管内を高速で通し、管の外側から加熱して分解する方式。Stone & Webster法、Foster Wheeler法、Lummus法などがある。日本では主にこの方式が採用されている。
ナフサを触媒により改質し、ガソリン基材や芳香族を製造する装置。中間から重質のナフサを原料とするため、軽質ナフサは原料として適さない。
主目的の製品と同時に得られる成分。ナフサ分解ではエチレンを主目的とする場合、プロピレン・ブタジエン・芳香族などがこれにあたる。単独で増減を制御することはできない。
原料の性状が変わることで、分解して得られる製品の比率が需要の構成と合わなくなる状態。一般社団法人エネルギー情報センターが2026年5月26日の分析で用いた表現である。
出典・エビデンス一覧
出典は、技術・専門機関の資料、官庁・業界団体・企業の公表資料、当社の関連記事の3区分に分けて記載している。産地別の得率については、いずれの出典からも数値を確認できていない。
技術・専門機関の資料
- ナフサ分解:用語辞典(同沸点の炭化水素ではパラフィン・ナフテン・芳香族の順に分解しやすくパラフィン系ナフサが最適。管式加熱法のStone & Webster法では反応温度700〜800℃、反応時間0.6〜1.3秒、エチレン純度99.9%、収率20〜25%程度。分解方式は管式加熱法・スチーム・クラッキング法・移動層法)/エネルギー・金属鉱物資源機構
- ナフサ分解(管型加熱炉で800〜850℃・0.1〜0.3秒、水蒸気希釈は管内表面の炭素状物質の蓄積防止。収率の一例は重量%でエチレン30%・プロピレン15%・ブタジエン4%・芳香族15%。原料の性状や分解の条件によって異なる)/日本大百科全書
- ナフサとは(収率の範囲はエチレン22〜25%・プロピレン12〜16%・BTX 10〜13%・ブチレン3〜8%・ブタジエン4〜5%。アジアで原料にナフサが選ばれる理由)/サニパック
官庁・業界団体・企業の公表資料
このうち一般社団法人エネルギー情報センターの分析は、内閣府および経済産業省の資料を引用しつつ同センターが整理したものであり、官庁が直接公表した記述ではない。
- 「ナフサ不足の状況、例年の8割程度は確保できるが備蓄等は徐々に微減の見込み、量だけでなく代替輸入ナフサ品質の違いや目詰まりも課題に」(軽質ナフサを使用するとエチレンは得られるがブタジエンや芳香族といった副生留分が採れにくくなる。副生留分は合成ゴム・ポリスチレン・ナイロンの原料。製品バランスの歪み。2025年の国内生産量約1,310万kL・輸入量約2,039万kL、2025年の輸入先はUAE29%・クウェート21%・カタール19%、2024年の中東依存度73.6%、原油の中東依存約90〜93%・ホルムズ依存約93%、3月の中東からアジア向け供給量は前月比約85%減、北東アジアの稼働率は2月約80%から3月60%へ低下、中東以外からの輸入を月135万kLへ増やす方向)/一般社団法人エネルギー情報センター 主任研究員 森正旭/2026年5月26日
- 「中東情勢を踏まえた燃料油・石油製品の安定供給確保及び重要物資の安定的な供給確保のための対応方針(案)」資料2(中東以外からのナフサ輸入を月約45万kLから約90万kLへ加速、国内精製は月約110万kL相当、月間需要規模は約280万kL相当、調達元は2024年で国内39.4%・中東44.6%・その他16.0%、ナフサ世界生産に占める中東は2023年で16%、川中製品ごとに在庫期間が異なるため各製品の供給状況を注視)/経済産業省/2026年4月10日
- エチレン設備稼働率(2026年4月は67.3%)/石油化学工業協会/2026年5月21日発表
- 「エチレンセンター再編によるブタジエン(BD)バランスの変化」(停止するエチレン装置に隣接するBD抽出設備は大幅に稼働が落ちる可能性、2031年の国内エチレン能力は5,000千トンを下回り生産量4,400千トン、稼働率91%まで回復を予想。出典は重化学工業通信社『2025年度版日本の石油化学工業』)/日本ゼオン/2026年3月5日
- 「ゴム原料ブタジエン、強まる供給懸念 副産物としての生産に限界」(エチレンやプロピレンを作る際の副産物として得られるため、樹脂需要の減少でエチレン生産が低迷するとブタジエン生産にも影響。化学メーカーは主産物として作る製法の開発を進めている)/日本経済新聞/2025年9月
当社の関連記事
- 「【ナフサ・原油完全まとめ】2026年ナフサ価格3系列の全記録、スポット・通関CIF・国産基準価格が2ヶ月ずつずれて伝わる構造」/2026年7月19日
- 「円安はナフサ高を上乗せし、ナフサ安を打ち消す、日銀の輸入物価指数が示す2026年の二重負担」/2026年7月21日
- 「ナフサは石油備蓄法の「石油」に含まれるのに備蓄日数の算定には入らない、2026年に見えた制度と実態のずれ」/2026年7月19日
- 「ナフサ供給「目詰まり」の正体2026|需要破壊・米イラン覚書合意・7月前年並み生産、目詰まりの3層構造を一次情報で解読」
よくあるご質問
軽質ナフサに代替すると、どの製品がどれくらい減るのですか
方向は確認できていますが、程度は確認できていません。一般社団法人エネルギー情報センターは2026年5月26日の分析で、軽質ナフサを使用するとエチレンは得られるものの、ブタジエンや芳香族といった副生留分が採れにくくなると整理しています。ただし産地別の得率を数値で示した公表資料は、当社として本記事の作成時点で確認できていません。得率は原料の性状だけでなく分解条件でも変わるため、産地名だけで一義的に決まる数値ではありません。個別の影響については取引先の化学メーカーにご確認ください。
なぜ原料が変わると製品の比率が変わるのですか
ナフサ分解は複数の製品が同時に得られる工程で、エチレンだけを選んで作ることはできないためです。エネルギー・金属鉱物資源機構によれば、同沸点の炭化水素ではパラフィン・ナフテン・芳香族の順に分解しやすく、パラフィン系炭化水素のナフサが分解の原料として最適とされます。軽質ナフサはパラフィン分の比率が高いためエチレンを得るには向く一方、ナフテンや芳香族から生じる留分は相対的に少なくなります。日本大百科全書も、収率は原料の性状や分解の条件によって異なると明記しています。
プラスチックパレットやストレッチフィルムへの影響はありますか
これらはポリエチレンやポリプロピレンを原料とし、エチレンとプロピレンの側に連なるため、軽質化によって直接減る側ではありません。ただし同じコンビナートで生産される他品目の需給が崩れた場合、生産計画や出荷の優先順位を通じて影響が及ぶ可能性はあります。一方、合成ゴム・ポリスチレン・ナイロン・ポリエステルを原料とする製品は、ブタジエンや芳香族の側に連なります。自社が扱う品目がどちらに属するかを整理しておくと、影響の向きを読みやすくなります。
ブタジエンが不足しているのは軽質ナフサが原因ですか
経路が複数あるため、原因を1つに絞ることはできません。日本経済新聞は2025年9月、ブタジエンが副産物として得られるため、樹脂需要の減少でエチレン生産が低迷するとブタジエンの生産にも影響が及ぶと報じています。また日本ゼオンは2026年3月5日の資料で、エチレン装置の停止に伴い隣接するブタジエン抽出設備の稼働が大幅に落ちる可能性を示しています。これらは需要側と設備側の要因であり、本記事で扱う原料側の要因とは別の経路です。時間軸も異なるため、区別して読む必要があります。
なぜプラスチックパレット株式会社がこの記事を書いているのですか
当社は千葉県我孫子市に本社を置き、プラスチックパレット・再生樹脂材料・PPバンド・ストレッチフィルム等の物流資材を全国のお客様にお届けする専門商社です。2026年の代替調達は量の確保として報じられてきましたが、調達先が変われば得られる製品の構成も変わります。当社が扱う資材はナフサを起点とする石油化学製品であり、この構造は自社の調達判断に直結します。確認できた範囲を整理し、確認できなかった範囲はその旨を明記して記事にしています。
- 本記事の内容は2026年7月21日時点で確認できる情報に基づいています。代替調達の構成および国内の設備稼働状況は変化するため、記載内容が現時点の状況と異なる場合があります。
- 本記事は原料の性状によって得られる製品の比率が変わるという方向を示すものであり、影響の大きさを示すものではありません。産地別の得率を数値で示した公表資料は、当社として本記事の作成時点で確認できていません。掲載した収率は原料の性状や分解条件によって変わる参考値です。
- 本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の調達判断・投資判断を推奨するものではありません。個別の品目における影響については、取引先の化学メーカーまたは専門家にご確認ください。調達・発注の判断は読者ご自身の責任において行ってください。
- 技術資料および専門機関の資料を参照した箇所については、要約の過程で原文のニュアンスが完全には再現されない可能性があります。正確な内容は各出典元の原資料をご参照ください。
- 引用にあたっては出典元を明記し、必要最小限の範囲にとどめています。本記事の内容を転載・引用される場合は、出典として本記事のURLを明記してください。