📞 050-3470-4265 受付 9:00-20:00(日・祝休)
無料お見積り ›
【2026年5月最新】有事下の「アジア石化連盟」崩壊と再編:日系合弁メーカーの生存戦略

【2026年5月最新】有事下の「アジア石化連盟」崩壊と再編
日系合弁メーカーの生存戦略

公開 / 最終更新日時
▌ ANSWER BLOCK 2026年5月18日、ホルムズ封鎖から3か月。米イラン1ページMOU協議継続、米軍プロジェクト・フリーダム5/5停止。出光丸4/28通過、三菱ケミカルがサウジMMAを4月休止(180億円下振れ)、旭化成は5/12水島SM・LDPE・HDPEの2030年終了を発表。国内12基中6基減産、ナフサ1,043ドル/MT・116,858円/kL(5/16)。

2026年3月、中東情勢の激化に伴うホルムズ海峡の事実上の封鎖は、アジアの石油化学産業に壊滅的な打撃を与えました。原油・ナフサ供給の約9割を中東に依存する日系メーカーにとって、これは単なるコスト増ではなく「原料の物理的途絶」を意味します。封鎖開始から3か月が経過した5月18日時点、米イラン停戦協議の進展と物流正常化は別の時間軸で動いており、現場では「届かない」から「高すぎる」へとフェーズが移行しつつあります。

5月18日時点:ホルムズ「条件付き通航」フェーズへ 4月5日公開時点では「ホルムズ海峡封鎖」と単純に整理していましたが、5月時点ではより複雑化しています。米イランは「1ページのMOU(覚書)」合意に最接近と米当局者が示唆する一方、米軍の船舶誘導作戦「プロジェクト・フリーダム」は5月5日にわずか48時間で一時停止。5月7日時点で約1,600隻超・23,000人の船員がペルシャ湾内で立ち往生しています(ジェトロ・global-scm.com)。さらに5月5日、イランは独自の通航管理機関PGSA(Persian Gulf Strait Authority)を設立し、一部船舶は最大200万ドル相当の通航料を人民元で支払い済みと報じられました。「停戦交渉の進展」と「ホルムズ物流の正常化」は別軸で動いており、これらを混同したまま調達・物流の意思決定を行うことが現時点で最大のリスクとなっています。
BRENT原油
80〜100 USD/bbl
▲ 封鎖前65ドル比で乱高下
2026-05 大阪ガス/Daigas
国産ナフサ価格指標
116,858 円/kL
▲ 4-6月期は1-3月比で2倍弱
2026-05-16 大景化学/日経
ナフサ スポット
1,043 USD/MT
▲ 為替158.45円/$
2026-05-16 大景化学

◎ 4月5日以降の主要情勢タイムライン(〜5月18日)

2026-04-05(本記事初版)
IMFデータ:ホルムズ海峡通航船舶9隻(昨年同時期比1割弱)。
2026-04-08
米・イラン2週間停戦合意。ブレント原油が一時94.41ドルに下落。ホルムズの安全な通航が2週間可能に。
2026-04-09
イスラエルのレバノン攻撃に反発しイランが再度封鎖を表明。原油先物97.87ドルに反発。
2026-04-11
米イラン停戦協議が正式開始。以降5月時点まで協議継続も両国の溝は埋まらず。
2026-04-13
CENTCOM、イラン港湾発着船舶を対象に海上封鎖を正式発動。6隻が引き返しを命じられる。WTI 104.24ドル・ブレント 102.29ドルに急騰。
2026-04-15
日本政府、石油備蓄法に基づく第2段階放出を決定(出光興産含む元売り4社向け)。柏崎刈羽原発6号機が4/16商業運転開始(LNG輸入年110万トン削減見込み)。
2026-04-23〜24
ブレント原油が105〜106ドル台で高止まり継続。
2026-04-28
出光興産の大型タンカー「出光丸」がホルムズ海峡を通過。2月末からペルシャ湾で約2か月足止めされていた船舶。200万バレルのサウジアラビア産原油(ジュアイマ積出港積載)を満載しオマーン湾の公海へ。日本政府高官は「日本政府が交渉していた成果」、イラン革命防衛隊系タスニム通信は「イラン側との調整の上で通過」と報道。日経・実業之日本フォーラムは「全船開放を意味しない、出光固有の対イラン関係」と分析。
2026-05-02
太陽石油がサハリン2産原油をスポット調達(封鎖後初のロシア産原油受入れ)。高市首相は5月分原油需要の約60%を海峡を経由しないルートで確保、不足分を米国産で補うと表明。
2026-05-04
UAEフジャイラ石油工業地帯が被弾、Abu Dhabi Crude Oil Pipeline(ADCOP)の終点が標的に。ホルムズ迂回ルートも被害を受け、「二者択一」の前提が崩壊。
2026-05-05
トランプ大統領、米軍の船舶誘導作戦「プロジェクト・フリーダム」を一時停止と発表(トゥルース・ソーシャル)。同日、イランが独自の通航管理機関PGSA(Persian Gulf Strait Authority)を設立。Lloyd's Listによれば一部船舶は最大200万ドル相当の通航料を人民元で支払い済み。
2026-05-06〜07
米・イランが「1ページ・14項目」の覚書(ウラン濃縮一時停止、制裁解除、ホルムズ通航制限の相互解除を盛り込み)について最終合意間近とAxios報道。5月7日時点で約1,600隻超・23,000人の船員がペルシャ湾内で立ち往生。
2026-05-12
旭化成、水島製造所の石化事業縮小を正式発表。SM・LDPE・HDPE 2030年度生産終了。同日、三井化学・三菱ケミカルとの西日本エチレンJV出資比率を三井45%・三菱45%・旭化成10%で正式合意、AMEC水島→大阪OPC集約が確定。
2026-05-13
三菱ケミカルG決算発表:27年3月期に約180億円の下振れリスク(うちMMA関連100億円)。サウジアラビアのMMA主力生産拠点が4月から生産休止と明らかに。
2026-05-15〜16
国産ナフサ価格指標が1,043ドル/MT、116,858円/kLに到達(為替158.45円/$)。塩ビ樹脂が1年8か月ぶり値上がり、おかめ納豆15%値上げ、花王アタック・紙おむつ・三州瓦最大25%等、消費財値上げが本格化。

アジア主要日系合弁メーカーの稼働・経営状況(社別詳細)

アジア全域でFM宣言の連鎖が川下へ拡大 台湾フォルモサ・プラスチックスが4月1日付でエチレン下流の複数製品についてFMを宣言、さらにMMA(メタクリル酸メチル)・アクリル酸製品へと不可抗力宣言の連鎖が川下へ拡大。インドでは3月のPVC国内価格が78%急騰し、スポット市場の機能不全が深刻化。以下の各社もこうしたアジア全体のサプライチェーン混乱の中で対応を迫られています。

1.1 ギソン(ンギーソン)製油所・石油化学(NSRP)/ベトナム

🔧 原記事の訂正:出資比率の記載不足 正確な出資比率は以下のとおりです(Oil & Gas Journal 一次資料):

クウェート石油ヨーロッパ(KPE):35.1%出光興産:35.1%ペトロベトナム:25.1%三井化学:4.7%
🔧 5月18日訂正:NSRPの操業状況(公式声明に基づく) 本記事4月5日初版および4月27日更新版では「NSRPがPP生産でフォースマジュールを宣言」と記載していましたが、NSRP公式声明(2026年3月25日付)では「フォースマジュール宣言」ではなく「操業継続確保」が表明されています。正確な内容は以下のとおりです:

・3月中旬にクウェートからの最終便を受領後、ホルムズ海峡通過の遅延により追加供給が一時的に制限
・代替原料調達を迅速に実施し、3月は最大稼働を維持
5月末まで最適稼働で操業継続に必要な原油を確保済み
・2026年通年で約1,250万トンの原油輸入、約900万トンの石油製品をベトナム市場供給予定
  • NSRPはクウェート産原油(KEC)を主要原料とする設計で、ホルムズ海峡封鎖の影響を直接的に受ける構造
  • 代替原油調達については封鎖前の2026年2月時点からすでに米国産WTI・アブダビ産Das・カタール産Al-Shaheenの購入実績があり(Argus Media)、一定の調達多様化が進んでいた
  • ベトナム政府はエネルギー安全保障の観点からNSRPを最優先支援対象としており、Dung Quat製油所が定格能力の120%で稼働してNSRPを補完
  • ベトナム首相は3月、Thanh Hoa(NSRP所在地)に戦略燃料備蓄を建設する方針を国際パートナーと協議開始
NSRP:6月以降の追加調達が課題 5月末まで稼働は確保されているものの、6月以降のホルムズ通過再開状況が不透明で追加調達は引き続き課題。NSRPは4月29日付で1万トンの燃料油スポット販売計画(5月10〜12日納入)、4月26日付でガソリンRON95最大4万kLのスポット販売を案内するなど、限定的な売り余地を活用しています。

1.2 ペトロケミカル・コーポレーション・オブ・シンガポール(PCS)/シンガポール

  • 出資構成:住友化学、シェル、シンガポール政府系など
  • 住友化学は2026年3月末にエチレン・派生製品のフォースマジュールを宣言
  • 現在は最低維持稼働率(約65%)まで出力を低下中。60%を下回ると蒸気バランス崩れ・コンプレッサーのサージングリスクが高まり「シャットダウン」を選択せざるを得ない境界線となる
  • 5月13日決算発表によれば住友化学は27年3月期純利益15%増を予想、農薬販売増や石化市況好転を見込むも、PCS拠点の本格回復目処は未定

1.3 PTTフェノールおよび関連合弁 / タイ

  • 出資構成:三井化学、PTT Global Chemical (PTTGC)
  • ナフサスポット価格高騰による「逆ざや」での減産が継続
タイの個別通航交渉 タイは東南アジア諸国の中でイランと個別の通航許可交渉を行っているとBloomberg(4月6日)が報道。これが事実であればタイ経由の原料調達に一定の緩和余地が生まれる可能性があるものの、三井化学のタイ合弁への直接的影響については引き続き確認中。

1.4 Pengerang Refining and Petrochemical(PRefChem)/ マレーシア

  • 出資構成:ペトロナス50%、サウジアラムコ50%(ENEOS等が原料・製品連携)
  • 処理能力:300,000バレル/日の製油所と1.2百万トン/年のスチームクラッカー、3.4百万トン/年の石化能力
  • サウジアラムコからの原油供給途絶により3月中旬にシャットダウン
🔧 5月18日訂正:PrefChemの停止延長に関する記述 本記事4月27日更新版で「停止延長5月末まで確定」と記載していましたが、この具体的日付は一次ソースで裏付けが取れませんでした。確認できる事実は以下のとおりです:

・PRefChemはサウジアラムコからの原油供給途絶により3月中旬にシャットダウン
・5月18日時点で運転再開時期は公式に発表されていない
・日系企業がPRefChemから引き受けていた派生石化製品のサプライチェーンは寸断状態が継続

三菱ケミカルグループ:アジア拠点の構造改革と「サウジMMA休止」の衝撃

三菱ケミカルは、中東情勢の緊迫化を予見するかのように2026年に入りアジア全域での「アセットライト(資産軽量化)」を加速させてきましたが、5月13日の決算発表でサウジアラビアのMMA主力生産拠点が4月から生産休止に追い込まれている事実が新たに開示されました。

🆕 5月13日新事実:サウジMMA拠点が4月から生産休止 三菱ケミカルグループは5月13日の26年3月期決算説明会で、サウジアラビアにあるアクリル樹脂原料MMA(メタクリル酸メチル)の主力生産拠点が、ホルムズ海峡封鎖に伴う出荷停滞を理由に4月から生産を一時休止していると明らかにしました。木田稔CFOは「原料が全く入ってこないようなことは想定しなくても良さそう」としつつ「自社製品以外の原料調達難にさらされている顧客が散見され、それに伴って自社の製品も納品量が減ってしまうサプライチェーン由来の問題が下振れ要因の大きな部分を占める」と説明。27年3月期コア営業利益3,050億円予想に対し、足元情勢が9月末まで継続する場合に約180億円の下振れリスクを想定。うちMMA&デリバティブズ事業が約100億円を占めます。26年3月期通期純利益は前期比73.7%減の118億円となり、筑本学社長らは月額報酬の20%を6か月自主返納を決定しました。
三菱ケミカルの国内動向 アジア拠点の再編と並行して、三菱ケミカル鹿島(茨城県神栖市、年産48万5,000トン)は3月6日から減産を継続中であり、5月からの定期修理の変更もない。国内能力の8%を占める設備が減産中のまま定修に入るため、5月の国内供給はさらに逼迫。三菱ケミカルは3月17日〜4月1日にかけて7件以上の個別値上げを発表(アクリル酸製品+40円/kg以上、スパンデックス原料+165円/kg以上、食品包装フィルム+20%以上など)。5月15日にはレゾナックとともに食品添加物の値上げを発表しました。

2.1 Kaohsiung Monomer Company(KMC)/ 台湾

  • 2026年4月1日付で合弁解消:保有するKMCの全株式を合弁相手の中石化開発(CPDC)に譲渡。台湾市場からの事実上の撤退
  • 原料MMAの市況悪化+中東発のエネルギーコスト増が撤退判断の背景

2.2 PT Mitsubishi Chemical Indonesia(MCCI)/ インドネシア

  • 高純度テレフタル酸(PTA)ラインの無期限停止を検討中
  • 採算の取れない汎用品の生産停止と高機能製品へのライン転換または拠点集約を検討

2.3 寧波三菱化学 / 中国

  • 中国勢による自給率向上によるマージン圧縮に加え、有事によるナフサ価格上昇が決定打
  • 汎用石化事業から順次撤退し、スペシャリティケミカル(高機能フィルム等)へ経営資源を集中させる方針を明確化

2.4 中長期戦略:原料転換とケミカルリサイクル前倒し

三菱ケミカルの筑本学社長は5月13日決算会見で、中長期対応としてケミカルリサイクル推進、アブダビ首長国でのグリーン水素活用バイオメタノール製造、日本航空らとのSAF検討、日本産木材活用などを具体化する方針を表明。三菱・三井・住友の3社が廃プラスチック油化プラントの商用稼働を数か月〜半年前倒しする検討に入っています(化学工業日報 4/15)。


2026年5月時点:インドネシアのエチレン・プロピレンプラント稼働状況

Lotte Chemical Indonesia(LCI)

🔧 原記事の訂正:投資額の桁違い 投資総額は39億5,000万ドル(USD 3.95 billion)の投資です。生産能力は公式資料(Jakarta Globe・Lotte公式)によるとナフサ処理能力3,200KTA、エチレン1,000KTA、プロピレン520KTA、Mixed C4 320KTA、パイロリシスガソリン675KTA、水素45KTAであり、原料の最大50%をLPGで代替可能。商業運転開始は2025年10月(試運転後)、11月7日にプラボウォ大統領出席の竣工式
  • 場所:インドネシア・バンテン州チレゴン(敷地面積110ヘクタール)
  • 生産能力:ナフサ処理3,200KTA、エチレン1,000KTA、プロピレン520KTA、Mixed C4 320KTA、パイロリシスガソリン675KTA、水素45KTA
  • 混合フィードクラッカーを採用、原料の最大50%をLPGで代替可能
  • 隣接するLotte Chemical Titan Nusantara(LCTN、PE 45万トン)へパイプラインで直接エチレン供給(垂直統合)
  • インドネシアの石化輸入を年間14億ドル削減見込み(Bahlilエネルギー鉱物資源相)
  • 2026年3月21日:2027年1月〜12月納入分のLPG(月間46,000トン)の入札を開始済み(攻勢継続)

シンガポールのPCS(最低稼働率デッドライン)やマレーシアのPRefChem(再開未定)とは対照的に、LCIは5月18日時点も推計90%以上の稼働率を維持し、アジアで最も安定した供給源の一つ。「Making Indonesia 4.0」という国策に守られ、有事下で「勝ち組」のポジションを固めつつあります。

チャンドラ・アスリグループ

  • 2026年3月初旬、ホルムズ海峡封鎖によるナフサ調達寸断を理由にFM(フォースマジュール)を宣言
  • 同社は「FMはリスク管理上の予防措置であり、必ずしも操業停止を意味しない」と説明。契約上の供給義務は免除された状態が継続
  • 稼働率を「選択的に調整(抑制)」しながら操業を維持
FM常態化と選択的増産 FM宣言は「解除」されておらず「常態化」しつつある。一方でMTBEおよびブテン-1のプラント生産能力を25%増強し輸入代替を加速。オレフィン(エチレン・プロピレン)については依然として輸入ナフサへの依存度が高いため、FM対象のまま供給制限が継続中。限られた原料を国内の戦略的顧客へ優先配分する「守りの経営」にシフトしています。

日本国内エチレン産業の最新状況:旭化成水島5/12発表の衝撃

🆕 5月12日新事実:旭化成、水島SM・LDPE・HDPEの2030年生産終了を正式発表 旭化成は5月12日、水島製造所のスチレンモノマー(SM、1965年操業開始)、低密度ポリエチレン(LDPE、1964年操業開始)、高密度ポリエチレン(HDPE、1970年操業開始)の生産を2030年度を目途に終了することを正式決議。SMは国内需要約35%、LDPE約10%、HDPE約17%のシェアを持つ基幹品目です。同日、三井化学・三菱ケミカルとの西日本エチレンJV出資比率を三井化学45%・三菱ケミカル45%・旭化成10%とすることで合意し、2030年度を目途に水島AMECのエチレン製造設備を停止し大阪石油化学(OPC、堺市)の設備に集約することが確定しました。統合後の3社エチレン年間生産能力は95.1万トンから45.5万トンへ52%減となり、投資規模212億円のうち104億円を補助金で賄います。アクリロニトリル(AN、1962年操業開始)も水島の年20万トンラインを停止、ポリカーボネートジオール(PCD)も水島での年3,000トン相当の生産を停止し、それぞれ韓国子会社・中国子会社などに供給機能をシフト。2034年からは旭化成のRevolefin™技術を用いてバイオエタノール由来の低炭素エチレン・プロピレンを共同商業生産することも確定しています。
国内エチレン設備の現状 国内12基のエチレン設備中6基が減産継続中(5月時点)、フル稼働は3基のみ。
減産継続中の設備:三菱ケミカル鹿島(3/6〜)、三井化学千葉・大阪(3/10〜)、AMEC水島=旭化成・三菱ケミカル共同運営(3/11〜)、出光興産千葉・徳山(3/16〜)。旭化成工藤社長は5月12日の会見で「ナフサクラッカーは損益分岐となる90%稼働を44か月連続で下回り、直近は70%台にとどまっている」と発言。協会が好不況の目安とする90%を44か月連続で下回る異常事態となっています。

主要企業の個別対応

  • 旭化成(工藤社長 5/12発言):国内ナフサ調達は「6月末までのめどが立った」。中東外からの購入を増やすことで対応。価格は「倍近い高騰」と認める。AMEC水島工場のエチレン製造設備と関連誘導品設備は5/12時点で稼働継続。当面のナフサ調達めど付き、誘導品も当面供給滞らない見通し。
  • 旭化成(値上げ):4月1日出荷分からポリエチレン(PE)を1kg当たり120円以上値上げ、合成ゴム全品を+160円/kg以上値上げ。
  • 三菱ケミカルG(5/13決算):27年3月期純利益1,270億円予想(前期比10.7倍)も中東影響180億円下振れリスク。サウジMMA拠点4月から生産休止。
  • 住友化学(5/13決算):27年3月期純利益15%増を予想。農薬販売増や石化市況好転で。
  • 東レ:3月31日に合成繊維全品目を緊急値上げ(ナイロン+100円/kg以上、ポリエステル+50円/kg以上、アクリル+110円/kg以上)。サーチャージ制度を導入し価格転嫁期間を従来の3〜6か月から1か月以内に短縮。
  • 日本ペイント(5/15発言):「シンナーの供給責任果たせている」とした上で再値上げを検討中
  • 消費財メーカー連鎖値上げ(5/15時点):塩ビ樹脂が1年8か月ぶり値上がり、おかめ納豆15%値上げ、花王アタック26年夏値上げ、ユニ・チャーム・大王製紙の紙おむつ26年夏値上げ、三州瓦最大25%値上げ、三菱ケミカルG・レゾナック食品添加物値上げ。

ナフサ代替調達の最前線

高市首相は5月、原油需要の5月分約60%を海峡を経由しないルートで確保、不足分を主に米国産で補うと表明。米シェブロン手配のギリシャ船籍タンカーが米国産原油91万バレルをパナマ運河経由で日本に届けました。5月2日には太陽石油がサハリン2産原油をスポット調達(封鎖後初のロシア産受入れ)。日本政府は3月16日から国家備蓄原油1か月分(約850万キロリットル)の放出を決定し、IEA加盟国による合計4億バレル超のIEA史上最大規模の協調放出も実施済み。5月上旬以降、新たに国家備蓄原油約20日分を追加放出する方針も示されています。ただし米国湾岸から日本への輸送日数は35〜45日で、中東ルート(15〜20日)の2倍かかるため補充サイクルが延びており、非中東の倍増だけでは中東分(調達量の4割超)の穴は埋まりきらず、6基の減産継続に反映されています。


アジア各国エチレン・プロピレンプラント稼働状況(2026年5月18日現在)

主要メーカー 2026年5月18日時点のステータス
シンガポール PCS(住友化学) FM継続(最低稼働率約65%付近)。再開目処未公表
ベトナム NSRP(出光・三井化学) 5月末まで操業確保(公式声明)。代替原料調達で対応。6月以降は要追加調達
マレーシア PRefChem(ペトロナス・アラムコ) 3月中旬シャットダウン継続。5/18時点で再開未発表
サウジアラビア 三菱ケミカルMMA拠点 4月から生産休止(5/13決算で開示)
台湾 CPC(台湾中油) 林園クラッカー再起動・国策的増産継続
台湾 三菱ケミカルKMC 4/1合弁解消・CPDCに譲渡(撤退)
インドネシア Lotte Chemical Indonesia 高稼働維持(推計90%以上)。LPG調達で攻勢強化
インドネシア チャンドラ・アスリ FM継続・選択的稼働調整。MTBE増産で輸入代替加速
日本 三菱・三井・出光・旭化成等 12基中6基減産継続、フル稼働3基のみ。旭化成5/12水島SM・LDPE・HDPE 2030年生産終了発表

2026年後半に向けた展望:シナリオ別分岐(5月18日改訂版)

SCENARIO A ─ 標準シナリオ
5月下旬〜6月にMOU合意・段階的正常化
米イラン「1ページMOU」が成立し制裁解除とホルムズ通航制限の相互解除が実現。ただし機雷除去に約6か月(米国防総省試算)、Hapag-Lloydは「停戦維持でもネットワーク完全回復に6〜8週間」。物流完全正常化は2026年後半、ナフサ価格は700〜800ドル/MT台に緩和見込み。
SCENARIO B ─ 現実シナリオ
条件付き通航の長期化・部分的緩和
大阪ガス分析:「5月中にある程度終結のメドがたつ」も湾岸産油国の油田・精製・積出施設の本格回復には6か月〜1年必要。出光丸方式の「個別交渉による通過」が常態化、UAEのOPEC脱退・PGSAの通航料徴収など秩序の流動化が続く。原油は80〜100ドルで乱高下、ナフサは1,000ドル/MT台のニューノーマル化。
SCENARIO C ─ リスクシナリオ
MOU決裂・エスカレーション
5月6日トランプ大統領警告:合意不調なら「これまでを上回る規模で軍事攻撃を再開」。Goldman Sachs試算では最悪ケースで150ドル超のリスク。5月4日のフジャイラ被弾でADCOP迂回ルートも被害、JBpress(SMBC日興)分析:早ければ4〜6月期、遅くとも7〜9月期に生産活動へ下振れ圧力が本格顕現化。ナフサ民間備蓄(約20日分)の構造的脆弱性により、石化各社は8月にも深刻な原料不足リスク。

主要な変化のポイント(5月18日時点)

  • 「停戦交渉進展」≠「物流正常化」:米イランMOU協議は最接近も、機雷除去・保険再開・船舶手配・港湾処理・安全確認に数か月〜半年。停戦合意だけでは石化原料の物理供給は戻らない。
  • 「届かない」から「高すぎる」へ完全移行:国内では4月1日以降の各社大型値上げが消費財まで波及。塩ビ樹脂が1年8か月ぶり値上がり、紙おむつ・洗剤・食品添加物・納豆まで連鎖。ナフサ危機は「現物確保」から「コスト転嫁可否」の第二フェーズに完全移行。
  • 国内石化事業の構造的撤退が加速:旭化成水島SM・LDPE・HDPE 2030年終了、西日本エチレンJV正式合意で能力52%減確定。三菱ケミカルもサウジMMA停止+台湾撤退+中国・インドネシア縮小。「短期需給とは切り離した中長期判断」(旭化成)として国内石化のリストラが進む。
  • 個別交渉の常態化と国際協調の希薄化:出光丸4/28通過はイラン側との「調整」で実現、タイ・フィリピン・マレーシアもイランと個別通航交渉。PGSA通航料人民元支払いも一部船舶で発生し、UNCLOS体制と並存する非対称的秩序が形成中。
  • 半導体・建材サプライチェーンへの波及:日本のフォトレジスト関連メーカーがSamsung・SK hynixにPGME・PGMEAの原料確保困難を通知(4/26 Cloud News)。ナフサ由来のプロピレンオキサイドを起点に川下の半導体製造材料まで影響。住宅では断熱材40%・シンナー75%値上げが進行。
  • バイオナフサ・ケミカルリサイクルの前倒し商用化:三菱・三井・住友が廃プラスチック油化プラントの商用稼働を数か月〜半年前倒し検討。旭化成は2034年からRevolefin™技術でバイオエタノール由来エチレン・プロピレンの共同商業生産確定。

結論:2026年後半のキーワードは「断絶」と「自立」

アジア石化連盟という緩やかな協力体制は崩壊し、2026年後半は「自国で原料を確保できるか(自立)」、あるいは「高価格でも売れる高機能品に特化できるか(断絶)」を問われる過酷な半年間となります。

5月18日現在、ホルムズ海峡は「全面封鎖でも全面開放でもない」極めて不安定な状態にあり、「MOU合意間近」「出光丸通過」「プロジェクト・フリーダム一時停止」といった断片的な報道だけで「リスク解消」と判断するのは危険です。プラスチックパレット・包装資材・物流資材の調達においても、樹脂価格の高止まりと納期の長期化は2026年末まで継続する可能性が高く、早期の在庫確保と調達先の多様化が求められます。

主要エビデンス・参照資料

情勢分析・5月最新
  • global-scm.com「ホルムズ海峡危機:情勢と実務リスク」2026年5月7日・5月8日更新版
  • ジェトロ ビジネス短信「トランプ米大統領、ホルムズ海峡船舶通航支援作戦の一時停止を発表」2026年5月8日
  • Reuters「US and Iran closing in on one-page memo to end war」(Axios引用)2026年5月6日
  • Al Jazeera「Has the US accepted Iran's demand to settle Hormuz first, nuclear later?」2026年5月6日
  • 大阪ガス・Daigasエナジー「不透明なホルムズ海峡開放の見通しと日本経済の今後」2026年5月3日
  • Lloyd's List / AGBI「PGSA通航料人民元支払いに関する報道」2026年5月
価格データ・経済指標
  • 大景化学「ナフサ価格推移表」2026年5月16日現在(ナフサ1,043ドル/MT、為替158.45円/$、国産ナフサ価格指標116,858円/kL)
  • 日本経済新聞「国産ナフサ価格、1〜3月ほぼ横ばい 中東危機で4〜6月は2倍弱上昇へ」2026年4月26日
  • 日本経済新聞「ナフサ、イラン軍事衝突で価格高騰 最新ニュース」2026年5月15〜16日
  • おトクらし「2026年5月最新ホルムズ海峡の封鎖はいつまで?」2026年5月13日
三菱ケミカル決算・サウジMMA
  • 日本経済新聞「三菱ケミカルG、中東影響で180億円の営業利益下押しリスク 27年3月期」2026年5月13日
  • ロイター「三菱ケミカル、今期純利益10倍を予想 中東の影響織り込まず」2026年5月13日
  • ITmedia ビジネスオンライン「『中東の影響続けば180億円下振れも』三菱ケミカルを襲った地政学リスク」2026年5月14日
旭化成水島・西日本エチレンJV
  • 旭化成プレスリリース「水島製造所一部誘導品事業再構築を決定」2026年5月12日
  • 日本経済新聞「旭化成、水島の石化事業を30年度めどで縮小 構造不況で再構築」2026年5月12日
  • LOGISTICS TODAY「旭化成、水島の石油化学生産を縮小」2026年5月13日
  • ニュースイッチ「スチレンモノマー撤退…旭化成、水島の製品体制再編」2026年5月14日
  • Japan IR「【旭化成】水島製造所一部誘導品事業再構築を決定|2030年度目途」2026年5月12日
出光丸・ホルムズ通過
  • Bloomberg「日本関連のタンカー『出光丸』、ホルムズ海峡通航試みの可能性」2026年4月28日
  • 日本経済新聞「出光丸がホルムズ通過、イラン衝突後初 日本政府高官『通航料払わず』」2026年4月29日
  • 日本経済新聞「出光はなぜホルムズを通過できたか 濃密な関係づくりが分ける危機管理」2026年5月1日
  • 実業之日本フォーラム「出光丸のホルムズ海峡通過、『成功体験』で終わらせるな」2026年5月
アジア各拠点(一次資料)
  • NSRP公式リリース「Nghi Son refinery sustains full performance and supply assurance through May 2026」2026年3月25日
  • Oil & Gas Journal「NSRP clarifies reports alleging lengthy idling of Vietnam's largest refinery」(NSRP出資比率の一次資料)
  • Argus Media「Vietnam's Nghi Son refinery turns to US, Qatari crudes」2026年2月(NSRPの代替原油調達状況)
  • Jakarta Globe「Lotte Chemical Plant to Cut Indonesia's Petrochemical Imports by $1.4 Billion」2025年11月8日
  • LOTTE Chemical公式リリース「LOTTE Chemical Finalizes Petrochemical Complex in Indonesia」2025年11月7日(LCI公式生産能力・投資額)
  • Businesskorea「Lotte Chemical Indonesia Starts Operations of Naphtha Cracking Center」2025年10月17日
  • Vietnamnet「Two oil-refining giants expect adequate fuel supply in VN amid global conflicts」2026年4月1日
国内石化・連鎖値上げ
  • 日本経済新聞「塩ビ樹脂、1年8カ月ぶり値上がり 中東危機で原料急騰を価格転嫁」2026年5月15日
  • 日本経済新聞「日本ペイント社長『シンナーの供給責任果たせている』再値上げ検討」2026年5月15日
  • 日本経済新聞「三菱ケミカルGやレゾナック、食品添加物を値上げ」2026年5月15日
  • 日本経済新聞「花王、26年夏から洗剤『アタック』など値上げ」2026年5月15日
  • 日本経済新聞「ユニ・チャームや大王製紙、紙おむつ値上げ」2026年5月15日
  • 日本経済新聞「『おかめ納豆』など15%値上げ タカノフーズ、ナフサ高騰で」2026年5月15日
  • LOGISTICS TODAY「エチレン設備、追加停止回避もナフサ価格は2倍」2026年4月
  • Cloud News「日本のフォトレジストメーカーがPGME/PGMEA原料確保困難を通知」2026年4月26日

※本稿は公開情報(報道各社・政府機関・研究機関・企業公表資料)をもとに情報提供を目的として作成しています。ホルムズ海峡をめぐる情勢は日々変化しており、情報は各記載時点のものです。エネルギー調達・経営判断に関する具体的な判断については、各分野の専門家にご相談ください。

PAGE TOP