イラン情勢、緊急分析
「アジア/日本」2026年5月
樹脂供給展望
ホルムズ海峡「双方向封鎖」フェーズ移行後の最新エビデンスに基づく供給危機分析
アジア版――中東危機が直撃する「原料断絶」とFMの連鎖
【2026年4月25日時点エビデンス更新版】
4月13日のCENTCOM措置(イラン港湾向け船舶封鎖)と4月20日の米軍によるイラン籍タンカー拿捕により、ホルムズ海峡は「イランによる選別通航」と「米軍によるイラン港湾封鎖」が重なる双方向封鎖フェーズに移行。停戦協議(イスラマバード)は決裂し、WTI原油先物は100ドルを超える水準で推移(4月23日時点で97ドル台、一時的に113ドル台まで上昇する局面も)。アジア市場への影響は4月版よりも深刻化している。
| 国・地域 | 主要メーカー | 供給ステータス | 最新エビデンス(4月25日時点) |
|---|---|---|---|
| 🇹🇼 台湾 | Formosa Plastics | FM継続拡大 | 中東産ナフサ未着が継続。4月以降のPE・PPで不可抗力宣言(FM)を順次拡大中。米産ナフサへの切替え模索も輸送コスト増が障壁。 |
| 🇰🇷 韓国 | ロッテ・LG化学等 | 稼働率60%台維持 | 政府がナフサを「緊急経済安保品目」に指定。ホルムズ通航90%減で代替調達コストが増大。日本向け輸出制限が継続。 |
| 🇮🇩 インドネシア | Chandra Asri | FM継続 | 3月2日のFM宣言後、状況悪化。双方向封鎖フェーズ移行で復旧見通しは「極めて不透明」のまま。 |
| 🇨🇳 中国 | 中石化(Sinopec)等 | 石化輸出停止継続 | 国内備蓄優先の輸出一時停止が継続。CENTCOMの対イラン措置に中露の拒否権で国連安保理決議も機能停止中。 |
| 🇲🇾 マレーシア | PRefChem | 50%減産継続 | ジョホール州RFCCの故障修理が4月も解消されず。一部東南アジア諸国はイランと個別交渉で通航許可を模索(Bloomberg 4/6)。 |
| 🇻🇳 ベトナム | Nghi Son / BSR | 流通・輸出凍結 | 政府決議(第55号/NQ-CP)による国内供給最優先は継続。輸出枠は事実上凍結。 |
| 🇹🇭 タイ | PTT / SCG | 戦略的低稼働 | タイ・フィリピン・マレーシア等が個別交渉でイランと通航交渉中(Bloomberg 4/6報道)だが解決には至っておらず、採算重視の操業抑制継続。 |
IRGCは海峡を物理的に完全封鎖しているわけではなく、米国・EU・日本・韓国籍の商船には通航妨害・拿捕リスクを生じさせる非対称的な管理を実施。CENTCOMはイランの港湾(バンダルアッバース港等)への出入りを封鎖。4月21日時点で過去24時間の通航はわずか3隻(Reuters)。平時は1日93.7〜140隻(JETRO・Bloomberg各ソース)が通過しており、実質的な商業物流は機能停止に近い状態。
アジアのLNG価格はホルムズ海峡封鎖による供給停滞懸念から40%超の急騰を記録。LPG価格は前月比最大80%の急騰が報告されており、プラスチック・合成樹脂・化学繊維の製造原価に直撃。
日本郵船・商船三井・川崎汽船の3社は3月2日の封鎖宣言直後からホルムズ通航を停止。非中東産ナフサ(米国・豪州等)への切替えが進むが、喜望峰回りでは輸送日数が通常比+14日、燃料コストは1.5倍に跳ね上がる。この輸送期間延長が在庫回転率の低下とキャッシュフロー圧迫を招いている。
日本版――ナフサ110k超確定、大手メーカー値上げ発動と
国内製造業3割への波及拡大
旭化成が4月1日出荷分からPE全製品を120円/kg以上(3割超)値上げを発表(日本経済新聞 3/31)。プライムポリマーも同日からPE・PPを90円以上値上げ。帝国データバンク(4/17)調査では国内製造業4万6741社・約3割がナフサ関連調達リスクに直面。5月は協議決裂・封鎖継続を前提に115k超へのさらなる上振れリスクが高まっている。
| 期間(2026年) | 国産ナフサ基準価格 | 前月比 | プラント稼働率 | 主な根拠・市場要因 |
|---|---|---|---|---|
| 1月(実績) | 70,000円/kL | — | 75% | 年始の需要低迷・安定推移 |
| 2月(実績) | 75,000円/kL | +5,000 | 83% | ホルムズ封鎖リスク台頭(2/28攻撃) |
| 3月(推定) | 85,000円/kL | +10,000 | 72% | 供給逼迫・各社減産加速 |
| 3月末(確定値) | 110,000円/kL | +25,000 | — | 🔴 月次価格交渉妥結(過去最高) |
| 4月(実績推定) | 112,000円/kL | +2,000 | 68% | 旭化成PE 120円/kg値上げ断行。三菱ケミカル旭化成エチレン4/11より稼働低下 |
| 5月(予測) | 115,000円+/kL | +3,000〜 | 65%以下 | 🔵 【予測】停戦決裂継続・喜望峰ルートコスト増で上振れリスク。国家備蓄放出(4/10)で最悪シナリオは回避。 |
ホルムズ海峡封鎖に伴うナフサ高騰を受け、4月1日出荷分からPE全製品を120円/kg以上(3割超)値上げ。「サンテック」「サンファイン」等5種類が対象。直近数年の数円〜数十円規模を大幅に上回る歴史的な値上げ幅。
プライムポリマーがPE・PPを4月1日納入分から90円以上/kg値上げ。三菱ケミカルはVAM・PVA製品群を3月18日出荷分から値上げ。三菱ケミカル旭化成エチレンは4月11日よりナフサ調達難を受け稼働を低下。
主要石化メーカー52社を起点に、国内製造業約15万社のうち4万6741社(約30.4%)がナフサ関連製品の調達リスクに直面する可能性。化学工業67.2%、ゴム製品51.5%、紙加工品48.9%と広範囲に波及。96.6%の企業が「マイナス影響あり」と回答。
高市早苗首相が4月10日の関係閣僚会議で、5月上旬以降に国家石油備蓄の約20日分を第2弾として追加放出する方針を表明(NHK・Bloomberg・日経報道)。3月26日の第1弾(国家備蓄30日分+産油国共同備蓄6日分)に続く措置。政府は4月14日時点で「日本全体として必要な量を確保できている」とするが、流通の目詰まり解消は難航。12基のエチレンプラントのうち4月初旬時点で6基が減産体制。
5月展望の深掘り――「GWの崖」と定修ダブルパンチが
在庫の底を突く
業界内では「GW頃までは既存在庫で繋げられるが、その先は予断を許さない」という見方が支配的だ(石化業界各社)。GW明けの5月上旬は、在庫の「底打ち」と「定期修理」と「政府備蓄放出タイミング」が同時に重なる構造的危機点となる。
三菱ケミカル鹿島事業所のエチレン生産設備(年産能力48.5万トン・国内全体の8%)は、3月6日から減産体制に入っているが、5月から2か月間の定期修理を控えている。通常は定修前に在庫を積み増すが、今回の減産でそれができず、GW明けから顧客への供給調整が不可避な状況。
丸善石油化学・住友化学が共同運営する千葉の京葉エチレンは、定期修理後の3月下旬再稼働を「3月末以降」に延期。原料ナフサの調達難を見込んでの判断。エチレン設備は一度停止すると再運転に時間がかかるため、定修後の復旧は5月以降にずれ込む見通し。
経産省の対応方針(4/10閣議)によると、5月の代替調達見込みは90万kL(平時の倍)だが、代替調達率を保守的に4割と設定。国家備蓄放出(20日分)は5月上旬以降に実施予定だが、ナフサ自体は国家備蓄の対象外で民間在庫(約20日分)は放出後の積み増しができない構造的制約がある。
今回の危機は、中国の供給過剰で収益が悪化し稼働率が低迷する「再編の真っただ中」のタイミングで直撃した。石化協・工藤会長(旭化成社長)は「26年は決断の年」と明言し、国内12基・620万トンの能力を8基・400万トン台に縮小する方向を進めていたが、体力を消耗した状態ではバッファーがないのが現状だ。
GW中(4/29〜5/6)は工場・物流が一時停止し需要が仮需落ちするため、見かけ上の在庫は持つ。しかしGW明けに製造ラインが一斉再稼働する5月第2週以降、①三菱ケミカル鹿島の定修突入、②京葉エチレン復旧遅延、③各社の継続減産、の三重苦が同時に顕在化する。石化協の言う「4月は稼働を維持できる」の次の言葉——「焦点は5月以降だ」——はこの構造を指している。
4/29〜5/6(GW中) 工場・物流休止 → 見かけ上の需給小康 / 国家備蓄放出(第2弾)開始
5/上旬〜中旬(GW明け) 製造ライン一斉再稼働 → 発注集中 → 在庫枯渇リスク顕在化
5月〜6月 三菱ケミカル鹿島が2か月の定修に突入 → 国内供給能力▲8%
5月〜 米産代替ナフサの到着が本格化(喜望峰45日ルート)→ 高コスト常態化
6月末 川中製品在庫(2か月分)が枯渇水準へ近づく / ホルムズ再開なき場合は次の危機フェーズへ
結論:「5月展望」――停戦決裂が示す最低半年の構造危機
GW中は工場停止で需要が一時的に後退し、在庫は表面上もつ。しかしGW明けの製造ライン一斉再稼働と同時に、三菱ケミカル鹿島(国内エチレン能力の8%)が2か月の定修に突入。通常は定修前に在庫を積み増すが今回はそれができない。5月第2週以降が在庫底打ちの本番フェーズとなる。
喜望峰ルートの輸送コスト増と円安(159円台)が重なり、5月の国産ナフサは115,000円/kL超へ。大手各社は「作れば赤字」の縮小均衡を選択し、バージンPE・PPの実需調達は一段と困難になる。
帝国データバンクが示した「約30.4%」という数字は、サプライチェーン上の直接・間接リスクに過ぎない。物流コストの連鎖波及も含めると、実際の影響圏はさらに広範囲に及ぶ。