2026年3月現在、緊迫化するイラン情勢(ホルムズ海峡の封鎖および米・イスラエルとの軍事衝突)は、ストレッチフィルムの主原料であるLLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)の世界的な供給構造を劇的に変容させています。各国の最新入荷状況、主要メーカーの動向、再生材市況、そして情勢長期化後の回復予測について、実務的な視点から詳細にまとめました。
1. 主要メーカーの生産・出荷状況
■ シンガポール:供給危機の中心
現在、アジア市場で最も深刻な供給不安に陥っているエリアです。
- PCS(シンガポール石油化学): 中東からの原料ナフサ調達が遮断されたことを受け、3月初旬にフォースマジュール(不可抗力宣言)を発令しました。現在、ナフサクラッカーは低稼働または停止状態にあり、LLDPEを含む誘導品の供給は極めて限定的です。
- ExxonMobil(エクソンモービル): 以前からの計画通り、ジュロン島の旧型スチームクラッカー(2002年稼働分)を2026年3月より永久閉鎖開始(6月完了予定)。このタイミングでPCSのトラブルが重なったため、シンガポール拠点からのスポット出荷は事実上ストップしています。
■ サウジアラビア:物理的遮断と減産
- SABIC(サビック): ホルムズ海峡の封鎖により、ペルシャ湾側の主要港(ジュベイル等)からの出荷が完全に停滞。在庫がタンク容量の限界に達したため、3月中旬より主要プラントで減産を開始しました。
- 物流: 紅海側のヤンブー港を経由した迂回輸出を試みていますが、運賃と保険料が平時の3〜5倍に暴騰。日本を含むアジア向け契約分については「納期未定(ロールオーバー)」が常態化しています。
■ 中国:需給のバランサー
- 中国石化(Sinopec): 中東品の不足を補うため、政府主導で国内工場のフル稼働を維持。2026年は中国国内で約550万トンの新規PE能力が稼働する「大増産期」にあたり、在庫そのものは潤沢です。
- 出荷状況: 国内需要が停滞しているため、日本や東南アジアへ積極的に輸出を打診中。ただし、世界的なコンテナ不足により配送スケジュールには2週間程度の遅延が見られます。
■ アメリカ本土:世界最強の供給源
- 生産: シェールガス由来の低コスト原料(エタン)を使用しているため、原油高の影響を受けず、フル生産を継続。
- 出荷: アジア・欧州からの買い付けが集中しており、3月第1週だけでFOB Texas価格が4.7%以上急騰。それでも「確実に届く原料」として、世界中のバイヤーが米国産への切り替えを急いでいます。
2. アジア各国の最新入荷・供給状況(2026年3月)
| 国名 | ステータス | 詳細状況 |
| 日本 | 【逼迫】 | サウジ・シンガポール品の入荷がストップ。米国・中国・韓国品への切り替えを進めているが、国内メーカーのナフサ価格高騰により、フィルム価格は前月比+20〜30円/kgの値上げ局面。 |
| 中国 | 【安定〜余剰】 | 自国生産品が豊富で、中東品の欠乏を国内品でカバー。ただし、高度な物性が求められるメタロセン級(m-LLDPE)は輸入減によりタイト。 |
| 韓国 | 【不安定】 | 中東原料への依存度が高く、コスト高により一部のNCC(ナフサクラッカー)が採算割れ。生産調整(減産)を検討中のメーカーが複数存在。 |
| タイ | 【ややタイト】 | PTT等の国内生産背景があるため、ベトナムほど深刻ではない。しかし、輸出価格の引き上げにつられ国内価格も上昇中。 |
| マレーシア | 【タイト】 | ペトロナス等の国内供給はあるが、隣国シンガポールの供給停止の影響で域内需要が集中。在庫が急速に減少中。 |
| ベトナム | 【深刻な不足】 | 自給率が低く輸入依存度が極めて高いため、サウジ品の不達が直撃。フィルム工場の稼働率低下や一時閉鎖が報告されている。 |
3. アジア地域での再生LLDPE市況
バージン材(新材)の価格高騰と供給不安を受け、「再生材」の価値がかつてないほど高まっています。
- 価格推移: バージン材の急騰に引きずられる形で、再生ペレットの価格も上昇中。しかし、新材との価格差(スプレッド)が拡大したことで、コスト削減を狙うフィルムメーカーからの引き合いが急増しています。
- 供給状況: 特に「透明度が高い」「臭いが少ない」高品質な再生LLDPEは、現在アジア全域で争奪戦となっており、在庫の確保が困難な状況です。
- 今後の展望: 環境規制の強化に加え、今回のような地政学リスクへの耐性として、再生材活用モデルが標準化(デファクトスタンダード)していく流れが加速しています。
4. シミュレーション:情勢が2ヶ月継続した場合の平常化予測
仮に今後2ヶ月間(5月下旬まで)この緊張状態が継続した場合、サプライチェーンが完全に「平常化」するまでには、さらに3ヶ月〜半年(2026年秋頃まで)の時間が必要と予測されます。
回復が遅れる3つの要因
- 物流のリードタイム(+1ヶ月): ホルムズ海峡が再開しても、滞留していた貨物の処理や、喜望峰経由から元のルートへの船舶の配置転換には物理的な時間が必要です。
- 在庫の補充サイクル(+2ヶ月): メーカー・商社・加工会社の全ての段階で在庫が枯渇しているため、全レイヤーで適正在庫に戻るまでに数サイクルを要します。
- 価格の粘着性: 原油価格が落ち着いても、一度引き上げられた運賃や保険料、樹脂価格はすぐには下がりません(いわゆる「上げは早く、下げは遅い」現象)。
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