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ニュースで聞くイラン情勢が招く『2026年肥料の値上げ』をやさしく解説、尿素と果実が食卓から消える本当の理由|プラスチックパレット株式会社
やさしく解説シリーズ | 2026年7月16日更新

ニュースで聞くイラン情勢が招く
2026年肥料の値上げ』をやさしく解説、
尿素と果実が食卓から消える本当の理由

「バナナが黄色くならないかも」「肥料が値上がりする」——2026年に入り、こうしたニュースが増えました。中東で戦争が始まったのに、なぜ日本のスーパーや食卓に影響が及ぶのでしょうか。実は日本の農業は、中東からの肥料原料に大きく依存しています。この記事では、専門用語を使わず、7つの「よくある質問」に答える形で、いま起きていることを分かりやすく解説します。

初稿
最終更新
カテゴリ 食料安全保障・やさしく解説
読了時間 約10分
【この記事の結論】

日本の肥料原料の尿素は97%輸入・マレーシア7割。中東情勢とホルムズ海峡封鎖で、世銀集計の尿素4月857ドル→6月366ドルへ調整も、7月12日再閉鎖で第2波リスク再燃。バナナ追熟のエチレンガスも不足し、青果流通は7月時点も苦労続く。5月に鈴木憲和農相がペトロナス訪問し供給保証を確保

2026年に入って以降、テレビやネットで「バナナが黄色くならないかもしれない」「肥料の値段が急騰している」「ホルムズ海峡が封鎖された」「中東情勢が食卓を直撃する」──こうしたニュースを目にする機会が増えました。

でも、遠い中東で起きている紛争が、なぜ日本のスーパーの棚や家庭の食卓に影響するのでしょうか?「石油や天然ガスは中東依存だと分かるけど、なぜ肥料まで?」「バナナと戦争って、どこでつながっているの?」──こうした疑問を持たれた方は多いはずです。

この記事では、専門用語や難しい経済用語をできる限り使わず、12個の「よくある質問」に答える形式で、いま食卓の周辺で何が起きているのかを丁寧に解説します。読み終える頃には、ニュースの背景が立体的に理解できるようになるはずです。10分ほどお付き合いください。

Q
イラン情勢と日本の肥料に、なぜ関係があるのですか?
A

結論から言うと、日本の肥料の主原料の多くが、中東を経由して日本に届いているからです。

肥料の中でも最も重要な「尿素(にょうそ)」という原料は、天然ガスから作られます。天然ガスをアンモニアと反応させて尿素を製造する工程は、コスト構造上、天然ガスが安く・大量に採れる地域に集中せざるを得ません。そのため、世界の尿素生産はカタール、サウジアラビア、UAE、オマーンといった中東湾岸諸国と、ロシア、マレーシア、インドネシアに集中しています。日本の肥料工場は、これらの国から尿素を輸入して、日本の農家向けに製品化しているのです。

中東湾岸から日本に船で運ぶ際、必ず通過する狭い海の道が「ホルムズ海峡」です。イランとオマーンの間にある幅わずか数十kmの水路で、ここを世界の海上原油輸送の約2割、LNG(液化天然ガス)の約2割、そして肥料貿易の約3分の1が通過しています。国連貿易開発会議(UNCTAD)と国連食糧農業機関(FAO)が推計している数字です。

💡 KEY FACT ── 危機の始まり
2026年2月28日、米国とイスラエルがイランを軍事攻撃し、最高指導者ハメネイ師が死亡しました。イランはその反撃として3月2日にホルムズ海峡の封鎖を宣言。イラン革命防衛隊(IRGC)が「いかなる船舶もホルムズ海峡通過を許さない」と警告し、日本の商船大手3社(商船三井・日本郵船・川崎汽船)も通航を停止しました。ペルシャ湾内には150隻以上の船が滞留し、戦争リスク保険料は前週比で4〜6倍に急騰。肥料を積んだ船が動けなくなり、価格が急騰したのです。

その後、5月中旬にタンカー通過が徐々に回復し、6月17日には米イラン間で「イスラマバード覚書」(14項目MOU)が発効。ホルムズ通航は正常化に向かうように見えました。しかし7月12日、IRGCが約7,000TEU型のキプロス籍コンテナ船「MV GFS Galaxy」を攻撃し、機関室損傷と船内火災で乗組員がライフボート避難(インド人船員1人が行方不明)、開戦以来4回目のホルムズ閉鎖が宣言されたのです。米中央軍が今週3度目の空爆(約140カ所、過去7日間で計300超)で反撃し、覚書は効力停止となりました。日本の肥料と食卓への影響は、この第2波リスクにさらされている状況です。

Q
ホルムズ海峡って、どこにある?なぜそんなに重要なのですか?
A

ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とオマーン湾(そしてインド洋)をつなぐ、世界で最も戦略的に重要な海の関門です。地図で確認すると、イランのバンダルアッバスとオマーンのムサンダム半島の間にあり、最狭部の幅はわずか約34km。この水路を通らずに、湾岸諸国から出た船が外洋(インド洋・地中海・日本)に向かうことはできません。

ここを通過する主な物資は、原油・LNG・化学品・肥料・農業製品などで、世界の海上原油輸送量の約20%、LNG輸送の約20%、そして肥料貿易の約3分の1という膨大な量です。日本にとっては特に重要で、原油輸入の94〜95%が中東からで、そのうち約9割がホルムズ海峡を通過して日本に届いています(笹川平和財団・資源エネルギー庁のデータ)。

🗺️ 日本の中東依存が「食料」まで及ぶ理由
日本は「エネルギー安全保障」の観点から、原油の中東依存はよく知られています。しかし実は、「食料安全保障」の面でも中東依存が深いのです。窒素肥料の原料である尿素、車の排気ガス浄化に使うアドブルー、リン酸肥料の副原料である硫黄、農業機械の燃料(軽油)――これらすべてが中東からの物流ルートに依存しています。「食卓」と「中東」は、実は細い糸で強く結ばれているのです。

2026年の情勢は、この海峡の閉鎖と再開が繰り返される「予測不可能な状態」が続いており、タンカーの通行量は正常時の1日約20隻から大幅に減少しました。7月に入っても、日本関係船舶4隻がペルシャ湾内に残る状況で、金子恭之国交相が7月10日の会見で「日本関係船舶22隻がホルムズ海峡を通過して湾外へ退出した」と報告しています。

Q
バナナが黄色くならない、というニュースは本当ですか?
A

本当です。日本のスーパーで売られている黄色いバナナは、実は日本に届いた時点では「青い(緑色の)状態」だったのです。

これは日本の法律で決まっていることです。バナナは熱帯地域からの輸入品で、病害虫が日本に持ち込まれるリスクを防ぐため、「青い(未熟な)状態」で輸入することが植物検疫法で義務付けられています。港に届いた青いバナナは、専用の加工室(追熟室)で「エチレンガス」という気体を数日間充満させることで、私たちが知る黄色いバナナへと「追熟(ついじゅく)」されるのです。

エチレンは植物ホルモンの一種で、化学式はC₂H₄。果実の成熟過程で自然に放出される物質ですが、工業用のエチレンガスを人工的に投与すると、果実の内部で「果皮が緑から黄色に変わる」「果肉が軟らかくなる」「デンプンが糖に変わり甘みが出る」という変化が一斉に始まります。この工業用エチレンは、化学工場でナフサ(原油から作られる原料)を分解して製造されており、ナフサの約70%が中東からの輸入です。

🍌 現場の声 ── 「創業100年で初の事態」
静岡県浜松市の青果加工大手「株式会社浜中」の橋本康一執行役員は2026年5月5日、テレビ朝日系ANNの取材にこう答えました。
5月6月は供給できるけど、7月から供給できないという話を商社からもらっています。『2.5カ月待ちです』と。今発注すれば届くのは7月中旬あたり。今まで買っている価格の10倍、大体1本15万円以上するのではと聞いています
同社は青果卸として100年以上の歴史があり、年間2700トンのバナナを出荷。「エチレンで仕事をしている我々のような会社が日本にたくさんあることも事実。供給が滞ってしまうことで仕事がなくなってしまう恐怖を考えると、早くエチレンガスが安定的に来てくれと、それしかない」──創業以来初のピンチです。

北九州市門司区のフレッシュ・デルモンテ・ジャパン九州営業所(年間100万箱・1万5000トン加工)の石川裕二郎所長も、4月22日のRKB毎日放送の取材に「取り寄せるメーカーの回答では、5月までは確保できているが、6月7月に関してはまだ何も決まっていない」と答えており、日経は6月26日「青いバナナに真っ青 青果流通、エチレンガス調達難で『追熟』苦労続く」と報じました。バナナは日本の果物流通量の約30%を占める基幹食材(人民網日本語版)で、非常食・病院食・離乳食にも多用されるだけに、社会的影響は決して小さくありません。

Q
尿素ってそんなに大事なものなのですか?
A

とても大事です。尿素は農作物を育てる上で最も重要な栄養素「窒素」の供給源で、これがないと作物は葉を茂らせることも、実を大きくすることも、光合成に必要な葉緑素を作ることもできません。

植物にとって、窒素(N)・リン(P)・カリウム(K)は「三大栄養素」と呼ばれます。中でも窒素は「タンパク質」「クロロフィル(葉緑素)」「DNA」など生命の基本物質の材料になり、これが不足すると株が育たず、実も付きません。工業的に窒素を供給する肥料の中でも、尿素は窒素含有量が46%と最も高く、少ない量で多くの窒素を届けられるため、世界中で最も使われている窒素肥料になっています。

日本の農林水産省の資料「肥料をめぐる情勢」(令和8年4月版)によると、日本国内で使われる尿素の97%は輸入品で、国産は3%(9千トン)しかありません。そのうち7割以上がマレーシアの国営石油会社ペトロナスから、残りは中国・韓国から来ています。マレーシアが「日本への供給を止める」と言えば、日本の農業は立ちゆかなくなる構造なのです。

📊 数字で見る肥料の値上げ
世界銀行が集計する尿素の国際価格(Pink Sheet)は、月ごとに大きく動きました:
・2026年2月:472ドル/t
・3月:726ドル/t(前月比+54%の急騰)
・4月:857ドル/t(前月比+18%、過去最高水準
・5月:547ドル/t(Trading Economics スポット)
・6月:366ドル/t(同、前月比-22.02%、前年比-7.80%、調整局面)
日本の輸入価格も3月に前月比+17.5%上昇、1トン9万3070円を記録しました(NHK 4月28日報道)。世界銀行は「中東の混乱が長引いた場合、2026年通年で肥料価格は31%、尿素は60%上昇する可能性」と警告しています。7月12日のホルムズ再閉鎖で、この見通しが再び中心シナリオに近づくリスクが浮上しています。
Q
尿素以外にも、重要な肥料原料はあるのですか?
A

あります。今回の情勢の深刻さは、肥料の主要原料が「4つ同時に」供給リスクにさらされていることです。専門用語で「四正面同時圧迫」と呼ばれる状況で、これは2022年のウクライナ危機時にも見られなかった現象です。

4つの主要原料と、それぞれの日本の依存構造は次のとおりです:

🌾 4つの主要肥料原料と日本の依存構造
①窒素(尿素):97%を輸入、うちマレーシアが7割超(ペトロナス経由)。ペルシャ湾岸が世界の尿素輸出の約49%を占める。

②リン酸(DAP・MAP等):約70%を中国から輸入。中国は2025年12月にリン酸肥料の輸出を2026年8月まで暫緩し、日本のリン酸調達に直接影響。2025年1-9月の中国MAP輸出は前年比-20.5%、DAP輸出は-23.6%

③カリウム(塩化加里):カナダが主要輸入先で40%超。ロシア・ベラルーシへの制裁でカナダ産への需要集中が続く。

④硫黄:世界の海上硫黄貿易量の約半分が中東湾岸から供給。カタール・クウェート産硫黄の国際契約価格は495ドル/t(前年比+230%)の高水準。硫黄は硫安・過リン酸石灰など肥料の副原料として不可欠。

さらに、川上原料であるアンモニア(尿素の材料)もペルシャ湾岸が世界輸出の約30%を占めています。3月4日にはカタールエネルギーがラスラファン施設の不可抗力宣言を発表し、硫黄・アンモニア・尿素の生産が同時停止しました。川上(アンモニア)と川下(尿素)が同時に打撃を受けたのは、産業構造上の大きな衝撃でした。

日本の主要商社(三井物産・丸紅・伊藤忠等)は、リン酸の代替候補としてモロッコOCP(世界最大のリン鉱石埋蔵)、サウジMa'aden、ヨルダンJPMCとの交渉を進めていますが、既存契約者優先の枠組みで日本の追加ボリューム獲得は難航しています。硫黄はカナダ産オイルサンド由来への切替が代替候補ですが、物流ルートの再構築には数か月を要します。

Q
日本政府はどう対応していますか?
A

複数の対応が並行して進んでいます。政府は3つのアプローチを組み合わせています。

① 閣僚外交:鈴木憲和農相のマレーシア訪問(5月1日)
鈴木憲和農林水産大臣は2026年5月1日、マレーシアの首都クアラルンプールを訪問し、マレーシア国営石油会社ペトロナスのダトゥ・サザリ上級副社長らと会談しました。会談冒頭、サザリ副社長は「日本への尿素供給が常に確保されるよう努める」「日本向けの尿素供給が守られることを保証する」と明言。JA全農(全国農業協同組合連合会)との現行2年契約を長期化する協議も始まりました。

🎌 秋の作付けは大丈夫
政府は5月時点で「6月以降に供給される秋肥(秋の作付け用肥料)の原料は概ね調達めどが立った」と説明しました(日本農業新聞・中日新聞・共同通信 5月1日報道)。これで2026年秋の農作業は当面問題ないと判断されています。ただし、来春以降の追加調達については7月12日のホルムズ再閉鎖を受けて再考の段階にあり、具体的な多元化戦略はQ8で詳しく解説します。

② 首相直轄の中東情勢閣僚会議
高市早苗総理は5月12日に第7回中東情勢関係閣僚会議を開催し、鈴木大臣のマレーシア訪問結果について「肥料原料である尿素の安定供給の確約を得ると共に、ナフサ及び原油の安定供給についても積極的に取り組むことが確認された」との報告を受けたことを公表しました。

③ 国家備蓄石油の放出
日本は5月1日以降、約20日分の国家備蓄石油(第2弾)を放出し、原油価格の急騰を緩和しています。これは肥料の輸送コスト(船舶燃料)の抑制にも寄与しています。

7月12日のホルムズ再閉鎖後は、これらの対応を強化した追加の閣僚会議が予定されており、来春以降の肥料調達戦略の再構築が主要議題となる見通しです。

Q
「Pupuk Indonesia」って何ですか?よくニュースで聞きます。
A

Pupuk Indonesia(ププック・インドネシア)は、インドネシア政府が所有する国営肥料会社です。読み方は「ププック・インドネシア」で、「Pupuk」はインドネシア語で「肥料」を意味します。正式名称はPT Pupuk Indonesia (Persero)。

この会社が2026年に入って世界の注目を集めたのは、「中東の代わりに肥料を供給できる、アジア太平洋・中東・北アフリカ地域で最大の尿素生産者」だからです。年間14.8百万トンの肥料生産能力を持ち、10社の子会社を持ちます。うち主要子会社のPT Pupuk Kalimantan Timur(Pupuk Kaltim、東カリマンタン州Bontang)は、東南アジア最大の窒素肥料生産者で、5系列のアンモニアプラントと5系列の尿素プラントを運用しています。

🌱 Pupuk Indonesiaの数字
生産能力:グループ年間14.8百万トン。うち尿素は installed 9.4百万トン、operational 8.8百万トン。
2026年計画:尿素生産目標7.8百万トン。国内需要6.3百万トンを差し引くと1.5〜2百万トンの輸出余剰
日次生産:尿素25,000トン、NPK 15,000トン。
国内シェア:インドネシア国内尿素生産の約98%
ブランド:非補助尿素「Nitrea」(50kg袋)で流通。
ロードマップ:2029年〜2030年に「Blue and Green Ammonia」の量産開始予定。日本のINPEX(国際石油開発帝石)とのCCS共同利用協力もpre-FEED完了段階。

2026年6月22日、Pupuk Indonesiaは47,250トンの尿素をオーストラリアのブリスベン港に届けました。これは、政府間契約(G-to-G)による対豪250,000トンの初出荷分です。輸送船は「MV Medi Luna(Madiluna)」で、5月中旬にBontangから出港し、6月22日にBrisbane到着。歓迎式典には、Indonesia駐豪大使Siswo Pramono氏、Pupuk Indonesia社長Rahmad Pribadi氏、Australia農林漁業省First Assistant Secretary Amanda Chalmers氏、Incitec Pivot Fertilisers(Scott Bowman氏)、Ridley Corporation代表が参加しました。

Rahmad Pribadi社長はこの場で「不確実性の世界において、確実な供給源としてのインドネシア」と発言し、大統領特使Hashim Djojohadikusumo氏は「地政学的な波の中で、インドネシアは相対的に安全な位置にある」と述べています。

🌏 5〜6か国と交渉中
Pupuk Indonesia社長Rahmad Pribadi氏は6月22日Brisbaneでの取材で「Indiaおよびバングラデシュとも輸出交渉を進めている」と発言(ANTARA News 6月26日)。総コミットは以下の通り:
・Australia:250,000トン(既に47,250トン初出荷)
・India:500,000トン希望
・Bangladesh・Philippines・Thailand・Brazil:交渉中
合計は5〜6か国で約100万トン規模に達する見通しです。副農相Sudaryono氏は「Bali Asia Fertilizer Conference(4月1日)で6か国が価格を問わず求めている」と述べ、副農相と社長は「以前は非効率で更新予定だった旧世代プラントを一時的に稼働継続できる」ほどの需要状況であることを認めています。

日本もこの新供給網の候補国となる可能性がありますが、本記事作成時点で対日G-to-G合意は確認されていません。動きは商社ベースや民間契約が先行する構図となる可能性が高いですが、中東湾岸に集中していた尿素供給網の重心が東南アジアへ移動しつつあるのは、日本の食料安全保障にとって歴史的な変化です。

Q
マレーシアだけに頼っていて大丈夫ですか?多元化戦略とは?
A

ペトロナス副社長からの供給保証は重要な安心材料ですが、マレーシア一極依存の構造そのものは残ったままです。マレーシア国内でのガス生産は自国需要優先が原則で、7月12日再閉鎖後のような供給緊張局面では、日本以外の顧客(インド・ベトナム・タイなど)との配分競争が必然的に生じます。

そのため、日本のJA全農と主要商社(三井物産・丸紅・伊藤忠等)は、「5系統調達ポートフォリオ」という多元化戦略を進めています。マレーシア一本だけに頼らず、複数の調達先を組み合わせるという考え方です。

🎯 日本の5系統調達ポートフォリオ
系統①|マレーシア主軸:ペトロナス経由(7割以上)、JA全農との2年契約→長期化協議中

系統②|中国:ただし政策リスクあり(3月に窒素・カリ混合肥料の輸出停止通達、リン酸肥料も暫緩)

系統③|Pupuk Indonesia:新規調達先。2026年輸出余剰1.5〜2百万トン

系統④|その他ASEAN:Brunei(BFI)、Vietnam(Ninh Binh・Ha Bac・Ca Mau)

系統⑤|中東:湾岸再開時の主要供給源。ただし7/12再閉鎖で不透明

また、東南アジア諸国(インドネシア・マレーシア・ブルネイ)は「SEAFA(東南アジア肥料連合)」を結成し、地域内の肥料供給・食料安全保障・産業レジリエンスの強化を進めています(Jakarta Globe報道)。これは、中東依存からアジア圏内での相互補完へのシフトを象徴する動きです。

リン酸・硫黄についても、モロッコ・カナダなど中東ルートを回避できる調達先の開拓が進んでおり、日本農業は「単一供給源への依存」から「複数供給源のポートフォリオ管理」へと戦略を転換しつつある局面にあります。

Q
バナナ以外の食べ物はどうなりますか?
A

肥料と追熟工程の両方に影響が及ぶため、多くの果物・野菜が「肥料・エチレン・物流」の三重負担に直面しています。品目ごとの影響を整理すると次のとおりです。

🍓 主な果物・野菜への影響
🍓 イチゴ:窒素・リン酸不足→株の成長遅延・糖度低下。徳島・千葉の高設栽培で液肥コスト上昇が経営を圧迫。

🍈 メロン・スイカ:窒素・リン酸不足→網目(ネット)不形成、商品価値低下。メロンはクライマクテリック型でエチレン追熟にも影響。

🍊 みかん・柑橘:収穫後の窒素(お礼肥)不足→翌年花芽減少・隔年結果懸念。酸味が抜けずブランド力に影響。

🍎 りんご:カリウム・リン酸不足→着色不良・果肉軟化。青森産のCA貯蔵(低酸素貯蔵)コストが上昇。

🍌 バナナ:カリウム依存植物のため肥料不足が成長停止に直結。追熟工程のエチレン不足も。

🥝 キウイ・アボカド:バナナと同様、輸入時は未熟状態で工業用エチレンによる追熟処理が不可欠。キウイはエチレン感受性が高く、わずかな濃度変化で熟成タイミングがずれる。

野菜側も影響を受けます。玉ねぎ・にんにくは含硫化合物(アリシン等)の合成に硫黄が不可欠で、硫黄不足は独特の風味・栄養価に影響する可能性があります。葉物野菜(キャベツ・ほうれん草・レタスなど)は窒素依存が高く、施肥量が減れば葉の展開が遅くなり、収穫量が減少します。

米作りにも影響が及びます。日本経済新聞(5月5日)は「肥料高がアジアのコメ生産を直撃」との見出しで、インド・ベトナム・タイの雨期コメ作付けで農家が施肥量を抑えたり、コメ以外の作物に転作すれば、世界の供給量に悪影響が及ぶと警鐘を鳴らしています。日本のコメも輸入肥料に依存しているため、無関係ではありません。

Q
過去にも肥料危機はあったのですか?今回はどう違う?
A

過去にも肥料価格の急騰は何度かありましたが、今回は「過去にない特徴」がいくつかあります

1️⃣ 2022年ウクライナ危機時との比較
2022年のロシア・ウクライナ戦争時、尿素の国際価格は4月に815ドル/tまで上昇しました。しかしその時は「ロシア産・ベラルーシ産の窒素・カリの輸出停止」が主因で、リン酸や硫黄には大きな影響がありませんでした。今回はこれと違い、窒素・リン・カリ・硫黄の4つ全てが同時に供給リスクにさらされている点が特徴です。

2️⃣ 過去最高水準の到達
2022年ピーク815ドル/tを上回る「857ドル/t」を2026年4月に記録したこと。世界銀行が「Pink Sheet」(ピンクシート)と呼ばれる商品価格集計を始めて以来、最も高い水準となりました。

📅 過去の主な肥料価格ピーク
・2008年(リーマン前):尿素・肥料全般が急騰、燃料価格連動
・2011年(アラブの春):中東情勢懸念で一時的上昇
・2022年4月(ウクライナ危機):尿素815ドル/tピーク
2026年4月(ホルムズ危機):尿素857ドル/t(過去最高水準)
・2024年4月(落ち着き):327ドル/tまで下落

肥料の戦略備蓄がわずか25日分(JPモルガン試算)という構造も、原油と違い、需給変動時の値動きが激しくなる要因です。原油には国家戦略備蓄制度がありますが、肥料には同じような安全弁がないのです。

3️⃣ 「見えない危機」の性質
国連大学のショクリ教授は「肥料ショックは石油ショックほど即座には可視化されない、収量が明らかになるのは数カ月後」と分析しています(ニューズウィーク日本版 3月14日、この発言中の「ショック」は学術用語の原文引用です)。石油危機ならガソリンスタンドの長蛇の列や価格表示ですぐ気づけますが、肥料危機は「農家の使用量減少」→「作物の生育不良」→「収穫量減少」→「食卓の価格上昇」という何ヶ月もかかる連鎖で、被害が明らかになる頃には手遅れになっている可能性があります。1970年代の石油危機との対比で「見える危機」と「見えない危機」の違いが指摘されているのです。

4️⃣ 供給網の重心が東南アジアへ移動する構造変化
これも今回の情勢の特筆すべき点です。従来ロシア・カタール・サウジアラビアなど天然ガス産出国が中心だった世界の窒素肥料供給は、2022年ウクライナ危機と2026年ホルムズ危機を経て、東南アジア(インドネシア・マレーシア・ブルネイ・ベトナム)が新拠点として台頭しています。詳細はQ7・Q11をご覧ください。

Q
世界の他の国はどう対応していますか?
A

世界各国が「肥料の獲得競争」に動いています。それぞれ独自の対応をとっています。

🇦🇺 オーストラリア:Pupuk Indonesiaと政府間契約(G-to-G)で250,000トンの尿素供給を確保。既に47,250トンをブリスベン港に受け入れました。豪州の綿花・小麦・果物・野菜生産(Queensland・New South Wales)に振り分けられています。豪州の年間尿素需要は約3.7百万トンです。

🇮🇳 インド:Pupuk Indonesiaに500,000トンの輸入希望を表明。世界最大級の肥料補助金国家として、湾岸諸国からの調達が困難になる中、東南アジア産への需要集中を強めています。

🇧🇩 バングラデシュ・🇵🇭 フィリピン・🇹🇭 タイ・🇧🇷 ブラジル:Pupuk Indonesiaと交渉中。各国とも中東ルートに依存していたため、代替供給網の確保を急いでいます。

🇨🇳 中国:自国のリン酸肥料の輸出を暫緩し、国内の食料安全保障を最優先。ただし尿素については引き続き輸出を続けており、日本の代替候補にもなっています。

🇰🇷 韓国:日本と同様にマレーシア・中東依存だったが、Pupuk Indonesiaや他ASEANからの調達を模索。

🌐 供給地図が書き換わる世界的な動き
従来の窒素肥料供給の中心(ロシア・カタール・サウジアラビア・エジプト・ナイジェリア)に加えて、今回の情勢を機に東南アジアが新拠点として台頭。SEAFA(東南アジア肥料連合)の結成、Pupuk Indonesiaの対豪G-to-Gなど、地政学的重心の移動が進んでいます。日本もこの新供給網に参加できるかが、中期的な食料安定確保の鍵です。詳細な生産構造はQ7でご確認ください。
Q
これから何が起こる?私たちにできることは?
A

短期(2026年秋まで):日本の秋の作付けは6月時点で調達めどが立っているため、スーパーの棚から果物や野菜が急に消える事態は想定されていません。ただし、バナナ・キウイ・アボカドなど輸入果実の追熟工程は7月時点でも苦労が続いており、一部の店頭で在庫調整や価格上昇が起こる可能性があります。

中期(2026年冬〜2027年春):世界銀行が「2026年通年で肥料価格が31%、尿素は60%上昇する可能性」と予測しており、この影響は数か月遅れて日本の食料品価格に反映される見通しです。特に、肥料コスト上昇分を農家が吸収しきれない場合、2027年春以降の食料品全般に価格転嫁が広がる可能性があります。

長期(2027年以降):日本農業の構造改革が焦点となります。輸入依存からの脱却、下水処理からのリン回収技術の標準化、畜産の過剰堆肥と耕作地の不足をつなぐデジタルプラットフォーム、IoT精密施肥で使用量30〜50%削減など、複数の取り組みが進行しています。「日本農業の自立化」が、政府と業界の共通課題です。

🌱 私たち一般消費者にできる3つのこと
1️⃣ 食品ロスを減らす:バナナや果物の値段が上がる状況では、買ったものを最後まで食べきる意識が今まで以上に重要になります。冷蔵庫の中を定期的に確認する習慣を身につけましょう。

2️⃣ 日本産の農産物を意識的に選ぶ:国産の果物・野菜も輸入肥料に依存していますが、輸送コスト・追熟工程のリスクは相対的に小さくなります。また、日本の農家を支援することで国内農業の維持にも貢献できます。

3️⃣ 農業と食料安全保障に関心を持つ:この記事のようなニュースの背景を理解することで、政策の議論や選挙での判断材料にすることができます。「食料安全保障」は防衛や経済安全保障と同じくらい国家の基盤であり、私たちの毎日の食卓を守るテーマです。

「食卓の異変」は、遠い中東の情勢が糸のようにつながって届いた結果です。私たちが享受してきた「豊かな食卓」が、実は国際情勢と物流の細い糸の上に成り立っていたことを、今回の情勢は突きつけています。この記事が、ニュースを深く理解するきっかけになれば嬉しく思います。

よく出てくる言葉のミニ辞典

尿素(にょうそ)
窒素46%を含む、農業で最も重要な肥料の一つ。天然ガスからアンモニアを作り、それに二酸化炭素を反応させて製造します。日本は97%を輸入しており、うち7割がマレーシアからです。
ホルムズ海峡
イランとオマーンの間にある、最狭部の幅約34kmの狭い海の道。世界の石油の約20%、LNGの約20%、肥料の約3分の1がここを通ります。日本の原油輸入の9割がホルムズ経由です。
エチレンガス
植物が果実成熟時に自然に放出するホルモン(化学式C₂H₄)を、工業的に大量生産したもの。バナナ・キウイ・アボカドなど、青い状態で輸入する果物を黄色く追熟するのに不可欠です。原料は石油(ナフサ)です。
追熟(ついじゅく)
収穫した後の果物を、時間をかけて食べごろの状態に変化させること。バナナは加工室で数日間エチレンガスに包まれて追熟され、果皮が緑から黄色に変わり、デンプンが糖に変化して甘みが増します。
クライマクテリック型果実
収穫後もエチレンガスを放出しながら熟していく果実のこと。バナナ・メロン・りんご・洋梨・マンゴー・キウイ・アボカドなどが該当します。工業用エチレンで追熟をコントロールできる特徴があります。
ペトロナス(PETRONAS)
マレーシアの国営石油会社。主要生産拠点は天然ガス産出地のケダー州グルンとサラワク州ビントゥル。日本の尿素輸入の7割以上を供給する重要なパートナーで、JA全農との間で長年の契約関係があります。
Pupuk Indonesia(ププック・インドネシア)
インドネシア政府の国営肥料会社。正式名称はPT Pupuk Indonesia (Persero)。年間14.8百万トンの生産能力を持ち、アジア太平洋・中東・北アフリカ地域で最大の尿素生産者。子会社のPupuk Kaltim(Bontang)が主力です。中東の代替供給源として2026年から世界の注目を集めています。
JA全農
全国農業協同組合連合会。日本の農家に肥料や資材を供給する、JAグループの中心組織です。ペトロナスとの間で2年ごとに尿素の長期契約を結んでいます。
G-to-G(政府間契約)
Government to Governmentの略で、国と国とが直接結ぶ取引契約のこと。民間契約より安定した供給と価格の確保が期待できます。Pupuk Indonesiaと豪州の間で結ばれた250,000トンの尿素供給契約が代表例です。
ナフサ
原油を蒸留して得られる石油製品の一種。プラスチックや化学製品、そしてエチレンガスなど幅広い工業製品の原料になります。日本はナフサの約70%を中東から輸入しており、化学品供給の要となる原料です。
DAP・MAP
リン酸肥料の代表的な種類。DAP(Diammonium Phosphate、リン酸二アンモニウム)、MAP(Monoammonium Phosphate、リン酸一アンモニウム)。日本はリン酸肥料の約70%を中国から輸入していますが、中国が2025年12月に輸出を暫緩したことで供給不安が高まっています。
硫黄
硫安(硫酸アンモニウム)・過リン酸石灰などの肥料原料。世界の海上硫黄貿易量の約半分がカタール・クウェートなど中東湾岸から供給されます。国際契約価格は前年比+230%と大きく上昇。カナダ産オイルサンド由来への切替が代替候補です。
14項目MOU(イスラマバード覚書)
2026年6月17日に発効した、米国とイランの間で結ばれた停戦・ホルムズ通航正常化などを含む合意文書。パキスタンのイスラマバードで交渉が進められたことからこの名前がつきました。しかし7月12日のIRGC(イラン革命防衛隊)による商船攻撃で効力停止となり、開戦以来4回目のホルムズ閉鎖に至りました。
IRGC(イラン革命防衛隊)
Islamic Revolutionary Guard Corpsの略。イランの軍事・政治組織で、正規軍とは別に最高指導者直属で運営される特殊組織。ホルムズ海峡の航路管理を主張し、通航規則違反と見なした船舶への攻撃を実施しています。
SEAFA(東南アジア肥料連合)
South East Asia Fertilizer Alliance。2026年にインドネシア・マレーシア・ブルネイを中心に結成された、東南アジアの肥料生産・供給協力の枠組み。中東依存からアジア圏内相互補完への転換を象徴する動きです。
世界銀行 Pink Sheet
世界銀行が毎月発表する商品価格集計。「ピンクシート」と呼ばれ、原油・天然ガス・肥料・食糧・金属など主要コモディティの月次価格を掲載します。国際的な価格基準として広く参照されており、尿素の月次価格もここから引用されます。

この記事の情報源

  1. 農林水産省「肥料をめぐる情勢」(令和8年4月版)/「肥料の価格情報」(令和8年6月26日更新)
  2. 首相官邸「中東情勢に関する関係閣僚会議(第7回)」(2026年5月12日)
  3. 国土交通省 金子恭之国土交通大臣 記者会見(2026年7月10日)
  4. 中日新聞(共同通信)・日本農業新聞「尿素の安定供給継続を確認 鈴木農相、マレーシア訪問」(2026年5月1日)
  5. NHK「肥料の主原料『尿素』の輸入価格17%上昇 イラン情勢影響で」(2026年4月28日)
  6. 日本経済新聞「青いバナナに真っ青 青果流通、エチレンガス調達難で『追熟』苦労続く」(2026年6月26日)
  7. 日本経済新聞「肥料高/エチレン設備稼働率/ナフサ動向」関連統合報道(2026年4月〜7月)
  8. テレビ朝日系ANN「黄色く熟成できないバナナ出荷停止の恐れ」(2026年5月5日13:09放映)
  9. RKB毎日放送 フレッシュ・デルモンテ・ジャパン九州営業所 石川裕二郎所長発言(2026年4月22日)
  10. Trading Economics 尿素価格チャート(2026年6月26日更新)
  11. 世界銀行 Pink Sheet /FPTrendy「ホルムズ海峡封鎖で尿素価格上昇」(2026年4月29日)
  12. ANTARA News「Indonesia in talks with India, Bangladesh on fertilizer exports」(2026年6月26日)
  13. Jakarta Post「Indonesia's urea export to Australia boosts Indo-Pacific food security」(2026年6月26日)
  14. Jakarta Globe「Indonesia Sees Fertilizer Export Opportunity Amid Hormuz Tension」(2026年3月13日)
  15. Argus Media「Indonesia approves urea export licences for 2026」(2026年1月15日)
  16. OPOR株式会社/SunSirs 中国リン酸肥料輸出暫緩関連報道(2025年12月)
  17. IFA Weekly Report/SunSirs 硫黄国際契約価格関連(2026年)
  18. JIRCAS(国際農林水産業研究センター)/笹川平和財団/農研機構 一次研究資料
  19. ニューズウィーク日本版「ホルムズ海峡封鎖、石油危機より怖い『肥料ショック』」(2026年3月14日)
  20. 本記事は当社発行の専門版「2026年尿素・肥料の転換点7月版」を、一般読者向けに書き直したやさしく解説シリーズです。
※本記事の内容は時点で公開されている一次資料および公的機関・主要報道機関の情報に基づいて作成しています。
※本記事は一般の読者に向けて、専門的な内容を分かりやすくお伝えする目的で書かれています。より詳しい数値・分析については、当社発行の専門版記事をあわせてご覧ください。
※中東情勢は流動的に推移する可能性があり、実務上の意思決定に際しては複数の情報源による最新状況の確認をおすすめします。
※本記事の内容は情報提供を目的としており、投資判断・調達判断・具体的な事業行動を勧奨するものではありません。
※数値・固有名詞は公表時点の公式資料に基づきますが、状況変化を踏まえ最新情報のご確認をお願いいたします。
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