LLDPE 2026年7月14日最新動静、
ナフサ底値627ドルからの反発局面と7月12日ホルムズ再閉鎖、汎用樹脂統合開始で変わる調達地図
ナフサ6/2 788ドル→6/25底値627ドル/マレーシア産ストレッチ5月末→7月で18%値下げ・サイレージ15%値下げ/ExxonMobil SCP旧型6月恒久閉鎖・Petronas PRefChem 5/25完全所有化・Formosa 6/5 FM解除/7/12 IRGCホルムズ再閉鎖・Brent原油79ドル急騰/7/1プライムポリマー統合開始/4月エチレン稼働率67.3%過去最低
2026年7月14日、LLDPE市場は「6月底値からの反発と7月12日ホルムズ再閉鎖」の複合局面で、値上げ一辺倒から輸入品を中心とした値下げ局面への転換が始まっている。アジア指標ナフサは6/2 788ドル→6/25 627ドル(衝突前632ドル下回る底値、日経報道)と急落。海外メーカーはExxonMobil SCP旧型クラッカー6月恒久閉鎖、Petronas PRefChem 5/25完全所有化、Formosa FM 6/5解除と構造再編局面へ。マレーシア産手巻きストレッチフィルムは5月末→7月で約18%値下げ、サイレージフィルムは5月→7月で約15%値下げを弊社確認。7/12 IRGCがMV GFS Galaxy攻撃で再閉鎖宣言、7/13 Brent原油79ドル急騰で第2波リスク再燃。7/1プライムポリマー統合開始でシェアPP約45%・PE約35%集中、4月国内エチレン稼働率67.3%は1996年統計以来の過去最低。
1 日本国内化学メーカー 最新値上げ・稼働状況+業界再編動向
4月1日納入分から始まった一斉値上げは、6月のナフサ底値局面でも撤回されず、7月時点でも定着している。ただし2026年6月〜7月時点で主要メーカーからの追加値上げ発表はなく、値上げ動向は一旦踊り場に入っている(プライムポリマー・日本ポリエチレン・日本ポリプロの各社ニュース確認)。並行して2026年7月1日に三井化学・出光興産・住友化学のポリオレフィン事業統合が開始し、プライムポリマーの国内シェアはPP約45%・PE約35%へ集中。プライムポリマー発足以来21年ぶりの大型再編と、中東情勢下での価格改定継続が二重局面で進行。7月12日ホルムズ再閉鎖の第2波リスクが、この踊り場を「第3波値上げ」へ押し戻すか、輸入品値下げ波及で「値下げ改定」へ転じるかが、8月中旬期限までの焦点となる。
| メーカー | 対象品目 | 値上げ時期 | 値上げ幅 | 備考・累計動向 |
|---|---|---|---|---|
| プライムポリマー 最大幅 |
PE・PP全品目 | 4/1納入+5/1納入 | +120円/kg | 3/17発表+90円/kg以上、4/21に追加+30円/kg以上を発表し5/1から実施。7/1に住友化学のポリオレフィン事業と統合開始(三井化学52%・出光28%・住友化学20%)。 |
| 日本ポリエチレン | PE全品目 | 5/25納入分〜 | 追加値上げ | 5/18プレスリリース。「国産ナフサ価格125千円/KL超水準」想定の追加値上げ。3月時点+90円から積み増し。三菱ケミカルグループ。 |
| 日本ポリプロ | PP全品目 | 5/25納入分〜 | 追加値上げ | 5/18プレスリリース。3月時点+80円から積み増し。日本ポリエチレンと同時発表。 |
| 三菱ケミカル | ストレッチフィルム用「ダイアラップ」、C4誘導品 | 4月以降順次 | +15% C4は+125〜165円/kg |
「3桁円/kgの値上げは過去のトレンドから極めて異例」。鹿島(年産48万5,000トン)は5月から定期修理で供給さらに減少。 |
| 旭化成 | PE全製品 | 4/1出荷分〜 | +120円/kg以上 | 緊急値上げ。社長が「6月までめど」と発言(時事通信4/15)。西日本エチレンJV出資比率10%確定(5/12発表)。 |
| 東ソー | LLDPE | 4月以降+5月14日追加 | +90円/kg以上+2度目 | 中東情勢影響で2度目の値上げ実施(日経5/14報道)。ストレッチフィルム用主要グレード対象。 |
| 東洋紡 | LLDPE系フィルム | 4/21納入分〜 | 値上げ+発注自粛要請 | 過剰発注自粛を取引先に要請。配給制への移行を示唆。 |
| 積水化学工業 | 塩ビ管・ポリエチレン管 | 5/7出荷分〜 | 追加値上げ | 「中東情勢の不安により石油・ナフサ由来の原料調達環境が急速に悪化」と公表。 |
| 旭化成建材 | ネオマフォーム(断熱材) | 5/7出荷分〜 | +20%特別調整金 | 断熱材向けPE系の高騰を受けた特別調整金。建材分野への波及。 |
| 西日本エチレンJV 構造改革 |
エチレン | 5/12出資比率確定 | — | 三井化学45%・三菱ケミカル45%・旭化成10%で共同事業体設立。2030年度AMEC水島工場を停止し大阪石油化学へ集約。2034年度Revolefin™グリーン基礎化学品商用生産開始予定。 |
1.1 プライムポリマー統合(2026年7月1日開始) ── 21年ぶりの大型再編
2026年7月1日、三井化学・出光興産・住友化学の3社は、国内汎用樹脂ポリオレフィン事業の統合作業を開始したと発表した(日経2026/7/1、公取委4/25承認済み)。三井化学が65%、出光興産が35%出資していた国内首位のプライムポリマーに、住友化学の国内ポリオレフィン事業を統合。統合後のプライムポリマー出資比率は三井化学52%・出光28%・住友化学20%となる。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 統合対象 | PP(自動車部品・洗剤容器等)とPE(食品包装・液体小袋等)の2事業。ストレッチフィルム用グレードを含む |
| 統合後シェア | PP約45%・PE約35%(単純合算)、国内合成樹脂生産の4〜5割を占める |
| 生産能力(統合前) | プライムポリマー:PP 126万トン/年、PE 55万トン/年 住友化学:PP 33万トン/年、PE 17万トン/年 |
| 売上高 | 単純合算3,873億円(2025年3月期基準) |
| 統合スケジュール | 2026年7月1日:販売・開発機能統合 2027年4月:製造機能統合、PP・PE各1系列停止 |
| 効果目標 | 2030年までに営業利益で年間80億円以上のコスト削減効果を目指す |
ポリオレフィン事業を巡る再編は、三井化学と出光の事業を統合して2005年に発足したプライムポリマー以来21年ぶりの大型再編である。背景には中国の生産過剰による市況悪化と、4月エチレン稼働率67.3%という国内クラッカー構造の深刻な低迷がある。ストレッチフィルム調達現場では、統合による生産ライン最適化と、中東情勢下での価格改定継続の二重局面に向き合う2026年下半期となる。
石化協(石油化学工業協会)が2026年5月21日に発表した4月の国内エチレン稼働率は67.3%(速報値)で、1996年の統計開始以来の過去最低、2ヶ月連続で6割台。4月エチレン生産量は28万3,500トン(前月比プラス3.6%増、定期修理明けプラント稼働のため、時事通信)。国内エチレン設備12基のうち4基が定期修理中、規模の大きい一部設備の再稼働で生産能力が高まったことで稼働率が低下(日経5/22報道)。石化協・工藤幸四郎会長は5/21に「ホルムズ海峡の封鎖という逆風下でも市場が必要とする量はおおむね確保できている」と語る一方、「中期的には価格が非常に大きな問題」と述べ、価格高騰による需要減退に懸念を示した。
プライムポリマーの2026年ニュース一覧を確認したところ、5月以降の追加値上げ・撤回発表はなし(同社公式サイト2026年ニュース一覧、7月14日時点)。日本ポリエチレン・日本ポリプロも5/18プレスリリース以降の追加発表は確認できず。日本ポリエチレンの5/18プレスリリースには「想定したナフサ価格が大きく変動する場合は、改定幅の修正をお願いさせていただきます」と追加値上げ・値下げの権利留保が明記されており、6月底値627ドル→7月12日再閉鎖→7月13日Brent原油79ドル急騰という価格変動を受けて、8月〜秋にかけて第3波値上げまたは値下げ改定のいずれかが発動される可能性が高い。日本建材・住宅設備産業協会は「5月が価格固定契約の最終ライン」と警告済み。
2 海外メーカー 最新生産・出荷状況(2026年7月時点)
3月クライシスから4ヶ月経過し、海外メーカーの状況は「不可抗力(FM)の局面」から「構造再編と部分回復」の局面へ大きく転換している。ExxonMobil SCP旧型クラッカー恒久閉鎖(6月完了)、PetronasによるPRefChem完全所有化(5/25)、Formosa PetrochemicalFM解除(6/5)、Sadara Chemical債務猶予期限(6/15)、SABIC本体の2025年70億ドル損失など、業界地図が根本的に書き換わりつつある。7月12日ホルムズ再閉鎖はこの動きに新たな不確実性を追加する形。
| メーカー | 所在地 | 7月時点ステータス | LLDPE品目・生産動向 | 日本市場への影響(7月時点) |
|---|---|---|---|---|
| ExxonMobil SCP | 🇸🇬 シンガポール | 恒久閉鎖 | 旧型クラッカー(90万トン/年、2002年稼働)を2026年6月に恒久閉鎖完了(Reuters・IIR・ICIS報道)。3月から段階的縮小。新型(110万トン/年、2013年稼働)は継続稼働、下流ポリオレフィンユニット向けフィードストック外部購入を検討。 | 閉鎖理由は「中東情勢」ではなくグローバル過剰供給・中国オーバービルド(S&P Global:エチレンマージン2018年比マイナス30%)。恵州拠点(1.6百万トン/年)への戦略集中。ExxonMobilはシンガポール従業員10〜15%削減(2027年まで)を計画。日本のExceed mPE供給は恵州経由へ切替が進行。 |
| SABIC | 🇸🇦 サウジアラビア | FM+赤字 | 3/26-27にジュベイル5製品ライン(MMA/MEG/DEG/スチレン等)でFM宣言、4/7ミサイル残骸火災で稼働不能継続。2025年通期で26億サウジ・リヤル(約70億ドル)の損失計上(過去最大)。Tadawulに「material impact to 2026 financial results」開示。 | SABIC® LLDPE標準グレードの日本向け供給再開は7月時点で見通し立たず。中国福建省Fuhua Guleiとの合弁石化プロジェクト(64億ドル、エチレン180万トン/年、2027年Q1完成予定)でアジアシフト加速。 |
| PCS (シンガポール石油化学) |
🇸🇬 シンガポール | FM継続 | 3/5フォースマジュール発令、7月時点でも解除確認取れず。クラッカー2基(110万トン/年)低稼働継続。住友化学グループ子会社。 | 誘導品全般の供給極度に限定的。下流のTPCも3/9にFM発令、継続中。 |
| Sadara Chemical | 🇸🇦 サウジアラビア | 全停止・債務危機 | 3/31に全26生産ユニット全停止(Bloomberg・Argus)。生産能力:エチレン150万トン/年・PE 75万トン/年・PO 33万トン/年・MDI 40万トン/年。Tadawul開示「再開時期は国内外要因により未定」、6/15債務猶予期限到来。37億ドル債務。 | Aramco 65%・Dow 35%合弁。Dowが2026年Q1決算で2億9,200万ドルの減損計上(78日オフライン後、Dow公式開示)。日本向け契約はロールオーバー状態、実質供給ゼロ。 |
| マレーシアKertih (ペトロナス系) |
🇲🇾 Terengganu州 | 正常稼働 | 国産天然ガスベース・汎用厚物LLDPEは安定供給継続。 | 日本のストレッチフィルム輸入シェア約7割のうち、汎用厚物部分は供給継続。「買える品目」の主要供給源。 |
| PRefChem (Pengerang) 構造転換 |
🇲🇾 Johor州 | Petronas完全所有化 | 2026年5月25日、Petronas系PRPCがAramcoの持分(元50%、2017年契約70億ドル)を買収し完全所有化(Aramco・Petronas公式発表)。Pengerang Integrated Complex(PIC)内、原油精製30万バレル/日、PE 75万トン/年・PP 90万トン/年(稼働予定)。 | PRefChemの完全国有化は「エネルギー安全保障」を理由とするが、実質的にはSABIC不在後の販売網再構築の一環。日本のLLDPE調達にとってはマレーシア産の「一元化された供給源」化を意味する重要な構造変化。7月12日ホルムズ再閉鎖後は特にPetronasの独立運営が戦略的重みを増す。 |
| LCチタン (Lotte Chemical Titan) |
🇲🇾 マレーシア | 減産・赤字継続 | 稼働率65〜70%まで低下、継続的な赤字計上(i3investor 2026)。 | 新規受注を制限。マレーシア産フィルム輸入の供給ボリュームに影響。 |
| Formosa Petrochemical (FPCC・台湾) |
🇹🇼 台湾 | FM解除 | 3/10 Mailiao工場でFM発令 → 6月5日にFM解除(ICIS報道)。3クラッカー中、No.1(70万トン/年)は2025年9月から停止中・再稼働未定、No.2(103.5万トン/年)はほぼフル稼働、No.3(120万トン/年)は6月末〜7月にエタン原料へリコンフィグ改修中。 | ストレッチフィルム・PPバンド向けオレフィン供給が段階的に回復。No.3のエタン改修完了後は、より安価なフィードストック活用が可能に。7月時点で日本向け供給が3月クライシス以来初めて正常化方向へ。 |
| 韓国メーカー各社 (Lotte・Hanwha・LG等) |
🇰🇷 韓国 | 構造再編 | 2025年8月に上位10社が政府主導でナフサクラッキング能力25%削減(最大370万トン/年)で合意(Reuters)。麗川NCCがFM宣言先行、Lotte Chemical・LG Chemも追随警告。 | 短期的には減産で供給不足、中期的には過剰能力解消でマージン改善への圧力。日本向けは長期契約分中心で、スポット確保は難しい状況が継続。 |
| 中国 Sinopec他 バランサー |
🇨🇳 中国 | 余剰・輸出攻勢 | 2026年下半期に新規PE能力の稼働見通し(SunSirs予測)。LLDPE先物 6/18 CNY 7,294/t、下落トレンド(Credco Sourcing Wire)。ExxonMobil恵州1.6百万トン/年(2025年7月稼働)が主要変数。 | 下半期からの輸出攻勢が価格抑制要因に。ただしm-LLDPEは現物タイトが継続。7/12再閉鎖後は内需優先強化リスクも。 |
| 米国メーカー各社 | 🇺🇸 アメリカ | 代替供給拡大 | シェールガス由来エタンを使用、原油高の直接影響を受けず生産継続。日本の米国産ナフサ輸入は5倍(Kpler 5/27、32万トン)、貿易統計確報では5月51万4千kL(全体の3割超・Bloomberg 6/26)。 | 世界中からの買い付け集中でFOB Texas価格が急騰。北米メーカーはフル生産も価格優位は限定的。太平洋横断ルートが確立し、湾岸諸国8ヶ国からの調達は9%まで低下。 |
①ExxonMobil SCP旧型クラッカー恒久閉鎖(6月):中東情勢ではなく中国オーバービルドへの対応、恵州拠点への戦略集中。②Petronas PRefChem完全所有化(5/25):Aramco撤退でマレーシア産PE供給の一元化。③Formosa Petrochemical FM解除(6/5):No.2フル稼働+No.3エタン改修で台湾産の部分回復。④Sadara Chemical債務危機(6/15期限):Dowが2億9,200万ドル減損計上、再開見通し立たず。これらは「3月クライシス→7月MOU崩壊」の期間中に静かに進行した構造変化であり、日本の調達戦略は3月時点の想定と根本的に異なる前提で組み直す必要がある。
3 再生LLDPE市況 ── バージン反発と再生材需要疲弊の複合局面(2026年7月時点)
再生LLDPE市場は、「3〜4月のスプレッド拡大局面」から「5〜7月の需要側疲弊とディストレストレード(投げ売り)局面」へ二段階の転換を経験している。3〜4月はバージン材の急騰でスプレッドが拡大し、再生業者のマージン改善が期待されたが、遠州ネットワーク2026年5月1日号の市況レポートは「再生ペレット価格が改善したにもかかわらず、PEフィルムやPPビッグバッグの再生業者は、輸入・エネルギー・輸送の高コストを吸収できずにいる」「ディストレストレード(投げ売り)の増加として表れており、積込時の写真と現物の差異を口実に、もはや支払えない契約から逃れようとバイヤーが港で貨物を拒否するケース」を報告。「マレーシアでは下半期に向けてますます厳しい見通し、川下顧客からは6月以降のオーダーが著しく不足」とも指摘している。7月時点のスプレッドは品質グレードによって大きく二極化している。
| 再生グレード | 主用途 | 7月時点のスプレッド | 調達難易度 | 2026年7月現在の市況 |
|---|---|---|---|---|
| 高品質透明グレード (低臭・高透明・PCR) |
機械巻きストレッチ・薄膜化用途 | スプレッド拡大継続 | 極めて困難 | 大手ブランドのESG目標・PCR比率規制対応で需要増、供給側は認証取得済み限定。7月再閉鎖後もこのセグメントは需要底堅く、価格は高止まり。 |
| 標準グレード (ペレット化済) |
汎用厚物ストレッチ・農業フィルム | バージン反発後は スプレッド縮小方向 |
タイト継続 | 3〜4月は需要シフトで逼迫したが、5〜7月は輸入完成品の値下げ(マレーシア産-18%)と競合。バージン価格の反発でスプレッドはやや縮小方向にシフト。 |
| フレーク・グレード (粉砕状) |
低グレード製品・成形ブロック | 横ばい〜 ディストレスト圧力 |
やや確保可 | マレーシア・ベトナム・インドネシア産でディストレストトレード発生(遠州ネットワーク5/1号)。輸送・エネルギー高コスト吸収難で、投げ売り圧力。 |
| ケミカルリサイクル品 (MTO/mLLDPE代替) |
食品包装・医療包装等 | +30〜50%上昇継続 | 困難 | 絶対量が少なく、認証取得済みの顧客に優先配給。新規参入は難しい。需要はESG対応で底堅く、7月時点も高値継続。 |
3月クライシス時と7月時点の再生LLDPE市況で最も異なる点は、「需要側の疲弊感」の顕在化である。3〜4月時点では「バージン急騰→再生材への需要シフト→スプレッド拡大→再生業者のマージン改善」という単純な物語だった。しかし、5月以降の実データは「輸入・エネルギー・輸送の高コストを再生業者が吸収できず、ディストレストトレードが増加」(遠州ネットワーク)という異なる展開を示す。原因は、①輸入完成品(マレーシア産CIF)の値下げで最終フィルム価格に下押し圧力、②川下顧客の6月以降のオーダー減少、③エネルギー・輸送費の高止まり、が同時進行しているためだ。
Argus Mediaは「長い間、安価なバージン材に収益性を圧迫されてきたリサイクル業者が、今回の危機でマージン改善を狙いつつある」と分析するが、これは高品質透明グレード・ケミカルリサイクル品に限定される局面。フィルムメーカー側にとっては「再生材への切り替え」が新たな選択肢として現実化しているが、グレード適合・物性再評価・顧客承認に1〜3ヶ月を要する点は留意が必要だ。7月12日再閉鎖後、この「1〜3ヶ月」の意思決定期間そのものが、経営判断の主戦場となっている。特に汎用グレードで再生材シフトを進めるより、輸入完成品の値下げを取り込む方が経済的という判断が、5〜7月の市場を動かしている構造要因である。
4 LLDPE使用フィルム製品マップ ── 主要4品目の国内供給状況(2026年7月時点)
日本国内でLLDPEを主原料とする代表的な主要4品目(手巻き・機械巻き・Nanoストレッチ・サイレージ)について、2026年7月14日時点の供給状況と価格動向を整理した。2026年7月時点の重要な特徴は「値上げ一辺倒」から「値下げ局面への転換」が輸入品を中心に始まっていることだ。弊社が確認したマレーシア産手巻きストレッチフィルムは5月末→7月で約18%の一律値下げ、サイレージフィルムは5月→7月で約15%値下げと、輸入品の価格反転が顕著。ただし国内メーカー品は3〜5月の累計値上げが定着しており、輸入品と国内品でスプレッドが再拡大している。7月12日ホルムズ再閉鎖の第2波リスクは、この値下げ局面をどこまで押し戻すかが今後の焦点となる。
| フィルム製品 | 主用途 | LLDPE依存度 | 7月時点価格動向 | 2026年7月現在の国内供給状況 |
|---|---|---|---|---|
| 手巻きストレッチフィルム | 倉庫荷崩れ防止・小ロット出荷 | 高(汎用LLDPE) | マイナス18%↓ (輸入品5月末→7月) |
マレーシア産CIF価格が5/28→7/3の36日間で全グレード平均17.9%の値下げ(弊社確認見積書比較、10μm $2.22→$1.83/kg、18μm $1.98→$1.62/kg)。見積書の有効期限も1週間→3日に短縮、CNF→CIF条件へ変更(保険費負担が供給側へ)で、供給側の受注獲得姿勢が明確化。納期も50日→30日以内出荷へ改善。詳細は「マレーシアストレッチフィルム市場、5月末→7月に約18%値下げが示すLLDPE需給の転換点」参照。 |
| 機械巻きストレッチフィルム | 大規模物流・パレット荷役 | 極高(mLLDPE) | マイナス10%↓ (段階的値下げ) |
ExxonMobil恵州拠点(1.2百万トン/年LLDPE)への切替進行と、Formosa Petrochemical No.2フル稼働・6/5 FM解除で供給が段階的に回復。7月時点で約10%程度の値下げ傾向が確認され、手巻き系ほど急激ではないものの、8月〜秋にかけての追加値下げ余地が意識される局面。製造リードタイム4〜5週間・日本到着54〜82日は継続(EB Packaging担当者ヒアリング 2026年5月)。 |
| Nanoストレッチフィルム (15μm未満薄膜) |
高機能物流・コスト削減型物流 | 極高(mLLDPE) | マイナス10%↓ (段階的値下げ) |
Petronasが5/25にPRefChem(Pengerang)を完全所有化したことで、マレーシア産PE供給網は「一元化された供給源」に。中国製多層ナノフィルム(ExxonMobil恵州産Exceed mPE等)への切替が進行し、7月時点で約10%程度の値下げ傾向が現れ始めた。特殊グレードのアロケーションは継続するが、mLLDPE供給網の再構築で薄膜品の入手性は改善方向にある。 |
| サイレージフィルム (牧草用ラップ) |
畜産・酪農の飼料保存 | 極高(キャストLLDPE) | マイナス15%↓ (輸入品5月→7月) |
弊社確認:サイレージフィルムの輸入価格は5月と比較して7月は約15%の値下げ。4月ピーク時比では依然高値だが、5月ピークからは反落。畜産・酪農業者にとっては夏季のサイレージ需要期に向けた朗報となる一方、4月からの値上げ分は完全には解消していない。 |
マレーシア産手巻きストレッチフィルム、5月末→7月で約18%値下げ/サイレージフィルム、5月→7月で約15%値下げ
弊社が確認したマレーシア主要メーカーの見積書2通(2026年5月28日付・7月3日付)では、36日間で全グレード平均17.9%のCIF価格値下げを確認した(10μm High Perf $2.22→$1.83/kg、18μm Standard $1.98→$1.62/kg)。見積書の有効期限が1週間→3日に短縮、貿易条件がCNF Yokohama→CIF Yokohama(保険費含む)に変更、支払条件がT/T or L/C出荷前100%→T/T 50%前払・残額発送前と、いずれも供給側の受注獲得姿勢を示すシグナル。納期は50日→30日以内出荷へ改善。
また、サイレージフィルム(キャストLLDPE系)の1ロールあたり単価は、5月と比較して7月は約15%の値下げを実勢価格で確認。イラン情勢初期の急騰局面(3月〜4月)から、需給緩和・値下げ局面(6月〜7月)への転換を示す実データとなる。ただし7月12日ホルムズ再閉鎖の第2波リスクがこの値下げトレンドをどこまで押し戻すかは、8月中旬の60日間無償通航期間期限までの動向次第となる。
7月時点で明確になっているのは、「輸入完成フィルムの値下げ」と「国内メーカー品の値上げ据置」の非対称構造だ。マレーシア産手巻きストレッチが約18%値下げする一方、プライムポリマー累計+120円/kg、日本ポリエチレン/日本ポリプロの5/25納入分追加値上げは撤回されていない。これは日本のフォーミュラ+プレミアム構造・海上輸送費・円安・軽質ナフサ得率ミスマッチという4層の構造要因により、市況627ドルの下落が国内価格に反映されないまま、8月以降にタイムラグを伴って波及していく見通しである(詳細は前記事参照)。
5 ナフサ市況タイムライン(6月底値627ドルからの反発と7月12日再閉鎖)
2026年6月から7月にかけて、アジア・ナフサ市場は「6月底値627ドル」→「6月18日米イラン14項目MOU発効」→「7月12日ホルムズ海峡再閉鎖」→「7月13日Brent原油79ドル急騰」という劇的な展開を経た。以下、東京オープンスペック(アジア指標)中心値と主要イベントを整理する。なお本記事執筆時点(7月14日)で、7月に入ってからの東京オープンスペック確定値は限定的なため、原油市況を併用して補完している。
| 段階 | 日付 | 価格 | 背景・主要イベント(一次ソース明記) |
|---|---|---|---|
| ①底値局面 | 6月2日 | ナフサ 1トン788ドル | ADNOCがオマーン・ソハール港経由STS方式でルワイス製油所からのナフサ輸出を再開(月100万トン規模のうちタンカー2隻確認)とロイター通信6月3日報道。7月後半渡し中心値。 |
| ①底値局面 | 6月15日 | ナフサ 686ドル | 前週末比9%下落、3ヶ月ぶりに700ドル割れ(日経6月15日報道)。トランプ米大統領がイランとの戦闘終結合意をSNSで発表し原油急落に連動。 |
| ①底値局面 | 6月25日 | ナフサ 627ドル | イラン軍事衝突前の632ドルを下回る底値(日経6月25日報道「ナフサ価格がアジアで下落、衝突前下回る」)。3月ピーク1,300ドルから約52%下落、4ヶ月ぶりの安値。 |
| ②米イラン合意 | 6月14日 | — | 米イラン両首脳が「14項目の覚書(MOU)」にオンライン署名。パキスタン仲介、ホルムズ海峡即時開放と60日間停戦(8月16日まで)を含む(第一ライフ資産運用経済研究所 嶌峰義清氏レポート)。 |
| ②米イラン合意 | 6月18日 | — | イラン外務省が「MOU電子署名し発効」と発表。米海上封鎖解除、ホルムズ海峡開放、石油輸出再開が盛り込まれる(三菱総合研究所コラム 2026/6/19)。三菱総研は「和平ではなく対立の一時停止」「危機の解決ではなく危機の先送り」と評価。 |
| ②米イラン合意 | 6月19日 | — | スイス・ビュルゲンシュトックで公式調印式、パキスタン等仲介国が見守る。60日交渉期間開始(時事通信)。 |
| ②米イラン合意 | 7月1日 | Brent原油 70ドル割れ | EIA STEO 7月号:「6月Brent平均85ドル→7月1日70ドル割れ、紛争開始時の水準まで低下」(米EIA 2026/7/7発表)。MOU締結後にタンカー交通が回復基調。 |
| ③再閉鎖ショック | 7月11日 | — | モジュタバー・ハーメネイー新最高指導者(故アリー・ハーメネイー師の次男、3/8選出)が「復讐を誓う」と声明。米国はホルムズ航行船舶への攻撃停止を約束するようイランに最終警告。 |
| ③再閉鎖ショック | 7月12日未明 | — | IRGC海軍がキプロス船籍コンテナ船MV GFS Galaxyを攻撃、承認されていないルートを航行したとして警告射撃で停船。「ホルムズ海峡は追って通知があるまで、また米国による地域への干渉が終わるまで封鎖」と宣言(CNN・AFP・IRNA・タスニム通信報道)。米中央軍は約140か所のイラン軍施設に空爆で反撃。 |
| ③再閉鎖ショック | 7月13日 | Brent原油 78.48ドル WTI 73.76ドル |
Brent原油先物+3.25%(ロイター7/13報道)、Brentは週間+5.4%上昇(Bloomberg)。「4%上昇、Brentは79ドル超え」(The National・Al Jazeera報道)。ホルムズ通過タンカーは日曜わずか6隻(Kpler)と5週間ぶりの低水準に。 |
5.1 底値627ドルがなぜ発生したか ── 3要因の複合
6月25日の底値627ドルは、単なる供給正常化の結果ではなく、以下3要因の同時進行による「見かけの正常化」だった。
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ADNOCオマーン経由STSによる片肺輸出再開
UAEのADNOC(アブダビ国営石油)が4月に停止していたルワイス製油所からの月約100万トン規模のナフサ輸出を、5月にオマーン・ソハール港経由のSTS(船から船への積み替え)方式で一部再開。ただし確認されたタンカーは2隻のみで、極端な供給不安プレミアムが剥落した(ロイター6/3)。 -
アジア石化需要そのものの萎縮(需要破壊)
シンガポール・インドネシア・韓国・台湾の石油化学コンプレックスで減産・不可抗力宣言が続発。価格高騰と不安定な調達が、アジアの石油化学プラントの稼働を落とし、ナフサを買う側の体力を先に削った。4月国内エチレン稼働率67.3%(1996年統計以来最低)はその象徴。 -
中国からのポリオレフィン輸出増加
中国はエタン・石炭・メタノールを原料とするエチレン設備が多くナフサ以外の原料が豊富。中国内需の弱さも相まって輸出玉が増加し、アジア市況全体を押し下げた。
5.2 「半開きの正常化」を打ち消す構造要因
6月底値627ドルは「一時的な例外」であって「定着」ではなかった。以下の構造要因が価格の高止まり圧力として作用しており、7月12日の再閉鎖でその圧力が顕在化した。
| 構造要因 | 内容 |
|---|---|
| ① 通常時の約2倍プレミアム | 石化協・工藤幸四郎会長は5/21に「中東外からのナフサ価格は通常時の約2倍」「この(高値の)レベルがある程度続くという前提でいるべきではないか」と発言。三菱ケミカルグループ・筑本学副会長も「プレミアムを支払うことで必要な量が調達できている状況」と指摘。市況627ドルへの下落は、このプレミアム部分にはほぼ反映されなかった。 |
| ② 60日間無償通航期限(8/16) | MOUに基づくホルムズ海峡の無料通航保証は60日間限定で、8月16日まで。60日後の通航方式や管理体制は未定であり、料金・サービス費の枠組み導入懸念が残る。 |
| ③ 国内クラッカーの原料確保 | 三井化学千葉・大阪、AMEC水島、出光千葉・徳山は6月中まで原料確保、7月以降の玉繰り確保のためスポット買い付け意欲が復活。 |
| ④ 三菱総研の警鐘 | 三菱総研は5月21日に「テールリスク常態化」の時代へ、5月19日に「管理された不安定化」と評価。6月19日には「和平ではなく対立の一時停止であり、その本質は危機の解決ではなく危機の先送りにある」「60日後へ先送り」との厳しい分析を公表。 |
赤沢経済産業大臣は6月2日に「7月のナフサ生産は前年並みに戻る」と表明したものの、7月12日のIRGCによるホルムズ再閉鎖宣言と米中央軍空爆の応酬で、この見通しは大幅な見直しを迫られている。Brent原油は7月13日に4%急騰し79ドルへ、ナフサ市況への波及は営業日を追って明らかになる見込みだ。
6 7月12日ホルムズ海峡再閉鎖 ── 第2波リスクの構造分析
2026年7月12日未明、イラン革命防衛隊(IRGC)はキプロス船籍コンテナ船MV GFS Galaxyを攻撃し、ホルムズ海峡の再閉鎖を宣言した。3月クライシスと決定的に異なるのは、日本の代替調達体制が既に進展していることと、6月14日にオンライン署名され6月18日に発効した「14項目の覚書(MOU)」が事実上崩壊したことである。
約24時間で中東情勢が3段階で急変
7月11日:故アリー・ハーメネイー師の次男・モジュタバー・ハーメネイー新最高指導者(3月8日選出、革命以降3人目・初の世襲)が「復讐を誓う」と声明を発表。米国は11日までにホルムズ海峡を航行する船舶への攻撃停止を約束するようイランに警告し、「約束しなければ代償を払うことになる」と伝達。
7月12日未明:IRGC海軍がキプロス船籍コンテナ船MV GFS Galaxyを攻撃、承認されていないルートを航行したとして警告射撃で停船させたと発表。声明で「ホルムズ海峡は追って通知があるまで、また米国による地域への干渉が終わるまで封鎖される。いかなる船舶や海軍艦艇の通過も認められない」と表明(IRNA・タスニム通信・CNN・AFP報道)。
7月12日朝〜7月13日:米中央軍が対イラン空爆を再開、戦闘機など約140か所のイラン軍施設を攻撃(NRI野村総研 大槻奈那氏解説)。Brent原油は+4%急騰し78.48ドル(ロイター)〜79ドル台(The National・Al Jazeera)に。ホルムズ通過タンカーは日曜わずか6隻(Kpler)と5週間ぶりの低水準。
6.1 3月クライシスと7月再閉鎖の構造的違い
7月12日の再閉鎖と2026年3月クライシスの決定的な違いは、日本の代替調達体制の進展度合いにある。3月時点では中東ナフサ依存度74%・民間在庫20日分の脆弱な調達構造だったが、7月時点では以下のような進展がある。
| 項目 | 3月クライシス時(2026/3) | 7月再閉鎖時(2026/7/12以降) |
|---|---|---|
| 原油の中東依存 | 93%(内閣府資料) | ほぼ100%代替可能な見通し(米国・アゼルバイジャン等) |
| ナフサ中東外調達 | 2割弱 | 約6割(米国・豪州・インド・アルジェリア) |
| 米国産ナフサ輸入 | ほぼゼロ | 32万トン(Kpler 5/27速報値、平均比5倍)/貿易統計確報:5月51万4千kL(全体の3割超)(Bloomberg 6/26)。湾岸諸国8ヶ国からの調達は9%まで低下。 |
| 石油国家備蓄放出 | 未実施 | 約8ヶ月分+第2弾580万kL放出中(20日分相当) |
| プライムポリマー統合 | 未実施 | 7/1販売機能統合開始、シェアPP45%へ集中 |
| ADNOC代替ルート | 停止中 | オマーン・ソハール港STS再開(片肺運転、再閉鎖で途絶リスク) |
したがって、「モノが手に入らない」という数量ショックは3月ほど大きくならない見通しである。ただし、価格面では戦争保険料・喜望峰経由リードタイム延長(+14日)・STS制限・GPS/AIS障害・機雷警戒が同時に残っており、価格再上昇圧力は既に7月13日Brent原油79ドル(+4%急騰)で顕在化している。ナフサ市況への波及は営業日を追って明らかになる見込みだ。
6.2 「半開きの正常化」を打ち消す5つの構造要因(7月時点更新版)
| 阻害要因 | 内容 |
|---|---|
| ① 紛争リスクプレミアム恒久化 | 7月12日再閉鎖でホルムズ海峡そのものが完全正常化しない前提が確定。海上保険料・サーチャージは平時水準に戻らない。喜望峰経由のリードタイム延長(28日→42日以上)も継続。 |
| ② 4月エチレン稼働率67.3%の過去最低 | 1996年統計開始以来の過去最低、2ヶ月連続の6割台(石化協5/21発表)。12基中4基が定期修理中、規模の大きい一部設備の再稼働で生産能力が高まり稼働率が低下(日経5/22)。ナフサ供給の正常化が起きても国内クラッカー稼働の回復には独立して時間を要する。 |
| ③ 国内値上げの「水準訂正」完了 | プライムポリマー累計+120円/kg、日本ポリエチレン/日本ポリプロの5/25納入分追加値上げが既に流通側と確定。6月底値627ドルでも撤回されず、7月12日再閉鎖後は第2波の値上げ圧力が発生。 |
| ④ プライムポリマー統合による生産再編 | 7/1販売統合開始、27年4月製造機能統合でPP・PE各1系列停止予定。国内シェアPP約45%・PE約35%への集中は、調達サイド交渉力の変化を意味する。 |
| ⑤ 覚書崩壊による外交先行き不透明 | 6月14日オンライン署名・18日発効の「14項目の覚書(MOU)」(パキスタン仲介)は、7月12日IRGCによる再閉鎖宣言と米中央軍空爆で事実上崩壊。三菱総合研究所コラム6/19は覚書を「和平ではなく対立の一時停止」「危機の解決ではなく危機の先送り」と評価。核問題も未解決で、外交主導の正常化は当面見込めない。 |
7月14日時点の見通しでは、非中東代替調達の本格化と中国の2026年下半期PE新規生産能力700万トン稼働が、年末にかけて需給バランスを徐々に改善させる方向性は維持されている。ただし、価格水準は前年比+30〜50%の高値圏を維持する見込みであり、ストレッチフィルム需要家にとっては「絶対量の確保」(3月クライシスほどは深刻でない)と「価格水準訂正後の構造的高値」(反発局面と第2波値上げ)という二重の課題に向き合う2026年下半期となる。
7 中国LLDPE市場の深掘り ── ExxonMobil恵州プラント稼働と自給化の構造変化
2026年下半期、日本のLLDPE調達担当者にとって最も注目すべき変数は中国の供給能力である。中国は2025年7月にExxonMobil恵州プラント(投資100億ドル、PE合計165万トン/年・PP 95万トン/年)を稼働させた。中国LLDPE先物(Dalian Commodity Exchange)は6月16日 RMB 7,646、6月18日 CNY 7,294/tと下落トレンドで推移し(Credco Sourcing Wire・Polymerupdate)、東南アジアPE価格も下落基調。SunSirsが2026年3月時点で公表した見通しでは、中国のPE生産能力は2026年通年で新規550万トン規模の追加が見込まれる。
7.1 ExxonMobil恵州プラント徹底解説 ── 中国初の100%外資単独メガ石化
ExxonMobil恵州プラントは、米国エネルギーメジャーが中国に設立した初の100%外資単独メガ石化コンプレックスで、広東省恵州市の大亜湾石化工業園に位置し、2020年4月着工、2025年7月15日に予定前倒しで操業を開始した(Xinhua・China Daily・GBA Trends確認)。中国・広東省・恵州市当局と緊密に連携し、米国湾岸地域での同等規模建設と比較して約50%の建設コスト優位を実現したとされる。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 所在地 | 中国広東省恵州市 大亜湾石化工業園 ── Shell、BASF、Clariant等主要石化企業が集積する中国の主要石化拠点 |
| 総投資額 | 100億ドル ── 中国初の100%外資単独メガ石化プロジェクト |
| 事業主体 | ExxonMobil (Huizhou) Chemical Co., Ltd.(李興軍 董事長) |
| 着工・操業開始 | 2020年4月22日着工 → 2025年7月15日 操業開始(予定前倒し・予算内達成) |
| エチレンクラッカー | 1.6百万トン/年(フレキシブル供給対応、ナフサ+LPG・カタール・ラスラファン精油所から55,000トン受入実績) |
| LLDPE生産ライン | ×2ライン合計 1.2百万トン/年 ・Line1: 730kt/y(2025年2月試運転で適格品生産、2〜3月商業運転開始) ・Line2: 500kt/y(2025年6月稼働、mLLDPE生産へ移行進行中) |
| LDPE生産ライン | 500kt/年 ── 世界最大規模の単一LDPEライン |
| PP生産ライン | ×2ライン合計 950kt/年(差別化高機能PP) |
| R&D拠点 | ExxonMobil Daya Bay R&D Center(2023年着工、2025年第1期稼働)── 北米本社以外で初のパイロット設備付き総合R&D拠点、中国2拠点目(上海拠点に次ぐ) |
| 主要用途 | 消費財包装、農業用ハウスフィルム、工業用包装、衛生用品、自動車・家電、リジッド包装、耐久消費財 |
| 情報源 | Xinhua、China Daily、GBA Trends、ECHEMI、Argus Media、Mysteel、ExxonMobil公式発表 |
特筆すべきは、LLDPE Line2のmLLDPE移行戦略である。Argus Media(2026/2確認)によれば、ExxonMobilは「数か月以内にLLDPEからメタロセン系LLDPE(mLLDPE)生産に移行する」方針を表明済み。ExxonMobil独自のExceed mPE・Enable mPEシリーズは、日本のストレッチフィルム業界が最も依存していたメタロセン系LLDPEのフラッグシップグレードだ。シンガポール拠点のExceed mPE供給が事実上停止した現状で、恵州産のExceed mPEが日本市場の代替供給源として急浮上している。
7.2 中国LLDPE市場全体の構造変化 ── 自給化進展と「純輸出国」化の現実味
ExxonMobil恵州プラントは、中国のPE自給化政策のごく一部に過ぎない。SunSirsの最新データ(2026年3月時点)によれば、中国の総PE生産能力は4,134万トン/年に達し、2026年末には5,344万トン/年に到達する見通し。2026年通年では新規PE能力550万トンが稼働し、その大半がQ3〜Q4に集中する見込みである。
| プロジェクト | 能力 | 稼働時期 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| ExxonMobil 恵州 外資単独 |
PE 1.65百万t/年 PP 950kt/年 |
2025年7月稼働 | 中国初の100%外資単独メガ石化。mLLDPE(Exceed/Enable)移行進行中 |
| Sinopec-Saudi Aramco Gulei 中サウジ合弁 |
PE 1,000kt/年 | 2026年下半期 | 中国×サウジアラムコ合弁の大型石化プロジェクト。Sinopec主導 |
| North China Huajin Aramco 中サウジ合弁 |
PE 950kt/年 (うちFD 450kt H1) |
2026年上半期〜 | 2026年上半期に高確度で稼働見込み(SunSirs予測)。フルデンシティPE中心 |
| Dongming Zhongyou | FDPE 400kt/年 | 2026年上半期 | 地方系石油精製・化学企業。SunSirs予測で上半期高確度 |
| 湛江(Zhanjiang)系 | FDPE 500kt/年 | 2026年1月稼働済 | SunSirs(2026/3確認)。すでに稼働しPE自給率改善に貢献 |
| Yulong Petrochemical | LDPE/EVA 300kt/年 | 2026年1月稼働済 | EVA併産でフィルム高機能化需要に対応 |
| Sinopec 広西 (Guangxi Petrochemical) |
エチレン 1.2百万t/年 | 2025年10月稼働 | 第15次5か年計画下の戦略プロジェクト。下流PE/PPの母体 |
SunSirs(2026年確認)によれば、中国のエチレン等価自給率は2025年時点で78.1%に到達し、第15次5か年計画下では90%超を目標に掲げる。2026年通年でエチレン能力+805万トンが追加され、総能力は7,075万トン/年に到達見込み。LLDPEに限れば名目19%の能力増(ただし実効増は名目を下回る)。
S&P Global Commodity Insightsの分析では、中国は2024年3月にPPで初めて純輸出国に転換しており、PEもダウンサイドシナリオでは2027〜2028年に純輸出国化の可能性が指摘されている(ICIS基本ケースは2025-2035年平均稼働率72%・純輸入4.5百万トン/年)。
7.3 日本市場への影響と機会 ── 中国産を活用する3つのハードル
恵州産Exceed mPEの登場、Sinopec/CNPC主導の大型プロジェクト群、そして自給化政策の進展は、日本のLLDPE調達担当者にとって「ExxonMobil・SABIC不在」の中で最も現実的な代替供給源となりつつある。ただし、中国産LLDPE活用には3つの構造的ハードルが存在する。
| ハードル | 具体的課題 | 対応策・機会 |
|---|---|---|
| ① スプレッド 価格優位は限定的 |
中国国内向け価格優位はあるが、輸出価格は国際市況連動で価格優位は減少。輸出時のVAT還付率・反ダンピング措置リスクも存在 | 恵州産は新規プラントゆえコスト競争力高。長期契約での価格固定化交渉が有効 |
| ② グレード 適合性課題 |
従来のExxonMobil(SCP)・SABIC品で最適化された日本のフィルム配合・成形条件との物性整合性確認が必要。MFI・密度・コモノマー組成の微差が成形品質に影響 | 恵州産Exceed/Enable mPEは同一メーカー製で物性・触媒系統が共通のため、シンガポール品からの切替障壁が最小。試験フィルム評価で1〜3ヶ月で承認可能性 |
| ③ 物流 納期・スロット |
恵州→日本の海上輸送は短いが、中国国内優先供給で輸出スロット確保が当面の課題。中国港湾の輸出許認可・通関プロセスの不透明感 | 2026年下半期の新規能力550万トン稼働で輸出余力が拡大。広東省地理的優位で日本到着リードタイム短縮可能 |
特筆すべきは「同一メーカー切替」のグレード適合優位である。日本のフィルムメーカーがこれまで使用してきたシンガポール製Exceed mPEと、新規稼働した恵州製Exceed mPEは、ExxonMobilの同一触媒系統・同一プロセスで生産される。製品物性は実質的に同等で、認証取得・試験フィルム評価のハードルは中国系メーカー品(Sinopec・CNPC等)への切替よりも大幅に低い。「シンガポール不在を恵州が埋める」という構造は、ExxonMobilのグローバル供給網再編戦略の一環として理解すべき動きだ。
中国産LLDPEの2026年下半期以降の供給拡大は、日本のフィルム調達担当者にとって「価格抑制要因」として機能する一方、過度の中国依存はサプライチェーン集中リスクを高める。米中通商関係の変化、7月再閉鎖後の中国国内優先供給政策強化リスク、人民元為替変動、台湾海峡情勢などの新たな地政学リスクへの暴露が増える点には留意が必要である。恵州産・米国産・マレーシアKertih産・再生LLDPEの4本柱で分散調達を構築することが、2026年下半期以降の現実解となる。
結語:「6月底値からの反発局面と7月12日再閉鎖」でも、代替調達体制は3月より格段に進展
2026年7月14日のLLDPE市場は、6月2日788ドルから6月25日627ドル(衝突前632ドルを下回る底値、日経報道)まで急落した後、7月12日IRGCによるホルムズ海峡再閉鎖宣言(MV GFS Galaxy攻撃)を経て、7月13日にBrent原油が+4%急騰し79ドルへ到達した。6月14日オンライン署名・6月18日発効の「14項目の覚書(MOU)」は、パキスタン仲介による60日間停戦・ホルムズ即時開放を柱としていたが、7月12日の再閉鎖宣言で事実上崩壊。三菱総合研究所コラム(6/19)が予告した「和平ではなく対立の一時停止」「危機の解決ではなく危機の先送り」の実態が顕在化した形だ。
しかし3月クライシスと決定的に異なるのは、日本の代替調達体制がこの3ヶ月で格段に進展したことである。米国産ナフサ輸入は5倍(Kpler 5/27、32万トン/貿易統計確報では5月51万4千kL、全体の3割超・Bloomberg 6/26)、湾岸諸国8ヶ国からの調達は9%まで低下、原油の中東外調達はほぼ100%代替可能な見通し、石油国家備蓄第2弾580万kL放出中、そして7月1日にはプライムポリマー統合が開始しシェアPP約45%・PE約35%へ集中(三井52%・出光28%・住友20%)。「モノが手に入らない」数量ショックは3月ほど大きくならない見通しだが、価格再上昇圧力は7月13日Brent原油79ドルで既に顕在化している。
代替供給源の全体像は5本柱で構成される。①ExxonMobil恵州産Exceed/Enable mPE(同一メーカー切替で適合性優位、2025年7月15日操業開始)、②中国系メーカー新規能力(SunSirs予測で2026年下半期に新規PE能力550万トン規模)、③米国産(貿易統計確報でシェア3割超、5倍拡大中)、④マレーシアKertih産(汎用厚物のみ)、⑤再生LLDPE(スプレッド拡大期の現実解)。過度の中国集中を避けるため、この5本柱の分散調達が2026年下半期以降の現実解となる。
次の節目は8月中旬に到来する60日間の無償通航期間期限(8月16日)。中国PE新規能力の稼働本格化、米イラン外交の再開可否、そして国内エチレン稼働率の回復可否が、価格水準の「反発定着」か「徐々の正常化」かを分ける分岐点となる。
主な情報源(時系列・リスト方式)
- ロイター通信・Al Jazeera・The National・Bloomberg(2026年7月13日報道)「Oil gains over 3% as fresh military strikes threaten Hormuz shipments」
- CNN・AFP・IRNA・タスニム通信(2026年7月12日報道)IRGCによるMV GFS Galaxy攻撃・ホルムズ海峡再閉鎖宣言/米中央軍によるイラン軍施設140か所空爆(NRI野村総研 大槻奈那氏解説)
- 米国EIA Short-Term Energy Outlook(2026年7月7日発表)
- 日本経済新聞(2026年7月1日)「三井化学など3社、国内汎用樹脂統合開始 製造機能を27年に集約」
- Bloomberg(2026年6月26日)「ナフサ調達の米国シフト進む、分散が今後の課題に」
- 日本経済新聞(2026年6月25日)「ナフサ価格がアジアで下落、衝突前下回る 代替調達で供給懸念が後退」
- 三菱総合研究所コラム(2026年6月19日)「アメリカとイスラエルによるイラン攻撃⑦ 危機の先延ばし 米・イラン覚書14項目の意味するもの」
- 第一ライフ資産運用経済研究所 嶌峰義清氏(2026年6月)「米・イラン戦闘終結の市場への影響」
- 時事通信(2026年5月24日)「米イラン合意『間もなく』 停戦60日延長、ホルムズ開放へ調整」
- 日本経済新聞(2026年6月15日)「ナフサ、3カ月ぶり安値 アジア市場 前週末比9%下落」
- 石油化学工業協会(石化協)(2026年5月21日発表)4月エチレン稼働率67.3%・過去最低更新
- 日本経済新聞・時事通信(2026年5月27〜28日)「米国からのナフサ輸入5倍に 中東危機で調達シフト、相場は3割高」
- ロイター通信(2026年6月3日)「アジアのナフサ価格急落、ADNOCがオマーン経由で輸出再開」
- 赤沢経済産業大臣発言(2026年6月2日)
- 経済産業省 中東情勢対応状況資料(2026年4月30日)
- 日本経済新聞(2026年5月14日)「東ソー、汎用樹脂ポリエチレンを値上げ 中東影響受け2度目」
- プライムポリマー2026年ニュース一覧(同社公式サイト、7月14日確認)3/17・4/21付価格改定PDF/5月以降追加値上げ発表なし
- 日本ポリエチレン・日本ポリプロ プレスリリース(2026年5月18日)5/25納入分〜追加値上げ
- 三井化学・出光興産・住友化学プレスリリース(2025年12月24日/公取委承認2026年4月25日)
- 三井化学・三菱ケミカル・旭化成プレスリリース(2026年5月12日)西日本エチレンJV出資比率確定
- ダイヤモンド・カーゴニュース(2026年4月下旬)「ナフサショックで入手困難、価格5割増しになった『安全を守る』物資の名前」
- Xinhua / China Daily / GBA Trends / cnbayarea(2025年7月15日報道)ExxonMobil恵州プラント操業開始
- Reuters・IIR・ICIS(2025年12月〜2026年6月)ExxonMobil SCP旧型クラッカー恒久閉鎖報道
- Aramco・Petronas共同プレスリリース(2026年5月25日)PRefChem所有権移転
- ICIS(2026年6月5日)「Taiwan's FPCC lifts force majeure on olefins as operating conditions improve」
- Bloomberg・Argus Media(2026年3月〜4月)Sadara Chemical全26ユニット停止・Tadawul開示
- Dow Chemical 2026年Q1決算開示(2億9,200万ドル減損計上)
- AGBI(Arabian Gulf Business Insight)(2026年4月)SABIC 2025年通期損失70億ドル報道
- Argus Media(2026年2月確認)・Mysteel(2025年2月確認)ExxonMobil恵州LLDPE Line1/Line2稼働状況
- ICIS(2023年12月・ExxonMobil CFO Kathy Mikells投資家説明)
- ECHEMI(2023年2月確認)ExxonMobil Daya Bay R&D Center
- Credco Sourcing Wire(2026年6月18日)・Polymerupdate(2026年6月16日)中国LLDPE先物価格
- SunSirs 2026年3月時点データ(前セッション調査ベース、一次ソース詳細は要精査)
- 遠州ネットワーク(Fareast Network)市況レポート(2026年5月1日号)「原油高と需要減退の攻防」・再生ペレット市況
- Argus Media調査(2026年)再生LLDPE市況分析
- EB Packaging担当者ヒアリング(2026年5月)
- plastic-pallet.co.jp関連調査(2026年5月)マレーシア産二層構造・弊社確認見積書比較(2026年5月28日付・7月3日付、マレーシア産手巻きストレッチフィルム17.9%値下げ/サイレージフィルム5月→7月約15%値下げ)
- 三菱ケミカル(2026年4月)ダイアラップ・C4誘導品価格改定
- グンゼ包装OPPフィルム値上げ(2026年5月28日発表)
- i3investor(2026年)LCチタン(Lotte Chemical Titan)稼働率・業績分析
- 時事通信(2026年4月15日)旭化成社長「6月までめど」発言
- Reuters(2025年8月)韓国上位10社ナフサクラッキング能力25%削減合意