アジアのナフサ指標価格(7月後半渡し)は6月2日に1トン788ドルと3月初旬以来の安値をつけた。3月の過去最高1,300ドルから4割超下落。ブレント原油に対する精製マージンも過去最高1トン467ドルから足元84ドル/トンへ縮小した(LOGI-TODAY 2026/6/3)。
下落の要因は3つに分解できる:
日本国内10社・海外10社の値上げ・稼働状況/再生LLDPE市況/LLDPEを使用したフィルム8品目の供給/ExxonMobil恵州プラント&中国LLDPE自給化を表形式で完全整理
2026年6月、LLDPE市場は「半開きの危機」局面に入った。アジア・ナフサ価格は3月の過去最高1トン1,300ドルから6月2日788ドルへ4割超下落したが、ADNOCのオマーン経由STSによる片肺輸出再開と、アジア石化需要そのものの萎縮による複合要因であり、停戦・正常化ではない。国内化学メーカーの値上げは累計+120〜165円/kg規模へ拡大、ストレッチフィルム輸入価格は弊社確認のサイレージフィルム実勢で約+46%上昇。一方、中国では2025年7月稼働のExxonMobil恵州プラント(投資100億ドル、PE 1.65百万t/年)と2026年下半期の新規PE能力550万トンが新たな代替供給源として浮上。本稿では日本10社・海外10社の最新動静、再生LLDPE市況、フィルム8品目の供給状況、中国LLDPE市場の深掘りを表形式で完全整理する。
4月1日納入分から始まった一斉値上げは、収束ではなく拡大の局面へ。プライムポリマーは4月21日に追加+30円/kg以上を発表し、5月1日納入分から実施。累計値上げ幅は+120円/kgに到達した。日本ポリエチレン・日本ポリプロは2026年5月18日プレスリリースで「国産ナフサ価格125千円/KL超水準」を想定した追加値上げ(5月25日納入分〜)を発表。5月後半までに業界全体で累計90〜165円/kg規模へ拡大した。
| メーカー | 対象品目 | 値上げ時期 | 値上げ幅 | 備考・累計動向 |
|---|---|---|---|---|
| プライムポリマー 最大幅 |
PE・PP全品目 | 4/1納入+5/1納入 | +120円/kg | 3/17発表+90円/kg以上、4/21に追加+30円/kg以上を発表し5/1から実施。三井化学・出光興産共同出資。 |
| 日本ポリエチレン | PE全品目 | 5/25納入分〜 | 追加値上げ | 5/18プレスリリース。「国産ナフサ価格125千円/KL超水準」想定の追加値上げ。3月時点+90円から積み増し。 |
| 日本ポリプロ | PP全品目 | 5/25納入分〜 | 追加値上げ | 5/18プレスリリース。3月時点+80円から積み増し。日本ポリエチレンと同時発表。 |
| 三菱ケミカル | ストレッチフィルム用「ダイアラップ」、C4誘導品 | 4月以降順次 | +15% C4は+125〜165円/kg |
「3桁円/kgの値上げは過去のトレンドから極めて異例」。鹿島(年産485,000トン)は5月から定期修理で供給さらに減少。 |
| 旭化成 | PE全製品 | 4/1出荷分〜 | +120円/kg以上 | 緊急値上げ。社長が「6月までめど」と発言(時事通信4/15)。需給逼迫の見通し継続。 |
| 東ソー | LLDPE | 4月以降 | +90円/kg以上 | ストレッチフィルム用主要グレード対象。流通在庫の薄さが続く。 |
| 東洋紡 | LLDPE系フィルム | 4/21納入分〜 | 値上げ+発注自粛要請 | 過剰発注自粛を取引先に要請(logi-today.com)。配給制への移行を示唆。 |
| 積水化学工業 | 塩ビ管・ポリエチレン管 | 5/7出荷分〜 | 追加値上げ | 「中東情勢の不安により石油・ナフサ由来の原料調達環境が急速に悪化」と公表。 |
| 旭化成建材 | ネオマフォーム(断熱材) | 5/7出荷分〜 | +20%特別調整金 | 断熱材向けPE系の高騰を受けた特別調整金。建材分野への波及。 |
| 西日本エチレンJV 構造改革 |
エチレン | 5/12出資比率確定 | — | 三井化学・三菱ケミカル・旭化成3社による共同事業体。国内エチレン産業の再編が進行。 |
石化協(石油化学工業協会)が2026年4月23日に発表した数値では、3月の国内エチレン稼働率は68.6%と過去最低水準に達した。国内エチレン設備12基のうち6基が減産状態で、ナフサ供給の正常化が起きても国内クラッカー稼働の回復には独立して時間を要する構造になっている。
日本のLLDPE輸入の最大供給源だったシンガポール・サウジアラビアは、複合要因で事実上の供給停止が継続。マレーシア産には産地別の明確な二層構造が判明しており、Kertih(ガスベース)は正常稼働だが、Pengerang(ナフサベース)はゼロ稼働。代替候補となる中国・米国・インドにも、それぞれ独自の制約が存在する。
| メーカー | 所在地 | ステータス | LLDPE品目への影響 | 日本市場への影響 |
|---|---|---|---|---|
| ExxonMobil SCP | 🇸🇬 シンガポール | 事実上停止 | 旧型クラッカー(90万トン/年)6月完全停止、新型(110万トン/年)もナフサ調達難で低稼働 | Exceed mPE・Enable mPE等のmLLDPEは代替が最も難しい。日本のNano薄膜・機械巻きストレッチ向け供給が事実上ゼロに。 |
| SABIC | 🇸🇦 サウジアラビア | 深刻 | ジュベイル拠点(PE合計401万トン/年)輸送遮断+4/7ミサイル残骸火災 | SABIC® LLDPE 218WJ等は日本ストレッチフィルム業界の標準品。日本向け供給再開は早くとも2026年後半の見通し。 |
| PCS | 🇸🇬 シンガポール石油化学 | FM継続 | 3/5フォースマジュール発令、6月時点でも解除されず。クラッカー2基(110万トン/年)低稼働 | 誘導品全般の供給極度に限定的。下流のTPCも3/9にFM発令。 |
| Sadara Chemical | 🇸🇦 サウジアラビア | 全停止 | 3/31全生産一時停止。エチレン150万トン/年・PE75万トン/年喪失 | アラムコ・Dow合弁。再稼働時期未定でTadawulに開示。日本向け契約はロールオーバー状態。 |
| マレーシアKertih (ペトロナス系) |
🇲🇾 Terengganu州 | 正常稼働 | 国産天然ガスベース・汎用厚物LLDPEは安定供給継続 | 日本のストレッチフィルム輸入シェア約7割のうち、汎用厚物部分は供給継続。「買える品目」の供給源。 |
| マレーシアPengerang (ペトロナス系) |
🇲🇾 Johor州 | ゼロ稼働 | ナフサベース・原油の70%以上をホルムズ経由輸入。35万トン/年mLLDPEプラント事実上ゼロ稼働 | Nano薄膜・特殊グレードはアロケーション継続。日本のNano需要が直撃を受ける構造。 |
| LCチタン | 🇲🇾 マレーシア | 減産 | 稼働率65〜70%まで低下、継続的な赤字計上(i3investor 2026) | 新規受注を制限。マレーシア産フィルム輸入の供給ボリュームに影響。 |
| Formosa(フォルモサ) | 🇹🇼 台湾 | FM | 3/9 Mailiao工場(エチレン293万トン/年)でFM発令 | ストレッチフィルム・PPバンドの主要メーカーが全面的なアロケーション体制へ移行(Bitget News 3/13)。 |
| 中国 Sinopec他 バランサー |
🇨🇳 中国 | 余剰・輸出攻勢 | 2026年下半期に700万トンのPE新規生産能力稼働見通し。LLDPEだけで約19%の新規能力増(SunSirs予測) | 下半期からの輸出攻勢が年末にかけて価格抑制要因に。ただしm-LLDPEは現物タイトが継続。 |
| 米国メーカー各社 | 🇺🇸 アメリカ | 価格高騰 | シェールガス由来エタンを使用、原油高の直接影響を受けず生産継続 | 世界中からの買い付け集中でFOB Texas価格が急騰。北米メーカーはフル生産も価格優位は限定的。 |
バージン材(新材)PE・PP価格が前月比3割超上昇したことを受け、再生LLDPE(リサイクルLLDPE)の相対的価値がかつてないほど高まっている。Argus Media等の調査では、リサイクルポリマー価格はバージン材ほど上昇しておらず、スプレッド拡大によりコスト削減を狙うフィルムメーカーからの引き合いが急増している。
| 再生グレード | 主用途 | バージンとの価格差 | 調達難易度 | 2026年6月現在の市況 |
|---|---|---|---|---|
| 高品質透明グレード (低臭・高透明) |
機械巻きストレッチ・薄膜化用途 | スプレッド大幅拡大 | 極めて困難 | アジア全域で争奪戦。安定供給ルート確保が新たな課題に。 |
| 標準グレード (ペレット化済) |
汎用厚物ストレッチ・農業フィルム | +20〜30%上昇 (バージン+50%対比) |
タイト | バージン価格上昇を背景に需要シフトが顕著。配合比率を高める動き。 |
| フレーク・グレード (粉砕状) |
低グレード製品・成形ブロック | +10〜20%上昇 | やや確保可 | 再生業者のマージン改善局面。長年の収益性圧迫から回復の兆し。 |
| ケミカルリサイクル品 (MTO/mLLDPE代替) |
食品包装・医療包装等 | +30〜50%上昇 | 困難 | 絶対量が少なく、認証取得済みの顧客に優先配給。新規参入は難しい。 |
Argus Mediaは「長い間、安価なバージン材に収益性を圧迫されてきたリサイクル業者が、今回の危機でマージン改善を狙いつつある」と分析。一方で、フィルムメーカー側にとっては「再生材への切り替え」が新たな選択肢として現実化しているが、グレード適合・物性再評価・顧客承認に1〜3か月を要する点は留意が必要だ。
日本国内でLLDPEを主原料とする代表的なフィルム製品8品目について、2026年6月時点の供給状況と価格動向を整理した。読者の事業領域に応じて、自社調達品の影響度を確認していただきたい。なお具体的な実勢価格データは、後段の「弊社確認 実勢価格データ」(サイレージフィルム)で言及している。
| フィルム製品 | 主用途 | LLDPE依存度 | 価格動向 | 2026年6月現在の国内供給状況 |
|---|---|---|---|---|
| 手巻きストレッチフィルム | 倉庫荷崩れ防止・小ロット出荷 | 高(汎用LLDPE) | +30〜50%↑ | マレーシアKertih産は供給継続だが、価格上昇は避けられず。3月下旬から発注制限・ECサイト購入数量制限の動きが継続。 |
| 機械巻きストレッチフィルム | 大規模物流・パレット荷役 | 極高(mLLDPE) | +50%超↑ | ExxonMobil Exceed mPE等のmLLDPE依存が深刻。アジア全体でアロケーション、製造リードタイム4〜5週間→日本到着54〜82日に延伸(EB Packaging担当者ヒアリング 2026年5月)。 |
| Nanoストレッチフィルム (15μm未満薄膜) |
高機能物流・コスト削減型物流 | 極高(mLLDPE) | +60%↑ | マレーシアPengerang(35万トン/年mLLDPEプラント)がゼロ稼働で構造的に供給不足。中国製55層ナノフィルムへの切替えが進行中。 |
| サイレージフィルム (牧草用ラップ) |
畜産・酪農の飼料保存 | 極高(キャストLLDPE) | +46%↑ | サイレージフィルム主要メーカーからの輸入価格は実勢で約+46%上昇(後段の実勢価格データ参照)。畜産・酪農コスト直撃。代替が難しい専用フィルム。 |
| 食品ラップ (家庭用・業務用) |
食品保存・調理 | 中(LLDPE+LDPE) | +15〜25%↑ | 三菱ケミカル「ダイアラップ」+15%値上げ実施済み。グンゼ等も食品包装用ナイロンフィルム値上げを2026年4月発表。 |
| 農業用マルチフィルム 農業用ハウスフィルム |
農作物保護・温室栽培 | 中(LLDPE+EVA) | +20〜30%↑ | 4月以降の値上げが本格化。次期作付けへの影響が懸念される。地方の小規模農業ほど価格転嫁が困難。 |
| 工業用保護フィルム 離型フィルム |
電子部品・自動車部品の表面保護 | 中(LLDPE多層) | +15〜25%↑ | 段階的値上げ進行中。Tier1サプライヤーへの影響は2026年4月決算で顕在化(自動車業界では「6月懸念」報道あり)。 |
| ポリ袋(汎用) レジ袋・ゴミ袋等 |
小売・物流・家庭用 | 低〜中 | +10〜20%↑ | 比較的安定だが上昇圧力は継続。日本サニパックがゴミ袋・保存袋を30%以上値上げ(2026年5月下旬以降報道)。 |
弊社が確認した実在の輸入実績から、サイレージフィルムの1ロールあたり単価が、イラン情勢前と情勢後で約46%上昇していることが分かった。これはダイヤモンド・カーゴニュース(2026年4月下旬)が報じた「ストレッチフィルム店頭5割上昇」とほぼ整合する水準である。サイレージフィルムは畜産・酪農の飼料保存に不可欠な専用フィルムで代替が難しく、価格上昇分は最終的に飼料コスト・生乳コスト・畜産物コストへと転嫁される構造となる。
2026年6月3日のロイター通信が報じた「アジアのナフサ価格急落」は、本記事のテーマである「半開きの危機」を象徴する出来事である。価格は確かに下がったが、量は増えていない。停戦・正常化ではない3つの要因が同時進行している。
アジアのナフサ指標価格(7月後半渡し)は6月2日に1トン788ドルと3月初旬以来の安値をつけた。3月の過去最高1,300ドルから4割超下落。ブレント原油に対する精製マージンも過去最高1トン467ドルから足元84ドル/トンへ縮小した(LOGI-TODAY 2026/6/3)。
下落の要因は3つに分解できる:
ナフサ価格の急落にもかかわらず、LLDPE市場の本格的な正常化が短期で進まない構造要因は5つある。
| 阻害要因 | 内容 |
|---|---|
| ① 紛争リスクプレミアム恒久化 | ホルムズ海峡そのものが正常化していない以上、海上保険料・サーチャージは平時水準に戻らない。喜望峰経由のリードタイム延長(28日→42日以上)も継続中。 |
| ② アジア石化需要そのものの萎縮 | シンガポール・インドネシア・韓国・台湾の石化コンプレックスで減産・不可抗力宣言が継続し、LLDPE・PP不織布の供給回復は限定的。ナフサ急落は「需要破壊」の側面が大きい。 |
| ③ 国内値上げの「水準訂正」完了 | プライムポリマー累計+120円/kg、日本ポリエチレン/日本ポリプロの5/25納入分追加値上げが既に流通側と確定済み。原料市況の短期下落では撤回されない。 |
| ④ 製造ライン投資判断の数年スパン | 製造ラインの脱・中東依存(米国シェール由来・中国産・インド産)には設備転換・サプライヤー認定・グレード適合試験で数か月〜年単位を要する。短期構造転換は物理的に不可能。 |
| ⑤ 国内エチレン稼働率の過去最低 | 3月の国内エチレン稼働率68.6%(石化協 4/23発表)は過去最低水準。12基中6基が減産状態で、ナフサ供給の正常化が起きても国内クラッカー稼働の回復には独立して時間を要する。 |
旭化成社長は時事通信(2026年4月15日)で「6月までめど」と発言しており、非中東代替調達(政府による月間90万kL)の本格化と中国の2026年下半期PE新規生産能力700万トン稼働の見通しが、年末にかけて需給バランスを徐々に改善させる方向性は維持されている。ただし、価格水準は前年比+20〜35%の高値圏を維持する見込みであり、ストレッチフィルム需要家にとっては「絶対量の確保」と「価格水準訂正後の構造的高値」という二重の課題に向き合う2026年下半期となる。
2026年下半期、日本のLLDPE調達担当者にとって最も注目すべき変数は中国の供給能力である。中国は2025年7月にExxonMobil恵州プラント(投資100億ドル、PE合計165万トン/年・PP 95万トン/年)を稼働させ、2026年通年で新規PE能力550万トンが追加される見通し。本セクションでは、ExxonMobil恵州プラントの徹底解説と、中国LLDPE市場全体の構造変化、そして日本市場への影響と機会を整理する。
ExxonMobil恵州プラントは、米国エネルギーメジャーが中国に設立した初の100%外資単独メガ石化コンプレックス。広東省恵州市の大亜湾石化工業園に位置し、2020年4月着工、2025年7月15日に予定前倒しで操業を開始した(Xinhua, China Daily, GBA Trends確認)。中国・広東省・恵州市当局と緊密に連携し、米国湾岸地域での同等規模建設と比較して約50%の建設コスト優位を実現したとされる。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 所在地 | 中国広東省恵州市 大亜湾石化工業園 ── Shell、BASF、Clariant等主要石化企業が集積する中国の主要石化拠点 |
| 総投資額 | $10 billion(100億ドル) ── 中国初の100%外資単独メガ石化プロジェクト |
| 事業主体 | ExxonMobil (Huizhou) Chemical Co., Ltd. (李興軍 董事長) |
| 着工・操業開始 | 2020年4月22日着工 → 2025年7月15日 操業開始(予定前倒し・予算内達成) |
| エチレンクラッカー | 1.6百万トン/年(フレキシブル供給対応、ナフサ+LPG・カタール・ラスラファン精油所から55,000トン受入実績) |
| LLDPE生産ライン | ×2ライン合計 1.2百万トン/年 ・Line1: 730kt/y(2025年2月試運転で適格品生産、上流クラッカー連動でFeb-Mar商業運転開始) ・Line2: 500kt/y(2025年6月稼働、mLLDPE生産へ数か月以内に移行予定) |
| LDPE生産ライン | 500kt/年 ── 世界最大規模の単一LDPEライン |
| PP生産ライン | ×2ライン合計 950kt/年(差別化高機能PP) |
| R&D拠点 | ExxonMobil Daya Bay R&D Center(2023年着工、2025年第1期稼働) ── ExxonMobilにとって北米本社以外で初のパイロット設備付き総合R&D拠点、中国2拠点目(上海拠点に次ぐ) |
| 主要用途 | 消費財包装、農業用ハウスフィルム、工業用包装、衛生用品、自動車・家電、リジッド包装、耐久消費財 |
| 情報源 | Xinhua, China Daily, GBA Trends, ECHEMI, Argus Media, Mysteel, ExxonMobil公式発表 |
特筆すべきは、LLDPE Line2のmLLDPE移行戦略である。Argus Media(2026/2確認)によれば、ExxonMobilは「数か月以内にLLDPEからメタロセン系LLDPE(mLLDPE)生産に移行する」方針を表明済み。ExxonMobil独自のExceed mPE・Enable mPEシリーズは、日本のストレッチフィルム業界が最も依存していたメタロセン系LLDPEのフラッグシップグレードだ。シンガポール拠点のExceed mPE供給が事実上停止した現状で、恵州産のExceed mPEが日本市場の代替供給源として急浮上している。
大亜湾石化工業園は、年間原油精製能力2,200万トン、エチレン生産能力380万トンを擁する中国の主要精油・化学生産拠点。ExxonMobil単体での参入は、中国の石化自給化政策と外資受入戦略の交差点に位置する象徴的プロジェクトとなった。
ExxonMobil恵州プラントは、中国のPE自給化政策のごく一部に過ぎない。SunSirsの最新データ(2026年3月時点)によれば、中国の総PE生産能力は4,134万トン/年に達し、2026年末には5,344万トン/年に到達する見通し。2026年通年では新規PE能力550万トンが稼働し、その大半がQ3〜Q4に集中する見込みである。
| プロジェクト | 能力 | 稼働時期 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| ExxonMobil 恵州 外資単独 |
PE 1.65百万t/年 PP 950kt/年 |
2025年7月稼働 | 中国初の100%外資単独メガ石化。mLLDPE(Exceed/Enable)移行進行中 |
| Sinopec-Saudi Aramco Gulei 中サウジ合弁 |
PE 1,000kt/年 | 2026年下半期 | 中国×サウジアラムコ合弁の大型石化プロジェクト。Sinopec主導 |
| North China Huajin Aramco 中サウジ合弁 |
PE 950kt/年 (うちFD 450kt H1) |
2026年上半期〜 | 2026年上半期に高確度で稼働見込み(SunSirs予測)。フルデンシティPE中心 |
| Dongming Zhongyou | FDPE 400kt/年 | 2026年上半期 | 地方系石油精製・化学企業。SunSirs予測で上半期高確度 |
| 湛江(Zhanjiang)系 | FDPE 500kt/年 | 2026年1月稼働済 | SunSirs(2026/3確認)。すでに稼働しPE自給率改善に貢献 |
| Yulong Petrochemical | LDPE/EVA 300kt/年 | 2026年1月稼働済 | EVA併産でフィルム高機能化需要に対応 |
| Sinopec 広西 (Guangxi Petrochemical) |
エチレン 1.2百万t/年 | 2025年10月稼働 | 第15次5か年計画下の戦略プロジェクト。下流PE/PPの母体 |
SunSirs(2026年確認)によれば、中国のエチレン等価自給率は2025年時点で78.1%に到達し、第15次5か年計画下では90%超を目標に掲げる。2026年通年でエチレン能力+805万トンが追加され、総能力は7,075万トン/年に到達見込み。LLDPEに限れば名目19%の能力増(ただし実効増は名目を下回る)。
S&P Global Commodity Insightsの分析では、中国は2024年3月にPPで初めて純輸出国に転換しており、PEもダウンサイドシナリオでは2027〜2028年に純輸出国化の可能性が指摘されている(ICIS基本ケースは2025-2035年平均稼働率72%・純輸入4.5百万トン/年)。
恵州産Exceed mPEの登場、Sinopec/CNPC主導の大型プロジェクト群、そして自給化政策の進展は、日本のLLDPE調達担当者にとって「ExxonMobil・SABIC不在」の中で最も現実的な代替供給源となりつつある。ただし、中国産LLDPE活用には3つの構造的ハードルが存在する。
| ハードル | 具体的課題 | 対応策・機会 |
|---|---|---|
| ① スプレッド 価格優位は限定的 |
中国国内向け価格優位はあるが、輸出価格は国際市況連動で価格優位は減少。輸出時のVAT還付率・反ダンピング措置リスクも存在 | 恵州産は新規プラントゆえコスト競争力高。長期契約での価格固定化交渉が有効 |
| ② グレード 適合性課題 |
従来のExxonMobil(SCP)・SABIC品で最適化された日本のフィルム配合・成形条件との物性整合性確認が必要。MFI・密度・コモノマー組成の微差が成形品質に影響 | 恵州産Exceed/Enable mPEは同一メーカー製で物性・触媒系統が共通のため、シンガポール品からの切替障壁が最小。試験フィルム評価で1〜3か月で承認可能性 |
| ③ 物流 納期・スロット |
恵州→日本の海上輸送は短いが、中国国内優先供給で輸出スロット確保が当面の課題。中国港湾の輸出許認可・通関プロセスの不透明感 | 2026年下半期の新規能力550万トン稼働で輸出余力が拡大。広東省地理的優位で日本到着リードタイム短縮可能 |
特筆すべきは「同一メーカー切替」のグレード適合優位である。日本のフィルムメーカーがこれまで使用してきたシンガポール製Exceed mPEと、新規稼働した恵州製Exceed mPEは、ExxonMobilの同一触媒系統・同一プロセスで生産される。製品物性は実質的に同等で、認証取得・試験フィルム評価のハードルは中国系メーカー品(Sinopec・CNPC等)への切替よりも大幅に低い。「シンガポール不在を恵州が埋める」という構造は、ExxonMobilのグローバル供給網再編戦略の一環として理解すべき動きだ。
中国産LLDPEの2026年下半期以降の供給拡大は、日本のフィルム調達担当者にとって「価格抑制要因」として機能する一方、過度の中国依存はサプライチェーン集中リスクを高める。米中通商関係の変化、中国国内優先供給政策、人民元為替変動、台湾海峡情勢などの新たな地政学リスクへの暴露が増える点には留意が必要である。恵州産・米国産・マレーシアKertih産・再生LLDPEの4本柱で分散調達を構築することが、2026年下半期以降の現実解となる。
2026年6月のLLDPE市場は、表面的にはナフサ価格急落というポジティブなニュースに包まれている。しかし、本記事で整理した日本10社・海外10社の最新動静、再生LLDPEのスプレッド拡大、フィルム8品目の供給状況、そしてサイレージフィルムの実勢価格データが示す約+46%の価格上昇は、いずれも「危機は終わっていない」という同じメッセージを発している。
日本のストレッチフィルム・包装資材調達担当者にとって、2026年下半期は「ExxonMobil・SABIC不在前提」での調達体制構築を継続する局面となる。ただし「ExxonMobil不在」は地理的に再定義される必要がある。シンガポール拠点の供給は事実上停止したが、2025年7月稼働のExxonMobil恵州プラント(投資100億ドル、PE 1.65百万トン/年、mLLDPE移行進行中)が新たな代替供給源として登場した。代替候補は、①恵州産Exceed/Enable mPE(同一メーカー切替で適合性優位)、②中国系メーカー新規能力(Sinopec/CNPC主導、2026年下半期に新規550万トン稼働)、③米国産(FOB Texas経由、現状価格急騰中)、④マレーシアKertih産(汎用厚物のみ)、⑤再生LLDPE(スプレッド拡大期のチャンス)の組み合わせとなる。
次の節目は2026年第3〜4四半期。中国PE新規能力700万トンの稼働本格化と、ADNOCオマーン経由ナフサ輸出の本格再開、そして国内エチレン稼働率の回復可否が、価格水準の「高値定着」か「徐々の正常化」かを分ける分岐点となる。