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アルミナ大国インドネシアの台頭、中国投資と中東リスクが押し上げる対日供給の可能性
Geopolitics & Resource Supply Chain

アルミナ大国インドネシアの台頭、中国投資と中東リスクが押し上げる対日供給の可能性

ホルムズ海峡の通航制約で中東産アルミ供給が揺らぐなか、中国資本が主導するインドネシアの製錬拡大は、日本にとって現実的な代替調達先となり得るのか。歴史・投資動向・貿易統計から検証する。

初版公開:2026年6月30日 最終更新:
2026年2月28日に開戦したイラン情勢でホルムズ海峡の通航が制約され、日本のアルミ輸入の30%を占める中東産供給が動揺するなか、中国資本が主導するインドネシアの製錬拡大でアルミナ生産能力は最大2,980万トンに達する見通しとなり、2026年4〜6月期の対日プレミアムは350ドルと11年ぶりの高水準を記録した。

なぜ今、インドネシアのアルミナが注目されるのか

自動車のボディやエンジン、建材、飲料缶まで幅広く使われるアルミニウムは、原料となるボーキサイトからアルミナ(酸化アルミニウム)を精製し、それを電解してアルミ地金を作る三段階のサプライチェーンで成り立っている。この上流工程に近いほど代替が利きにくく、地政学リスクの影響を直接受けやすい。

2026年に入り、その上流工程が大きく揺れている。イラン情勢の緊迫化に伴うホルムズ海峡の通航制約は石油化学だけでなくアルミニウム市場にも波及し、日本アルミニウム協会の集計では、日本は2025年に中東から約59万トン、総供給量の約30%にあたるアルミを輸入していた。自動車業界に至っては、アルミ輸入の70%を中東に依存している(日本自動車工業会)。中東依存の高さが調達リスクとして可視化されるなかで、世界第5位のボーキサイト輸出国だったインドネシアが、中国資本の投資を受けて急速にアルミナ・アルミニウムの生産国へと姿を変えつつある。本稿では、その開発の歴史と現状、そして日本への供給源としての可能性を一次情報に基づいて整理する。

アルミナとは何か、バイヤー法と電力依存の構造

アルミナ(Al₂O₃)は天然には単独で存在せず、ボーキサイト鉱石を原料に製造される。主流の製法は1888年にオーストリアの化学者カール・ヨーゼフ・バイヤーが発明した「バイヤー法」で、湿式アルカリ法によりボーキサイトを高温・高圧下で水酸化ナトリウム溶液に溶解させ、アルミン酸ナトリウム溶液から水酸化アルミニウムを析出させ、これを1,000℃以上で焼成(か焼)することでアルミナが得られる。得られたアルミナを今度は氷晶石融体(約960℃)に溶解させ、ホール=エルー法(1886年発明)と呼ばれる電解製錬で還元すると、ようやくアルミ地金になる。1888年のバイヤー法とその2年前のホール=エルー法という19世紀末の二つの発明が、いまも世界のアルミニウム製造の基礎技術として現役で使われている。

このプロセスで決定的に重要なのが電力である。住友商事グローバルリサーチによれば、電解アルミニウム(一次アルミ)は生産コストの約4割を電力が占め、安価で安定したクリーン電力の確保が事業継続の生命線となる。実際、2025年にはオーストラリアやモザンビークで電力契約更新が難航し、製錬所が存続危機に陥った事例が報告されている。アルミ地金1トンを電解で得るには電力量で約13〜14MWhを要するとされ、これは家庭用電力消費の数年分に相当する。アルミ業界が「電気の缶詰」と呼ばれる所以である。

電力構成の違いはコスト差に直結する。学術論文(J-STAGE掲載、「アルミニウム電解炉の物質収支とエネルギー収支」)によれば、アルミ製錬のコスト構造は国・地域により大きく異なり、中国の石炭火力依存モデルでは電力費が総コストの48%にまで達するとされる。中国国内の生産が政府の生産上限(年4,500万トン)に張り付き、かつ国内炭価格の変動に晒されるなかで、中国資本が海外、特に安価な国内炭・水力資源を持つインドネシアやアンゴラに製錬拠点を移していく構造には、こうした電力経済学的な必然性がある。ボーキサイトの主要産出国はギニア、オーストラリア、ベトナム、ブラジル、ジャマイカ、中国、インドネシアなど、いずれも亜熱帯・熱帯地域に多いラテライト土壌に賦存するが、日本国内ではボーキサイトが産出せず、また1979年のオイルショック以降は電力コストの劣勢から国内製錬がほぼ消滅したため、原料・電力の双方で海外依存が宿命づけられている産業である。

日本のアルミ製錬撤退史、なぜ日本は「製錬国」をやめたのか

かつて日本は自由主義諸国でアメリカに次ぐアルミ生産国だった。日本アルミニウム協会の資料によれば、最盛期の1973年には国内に7社14工場、製錬能力164万トンを擁していたが、1973年と1979年の二度のオイルショックによる電力価格高騰で国際競争力を失い、1988年度には1社1工場・年産3.5万トンの設備を残すのみとなった。最後まで操業を続けていた日本軽金属・蒲原製造所も2014年3月末でアルミ製錬から撤退し、日本国内におけるアルミ電解製錬の歴史は事実上幕を閉じた。

アルミナ精製も同じ道をたどった。住友化学・日本軽金属を含む各社が2015年までに国内でのボーキサイト精製から撤退している。これは単なる企業判断ではなく、電力コスト構造に逆らえない構造的な選択だった。同時にこの撤退は、日本がアルミナ・アルミ地金の100%を海外調達に依存する形に切り替わったことを意味し、今日のサプライチェーン脆弱性の遠因となっている。この調達構造の不透明さについては別稿で詳しく論じた

インドネシアにおけるアルミナ・アルミ開発の歴史、日本企業が切り拓いた道

アサハン計画(1975〜2013)、日イ国家プロジェクトの38年

インドネシアとアルミニウム産業の関わりは、1975年7月7日に東京で締結された「アサハン協定」にさかのぼる。北スマトラ州のアサハン川流域は、トバ湖を水源とする毎秒100トン以上もの豊富な水量、水源から河口まで900m以上の高低差、約10mのV字峡谷という、水力発電に世界的にも稀な好立地だった。包蔵水力は100万kW以上とされ、戦前にはオランダや日本が現地調査を行いながら開発に至らなかった経緯がある。1970年代に入り、二度のオイルショックで国内アルミ製錬が国際競争力を失った日本は、政府開発援助(ODA)を用いた海外アルミ製錬という新たな解を模索した。当初はアメリカのカイザー・アルミニウム、アルコアも計画に加わったが資金面の問題から離脱し、日本単独の事業となった。

1975年7月、日本政府は本計画を日本・インドネシア両国間の最重要経済プロジェクトとして実現を図ることとし、日本輸出入銀行・海外経済協力基金・国際協力事業団(現JICA)を通じた所要の資金援助を閣議決定した。住友化学・日本軽金属・昭和電工・三井アルミニウム・三菱軽金属の当時のアルミ製錬5社と、住友商事・丸紅・三菱商事・三井物産など商社7社が出資して「日本アサハンアルミニウム株式会社(NAA)」を設立。NAAとインドネシア政府の合弁で「P.T. インドネシア・アサハン・アルミニウム(INALUM、イナルム)」が設立された。北スマトラ州クアラタンジュンに年産22.5万トン規模の製錬工場、シグラグラ・タンガの両瀑布に最大出力51.3万kWの発電所を整備し、1983年11月1日に生産を開始した。所要資金は当初2,500億円、見直し後は4,110億円と巨額の国家プロジェクトとなった。

合弁契約は「生産開始」から30年後の2013年11月1日に満了する条項を備えていた。インドネシア政府は2012年8月、INALUMの増産体制確立を理由に最大12兆ルピア(約1,000億円)の政府資金投入と日本側株式の全株買い取り(約7兆ルピア、580億円)を提示。譲渡価格をめぐる交渉が難航したものの、日本政府内から両国関係への影響を懸念する声が上がり、2013年12月9日、日本側保有株を5億5,670万ドル(約570億円)で売却する合意に至った。これによりINALUMは完全国有化され、現在は持株会社MIND ID傘下でインドネシア政府100%出資のアルミニウム製錬会社として存続している。38年にわたる日イ協力の象徴的プロジェクトは、こうして「日本主導」から「インドネシア国有」へと姿を変えた。

昭和電工タヤン工場(2014〜)、ケミカル用アルミナの拠点

アサハン計画と並行して、ボーキサイトからアルミナまでの一貫生産にインドネシアが取り組み始めたのは2000年代後半である。昭和電工(現レゾナック)は2007年、インドネシアの国営鉱業大手アンタム社、シンガポールのスター社、丸紅と共同でP.T. Indonesia Chemical Alumina(ICA)を設立し、西カリマンタン州タヤン地区で年産30万トン規模のケミカル用アルミナ工場の建設に着手した。工場は2011年1月に着工、2014年1月に操業を開始している。背景には、国内のボーキサイト残渣(赤泥)の海洋投入処分を環境問題から終了させる必要があったことに加え、前述のとおり住友化学や日本軽金属を含むアルミナメーカー各社が2015年までに国内でのボーキサイト精製から撤退するという業界再編の流れがあった。

同じ時期、インドネシア政府も資源政策の転換に動いた。2014年1月施行の新鉱業法により未加工鉱石の輸出が禁止され、ボーキサイトの生産量は大きく減少。これが後の全面禁輸へとつながる布石となった。

同じ時期、インドネシア政府も資源政策の転換に動いた。2014年1月施行の新鉱業法により未加工鉱石の輸出が禁止され、ボーキサイトの生産量は大きく減少。これが後の全面禁輸へとつながる布石となった。

ボーキサイト輸出禁止と中国資本による製錬ラッシュ

転機となったのは2023年だ。ジョコ・ウィドド大統領(当時)は2022年12月、ボーキサイトの輸出を2023年6月30日から全面禁止すると発表した。ニッケル鉱石で先行させた国内加工義務化と同じ手法を、ボーキサイトにも適用した形である。輸出禁止までにインドネシア国内では精錬所建設ラッシュが進み、稼働済み4カ所、建設中8カ所、全て完成すれば年間生産能力4,000万トン規模になると見込まれていた。

この製錬ラッシュの主役は中国資本である。日本経済新聞の報道によれば、ビンタン島南東端には中国の鉱業・金属加工大手である山東南山アルミニウムが大半を所有するアルミナ生産拠点があり、東南アジア最大級の規模を誇る。同社は2023年にビンタン島での製錬所建設に60億6,300万元(日本円換算で1,000億円超)を投じると発表した。これに加え、世界最大のステンレス・ニッケル生産者である青山控股集団も製錬事業に参入しており、ハルマヘラ島のウェダベイではXinfa-Tsingshanの合弁「Juwan」プロジェクト、スラウェシ島のインドネシア・モロワリ工業団地(IMIP)では「Taijing」、北カリマンタンではAdaro-Lygendの「Kaltara」プロジェクトが、いずれも自前の送電網と港湾を整備しながら完成間近となっている(住友商事グローバルリサーチ)。

トレード・データ・モニターの集計では、2025年1〜8月のインドネシアのアルミ輸出は32万5,293トンと前年同期比67%増加した。コンサルティング会社CRUのアナリストは、インドネシアの供給増加ペースが世界のアルミ需給バランスと価格形成に重要な役割を果たすと指摘している。

「インドネシア産」だが実態は「中国企業のオフショア生産」、対中依存の構造

注意が必要なのは、これらの新興製錬所がインドネシア国内に立地していても、所有・運営・最終販売先のいずれも中国企業のコントロール下にある点である。地理的な調達多角化(中東→東南アジア)は実現しても、企業レベルでは中国依存度がむしろ深まる可能性がある。「インドネシア産アルミナ」を購入するということは、実質的には「中国企業から購入する」ことを意味する場面が増えていく。日本のアルミ調達担当者にとっては、原産国コードが変わっても、最終的に交渉相手の本社所在地は北京・上海・青島となるという、これまでとは違う種類のリスク認識が必要になる。

かつて2007〜2014年のタヤン工場立ち上げ期には、昭和電工+アンタム社+丸紅という日本企業主体のコンソーシアムが先行していた。しかし2023年以降の製錬ラッシュにおいて、日本の総合商社・メーカーが中国資本主導の新興プロジェクトに新規に出資参画したとの情報は、本稿執筆時点では確認できていない。原料調達の上流工程における日本企業のプレゼンスは、構造的に後退しつつあると見て差し支えないだろう。

プロジェクト主な出資企業立地備考
ビンタン島アルミナ製錬所山東南山アルミニウムリアウ諸島州ビンタン島東南アジア最大級、投資額60.63億元
Juwan(ウェダベイ)Xinfa-Tsingshan合弁北マルク州ハルマヘラ島青山控股集団系
Taijing(IMIP)中国資本連合中央スラウェシ州モロワリ既存ニッケル工業団地に併設
Kaltara プロジェクトAdaro-Lygend合弁北カリマンタン州水力発電を活用

中国はなぜ生産を海外へ移すのか、生産上限と輸出環境の変化

中国企業がインドネシアへ製錬拠点を広げる最大の理由は、中国政府が設定した国内アルミ生産量の上限、年間4,500万トンに生産が迫っていることだ。住友商事グローバルリサーチによれば、中国の生産量はこの上限にほぼ達しており、国内でこれ以上の増産余地がない。そのため中国企業は供給能力を地理的に再配置する局面に入っており、インドネシアのほか、2026年1月にはアンゴラで中国系アルミ製錬所が新規稼働、カザフスタン・アゼルバイジャン・エジプトなどでも新規生産が構想段階にある。

並行して、中国財政省は2024年11月15日、アルミニウム製品に適用していた13%の輸出税還付措置を同年12月1日付で取りやめると発表した。還付廃止により中国産アルミ製品の輸出採算は悪化し、国際指標価格(LME3カ月物)は発表直後に一時前日比8%上昇する場面もあった。半製品の輸出競争力が削がれる一方で、生産能力そのものは依然として国内上限に張り付いているため、中国資本は精錬・製錬を担う生産拠点そのものを海外に移し、現地生産・現地販売に近い形で供給を確保する戦略へとシフトしている。これが、インドネシアにおける製錬ラッシュの構造的な背景である。

2026年イラン情勢とアルミニウム供給ショック

2026年2月28日、米国とイスラエルがイランに対して軍事行動を開始し、戦闘状態に入った。世界的なチョークポイントであるホルムズ海峡の通航は大きく制約され、原油・LNGだけでなくアルミニウム市場にも即座に影響が及んだ。年初に1トン3,000ドルの心理的節目を突破していたLME3カ月物価格は、開戦から1週間ほどで10%急騰し、3月半ばには一時3,500ドルを超過。4月半ばには3,600ドル台に達した(住友商事グローバルリサーチ)。

3月初旬にはガス供給や物流の制約を受け、カタールのQatalumとバーレーンのALBAが減産と不可抗力(フォースマジュール)を発表。事態が決定的に悪化したのは3月28日で、ALBAとUAEのEmirates Global Aluminium(EGA)が運営する各160万トン級の製錬所がイランの軍事攻撃を受けて生産設備が損傷した。EGAは被災したAl-Taweelah製錬所の完全復旧に最大1年を要する可能性があると発表している。国際アルミニウム協会(IAI)の統計では、湾岸5カ国(イランを除く)の一次アルミ生産が世界シェアの8.3%、中国を除く比較では20.8%を占めており、中東インフラへの物理的被害が世界のアルミ需給に直結する構図が改めて浮き彫りになった。

この影響は日本にも直接及んだ。2026年4〜6月期の対日プレミアム交渉は、交渉途上でイラン紛争が発生したことで提示額が撤回・引き上げられ、結果的に前期比8割高、11年ぶりの高水準となる1トン350ドルで決着した。Bloombergの報道では、愛知県のアルミ押出加工メーカーの経営者が中東依存からの調達先切り替えを検討していることや、トヨタ自動車副会長(日本自動車工業会会長)が中東依存度の高いナフサとアルミについて材料調達上の課題が出てくると述べたことが伝えられている。

対日プレミアム(MJP)とは何か、なぜ日本固有の指標があるのか

そもそも対日プレミアム(MJP:Major Japanese Port、CIF条件)とは、LMEの3カ月先物清算値という国際指標価格に上乗せされる、日本市場固有の割増金のことである。CME Groupによれば、海外アルミ生産者(主に中東・豪州系)と日本の需要家・商社の間で四半期ごとに長期契約交渉が行われ、その四半期に日本へ輸入される地金1トンあたりの割増額が決まる。同種の指標は北米中西部プレミアム(MWP)、欧州デューティ・ペイド・プレミアム(EU DDP)などにも存在し、地域ごとの需給バランス・輸送コスト・関税構造を反映する。アルミ価格は「LME基準価格+地域プレミアム+製品割増金」という三層構造で決まる。

過去のMJP推移を振り返ると、2021年1〜3月期は前期比48%高の130ドル、同年4〜6月期は149〜165ドルで交渉開始、2025年1〜3月期は228ドル、そして2026年4〜6月期は350ドルへと跳ね上がった。350ドルは11年ぶりの水準であり、つまり前回これに匹敵する高水準を記録したのは2015年頃まで遡る。背景には中東危機の急性ショックだけでなく、米国の50%関税による世界の需給歪み、欧州CBAM施行、中国の輸出税還付廃止という複数の構造変化が積み重なっている。MJPは「日本の調達担当者が支払う追加コスト」を示す体温計であり、その急上昇は調達ポートフォリオの見直しが避けて通れない段階に入ったことを示している。

4,500万t
中国国内アルミ生産量の政府上限
6/302023
インドネシア・ボーキサイト輸出全面禁止の施行日
67%
インドネシアのアルミ輸出増加率(25年1〜8月、前年同期比)
0.6%
日本のアルミ輸入に占めるインドネシア産の割合(2025年)

インドネシアは中東の代替供給地となり得るか

住友商事グローバルリサーチによれば、国営Inalumは現在計画中の案件がすべて稼働した場合、インドネシアのアルミナ生産能力は現状の900万トンから2,980万トンへ、一次アルミニウムは113万トンから1,490万トンへ拡大すると試算している。ゴールドマン・サックスはインドネシアの一次アルミ生産が2025年の81万5,000トンから2026年に160万トン、2027年に250万トンへ増加すると予測しており、これに伴い世界のアルミ市場は2026年に150万トン、2027年に200万トンの供給過剰に転じ、価格は2026年10〜12月期に1トン2,350ドルまで下落し得るとの見方を示している。

需給面だけを見れば、インドネシアの増産余力は中東供給の落ち込みを補う潜在力を持つ。一方で中東情勢の長期化が世界の資源需給に与える構造的な影響と同様に、インドネシアの増産にも構造的な懸念が存在する。Inalum自身が政府に対し、過剰供給とボーキサイト資源の急速な枯渇を理由に、新規アルミ・アルミナ製錬所建設の承認を一時停止するよう求めているが、現時点で政府は目立った対応を見せていない。供給拡大のペースが市場の吸収力を上回れば、価格下落と資源の早期枯渇という二つのリスクが同時に顕在化する可能性がある。

需給以外のリスクも見逃せない。中国資本が運営する既存のニッケル工業団地では、環境条例違反による行政指導や、地すべり・労災による死亡事故が報じられている。アルミ製錬の拡張が同じ中国資本・同じ工業団地の枠組みで進む以上、調達側はこうした操業面・ESG面のリスクも調達先選定の判断材料に含める必要がある。

もう一つの重要なESG論点は、電力源の構成である。インドネシアの新興アルミ製錬所の多くは、コスト競争力を確保するため、自家発電として石炭火力を採用している。これは安価な電力を実現する一方で、アルミ1トンあたりのCO2排出量は水力依存のカナダ・アイスランドなどと比較して数倍に達する。住友商事グローバルリサーチが指摘するように、世界のアルミ業界では「安価で安定したクリーン電力」の確保が共通の課題となっており、再エネ由来の電力で製造されたアルミにはカーボンクレジット文脈での付加価値が生まれつつある。日本企業がインドネシア産アルミを調達する際、欧州CBAM(国境炭素調整措置)の段階的拡大や、自社のScope3(サプライチェーン排出量)開示要請のなかで、「安いが排出量が高い」アルミをどう位置づけるかは、今後の戦略的な論点になる。

注目点:中東危機を起点とした供給網の組み替えはインドネシアに限らない。ロシア産アルミも中国需要の鈍化を受けて一部がアジア他市場へ振り向けられる計画が報じられており、インドネシアの増産と合わせて、アジア域内のアルミ調達地図そのものが流動化しつつある。

日本への輸出の現状、貿易統計が示す実像

では、インドネシア産のアルミナ・アルミニウムは実際にどれだけ日本に輸出されているのか。なお、財務省貿易統計では純粋なアルミナ(酸化アルミニウム単体)の国別輸入統計が細分化公表されておらず、本リサーチで確認できたのは川下工程にあたる「アルミニウム及び同合金」(地金・合金ベース、概況品分類)の統計である。インドネシアの新興製錬所はボーキサイトからアルミナ、アルミ地金までを一貫生産する設計が多く、この地金・合金統計はインドネシア産アルミナの実質的な需要動向を映す代理指標として読み解ける。同統計によれば、日本のインドネシアからのアルミ・合金輸入量は2025年で13,805トン、輸入総量235万974トンに対する割合は0.6%にとどまる。輸入元の上位はアラブ首長国連邦(40万305トン、17.0%)、オーストラリア(34万5,065トン、14.7%)、中華人民共和国(26万1,322トン、11.1%)が占めており、インドネシアは依然として小規模な供給源にすぎない。

ただし伸び率に目を向けると様相は異なる。インドネシアからの輸入量は2023年の2,749トンから2024年には16,792トンへと約6倍に急増している。2025年は13,805トンとやや反落したものの、品目を広げて非鉄金属全体(アルミニウムを含む区分)で見ると、2025年の対日輸出額は471億8,800万円と前年比45.6%増加しており、製錬能力の立ち上がりに伴って供給量が押し上げられつつある局面にあると読み取れる。

国・地域2023年(t)2024年(t)2025年(t)2025年シェア
アラブ首長国連邦351,214379,464400,30517.0%
オーストラリア331,682338,348345,06514.7%
中華人民共和国264,862250,108261,32211.1%
インドネシア2,74916,79213,8050.6%

出所:財務省貿易統計(概況品:アルミニウム及び同合金、HS統計)をもとに作成

まとめ、調達戦略への示唆

本稿では、インドネシアのアルミナ・アルミニウム産業を歴史・電力経済学・地政学・貿易統計の4つの軸から検証した。1975年のアサハン協定から2013年のINALUM国有化まで38年間にわたる日イ国家プロジェクトは、原料アルミナをオーストラリアから輸入する電解製錬の拠点として日本のアルミ供給を支えてきたが、合弁契約満了とともにインドネシアの国営企業へと姿を変えた。2007年に始まった昭和電工タヤン工場(現レゾナック系)は2014年に操業を開始し、ボーキサイトからの一貫生産時代の先駆けとなった。

その後、2023年6月30日のボーキサイト全面禁輸を契機として、中国資本主導の製錬ラッシュが本格化した。その背景には、中国国内の生産上限4,500万トンという政策的な天井と、生産コストの約4割を電力が占めるアルミ製錬の構造ゆえに安価電力源を求める中国企業の海外シフト、そして2024年12月のアルミ輸出税還付廃止という政策変化がある。さらに2026年2月のイラン情勢緊迫化が重なり、対日プレミアムは2015年以来11年ぶりの350ドルへと跳ね上がった。日本の中東依存(地金で2割、自動車向けで7割)の高さが、調達リスクとして可視化されたのである。

需給面ではインドネシアは中東供給の落ち込みを補う潜在力を持つ。しかし、調達戦略の観点からは三つの留意点がある。第一に、新興製錬所の所有・運営の多くを中国資本が握ることで、地理的多角化(中東離脱)は実現しても、企業レベルでは対中依存度がむしろ深まる構造になっていること。第二に、安価な石炭火力に依存する電力構成は欧州CBAMや自社Scope3開示の文脈でカーボンリスクとなり得ること。第三に、Inalum自身が警鐘を鳴らす過剰供給・資源枯渇リスクが2030年代までに顕在化し得ることである。日本のアルミ調達は、もはや「どの国から買うか」だけでなく、「どの電源・どの所有構造で作られたアルミを買うか」というレイヤーを含めた多軸の判断を迫られている。オーストラリア・南アフリカなど既存の供給源を維持しつつ、インドネシア産の伸び率・価格動向・電源構成・日本企業の出資参画動向を継続的に注視する複線的なアプローチが、現実的かつレジリエントな解と言えるだろう。

よくある質問

なぜ今インドネシアのアルミナ・アルミニウム産業が注目されているのですか。

2023年6月30日のボーキサイト輸出完全禁止を契機に国内製錬への投資が加速し、中国資本主導の大型製錬所が相次いで稼働間近となっているためです。国営Inalumの試算では、計画中の案件がすべて稼働すればアルミナ生産能力は現状の900万トンから2,980万トンへ拡大する可能性があります。

中国企業はなぜインドネシアでアルミ製錬に投資しているのですか。

中国国内のアルミ生産量が政府の定める年間4,500万トンの上限に迫っており、国内に増産余地がほぼ残っていないためです。山東南山アルミニウムや青山控股集団などが、安価な石炭火力や水力発電を活用できるインドネシアへ生産拠点を移しています。

イラン情勢はなぜアルミニウム市場に影響するのですか。

2026年2月28日に米国とイスラエルがイランへ軍事行動を開始し、ホルムズ海峡の通航が制約されました。3月28日にはバーレーンALBAとUAEのEGAの大型製錬所が攻撃を受けて損傷し、湾岸地域に世界生産の1割強を依存するアルミ市場に直接の供給ショックが及びました。

インドネシア産のアルミナ・アルミニウムは日本への輸出にどの程度浸透していますか。

財務省貿易統計によると、日本のインドネシアからのアルミ・合金輸入は2025年で13,805トン、全体の0.6%にとどまります。ただし2023年の2,749トンから2024年には16,792トンへ急増しており、非鉄金属全体の対日輸出額も2025年に前年比45.6%増加するなど拡大基調にあります。

インドネシアの増産にはどのようなリスクがありますか。

国営Inalum自身が政府に対し新規製錬所承認の一時停止を求めるなど、過剰供給とボーキサイト資源の急速な枯渇への懸念が国内から示されています。ゴールドマン・サックスは世界のアルミ市場が2026年に150万トン、2027年に200万トンの供給過剰に転じると予測しています。

アサハン計画とは何ですか。なぜ国有化されたのですか。

1975年7月のアサハン協定に基づき、日本政府と日本企業連合(NAA)がインドネシア政府との合弁でP.T. インドネシア・アサハン・アルミニウム(INALUM)を設立し、北スマトラに水力発電所と年産22.5万トンの製錬工場を建設した両国間の最重要経済プロジェクトです。1983年11月1日の生産開始から30年後の2013年に合弁契約満了を迎え、日本側は保有株を約570億円でインドネシア政府に売却し、INALUMは完全国有化されました。

なぜ中国・インドネシアでのアルミ製錬が有利なのですか。

アルミの電解製錬は生産コストの約4割を電力が占めるため、安価な電力源を確保できる地域が有利になります。中国国内では石炭火力が主力で、電力費が総コストの48%にも達するモデルもあります。中国は政府の生産上限(年4,500万トン)に張り付いているため、安価な国内炭・水力資源を持つインドネシアへ製錬拠点を移しています。

主な情報源

  1. 住友商事グローバルリサーチ「アルミ(2026年3-4月)新たな供給ショック」2026年4月17日
  2. 日本経済新聞「中国企業、インドネシアでアルミ増産」2026年5月10日
  3. Newsweek日本版(ロイター)「中国企業、インドネシアでアルミ生産拡大 供給過剰懸念高まる」2025年10月28日
  4. Bloomberg「中東混乱によるアルミ不足が日本直撃、基幹産業の自動車もピンチに」2026年4月20日
  5. 日本経済新聞「アルミ、一時8%高 中国が輸出税の還付中止」2024年11月18日
  6. 財務省貿易統計(概況品別国別表、アルミニウム及び同合金)2023〜2025年
  7. Sustainable Japan「インドネシア政府、ボーキサイトの輸出を2023年6月から禁止」2023年1月9日
  8. 昭和電工(現レゾナック)プレスリリース「インドネシア アルミナ工場が本格稼働」
  9. 一般社団法人日本アルミニウム協会「アルミ産業の歩み」
  10. NOVAIST「中国資本が押し上げる製錬ラッシュ、世界アルミ価格に陰り」2025年10月29日
  11. 日本経済新聞「日本企業連合、インドネシア政府にアルミ合弁売却」2013年12月9日
  12. 日刊鉄鋼新聞「日本アサハンアルミ、インドネシア政府にアルミ製錬合弁株を570億円で売却」2013年12月11日
  13. JICA「インドネシア共和国 電力公社アサハン水力発電開発計画調査報告書」1982年12月
  14. 日本アルミニウム協会「アルミ産業の歩み」「アルミニウムとは」
  15. 住友商事グローバルリサーチ「アルミ(2025〜2026年)政策と電力が築く供給の壁」2025年12月19日
  16. J-STAGE 北川二郎「軽金属における研究・技術開発の歩み 5 アルミニウムと共に」(軽金属、1985年)
  17. J-STAGE「アルミニウム電解炉の物質収支とエネルギー収支を考える」(Electrochemistry誌)
  18. CME Group「アルミニウム ジャパン・プレミアム(プラッツ)先物(MJP)」
  19. 日本経済新聞「アルミ1―3月対日プレミアム 30%高228ドルで一部決着」2024年12月17日
  20. 日刊鉄鋼新聞「4~6月積み/アルミ対日プレミアム交渉」2021年3月3日

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