2026年病院経営の生存戦略
ナフサ不足が招く医療資材危機・透析34万人リスクと
2024年度赤字病院73.8%が直面する三重苦
〜薬価固定下で物資高騰を病院が吸収する構造の限界〜
2026年6月時点、日本の病院経営は2024年度に医業赤字病院73.8%・経常赤字病院63.6%(四病協)という危機的水準に到達済み。そこに中東情勢由来のナフサ不足が直撃し、ロイター(3月27日)報道では透析回路の国内シェア5割企業が「8月以降の国内出荷困難」、手術用廃液容器の国内シェア7割企業のタイ工場供給が「4月半ばで終了」見込み。透析患者34万人(日本透析医学会2024年末)の命綱が脅かされる。大学病院は2024年度508億円赤字(医学部長病院長会議)で、医薬品費14.4%増・診療材料費14.1%増を吸収しきれない。薬価固定下で物資高騰を病院が単独で吸収する構造が限界を迎えている。
2026年6月、病院経営を直撃する「新たな構造的圧力」
2026年6月時点で、日本の病院経営は前代未聞の局面を迎えている。コロナ後の物価・人件費高騰を吸収しきれない経営状況の中で、中東情勢由来の「ナフサ危機」という新たな構造的圧力が加わったためである。
四病協(四病院団体協議会)の2024年度調査では、医業赤字病院割合が73.8%、経常赤字病院割合が63.6%に達した。これは2023年度から1年でさらに悪化した数字である。医学部長病院長会議によれば、2024年度に大学病院全体で508億円の経常赤字を計上し、2022年度比で医薬品費が14.4%増、診療材料費が14.1%増と経営を圧迫している。これらは中東情勢悪化(2026年2月末)よりも前の数字であり、つまり「中東危機の前から病院経営は既に限界に近かった」ことを示す。
その上に乗りかかったのが、本シリーズの総論記事2026年中東危機:医薬品サプライチェーン断絶の全貌で扱った医薬品供給不安と、ロイター(2026年3月27日)が報じた医療資材の出荷困難リスク。透析患者34万人(日本透析医学会2024年末統計)を支える透析回路や、手術用廃液容器の供給が4〜8月にかけて急速に細る見通しが立てられている。
本稿は薬局経営編2026年薬局経営の生存戦略と対をなす、病院経営者・院長・事務長・SCM担当・薬剤部長向けの実務深掘り解説である。
医療資材ナフサ依存の全貌 ── 透析34万人を支える石油化学
病院経営の構造を理解する第一歩は、「現代医療がいかに石油化学に依存しているか」を直視することにある。NRI(野村総合研究所)の木内登英氏が2026年4月3日コラムで指摘した通り、「医療品の多くは原油から得られるナフサを原料に製造されている」のである。
1.1 院内で使われる主要医療資材のナフサ依存マップ
日経メディカル(2026年5月)や脳神経外科医によるnote解説、公明党秋野公造政調会長の発言、オルタナ(社会派ビジネスメディア)等が整理する通り、病院内のディスポーザブル製品(使い捨て医療機器)の大半はナフサ由来の合成樹脂で作られている。具体的な品目とリスク度を整理する。
| 医療資材 | 主原料 | リスク度 | 2026年6月時点の状況 |
|---|---|---|---|
| 透析回路 | ポリ塩化ビニル(PVC)/ポリエチレン | 最高リスク | ロイター3月27日:国内シェア5割企業のタイ・ベトナム工場で原料調達難、8月以降の国内出荷困難の可能性 |
| 手術用廃液容器 | ポリプロピレン(PP) | 最高リスク | ロイター3月27日:国内シェア7割企業のタイ工場で4月半ばまでで原料供給終了見込み |
| 点滴バッグ・輸液チューブ | ポリエチレン(PE)/PVC | 高リスク | 厚労省が「計画配送」検討対象。汎用品のため代替調達も困難 |
| 注射器(シリンジ) | ポリプロピレン(PP) | 高リスク | 3月中旬以降、FEEDメディカルケア・中野医療器・Ciメディカル等が出荷制限 |
| カテーテル | PVC/シリコン樹脂 | 中リスク | 専門医療機関での備蓄消費が早い品目。順次供給逼迫 |
| 医療用手袋 | ポリエチレン/天然ゴム | 中リスク | 政府備蓄5,000万枚放出(4月16日)で短期対応中。再利用不可 |
| PTP包装(錠剤シート) | アルミ/ポリプロピレン | 中リスク | 医薬品の包装段階で目詰まり発生。製薬メーカー側の制約要因 |
| エチレンオキサイド滅菌ガス | エチレン | 中リスク | 医療器具滅菌に必須。エチレン減産(出光興産3/16発表)の余波 |
1.2 「透析回路 vs 透析患者34万人」── 命綱が脅かされる現実
最も切実なのが透析医療である。日本透析医学会の統計調査報告書によれば、国内透析患者数は約34万人(2024年末時点)。透析治療は週3回・1回4時間程度のセッションを生涯にわたり継続する必要があり、年間156回の透析を中断することは即「生命の危機」を意味する。
その透析治療を物理的に成立させるのが、ダイアライザー(人工腎臓)と透析回路(血液を体外で循環させるチューブ)である。透析回路は1回ごとに使い捨てとなるため、患者1人あたり年156本の透析回路が必要となる。34万人 × 156本 = 年間約5,300万本のディスポーザブル品が消費される計算であり、これがナフサ供給不安の直撃を受けている。
東洋経済オンライン(2026年4月15日付「透析患者34万人に影響か」)は、医療機関側で長期間分の在庫を備蓄することは難しく、値上げの負担が最終的に医療機関に集中する構造を指摘している。透析医療は包括医療費(外来透析の場合は外来透析包括点数)で運営されるため、医療資材費の高騰を診療報酬で吸収する余地が極めて限定的である。
透析回路・注射器・点滴バッグ等のディスポーザブル医療機器は、感染管理上再利用が不可能。一方、無菌包装・有効期限の制約から長期備蓄も困難(通常2〜4週間の在庫水準)。そして薬価・特定保険医療材料価格は公定価格で病院側が値上げできない。NRI木内登英氏(2026年4月3日)が指摘した通り、「医療品の価格が大幅に上がっても、それは診療報酬には直ぐに反映されず、医療機関の収益を圧迫してしまう」構造が、いま病院経営の生死を分けている。
2024年度の病院経営実態 ── 中東危機の前から既に限界
中東危機の影響を論じる前に、まず病院経営の「ベースライン」を確認する必要がある。中東危機の影響は、既に体力が落ちた病院経営に上乗せされる「最後の一押し」として作用しているからである。
2.1 四病協 2024年度データ:医業赤字73.8%・経常赤字63.6%
四病院団体協議会(日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会・日本精神科病院協会)の調査では、2023年度から2024年度にかけて病院経営はさらに悪化し、医業赤字病院割合は73.8%(前年度より増加)、経常赤字病院割合は63.6%に達した。これは中東情勢悪化(2026年2月末)が始まる前の数字である。
- 医業赤字の主要因:人件費高騰・光熱費高騰・物価高騰の三重苦。これらは病院本業(入院料・外来医療等)の収益では補填できない構造
- 経常赤字(医業外含む)の63.6%:補助金・寄付金・付帯事業等を含めてもなお赤字に陥る病院が、全体の6割超を占める異常事態
- 日病協・望月議長の提言:2026年度通常改定に続く2027年度の「期中改定」も視野に入れるべきと、業界団体が緊急提言(2025年12月)
2.2 大学病院 508億円赤字 ── 高度医療の財政基盤が揺らぐ
高度医療を担う大学病院も例外ではない。医学部長病院長会議の発表によれば、2024年度に大学病院全体で508億円の経常赤字を計上した。
- 医薬品費:2022年度比で14.4%増。高額薬剤の登場・薬価維持品目の増加・後発品供給不安による高価格品代替が要因
- 診療材料費:2022年度比で14.1%増。本稿で扱う医療資材高騰の直接影響
- 収益との乖離:これらコスト増を上回る診療報酬収入の増加が得られず、コスト増分が直接赤字に転化
大学病院は高度急性期医療・教育研究・地域医療の最後の砦である。その経営基盤が揺らぐということは、日本の医療提供体制全体の脆弱化を意味する。中東危機による医薬品・医療資材の追加コスト圧力は、この基盤をさらに削り取る。
2.3 中医協・医療部会の現状認識
2025年10月29日の中医協総会(および日医工Stu-GE作成資料)では、「医療機関を取り巻く状況について」が確認され、近年の物価高騰や賃金上昇により多くの医療機関で経営状況が悪化していることが公式に認識された。8月時点で病院機能別・地域別の経営状況も精査され、特に地方の中小病院・公立病院での経営悪化が顕著であることが指摘されている。
この現状認識に基づき、2026年度診療報酬本体は+3.09%(2年度平均)のプラス改定となったが、医療従事者の賃上げ・物価対応に大半が充てられ、純粋な経営余力の改善には限定的。中東危機による追加コストを吸収するバッファは、制度的にほとんど用意されていない。
三重苦の構造 ── 病院経営を直撃する3つの経路
薬局経営編で見た「イラン情勢×薬価改定×地域支援加算」の三重苦と同様、病院経営にも独自の三重苦が存在する。医療資材危機×医薬品費高騰×DPC包括下の吸収限界がそれである。
3.1 第1の経路:医療資材危機(ナフサ依存品の出荷困難)
第1章で詳述した通り、ロイター(3月27日)が報じた透析回路8月以降出荷困難・廃液容器4月半ば供給終了見込みを筆頭に、ナフサ依存品の供給がアジアの工場段階で絞られている。3月中旬以降、FEEDメディカルケア・中野医療器・Ciメディカル等の医療資材メーカーが出荷制限を相次いで発表し、対象品目は手袋・マスク・エタノール・エプロンへと拡大した。
これは病院経営にとって、「物理的に医療を提供できない」リスクとして直接作用する。特に透析クリニックや専門病院では、特定品目の在庫切れ=即・治療停止という構造的脆弱性を抱える。
3.2 第2の経路:医薬品費高騰と製造中止連鎖
本シリーズの総論医薬品サプライチェーン断絶の全貌で扱った通り、日本ジェネリック株式会社は2026年5月22日に8品目以上の販売中止を一斉発表(エポセリン坐剤125/250、イミダプリル塩酸塩錠2.5mg/10mg「JG」、アムバロ配合錠「JG」、スプラタストトシル酸塩カプセル50mg/100mg「JG」、サルポグレラート塩酸塩錠100mg「JG」、ケトプロフェン坐剤50mg/75mg「JG」等)。沢井製薬「全製品供給状況一覧」も2026年5月8日時点で継続更新。
撤退された不採算品目の代替として、病院薬剤部はより高価格な先発品・準先発品への切り替えを余儀なくされる。大学病院の2022→2024年度の医薬品費14.4%増は、この代替コスト増を一部反映している。さらに、厚労省2024年12月調査では限定出荷・供給停止合計20%(3,244品目)、その大半が後発品(限定出荷571+供給停止1,016=1,587品目)に集中している事実は、病院薬剤部の調達難度を構造的に押し上げている。
3.3 第3の経路:DPC包括下のコスト吸収限界
最も病院経営にとって厳しいのが、DPC/PDPS(診断群分類別包括評価)算定病院の構造的限界である。DPC病院では、入院医療費が「DPCコード×在院日数」で包括算定されるため、医薬品費・診療材料費が高騰しても入院料収入が連動して増加しない。
「DPC包括評価対象外薬剤」リスト(厚労省告示・6月1日適用版あり)に掲載された高額薬剤は出来高算定となり一定の救済があるが、ナフサ価格高騰の影響を受ける汎用医療資材(点滴バッグ・シリンジ・カテーテル等)の費用は包括内で病院が完全に吸収する構造である。
一般病院(出来高算定)であっても、薬価・特定保険医療材料価格は公定価格のため、市場での仕入価格高騰を販売価格に転嫁できない。NRI木内登英氏(2026年4月3日)の指摘通り、「医療品の価格が大幅に上がっても、それは診療報酬には直ぐに反映されず、医療機関の収益を圧迫してしまう」のである。
医療現場のトリアージ ── 救急医療・手術・透析の優先順位再編
経営インパクトだけでなく、医療現場のオペレーションにも構造変化が起きている。医薬品・医療資材の制約下では、「どの患者にどの治療を優先するか」というトリアージ的な判断が、平時の医療提供にも持ち込まれざるを得ない。
4.1 救急医療:エトミデート・アモキシシリン代替プロトコル
USP(米国薬局方)リスクアセスメント(2026年3月)が指摘したアモキシシリン(抗生物質)・エトミデート(麻酔薬)・アセトアミノフェン(解熱鎮痛剤)の3薬剤は、救急医療の現場で頻用される。
- アモキシシリン代替:中間体の供給停止により、第一選択薬から第二・第三選択薬(より広域スペクトラム抗生物質)への切り替え必要。スペクトラム拡大により耐性菌リスクが高まる副作用
- エトミデート(国内未承認だが類薬の麻酔導入薬)の代替:製造拠点が紛争域に近く代替生産の目処が立たないため、プロポフォール・チオペンタール等の代替プロトコルへの切り替え。各薬剤に固有の副作用プロファイルがあり、慎重な患者選択が必要
- アセトアミノフェン代替:イブプロフェン・ロキソプロフェン等への切り替えが厚労省事務連絡(過去の解熱鎮痛薬不足時の通知)で示されているが、適応症・禁忌・副作用が異なるため処方判断が複雑化
4.2 周術期:選択的手術の延期判断
手術中に使用する廃液容器(国内シェア7割企業のタイ工場供給が4月半ばで終了見込み)の不足は、選択的手術(emergent ではない予定手術)の延期判断を病院に強いる。
新型コロナ時の整形外科手術トリアージ指針(日本整形外科学会、CMS・ACS推奨の段階的アプローチ)と同様の判断フレームが、平時の手術にも適用される可能性が高まっている。医療経営的には、選択的手術の延期=入院料収益の減少であり、収益面の追加打撃となる。
4.3 透析医療:「中断不可」治療の継続性確保
透析患者34万人の治療は中断不可。透析クリニック・人工腎臓センター運営者は、透析回路・ダイアライザー・抗凝固剤の在庫水準を通常の2倍以上に引き上げる戦略を検討せざるを得ない。しかし、東洋経済オンライン(4月15日)が指摘した通り「医療機関側で長期間分の在庫を備蓄することは難しい」ため、現実的にはメーカー直接交渉での優先供給契約と透析クリニック間の融通体制構築が鍵となる。
4.4 医療物資相談窓口の活用
厚生労働省と経済産業省は、2026年4月にメーカー向け・医療機関向け双方の医療物資相談窓口を開設している(オルタナ報道)。第4回(4月23日)・第5回(5月18日)の対策本部開催と並行して、医療機関側からの供給情報照会・代替調達相談が可能となっている。
東洋経済オンライン(4月15日)によれば、政府対策本部には2026年4月時点で543件の相談が寄せられており、医療現場の不安が組織化されつつある。
病院規模別・経営インパクト ── 大学病院・中規模急性期・地域診療所
三重苦の影響度は、病院の規模・機能・地域によって大きく異なる。本章では3類型に分けて経営インパクトと生存戦略を解剖する。
2024年度に全体で508億円赤字を計上した最重症層。高額医薬品・高機能医療資材の使用量が最大で、医薬品費14.4%増・診療材料費14.1%増の直撃を受ける。一方、DPC包括算定の対象外薬剤リストの活用余地は最も大きく、出来高算定への切り替えで一定の収益緩和が可能。
教育研究機能を維持する責務もあり、新規高額薬剤の採用・治験対応で物資調達難度がさらに上がる。
DPC包括下で医薬品費・診療材料費の高騰を完全に吸収する構造で、最も経営インパクトが大きい層の一つ。汎用医療資材(点滴バッグ・シリンジ・カテーテル)への依存度が高く、ナフサ価格高騰の影響を直接受ける。
急性期入院料の施設基準維持(救急搬送件数等)も求められ、選択的手術延期は施設基準への影響リスクもはらむ。
透析クリニックは外来透析包括点数で運営されるため、透析回路・ダイアライザー・抗凝固剤の費用は包括内で吸収。透析患者34万人を支える施設は全国に約4,400施設あり、地域偏在も大きい。
専門診療所(眼科・整形外科・皮膚科等)も、それぞれ特定の医療資材依存度が高く、品目別の供給リスクが直接影響する。
5.1 経営インパクトの可視化 ── 中規模急性期300床病院のシミュレーション
仮に200床×医業収益約60億円規模の中規模急性期病院(DPC算定)を例に経営インパクトを概算する。
- 診療材料費の影響:医療収益の概ね8〜10%(4.8〜6.0億円規模)が診療材料費。大学病院並みの14.1%増が発生すれば年間+6,800〜8,500万円のコスト増
- 医薬品費の影響:医療収益の概ね15〜18%(9〜10.8億円規模)が医薬品費。14.4%増が発生すれば年間+1.3〜1.6億円のコスト増
- 合計:診療材料費+医薬品費の追加コストだけで年間+2.0〜2.4億円規模。これに賃上げ・光熱費高騰が加わると、収益改善なくしては赤字幅拡大は不可避
上記試算はあくまで大学病院並みの増加率が中規模急性期にも波及した場合の概算であり、実際には病院の機能・所在地・診療科構成により変動する。しかし、「中東危機の前から既に赤字構造にあった病院が、年間2億円規模の追加コストを吸収できるか」という問いに、ほとんどの病院は否定的回答にならざるを得ない。
病院経営者が今すぐ取るべき5つのアクション
ここまで見てきた三重苦の中で、病院経営者・院長・事務長・SCM担当・薬剤部長が今すぐ着手すべき実践的アクションを5つに整理する。
在庫水準を2〜4週間から1〜2か月へ拡張する戦略は、院内・院外の保管スペース確保と物流効率化を同時に求める。医療資材の積み下ろし・搬送には専用パレット・折りたたみコンテナ・抗菌仕様の物流資材が必要であり、運用品質が在庫管理の精度を左右する。プラスチックパレット株式会社(千葉県我孫子市・全国対応)は、医療機関向けの再生樹脂パレット・抗菌コンテナ・折りたたみ式容器等のラインナップで、病院SPD部門の物流効率化を支援できます。医療資材危機への対応策として、物流資材の見直しは隠れた経営改善ポイントです。
医療提供体制の「戦略物資化」と病院経営の役割
2026年6月時点で病院経営が直面している三重苦は、単なる短期的なコスト圧迫ではない。「医療提供体制が、戦略物資としての石油化学に深く依存している」という構造的脆弱性が、地政学リスクと同時に表面化したのである。
2024年度の医業赤字病院73.8%という数字は、もはや個別経営の課題ではなく、日本の医療提供体制全体の持続可能性を問う警鐘である。中東危機による医薬品・医療資材危機は、その警鐘をさらに大きく鳴らした。
本稿の核心メッセージは2つある。第一に、病院経営者は「コスト管理の延長線上」ではなく「戦略物資としての医療資源確保」という新たな経営フレームで意思決定を行う必要があること。第二に、個別病院の自助努力には限界があり、業界団体・行政との連携による制度改善が同時並行で必要であること。
日病協・望月議長が提言する2027年度の期中改定は、その制度改善の一つの可能性である。本シリーズの医薬品サプライチェーン断絶の全貌と薬局経営の生存戦略と合わせて、医療業界全体の構造的な議論の一助となれば幸いである。
- ロイター「ナフサ不足で医療機器が出荷困難の可能性、透析・手術用の品目 4―8月にかけて=関係者」(2026年3月27日)― 透析回路 国内シェア5割企業の8月以降出荷困難・廃液容器 国内シェア7割企業のタイ工場4月半ば供給終了見込み
- 日本透析医学会 統計調査報告書 ― 国内透析患者数 約34万人(2024年末時点)
- 東洋経済オンライン「〈透析患者34万人に影響か〉ナフサ不足が『アジア生産の医療機器』に与える打撃…値上げなら病院の経営悪化を招く懸念も」(2026年4月15日)― 政府対策本部に543件の相談
- NRI(野村総合研究所)木内登英「医療用品の不足に備える:価格メカニズムと政府の生産資源配分への関与」(2026年4月3日)
- 医学部長病院長会議 ― 2024年度大学病院全体で508億円経常赤字、2022年度比で医薬品費14.4%増・診療材料費14.1%増
- 四病院団体協議会(四病協)― 2023年度から2024年度にかけて医業赤字病院割合73.8%・経常赤字病院割合63.6%に増加
- 日病協(日本病院団体協議会)望月議長提言 ― 2026年度通常診療報酬改定に続く2027年度の期中改定も視野に入れるべき(2025年12月)
- 中医協(中央社会保険医療協議会)総会 ― 2025年10月29日「医療機関を取り巻く状況について」確認、物価高騰・賃金上昇による経営悪化
- 厚生労働省告示第72号「使用薬剤の薬価(薬価基準)の一部を改正する件」(令和8年3月5日官報告示)― 薬剤費ベース▲4.02%、2026年4月1日施行
- 厚生労働省・経済産業省「第1回 中東情勢の影響を受ける医薬品、医療機器、医療物資等の確保対策本部」(2026年3月31日設置・初会合)
- 厚生労働省「第4回 中東情勢の影響を受ける医薬品、医療機器、医療物資等の確保対策本部」(2026年4月23日・厚生労働省講堂)
- 厚生労働省「第5回 中東情勢の影響を受ける医薬品、医療機器、医療物資等の確保対策本部」(2026年5月18日・厚生労働省専用第21会議室)
- 厚生労働省・経済産業省「医療機関等における医療機器及び医療物資等の供給に関する情報提供窓口」(2026年4月開設)
- 厚生労働省「DPC/PDPS包括評価対象外となる薬剤一覧」― 2026年6月1日適用版(メディカル・リード等が解説)
- 日刊薬業「中東情勢、原薬のリスク洗い出し 原薬工、影響の程度は不透明」(2026年4月28日)
- 日刊薬業「26年度改定、薬剤費ベースで4.02%減 薬価改定を官報告示」(2026年3月5日)
- 日本ジェネリック株式会社「医療関係者向けお知らせ一覧」― 2026年5月22日付 エポセリン坐剤125/250、イミダプリル塩酸塩錠2.5mg/10mg「JG」、アムバロ配合錠「JG」、スプラタストトシル酸塩カプセル50mg/100mg「JG」、サルポグレラート塩酸塩錠100mg「JG」、ケトプロフェン坐剤50mg/75mg「JG」 販売中止案内
- 沢井製薬株式会社「全製品供給状況一覧」(2026年5月8日時点・継続更新中)
- 厚生労働省「医療用医薬品の供給状況」第19回医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議 参考資料3(令和7年1月24日)― 2024年12月調査:限定出荷・供給停止合計20%(3,244品目)
- USP(米国薬局方)リスクアセスメント(2026年3月)― アモキシシリン・エトミデート・アセトアミノフェンの供給停止リスク警告
- オルタナ「手袋、輸液バッグ――ホルムズ危機でのナフサ不足と医療現場の対応は」(2026年4月)― 厚労省・経産省合同のメーカー向け・医療機関向け相談窓口開設
- 日経メディカル「ナフサ危機から考える健康医療安全保障と保健医療の構造的強靱化」(2026年5月)― 現代医療の石油化学・化石燃料依存の構造解説
- 公明党秋野公造政調会長発言(2026年4月30日関連報道)― 注射器・点滴バッグ・カテーテルなど使い捨て医療機器のナフサ依存指摘
- note「ナフサ不足で医療が止まる〜透析患者34万人の命綱が途絶える」とある地方都市の某外科医(2026年4月10日)― 出光興産3/16エチレン減産発表、ナフサ在庫20日分、FEEDメディカルケア・中野医療器・Ciメディカル等の出荷制限
- 日経新聞「首相、医療品の安定供給指示 石油製品の代替調達」(2026年4月1日)
- 石油通信「経産省、医療用石油関連製品の安定供給を要請」(2026年3月31日)
- 日本整形外科学会「新型コロナウイルス感染症拡大に伴う整形外科手術のトリアージについて」― CMS・ACS推奨の段階的アプローチに準拠した手術トリアージ指針(平時運用にも転用可能)
- 労働政策研究・研修機構(JILPT)― 2025年12月成立補正予算(厚労省2兆3,252億円・医療介護等支援パッケージ1兆3,649億円)
- GemMed「物価・人件費急騰を勘案し、2026年度の通常診療報酬改定に続く2027年度の期中改定も視野に入れよ―日病協・望月議長」(2025年12月)
- GemMed「2026年6月から新点数等を算定する場合、可能な限り5月18日までの施設基準届け出を―疑義解釈3」(2026年4月)
- 日医工Stu-GE「医療環境を取り巻く状況について」「DPC/PDPS包括評価対象外となる薬剤一覧(2025年11月12日適用版)」
- ジェトロ「中東・イラン経済情勢(2026年5月14日時点)」― 海上輸送の喜望峰経由迂回継続
- ロイター「アジアのナフサ価格急落、ADNOCがオマーン経由で輸出再開」(2026年6月3日)― アジアナフサスポット価格:5月16日1,043ドル/MT→6月3日767ドル/MT(約26%下落)
- 厚生労働省「国内未承認の医薬品成分エトミデートを含有する製品に対する注意喚起について」