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ニュースで聞くイラン情勢が招く「2026年為替の異変」をやさしく解説、対ドル円安と対アジア通貨円高が同時に起きた本当の理由
やさしく解説シリーズ

ニュースで聞くイラン情勢が招く「2026年為替の異変」をやさしく解説、対ドル円安と対アジア通貨円高が同時に起きた本当の理由

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2026年2月末のイラン情勢のあと、円はアメリカのドルに対しては安くなりました。ところが、韓国のウォンやタイのお金に対しては、逆に強くなったのです。「円安」と一言で言っても、じつは相手の国によってバラバラ。この不思議な現象が、いま日本の輸入業や海外出張の予算に、静かに大きな影響を与えています。

第1章 イラン情勢と為替って、何が関係あるの?

ニュースで「イラン情勢」と聞くと、遠い中東の話に感じますよね。でも実は、あの地域で起きたことが、日本のスーパーの値段や、海外出張のホテル代にまで、ちゃんと届いています。理由はシンプル。世界の投資家は、有事の空気を感じ取ると『とりあえずアメリカのドルを持っておこう』と動くからです。

ドルは世界で一番使われているお金なので、いざという時に信用されます。逆に、円やユーロ、韓国のウォン、タイのお金は「もしもの時にどうなるかわからない」と思われて、売られやすくなります。売られたら値段が下がる。これが「円安」や「ウォン安」の正体です。

2026年2月末、中東で地政学的な緊張が一気に高まる出来事がありました。ニュースが世界を駆け巡った瞬間から、投資家はいっせいにドルを買い始めた。それが、いま起きている「異変」のスタート地点です。

第2章 4か月半で何が起きたのか、時系列でたどる

「イラン情勢のあと、じわじわ円安が進んでいる」と言うと、まるでゆっくり坂を下るような印象を受けますよね。でも実際は、まったく違います。石油の値段は激しく上下し、船の運賃は倍以上に跳ね、円は方向転換を何度か試みた末に、いま162円台にたどり着きました。この4か月半で起きたことを、月ごとにたどってみます。

2月末:始まりの日

アメリカとイスラエルがイランに攻撃を開始しました。ニュースが世界を駆け巡った瞬間、投資家はいっせいにドルを買い始め、円は156円前後から一時160円台へジャンプ。石油の値段も跳ね上がりました。この日が「異変」のスタート地点です。

3月:石油が3年9か月ぶりの高値

3月上旬、アメリカの原油(WTI)は一時1バレル119ドルという値段をつけました。これは2022年6月以来、約3年9か月ぶりの高値です。ガソリンスタンドやニュースで「原油高」の文字を見た記憶がある方もいるかもしれません。円も159円台へ進みました。

4〜5月:石油ピーク、船の運賃も過去最高圏へ

5月には、もう1つの主要な原油であるブレント原油が、月次平均で1バレル107.54ドルまで上昇。これも記録的な高値です。同時に、コンテナ船の運賃も急上昇しました。5月末の時点で、上海から欧州へのコンテナ1本(20フィート)の運賃は約2,475ドル、上海からアメリカ西海岸へのコンテナ1本(40フィート)は約4,149ドルと、前週比で+30%を超える急騰。船会社の運賃を総合的に示す「SCFI」という指数(上海発のコンテナ運賃の総合指数)で見ると、2月18日の1,060から5月29日の2,571まで、なんと+142%の急騰約2.4倍になった計算です。輸入業者にとっては、石油代も、コンテナ運賃も、同時に上がるトリプルパンチの状態でした。

5月中旬:一瞬の円高、しかし長続きせず

5月17〜23日の1週間、円は一時的に156.67円まで戻す場面がありました。「もしかして円高に戻る?」と期待した人もいたかもしれません。でも、これは長く続きませんでした。

6月:暫定停戦、石油は急落、しかし円は逆に円安へ

6月に入り、米イランの間で暫定的な平和合意が模索されました。石油の値段は5月の107ドルから、6月月次で85ドルへ大幅下落。ところが円は、石油下落とは逆に158〜159円台まで再び円安が進みました。「石油が下がったら円高になるはず」という単純な連動は、この局面では起きなかったのです。

7月上旬:戦闘再燃、円は162円台へ

7月上旬、トランプ大統領が「停戦は終わった」と発言し、アメリカ軍によるイラン標的への追加攻撃が実施されました。ホルムズ海峡では船舶への攻撃が続き、通航量が急減。石油は再び1バレル80ドル台へ急伸、円は162.14円という4か月半で最も安い水準になりました。

4か月半の主要な数字を並べると
米ドル円(2月末→7月10日) 155.62円 → 162.14円
ブレント原油(5月→6月) 107ドル → 85ドル
上海コンテナ運賃SCFI(2月→5月) 1,060 → 2,571(+142%)
この時系列から読み取れること

石油の値段は5月ピーク→6月下落→7月再燃と、大きく上下しました。でも円だけは、途中で一瞬戻る場面はあっても、最終的にはずっと同じ方向(円安)に進み続けました。「石油が下がれば円高」という単純な話ではなかった、というのが今回の局面の重要なポイントです。

第3章 「円安」って、実は相手によって違う話です

ここが今回一番、多くの人が気づいていないポイントです。テレビで「円安が進行」と聞くと、私たちは「円が全体的に弱くなった」と受け取りがちですよね。でも実際は、そんな単純な話ではありません。

私たちの日常でイメージすると

あなたが友達A・B・Cの3人でジャンケンをしたとします。Aには負けたけれど、BとCには勝った。この時、あなたは「全員に負けた」わけでも「全員に勝った」わけでもありませんよね。相手ごとに勝ち負けが違うのです。

為替もこれと同じ。今回、円はアメリカのドルには負けた(=円安)けれど、韓国ウォンやタイのお金には勝った(=円高)のです。

実際、2026年2月末から7月10日までの約4か月半で、こんなことが起きました。

円が「負けた」相手(=そのお金で買うものが高くなった)
中国のお金(人民元) 円が約5%安く
アメリカのお金(ドル) 円が約4%安く
台湾ドル・シンガポールドル・ベトナムドン 円が約2%安く
円が「勝った」相手(=そのお金で買うものが安くなった)
タイのお金(バーツ) 円が約3%高く
インドネシアのお金(ルピア) 円が約3%高く
マレーシアのお金(リンギット) 円が約1.5%高く
韓国のお金(ウォン) 円が約1%高く

同じ4か月半のあいだに、こんなに逆向きの動きが同時に起きたのです。「円は全体的に弱くなった」というテレビの説明だけでは、この現象は理解できません。

第4章 なぜドルは高くなって、バーツやウォンは安くなったの?

ここには、じつはとてもわかりやすい理由があります。石油をどれくらい輸入に頼っているか、この一点で説明できます。

石油を輸入に頼っている国

タイ・インドネシア・韓国など。イラン情勢で石油が急に高くなると、これらの国は「もっと多くのお金を石油代として海外に払わないといけない」状態になります。すると自分の国のお金は売られやすくなり、対ドルで安くなります。

アメリカのドルはどうか

アメリカは石油の生産国でもあり、世界で一番信用されているお金の発行国でもあります。有事の空気があると「とりあえずドルを持っておこう」となる。だからドルは高くなります。

では日本の円はどうでしょうか? 日本も石油を輸入に頼っている国なので、本来はタイのバーツや韓国のウォンと同じように売られてもおかしくありません。ところが実際は、そこまで急には売られませんでした。理由は、円もそれなりに「信用されているお金」だからです。世界の投資家は「有事の時に売るなら、まずタイのバーツや韓国のウォンから」と考える傾向があります。だから、円はドルには負けたけれど、バーツやウォンには勝つ、という現象が起きたのです。

第5章 じつは為替以上に大きい「海の運賃」の話

ここまで「為替の話」を中心にお伝えしてきましたが、実はこの4か月半で、輸入業者にとってもっと大きなインパクトを与えたものがあります。それは海のコンテナ船の運賃です。

まず身近な例で

あなたがネットで海外から荷物を1つ買うとき、商品代とは別に「送料」がかかりますよね。この送料は、商品代よりも高くつくことがあります。

企業の輸入も同じ仕組みで、商品代金だけでなく、船で運ぶ運賃、船に対する戦争保険料、船の燃料代(燃油サーチャージ)が別途かかります。そして今回のイラン情勢では、この「送料」の部分が想像以上に跳ね上がったのです。

コンテナの運賃が半年で倍以上に

上海発のコンテナ船運賃を示す「SCFI」という指数があります。この指数が、2026年2月18日時点の1,060ポイントから、5月29日時点の2,571ポイントまで、約142%も急騰しました。要するに、コンテナ運賃がおよそ2.4倍になったということです。

コンテナ運賃の変化(2026年5月29日発表分)
上海→ヨーロッパ(20フィートコンテナ1本) 約2,475ドル(前週比+30%)
上海→米国西海岸(40フィートコンテナ1本) 約4,149ドル(前週比+32%)

為替の+4%とは桁が違う話

ここで大事なのは、この運賃の上昇率です。為替の+4%とは、比べものにならない大きさです。

為替による影響

米ドル円が155.62円→162.14円で+4.19%。1コンテナ2万ドルの輸入で、円建て負担は約13万円増える。

運賃による影響

SCFIが1,060→2,571で+142.5%。1コンテナあたりの運賃だけで、数万円〜十数万円の追加負担が発生。

つまり、ニュースで「円安が輸入コストを押し上げている」と聞くことが多いですが、実は運賃の値上がりの方が、企業のコストを直撃しているのが今回の局面です。輸入企業の担当者にとっては、「為替は毎日チェックしていたけれど、いつの間にか運賃で赤字になっていた」ということが起きうる状況でした。

戦争保険料や燃油サーチャージも加わる

さらに、ホルムズ海峡を通る船には「戦争保険料」の追加分が上乗せされました。船会社は原油急騰による燃料コスト増もあり、燃油サーチャージ(BAF)も値上げしました。これらすべてが、輸入原価に順次乗ってきます。

3つのドル建て支払いが、同時に襲ってくる

輸入業者は、「商品代金」「運賃」「保険料」の3つを、多くの場合すべてドル建てで支払います。円安になると、この3つがすべて同時に、円で見て値上がりする仕組みです。例えるなら、レストランでコース料理の値段が上がり、席料も上がり、飲み物代も上がる──全部が同時に上がる状態です。

今回のイラン情勢では、この3つがすべて悪い方向に動きました。輸入業者にとっては、逃げ場のない負担増となったのです。専門的にはこの状態を「三重のドル建てエクスポージャー(3つのドル建て支払いにさらされている状態)」と呼んだりします。

第6章 輸入する会社にとって、どこから買うかで値段が変わる

この「相手によって違う為替」は、実は日本の輸入ビジネスに大きな影響を与えています。日本のあちこちの会社が、アジア各国から樹脂やパーツや食品を買っています。同じ「輸入」でも、どの国から買うかで、いま値段の変わり方が違うのです。

たとえば毎月100万円分の輸入を続けている会社なら

2月末のレートで支払っていた金額と、同じ数量を7月10日のレートで支払う金額を比べると──

中国からの輸入は、毎月およそ5万円ずつ多く払う必要が出てきます(円建てで約5%コスト増)。年間にすると60万円の差です。

タイからバーツ建てで買っていた輸入は、毎月およそ3万円ずつ少なくて済みます(円建てで約3%コスト減)。年間にすると36万円の差です。

つまり同じ日本の会社でも、「中国から買っている担当」と「タイから買っている担当」で、経理の顔色が正反対になっているのです。

会社の規模ごとに、追加負担はどれくらい?

先ほどは月100万円のケースを見ましたが、もう少し大きな会社ではどうなるでしょうか。ドル建て輸入の月額別に、為替影響(約+4%)だけを取り出して整理すると次のようになります。

月間ドル建て輸入額別・年間追加負担(為替のみ)
月100万円 輸入 年間 +約50万円
月1,000万円 輸入 年間 +約500万円
月5,000万円 輸入 年間 +約2,500万円
月1億円 輸入 年間 +約5,000万円

この数字はあくまで「為替だけ」の話で、前章でお伝えした運賃の上昇分は含まれていません。実際の負担は、この数倍になるケースも珍しくないのが、いま起きていることです。

どの品目がどの国から来ているのか

日本が輸入している主な品目と、その主要な調達先を、ざっくり整理するとこうなります。

品目別・主要調達先と今回の為替影響
プラスチック原料・樹脂ペレット(中国・韓国) 中国からは+5%、韓国からはやや-1%
電子部品・半導体パッケージ(台湾・中国) 台湾から+2%、中国から+5%
タイ産鶏肉・エビ・食品原料 バーツ建てなら-3%
ベトナム産縫製品・電子機器 ドン建てで+2%
マレーシア産パーム油・電子部品 リンギット建てなら-1.5%
インドネシア産木質パレット材・鉱物資源 ルピア建てなら-3%

これが「地政学リスクと為替の関係」の生々しい現場です。ニュースで「イラン攻撃」を聞いた日本の会社の担当者は、その瞬間、頭の中で自分の取引先の国旗を思い浮かべる。中国から買っている人は青ざめ、タイから買っている人はホッとする。同じ会社でも部署によって全然違うことが起きているのです。

「契約の通貨を変える」という選択肢

ここで多くの企業が実際に検討しているのが、契約通貨の見直しです。例えば、中国のサプライヤーが「元建て決済」を求めている場合、その契約を「ドル建て」に切り替えれば、円建て負担を+1.24ポイントほど軽くできます。逆にタイやインドネシア、マレーシアからは、「現地通貨建て」に切り替えることで、円高の恩恵をダイレクトに受け取ることができます。

ただし、こうした通貨切替はサプライヤーとの継続的な信頼関係や、両社の会計・経理体制の準備が必要です。今すぐ切り替えられるものではないですが、「次の契約更新のタイミング」を見据えて交渉を始めることが、多くの企業で行われているのが現状です。

第7章 海外出張、行く国によって予算の増え方が違う

ビジネスの現場だけでなく、海外出張の予算にも、この「相手によって違う為替」がそのまま影響しています。とくに現地で使う宿泊費・食事代・タクシー等の交通費・現地日当は、直接その国の通貨で支払うので、為替の変化がそのまま届きます。

出張予算が増える国

中国・アメリカ・シンガポール・台湾・ベトナム。とくに中国出張は、宿泊費・食事代・交通費が円建てで約5%高くなる計算です。アメリカ出張は約4%増。上司に「予算を増やしてください」と説明する必要があります。

出張予算がむしろ減る国

タイ・インドネシア・マレーシア・韓国。バンコクやジャカルタへの出張は、宿泊費・食事代・現地交通費が、以前より約3%安く済むようになりました。旅行会社の見積もりを見て「あれ、安くなってる」と感じたなら、その通りです。

海外旅行のイメージでも同じです。同じ予算を持ってタイへ行くなら、以前より少しリッチな食事ができる。逆にニューヨークやシンガポールへ行くなら、以前より少し節約が必要になる。ニュースで聞くだけの「イラン情勢」が、私たちの旅の予算にまで届いているのです。

第8章 わたしたちの暮らしにどう関係するの?

「輸入も出張もしないから、自分には関係ない」と思うかもしれません。でも、じつは私たちの日常にもじわじわ届いています。

身のまわりの品物で考えると

中国からの輸入品は円建てで約5%コストが上がっています。日用品や家電、衣料品など、私たちの生活に届いている中国製の商品は非常に多く、輸入コストの上昇が続けば、いずれ店頭価格や内容量にも影響が及ぶ可能性があります。

アメリカからの輸入品は約4%コスト増。輸入牛肉、アメリカ産の果物、ブランド品などがコスト面で影響を受けやすい分野です。

タイからの輸入品は、契約がタイのバーツ建ての場合は約3%コスト減。ただし、多くの国際貿易ではドル建て契約が主流のため、タイ産品でも実際に円建てコストが下がるかどうかは取引条件によって異なります。実際の店頭価格が下がるかどうかは、人件費・輸送費など他の要因にも左右されます。

スーパーで買い物する時、店頭の値札にはこうした為替の影響がすぐには出ませんが、数か月遅れでじわじわと届きます。今回のように相手の国ごとに為替の動きが違う場合、値段の上がる商品と下がる商品が同時に発生する「まだら模様」の物価変動になりやすいのです。

第9章 過去にも似たようなことはあった?

今回のような「対ドル円安と対アジア新興国通貨円高が同時に起きる」現象は、じつは歴史的にはめずらしいパターンです。過去の似た局面と比較してみると、今回の位置づけがよくわかります。

2011年:円が最強だった時代

2011年、リビアやシリアで政治的な混乱が起き、ヨーロッパでは債務危機が深刻化。原油はブレントで1バレル125ドルまで上昇しました。ところがこのとき、米ドル円は1ドル=80円を切る「超円高」の時代でした。世界の投資家は「有事のときは円を買え」と考えていたのです。日本は当時、貿易で黒字を稼ぎ、海外に貸したお金が海外から借りたお金より圧倒的に多い国(純債権国と呼びます)でした。世界で何かあると、投資家は安全な避難場所として、いっせいに円を買っていた時代です。

2022年:円が最弱だった時代

2022年、ロシアがウクライナに侵攻したとき、原油はブレントで1バレル139ドルまで急騰。この時、米ドル円は3月の115円から10月の151円まで、+31%の急激な円安が進みました。ヨーロッパ通貨も、アジア新興国通貨も、みんな下がりましたが、その中でも「円がもっとも下がった」時代です。当時の日銀はマイナス金利を続けており、アメリカとの金利差が広がったことが背景にありました。

2026年:真ん中の位置に立つ円

そして今回の2026年は、この2つの時代の「ちょうど真ん中」に位置しています。円はドルには弱いけれど、アジア新興国通貨に対しては強い。「最強でも最弱でもない、中間の位置」という珍しいポジションです。

3つの時代の対比
2011年(欧州債務危機) 円は最強・80円割れの超円高
2022年(ウクライナ戦争) 円は最弱・115→151円へ急落
2026年(イラン情勢) 中間・ドルに弱くアジア通貨に強い
なぜ位置づけが変わるの?

日本の経済構造と、日銀の金融政策が時代ごとに変わっているからです。2011年当時は日本は貿易黒字国で、日銀の政策金利も緩和的でしたが、円は「有事の避難先」として買われました。2022年は日銀が緩和政策を続けてFRBの利上げに追随せず、金利差から円が最弱になりました。2026年は日銀がマイナス金利を解除し、少しずつ利上げに動いているため、円の対アジア新興国での相対的な強さが回復しつつあります。

時代ごとに、円の「立ち位置」は変わるのです。「円安だから買い時/売り時」と単純に判断するのではなく、時代ごとの構造を見ることが重要です。

第10章 これからどうなる?

いま起きている「対ドル円安・対アジア新興国通貨円高」の二層構造は、ずっと続くものではありません。イラン情勢が落ち着けば、石油の値段が下がり、韓国ウォンやタイバーツなど、原油を輸入に頼っている国のお金は反発する可能性があります。そうなると、今度は逆の動きが起きます。

専門家たちの見通し

いくつかの機関が、2026年〜2027年の為替や原油について、見通しを発表しています。

主要機関の見通し
野村證券(後藤祐二朗) 2026年末 米ドル円は152.5円
米国エネルギー情報局(EIA) ブレント原油 2026年 82ドル、2027年 65ドル
IMF(国際通貨基金) 2026年 世界成長率 3.0%へ引下げ

野村證券の見通しは、いまの162円台から10円ほど円高に戻る方向です。「中東情勢が落ち着き、原油価格が沈静化し、FRBが利下げを再開し、日銀が利上げを続ければ」という条件付きですが、5円〜10円程度の円高に戻る可能性が指摘されています。

一方で、7月上旬に見られたようなイラン情勢の再エスカレーションが続く場合、この見通しは一気に崩れます。「170円方向への円安リスク」も、ゼロではないのが現状です。

3つのシナリオを頭に入れておく

シナリオ①:イラン情勢がまた激しくなる

ホルムズ海峡の混乱が続き、原油が再び1バレル90〜100ドル台へ。円は対ドルでもっと安くなり、165〜170円方向へ。輸入コストがさらに上昇し、家計にもじわじわ届く。

シナリオ②:イラン情勢が落ち着く

米イラン間の平和合意が持続し、原油は1バレル70ドル台へ落ち着く。円は対ドルで150円台へ戻る。対アジア新興国通貨の円高も巻き戻り、バーツやウォンが反発。輸入コストは全般的に安定へ向かう。

シナリオ③:日米の金融政策差が縮まる

アメリカの中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)が利下げを本格化し、日本の中央銀行である日銀(日本銀行)が追加で利上げする、というシナリオです。日米の金利差が縮まると、投資家がドルを買う魅力が薄れて円買いに動くため、円が全体的に強くなります。150円割れの円高も視野に入ります。

どのシナリオが来るかを予想するのは、その道のプロでも難しい。だからこそ、いま起きている「相手によって違う為替」の構造を理解しておくことが、日常でも仕事でも役に立ちます。今日から来週にかけての為替ニュースを見るとき、「ドル円だけでなく、原油価格・SCFI・アジア通貨も一緒にチェックする」習慣を持つと、世界のお金の流れが立体的に見えてきます。

よくある質問

「対ドル円安」と「対アジア通貨円高」って、両方同時に起きることってあるんですか?
はい、今まさに起きています。世界の投資家がドルを買う動きが強くなると、ドル以外のお金は相対的に売られやすくなります。その中でも、日本円より、韓国ウォンやタイバーツの方がもっと売られやすい傾向があるため、円はドルには負けても、これらのお金には勝つ、という現象が起きます。
日常の買い物への影響は、いつごろ実感できるようになりますか?
為替の変化がスーパーの値札に届くまでは、通常で数か月かかります。輸入業者が在庫を売り切る間は、以前の仕入れ値のままで売られるからです。ただし、今回のように長期化する場合は、秋以降、じわじわと店頭価格に反映されてくる可能性があります。
住宅ローンや投資信託にも影響はありますか?
はい、間接的にですが影響があります。住宅ローンでは、日銀が利上げを続けると変動金利型のローンが上がる可能性があります。今回のように円安が続くと、日銀が円安対策で利上げを検討する動きが出やすくなります。投資信託では、外国株や外国債券に投資しているものは、円安が進むと円建て評価額が上がる傾向があります。逆に円高に戻ると評価額が下がるので、「円安のうちに利益確定」を検討する人もいます。ただし、実際の判断は取引金融機関や専門家にご相談ください。
「円が強くなった」と「円が弱くなった」を、覚えやすい言い方で教えてください。
「1ドル100円が110円になった」と聞くと、数字は上がっているのに「円が弱くなった」と言われて混乱しますよね。覚え方は「1つのものを買うのに、より多くの円が必要になった=円は弱くなった」です。100円で1ドル買えていたのに、110円出さないと1ドル買えなくなった、と考えると自然です。
為替のニュースを見るとき、これから何に注目すればいいですか?
「ドル円」だけでなく、韓国ウォンやタイバーツの動きにも目を配ると、世界のお金の流れが立体的に見えてきます。とくに、地政学的なニュース(中東・ウクライナ等)が出た時は、アジア各国のお金がドルに対してどう動いているかを確認すると、今後の日本経済への影響を早く読み取れます。
なぜプラスチックパレット株式会社がこの記事を書いているのですか。
当社は物流・輸出梱包の基盤となるプラスチックパレット、再生プラスチック原料、PPバンド、ストレッチフィルムといった資材をお取扱いしています。これらは日本の輸出入貿易の現場で毎日使われている道具で、為替の変動はお客様企業の仕入れや売上を直撃するテーマです。当社ではこうした身近な「為替のリアル」を、業界の現場から見た目線で発信しています。実務判断の助けになれば嬉しく思います。

出典・参考情報

  1. 財務省・税関「関税定率法第4条の7に規定する財務省令で定める外国為替相場」2026年3月8日〜3月14日適用分・5月17日〜5月23日適用分・6月28日〜7月4日適用分(PDF) https://www.customs.go.jp/tetsuzuki/kawase/index.htm
  2. 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「三菱UFJ銀行公表相場」2026年7月10日現在 https://www.murc-kawasesouba.jp/fx/index.php
  3. 三菱UFJ銀行「通貨オプション行使判定用参考相場(対円)」2026年2月 https://www.bk.mufg.jp/report/yopt2026/2602.pdf
  4. 野村證券・後藤祐二朗「2026年末の米ドル円見通しを152.5円に引き上げ 中東情勢で強まる米ドル高圧力」2026年4月2日 https://www.nomura.co.jp/wealthstyle/article/0676/
  5. 外為どっとコム総合研究所・黒川健「【今日のドル円】昨日の振り返りと今日のドル円相場見通し」2026年7月10日 https://www.gaitame.com/media/entry/2026/07/10/110640
  6. OANDA証券「ドル/円見通し(為替/FX ニュース):ドル円は円高で162円台半ば|中東情勢の緊迫化を受けた円安は一服」2026年7月10日 https://www.oanda.jp/lab-education/market_news/2026_07_10_usdjpy/
  7. Korea Herald「S. Korea's foreign reserves rise in June despite FX market-stabilizing measures」2026年7月3日 https://www.koreaherald.com/article/10796999
  8. 韓国銀行(Bank of Korea)「Official Foreign Reserves」2026年6月分公表 https://www.bok.or.kr/eng/main/main.do
  9. 米国エネルギー情報局(EIA)「短期エネルギー見通し」2026年7月7日発表(Brent 2026年 82ドル、2027年 65ドル) https://www.eia.gov/
  10. 世界経済のネタ帳「ブレント原油価格の推移」2026年6月3日更新(2026年5月月次平均107.54ドル/バレル) https://ecodb.net/commodity/crude_brent.html
  11. 大景化学「ナフサ価格推移表」2026年7月9日現在(MOPJナフサ702ドル/MT、国産ナフサ81,146円/kL) https://www.daikeikagaku.co.jp/naphtha/
  12. 上海航運交易所(SSE)「上海輸出コンテナ運賃指数(SCFI)」2026年5月29日発表分・3月27日発表分・2月18日発表分 https://en.sse.net.cn/indices/scfinew.jsp
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