📞 050-3470-4265 受付 9:00-20:00(日・祝休)
無料お見積り ›
イラン情勢への日本政府の国内対応とASEAN連携、パワー・アジア100億ドルが描くエネルギー強靱化の現在地|プラスチックパレット株式会社
GEOPOLITICAL RISK / JAPAN-ASEAN COOPERATION

イラン情勢への日本政府の国内対応とASEAN連携、パワー・アジア100億ドルが描くエネルギー強靱化の現在地

2026年2月28日の米・イスラエルによるイラン攻撃から約4か月、日本政府が積み上げてきた国内対応と東南アジア連携を一次情報ベースで時系列に整理。緊急対策本部、燃料油激変緩和措置(G7最安170円水準)、国家備蓄放出、関係閣僚会議10回、日韓エネルギースワップ協力、日経「アジアの未来」での各国閣僚発言、そしてアジアへ向けて打ち出された100億ドルのパワー・アジア構想までを検証します。

CATEGORY: 国際情勢・経済安全保障 PUBLISHED: UPDATED:
2026年2月28日のイラン情勢悪化以降、日本政府は同日中に緊急対策本部を設置。3月11日に燃料油激変緩和措置(G7最安170円水準・補助42円/L)、4月15日にAZEC+首脳会合で総額約100億ドルのパワー・アジアを発表しました。関係閣僚会議は10回開催、5月の日越首脳会談で初の協力案件、日韓スワップ協力も合意されています。

本稿は、2026年2月28日のいわゆる「2月28日危機」発生から本稿執筆時点(2026年6月27日)までに、日本政府が実施してきたイラン情勢関連の国内対応・外交対応を、首相官邸・外務省・経済産業省・内閣官房・JETRO等の一次情報を中心に時系列で整理するものです。とりわけ、原油の約95%、ホルムズ海峡経由原油の約9割を中東に依存する日本にとって、東南アジア諸国との連携は単なる外交儀礼ではなく、サプライチェーン上の死活問題となっています。本稿後半では、フィリピン・タイ・インドネシア・マレーシア・ベトナムの各国対応と日本との具体的な連携枠組みを深掘りします。

100億ドル パワー・アジア
金融協力総額
12億バレル 調達換算量
ASEAN約1年分
170 ガソリン維持水準
(G7最安)
42 ガソリン
1L当たり補助額
10 中東情勢関係
閣僚会議
15か国 AZEC+首脳会合
参加国
30 茂木外相
外相会談実施数
95% 日本の
中東依存度(原油)

第1章 緊急対応の初動、2026年2月28日から3月初旬まで

イラン情勢への日本政府対応の起点は、2026年2月28日です。同日、米国とイスラエルがイランへの軍事攻撃を実施し、最高指導者ハメネイ師を含むイラン政府高官が複数死亡したと報じられました。イラン側は3月2日にホルムズ海峡封鎖を宣言し、湾岸諸国のエネルギー施設・米軍基地・観光施設への報復攻撃を激化。日本のシーレーンの要衝は事実上の機能不全に陥りました。

官邸・外務省・経産省の三層対応

日本政府の初動は速かった、と評価できます。首相官邸の発表によれば、2月28日の第一報を受けて高市早苗総理は直ちに関係省庁に情報収集と邦人安全確保を指示し、同日16時、官邸内に「イラン情勢に関する情報連絡室」を設置しました。さらに同日、外務省にも「イラン情勢に関する緊急対策本部」が立ち上がっています。

同日夜、高市総理の主宰により国家安全保障会議が開催され、海路・空路の状況把握、関係事業者への情報提供、経済的影響の洗い出しを含む方針が決定されました。3月2日には、経済産業省に「イラン情勢を踏まえたエネルギー対策本部」が設置され、燃料油・石油製品の安定供給確保が政策課題として明確化されました。

2026.02.28 (FRI) 米国・イスラエルによるイラン攻撃。同日16時、官邸に「情報連絡室」設置。外務省「緊急対策本部」設置。高市総理が国家安全保障会議を開催し、邦人安全確保・経済影響洗い出しを指示。
2026.03.01 (SAT) イラン情勢についてと題する外務大臣談話を発出。早期事態沈静化と外交努力の継続を表明。
2026.03.02 (SUN) 経済産業省が「イラン情勢を踏まえたエネルギー対策本部」設置。同日、茂木敏充外務大臣がサウジアラビア・UAE・カタール・オマーン等中東諸国の駐日大使と面会、邦人保護と情勢沈静化に向けた連携を確認。
2026.03.05 (WED) 外務省が中東地域全域の危険レベルを引き上げ、邦人出国支援を本格化。イラン全土はレベル4(退避勧告)、湾岸諸国はレベル3(渡航中止勧告)に。
三層構造の意義。2月28日から3月初旬までの数日間で、官邸の情報統括(情報連絡室)、外務省の邦人・外交対応(緊急対策本部)、経産省のエネルギー対応(エネルギー対策本部)という三層の指揮系統が稼働しました。2019年のホルムズ海峡における日本関係船舶被害(タンカー攻撃事案)以降に整備された危機管理プロトコルが、実戦的に機能した最初の事例とも言えます。

第2章 燃料対策と国内経済安定化、激変緩和措置と国家備蓄放出

外交・邦人保護の初動に続き、政府が直面したのは原油価格高騰と国民生活への波及でした。米国の対外戦略の変化を背景に、WTI原油は3月上旬に1バレル120ドルに迫る局面を迎え、国内ガソリン全国平均は3月16日週には190.8円/Lに上昇しました。これは前週比で29.0円もの急騰幅であり、政府の介入を待たずに、ガソリン200円/Lも視野に入る情勢となっていました。

3月11日の高市総理会見、170円/L水準維持を宣言

2026年3月11日、高市総理は会見を開き、「燃料油価格激変緩和対策基金」の残高を活用した緊急的な激変緩和措置の実施を赤澤亮正経済産業大臣に指示したと表明しました。中身は次のとおりです。

  • ガソリンの全国平均小売価格を170円程度に抑制(高市政権発足前1年間の平均178円より下げる水準)
  • 軽油・重油・灯油についても同様の激変緩和措置を実施
  • 事態長期化に備え、息切れしない持続的な対応を実施
  • 令和7年度予算予備費(約8,600億円が未使用)の活用も視野

3月19日からは支給単価30.2円/Lでの支給が開始され、ガソリン全国平均価格は当該週から段階的に170円程度へ低下する見通しが示されました。

国家備蓄放出と石油元売・輸入事業者への文書要請

もう一つの大きな政策決定が、3月12日付の国家備蓄放出です。資源エネルギー庁から石油元売・輸入事業者に対し、国家備蓄の放出等を国内の石油安定供給に活用するよう文書による要請が発出されました。日本の石油備蓄日数は「254日分」とされるものの、これは備蓄法ベースの実績推計値であり、最悪のシナリオに耐え得る実態とは乖離があるとの指摘もあります。

あわせて、3月14日には経済産業省ホームページに「燃料油や石油製品等の供給に関する情報提供受付」が設置され、事業者・消費者からの情報提供を受け付ける仕組みが整備されました。これは便乗値上げや供給逼迫の早期把握を狙ったものです。

代替ルートからの調達拡大

中東依存度を直ちに下げることは構造的に困難ですが、政府は代替ルートからの調達拡大を急ピッチで進めました。具体的には、サウジアラビアの紅海側ヤンブー港やUAEのフジャイラ港など、ホルムズ海峡を経由しない積み出し港からの調達拡大が確認されています。これは、産油国側の協力なしには実現できない調整であり、日本外交の地道な積み上げを反映したものと言えます。

「ガソリン200円シナリオ」の回避。3月11日時点で高市総理は「ガソリン価格が1リットル当たり200円を超える水準となる可能性も否めません」と述べていました。事実、3月16日週は190.8円まで上昇しており、政府介入がなければ200円突破は時間の問題だった可能性が高い局面でした。激変緩和措置と国家備蓄放出の組み合わせが、消費者物価指数(CPI)の急上昇とそれに連動する金融政策の不確実性を一定範囲に抑え込んだと評価できます。

第3章 中東情勢関係閣僚会議の連続開催、10回にわたる政府横断対応

イラン情勢への政府対応で目立つのは、関係閣僚会議の極めて高い頻度です。内閣官房副長官補室の公表資料に基づき、第1回から本稿執筆時点(2026年6月27日)までの全10回の開催実績を整理します。これは、首相官邸が政府横断で情勢評価と政策パッケージを調整する常設チャネルを稼働させ続けたことを意味します。

開催日主な論点・成果
第1回2026年3月24日(月)関係閣僚会議の正式立上げ。情報収集・共有・提供、中東地域の航行安全、エネルギー安定供給確保の方針確定
第2回2026年3月31日(火)09:20-09:30「中東情勢に伴う重要物資安定確保担当大臣」発令(赤澤経産大臣兼務)、医薬品・医療機器・医療物資等の確保対策本部設置、ホルムズ海峡安全航行に関する「共同声明」呼びかけ
第3回2026年4月10日(金)08:00-08:154月8日の米イラン一時停戦合意の総括、高市総理→イラン大統領直接電話、茂木外相による事態発生以降30回の外相会談総括
第4回2026年4月16日(木)18:15-18:30AZEC+首脳会合直前の対応整理、原油代替調達拡大方針
第5回2026年4月24日(金)停戦動向、米イラン仲介国との連携、湾岸諸国との連携深化
第6回2026年4月30日(木)日イラン首脳会談総括、停戦維持に向けた外交チャネル整理、建設・住宅資材の安定供給対策方針
第7回2026年5月12日(火)18:00-18:15英仏共催ホルムズ海峡多国籍ミッション国防大臣オンライン会合連携、長期化シナリオ対応
第8回2026年5月21日(木)12:20-12:355月19日の日韓首脳会談成果報告(パワー・アジア下の日韓エネルギー協力)。詳細は第8章。
第9回2026年6月2日(火)18:00-18:15米イラン二段階合意の方向性、原油・石油製品「年を越えて」供給継続見通し、川中・川下「目詰まり」対策。詳細は第8章。
第10回2026年6月11日(木)18:00-18:15本稿執筆時点で直近の閣僚会議。長期化シナリオ下の安定供給維持と国内目詰まり解消の継続強化

とりわけ第7回(5月12日)には、英仏共催のホルムズ海峡における多国籍ミッションに関する国防大臣オンライン会合との連動が確認できます。中東の航行の自由を担保するため、欧州諸国主導の枠組みに日本が参画する形が整いつつあるという、安全保障面での重要な進展です。

関係閣僚会議と並行する三層の実務体制

関係閣僚会議の高頻度開催と並行して、政府は分野別の実務体制を矢継ぎ早に整備しました。整理すると次の三層構造になります。

  • 中東情勢に伴う重要物資の安定的な供給確保のためのタスクフォース(第1回 2026年4月2日、経産省本館12階特別会議室)。赤澤経済産業大臣の下、ナフサ・石油由来製品(医療・農業・容器包装)の安定供給を所管。
  • 中東情勢に影響を受ける医薬品・医療機器・医療物資等の確保対策本部(経産大臣+厚労大臣共同本部長)。透析回路、輸血パック、注射器、医療用手袋・エプロン等の確保。第5回まで開催が確認されている。
  • 中東情勢に伴う食料の安定供給・確保のための対応チーム(農林水産省内)。3月末以降に事業者からの相談件数241件を受理、地域基幹乳製品工場への燃油供給確保を実現。

赤澤亮正経済産業大臣は2026年3月30日付で「中東情勢に伴う重要物資安定確保担当大臣」の発令を受け、経産大臣との兼務で実務指揮にあたっています。経産省は「中東情勢関連対策ワンストップポータル」を開設し、医薬品確保対策本部、タスクフォース、地方経済産業局窓口、潤滑油・住宅建材・溶剤等の事業者要請等の進捗を一元公開しています。

第4章 外交チャネルの広がり、日米・湾岸諸国・仲介国・IMOへの働きかけ

政府は国内対応と並行して、極めて幅広い外交チャネルを動かしました。外務省中東アフリカ局が2026年4月3日時点で取りまとめた整理資料に基づき、主要な外交アクションを類型化します。

対米連携と日米首脳協議

高市総理は2026年3月20日、政権発足後初の訪米を行い、日米同盟の再強化と経済安全保障での連携拡大を確認しました。ホルムズ海峡の航行安全とエネルギー安定供給に向けて、日米間で米国産エネルギーの生産拡大に共同で取り組むこと、日本国内において米国産原油を備蓄する共同事業を実現する方針が合意されています。5月15日にも日米首脳電話会談が実施され、停戦動向と長期化シナリオ対応が議論されました。米国はイラン情勢への対応の一環として、イラン産原油の一部制裁を3月20日付で一時解除しており、対米連携は単なる同盟確認にとどまらない実務的調整を伴うものとなっています。

湾岸諸国との集中的な首脳・外相対話

外務省資料によれば、4月時点で次の湾岸諸国・周辺国と首脳または外相レベルでの電話会談・対話が実施されています。

  • 日・UAE首脳電話会談(4月7日)
  • 日・オマーン首脳電話会談(4月14日)
  • サウジアラビア、UAE、カタール、オマーン、クウェート、エジプト、ヨルダン、バーレーンと外相電話会談を実施

湾岸諸国はイラン報復攻撃の被害国であると同時に、日本にとってはエネルギー安定供給の最重要パートナーです。これらの集中的な対話は、二重の意味(被害国への連帯と、エネルギー安定供給の確保)を持ちます。

仲介国(パキスタン・トルコ・エジプト・サウジ)との連携

外交努力のもう一つの軸は、米イラン間の仲介を行う国との連携でした。日本はパキスタンとの首脳電話会談(4月13日)でイスラマバードにおける米イラン協議の仲介努力を支持する立場を伝え、トルコ・エジプト・サウジとの外相電話会談を通じて停戦合意に向けた多国間外交を後押ししました。これは、日本が当事国でない地政学的紛争において、外交資源を仲介促進に集中させた典型的な事例です。

IMOにおけるホルムズ海峡「海上回廊」設置提案

もう一つ注目すべきは、国際海事機関(IMO)におけるホルムズ海峡の安全な「海上回廊」設置提案を、日本が主導した点です。これは商船・タンカーの航行の自由を国際法上の枠組みで担保するための重要な布石であり、過去にホルムズ海峡で日本関係船舶が攻撃を受けた経緯を踏まえれば、日本のシーレーン外交の到達点の一つと位置づけられます。

ホルムズ海峡安全航行に関する「共同声明」とマーシャル諸島の参加

2026年3月31日の第2回関係閣僚会議では、茂木敏充外相がマーシャル諸島・マレーシア・フィリピンの各首脳と電話会談を行い、ホルムズ海峡の安全な航行に関する「共同声明」への参加を呼びかけたことが報告されました。マーシャル諸島はその場で参加表明を行っています。マーシャル諸島は便宜置籍船国として世界有数の船籍登録規模を持つ国であり、ホルムズ海峡を通過する船舶の旗国としての発言力は大きいものがあります。日本の外交が単なる二国間関係を超え、便宜置籍船・船籍国・港湾国の三層を視野に入れた重層的なものになっていることが伺えます。

IEAビロル事務局長との面会、追加協調放出の検討

2026年3月25日、茂木外相は国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長と面会し、IEA加盟国による追加的な協調放出の可能性を含めた緊密な連携を継続することで確認しました。3月12日の日本国家備蓄放出と並行して、IEA加盟国レベルの協調枠組みの活用余地を探る動きであり、原油国際市場の安定化に向けた多国間調整の核となるアクションです。

茂木外相、約30回の外相会談を実施

第3回関係閣僚会議(4月10日)の議事要旨によれば、茂木外相は事態発生(2月28日)以降、電話を含め約30回の外相会談を実施したと報告されています。さらにホルムズ海峡に関する外相オンライン会合等にも出席し、精力的に外交活動を展開しました。一国の外相が単一テーマで40日程度の間に30回もの外相会談をこなすペースは異例であり、日本外交が中東情勢に投入した外交資源の大きさを示すものです。

日イラン外交チャネルの維持

緊迫した情勢下でも、日本はイランとの首脳・外相レベルの直接対話を維持しました。2026年4月30日には日イラン首脳会談、5月2日には日イラン外相電話会談が実施されています。日本がイランと長年にわたり比較的良好な外交関係を維持してきた歴史的経緯が、軍事衝突当事国でないグローバルプレーヤーとして、対話の窓口を保ち続ける役割を果たしました。

第5章 パワー・アジア構想、100億ドル金融協力の中身

日本政府のイラン情勢対応の中でも、最も野心的かつ大規模な政策パッケージが、2026年4月15日のAZEC+オンライン首脳会合で発表された「パワー・アジア」です。正式名称は「アジア・エネルギー・資源供給力強靭化パートナーシップ(Partnership On Wide Energy and Resources Resilience Asia)」、略称POWERR Asia(パワー・アジア)。

AZEC+首脳会合の構造

4月15日午後3時から約60分間、高市総理が議長を務め、オンライン形式で開催されたAZEC+首脳会合には、AZEC(アジア・ゼロエミッション共同体)パートナー国に加え、その他アジア地域の主要国、国際機関代表が結集しました。

区分参加国・機関
AZECパートナー国(10)豪州、ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム
その他アジア(5)韓国、インド、バングラデシュ、スリランカ、東ティモール
国際機関(オブザーバー)国際エネルギー機関(IEA)、アジア開発銀行(ADB)、東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)

参加した8名の首脳(マルコス比大統領=ASEAN議長国、アンワル馬首相、ウォン星首相、アヌティン泰首相、フン越首相、ラモス=ホルタ東ティモール大統領、ラーマン・バングラ首相、金民錫韓国国務総理ら)から、パワー・アジア立ち上げへの歓迎が表明されています。

100億ドル金融協力の二本柱

パワー・アジアは、緊急対応と中長期の構造的対応の二本柱で構成されます。

柱1:緊急対応(Immediate Response)

  • 原油・石油製品の調達に対する金融面での協力
  • 燃料不足の影響を受けるサプライチェーン企業への融資
  • 調達換算で最大約12億バレル、ASEAN約1年分の原油輸入相当
  • 医療物資(人工透析器具、手術用廃液容器、手袋等)のサプライチェーン維持

柱2:構造的対応(Structural Resilience)

  • アジア域内の原油備蓄日数拡大に向けた、備蓄・放出制度の構築
  • 備蓄タンクの建設・利用協力
  • 重要鉱物の確保(レアアース等)
  • バイオ燃料、次世代太陽電池(ペロブスカイト等)、小型モジュール炉(SMR)など、エネルギー源多様化
  • 省エネへの取組を通じた産業の高度化

実行機関と「POWERR Asia FAST ウィンドウ」

パワー・アジアの実行を担うのは、国際協力銀行(JBIC)、国際協力機構(JICA)、日本貿易保険(NEXI)の三機関です。とりわけJBICは、2025年10月に設置済みの「日本戦略投資ファシリティ」内に、新ウィンドウとして「POWERR Asia FAST ウィンドウ」を創設しました。原油・石油製品調達や燃料不足影響を受けるサプライチェーン企業に対して、JBIC法に基づく金融協力が機動的に提供される枠組みです。

また、本会合では従来のAZECが掲げてきた「エネルギー安全保障・経済成長・脱炭素の同時実現」に、経済・エネルギー強靭化の視点を加え、「AZEC 2.0」として進化させる方向で合意されています。脱炭素一本足だったAZECに、有事の供給確保という新たな柱が加わったわけです。

規模感の置き換え。総額約100億ドルは日本円で約1兆5,000億円から1兆6,000億円規模に相当します。原油・石油製品調達への換算では最大約12億バレル=ASEAN諸国の約1年分の原油輸入量に匹敵する規模です。これは「日本がアジア各国に原油を融通する」のではなく、アジア各国の信用補完と調達金融を支援することで、地域全体の調達能力を底上げする設計になっている点が肝心です。

第6章 ASEAN各国との連携を深掘り、5か国の状況と日本との接点

パワー・アジアという大枠の下で、ASEAN各国はそれぞれの財政余力・資源条件・政治状況に応じた対応を取っています。住友商事グローバルリサーチが2026年4月27日付で公表したレポート「イラン情勢がASEAN5の経済に与える影響」やJETROの地域分析レポートを踏まえ、主要5か国の状況と日本との接点を整理します。

フィリピン|世界初の「国家エネルギー非常事態」宣言

フィリピンは、ASEAN内で最も劇的な対応を取った国です。マルコス大統領は2026年3月24日、世界で初めて「国家エネルギー非常事態」を宣言する大統領令第110号に署名しました。背景には、フィリピンが原油輸入の9割超を中東に依存する純輸入国であり、政府備蓄が約45日分(2025年末は60日分)まで減少していた脆弱性があります。

非常事態宣言に基づき、マルコス大統領を委員長とする省庁横断の「UPLIFT委員会」が設置され、燃料・食料・医薬品の供給流通統制、海外からの100万バレル規模の原油追加調達、契約金の一部前払い容認、公共交通・医療施設への支援強化が実施されました。さらにエネルギー省は4月1日から石炭火力発電量の一時的増強を決定し、最大の供給国インドネシアに石炭安定供給を確認するなど、地域内連携にも踏み込んでいます。フィリピン中央銀行は中東情勢の影響を受けて政策金利を4.5%に引き上げました。

日本との接点では、4月15日のAZEC+首脳会合でマルコス大統領(ASEAN議長国)がパワー・アジアを歓迎し、緊急対応の調達金融支援の枠組みに参画しています。

タイ|4,000億バーツ規模のエネルギー構造改革借入を承認

タイ政府は、補助金付き価格の据え置きと財政出動の拡大を中心に対応しました。とりわけ重要なのは、タイ政府がエネルギー構造改革などへの4,000億バーツ規模の借り入れを承認した点です。タイは元々、補助金付き燃料価格制度を運用しているため、即応性が高い反面、長期化に耐える財政的裏付けが課題でした。今回の4,000億バーツ承認はその裏付け強化策と位置づけられます。

日本との接点では、AZEC+首脳会合でアヌティン首相が参加し、パワー・アジアによる原油・石油製品調達金融支援を歓迎しています。タイには日系自動車・電機メーカーの集積があり、サプライチェーン維持の観点で日本側にも実利が大きい連携です。

インドネシア|プラボウォ大統領訪日と重要鉱物・原子力協力覚書

インドネシアは2026年3月31日、プラボウォ大統領が公式に初訪日し、高市総理と首脳会談を行いました。中東情勢を念頭にエネルギー安保の観点での連携が確認され、共同記者発表では「インドネシアは主要な資源大国であり、両国が重要鉱物や原子力に関する協力覚書に署名した」ことが表明されています。

また、ロイター通信は2026年3月27日、インドネシア政府が日本の資源開発大手INPEXに対し液化石油ガス(LPG)の融通を求め、現地法人が対応の可否を精査中と報じました。同案件が首脳会談で話題に上ったか否かについて日本外務省はノーコメントとしましたが、二国間のエネルギー資源融通の実務交渉が水面下で進んでいたことは確認できます。

インドネシアは燃料補助金の拡充で対応しましたが、補助金増額が財政赤字・公的債務の法定上限超過懸念につながり、通貨ルピア安を招きやすい構造的弱点を抱えています。安全保障分野では、政府安全保障能力強化支援(OSA)の枠組みでインドネシア海軍を支援することや、海上保安機関の能力向上で協力強化が合意されました。

マレーシア|既存補助金制度+石油所得税+「LNG日本を優先」

マレーシアもインドネシアと同様に燃料補助金制度を運用していますが、税外収入と石油所得税の増加も期待できることから、財政懸念拡大による通貨安はインドネシアに比べ限定的とみられています。これは産油国・産ガス国としての構造的優位を反映したものです。

日本との接点では、AZEC+首脳会合でアンワル首相が参加し、パワー・アジアの枠組みを歓迎しました。さらに2026年6月10日の日経フォーラム第31回「アジアの未来」に登壇したアンワル首相は、マレーシア産LNGの調達において「日本を優先する」方針を表明し、安定供給を強調しました。同じ会場ではアンワル首相が国際秩序の開放性堅持を訴え、「イランとの対話を」と各国政府に呼びかけており、ASEAN域内の対イラン外交における主導的立場を示しています。マレーシアには日系電機・化学メーカーの集積があり、サプライチェーン維持の重要拠点です。

ベトナム|パワー・アジア初案件「ギソン製油所原油調達支援」

ASEANのなかでも、ベトナムと日本との連携は、本稿の核心の一つです。時系列で動きを追います。

  • 2026年4月13日:高市総理が、トー・ラム共産党中央委員会書記長兼国家主席との首脳電話会談を実施。アジア地域全体のエネルギー強靱化に向けた協力を確認。ベトナムはレアアース埋蔵量が世界第6位であり、経済安全保障上極めて重要なパートナーであることが強調されました。
  • 2026年4月15日:AZEC+首脳会合にレ・ミン・フン首相(ベトナム)が参加。パワー・アジア立ち上げを歓迎。
  • 2026年5月1日〜3日:高市総理がベトナム公式訪問。政権発足後アジアで初の外遊先としてベトナムを選定。新指導部との関係構築を進め、「包括的戦略的パートナーシップ」を強化。
  • 2026年5月2日:ラム書記長兼国家主席との首脳会談、続いてフン首相との首脳会談を実施。パワー・アジア初の協力案件として、ベトナム中部のギソン製油所のフル稼働確保のための原油調達支援が合意されました。気候変動対応ODA、重要鉱物、原子力、ガスなどエネルギー開発協力の促進も確認。
  • 2026年5月2日(同日):高市総理がベトナム国家大学ハノイ校で外交政策スピーチを実施。FOIPの進化(自由で開かれたインド太平洋の更新版)として、(ア)パワー・アジア、(イ)日・ASEAN・AI共創イニシアティブ、(ウ)海底ケーブル等を含むFOIPデジタル回廊構想、(エ)CPTPPの拡充、(オ)OSA・ODAを通じた安全保障連携、の5点を提示。

パワー・アジア初案件にベトナム・ギソン製油所が選ばれた意味は重要です。ギソン製油所はベトナム国内の石油製品需要を支える基幹インフラであり、操業停止はベトナム経済全体、そしてキヤノンを含む日系企業現地法人のサプライチェーンに直接的なダメージを与えます。日本企業がベトナムで生産する医療物資が日本に輸出されるという相互依存関係を踏まえれば、ベトナムへの原油調達支援は、日本国民の生活安定にも直結する施策です。

レアアース・半導体・宇宙という三層連携。5月2日の訪越では、エネルギー協力にとどまらず、レアアース(ベトナム埋蔵量世界6位)、半導体人材育成(日越大学での半導体エンジニア養成プログラム)、宇宙協力(地球観測衛星LOTUSat-1開発支援、ホアラック宇宙センター)の三層連携が確認されました。エネルギー危機を契機に、経済安全保障の全方位協力へと連携の深さが拡張された格好です。

第7章 構造的課題と今後の論点、長期化シナリオへの備え

中東依存度95%という構造的脆弱性

日本国際問題研究所の2026年3月戦略コメントは、日本が原油の約95%を中東地域に依存しており、ホルムズ海峡封鎖が重大な戦略的リスクとなることを指摘しています。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの2026年4月レポートも、ホルムズ海峡封鎖の長期化シナリオでは、日本経済が景気後退局面に入るほどの下押し圧力が生じる可能性を否定していません。

もっとも、同レポートは早期停戦シナリオも提示しています。2026年は米国の中間選挙の年であり、トランプ大統領としては選挙前の事態収拾の動機が強いことから、4〜6月期中に本格的な停戦に至り、7〜9月期中には市況・物流が攻撃前水準に近づくシナリオが現時点で最も現実的とされました。実際、米イラン間では4月8日に2週間の一時停戦合意が発表されるなど、停戦に向けた動きが生じています。一方で、停戦は「不安定ながら維持」(イラン外相、5月15日BRICS外相会合)の状況にあり、6月時点でも先行き不透明感は続いています。

石油備蓄日数254日の実態と再構築議論

政府公表の「石油備蓄254日分」は備蓄法ベースの推計値であり、実態と乖離があるとの指摘が国会議論でも出ています。特定の品目(軽油、ジェット燃料等)の備蓄期間や、特定の地域への偏在を考慮すると、最悪のシナリオに耐え得る備蓄戦略の再構築が急務であるとの意見が出ています。パワー・アジアが備蓄制度構築・備蓄タンク整備への協力を含むのは、自国の備蓄拡充とアジア域内の備蓄ネットワーク構築を一体で進める設計です。

海上自衛隊によるシーレーン警戒の論点

日本国際問題研究所は、ホルムズ海峡の安全確保が困難となる場合、日本関係船舶の安全確保を目的として海上自衛隊の関与が求められる可能性を指摘しています。過去の中東情勢緊張局面では、日本関係船舶の情報収集や警戒監視のために自衛隊が派遣された例があり、今回の事態が長期化した場合、自衛隊による護衛や警戒監視の在り方が改めて政策課題となる可能性があります。前述の英仏共催の多国籍ミッションへの参画は、その布石としての側面もあります。

国家安全保障戦略の早期改訂

2022年版の国家安全保障戦略では、資源国との関係強化、供給源の多角化、エネルギー自給率向上などとともに、有事にも耐え得る強靱なエネルギー供給体制を構築する必要性が示されていました。高市政権は同戦略の早期改訂にも意欲的とされ、エネルギー地政学の視点を踏まえた政策パッケージの再構築が論点となっています。

第8章 6月以降の最新動向、日韓スワップ・日経アジアの未来・米イラン二段階合意

5月後半から6月にかけて、対応の焦点はさらに広がりました。本稿執筆時点(2026年6月27日)までの主要動向を整理します。

2026年5月19日|日韓首脳会談、パワー・アジア下の日韓エネルギー協力

2026年5月19日、高市総理は李在明(イ・ジェミョン)韓国大統領との首脳会談で、パワー・アジア下の日韓エネルギー安全保障協力を立ち上げました。柱は二つです。

  • インド太平洋地域の備蓄強化を含むエネルギー供給強靱化の共同推進
  • 原油・石油製品およびLNGの相互融通・スワップ取引を含む日韓両国のエネルギー安全保障強化

これは、パワー・アジアの構造的対応の柱である「アジア域内の備蓄ネットワーク」を、日韓二国間の具体的実務協力にブレイクダウンした最初の事例です。5月18日には日韓経済産業当局のオンライン会談で実務協議が先行しました。日韓は原油・石油製品・LNGの輸入構造が類似しており、スワップ取引が成立すれば中東依存度の同時低減に寄与します。

2026年5月21日|第8回関係閣僚会議、ガソリン補助42円とG7最安水準

第8回関係閣僚会議で、高市総理は次の重要な進捗を確認しました。原油価格の高騰局面が継続する中、ガソリン補助金は1リッター当たり42円に拡大されました。これによりガソリン全国平均価格は170円水準で安定的に推移し、G7各国の中で最も安い水準を維持しています。あわせて電気・ガス料金支援が、使用量の増加する7月から9月までの間、標準世帯で3か月で約5,000円相当の支援を実施することが決定されました。

2026年6月2日|第9回関係閣僚会議、二段階合意の方向性と「年を越えて」供給見通し

第9回関係閣僚会議では、米イラン交渉の見通しについて、「まず戦闘終結・ホルムズ海峡開放に向けた覚書を結び、その後、核問題や制裁解除等の残された論点について協議する二段階合意」が目指されている旨が、外務省から報告されました。停戦は不安定ながら維持されていますが、ホルムズ海峡の完全な機能回復には時間を要する見通しです。

同会議で赤澤経済産業大臣から報告された主な運用数値は次のとおりです。政策の重心が「調達確保」から「流通の目詰まり解消」へシフトしたことが分かります。

  • 原油の代替調達:5月は約6割、6月は約7割以上を確保
  • ナフサ代替調達:従来の85%程度まで回復、4月の在庫活用は0.1ヶ月分に圧縮
  • 原油・ナフサ由来の化学製品を含む石油製品は「年を越えて」供給継続が可能な見通し
  • シンナー国内出荷116%、塗料111%(前年同月比)。農業用マルチ98%は要観察
  • 中東情勢に伴う雇用調整助成金 約2か月で休業計画届175件(前年4-5月の3,932件と比較し限定的)

政府は5月27日から29日にかけて、川上の石油化学工業協会に加え、川中・川下の塗料、シンナー、塩ビ関連業界へヒアリングを実施し、流通過程の目詰まり要因として(1)川上メーカーの翌月原料供給量未確定、(2)中小工務店・一人親方の資材調達難、(3)地方への情報伝達遅延、の3類型を抽出。地方経済産業局・地方整備局・地方運輸局がプッシュ型で中小事業者ヒアリングを展開する体制が確認されています。

2026年6月10日〜11日|日経フォーラム「アジアの未来」

日本経済新聞社主催の日経フォーラム第31回「アジアの未来」が、2026年6月10日と11日の2日間、都内で開催されました。テーマは「協力と連携が導く、よりレジリエントで豊かなアジア」。マレーシア・アンワル首相、タイ・シーハサック副首相、フィリピン・ラザロ外相、東ティモール・ラモス=ホルタ大統領、ラオス・ソンサイ首相、ベトナム・チャウ副首相ら、約30人の政府首脳・閣僚・有識者・企業経営者が登壇しました。

エネルギー安全保障に関する主な発言と議論は次のとおりです。

  • マレーシア・アンワル首相のLNG「日本を優先」発言と国際秩序の開放性堅持・対イラン対話呼びかけは第6章マレーシア節で詳述。
  • フィリピン・ラザロ外相:「燃料価格の高騰で農家や工場労働者が貧困に追い込まれないようにしなければならない」と述べ、ホルムズ海峡封鎖の長期化への警戒感を表明。
  • 6月11日午後のエネルギー供給戦略パネル討論:国境を越えた資源調達連携の強化が必要との意見が相次ぎ、ホルムズ海峡通過石油の8割がアジア向けという構造的現実が改めて確認されました。
  • ASEAN+3パネル:金融統合の加速が必要との議論。
  • 前日6月9日:韓国SKグループ協力の日韓特別セッション開催。

このフォーラムは、政府間枠組み(AZEC+首脳会合)とは別軸の、民間・有識者を交えた多面的な議論の場として、ASEAN・東アジア諸国の対イラン情勢戦略を可視化する機会となりました。

2026年6月11日|第10回関係閣僚会議

本稿執筆時点で最新の第10回関係閣僚会議が2026年6月11日18時から官邸4階大会議室で開催されました。長期化シナリオ下での安定供給維持と、国内目詰まり解消の継続強化が議論されています。

2026年6月15日|日米首脳電話会談

2026年6月15日、高市総理は訪中直後のトランプ大統領との電話会談を実施し、イラン情勢について「事態の沈静化が一刻も早く実際に図られることが重要」との日本の基本的考え方を改めて伝達しました。米中対話の進展を背景に、米イラン仲介の動きとも連動するタイミングです。

「過去形」ではなく「進行形」の対応。2月28日の事態発生から本稿執筆時点までの約4か月間、日本政府の対応は週単位で更新され続けています。本稿で取り上げた閣僚会議10回、首脳・外相会談、パワー・アジア初案件のギソン製油所、日韓スワップ協力など、いずれも「成立して一段落」ではなく、実装段階の課題が継続的に持ち上がる進行形のプロセスです。長期化シナリオ下では、外交実績の積み上げと同時に、流通目詰まりの解消や地方中小事業者支援といった「ミクロな実装」が政策の重心となっています。

よくある質問

日本政府がイラン情勢を受けて設置した主な対策本部・会議体は何ですか。
2026年2月28日16時、首相官邸内に「イラン情勢に関する情報連絡室」が設置され、同日、外務省にも「イラン情勢に関する緊急対策本部」が設置されました。3月2日には経済産業省が「イラン情勢を踏まえたエネルギー対策本部」を立ち上げ、3月24日からは内閣官房による「中東情勢に関する関係閣僚会議」が開始されました。同会議は本稿執筆時点まで10回開催され、並行してタスクフォース・医療物資確保対策本部・食料供給対応チームが稼働しています。
ガソリン価格を170円程度に抑える激変緩和措置とは何ですか。
2026年3月11日に高市早苗総理が会見で表明した緊急措置で、原油価格高騰によりガソリン全国平均が190円台に上昇するなか、燃料油価格激変緩和対策基金を活用して小売価格を全国平均170円程度に抑制する仕組みです。3月19日から支給単価30.2円で支給が開始され、軽油・重油・灯油にも同様の措置が講じられました。
パワー・アジア(POWERR Asia)はどのような枠組みですか。
2026年4月15日のAZEC+オンライン首脳会合で高市総理が発表した、総額約100億ドル規模の金融協力枠組みです。正式名称は「アジア・エネルギー・資源供給力強靭化パートナーシップ(Partnership On Wide Energy and Resources Resilience Asia)」。原油・石油製品の調達やサプライチェーン維持の緊急対応と、備蓄制度構築・エネルギー源多様化などの構造的対応の二本柱で構成され、最大約12億バレル、ASEANの約1年分の原油輸入に相当する規模です。
パワー・アジアの最初の協力案件はどこに対するものですか。
2026年5月2日の日越首脳会談で、ベトナム中部のギソン製油所のフル稼働を確保するための原油追加調達支援が、パワー・アジア初の協力案件として合意されました。ギソン製油所はベトナム国内石油製品需要の約3割を担う基幹インフラで、操業継続が日本企業現地法人を含む地域サプライチェーンの維持に直結します。
ASEAN各国はイラン情勢にどのように対応していますか。
フィリピンは2026年3月24日、マルコス大統領が世界で初めて「国家エネルギー非常事態」を宣言し、UPLIFT委員会設置と100万バレル規模の原油追加調達に動きました。タイ政府は4,000億バーツ規模のエネルギー構造改革向け借入を承認、インドネシアは燃料補助金の拡充とINPEXへのLPG融通要請、マレーシアは既存補助金制度で価格抑制、ベトナムは原油調達多角化を進めるなど、各国が財政余力と資源条件に応じた対応を取っています。

主な情報源・エビデンス一覧

  • 内閣官房「中東情勢に関する対応」ポータル(cas.go.jp/jp/seisaku/chyutoujyousei/index.html)。関係閣僚会議第1回(2026年3月24日)から第10回(2026年6月11日)まで全議事次第・議事要旨を一元公開。本稿の閣僚会議関連事実関係はすべて同ポータルの一次公開資料を出典とする。
  • 内閣官房「中東情勢に関する関係閣僚会議(第2回)議事要旨」2026年3月31日付。マーシャル・マレーシア・フィリピンとの「ホルムズ海峡安全航行に関する共同声明」呼びかけ、IEAビロル事務局長との面会(3月25日)、追加協調放出協議の詳細。
  • 内閣官房「中東情勢に関する関係閣僚会議(第3回)議事要旨」2026年4月10日付。米イラン一時停戦(4月8日)の総括、高市総理→イラン大統領直接電話、茂木外相約30回の外相会談実績。
  • 内閣官房「中東情勢に関する関係閣僚会議(第8回)議事要旨」2026年5月21日付。5月19日日韓首脳会談での日韓原油・石油製品・LNG相互融通スワップ協力、ガソリン補助42円/L・G7最安170円水準維持の運用数値。
  • 内閣官房「中東情勢に関する関係閣僚会議(第9回)議事要旨」2026年6月2日付。米イラン二段階合意の方向性、原油代替調達5月約6割→6月約7割、ナフサ代替85%回復、「年を越えて」供給継続見通し、雇用調整助成金175件等の運用数値。
  • 内閣官房「中東情勢に伴う重要物資の安定的な供給確保のためのタスクフォース(第1回)議事次第」2026年4月2日付。経産省本館12階特別会議室での開催実績、所掌範囲の確認。
  • 経済産業省「中東情勢関連対策ワンストップポータル」(meti.go.jp/chuto_josei/)。医薬品・医療機器確保対策本部、潤滑油・住宅建材・溶剤等の業界要請、地方経済産業局窓口の運用状況を一元公開。
  • 首相官邸「令和8年2月28日 イラン情勢についての会見」2026年2月28日付。情報連絡室設置と国家安全保障会議開催、邦人保護指示の公式記録。
  • 首相官邸「令和8年3月11日 イラン情勢に関する政府の対応についての会見」2026年3月11日付。燃料油激変緩和措置(ガソリン170円/L水準維持)と燃料油価格激変緩和対策基金活用の決定。
  • 首相官邸「中東情勢に関する関係閣僚会議(第8回)」2026年5月21日付。日韓首脳会談(5月19日)のパワー・アジア下日韓協力立上げと「ガソリン補助42円/L、G7最安170円水準」の高市総理発言。
  • 首相官邸「エネルギー強靱化に関するAZEC+オンライン首脳会合についての会見」2026年4月15日付。パワー・アジアの全体像と参加国・金融協力規模の公式説明。
  • 首相官邸「トー・ラム・ベトナム共産党中央委員会書記長兼国家主席及びシャリフ・パキスタン・イスラム共和国首相との中東情勢への対応等に関する電話会談についての会見」2026年4月13日付。ベトナム・パキスタン首脳電話会談の詳細。
  • 首相官邸「ベトナム及びオーストラリア訪問等についての会見」2026年5月4日付。パワー・アジア初案件ギソン製油所原油調達支援の合意経緯。
  • 外務省「エネルギー強靱化に関するAZEC+オンライン首脳会合の開催」2026年4月15日付(mofa.go.jp)。POWERR Asia正式名称・構成・参加国一覧の一次情報。
  • 外務省「高市総理大臣のベトナム及びオーストラリア訪問(令和8年5月1日~5日)」2026年5月2日付。FOIPデジタル回廊構想を含む外交政策スピーチ全文。
  • 外務省中東アフリカ局「米国との緊密な意思疎通/イランに対する働きかけ」2026年4月3日時点。日米連携、湾岸諸国電話会談、IMOホルムズ海峡海上回廊提案の整理資料。
  • 経済産業省「中東情勢を踏まえた燃料油・石油製品の安定供給確保」2026年3月24日付資料4(内閣官房)。激変緩和措置の運用、国家備蓄放出、代替ルート調達拡大の詳細。
  • 経済産業省「『アジア・エネルギー・資源供給力強靱化パートナーシップ』に基づく現地企業への金融面での協力等について」2026年4月21日付。JBIC・NEXIによる「POWERR Asia FASTウィンドウ」創設の実務情報。
  • 経済産業省「米国政府と共催で、インド太平洋エネルギー安全保障閣僚・ビジネスフォーラムを開催しました」2026年3月15日付。インド太平洋18か国参加の閣僚フォーラム共同声明。
  • 国土交通省「第8回中東情勢に関する関係閣僚会議を踏まえた大臣指示」2026年5月21日付。ペルシャ湾内日本関係船舶の安全確保最優先、川中川下流通実態把握指示の内容。
  • 日本経済新聞「日ASEAN、エネ安保で協力拡大 石油調達先の分散急ぐ」2026年6月11日付。日経フォーラム第31回「アジアの未来」エネルギーパネル討論の総括、フィリピン・ラザロ外相発言。
  • 日本経済新聞「マレーシア首相、LNG『日本を優先』 安定供給を強調」2026年6月10日付。アンワル首相の日経フォーラム登壇発言。
  • 日本経済新聞「マレーシア首相、国際秩序『開放性を堅持』 アジアの未来開幕」2026年6月10日付。アンワル首相の「イランとの対話を」呼びかけ。
  • 日本経済新聞「米国による秩序破壊、アジアに危機感 安全保障環境に転換点」2026年6月10日付。「アジアの未来」初日のアジア各国首脳の懸念表明。
  • 日本経済新聞「エネルギー問題、国境を越えた調達連携を アジアの未来・パネル討論」2026年6月11日付。ホルムズ海峡通過石油の8割アジア向け・国境を越えた連携必要性の議論。
  • 日経フォーラム第31回「アジアの未来」公式ページ(nikkeiforum.com/foa26jp/)。2026年6月10〜11日開催、テーマ「協力と連携が導く、よりレジリエントで豊かなアジア」、登壇者構成等の一次情報。
  • JETRO「AZEC+オンライン首脳会合開催、日本はエネルギー強靭化に向けた支援を表明」2026年4月17日付。AZEC 2.0への進化方針を含む解説。
  • JETRO「高市首相がベトナム訪問、新指導部と関係構築し、経済安全保障の協力を強化」2026年5月11日付。ギソン製油所原油調達支援、ODA、半導体・重要鉱物協力の解説。
  • JETRO「フィリピン、『国家エネルギー非常事態』を宣言」2026年3月31日付。大統領令第110号、UPLIFT委員会、原油備蓄45日分の状況解説。
  • JETRO「中東情勢のASEANへの影響(後編)エネルギー安全保障が加速」2026年5月19日付。ASEAN各国の補助金・備蓄放出・需要抑制策の整理。
  • 住友商事グローバルリサーチ「イラン情勢がASEAN5の経済に与える影響」2026年4月27日付。インドネシア・タイ・フィリピン・ベトナム・マレーシアのマクロ経済影響と政府対応分析。
  • 日本国際問題研究所「国問研戦略コメント(2026-8)米国・イスラエルによるイラン攻撃と中東秩序の再編」2026年3月付。日本のエネルギー安全保障への含意と海上自衛隊シーレーン警戒の論点。
  • 日本国際フォーラム「イラン情勢を読む——揺らぐ中東秩序と国際政治」2026年5月14日付。中東秩序変容の構造分析。
  • 笹川平和財団小林周「求められる『エネルギー地政学』の視点」(IINA)2026年3月付。Qatar Energyのフォース・マジュール宣言(3月4日)等の整理。
  • 日本エネルギー経済研究所小林周(共著)「緊急対談:ホルムズ海峡封鎖と日本・中東のエネルギー安全保障」(ROLES東京大学)2026年3月16日付。専門家による情勢分析と政策論点。
  • 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「イラン情勢の緊迫化と日本経済への影響」2026年4月21日付。早期停戦シナリオと長期化シナリオの整理。
  • 野村證券岡崎康平「イラン攻撃でホルムズ海峡、実質航行不能に 日本経済にも一定の影響が及ぶ可能性」2026年。予備費約8,600億円規模と金融政策への影響分析。
  • 北海道庁総合政策部国際局国際課「イラン情勢関連情報について」2026年継続更新。「中東情勢に関する北海道実務者連絡会議」(5月15日開催)、「原油価格高騰に伴う中小企業経営・金融特別相談室」(3月19日設置)等、地方自治体レベルの対応事例。
  • 丸紅米国会社ワシントン事務所「ワシントン動向(2026年4月)」2026年4月6日付。米国側情勢(イラン産原油一部制裁解除、ガソリン価格急騰、FRB据え置き)の整理。
  • FNNプライムオンライン「高市総理『パワー・アジア』発表 東南アジア各国へ総額100億ドル=約1兆6000億円の支援方針」2026年4月15日付。100億ドルの円建て換算規模の解説。
  • NOVAIST「高市首相、アジア原油調達に100億ドル支援 新枠組み『POWERR Asia』創設」2026年4月16日付。会合60分の運営詳細と高市総理の「日本の備蓄を融通するものではない」発言の整理。
  • ニューズウィーク日本版「日・インドネシア両首脳、エネルギー安保の観点で連携確認 中東情勢巡り」2026年3月31日付。プラボウォ大統領訪日、INPEXへのLPG融通要請、重要鉱物・原子力協力覚書署名の経緯。
  • JOGMEC「フィリピン:国家エネルギー非常事態を宣言、一時的に石炭火力発電を増加」2026年4月1日付。フィリピン・エネルギー省による石炭火力増強の決定とインドネシアからの石炭安定供給確認。
  • 第一生命経済研究所西濵徹「フィリピンがエネルギー非常事態宣言、マルコス政権は窮地に」2026年3月25日付。フィリピン政府備蓄45日分・100万バレル規模原油追加調達等の詳細データ。
  • Bloomberg「フィリピン大統領、国家エネルギー非常事態を宣言―中東紛争が直撃」2026年3月25日付。マルコス大統領令の英語原文と政策概要。
  • 日本経済新聞「フィリピン『エネルギー非常事態』を宣言 燃料供給に差し迫った危機」2026年3月24日付。マニラ特派員による現地報道。
PAGE TOP