【2026年5月最新】日本の化学商慣習が崩壊する日
― 「ナフサ・サーチャージ」導入の全貌と企業動向
日本ポリエチレン・日本ポリプロ5/18発表、5/25納入分追加値上げ・国産ナフサ125千円/KL超想定。プライムポリマー4/21追加+30円/kg、旭化成建材ネオマフォーム+20%調整金。5/12西日本エチレンJV出資確定(三井45%・三菱45%・旭化成10%)。エチレン稼働率3月68.6%過去最低、12基中6基減産。値上げ幅90〜165円/kg。
1. はじめに:「届かない」から「高すぎる」、そして「連鎖値上げ」へ
2026年2月28日、米国・イスラエルによるイラン攻撃をきっかけに、ホルムズ海峡の通航が実質的に封鎖されました。日本は原油輸入の約94〜95%を中東に依存しており、そのタンカーの約8割がホルムズ海峡を通過するため、石油化学業界は前例のない供給危機に直面しています(笹川平和財団・資源エネルギー庁)。
3月上旬まで危機の主軸は「ナフサが届かない」という物理的供給断絶でした。4月に入りフェーズが移行し、コスト上昇を吸収できなくなったメーカーが一斉に値上げへ転換。そして5月後半、危機は新たな段階「連鎖値上げと125千円/KL超の歴史的水準想定」へと進んでいます。日本ポリエチレン・日本ポリプロの5月18日プレスリリースは、4月実施分に続く追加値上げ(5月25日納入分〜)を発表し、想定する国産ナフサ価格を125千円/KL超としています。これはウクライナ危機があった2022年の80千円台水準を大きく上回り、過去最高額を大幅に更新するものです。
ナフサショックの全体像については「2026年ナフサショック|ホルムズ海峡封鎖が引き起こす供給網危機の全貌」も併せてご参照ください。
出典:大景化学(2026/5/20)
出典:日本ポリエチレン・日本ポリプロ5/18
出典:日経新聞
出典:日経2026/03/17、宮野宏樹note
2. さらば「後決め」――1982年通産省指針から44年続いた日本独自慣習が崩壊する日
今回のサーチャージ導入が「衝撃」と言われる最大の理由は、日本の樹脂取引において数十年にわたり聖域とされてきた「後決め(レトロスペクティブ・プライシング)」という商慣習に終止符を打つものだからです。本セクションでは、なぜこの慣習が成立し、なぜ今崩壊しつつあるのか、その歴史的経緯・国際比較・実務的影響まで深掘りします。
2-1. 起源——1982年4月7日 通産省「石油化学原料用ナフサ対策について」
日本の「後決め」慣習の制度的起点は、1982年4月7日に通商産業省(現・経済産業省)が発出した「石油化学原料用ナフサ対策について」という指針にまで遡ります。当時、ナフサ輸入比率の急増と国際的な石油化学製品価格との連動性が課題となっており、通産省は次のように規定しました(原文要旨)。
これが日本独自の「四半期ごとの後決め」「全国平均CIF価格+諸掛」という二大ルールの原点です。当時は世界第2位の石油化学産業を擁する日本の安定供給を守るためのセーフティネットとして機能しました。この指針から44年経った2026年5月、ホルムズ海峡封鎖という外的ショックによって、この制度の前提そのものが揺らいでいます。なお現在では、四半期毎の値決めは強制ではなく、国産ナフサ基準価格は「単なる参考価格」とされ、交渉により決定する形に戻っていますが、業界慣行としてフォーミュラ制の基準として広く参照され続けてきました。
2-2. 「後決め」の具体的メカニズム——MOF価格・2N方式・ナフサリンク
「後決め」が実務でどのように機能していたかを理解するため、3つの専門用語を整理します。
- ① 国産ナフサ基準価格(MOF価格):「ナフサ輸入平均価格+2,000円/kL」で算出(株式会社ポリコンポ解説)。「MOF」は財務省「Minister of Finance」の略で、財務省が毎月発表する輸入通関統計(貿易統計)の3カ月平均が基準となります。2,000円/kLはタンク貯蔵・パイプライン使用等の諸経費。例えば3カ月分輸入金額500億円・輸入数量100万kLの場合、基準価格は50,000+2,000=52,000円/kL。
- ② ナフサフォーミュラ(ナフサリンク・ナフサスライド):1年を4期(クォーター)に分け、樹脂価格を改定する仕組み。具体的なタイミングは2月・5月・8月・11月。ニックス株式会社の解説によれば、「5月1日から適用される樹脂価格は1-3月の国産ナフサ価格(財務省公表の貿易統計)の平均から算出決定する」が、「統計は翌月末に公表(3月の貿易統計は4月末に公表)されるため、価格改定としては5月1日から適用となる」。これがいわゆる「タイムラグ3〜6カ月」の正体です。PE・PPなどのオレフィン系樹脂のみに適用。
- ③ 2N方式(ニ・エヌ方式):富士ゴム化成の解説によれば、ナフサ価格が1kL当たり1,000円変動するごとに、石油化学製品の価格を1kg当たり2円変動させる方法。「2倍のN(ナフサ)」が語源とされ、樹脂価格の透明な機械的連動を実現してきた。
- ④ 都度決め(市況決め・ジャン決め):売り手と買い手が交渉で価格を決める方式。フォーミュラ制が適用されないオレフィン以外(塩ビ、PS、ABS、エンプラ等)や、フォーミュラ未契約のPE・PPに採用されてきた。今回プライムポリマー・旭化成・日本ポリエチレン等が次々と値上げを発表しているのは、この「都度決め」取引が対象です(日経2026/3/17)。
2-3. なぜ「日本だけ」が後決めなのか——欧米モデルとの根本的違い
世界の主要市場のうち、こうした四半期後決め方式を主流とするのは日本だけです。欧米・アジアの他地域では月次あるいはスポット連動が標準です。
| 地域 | 主な価格決定方式 | 改定頻度 | 基準指標 | タイムラグ |
|---|---|---|---|---|
| 日本 | 後決め(四半期フォーミュラ+都度決め) | 四半期(2/5/8/11月) | 国産ナフサ基準価格(MOF価格、3カ月平均) | 3〜6カ月 |
| 欧州(西欧) | 月次フォーミュラ(ICIS・Plattsベース) | 毎月 | ロッテルダム・ナフサスポット、ICIS月次契約価格 | 約1カ月 |
| 米国 | 月次契約価格+スポット価格 | 毎月 | USGCエチレン・US PE/PPコントラクト価格 | 約1カ月 |
| 中国・東南アジア | スポット連動・週次更新 | 週次〜月次 | シンガポール/CFR Japanナフサスポット | 1〜4週間 |
| 韓国 | 月次フォーミュラ(一部スポット) | 毎月 | CFR Korea/Japanナフサスポット | 約1カ月 |
この国際比較が示すとおり、日本のタイムラグ3〜6カ月は、世界の主要市場の3〜6倍の遅さです。1970年代後半〜1980年代の高度成長期、安定したナフサ供給と緩やかな価格変動を前提にすれば、このタイムラグは「サプライチェーン全体の安定」というメリットを生みました。メーカーが原料高の急変を吸収し、加工業者・最終ユーザーが平滑化された価格を受け取る——これが日本独自の「サプライチェーン相互扶助モデル」の本質です。
2-4. 「あうんの呼吸」の前提が崩壊した3つの理由
2026年現在、この44年続いた制度が機能不全に陥っている理由は明確です。
- 理由① 価格変動の速度と幅が前提を超えた:ナフサスポット価格は2026年2月末の600ドル台後半から、わずか2週間で1,100ドル前後へ約6割上昇(化学工業日報2026/3/18)。3カ月平均を待つ間に、メーカーは取引1tにつき数万円規模の損失を計上する状況となりました。「3カ月後の精算」というクッションは、年率10%程度の変動には機能しますが、2週間で60%動く市場には適用不能です。
- 理由② メーカーの財務体力が限界に達した:日経新聞「逆ザヤ」報道のとおり、製造原価が販売価格を上回る状態が長期化。ポリエチレン業界は世界的に供給過剰(中国増産)と需要低迷でエチレン稼働率は38カ月連続で90%以下(2025年9月時点、現在は3月68.6%で42カ月超)の「不況」が継続しており、各社の樹脂事業はすでに赤字または微益。「3カ月肩代わり」する財務的余裕がもはやない状態でホルムズショックを迎えました。
- 理由③ 海外メーカーとの競争条件が悪化:欧米・アジアの競合は月次・スポット連動で機動的に値上げを実施。日本メーカーだけが「後決め」を堅持すれば、海外輸出市場では即値上げ・国内市場では3カ月遅れの値上げ、という二重価格状態が発生します。これは輸出比率の高い東レ・三井化学にとって看過できない不利になります。
2-5. 2026年に起きている「絶縁状」の中身——5つの構造変化
東レ、プライムポリマー、旭化成、日本ポリエチレン、日本ポリプロ、カネカ、信越化学らの一連の決断は、単なる値上げではなく「44年続いた相互扶助モデルからの離脱宣言」です。具体的に5つの構造変化が同時進行しています。
- ① リアルタイム連動への移行:東レは従来数カ月かかっていた価格転嫁を最短1カ月程度に短縮するサーチャージ制を2026年3月27日に導入。対象はフィルム・自動車部品向け樹脂・炭素繊維・衣料向け繊維など多岐に渡り、「暫定的な緊急措置」と説明しています(時事通信2026/3/27、日経2026/3/27)。これは欧米モデルへの実質的なコンバージョンです。
- ② 段階的・追加値上げの常態化:プライムポリマーは3月17日に+90円/kg以上を発表後、わずか1ヶ月後の4月21日に追加+30円/kg以上を発表し、5月1日納入分から実施。日本ポリエチレン・日本ポリプロは4月1日の値上げに続き、5月18日に5月25日納入分の追加値上げを発表しました。「1回の値上げで決着」という従来の暗黙ルールが崩れ、「相場連動の連続改定」が常態化しています。
- ③ 防波堤(クッション機能)の消失:メーカーはもはや原料高のリスクを背負う「緩衝材」にはなりません。原料高の波は、樹脂メーカー→成形メーカー→アセンブリ→最終製品の各段階へダイレクトに押し寄せます。これまで日本の消費者が享受してきた「安定価格」は、メーカーの一時的な赤字吸収によって支えられてきた虚構だったことが、ここに来て可視化されつつあります。
- ④ フォーミュラ制と都度決めの二層構造:PE・PPではもともとナフサ価格に連動するフォーミュラ制が多くの取引で採用されていますが、今回の値上げは売り手と買い手が交渉で価格を決める「都度決め」取引を対象にしたものです(日経2026/3/17)。今後はフォーミュラ未契約だった顧客がフォーミュラ契約への移行を迫られる可能性が高く、業界全体の契約形態が大きくシフトすると予想されます。
- ⑤ 「想定ナフサ価格変動時の修正条項」の明文化:日本ポリエチレン・日本ポリプロの5/18プレスリリースは、いずれも『想定したナフサ価格が大きく変動する場合は、改定幅の修正をお願いさせていただきます』と明記。これは事実上、「いつでも追加値上げする権利を留保する」宣言であり、6月以降のさらなる価格改定可能性を示唆しています。従来のように「2-3年に1度の大型改定」ではなく、「毎月の小刻みな調整」が標準化する転換点です。
2-6. 影響を最も受ける「都度決め取引」事業者の実務リスク
では、この崩壊で最も影響を受けるのは誰か。それはフォーミュラ契約を結ばずに「都度決め」で樹脂を調達してきた中堅〜中小成形業者です。帝国データバンク調査(2026/4/17)によれば、ナフサ関連製品のサプライチェーンに該当する製造業は全国に4万6,741社。集計対象とした全製造業(約15万社)のうち約3割に相当し、ゴム製品製造業の51.5%(817社/1,600社)、界面活性剤製造業の84.0%がナフサ依存と判定されています。
② 在庫評価損のリスク:値上げ前に大量買いした在庫が市況下落で評価減になる、あるいは値下げ前に売り急いだ製品が逆ザヤを生む——いずれも会計期末の評価損として顕在化。
③ 顧客との価格再交渉コスト:毎月の調達価格変動を毎月の販売価格に反映するには、顧客との価格再交渉を毎月実施する必要が生じる。これは中小事業者にとって膨大な事務負荷と関係性リスクをもたらします。
2-7. 国際標準への「強制コンバージョン」がもたらす長期的影響
この一連の動きは、単なる短期的なショック対応ではなく、日本の化学産業が44年ぶりに国際標準(欧米型フォーミュラ)へ強制コンバージョンする歴史的転換点と見るべきです。長期的には次の3つの影響が予想されます。
- ① 業界の二極化加速:フォーミュラ契約に対応できる大手・中堅と、対応できない零細業者の格差拡大。後者は廃業・統合を余儀なくされる可能性。
- ② 商社・問屋の「ヘッジ機能」需要拡大:価格変動リスクを商社・問屋がヘッジするビジネスモデルが拡大。デリバティブ・先物・在庫融資など金融サービスの組み込みが進む。
- ③ 再生プラスチック・ケミカルリサイクル材への需要シフト:ナフサ価格変動から切り離された再生材・バイオ材への需要が構造的に増加。三井化学・三菱ケミカル・旭化成が5/12に確定させた西日本エチレンJVの将来的なグリーン化(2034年Revolefin™商用化)も、この長期的シフトの一環と位置づけられます。
3. 【5月最新】日本ポリエチレン・日本ポリプロが5/25納入分から追加値上げ
2026年5月18日、三菱ケミカル系のポリオレフィン主力メーカー2社が一斉に追加値上げのプレスリリースを発出しました。日経新聞が同日報道した内容を整理します。
両社プレスリリースで注目すべきは、「125千円/KL超」という具体的なナフサ価格水準を初めて明示した点です。これは2022年ウクライナ危機時の80千円台を大きく上回る、過去最高水準の想定です。大景化学株式会社のナフサ価格推移表によれば、5月20日時点の国産ナフサ価格指標は113,092円/kL(ナフサ$1,005、為替159.05円/$)となっており、両社の想定水準まで残り約12,000円の上昇余地があると言えます。
3-1. 旭化成社長4/15発言と旭化成建材の動き
旭化成工藤幸四郎社長は2026年4月15日、ナフサ調達は6月中旬〜下旬まで一定の見通しが立った一方、ポリエチレンやポリプロピレンなどの中間財については「価格転嫁はマスト」と述べました。同社は石化協(石油化学工業協会)会長を兼務しており、業界全体の方針として価格転嫁不可避を表明した形となります。
翌4月16日、旭化成建材は断熱材「ネオマフォーム」などに2026年5月7日出荷分から概ね20%の特別調整金を上乗せすると公表しました。これはナフサショックが川中(基礎化学品)から川下(建材・住設)へと連鎖的に波及している証左です(住むを楽しむ「スムタノ」2026/5)。
4. 主要企業の対応状況(5月後半最新マッピング)
| 企業名 | ステータス | 開始時期 | 主な対象・措置(エビデンス) |
|---|---|---|---|
| 日本ポリエチレン 5月新着 | 追加値上げ | 2026年5月25日納入分〜 | PE全製品の追加値上げ。国産ナフサ125千円/KL超想定。プレスリリース2026/5/18(日経2026/5/18)。4月実施分(+90円以上/kg)に続く第2弾 |
| 日本ポリプロ 5月新着 | 追加値上げ | 2026年5月25日納入分〜 | PP全製品の追加値上げ。国産ナフサ125千円/KL超想定。プレスリリース2026/5/18(日経2026/5/18)。4月実施分(+80円以上/kg)に続く第2弾 |
| プライムポリマー 追加発表 | 追加値上げ | 2026年5月1日納入分〜 | 3月17日発表(+90円/kg以上)に追加して、+30円/kg以上の追加価格改定。HDPE/LLDPE/PP全製品(ゴムタイムス2026/4/22)。三井化学65%・出光興産35%出資 |
| 旭化成建材 5月実施 | 特別調整金 | 2026年5月7日出荷分〜 | 断熱材「ネオマフォーム」等に概ね20%の特別調整金を上乗せ(旭化成建材2026/4/16発表、スムタノ2026/5) |
| 東レ(サーチャージ制) | 稼働中 | 2026年3月27日〜 | 樹脂・炭素繊維・衣料向け繊維など。最短1カ月で価格に反映する「暫定的な緊急措置」(時事通信2026/03/27、日経2026/03/27) |
| 東レ(繊維・不織布 緊急値上げ) | 実施済 | 2026年4月出荷分〜 | ナイロン6長繊維100円以上、ナイロン66は20円以上、ポリエステル50円以上、アクリル短繊維110円以上(繊維ニュース2026/04/02) |
| 旭化成 | 実施済 | 2026年4月1日出荷分〜 | PE全製品(サンテックLD/HD/EVA、クレオレックス、サンファイン)を1kg 120円以上値上げ。市況ベースで3割超の引き上げに相当(日経2026/03/31)。社長発言4/15「PE・PP価格転嫁はマスト」 |
| カネカ・信越化学工業 | 実施済 | 2026年3月16日・4月1日〜 | 信越化学が3月16日に塩ビ樹脂値上げを先行発表。カネカは塩ビ35円以上/kg、発泡ポリオレフィン150円/kgなど8製品群を4月1日から値上げ(日経2026/03/19) |
| 住友化学TPC(シンガポール) | 不可抗力宣言 | 2026年3月9日〜継続中 | シンガポールのポリオレフィン生産会社TPCがフォースマジュール(不可抗力)を9日に顧客通知。住友化学70%・QatarEnergy+Shell合弁30%出資(日経2026/03/10) |
| レゾナック | 推進中 | 2024年〜順次 | 黒鉛電極・半導体材料・汎用樹脂。フォーミュラ(数式)による自動改定を拡大 |
| 住友化学・三菱ケミカルG | 検討中 | 未定 | 樹脂全般・物流費等の包括的な転嫁検討。三菱ケミカル鹿島プラント(年産48.5万t)は3月6日から減産継続、5月から定期修理予定 |
5. 【5月最新】エチレン稼働率68.6%過去最低・西日本JV出資確定
日経新聞報道によれば、エチレン設備稼働率は2026年3月に68.6%と過去最低水準を記録。国内に12基あるエチレン生産設備のうち、2026年4月初旬時点で6基が減産体制に追い込まれ、フル稼働を維持できているのはわずか3基という異常事態です。石化協の工藤幸四郎会長(旭化成社長)は2026年3月24日、エチレン稼働について「4月は維持できる」と述べ、「5月の連休明けに(稼働を)つなげられるように各社努力している」と発言しました。
6. ナフサ〜樹脂の価格連鎖(2月末→5月20日の完全推移)
化学工業日報(2026/03/18)によると、ナフサスポット価格は2月末の1トン当たり600ドル台後半から、約2週間余りで1,100ドル前後に達しました。米国化学会の業界誌C&EN(2026年3月17日)は石油化学アナリスト川上正則氏の発言として、ナフサ価格が3月6日のメートルトンあたり776ドルから1週間後には1,000ドルを突破したと記録しています。4月1日時点では917ドル(約14万5,800円)と依然高水準で推移し、5月20日時点では大景化学の価格指標で1,005ドル/MT・国産ナフサ価格指標113,092円/kLとなっています。
7. 製造業・物流業界への実務的影響
このサーチャージ導入と価格高騰は、樹脂を使用するすべての産業に連鎖的な影響を及ぼします。プラスチックパレットやコンテナに使用されるバージンPP・PE(中東産ナフサ由来)は、その影響を最も受けやすい素材の一つです。値上げの波は梱包資材・建設資材・物流資材30社以上に広がっており、「2026年5月1日値上げの建設・物流・包装資材30社一覧」で完全マッピング、また「ストレッチフィルム・PPバンド・OPPテープ供給危機レポート」で個別品目の状況を詳述しています。
- 予算管理の難化:「四半期は一定価格」という前提が崩壊。最短1カ月ごとに価格が変動するため、調達部門は機動的な対応が求められます。日本ポリエチレン・日本ポリプロの5/18プレスリリースが「想定したナフサ価格が大きく変動する場合は、改定幅の修正をお願いさせていただきます」と明記しており、6月以降のさらなる価格改定可能性に備える必要があります。
- 食品容器・日用品分野への波及:豆腐パックメーカーから1パックあたり1.6円の値上げ通知(中小メーカーで年間300万円規模の負担増)、一部プリンメーカーは容器調達困難を理由に5月上旬からの販売休止を検討、卸業者はメーカー・問屋から10〜40%の値上げ通告を受けつつ消費離れを警戒して価格転嫁しづらい状況(actibook.cloudcircus.jp 2026/5)。
- 供給制約の表面化:住友化学TPC(シンガポール)が3月9日にフォースマジュール宣言を継続中、Reutersは2026年3月の日本の鉱工業生産でポリエチレン生産が27%、ポリプロピレン生産が15%減少と報道。単なる価格上昇だけでなく、川中の供給摩擦が既に発生しています(Argus Media 2026/5)。
- 建材分野の連鎖値上げ:旭化成建材ネオマフォーム+20%特別調整金(5/7出荷分〜)に続き、断熱材・塗料・配管材・防水材・シーリング材・接着剤など建材全般でナフサショック起因の値上げが連鎖中。日本建材・住宅設備産業協会は「5月が価格固定契約の最終ライン。6月以降は第3波の値上げが予測される」と警告(造改築2026/5)。
- 代替調達と再生素材への注目:三井化学・三菱ケミカル・東ソーは中東以外(米国・中南米・アフリカ)からのナフサ代替調達を積極推進中。再生プラスチック・ケミカルリサイクル素材への注目も高まっており、輸入廃プラ案件への問い合わせが急増しています。
- 3社の長期統合への布石:5/12発表の西日本エチレンJV出資確定(三井化学45%・三菱ケミカル45%・旭化成10%、2030年度AMEC水島停止→OPC泉北集約)は、ナフサショック下でも長期構造改革を着実に進める日本石化産業の姿勢を示しています。
📌 まとめ:「後決め」から「フォーミュラ」、そして「連鎖値上げ」の時代へ
東レ・プライムポリマー・旭化成・日本ポリエチレン・日本ポリプロ・カネカ・信越化学などの決断は、長年続いた「後決め」慣習を打破する歴史的転換点です。ナフサスポット価格は2月末の600ドル台後半から3月中旬に1,100ドル前後へ急騰し、5月20日時点でも1,005ドル/MTと高水準で推移。日本ポリエチレン・日本ポリプロは5月18日プレスリリースで国産ナフサ125千円/KL超を想定した追加値上げ(5月25日納入分〜)を発表し、累計値上げ幅はウクライナ危機時の2-3倍水準に達しています。プライムポリマーは3月発表分に4月追加発表(5月実施)を重ね、「1回の値上げで終わらない」段階的連鎖が常態化。3社(三井化学・三菱ケミカル・旭化成)は5月12日に西日本エチレンJV出資比率を確定させ、長期構造改革も同時進行中です。調達担当者は毎月変わる価格を前提とした新たな調達戦略と価格転嫁の仕組みを、今すぐ構築することが急務です。
- 1982年4月7日 通商産業省(現・経済産業省)「石油化学原料用ナフサ対策について」🆕 5/21追加 ── 日本の「四半期後決め」慣習の制度的起点。「国産ナフサの値決めは、標準的には各四半期毎に全国平均の輸入ナフサCIF価格に諸掛(金融費用、備蓄費、税負担等)を加えたものを基準として速やかに行われるべき」と規定(knak.jp収録)。
- 株式会社ポリコンポ「国産ナフサ価格の計算式は?プラスチック樹脂価格の決定方法も解説」🆕 5/21追加 ── 国産ナフサ価格 = ナフサ輸入平均価格 + 2,000円/kL の計算式、MOF価格(Minister of Finance=財務省貿易統計)の説明、3カ月平均の算出ロジック。
- ニックス株式会社「ナフサと原油|教えて!ニックス第1回」🆕 5/21追加 ── ナフサフォーミュラ(ナフサリンク・ナフサスライド)の改定タイミング(2月・5月・8月・11月)、貿易統計公表のタイムラグ構造、PE/PPオレフィン系樹脂のみ適用、都度決め(市況決め・ジャン決め)との二層構造。
- 富士ゴム化成「ものづくりプレス」「日本で樹脂価格の決定基準となる『ナフサリンク/ナフサ運動』とは」🆕 5/21追加 ── 2N方式(ナフサ価格1kL当たり1,000円変動ごとに石油化学製品価格を1kg当たり2円変動)の解説、ナフサリンクのメリット・デメリット整理。Corosuke Blog「ナフサ連動・ナフサリンクを詳しく解説」併載。
- 帝国データバンク「ナフサ関連製品 サプライチェーン動向分析調査」(2026年4月17日)🆕 5/21追加 ── 全国製造業約15万社のうちナフサ関連の商流に該当する企業は4万6,741社(約3割)、ゴム製品製造業の51.5%、界面活性剤製造業の84.0%がナフサ依存と判定。集計可能25業種のうち23業種でナフサ依存度50%超。
- 日本ポリエチレン株式会社「ポリエチレンの価格改定について」(プレスリリース2026年5月18日)🆕 5/21追加 ── 2026年5月25日納入分よりPE全製品価格改定実施、国産ナフサ価格125千円/KL超水準を想定、社長:安田孝、本社:東京都千代田区。日経新聞2026/5/18配信。
- 日本ポリプロ株式会社「ポリプロピレンの価格改定について」(プレスリリース2026年5月18日)🆕 5/21追加 ── 2026年5月25日納入分よりPP価格改定実施、国産ナフサ価格125千円/KL超水準想定、社長:飯島要、本社:東京都千代田区。日経新聞2026/5/18配信。
- 三井化学株式会社「西日本におけるエチレン製造設備の統合に向けた共同事業体の出資比率について」(プレスリリース2026年5月12日)🆕 5/21追加 ── 三井化学45%・三菱ケミカル45%・旭化成10%の出資比率確定、2030年度AMEC水島停止→OPC泉北集約、2034年度3社共同グリーン基礎化学品商用生産開始予定。
- プライムポリマー「PE・PP追加価格改定について」(2026年4月21日発表)🆕 5/21追加 ── 3月17日付公表のPE・PP価格改定について追加+30円/kg以上、2026年5月1日納入分から実施。対象はHDPE、LLDPE、PP全製品(ゴムタイムス2026/4/22)。
- 旭化成建材「ネオマフォーム等への特別調整金上乗せ」(2026年4月16日発表)🆕 5/21追加 ── 断熱材ネオマフォーム等に2026年5月7日出荷分から概ね20%の特別調整金を上乗せ(スムタノ2026/5)。
- 旭化成 工藤幸四郎社長発言(2026年4月15日)🆕 5/21追加 ── ナフサ調達は6月中旬〜下旬まで一定の見通し、ポリエチレン・ポリプロピレンの中間財については「価格転嫁はマスト」。石化協会長兼務。
- 大景化学株式会社「ナフサ価格推移表」(2026年5月20日時点)🆕 5/21追加 ── ナフサ$1,005/MT、為替159.05円/$、国産ナフサ価格指標113,092円/kL(出典:財務省貿易統計)。
- 日本経済新聞「エチレン設備稼働率、3月68.6%で最低 原料調達の多様化で稼働継続」(2026年4月後半)🆕 5/21追加 ── エチレン稼働率3月68.6%過去最低、12基中6基減産、三菱ケミカル・三井化学・東ソーが6月分まで原料調達のめど、7月以降は中東外調達で稼働維持方針。
- 石油化学工業協会(石化協)工藤幸四郎会長(旭化成社長)発言(2026年3月24日)🆕 5/21追加 ── 「4月は維持できる」「5月の連休明けに(稼働を)つなげられるように各社努力している」。日経「エチレン生産、5月以降焦点 4月は稼働維持」。
- 住友化学TPC(シンガポール)フォースマジュール宣言(2026年3月9日)🆕 5/21追加 ── シンガポールでポリオレフィン生産するTPCが「フォースマジュール(不可抗力)」を9日に顧客通知。住友化学70%出資、カタール・エナジー+英シェル合弁30%出資(日経2026/03/10)。
- actibook.cloudcircus.jp「2026年『ナフサ不足』の影響と実態 ─ リスクと企業が取れる対策」(2026年5月)🆕 5/21追加 ── 国内エチレン12基中6基減産、フル稼働3基のみ、豆腐パック1.6円値上げ、プリン販売休止検討、卸業者10〜40%値上げ通告。
- 宮野宏樹note「プラ3割高騰の衝撃 ナフサ・ショックが家計を揺さぶる2026年春」(2026年5月)🆕 5/21追加 ── 値上げ幅90円〜165円/kg規模、ウクライナ危機時(60円)の2-3倍水準、国産ナフサ4-6月基準価格が単純な原油高以上に跳ね上がる見通し。
- 住むを楽しむ「スムタノ」「ナフサショックが住宅設備業界へ与える影響」(2026年5月)🆕 5/21追加 ── 旭化成社長4/15発言、旭化成建材ネオマフォーム+20%特別調整金(5/7出荷分〜)の整理。
- 三井化学・三菱ケミカル・旭化成 共同プレスリリース「西日本エチレン生産体制グリーン化推進に向けた基本契約締結」(2026年1月27日)🆕 5/21追加 ── 2030年度を目途にAMEC水島停止・OPC泉北集約の基本契約、旭化成「Revolefin™」技術による2034年度グリーン基礎化学品商用生産開始計画。
- 三協化学株式会社「国内のエチレン生産設備の状況とイラン情勢の影響【4/23日現在】」🆕 5/21追加 ── 三菱ケミカルG鹿島3/6、AMEC水島3/11、三井化学千葉・大阪3/10減産開始の整理、東ソー4/25再稼働予定、各社原料確保期間を一覧化。
- 造改築「ナフサショック完全解説2026 ─ 石油化学製品が住宅から消える日」(2026年5月)🆕 5/21追加 ── 5月からの国産ナフサ価格約2倍(125,103円/kL)、石油備蓄放出合計約65日分、ナフサは備蓄対象外で20日分という薄氷運用、日本建材・住宅設備産業協会「6月以降は第3波の値上げ」警告。
- Argus Media / Reuters(2026年5月)🆕 5/21追加 ── Argus Mediaが日本ポリエチレン+90円/kg超・日本ポリプロ+80円/kg超・プライムポリマー+90円/kg超の価格改定を集約、Reutersが2026年3月日本の鉱工業生産でPE生産27%減・PP生産15%減と報道。
- 日本経済新聞「住友化学、シンガポールの汎用樹脂企業で不可抗力宣言 原料調達難で」(2026年3月10日)── 住友化学TPCがシンガポールで汎用樹脂ポリオレフィン生産のフォースマジュール(不可抗力)を9日に顧客通知。
- 化学工業日報「石化製品が相次ぎ値上げ ナフサ混乱、誘導品に波及」(2026/03/18)── 2月末1トン当たり600ドル台後半→2週間余りで1,100ドル前後、4〜6月の国産ナフサ基準価格は過去最高額を大幅に更新する10万円超に届く勢い。
- 日本経済新聞「三井化学系、汎用樹脂値上げ ホルムズ封鎖で原料の市場価格高騰受け」(2026/03/17)── プライムポリマーPE・PP全品目1kg 90円以上値上げ、ウクライナ危機時(60円)を上回る水準。
- 日本経済新聞「カネカなど、汎用樹脂で値上げ ホルムズ封鎖影響し原料エチレン減産」(2026/03/19)── 信越化学が3/16に塩ビ値上げ先行発表、カネカは塩ビ35円以上/kg、発泡ポリオレフィン150円/kgなど8製品群を4/1値上げ。
- 日本経済新聞「旭化成、汎用樹脂のポリエチレンを3割超値上げ 中東影響で」(2026/03/31)── PE全製品(サンテックLD/HD/EVA、クレオレックス、サンファイン)を1kg 120円以上値上げ、市況ベースで3割超の引き上げに相当。
- 日本経済新聞「東レ、樹脂や炭素繊維にサーチャージ制 原料高転嫁を最短1カ月で」(2026/03/27)/時事通信「東レ、樹脂製品などにサーチャージ 原料急騰を素早く反映」(2026/03/27)── 樹脂・炭素繊維・衣料向け繊維サーチャージ制を「暫定的な緊急措置」として導入。
- 繊維ニュース「東レ、合成繊維・不織布を緊急値上げ」(2026/04/02)── ナイロン6長繊維100円以上、ナイロン66は20円以上、ポリエステル50円以上、アクリル短繊維110円以上。
- logi-today「エチレン設備、追加停止回避もナフサ価格は2倍」(2026/04)/「石化プラント減産、物流資材不足が4月迫る」(2026/03/09)── エチレンプラント減産動向と物流資材への影響整理。
- 米国化学会業界誌C&EN「Hormuz Strait pinch worsens for Asian chemical makers」(2026/03/17)── 石油化学アナリスト川上正則氏発言、ナフサ価格3/6 776ドル→1週間後1,000ドル突破。
- 笹川平和財団・資源エネルギー庁── 日本原油輸入の中東依存度94〜95%、うちホルムズ海峡経由9割の構造分析。日本のナフサ輸入の約82%がホルムズ経由。
- 首相官邸「中東情勢に関する関係閣僚会議(第7回)」(2026年5月12日)── 高市総理ベトナム・豪州訪問報告、鈴木大臣マレーシア訪問成果(尿素・ナフサ・原油安定供給確約)、サウジ・UAE・アンゴラ大臣外交。
- 株式会社Spectee「ホルムズ海峡封鎖が日本の製造業サプライチェーンに与える影響」(2026年3月)── 商船三井・日本郵船・川崎汽船の邦船大手3社のホルムズ通航停止、ペルシャ湾内多数の日本関係船舶足止め。
- 石油化学工業協会(石化協)「実績概要メモ」── 2026年4月実績は2026年5月21日(木)掲載予定(最新統計の発表予告)。
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