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OPEC+動向2026年7月報告、8月も増産合意へ、ホルムズ海峡回復で原油「不足から過剰」への大転換 | プラスチックパレット株式会社
Iran Crisis Series / OPEC+ & Oil Market

OPEC+動向2026年7月報告、8月も増産合意へ、ホルムズ海峡回復で原油「不足から過剰」への大転換

2026年2月末に始まったイラン情勢による「供給不足」相場は、7月に入り潮目が変わりつつある。OPEC+の増産継続、ホルムズ海峡・ペルシャ湾の輸送量急回復、そしてWTIの70ドル割れという一連の動きを一次情報で整理する。

公開日: 最終更新: カテゴリ:中東情勢・エネルギー
Answer OPEC+は7月5日の会合で、8月も日量18.8万バレルの増産を決める見通しだ。ホルムズ海峡の原油輸送量は交戦開始後で最大となり、ペルシャ湾の原油輸出は戦前の75%まで回復。WTIは70ドルを割り込み、市場の関心は供給不足から供給過剰へと移りつつある。

2026年2月末のイラン情勢発生から4カ月が経過し、原油市場の風景は大きく変わった。UAE産原油の輸出が6月に過去最高を記録したのに続き、7月に入るとOPEC+全体の動きや価格そのものにも「正常化」の兆しが鮮明になっている。一方でOPEC+は増産のペースを緩めておらず、イラクは独自の生産枠拡大を求めて存在感を強めている。本記事では、OPEC+の8月増産見通し、イラクの立場、ホルムズ海峡・ペルシャ湾の輸送統計、そして原油価格の下落という一連の動きを一次情報で整理する。

1. タイムライン、6月中旬から7月1日まで

2026年6月8日
OPEC+中核7カ国が7月の生産枠を日量18.8万バレル引き上げることで合意。6月分と同水準で、UAE離脱後初の会合から数えて2回連続の増産となった。
2026年6月24〜25日
ホルムズ海峡経由の原油輸送量が交戦開始後で最大の水準に達したとケプラー社が報告。ペルシャ湾からの原油輸出は戦前水準の75%まで回復したとブルームバーグが報道。
2026年6月25日
イラク石油省が、OPEC離脱を検討しているとの報道を正式に否定。生産枠見直しへの支持は改めて表明した。
2026年6月26日
WTI先物が69.23ドルで終了し、2月27日(開戦前日)以来となる70ドル割れを記録。オマーン沖での貨物船攻撃も供給過剰観測を覆すには至らなかった。
2026年6月29日
モルガン・スタンレーが2週間で2度目となる原油価格予想の下方修正を実施。足止めされていたイラク産原油約1400万バレルの全量がホルムズ海峡を通過したこともブルームバーグが報じた。
2026年7月1日(現在)
ロイターが関係筋の話として、OPEC+が8月の生産枠も日量18.8万バレル引き上げる公算が大きいと報道。次回会合は7月5日に予定されている。

2. OPEC+、8月も増産へ、7カ国合意の中身

18.8
8月の増産幅見通し
(バレル/日)
56.7
7月時点で残る
減産枠(バレル/日)
7カ国
増産合意の
参加国数
9月末
減産枠解消の
見込み時期

ロイターが関係筋の話として伝えたところによると、OPEC+は7月5日の会合で8月の生産枠を日量18.8万バレル引き上げる公算が大きい。サウジアラビア、ロシア、イラク、クウェート、カザフスタン、アルジェリア、オマーンの7カ国は、2026年4月から2023年4月合意分の自主減産(当初日量165万バレル、UAE離脱後は約150万バレル)を段階的に縮小しており、7月分までの引き上げで残る減産枠は約56.7万バレルとなっている。8月・9月も月18.8万バレルペースの増産が続けば、9月末までに解消される計算だ。

ただし、増産幅がそのまま市場に供給されるとは限らない。ロシアは2025年11月以降、許可された生産水準に達しておらず、カザフスタンは主要油田の稼働が国際石油会社との長期契約に縛られるため、自国のクォータを大きく超過する状態が続いている。一方でサウジアラビア、イラク、クウェートは中東情勢の影響で大幅な減産を強いられ、4月末時点の生産量は許可水準を合計日量830万バレルも下回っていた。つまり、名目上の増産幅と実際に市場へ供給される量には、なお大きな乖離がある。

「ホルムズ海峡が閉鎖されたままでは、OPEC+の増産にはほとんど意味がない。海峡が再開すれば、市場は供給不足への懸念から供給過剰への懸念へと、極めて速いスピードで転換しうる」

— ホルヘ・レオン氏(Rystad Energy、元OPEC職員)

3. OPEC+全体会合、2027年生産能力査定の行方

7カ国による自主減産の調整とは別に、OPEC+全21カ国が参加する全体会合も同じ日程で開催されている。6月8日の全体会合では、2026年末まで適用されているグループ全体の生産方針そのものには変更を加えないことが確認された。むしろ市場の関心を集めているのは、OPEC+が独立系の国際コンサルタントと共同で進めている「加盟国の最大持続可能生産能力」の査定作業だ。この査定結果は、2027年以降の生産基準(ベースライン)を設定する参考材料として使われる予定で、3章で触れるイラクの生産枠拡大要求も、この査定プロセスの結果次第で大きく左右される見通しだ。

査定作業には、中東情勢の混乱で生産能力そのものが正確に把握しにくくなっているという固有の難しさもある。サウジアラビア、イラク、クウェートは中東情勢の影響で本来の生産能力を大きく下回る操業を強いられており、平時の実力を反映した数値をどう算定するかが、2027年以降の各国のシェアを左右する重要な論点になっている。

4. イラクの立場、離脱否定と生産枠見直し要求

6月25日、イラク石油省は「バグダッドがOPEC離脱を検討している」とする一部報道を正式に否定した。声明では、アリ・ファーレハ・アルザイディ首相もイラク政府も離脱を提起したことはないとしたうえで、「加盟国の持続可能な生産能力を反映する形で生産上限を再評価すべきだ」という従来からの主張を改めて強調した。この再評価は、OPEC+が独立系コンサルタントと共同で進めている「最大持続可能生産能力」の査定プロセスに基づくもので、2027年以降の生産基準(ベースライン)を決定づける見通しだ。

438
イラクの7月
生産枠(バレル/日)
90%
イラク歳入に占める
原油輸出の割合
500
イラクが目指す
生産目標(バレル/日)
700
長期的な
輸出能力目標(バレル/日)

イラクの主張の背景には、深刻な財政事情がある。原油輸出はイラク歳入の約9割を占めるが、開戦前に日量約400万バレルだった生産量は、ホルムズ海峡の混乱により一時90万〜150万バレル程度まで落ち込んだ。前首相ムハンマド・シアア・アルスダーニー氏も在任中から、イラクの埋蔵量・生産能力・人口・復興需要に見合った生産枠への見直しを繰り返し求めてきた経緯がある。今年5月のUAEのOPEC離脱は、バグダッドにとってこの主張を後押しする「好機」と受け止められているという。イラク石油省は、こうした要求はあくまでOPEC+の技術的・合意ベースの枠組みの中で解決すべき問題であり、離脱という選択肢とは切り離していると強調している。

5. ホルムズ海峡・ペルシャ湾、輸送量の急回復

480
現在のホルムズ海峡
輸送量(バレル/日)
1,500
戦前の
ホルムズ海峡輸送量
75%
ペルシャ湾原油輸出の
戦前比回復率
30〜40
1日あたりの
タンカー通航数

ケプラー社の集計によれば、米イラン間の合意以降、ホルムズ海峡経由の原油輸送量は日量約480万バレルまで増加した。6月の流量は2月28日の開戦以降で最大となったが、戦前水準(日量約1,500万バレル)にはなお遠い。モルガン・スタンレーのアナリストは、木曜日に湾から出航したタンカーが35隻に達したと確認しており、これは開戦前の通常水準(1日30〜40隻)の範囲に収まる、開戦以降初めての水準だとしている。

ペルシャ湾全体で見ると、回復のペースはさらに進んでいる。米イラン間の暫定合意署名から1週間で、ペルシャ湾からの原油輸出は戦前水準の少なくとも75%まで回復した。この回復のボトルネックは生産能力そのものではなく、数カ月にわたる混乱の後に立て直しが必要な海運インフラ(タンカーの確保・保険・乗組員の確保)にあるとされる。5月時点で中東地域全体の生産停止量は日量11.3万バレルに達しており、この「積み上がった供給」が海峡の再開とともに一気に市場へ戻り始めている構図だ。

5-1. 開戦がもたらした国別の明暗

開戦から2カ月間の生産・歳入への打撃は、迂回インフラの有無によって国ごとに大きく異なった。サウジアラビアとUAEはパイプラインという迂回路を持つため打撃が相対的に軽く、逆にイラク・クウェート・カタールのように迂回路を持たない国ほど深刻な減産・減収に見舞われた。

生産量(開戦前→4月)3月の歳入影響(前年比)
サウジアラビア1,011万→687万bpd+5.6億ドル
UAE339万→202万bpd▲1.7億ドル
イラク414万→149万bpd▲55.3億ドル
クウェート258万→56万bpd▲23.9億ドル

迂回パイプラインを持つサウジアラビアとUAEでさえ生産量は大きく落ち込んだが、歳入面ではプラスまたは小幅なマイナスにとどまった。原油価格の高騰が減産分をある程度相殺したためだ。一方、迂回路を持たないイラクは、生産量の落ち込み幅が最も大きいうえ価格高騰の恩恵も受けられず、3月だけで前年同月比55億3,000万ドルもの歳入減少に見舞われている。この落ち込みが、4章で見た生産枠拡大要求の切実さの背景となっている。

6. イラク産原油、足止め分すべてが脱出

1,400
脱出したイラク産原油
(バレル)
140
10日間の日量換算
(バレル/日)

ブルームバーグが集計したタンカー追跡データによると、6月下旬の10日間で、イラク産原油約1,400万バレルを積んだタンカー群がペルシャ湾を脱出し、アジア・欧州・米国の買い手に向かった。日量換算では約140万バレルに相当する。2月末以降に積み込まれ、ホルムズ海峡の混乱で湾内に留まっていた貨物は、これによってすべて最終目的地に向けて出航したことになる。5章で見た生産・歳入への打撃に加え、港湾への輸入貨物量も半減するなど、イラクは開戦の打撃を最も強く受けた産油国の一つだった。バスラのズベール油田(通常時日量約40万バレル)も、イランの攻撃を受けて生産量が25万バレル程度まで低下していた経緯がある。

7. 個別企業に見る供給回復の実態

国・機関レベルの統計だけでなく、個別企業の動きにも供給回復は色濃く表れている。ADNOC(アブダビ国営石油)は6月、3件のスポット原油入札を通じて合計4,800万バレル以上を売却した。カタールの国営エネルギー会社QatarEnergyも、開戦後初めてとなる7〜8月積み原油入札(アル・シャヒーン、カタール・マリン、カタール・ランドの各グレード)を実施し、開戦前の商流を取り戻す動きを見せている。サウジアラビアの国営石油会社アラムコも、数カ月にわたり操業が停滞していたラス・タヌーラ・ターミナルでの積み出しを再開した。

これらの動きが重なったことで、市場では「地政学リスクよりも実際に届く原油の量」を注視する空気が強まっている。オマーン沖での貨物船攻撃という新たな緊張材料が生じた際も、原油価格が大きく反発しなかった一因は、こうした個別企業レベルでの供給回復が着実に積み上がっていたことにあるとみられる。

8. 供給過剰への警戒、モルガン・スタンレーの下方修正

$75
2026年第3・4四半期
ブレント予想(修正後)
$90→$75
第3四半期予想の
修正幅
480
2027年の
供給過剰見通し(バレル/日)
200〜300
開戦前の
供給過剰見通し(バレル/日)

モルガン・スタンレーは6月29日、2週間で2度目となる原油価格予想の下方修正に踏み切った。ホルムズ海峡の輸送回復が想定を上回るペースで進んだことが理由で、ブレント原油の2026年第3四半期予想を従来の90ドルから75ドルへ、第4四半期予想を80ドルから75ドルへ、それぞれ引き下げた。2027年上半期も75ドル、下半期は70ドルとする見通しも新たに示している。同行は、中東からの供給回復に加え、堅調な米国産原油の輸出と中国の輸入低迷という「双子の緩衝要因」が、価格の上値を抑え続けるとみている。

同行はさらに、2027年の世界原油需給について、日量480万バレルの供給過剰になるとの見通しを新たに示した。開戦前の同行の想定は200万〜300万バレルの過剰にとどまっており、海峡の閉鎖が一時的にこの過剰見通しを「深刻な不足」へと反転させていたことになる。同行の試算では、2027年の需給均衡には、ホルムズ海峡の流量が戦前水準の約65%(日量1,100万〜1,200万バレル)まで戻れば十分だとしており、現在の回復ペースであれば、その水準は容易に超えるとみられている。

9. 戦略備蓄という緩衝材の行方

2.5
4〜6月の
世界SPR放出(バレル/日)
0.7
7〜8月の
放出見込み(バレル/日)

開戦直後、IEA(国際エネルギー機関)は史上最大規模となる4億バレルの協調備蓄放出を主導し、危機下でも日量2.5百万〜3百万バレル程度を市場に供給する「緩衝材」の役割を果たしてきた。しかし4〜6月に日量250万バレルのペースで行われていたこの世界規模のSPR(戦略石油備蓄)放出は、7〜8月には日量70万バレルへと大きく絞り込まれる見通しだ。中東からの供給そのものが回復してきたことで、備蓄に頼る必要性が薄れてきたことを意味する。

今後は逆に、放出した備蓄を積み増す動きが焦点となる。IEAは危機下で放出した400万バレルの再補充に向けた計画を進めており、インドなど輸入依存度の高い国々も、緊急時の備蓄拡大を検討しているとされる。中国も、開戦時点で保有していた約12億バレル(中東からの輸入必要量の約5カ月分に相当)の商業在庫を取り崩しながら急場をしのいできた経緯があり、供給が正常化する局面では、こうした在庫の再構築需要が価格の下支え要因になる可能性がある。

10. WTI70ドル割れの意味

$69.23
6月26日の
WTI終値
$67.28
開戦前日(2/27)の
WTI終値
▲19%
6月の
WTI下落率
▲24%
4〜6月期の
WTI下落率

6月26日、WTI先物は前日比3.74%安の69.23ドルで取引を終えた。2月27日(開戦前日)以来となる70ドル割れで、この時のWTI終値(67.28ドル)に近い水準まで、地政学リスクプレミアムがほぼ剥落したことを意味する。同日のブレント原油も4.34%安の71.99ドルで終え、開戦前の水準に接近した。WTIは6月だけで約19%、4〜6月期では約24%下落しており、これは2020年以来最大の四半期下落率だという。オマーン沖での貨物船への攻撃という新たな緊張材料が出た後も、下落基調は変わらなかった。市場が地政学リスクよりも「実際に中東の原油がどれだけ市場に届いているか」を重視する局面に入ったことを示している。

値動きの背景には、需給構造の変化もある。ブレント先物では、期近の8月限が翌9月限を下回る「コンタンゴ」(先高観測の後退を示す市場構造)が、開戦以降初めて発生した。アナリストの間では、この状態が数週間続く可能性があるとの見方が出ている。ペルシャ湾に足止めされていた原油という「在庫の山」が解消されるまでの一時的な現象とみられるが、裏を返せば、それだけ短期的な供給過剰感が強いことの表れでもある。

タンカーの動きにも需給の歪みが表れている。LSEGのデータによれば、直近1週間でペルシャ湾を出航するタンカー4隻に対し、湾内に入るタンカーはわずか1隻というペースにとどまっている。原油を積んで出て行く船は多いが、それを補充するために入ってくる船が少ない状態が続けば、いずれ積み出せる原油そのものが不足する可能性があり、供給回復の持続性を占ううえで注視すべき指標となっている。

11. 産油国の「量で歳入を守る」圧力、価格下落局面でむしろ強まる構造

ここまで見てきたOPEC+の増産継続(2章)とイラクの生産枠拡大要求(4章)には、共通する経済構造がある。産油国の歳入は「価格×数量」で決まるため、価格が下落する局面では、歳入目標を維持しようとするほど、より多くの数量を売る必要に迫られる。これは価格を無視した行動ではなく、価格下落を数量増でカバーせざるを得ないという、財政の原油依存度が高い産油国に特有の構造的圧力だ。ホルムズ海峡の混乱で生産・輸出が大きく制約され、なおかつ攻撃被害からの復旧投資も抱える国ほど、この圧力は強く働く。

$84
イラクの財政均衡油価
(2024年、IMF)
$55
クウェートの
財政均衡油価
$80〜85
サウジアラビアの
財政均衡油価(平時)
$65
UAEの
財政均衡油価(離脱前提)

ただし、この圧力の強さは加盟国によって大きく異なる。イラクの財政均衡油価(歳入で予算を賄うために必要な原油価格)は2024年時点で1バレル84ドルとIMFが試算しており、2020年の54ドルから急上昇した。歳入の9割超を原油に依存し、迂回インフラも持たないイラクにとって、現在のWTI70ドル割れ・ブレント75ドル前後という水準は、財政均衡を大きく下回る。クウェートも迂回路を持たないうえ財政均衡油価は55ドル程度とされ、開戦直後の生産急減(258万→56万バレル/日)による打撃は深刻だった。

一方、サウジアラビアは平時ベースで財政均衡油価が80〜85ドル程度とされるが、開戦後は生産そのものが大きく制約されたため、同じ歳入を確保するために必要な価格は一時108〜111ドル程度まで実質的に切り上がったとの指摘もある。皮肉なことに、OPEC+が増産を発表するたびに「原油が市場に増える」との観測が広がり価格の重荷となる一方、サウジアラビア自身は戦争の影響で量を増やせない状況が続いた。増産の「量的な恩恵」を受けにくいまま、「価格下落の打撃」だけを受けやすい立場に置かれていたことになる。対照的にUAEは、財政均衡油価が65ドル程度と最も低く、政府系ファンドという厚い緩衝材も備えるため、この圧力からはほぼ自由な立場にある。5月のOPEC離脱は、こうした財政的な余裕の違いも背景にあったとみられる。

重要なのは、この構造が複数国で同時に働いたときに生まれる副作用だ。財政的に厳しい加盟国ほど「量で歳入を守ろう」とする一方、その行動が積み重なれば、市場全体の供給が増えて価格がさらに下押しされ、各国の歳入をかえって圧迫しかねない。個々の産油国にとって合理的な行動が、全体としては望ましくない結果を招く、いわゆる「合成の誤謬」的な構図だ。従来はサウジアラビアが増産に慎重な立場を取り、こうした動きにブレーキをかける役割を担ってきたが、5月のUAE離脱により「サウジ主導の生産規律」を最も一貫して支えてきた加盟国を失った形となっている。イラクの生産枠拡大要求や、7カ国による増産継続の背後には、こうした財政圧力とガバナンスの空白が重なっている。

12. 今後の見通し

7月5日のOPEC+会合は、この転換点を占ううえで重要な意味を持つ。8月の増産が予想通り決まれば、OPEC+は「供給不足時代」の増産方針を、供給過剰の懸念が強まる局面でもそのまま継続する形になる。背景には、11章で見た財政圧力に加え、ホルムズ海峡が閉鎖されている間に市場シェアを失った反動で、各国が増産による市場シェア回復を優先する思惑もあるとみられる。イラクの生産枠見直し要求も、この文脈でさらに勢いを増す可能性がある。

一方でリスクも残る。ホルムズ海峡は依然として「不安定な停戦」の下にあり、6月26日のオマーン沖攻撃が示すとおり、軍事的な緊張が完全に消えたわけではない。また、供給回復のペースが需要の回復を上回れば、モルガン・スタンレーが指摘する「双子の緩衝要因」(米国の高水準の輸出と中国の輸入低迷)と相まって、価格の下押し圧力はさらに強まる可能性がある。数カ月前まで「不足の恐怖」に支配されていた原油市場は、今や「過剰の恐怖」への転換点に立っている。

よくある質問

OPEC+は8月も本当に増産するのですか?

2026年7月1日時点では、ロイターが関係筋の話として日量18.8万バレルの増産が有力と報じている段階です。正式決定は7月5日の会合を待つ必要があります。6月・7月分は同幅の増産で合意済みのため、8月分も同様のペースになる可能性が高いとみられています。

イラクはOPECを脱退するのですか?

イラク石油省は2026年6月25日、離脱を検討しているとの報道を正式に否定しました。一方で、生産枠の見直しを求める姿勢は一貫して維持しており、UAEの離脱を交渉材料として活用しようとしているとみられています。

ホルムズ海峡はもう安全になったのですか?

完全に安全とは言えません。輸送量は交戦開始後で最大の水準に回復していますが、戦前水準(日量1,500万バレル)の3分の1程度にとどまります。6月26日にはオマーン沖で貨物船への攻撃も発生しており、緊張が完全に解消したわけではありません。

なぜ原油価格が下落しているのですか?

ホルムズ海峡・ペルシャ湾からの原油輸出が想定以上のペースで回復し、供給不足への懸念が後退したためです。加えて、足止めされていた原油の「在庫の山」が一気に市場に戻りつつあること、米国の高水準の輸出、中国の輸入低迷も価格の下押し要因となっています。

今後、原油はさらに値下がりする可能性はありますか?

モルガン・スタンレーは2027年の世界需給について日量480万バレルの供給過剰になるとの見通しを示しており、下値余地は残っているとみられます。ただしホルムズ海峡情勢は依然不安定であり、軍事的な緊張が再燃すれば価格が急反発するリスクも残ります。

迂回パイプラインを持たない国は、開戦でどのくらい打撃を受けたのですか?

深刻な打撃を受けました。迂回路を持たないイラクは生産量が開戦前の3分の1程度まで落ち込み、2026年3月だけで前年同月比55億3,000万ドルの歳入減少に見舞われました。一方、パイプラインを持つサウジアラビアやUAEは、生産量は落ち込んだものの、価格高騰の恩恵もあり歳入面の打撃は比較的軽微でした。

危機の間に放出された戦略備蓄は、今後どうなりますか?

放出ペースは大きく絞り込まれる見通しです。4〜6月に日量250万バレル規模で行われていた世界のSPR(戦略石油備蓄)放出は、7〜8月には日量70万バレルまで縮小する見込みです。中東からの供給が回復するにつれ、各国は放出した備蓄の再補充を検討する段階に移りつつあります。

産油国は価格が下がっても輸出を続けるのですか?

財政的に厳しい国ほどその傾向が強まります。歳入は「価格×数量」で決まるため、価格下落局面では歳入目標を維持しようと数量を増やす圧力がかかります。イラク(財政均衡油価84ドル)やクウェート(同55ドル)はこの圧力が強く働く一方、UAE(同65ドル、政府系ファンドの緩衝材あり)はほぼ自由な立場にあります。国によって事情が大きく異なる点には注意が必要です。

主な情報源

  1. ロイター(investingLive配信)(2026年7月1日)「OPEC+ Is likely to raise oil output quotas for August by 188K BPD」— 8月増産見通しの一次データに使用
  2. CNBC(2026年6月7日)「OPEC+ approves fourth oil output quota hike since Hormuz closure」— 7カ国の増産枠・残存減産枠・ロシア/カザフスタンの生産未達データに使用
  3. Argus Media(2026年6月25日)「Iraq denies Opec exit reports, seeks higher output cap」— イラクの公式声明・生産枠見直し要求の背景に使用
  4. Kurdistan24(2026年6月26日ごろ)「Iraq Denies Plans to Leave OPEC」— イラクの生産量推移・歳入依存度データに使用
  5. CNBC(2026年6月24日)「Oil tanker strait Hormuz Iran deal」— ホルムズ海峡輸送量(日量480万バレル)のケプラー社データに使用
  6. Bloomberg(2026年6月25日)「Persian Gulf Crude Oil Exports Rebound to 75% of Prewar Levels」— ペルシャ湾原油輸出の回復率データに使用
  7. Bloomberg(2026年6月29日)「Iraq Ships 14 Million Barrels of Oil After Hormuz Transit Eases」— イラク産原油の脱出量データに使用
  8. OilPrice.com(2026年6月30日)「Morgan Stanley Cuts Brent Forecast to $75 a Barrel」— 価格予想下方修正の詳細データに使用
  9. Global Banking and Finance Review(2026年7月1日ごろ)「Morgan Stanley Cuts Brent Crude Price Forecast, Flags 2027 Surplus」— 2027年供給過剰見通しのデータに使用
  10. CNBC(2026年6月26日)「U.S. crude oil falls below $70」— WTI終値・下落率データに使用
  11. Investing.com(2026年6月28日ごろ)「Crude Faces a Bearish Supply Shock as Gulf Exports Return」— コンタンゴ発生・供給ショックの分析に使用
  12. 笹川平和財団(SPF)国際情報ネットワーク分析(2026年6月ごろ)「The Petrodollar Order Under Strain as the Iran War Disrupts Gulf Energy Revenues」— 国別生産量推移・歳入影響データに使用
  13. FXStreet(2026年6月26日)「WTI falls below $70.50 due to oil supply surge from Middle East」— ADNOC・QatarEnergy・サウジアラムコの個別企業動向データに使用
  14. Brookings Institution(2026年6月ごろ)「From chokepoint to crisis: The Strait of Hormuz and global oil markets」— IEA協調備蓄放出・中国在庫データに使用
  15. Axios(2026年7月1日)「Middle East oil transit, production resumes faster than expected」— タンカー流出入の非対称性(LSEGデータ)に使用
  16. IMF「Iraq: 2025 Article IV Consultation」(2025年7月ごろ)— イラクの財政均衡油価(84ドル)データに使用
  17. The Middle East Insider(2026年3月19日)「Gulf States Fiscal Breakeven」— サウジアラビア・UAE・クウェートの財政均衡油価データに使用
  18. House of Saud(分析コラム)(2026年6月ごろ)「OPEC+ June 7: Saudi Arabia's Fiscal Trap Deepens」— サウジアラビアの実効財政均衡油価上昇の分析に使用

※ 本記事の数値(生産枠・輸送量・価格予想等)は執筆時点(2026年7月2日)の複数の独立した情報源に基づく。情勢は流動的であり、最新情報は各一次ソースを参照されたい。

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